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建築セクターを脱炭素に導くためのコンクリートによるマテリアルバンク性の評価 ~海洋生物殻を利用したブルーカーボン・アクト&インフラに着眼して~(1)

田村 雅紀(たむら まさき)
工学院大学 建築学部
教授
田村 雅紀

1.はじめに

国内の建築物は、20世紀半ばの高度成長期より、国内外からの多大な天然資源や建設資材の投入に依拠したサプライチェーンにより、都市部を中心に、住宅や店舗をはじめ、事務所や工場など、様々な用途で構成された社会インフラとして成立している。現存するその建築物ストックは膨大であり、その主たる構成材料にコンクリートが使用されてきた。
 著者らは、国連環境計画(UNEP)において、2009 年に浅場の海洋生態系に取り込まれた炭素固定成分をブルーカーボン(Blue Carbon)として炭素吸収源に位置付けたことを鑑み、2010年より国内・北海道を中心とした主要な漁獲資源であるホタテ貝殻に着眼し、海洋中の二酸化炭素を数年の間で生物殻として吸収固定した性質を、広義の意味でブルーカーボン吸収固定した状態と位置づけ、廃棄される炭酸カルシウム生物殻(CaCO3)をコンクリート用骨材に有効利用する研究を実施してきた[1-7]。
 本稿では、建築セクターにおける様々な脱炭素を実現するコンクリート製造技術・システムにより、コンクリートのCO2吸収・固定を実現する要素源(マテリアルバンク)を具体化してデータベース化するための関連情報を示す。また、それらは地球上の生物のように一定の多様性が必要であることを鑑み、広義のブルーカーボン吸収・固定資材として、ホタテ貝殻廃棄物をコンクリート用建材として位置づけ、その基盤技術開発の一部を紹介するとともに、技術・運用システムに関わる行為・活動の全体を「ブルーカーボン・アクト」、それにより実現するコンクリート製品や建築物を「ブルーカーボン・インフラ」として位置づけ[1-7]、その将来的展望を紹介したい。

2.過去・現在・将来のコンクリート製造量・蓄積量・排出量を広く見つめる

 日本国内では、過去から製造されたコンクリート量(図1)は大量であり,そのうち単年量の比較では、S造・RC造の順に同程度の量で推移し,1951〜2017年迄に年平均1.79億トン,累積量で118億トン程度が製造されたといえる。なお,現存する建築物ストックに含まれるコンクリート蓄積量(図2)は77億トン程度であり,これらは今後、建物の解体・再資源化により,カルシウム源のマテリアルバングとして位置づけることもできる。ちなみに,現在までに廃棄・再資源化されたコンクリート量(図3)は年平均0.62億トン,累積量で41億トン程度であり,これらは道路用路盤材を中心に再利用されたといえるが,施工条件によっては、大気中のCO2を吸収可能な媒体として位置づけることも可能といえる。
 続いて、将来のコンクリート塊発生量推計結果(図4)は、2030年迄はコンクリート塊の発生量は増加傾向となり,それ以降は微量ながら減少傾向に転じ, 2050年にはコンクリート塊の累積発生量が39億トン程度に到達する。なお,土木由来のコンクリート塊発生量については,2005~2018 年の国交省建築副産物実態調査の統計値の土木・建築コンクリート塊発生量比(43.8/56.2)を定めて算定した結果,対建築比約8割である30億トン程度のコンクリート塊が発生すると想定されるため,土木・建築全体からのコンクリート塊発生総量は69億トン程度になると推計された[8-9]。
 現在、建設業全体では、2050年のカーボンニュートラル化社会の世界的実現に向けて、産学官連携によるCO2を用いたコンクリート製造技術開発プロジェクトが大々的に実施されている。ここでは、カーボンプール技術や、カルシウムカーボネートコンクリート技術などの開発をはじめ、LCベースでのCO2吸収固定の総合評価システムの構築が検討されており、建設業によるコンクリートカーボン市場への実装を図る検討が鋭意進められている。このように、既存のコンクリート製造量やストック量ならびに解体量の量的なバランスと時間的な状態変化を捉えた技術開発の多様性が求められており、その一端としてブルーカーボン・アクトとインフラの構築が加えられるものと考えられる。

図1 過去の着工建築物におけるコンクリート製造量[9-10]
図1 過去の着工建築物におけるコンクリート製造量[9-10]
図2 過去・現在の建築ストックにおけるコンクリート蓄積量[9-10]
図2 過去・現在の建築ストックにおけるコンクリート蓄積量[9-10]
図3 過去・現在に廃棄・再資源化されたコンクリート塊量[9-10]
図3 過去・現在に廃棄・再資源化されたコンクリート塊量[9-10]
図1 過去の着工建築物におけるコンクリート製造量[9-10]
図4 将来に排出されるコンクリート塊発生推計量[9-10]

3.地産地消を意識したコンクリート塊のリサイクル拠点形成に向けて

 前述のように、コンクリートの製造・蓄積・排出は全国規模で大量に生じていることが確認された。従って、図5の都道府県別のコンクリート塊発生量とがれき類平均破砕処理能力を踏まえると、解体されたコンクリート塊を地産地消で再資源化する上での地理的要件を想定することが可能になる。その結果、図6のがれき類専業化の破砕処理施設を特定することが可能となる一方で、図7の都道府県別-コンクリート塊の需給バランス比較マッピングにより、県域を跨ぐ地域集約があるエリアも存在し,コンクリート塊発生量と処理能力の不整合が生じる可能性が認められた。
これらの地理的環境データベースが整理されることで、コンクリート塊を地産地消による処理展開が可能となるCO2吸収固定原料の製造可能施設を有する地域として、その位置づけを明確化できる可能性がある。

図5 都道府県別-コンクリート塊のIN/OUT関連情報[9-10]
図5 都道府県別-コンクリート塊のIN/OUT関連情報[9-10]
図6 都道府県別-がれき類専業化によるCCC製造可能中間処理場施設[9-10]
図6 都道府県別-がれき類専業化によるCCC製造可能中間処理場施設[9-10]
図7 都道府県別-コンクリート塊の需給バランス比較マッピング[9-10]
図7 都道府県別-コンクリート塊の需給バランス比較マッピング[9-10]

4.ブルーカーボン・アクトとブルーカーボン・インフラ (Blue Carbon Act. & Infra.)

