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アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」打上げ成功

人工衛星システムの製造・開発・運用を担う株(株)アストロスケールは、同社の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ、Active Debris Removal by Astroscale-Japan の略)」が2月18日深夜(日本時間)にニュージーランドのマヒア半島にあるRocket Labの第1発射施設(Launch Complex 1)より打ち上げられ、軌道投入に成功したと発表した。

ADRAS-Jを搭載したRocket Labのロケット「Electron(エレクトロン)」は23時52分(日本時間)に打上げが行われ、計画通り飛行、その後、高度約600kmにて衛星を分離し、衛星から受信した信号により正常に通信ができることを確認した。

アストロスケールは、大型デブリ除去等の技術実証を目指す宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証(CRD2)フェーズⅠの契約相手方として選定、契約を受けて、ADRAS-Jを開発した。ADRAS-JはRocket Labのロケット「Electron(エレクトロン)」による打上げ・軌道投入後、非協力物体である日本のロケット上段への接近・近傍運用を実証し、長期にわたり放置されたデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行う。本ミッションは、実際のデブリへの安全な接近を行い、デブリの状況を明確に調査する世界初の試みであり、デブリ除去を含む軌道上サービスにおいて不可欠な要素であるという。

本ミッションは、ADRAS-J搭載機器のチェック等を行う初期運用フェーズに移行している。これを完了した後、ランデブや近接接近、近傍運用等の技術実証に挑む。本ミッションで接近・調査の対象となるデブリは、2009年に打ち上げられたH2Aロケットの上段(全長約11m、直径約4m、重量約3トン)である。これは非協力物体であり、位置情報を発信していないため正確な位置情報を取得することができない。そのような状態で、ADRAS-Jは地上からの観測データや搭載センサを駆使して接近を行うとのこと。

プレスリリースサイト(astroscale):
https://astroscale.com/ja/astroscale-successfully-launches-worlds-first-debris-inspection-spacecraft-adras-j/

パナソニックHD、屋外での画像認識精度を上げる悪天候除去AIを開発

パナソニック ホールディングス(株)(以下、パナソニックHD)は、カリフォルニア大学 バークレー校(以下、UC Berkeley)、南京大学、北京大学の研究者らと、画像認識精度を著しく低下させる雨や雪、霧などを画像から除去することで、画像認識精度を向上させる悪天候除去AIを共同開発した。本技術は、多重悪天候画像に対する画像認識およびセグメンテーションタスクにおいて、パラメータを72%以上、推論時間を39%節約しながら、従来法より認識精度を上げられる画像復元性能を示した。

モビリティやインフラ分野など、屋外で利用される画像認識AIの応用が進んでいる。一方、屋外で取得される画像は天候の影響をうけるため雨、雪、霧などの悪天候下では、物体の見えが大きく変化し、認識精度が著しく低下することが知られている。そこで昨今、全天候で利用できる実用的なAIを実現するために雨、雪、霧などを画像から除去する“悪天候除去(Weather Removal)”と呼ばれるタスクが注目を集めている。 これまで、天候の種類に応じ異なるモデルを準備したり、全天候で利用できるようモデルを統合する手法も提案されているが、計算量の多さがネックとなっていた。

そこで本研究チームでは、異なる天候のパラメータを重みで表現することで、少ないパラメータ数で高精度に天候の影響を除去し、一つのモデルで、複数種類の天候とタスクに対応できる技術を開発した。本技術は、車載センサにおける危険検知やセキュリティカメラなど全天候で高精度な画像認識が必要とされる様々な場面での活用が期待できる。

本技術は先進性が国際的に認められ、AI・機械学習技術のトップカンファレンスであるThe 38th Annual AAAI Conference on Artificial Intelligence(AAAI 2024)に採択された。2024年2月22日から2024年2月25日にカナダ・バンクーバーで開催される本会議で発表する。

プレスリリースサイト:https://news.panasonic.com/jp/press/jn240216-1

インテックと伊那市、高校生を中心とした人流解析の実証実験を実施

 (株)インテックは、長野県伊那市(以下伊那市)と高校生を中心とした市内の人流解析の実証実験を実施することを発表した。
 インテックは、2023年5月に伊那市と「新しいまちづくりに関する連携協定」を締結し、伊那市独自のスマートシティの構築や地域ブランドの創出に向けて取り組みを進めてきた。今回の実証実験は、その取り組みの一環となる。