 国連環境計画などで広く伝えられたブルーカーボンは、主に藻類などの生育中の水産資源を指すが、ホタテ貝殻は、北海道のオホーツク海を中心に2~4年をかけて生長した天然・養殖漁業産物であるホタテ貝の食部を除く炭酸カルシウム骨格の生長固化物(CaCO3)で構成されており、その成分には約44%のCO₂が含まれることになる。仮に、これらのほたて貝殻を、廃棄処理や短期的用途に供するのではなく、コンクリート用細骨材として長期にわたり有効利用できた場合、例えば、単位量あたりの投入重量が100 ㎏程度であれば、わずか数年で海水中から固定した約 44 ㎏に相当する CO₂を、長期に渡りコンクリート製品の一部として固定化する状況が実現される。その具体的な用途としては、ビル建物等の外壁PCaコンクリート部材や、建築仕上用の3Dプリンティング材料などが計画されている。なお、その一連の技術的取組みは多岐にわたり、サプライチェーンの上・下流までのシステム全体を捉えると、ホタテ貝殻をカーボンリサイクル用の副産物として採取する漁業行為の処理作業にはじまり、水産加工所での貝殻の脱離処理、中間処理場への運搬・破砕処理などが含まれ、これらは「ブルーカーボン・アクト:Blue Carbon Act.」として位置づけることができる。そして、本研究で開発を進める建築外壁となるPCaコンクリート製品のような耐久消費財の場合、建物の外装をはじめ都市景観にも大きな影響を与えられることから、そのような性質を有する構築物は、「ブルーカーボン・インフラ:Blue Carbon Infra.」として位置づけることができる。この二つの概念は、ブルーカーボンリサイクルを推進する上で重要な役割を担う(図8)。
 なお、これらの海洋生物殻を原料とした取り組みは、UNEPで推進する有機物である藻類のブルーカーボンとは厳密には区別されるものであろう。しかし、ホタテ貝が生物として生長する過程における生体保護の役割を担う甲殻部の組織形成の特徴として、タンパク質外套膜の組織化に伴ない海水中の二酸化炭素を過飽和で体部に蓄積させ、最終的に炭酸カルシウムの生物殻骨格に利用していることから、広義のブルーカーボンとして認識することはできよう。

図8 製造したホタテ貝殻砂とブルーカーボン・アクト&インフラの地域性・概念図[5-7]
図8 製造したホタテ貝殻砂とブルーカーボン・アクト&インフラの地域性・概念図[5-7]


次回に続く-



参考文献

  1. 田村,リサイクルコンクリートによるカーボンニュートラル化,コンクリート工学,pp.124-128Vol.48, No.9(2010)
  2. Komuro, K and M.Tamura, Fracture Properties and Carbon Neutral Analysis of Concrete Materials Containing Disposed Sea Shell, 1st ICSU(2010)
  3. 小室,田村,炭素固定性を有する海洋生物殻を混入し たモルタルの基礎力学特性,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.33,No.1307,(2011)
  4. 小室,田村,炭素固定性を有する海洋生物殻を用いた鉄筋コンクリート造建築物のカーボンニュートラル 性の検討,日本建築学会技術報告集,第40 号,pp.841 846(2012)
  5. 高橋,田村,佐々木,斉藤,尾関、炭素固定性を有する海洋生物殻廃棄物を用いたPCaコンクリート部材の開発,その1ほたて貝殻使用モルタルのフレッシュ性状・力学特性,2021年度日本建築学会関東支部研究報告集(2022)
  6. 尾関,田村,佐々木,斉藤,山本,小関,井口,炭素固定性を有する海洋生物殻廃棄物を用いたPCaコンクリート部材の開発 その4:ほたて貝殻砂使用コンクリートの長さ変化率と中性化抵抗性,2023年度日本建築学会学術講演梗概集(2023)
  7. N.Hosoda,K.Iguchi,M.Tamura,T.Sasaki,T.Saito,R.Ozeki,T.Yamamoto,A,Koseki, Development and basic property evaluation of mortar for 3D printer using sea shells waste with blue carbon fixation properties, The 22nd International Symposium on Advanced Technology(ISAT22) (2023)
  8. 野口ほか,ムーンショット目標 4 に貢献する「C4S研究開発プロジェクト」の概要,日本建築学会学術講演梗概集(東海),2021.9
  9. 田村ほか,既存建物群の各種統計情報に基づくコンクリート量分析と資源循環シナリオの構築,その1-7,日本建築学会学術講演梗概集(北海道),2022-2024
  10. M. Tamura and at.el, Prediction of amount of calcium carbonate concrete materials generated from concrete structure stocks in the past and future RILEM Week(2023)
  11. 細田夏花、ブルーカーボン・インフラ―風土に根ざす海洋生物殻資源の再生拠点の提案―、工学院大学卒業制作(佳作受賞)、2024.1
  12. 安江、遠山、廃棄貝がらの資源化による循環型社会への挑戦、Journal of the Society of Inorganic Materials, 8号pp.58-68(2001)


【著者紹介】
田村 雅紀(たむら まさき)
建築学部・建築学科 生産系・環境材料学研究室 教授

■略歴
岐阜県生まれ,木曽川と日本アルプスの山々の麓で育つ

  • 1996年名古屋大学工学部建築学科卒業
  • 2003年東京大学大学院建築学専攻・博士(工学)
  • 1999年~2008年東京都立大学大学院 建築学専攻・助教
  • 2008年~2015年工学院大学・准教授
  • 2016年~ 現在工学院大学・教授

主な著者に,ベーシック建築材料(彰国社),建築生産~もの作りからみた建築のしくみ~(彰国社)