■背景と目的
 伊那市には現在公立高校が4校、私立高校が1校あり、市内・市外(長野県上伊那郡内)から高校生が通学している。一方で、市内を通るバス路線は縮小傾向にあり、高校生の移動に親が自家用車で送迎しているケースが少なくない。このことから、高校生をはじめ自家用車を持たない市民の移動の自由度や生活満足度が下がることで、高校生を抱える家庭の市外への流出など、人口の動態が変わることが懸念されている。伊那市とインテックは、地域の生活動態に基づいた若い世代に魅力的なまちづくりを行うことを目的に、市内の3つの高校と公共交通拠点における人流解析を行い、地域のデータを組み合わせて可視化する実証を行うこととした。

■実証実験の概要
<期間>
 2023年12月~2024年3月(センサ設置期間:2023年12月19日~2024年2月22日予定)

<実施方法>
 インテックが提供する「エリアデータ利活用サービス」を利用して実施する。計測器(Wi-Fiパケットセンサ※1)を市内11箇所に設置し、スマートフォン等の通信機が発する情報を受信することで、計測器周辺にあるWi-Fi機能をオンにした通信機の台数や移動、滞留を計測する。これらを公共バスなど地域の公開データと組み合わせて可視化し、今後のまちづくり政策に活用できるかの検証を行う。
 実証実験の詳細は伊那市ホームページからも確認できる。
 https://www.inacity.jp/kurashi/kotsu_jikokuhyo/kotsu_news/idoudata.html

※1 WiFiパケットセンサ:スマートフォンやパソコン、ゲーム機などから発信されるプローブリクエストを検知する機器

■「エリアデータ利活用サービス」を利用したデータ可視化の途中経過(2024年1月末時点)について
 以下のデータを組み合わせて可視化することで、公共交通を利用した通学のしやすさや、地域の通学実態の理解促進に有効活用できることがわかった。
・センサ設置個所における時間ごとの滞留データ
・伊那市のオープンデータや公開されている学校要覧などから、高校生の出身中学別の人数や、現在の小・中学生の人数を地区ごとに色分けした今後の通学見込み人数のデータ
・公共交通の現在の路線及びダイヤ、廃線になった路線、JR飯田線各駅の有人・無人状況をアイコン化したデータ

■今後の展開
 インテックは、今回収集したデータの解析とともに市民へのアンケートを行い、データ結果を踏まえて伊那市のまちづくり政策や公共交通政策検討につなげていく。

プレスリリースサイト:https://www.intec.co.jp/news/2024/0216_1.html

ヒト嗅覚受容体センサの開発および匂い情報DXの実現 
Development of human olfactory receptor sensor and realization of odor information DX(2)

黒田俊一(くろだ しゅんいち)
大阪大学 教授
黒田 俊一

4.ヒト嗅覚受容体センサの高度化に向けて

 今後、ヒト嗅覚受容体センサをさらに充実させるためには、感度上昇を図るために細胞内cAMP生成や細胞内Ca動員を抑制する機構(PDE, CaMKII, CaM, NCX, PMCA)32-34)を阻害したり、ORへの匂い分子提示に関与する細胞外タンパク質OBPを活用したり35)、細胞内cAMPを高める細胞内タンパク質OMPを活用したり36,37)、ORインタナライザーションに関与するβアレスチンの結合を調節するGRK2阻害剤を使用したり38)なども考慮すべきである。また、388種類のヒトOR以外に、アミン系化合物を検知するTAAR39-41)やカプサイシンやメントールなどの匂い分子を受容するTRP42,43)も搭載することが望ましい。
 一方、ヒト嗅覚は加齢とともに衰えることが知られており44)、果たして全てのORが日常生活に必要かは懐疑的である。実際、ヒト嗅上皮のmRNA解析では、全てのOR mRNAは検出されず45)、全てのORは均等に発現しておらず26種類の主要ORが全体の9割以上を占めていた46)。これらの事実は、現在のヒト嗅覚受容体センサのOR数(388種類)が過大である可能性を示している。
 これまでは、全てのヒトORを使用して、広範囲な匂い分子に対するOR応答を調べる網羅的deorphanizationが実施困難であったので、OR構造から応答する匂い分子を予想するためのORデータベース(ODRactor(in silico assisted deorphanization), OlfactionBase DB)が構築されている47-49)。最近では、匂い分子が相互作用するOR配列(オルソステリックポケット)と匂い分子構造を機械学習させたプロテオケモメトリックモデルによるdeorphanization50)や、AIを使用して匂い物質とOR構造の相互作用を90%以上の正答率で予想に成功している51)。しかし、何れの場合も得られた予想は、生物学的検証を経る必要がまだある。これらの研究成果と、ヒト嗅覚受容体センサによる解析結果は、近い将来、匂い情報DX実現において統合されてゆくだろう。

5.次世代のヒト嗅覚受容体センサ候補

 ヒト嗅覚受容体センサは生きた細胞を使用するセンサであるため、常に匂い解析は、サンプルを捕集した後、実験室で測定する必要があった。今後、ヒトOR部分をセンシング分子とした電気的センサ等がeNOSEとして実用化され、ヒト嗅覚受容体センサの可搬性低さを補うと考える52)。例えば、リポソームにOR等を提示させ、CNTを介したFETセンサ53)、複数ORをCNTで介したマルチチャネルFETセンサ54)、ORを包埋した脂質膜(ナノディスク)によるFETセンサ55)が、匂い分子に対して、ヒト嗅覚に匹敵する感度を示しており注目に値する。しかしながら、匂い分子とORの相互作用のみ検出しているので、OSN内部のセカンドメッセンジャーの経時的変化を反映した匂いマトリックスとの相関は難しいかもしれない。

6.おわりに

 ヒト嗅覚受容体センサによるデジタル化された匂い情報(匂いマトリックス)は,従来の匂い評価法を大きく変革し,より精度の高い製品開発を可能にし,新産業を創出する起爆剤になると考えられる。現在,筆者らは匂い情報DX実現のために,NEDO先導研究プログラム「ヒト嗅覚受容体応答に基づく世界初の匂い情報DXの研究開発(2023~2025年度)」の採択を受けて,ヒト嗅覚受容体センサで膨大な数の匂いをランダムに測定するのではなく、まずヒト嗅覚の官能を網羅すると例示されている匂い分子56)などを優先的に測定して、匂い再構成において、どのヒトOR応答を重要視すべきかを早急に見極め、使用すべき匂い分子の選抜を急いでいる27)
 その結果,少ない種類の匂い分子で複雑な匂いを再現することが可能になり、テレビや電話の様に、匂いをデジタル転送することが可能となる。従来の、音【聴覚】・映像【視覚】に、匂い【嗅覚】を付加することで情報濃度は飛躍的に向上する。世界中の人々との匂いの共有・仮想空間への匂いの転送・匂いによる臨場感の向上・匂いの保存など様々な効果が期待される。

図1 ヒト嗅覚受容体応答のエンドポイント発光測定法とリアルタイム蛍光測定法
図1 ヒト嗅覚受容体応答のエンドポイント発光測定法とリアルタイム蛍光測定法
図2 ヒト嗅覚受容体センサによる匂い測定手順
図2 ヒト嗅覚受容体センサによる匂い測定手順