「海洋ロボットのパイオニア」 長崎大学 山本研究室

山本 郁夫(やまもと いくお)
長崎大学副学長・教授
博士(工学)
山本 郁夫

1.研究室の概要と特徴

 長崎大学山本郁夫研究室は先進的ロボットの研究開発を目的に2013年に開設された。工学系の学生、研究員ら約40名で構成されており、海洋、航空宇宙、車両、医療の分野の様々なロボット、メカトロニクスを開発している1) 2)。特に、実フィールドで役立つ先進的ロボットを生み出すことを開発の信念としている。
 海洋ロボットは水中ロボット、船ロボットに分けられ、海洋環境観測や海中構造物モニタリング等の海での実ミッション成果を多々生み出している。学生は毎年入れ替わるため、鍛錬の場として沖縄海洋ロボットコンペティションに毎年出場している。
 コンペティションとは縁が深く、2013年に筆者が沖縄ポリテクにて宇宙ロボットの講演を行った際に、海で使えるロボットを念頭に学生の教育の場として海洋ロボコンを開催できないかとポリテク関係者と議論となり、講演翌日に沖縄ポリテク、九州ポリテクの先生方らと内閣府沖縄事務所に海洋ロボコンの構想提案と大会後援をお願いに行ったことに始まる。
 水中ロボットは海水で動かすことが難しく、真水中で開発したロボットはなかなか海水で動かない。それならば、最初から海で動かすことを目的に開発した方が良いとの理由でコンペティションを提案した。
 内閣府、沖縄県、大学、高専、ポリテク、企業他の後援を得て2014年にプレ大会、2015年から本大会を実施し、コロナでの開催危機にも見舞われたが、毎年継続して実施することができ、今年は第10回目の記念大会に至っている。弊研究室は初回から出場している。
 2014年プレ大会では全体で2機しかロボットは動かなかったが、近年は20機近くまで海中で動くロボットが増えている。参加校の技術レベルが上がっていることは当初の開催目的に叶い、喜ばしい限りである。その中で、弊研究室は沖縄までロボットを持って行って動かすという難しさの中、良好な成績を納めることができ、遠隔地でのミッション遂行能力向上も含めコンペティションを通して着実に技術力が向上している。

2.沖縄海洋ロボットコンペティションの実績

 プレ大会から出場しているため、ROV部門最優秀賞4回、優秀賞2回、同部門ノーマルタスク 最優秀賞1回、優秀賞1回、同部門知能・計測チャレンジ最優秀賞2回、フリースタイル部門特別賞、同部門最優秀賞3回、優秀賞2回の成績である。

図1 イルカロボット
図1 イルカロボット
図2 プレ大会での遊泳風景
図2 プレ大会での遊泳風景

 プレ大会では、イルカロボット(図1)を海水中で遊泳させて(図2)、審査員らよりこのようなロボットを未だ見たことがないとの高評価を得てフリースタイル部門特別賞を頂いた。弊研究室は北九州市立大学の山本郁夫研究室を継承しており、そこで博士号収得を指導した卒業生の勤務する大学と共同で高機動ROV(図3)をROV部門に出場させ、波浪中唯一競技ミッションを達成し、最優秀賞を得た。小型軽量が特長である。
 2015年第1回でも同じROVで出場したが、イの一番の航走で海面に釣り糸がたくさん浮遊しており、プロペラにそれが巻き付いて機動力が損なわれた。それでも2位となり優秀賞を得た。
 2016年第2回では航走機動性をさらに高めたSEABOT(図4)を開発し、ROV部門最優秀賞を得た。また、エイの翼とサメの尾びれを合体させたRAYBOT(図5)を遊泳させてフリースタイル部門で最優秀賞を得た。

図3 高機動ROV
図3 高機動ROV
図4 SEABOT
図4 SEABOT

 2017年第3回ではSEABOTⅡを出場させたが、目標認識がバーコードに変わり、水中カメラ映像で捉えているのにバーコード読み込みができないトラブルで競技点が得られなかった。フリースタイル部門では赤潮プランクトン採水を目的としたAKABOT(図6)を実演し、優秀賞を得た。海のドローンの先駆けである。
 2018年第4回ではSEABOTⅢをROV部門に出場させ、課題のバーコード読み込みはクリアできた。しかしながら起動時に回線接続ミスで始動が遅れ、2位となり優秀賞を得た。フリースタイル部門では船ロボットのUKIBOTを実演し、最優秀賞を得た。

図5 RAYBOT
図5 RAYBOT
図6 AKABOT
図6 AKABOT

 2019年第5回ではスーツケースのような開閉方式で始動直前の回線接続チェックを容易にしたCAIBOT(図7)をROV部門に出場させ、最優秀賞を得た。また、新たに始まった知能・計測チャレンジ部門にAIによる構造物亀裂認識機能を具備したSmart CAIBOTを出場させ、潮流下での海中構造物亀裂の自律探査、映像捕捉保持を行うことができ、最優秀賞を得た。また、フリースタイル部門で船ロボットの機動性を強化したUKIBOTⅡを実演し、最優秀賞を得た。2020年はコロナ感染症蔓延による出張禁止のため出場を見送った。

図7 CAIBOT
図7 CAIBOT

 2021年第7回はROV部門ノーマルタスクでCAIBOTⅢ(図8)を出場させ、最優秀賞を得た。知能・計測チャレンジタスクでもCAIBOTⅢは最優秀賞を得た。

図8 CAIBOTⅢ
図8 CAIBOTⅢ

 2022年第8回では、ROV部門ノーマルタスクでロボットハンド具備のROV☆STAR(ロブスター)(図9)が最優秀賞、REMONA(図10)が優秀賞を得た。REMONAは外乱下での定点保持力を強化したROVであり、知能・計測チャレンジ部門で最優秀賞を得ている。2023年第9回ではREMONAがROV部門知能・計測チャレンジ部門で最優秀賞を得ている。

図9 ROV☆STAR
図9 ROV☆STAR
図10 REMONA
図10 REMONA

3.今後の方向性と展望

 沖縄ロボットコンペティションを通して学生の海洋ロボット開発能力は確実に向上している。コンペティションという目的に向かって、設計、製作、実験を行い、失敗しても次は確実にミッションを遂行する力が育まれている。コンペティションを通して様々なアイデアが生まれ、チームとしてミッションを達成するためのコミュニケーション力も養われる。
 この能力は社会に出て産業界のシステムを創り出すときに必ず役に立ち、企業からも海洋という極限環境でのロボットの開発力を有していることから評価が高い。卒業生の多くは、大手電機、重工、自動車、機械、半導体などの産業界に進んでいく。願わくば海洋産業の市場がもっと成長し、コンペティションで競い合っている海洋ロボットの分野での活躍も期待したい。
 また、参加に要する費用が不足しているため毎年資金難に陥るが、コンペティションを実務ミッションでの海洋ロボット開発と実証と位置付けて、今後も出場を続けていきたい。


長崎大学 山本郁夫研究室
Nagasaki University Ikuo Yamamoto Laboratory Japan
URL:https://robotics-mech-nagasaki-univ.conohawing.com/



参考文献

  1. Ikuo Yamamoto,Practical Robotics and Mechatronics,IET (The Institution of Engineering and Technology, UK),Control,Robotics and Sensors Series 99,ISBN978-1-84919-968-1(2016)
  2. 山本郁夫, 水井雅彦, 基礎から実践まで理解できるロボット・メカトロニクス, 共立出版, 2013


【著者紹介】
山本 郁夫(やまもと いくお)
長崎大学副学長・教授 博士(工学)
Prof. Ikuo Yamamoto, Dr. Eng. Vice President, Nagasaki University, Japan