参考文献

  1. Kuroda S, Nakaya-Kishi Y, Tatematsu K, Hinuma S. 2023 Human olfactory receptor sensor for odor reconstitution. Sensors (Basel). 23 6164.
  2. Cygnar KD, Zhao H. 2009 Phosphodiesterase 1C is dispensable for rapid response termination of olfactory sensory neurons. Nat. Neurosci. 12 454-462.
  3. Wei J, Zhao AZ, Chan GC, Baker LP, Impey S, Beavo JA, Storm DR. 1998 Phosphorylation and inhibition of olfactory adenylyl cyclase by CaM kinase II in Neurons: a mechanism for attenuation of olfactory signals. Neuron. 21 495-504.
  4. Castillo K, Delgado R, Bacigalupo J. 2007 Plasma membrane Ca(2+)-ATPase in the cilia of olfactory receptor neurons: possible role in Ca(2+) clearance. Eur. J. Neurosci. 26 2524-2531.
  5. Matarazzo V, Zsürger N, Guillemot JC, Clot-Faybesse O, Botto JM, Dal Farra C, Crowe M, Demaille J, Vincent JP, Mazella J, Ronin C. 2002 Porcine odorant-binding protein selectively binds to a human olfactory receptor. Chem. Senses. 27 691-701.
  6. Nakashima N, Nakashima K, Taura A, Takaku-Nakashima A, Ohmori H, Takano M. 2020 Olfactory marker protein directly buffers cAMP to avoid depolarization-induced silencing of olfactory receptor neurons. Nat. Commun. 2020 11 2188.
  7. Nakashima N, Nakashima K, Nakashima A, Takano M. 2020 Olfactory marker protein elevates basal cAMP concentration. Biochem. Biophys. Res. Commun. 531 203-208.
  8. Mayberry CL, Wilczek MP, Fong TM, Nichols SL, Maginnis MS. 2021 GRK2 mediates β-arrestin interactions with 5-HT2 receptors for JC polyomavirus endocytosis. J. Virol. 95 e02139-20.
  9. Wallrabenstein I, Kuklan J, Weber L, Zborala S, Werner M, Altmüller J, Becker C, Schmidt A, Hatt H, Hummel T, Gisselmann G. 2013 Human trace amine-associated receptor TAAR5 can be activated by trimethylamine. PLoS One. 8 e54950.
  10. Xu Z, Li Q. TAAR Agonists. 2020 Cell. Mol. Neurobiol. 40 257-272.
  11. Gisladottir RS, Ivarsdottir EV, Helgason A, Jonsson L, Hannesdottir NK, Rutsdottir G, Arnadottir GA, Skuladottir A, Jonsson BA, Norddahl GL, Ulfarsson MO, Helgason H, Halldorsson BV, Nawaz MS, Tragante V, Sveinbjornsson G, Thorgeirsson T, Oddsson A, Kristjansson RP, Bjornsdottir G, Thorgeirsson G, Jonsdottir I, Holm H, Gudbjartsson DF, Thorsteinsdottir U, Stefansson H, Sulem P, Stefansson K. 2020 Sequence variants in TAAR5 and other loci affect human odor perception and naming. Curr. Biol. 30 4643-4653.e3.
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  17. Marenco L, Wang R, McDougal R, Olender T, Twik M, Bruford E, Liu X, Zhang J, Lancet D, Shepherd G, Crasto C. 2016 ORDB, HORDE, ODORactor and other on-line knowledge resources of olfactory receptor-odorant interactions. Database (Oxford). 2016 baw132.
  18. Liu X, Su X, Wang F, Huang Z, Wang Q, Li Z, Zhang R, Wu L, Pan Y, Chen Y, Zhuang H, Chen G, Shi T, Zhang J. 2011 ODORactor: a web server for deciphering olfactory coding. Bioinformatics. 27 2302-2303.
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  23. Son M, Cho DG, Lim JH, Park J, Hong S, Ko HJ, Park TH. 2015 Real-time monitoring of geosmin and 2-methylisoborneol, representative odor compounds in water pollution using bioelectronic nose with human-like performance. Biosens. Bioelectron. 74 199-206.
  24. Son M, Kim D, Ko HJ, Hong S, Park TH. 2017 A portable and multiplexed bioelectronic sensor using human olfactory and taste receptors. Biosens. Bioelectron. 87 901-907.
  25. Lee M, Yang H, Kim D, Yang M, Park TH, Hong S. 2018 Human-like smelling of a rose scent using an olfactory receptor nanodisc-based bioelectronic nose. Sci. Rep. 8 13945.
  26. Castro JB, Ramanathan A, Chennubhotla CS. 2013 Categorical dimensions of human odor descriptor space revealed by non-negative matrix factorization. PLoS One. 8 e73289.


【著者紹介】
黒田 俊一(くろだ しゅんいち)
大阪大学 産業科学研究所 所長/教授

■略歴

1984年 京都大学農学部農芸化学科卒業
1986年 京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)
同年 武田薬品工業(株)生物工学研究所研究員
1992年 京都大学博士(農学)
1994年 神戸大学バイオシグナル研究センター助手
1996年 同助教授
1998年 大阪大学産業科学研究所助教授
2002年 ジュネーブ大学医学部客員教授(兼任)
~03年
2009年 名古屋大学大学院生命農学研究科教授
2015年 大阪大学産業科学研究所教授
2017年 (株)香味醗酵取締役(最高科学担当)
~23年
2024年 大阪大学産業科学研究所所長
現在に至る

製薬会社において遺伝子組換えタンパク質製剤の開発研究,大学では細胞内情報伝達機構の研究,DDSナノキャリア開発,全自動1細胞解析単離装置の開発を行った後,現在はヒト嗅覚受容体発現細胞セルアレイセンサの開発と社会実装を行う。日本農芸化学会奨励賞,同学会技術賞,バイオビジネスコンペJAPAN優秀賞,日本バイオベンチャー大賞文部科学大臣賞,ものづくり日本大賞(経済産業大臣賞)などを受賞。

触感定量化に基づく感性価値創造 Kansei Value Creation based on Tactile Quantification(2)

山﨑 陽一(やまざき よういち)
関西学院大学 工学部/感性価値創造インスティテュート
特任准教授
山﨑 陽一
長田 典子(ながた のりこ)
関西学院大学 工学部 教授
感性価値創造インスティテュート 所長
長田 典子

4.プロダクトデザインへの適用事例

4.1.ふきとり化粧水の処方設計

 この触感計測技術は素材の触感定量化のみならず化粧水の処方設計など幅広く活用されている.本章では,化粧水の処方設計への適用事例を紹介する(5).この事例では,ふきとり化粧水の感性価値である「ふきとり感触」が「肌摩擦感」「ふきとれた実感」の2要素から構成されることを明らかにし(図7(a)),触感計測技術によりそれぞれに影響する振動周波数帯を求め,試作品の化粧水によるふきとり時の振動を計測することでふきとり感触の形成に関わる触感要素の客観計測手法を確立でき(図7(c)),試作品が感性価値を高めているかを評価することが可能になった.この計測手法を用いて,ふきとり触感を高めた製品開発に取り組み,ふきとり化粧水の感性価値を最大にする処方設計を実現した(図7(d)).

図7 化粧水の処方設計
図7 化粧水の処方設計

4.2.所望のテクスチャ触感を有するハイトマップの自動生成

 ここでは触感定量化技術を用いたテクスチャ触感の制御について述べる(6)。当該研究は、自動車内装材の意匠に用いられるシボを対象とし、その表面の凹凸形状(ハイトマップ)を制御することで、所望の触感を有するシボの生成を実現する.図8は,本研究で構築したデジタル触感生成システムの概要を示したものである.まず,シボ触感について指標化・定量化を行った.その結果として,シボのテクスチャ触感として「スマートさ(滑らかさ)」「しっとり感」「硬軟感」の3要素を見出した.次に,シボのハイトマップから皮膚の接触領域を考慮することで,触感形成に寄与する情報のみをハイトマップ特徴量として抽出し,触感指標との関係を分析し,触感予測モデルを構築した.これによりハイトマップからシボ触感予測を高い精度で予測できるようになった.さらにこのモデルは,ハイトマップの情報を入力,触感を出力とする関数としてみなすことができ,これを数理計画法の枠組みに適用することで,所望の触感を提供するハイトマップの生成を可能にした.この生成方法の妥当性を検証するため,代表的な3種類のシボ(梨地,革,ヘアライン)について,「スマートさ」「しっとり感」を高めたハイトマップデータを生成した.生成されたハイトマップが所望の触感を提供するかを検証するため,データに基づき金型を作成し,実際にシボ板を作成し評価した.その結果として,生成したハイトマップは,生成元のシボに対して所望の触感が高まっており,生成手法の妥当性を確認した.

図8 デジタル触感生成システム
図8 デジタル触感生成システム

5.まとめ

 本稿では,感性指標化アーキテクチャに基づいた触感の定量化技術について,特に触感計測とプロダクトデザインでの活用事例を紹介した.さらにシボのテクスチャ触感を対象に,定量化により得られたモデルを数理計画法の枠組みで活用することで所望の触感を提供するハイトマップの生成が可能であることを示し,プロダクトデザインにおける触感定量化技術の有効性を示した.また,この取り組みは触覚情報のデジタル化に資するものである.著者らは,触感定量化技術に基づいた物性表現の枠組みとしてFDDF(Force-Displacement Distribution Function)を提案している(7).今後の展開として,触感を学習したよりヒトに近い感覚・感性構造を有するAIが実現され,これにより個人により最適なプロダクトやサービスのカスタマイズが可能になると期待される.また,この取り組を介して,一人ひとりの感性が尊重される社会,すなわち豊かで持続可能な社会の実現に貢献することができると考えている.



参考文献

  1. 浅井健史, 山﨑陽一, 谿雄祐, 飛谷謙介, 山元裕美, 長田典子, ふきとり時の触感が優れたふきとり化粧水の感性評価, 日本化粧品技術者会誌, Vol.55, No.1, pp. 36-44 (2021)
  2. 山﨑陽一, 谿雄祐, 飛谷謙介, 井村誠孝, 長田典子, 楠見昌司: 感性に響く触感創生手法の検討, 公益財団法人自動車技術会2018年春季大会学術講演会講演予稿集, 20185137 (2018)
  3. Y. Yamazaki, M. Imura, M. Nakatani, S. Osanai, N. Nagata, H. Tanaka, Feature quantification of material texture perception using a force-displacement relationship. Proc. 2021 IEEE World Haptics Conference (WHC), 1157 (2021)


【著者紹介】

山﨑 陽一(やまざき よういち)
関西学院大学 工学部/感性価値創造インスティテュート 特任准教授

■略歴
2012年4月 愛知県立大学大学院情報科学研究科 博士(情報科学)取得
2011年4月〜2016年3月 公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部 研究員
2011年4月〜2016年3月 愛知県立大学情報科学共同研究所 客員共同研究員
2016年4月〜現在に至る 関西学院大学 工学部/感性価値創造インスティテュート 特任准教授

専門は,感性工学,生体医工学,生体シミュレーション,医用画像処理等.(公)科学技術交流財団では,血流刺激に対する血管の動きを血管壁を構成する細胞の振る舞いから説明可能なマルチスケールモデルの開発とその応用に関する研究に従事.関西学院大学では,モノと感性の定量化技術及びプロダクトデザインへの応用に関する研究に従事.