■略歴

1983.3 九州大学工学部航空工学科卒、同大学院工学研究科修了、博士(工学)。
1985.4 三菱重工本社技術本部、2004.4 海洋研究開発機構、2005.4 九州大学大学院総合理工学府教授、2007.4 北九州市立大学教授、2013.4長崎大学教授、2019.4 同大学副学長。GlobalScot(スコットランド名誉市民)、フランス国際賞受賞。

専門はロボット工学。実用的なロボットを世界に先駆けて開発することで定評がある。三菱重工業(株)で10000m(10900m)無人潜水ロボットやB787主翼、JAMSTECで300km(317km)以上を自律で航走する水中ロボットを開発してきた。大学では小型無人飛行体、水中ロボット、船ロボット、本物そっくりに泳ぐ魚ロボットを世界に先駆けて開発している。宇宙遊泳する魚ロボットも開発した。30年以上のロボット研究歴の中で英国、フランス、日本などでロボットの創出法に関する本など多く執筆している。内閣府総合海洋政策本部参与会議自律型無人潜水機(AUV)戦略PT有識者委員。

「AI.LAB」 九州工業大学 フィールドロボット研究室

石井 和男(いしい かずお)
九州工業大学
大学院生命体工学研究科
教授
石井 和男

1. 研究室の概要・特徴

 安心安全で持続可能な社会の実現、少子高齢化への対応、第一次産業を始めとした産業基盤の再構築等の社会的な課題に対して、産業競争力会議において新たな成長戦略に「ロボットによる新たな産業革命」が示されたように、解決策の一つとしてロボット技術の社会実装が期待されている。筆者らもロボット関連研究者と共に九州工業大学社会ロボット具現化センター(現,未来社会ロボット実装センター,図1参照)を立ち上げ,研究成果の社会実装を念頭に研究を進めている。筆者らは、水中ロボットの開発に携わっており1)2)、現在も農業分野も含め西田准教授や安川准教授と連携してフィールドロボットに関する研究を行っている3)4)
 フィールドロボットの研究において重要な要素の一つが研究成果を評価するための“場:フィールド”の確保である。2003年から日本発の競技会であるRoboCup5)の中型サッカーリーグに参加し、マルチエージェントシステムやロボットの協調行動について研究を行っているが、バレーボールコートサイズの大きさの実験場が必要であり、その確保は課題であった。水中ロボットの研究において実海域での実験のためには、海上保安庁や漁業共同組合への実験の届出と承認、警戒船、潜水士の契約等、様々な実験準備が必要である。多くの労力、予算を必要とすることから、関係する研究者と連携してロボット競技会を企画・開催、“場”を提供し、必要とされる技術課題を競技会のルールとして取り入れながら競技会を通じて研究活動及びアウトリーチ活動を行う取り組みを進めている。水中ロボットに関しては2006年に神戸で第1回水中ロボットフェスティバルを開催して以来、毎年開催し6)、農業用ロボットの開発に関してはトマト果実の収穫能力を競うトマトロボット競技会7)を2014年から開催している。ロボット競技会を積極的に活用しながらフィールドロボットの研究を行っている (図2参照)。

図1 研究成果の社会実装と九州工業大学社会ロボット具現化センターの設立
図1 研究成果の社会実装と九州工業大学社会ロボット具現化センターの設立
図2 ロボット競技会 左:水中ロボフェス2019 in 北九州、右:トマトロボット競技会
図2 ロボット競技会 左:水中ロボフェス2019 in 北九州、右:トマトロボット競技会

2. 研究内容・テーマ・実績

 ここでは水中ロボットに関する研究成果を紹介する。遠隔操作型水中ロボット(Remotely Operated Vehicle: ROV)や自律型水中ロボット(Autonomous Underwater Vehicle: AUV)などの水中機器や水中音響システムの技術開発と利用の進展とともに、深海底の調査や船舶、洋上風力発電装置などの海洋構造物の検査・調査・清掃・修理が現実のものとなっている。日本海事協会は2020年に「AUV/ROVに関するガイドライン」8)を公表して、水中ロボットを用いた水中検査の推進を図ろうとしている。

2.1. 船底清掃ロボット(ROV)の開発

 日本は世界有数の貿易大国であり、輸出入における99.8%を海上輸送が占めているが、船舶による輸送においてもCO2の削減が求められている。CO2排出量増加の要因として船底に付着するアオサ等の海藻類やフジツボ等の貝類が挙げられ、特に船舶が長期間停泊した場合には、多くの海洋生物が船底・船側面に付着し水流の抵抗となり燃費が増加することが報告されている9)。対策として定期的な船底の清掃が期待されており、著者らは図3に示す遠隔操作型の船底清掃ロボットを開発し、国土交通省 海の次世代モビリティの利活用に関する実証事業等を活用しながら実証実験を進めている10)
 船底清掃ロボットは中央部のブラシで船底を清掃しながら移動し、水を吸引して船底に吸着する仕組みとなっている。ロボット中心に対して点対称に配置された6基のスラスタの推力により移動し、前後に取り付けられたパン・チルトカメラで清掃面や前方の映像を取得することが可能である。清掃ロボットは3次元形状の船底に吸着して移動するため、通常の水中ロボットとは異なり任意の姿勢を取りうる。そのため重心と浮心を近づけ復元力を小さくする設計としており、制御アルゴリズムに工夫を要する。

図3 船底清掃ロボット。船底に吸着し、ロボット中央部のブラシを回転させ清掃する。
図3 船底清掃ロボット。船底に吸着し、ロボット中央部のブラシを回転させ清掃する。

2.2. AUVによる海底生物サンプリング

 日本でのAUV研究は、浦らの「PTEROA計画」(1986年)に始まる11)。2012年にはAUV3台を海底熱水鉱床発見が期待される海域において同時展開することに世界で初めて成功しており12)、近年では民間企業もAUVによる海底調査サービスを提供している13)。AUVはケーブルによる拘束が無いため自由に行動できる一方、ロボットとして自己完結している必要があり、高いシステム信頼性が求められる。著者らもJST CREST 海洋生物多様性において、浦がPIを務めた「センチメートル海底地形図と海底モザイク画像を基礎として生物サンプリングをおこなう自律型海中ロボット部隊の創出」14)に参画し、AUVによる生物サンプリングシステムの開発を行なった。そのコンセプト図と水中画像処理の様子を図4に示す。AUV:Tuna-Sand215)は予め設定した測線に沿って移動し、興味深いと判断した画像を支援船に送信する。送信は超音波通信によって行う。そのため、データ通信量に制限がある中で支援船の観測者が判断しやすい画像とする必要があった。全体の制御ループに人の判断が入るシステムであり、画像処理に関してだけでも水中画像の鮮明化16)、興味画像の選択、画像の圧縮17)等の課題があった。海底からのサンプリングのためには、深度センサとDVLの高度情報を組み合わせた高度維持制御、サンプリング対象物のトラッキングのための2段階ビジュアルサーボ制御18)等、多くの課題があったが東海大渡邉らの協力を得て駿河湾 水深100mにおいて2枚貝の捕獲に3回連続成功した。