長田 典子(ながた のりこ)
関西学院大学 工学部 教授 / 感性価値創造インスティテュート 所長

■略歴
1983年京都大学理学部数学系卒業,同年三菱電機(株)入社
産業システム研究所においてマシンビジョンの研究開発に従事
1996年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了
2003年より関西学院大学理工学部情報科学科助教授
2007年同教授
2009年米国パデュー大学客員研究員
2013年感性価値創造研究センター長
2015年革新的イノベーション創出プログラム
「感性とデジタル製造を直結し,生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点」サテライトリーダー
2020年感性価値創造インスティテュート所長.博士(工学).専門は感性工学,メディア工学等.
著書「感性情報処理」(共著)他

2013年文部科学大臣表彰科学技術賞(科学技術振興部門),2023年兵庫県科学賞受賞

海洋産業研究・振興協会の施策(洋上風力発電の推進)(2)

小山内 智(おさない さとる)
一般社団法人 海洋産業研究・振興協会
常務理事
小山内 智

(1) 洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言研究

 わが国周辺海域のかなり広い部分が漁業活動の場となっており、洋上風力発電事業を行おうとする場合には、その海域の先行利用者との調整が大きな課題となる。従前の大型公共工事では、関西国際空港や本四架橋に見られるように、これによって影響を受ける漁業者に漁業補償を行い、該当する海域の漁業権を返上して、漁業を止めてもらうという形が採られてきた。これはこの種の公共工事により影響を受ける海域が広いこともあった。反対に洋上風力発電事業では、発電事業の影響を受ける範囲はそれなりにあるものの、必ずしもすべての海域の漁業行為を止めなくてもいいということもあり、当協会ではその前身である海洋産業研究会時代から、洋上風力発電も受け入れつつ地元の漁業にもプラスになるような方策を講じていく漁業協調という考え方を提唱してきている。おかげで漁業協調といえば海産研というイメージも定着してきている。
 またこの分野では、グループ研究と並行して風力発電事業の業界団体である一般社団法人日本風力発電協会と一緒に「洋上風力と漁業協調に関する勉強会」を開催し、全国漁業協同組合連合会、大日本水産会と水産庁、資源エネルギー庁、国土交通省港湾局、環境省にも参加してもらって海外の事例や、これまでの実験データ等についての情報交換を行っている。
 当協会は、2013年、15年に漁業協調の在り方に関する提言の第1版、第2版をまとめている(図4、図5)。第2版から少し時間が空いてしまっているが、次はいわゆる第2ラウンド、第3ラウンドの様子を見ながら判断することになるかと考えている。

洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言
(2013.5.10)《第1版》
図4 洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言
(2013.5.10)《第1版》
ー着床式100MW仮想ウィンドファームにおける漁業協調メニュー案ー
洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言
(2015.6)《第2版》
図5 洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言
(2015.6)《第2版》
ー着床式および浮体式洋上ウィンドファームの漁業協調メニュー案ー

(2) 洋上風力発電等の主力電源化に資する海底送電網の実現に向けて

 図6は、連携系統と呼ばれる、いわばわが国の送電網の骨格にあたるものである。わが国の発電事業、送電事業が北海道から沖縄までブロック、地域ごとに分かれており、送電会社も20年から経営は分離されてはいるが、発電事業者の子会社となっていることもあり、特に東日本では電気事業者の経営エリアを超えての系統連携が弱いという弱点がある。交通でいえば地域の国道は整備されているが、高速道路があまりないという感じになっている。18年9月に北海道胆振東部を震源とする地震の影響で北海道全体が停電になったことをご記憶の方も多いと思うが、北海道、本州間の系統連系が太ければ復旧はもっとスムーズに進んだものと思われる。

長距離海底直流送電のイメージ
図6 長距離海底直流送電のイメージ

 洋上風力発電の適地とされている東北日本海沖や長崎での発電の成果を円滑に無駄なく東京、大阪などの大消費地に繋ぐ必要がある。洋上風力発電の普及がわが国より進行しているイギリス、ドイツ等はわが国より国土が平たんなため系統連系も割と安価にできているが、わが国の場合、急峻な山を越えての送電網形成にはかなりのコストを要することとなる。いっそのこと列島を覆うような形で海底送電網をすべきであると考え、当協会では数年前から資源エネルギー庁等へその旨の提案を行ってきた。当初、資源エネルギー庁も、長期的な課題としてはその有用性は認めていたものの、喫緊の課題という認識はあまりなかった。しかし20年12月の洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会において直流送電による系統インフラの整備のマスタープラン具体化が書かれたように、重要な課題としての位置づけになってきた。ちなみにこのマスタープラン作成は、電力広域的運営推進機関という電力事業者の団体の業務となっている。まず20年度には、図7にあるようにNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査事業として「洋上風力等からの高圧直流送電システムの構築・運用に関する調査」が行われることとなり、当協会は、電源開発送変電ネットワーク(株)、(同)ユーコートエナジーと組んでこの調査を受託した。北海道と本州中央部を結ぶ直流高圧の海底送電線を敷設するための机上調査を中心とする仕事である。実際の調査には受託3者の他に、住友電気工業(株)、古河電気工業(株)、三洋テクノマリン(株)、日鉄エンジニアリング(株)、(株)三菱総合研究所も加わった。(同)ユーコートエナジーは、自然エネルギー発電を展開しているユーラスエナジーグループの一員で、特に北海道において積極的な事業を行っている企業である。国内に電線メーカーは数社あるが、直流高圧ケーブルを作っているのは、住友電気工業(株)と古河電気工業(株)の大手2社のみであるため、この2社の参加も重要であった。三洋テクノマリンは海洋調査会社である。ケーブルの容量、種類、設置海域の水深等についての検討を行った。
 日本海側の北海道~本州を最初に整備すべき連系線と、次に太平洋側の北海道~本州の連系線を整備対象に位置づけた。

令和2年度NEDO調査事業「洋上風力等からの高圧直流送電システムの構築・運用に関する調査」
図7

 図8は21年度の補正予算での実地調査を資源エネルギー庁から受託したもので、20年度のNEDOの調査が机上調査であったものを、実地調査に進めたものである。とても似た名前の調査が2つ並んでいるが、メインは下の海洋調査で、実際に海底送電ケーブルの設置をするための海象、海底地質等の調査である。三洋テクノマリン(株)、深田サルベージ建設(株)、海洋エンジニアリング(株)の3社が受託しており、いずれも当協会の会員会社となっている。上の先行利用状況調査は、海洋調査をスムーズに行うために地元関係者、特に漁業関係団体にこの調査の趣旨について説明を行いつつ、漁期とバッティングしないよう調整を行うものである。先行利用状況調査は22年度で終了したが、海洋調査は23年度まで継続された。

図8
図8

 今後の課題としては、高圧直流送電の周辺に発生する磁界が水産生物に影響を与えるか、その影響を抑えるにはどのような方策が有効かという問題が考えられる。

(3) 浮体式洋上風力発電の実用化に向けて

 図9は浮体式洋上風力発電の勉強会である。個別の参加企業名は省略するが、30社の会員企業に加えて、(一社)日本造船工業会、(一社)日本舶用工業会、海洋産業タスクフォース、(一財)日本海事協会、(一財)日本造船技術センター、(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がオブザーバーとして参加している。

浮体式勉強会
図9

 造船工業会に属する企業には、SEP船の建造、鉄製浮体の建造等の仕事が見込まれている。舶用工業会に属する企業については、浮体式風車が船舶安全法上は船舶として扱われると見られる等、着床式風車に比べてより船舶に近いものになることから、そこで使われる製品、サービスのサプライヤーとしての仕事が見込まれる。
 図10の海洋産業タスクフォースは、内閣府総合海洋政策本部に設置された参与会議の別動隊である海洋資源開発技術プラットフォームの分身のような存在で、その中のWG5が洋上浮体式風車発電ロードマップ策定のためのWGとなっており、官民協議会の目標2030年1000万KW、40年3000から4500万KWに至るロードマップを描くとともに、問題点の洗い出し、その解決策の検討等に取り組んできた。昨年、最終報告を取りまとめたが、この検討には当協会もオブザーバー参加しており、相互乗り入れのような形となった。図11は20年12月の官民協議会資料の抜粋であるが、この段階でも4区分、8分野の目標が挙げられているが、解決すべき問題点が多いということになり、海洋産業タスクフォースは、この問題点についての検討を行ってきた。

海洋産業タスクフォースの組織
図10 海洋産業タスクフォースの組織
「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発
 ロードマップ」における位置づけ
図11 「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発
 ロードマップ」における位置づけ
出典:洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会