図4 AUVによる生物サンプリング。左はコンセプト図、右は開発した水中画像補正処理技術。
図4 AUVによる生物サンプリング。左はコンセプト図、右は開発した水中画像補正処理技術。

3. 今後の方向性・展望

 AUV、ROVともに水中調査・作業のためのツールとして、研究段階から社会実装段階に移行しつつある。前述した研究課題は、海中環境という制約の中でロボットを実際に活用して作業させるという目的のもと、目的に向かう過程において次々と現れ悩まされたものであり筆者らが当初想像できていなかったものが多い。ロボットの研究開発は近年のコンピュータに代表されるICT技術の発展の恩恵を多々受けており、新たな技術が水中ロボットの可能性や適用範囲を拡げ、さらに次の研究課題に挑戦する機会を与えてくれる。社会に対して「ロボットでこんなことができるんだ」と少しでも提示できるよう微力ながら尽力したい。

九州工業大学 フィールドロボット研究室(石井和男研究室)
https://www.brain.kyutech.ac.jp/~ishii/



参考文献

  1. Ishii K., Fujii T., Ura T., An On-Line Adaptation Method in a Neural Network Based Control System for AUVs, IEEE Journal of Oceanic Engineering, Vol.20 No.3, pp. 221–228, 1995, DOI:10.1109/48.393077
  2. 石井和男,藤井輝夫,浦環, 水中ロボットとニューラルネットワーク, 日本ロボット学会誌, Vol.22 No.6, pp.727 – 731, 2004, DOI:10.7210/jrsj.22.727
  3. 佐藤雅紀,神田敦司,石井和男, 不整地移動ロボットのための環境適応型制御システム,日本ロボット学会誌, Vol.27 No.8, pp.950-960, 2009, DOI:10.7210/jrsj.27.950
  4. 藤永拓矢,安川真輔,石井和男, 施設園芸を対象としたトマト果実自動収穫ロボットの開発, 日本ロボット学会誌, Vol.39 No.10, pp.921-925, 2021, DOI:10.7210/jrsj.39.921
  5. https://www.robocup.org (2024.4確認)
  6. 有馬正和,石井和男,渡邉啓介, 水中ロボットと競技会を通じた工学教育,計測と制御, Vol.47 No.10, pp.817-823, 2008, DOI:10.11499/sicejl.47.817
  7. 石井和男, 松尾貴之, 武村泰範, 園田隆, 川尻一志, 西田祐也, トマト果実の自動収穫能力を競うトマトロボット競技会, 日本ロボット学会誌, Vol.39 No.10, pp.921-925, 2021, DOI:10.7210/jrsj.39.921
  8. https://www.classnk.or.jp/hp/ja/index.html  ログイン後、マイページのガイドラインから (2024.4確認)
  9. 横井 幸治,船底汚損が船速に与える影響について, 富山商船高等専門学校研究集録, 第37号,pp.17-27, 2004
  10. https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/ocean_policy/content/001732015.pdf  (2024.4 確認)
  11. 浦環, 前田久明, 海中ロボット研究グループ, 生産研究, Vol.44 No.7, pp.29-31, 1992
  12. https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/p01_241105.html (2024.4 確認)
  13. https://www.ideacon.co.jp/technology/detail/20231019154926.html (2024.4 確認)
  14. https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/completed/bunyah23-3.html (2024.4確認)
  15. Nishida Y., Sonoda T., Yasukawa S., Nagano K., Minami M., Ishii K., Ura T., Underwater platform for intelligent robotics and its application in two visual tracking systems, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.30 No.2, pp.238–247, 2018, DOI: 10.20965/jrm.2018.p0238
  16. Ahn J., Yasukawa S., Sonoda T., Ura T., Ishii K., Enhancement of deep-sea floor images obtained by an underwater vehicle and its evaluation by crab recognition, Journal of Marine Science and Technology, Vol.22 No.4, pp.758 – 770, 2017 DOI:10.1007/s00773-017-0442-1
  17. Ahn J., Yasukawa S., Sonoda T., Nishida Y., Ishii K., Ura T., An Optical Image Transmission System for Deep Sea Creature Sampling Missions Using Autonomous Underwater Vehicle, IEEE Journal of Oceanic Engineering, Vol.45 No.2, pp.350 – 361, 2020, DOI: 10.1109/JOE.2018.2872500
  18. Yasukawa S., Ahn J., Nishida Y., Sonoda T., Ishii K., Ura T., Vision system for an autonomous underwater vehicle with a benthos sampling function, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.30 No.2, pp.248 – 256, 2018, DOI:10.20965/jrm.2018.p0248


【著者紹介】
石井 和男(いしい かずお)
九州工業大学・大学院生命体工学研究科・教授/未来社会ロボット実装センター・センター長

■略歴

  • 1996年09月東京大学 工学系研究科 船舶海洋工学専攻 博士課程修了 博士(工学)
  • 1996年10月東京大学生産技術研究所 研究員
  • 1996年12月九州工業大学情報工学部 講師
  • 1998年06月同 助教授
  • 1999年04月東京大学生産技術研究所 協力研究員(〜2018年3月)
  • 2002年04月九州工業大学大学院生命体工学研究科 助教授(准教授)
  • 2003年04月Fraunhofer AIS 客員研究員 (〜2004年02月)
  • 2011年04月九州工業大学大学院生命体工学研究科 教授(現在に至る)
  • 2013年04月九州工業大学社会ロボット具現化センター 副センター長(併任)
  • 2018年04月同 センター長 (併任、現在に至る)
  • 2018年04月長崎総合科学大学 客員教授(併任、現在に至る)

効率性と柔軟性を兼ね備えた産業用および車載用40Vリニア・レギュレータ

STマイクロエレクトロニクスは、車載および産業用の低ドロップアウト(LDO)レギュレータ「LDH40」および「LDQ40」を発表した。
同製品は、3.3V~40Vの広い入力電圧に対応し、低静止電流を特徴としている。LDH40は、最大200mAの電流を供給でき、1.2V~22V可変出力電圧バージョンのみが提供される。LDQ40は、最大250mAの電流を供給でき、1.2V~12V可変出力電圧バージョンと、1.8V / 2.5V / 3.3V / 5.0Vの固定出力電圧バージョンが提供される。

LDH40およびLDQ40は、低消費電力性能を必要とするアプリケーション向けに高効率の電力変換を提供する。無負荷時で2µAの静止時電流を持ち、ロジック制御によるシャットダウン・モード時では300nAと静止電流が低いため、常時オンのスタンバイ状態でシステムのバッテリ電力を削減可能である。また、出力側に小型のセラミック・コンデンサを配置することで安定性を維持する。

車載グレード製品は、AEC-Q100に準拠しており、DFN6Lパッケージ(2mm x 2mm)で提供される。このパッケージは、PCB設計と自動光学検査を簡略化するウェッタブル・フランク構造を採用している。入力電圧範囲が広いため、自動車の12Vバスに接続して、最大40Vの過渡電圧にも耐えることができ、インフォテインメント・システムや計器クラスタ、高度運転支援システム(ADAS)に電力を供給できる。また、静止電流とスタンバイ電流が低いため、電気自動車への使用に最適である。

両製品ともに内部電流制限、過熱保護、ソフトスタート、出力のアクティブ放電などのシステム保護およびマネージメント機能を備えている。また、シャットダウン制御用のイネーブル・ピンおよび、診断モニタリング用のパワーグッド・ピンも備えている。LDQ40は、短絡保護機能も備えている。

車載グレードのLDH40は現在量産中で、DFN6Lウェッタブル・フランク・パッケージで提供される。LDQ40は、車載用、産業用ともに現在量産中で、標準DFN6Lパッケージおよび、車載用ウェッタブル・フランク・パッケージで提供される。1.8V / 2.5V / 3.3V / 5.0V固定出力電圧の車載用LDQ40は、2024年第2四半期に提供が開始される予定である。3.3V / 5.0V固定出力電圧の産業用LDQ40は、2024年第3四半期までに提供が開始される予定。車載用製品の単価は、いずれも1000個購入時に約0.47ドル。産業用LDQ40の単価は、1000個購入時に約0.40ドル。両製品ともに、現在STのeStoreで無償サンプルを提供中である。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001382.000001337.html

日亜とミウラ、水銀フリーで大流量な「UV-LED水殺菌装置」を開発

三浦工業(株)は、日亜化学工業(株)のUV-LED※を用いた水殺菌装置の研究開発を行っており、「UV-LED水殺菌装置」を2024年8月より受注開始する。

※UV-LED:紫外線を放射するLEDのこと。従来は使う電力を光に変える変換効率が低かったが、短波長領域において発光効率を高めたことで、水銀ランプに対抗できるレベルになっている。

▮開発の背景
 健康被害や環境汚染を防ぐため、水銀を使用した製品は世界的に規制が進んでいるが、紫外線殺菌用途の水銀ランプは代替技術がないことが課題だった。このたび、日亜化学工業の高出力UV-LEDと、三浦工業の流体設計ノウハウを融合させることにより、水銀フリーかつ大流量な「UV-LED水殺菌装置」の開発に成功した。

▮特長
 ・水銀フリーの環境に優しいLED光源使用
 ・UV照度センサによる紫外線照射量の監視
 ・光源用冷却水不要
 ・LED光源の交換やメンテナンスが容易な構造

プレスリリースサイト(miuraz):https://www.miuraz.co.jp/news/newsrelease/2024/1538.php

応用地質、表層傾斜計「クリノポールNEO」の販売を開始

応用地質(株)は、多発する豪雨による土砂災害の予防保全等を目的とした、地盤表層の傾きを計測する表層傾斜計「クリノポールNEO」の販売を開始した。

【開発の経緯】
クリノポールNEOは、「傾斜センサを多点に配置し、面的に広く斜面の挙動を把握することで、斜面の不安定な箇所を事前に把握したい」という事前防災のニーズを満たすため、斜面災害に関する知見を集積し、西日本高速道路エンジニアリング中国(株)とともに、共同開発した。

【機器の概要】
同社従来製品の「クリノポール」は、センサ部を地中に埋設し、温度変化の影響を低減させることで、精密なデータの取得が可能。「クリノポールNEO」はこの特長を生かし、最大20点の計測ポイントの測定データを近距離無線で1台の通信機能付きコントローラに集約することで、精緻な計測でありながら広く、面的に、かつ安価で簡単に斜面の挙動を把握することが可能となった。

さらに、観測したデータは、コントローラから同社クラウドへ自動でアップロードされるので、いつでも迅速に斜面の状態を確認することができ、斜面点検の労力軽減のほか、斜面などを管理される場合のDX推進を支援する。

【機器の構成】
① センサ部
 ロッドの先端に内蔵されたセンサにより2軸の傾斜と温度を計測する。
 サイズ:φ26mm×L850mm

② 通信部
 センサ部から得られた情報を無線通信でコントローラに送信する。
 サイズ:φ80mm×L206mm

③ コントローラ
 通信部から得られたセンサ部からの情報をLTE通信でクラウドにデータ送信する。
 サイズ:L175mm×W130mm×T45mm

■クリノポールNEOを活用した事前防災に向けた観測
安定性を監視したい斜面に、多数の「クリノポールNEO」を面的に配置する。周囲と異なる挙動を示す箇所が確認された場合には、該当箇所の詳細調査や追加観測、斜面安定度を高めるための対策検討を迅速に実施することで、崩壊を未然に防ぐ事前防災につなげることができる。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000083.000047274.html

緑が丘ネオポリスにおいて空間拡張システムの実証実験

 大和ハウス工業(株)は、2024年4月17日、兵庫県三木市において、建物とデジタル技術を組み合わせる拡張空間を利用し、開発から年数が経過した住宅団地でのコミュニティ活性化を図る実証実験を開始した。(※1)
※1.実証期間は、2024年4月17日から2025年春まで。

 居住者の減少や高齢化が進む住宅団地では、公共交通機関の運行廃止や免許返納などにより遠方への移動が不便となっており、公民館や役所などの公共施設から離れて暮らす住民にとって十分な地域コミュニティが形成できていない恐れがある。そのため、郊外型住宅団地では徒歩圏内でのコミュニティ施設やリモート窓口の設置など、施設とサービスの両面から、地域住民が集えるコミュニティの仕組みが求められている。
 そこで、同社は兵庫県三木市のコミュニティ施設において、仮想空間や遠隔地とつながる空間拡張システムを用いた、コミュニティ活性化に関する実証実験を開始することとした。
 実証実験では、デジタル映像と自然音で仮想空間を再現する「XR技術」(※2)を採用し、居心地の良い空間を演出することで、利用者数や発話量などへの影響を検証する。また、コミュニティ施設と遠隔地を映像と音声でリアルタイムに繋ぐことで、リモートによるコミュニケーションの快適性を確認する。
 今後は実験結果をもとに、地域コミュニティの活性化に寄与するための、建築とデジタル技術を融合した空間拡張システムの開発を目指すとのこと。
※2.AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)といった現実世界と仮想世界を融合する表現技術の総称。

●ポイント
 1.仮想空間の体験や遠隔地との空間共有などを実現する空間拡張システムの実証実験
 2.空間内の様子を捉えるセンシング手法による評価と分析

●実証実験開始の背景
 同社は、1960年代から郊外型住宅団地「ネオポリス」を全国61カ所に開発してきた。その多くは、まち開きから40年以上が経過しており、住民の高齢化、人口減少、空き家・空き地の増加といった課題がみられる。同社は、これらの課題を解決し、街の魅力を新たに創出する「リブネスタウンプロジェクト」を2015年に開始。現在、8つのネオポリスで団地再耕事業として進めている。

 その中でも、兵庫県三木市の「緑が丘ネオポリス」では、2015年8月にまちの活性化に向けて産官学民がそれぞれの強みを生かしながら戸建住宅団地の課題解決を検討する「郊外型住宅団地ライフスタイル研究会」が設立。同社などが代表幹事企業を務める当研究会では、(一社)「生涯活躍のまち推進機構(現:みらまち緑が丘・青山推進機構)」の設立や自動運転によるコミュニティ内移動サービスの実証実験、コミュニティ施設の設置などの取り組みを進めてきた。
 2023年11月には、同社と(一社)「みらまち緑が丘・青山推進機構」が「緑が丘ネオポリス」で実現したいみらいのまちについてのワークショップを開催。地域住民67名と意見交換した結果、日頃の困りごとの解決や新たな人間関係を構築できる「コミュニティの場の創出」が求められることがわかった。

 これまでコミュニティ施設では、イベントなどのきっかけがない場合には利用者は限られてしまうため、定常的に多世代が集って交流する仕組みを必要としていた。そこで、同社はコミュニティ施設において空間拡張システムによる郊外型住宅団地のコミュニティ活性化への効果を検証することにした。
 本実証実験での結果をもとに、コミュニティ施設の利用頻度向上につながる空間拡張システムを開発し、行政サービスの告知や企業による商品販売の仲介などに繋げていくという。

■実証実験の概要
所在地:三木市緑が丘町東1丁目8番14号
実証期間:2024年4月17日~2025年春
対象者:「緑が丘、青山ネオポリス」の住民
検証内容:空間拡張システムにより遠隔地や仮想空間と接続する体験を住民に提供し、アンケートおよびヒアリング調査を実施することで、多様なサービス提供の可能性を確認する。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002086.000002296.html

フジクラ、小型圧力センサ「AT7シリーズ」の量産を開始

(株)フジクラは、5月から、世界最小クラスのゲージ圧高精度センサ「AT7シリーズ」の量産を開始する。
 新製品の「AT7シリーズ」では、パッケージサイズを4㎜×4㎜まで小型化したほか、オリジナル形状の内折れリードを採用した。これにより、従来の当社圧力センサで最小だった「AGシリーズ」と比較して、基板上の実装占有面積を72%減らすことに成功した。

【ポイント】
・パッケージサイズ4㎜×4㎜に加え、内折れリードの採用で更なる小型化を実現
・従来最小だった当社製品「AGシリーズ」と比較して専有面積を72%低減
・小型形状ながら幅広い用途に適用可能
・高分解能ながら、高速サンプリングを実現

今回量産を開始する「AT7シリーズ」は、25kPa~1000kPaの圧力レンジに幅広く対応でき、デジタル出力(I2C)※1によって、圧力信号を高速でマイクロプロセッサに出力できる特長を持っている。
 このため、圧力変化を的確に捉えられる、信頼性の高い小型アプリケーションの開発を可能にする。
 また、アナログ信号をデジタル信号に変換する必要がないため、アプリケーションの開発や生産コスト削減にも貢献するという。

 近年、圧力センサは、様々な機器に搭載されるケースが増加している。
 「AT7シリーズ」は小型形状ながら、幅広い温度範囲で信頼度の高い圧力精度を持つことから、一般消費者をターゲットにした製品や、医療機器、産業機器などの様々なアプリケーションに適用することができるとのこと。
AT7         主要仕様

圧力種類       ゲージ圧(大気圧を基準とした圧力)
圧力媒体       非腐食性気体
圧力範囲       +25 kPa ~ +1000 kPa、-25 kPa ~ -100 kPa
定格電圧       3.0 V, 3.3 V, 5.0 V
精度         ±1.5% FS
精度補償温度範囲     0℃~+85℃
出力         デジタル出力(I2C)
分解能        16 bit
サンプリング周波数  1.1 kHz
外形寸法       4 mm (W) x 4mm (D) x 3.8 mm(H) リードピン除く
質量         約0.07 g

注):I2CはNXP Semiconductors社の商標。

※1 デジタル出力(I2C)
NXP Semiconductors社が開発した通信方法。クロックと呼ばれるタイミング情報に合わせてデジタル信号を送受信することで、周辺デバイスと効率よく正確なデジタル信号を高速で通信する方式。

プレスリリースサイト(fujikura):https://www.fujikura.co.jp/newsrelease/products/2068760_11541.html

RoboSapiensと戸田建設「自走式ロボット」に関する発明で新たな特許


(株)RoboSapiensと戸田建設(株)は、「自走式ロボット」に関する発明で新たな特許を取得した。 今回の特許で、RoboSapiensは4つの特許を取得したこととなる。

【特許番号】 特許第7465511号
【登録日】  2024年4月3日
【発明の名称】自走式ロボット
【特許権者】 株式会社RoboSapiens、戸田建設株式会社
【発明者】  長尾 俊((株)RoboSapiens 代表取締役社長)、
       田村秀一(戸田建設(株)ICT統轄部DX推進室 主任)・他2名

◎特許の背景
今回の特許は2023年1月に両社が共同で実施した「ロボットを用いた施設点検の自動化に関する共同研究」の成果をベースとしたもの。
この共同研究は、戸田建設が、ビル内環境を最適に保つため、空気質などの環境計測を固定センサや移動ロボットでおこなってきたものの、高さを変化させて計測することができないことが問題となっており、RoboSapiensの巻尺アクチュエータの機構を搭載した自律移動ロボット『BambooBot(バンブーボット)』を使うことで、執務スペースの床面・作業机・天井と高さを変えながら、作業場の照度が労働安全衛生規則を満たしているかを確認する法定検査の自動化実験をおこなったものである。
両社による共同研究の結果、いずれの作業エリアにおいても法定基準を満たしているというレポートを作成することができ、かつ、部屋の形状によって光の当たりづらくなる領域ができることがわかり、内装の最適化に役立てることもできるようになった。
この共同研究に関しては、以下のURLのプレスリリースにて詳細が参照可能。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000089345.html

◎特許の内容
今回の発明は、“自律移動ロボット”と“センサ計測”の技術分野に関するものである。
“自律移動ロボット”は、「センサから出力された検出結果に基づいて、高さ方向を含めた立体的な環境計測を正確に行うことができる自走式ロボットを提供する」という課題を満たしたもの。
また、“センサ計測”は、「センサ計測の機能を持つ自走式ロボット」の発明に対してのものとなる。なお、環境計測の対象は、CO2濃度のみならず、温度、湿度、照度、放射線、近接、磁気、撮像、気圧、加速度、騒音又は音響も含まれており、環境計測に関わる包括的な内容となっている。

プレスリリースサイト:https://rb-sapiens.com/news/

日本発の無人航空機の衝突回避に関する技術報告書がISOより公開

 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構〔以下、NEDO〕の委託事業「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」での成果を基に、日本無線(株)と(株)三菱総合研究所が取りまとめた無人航空機の衝突回避技術に関する国際標準化機構(ISO)の技術報告書「ISO/TR 23267:Experiment results on test methods for detection and avoidance (DAA) systems for unmanned aircraft systems」(以下、ISO/TR 23267)が、2024年4月15日に公開された。
 技術報告書「ISO/TR 23267」は、無人航空機用衝突回避システムに関する規格「ISO/DIS 15964 Detection and avoidance system for unmanned aircraft systems」(以下、ISO/DIS 15964)の要求事項の根拠と位置付けられ、新たな国際標準の速やかな規格開発に貢献することで、無人航空機の社会実装の加速が期待できるという。

1.概要
 一般にドローンと呼ばれる小型~中型の無人航空機は、既に農業分野などで利用が広がっており、さらには災害時の物資運搬や遭難者捜索、物流インフラなどの用途での活用に、大きな期待が寄せられている。一方で、他の航空機との衝突をどのように回避するかが無人航空機の安全利用における喫緊の課題である。
 NEDOの「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト※1」では、2017年度から無人航空機の衝突回避技術の開発を開始し、2021年度までにさまざまな実証実験を行い、衝突回避技術に関する複数の研究開発成果を公開してきた。
 2023年度より、日本無線と三菱総合研究所が主要な研究開発成果を取りまとめ、日本発として提案したISO/TR 23267※2が2024年4月15日に公開された。
 現在、無人航空機システムの国際標準化を担当するISO/TC 20/SC 16では、レーダー、光学センサ(カメラ)などを無人航空機に搭載した衝突回避システムに関するISO/DIS 15964※3を開発中であり、発行された技術報告書「ISO/TR 23267」は、ISO/DIS 15964の要求事項の根拠と位置付けられるものになる。

2.技術報告書の内容
 無人航空機の衝突回避に関しては、2023年10月に無人航空機の運航手順の規格である「ISO 21384-3:2023 Unmanned aircraft systems Part 3: Operational procedures※4」(以下、ISO 21384-3:2023)が衝突回避のCONOPS(Concept of Operations:運用構想)として新たな章を追加し、6ステップからなる基本的な衝突回避手順を規定した。さらに、この6ステップの衝突回避手順を具現化する衝突回避システムとしてISO/DIS 15964の規格が現在開発されている。
 今回公開された技術報告書「ISO/TR 23267」は、ISO/IEC 専門業務用指針2023年(第3版)の3.3TR(技術報告書)※5で示される、「関連するIS(国際規格)に関する特定の要求事項に係る根拠を提供するため」を目的として、NEDOの委託事業における衝突回避の実証実験の中から重要な成果を取りまとめたもの。
 具体的には、無人航空機の衝突回避6ステップで使用されるハードウエア・ソフトウエアを本文に提示し、これを裏付ける根拠として各種実証実験結果などをAnnex(別紙)で示しつつ、引用先をBibliographyに明記する構成とすることで、レーダーと光学センサ(カメラ)を備えた機体による衝突回避システムの手順について説明している。
 また、衝突回避のモデリングとシミュレーション、機器単体の定量的評価試験、ハードウエア・ソフトウエアを試作搭載した飛行試験へとステップアップするテスト方法を解説することで、要求事項の根拠となる衝突回避CONOPSの6ステップにおける各種センサ機器の役割や探知・認識距離などを明示している。

<各社の役割>
日本無線:衝突回避システムの評価試験と飛行実証
三菱総合研究所:技術報告書(案)の作成

3.今後
 日本発の技術報告書「ISO/TR 23267」が公開されることで、世界各国の無人航空機に関する製造者、販売者、購入者、顧客、業界団体、ユーザー、規制当局などステークホルダーが、個別に進めてきた衝突回避システムに対して、共通概念が提供されることが可能となり、現在開発が進められているハードウエア・ソフトウエアの国際規格(ISO/DIS 15964)の要求事項の根拠と位置付けられることで、早期の国際標準化を推進し、将来に向けた国際的な無人航空機の社会実装への貢献が期待される。

【注釈】
※1 ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト
 NEDOが2017年から2022年度の期間で推進した、【1】ロボット・ドローン機体の性能評価基準等の開発、【2】無人航空機の運航管理システム及び衝突回避技術の開発、【3】ロボット・ドローンに関する国際標準化の推進、【4】空飛ぶクルマの先導調査研究の4項目で構成した、省エネルギー社会の実現を目指したプロジェクト。
 事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP2_100080.html
※2 ISO/TR 23267
 概要:https://www.iso.org/standard/87386.html
※3 ISO/DIS 15964
 概要:https://www.iso.org/standard/84450.html
※4 ISO 21384-3:2023 Unmanned aircraft systems Part 3: Operational procedures
 概要:https://www.iso.org/standard/80124.html
※5 ISO/IEC 専門業務用指針2023年(第3版)の3.3TR(技術報告書)
 https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/dev/md_6085.pdf

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000040.000135644.html