 日本海事協会(NK)は、船の検査を行う船級協会としてご存じの方が多いと思うが、風車の型式認証、洋上風力発電設備のガイドラインの作成をしているほか、浮体式風車については、船舶安全法上の船級検査を行うこととなっている。
 エネルギー・金属鉱物資源機構は、これまでも海洋資源、海底資源の開発の分野で連携をとってきた団体であるが、昨年の法律改正で名称が変更されるとともに、洋上風力発電の分野では、風況、海象等の調査、いわゆる日本版セントラル方式の実施主体として位置付けられたことから当協会のグループ研究に参加することとなった。
 造船技術センターは、今後建設等の作業で、どのような船が必要になるか、特にどのような技術開発が必要になってくるかについての情報が欲しいとのことである。
 洋上風力発電が先行している欧州では、遠浅な海岸が多く、大半が着床式で展開されているのに対して、わが国の域は深いところが多く、近い将来、浮体式を中心に開発が進められることになることから、昨年、資源エネルギー庁、国土交通省港湾局によって「洋上風力の産業競争力強化に向けた浮体式産業戦略検討会」が開催され、当協会もオブザーバーとして参加した。8月頃には検討会としての意見を取りまとめ、これを親組織である「洋上風力の産業競争力協会に向けた官民協議会」に報告する予定であったが、残念ながら政治的な事情によって、作業が遅れている。

 地震、台風、雷等わが国周辺海域の特性は、欧州のそれとは異なる部分があり、わが国の海象、気象に対応した風力発電のシステムを導入しなければならない。また、着床式以上に構造が複雑になり、多くの部品を必要とすることから、調査、設計、建設、運用、解体、撤収という各ステージで種々の仕事も出てくるものと想定される。
 当協会としては、会員企業に有益な情報を提供すべく努力をしていく所存であり、皆様のお力添えをお願いする次第である。



【著者紹介】
小山内 智(おさない さとる)
一般社団法人 海洋産業研究・振興協会 常務理事

■略歴

  • 昭和54年4月運輸省入省 船舶局監理課勤務
  • 平成3年5月在ノルウェー日本国大使館一等書記官(平成6年6月まで)
  • 平成9年6月国際油濁補償基金事務局法務参事官(平成13年5月まで)
  • 平成18年7月海上保安庁総務部参事官(警備救難担当)
  • 平成19年7月(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構業務・用地統括役
  • 平成20年7月海上保安庁総務部参事官(海洋情報担当)
  • 平成21年7月海上保安庁交通部長
  • 平成23年7月(独)航海訓練所理事
  • 平成25年7月北海道運輸局長
  • 平成26年7月国土交通省退職
  • 平成26年10月(株)コバック顧問
  • 平成28年7月海外鉄道技術協力協会理事長
  • 令和2年7月海洋産業研究会常務理事
  • 令和3年7月海洋産業研究・振興協会に改称
  • 現在静岡市海洋産業クラスター協議会委員
  • 現在横浜市海洋都市横浜うみ協議会委員

海中、海上の目・耳・鼻・口、そして肌触り -海洋産業タスクフォースの活動-(2)

佐藤 弘志(さとう ひろし)
海洋産業タスクフォース
佐藤 弘志

4.海洋資源開発

 海洋資源開発は海底の金属資源を対象とした資源開発事業であり、対象となる監視は油ガスの様な流体とは少し異なる。対象が個体となるため、海上への鉱物を輸送する際の漏れや海底掘削時に海底が乱される点の監視が必要となる(図4)。
 また、鉱物の種類によっては、海中に流出することで自然界に影響を与える可能性がある物質も含まれるため、これらの監視は重要となる。この事業では機能としては三つのセンサ搭載機器がAUV等に搭載されると考えられる。

  • 海底から資源輸送管:水深3,000~6,000mの海底から鉱物を海上まで持ち上げるパイプの状況監視
  • 鉱物回収地層:掘削は泥等を巻き上げずに行う事が必須条件で、この監視は環境保護上必須
  • 掘削地域周辺監視:掘削地区周辺で崩壊等が発生させない操業状況を監視
図4:海洋資源回収時に於ける、遠隔監視・制御イメージ図
図4:海洋資源回収時に於ける、遠隔監視・制御イメージ図

5.頭脳の機能

 これまでは現場での人の眼・鼻・耳・触覚を中心とする「無人探査機(AUV・ROV・Drone等)」が各々の事業にてどの様に活躍するのかという点を説明した。これらのセンサ取得のデータを人は神経や声(口)を使って脳に送るが、海洋事業の場合は通信設備により頭脳である中央制御室、並びにDXのシステムに送られる。それを図示化すると図5の様になる。

図5:海洋産業へのDX導入イメージ図
図5:海洋産業へのDX導入イメージ図

 AIを搭載したDXのシステムは経験した(ルーティン)事象に対して、確実な対処が自動的に行われる。経験していない異常事象はスーパーバイザーの指示を受けての対処となる。経験を重ね毎にスーパーバイザーへの依頼は減少し、重大事故に繋がる部分だけとなる。

DXのシステムでは人の代わりを行うために次のような機能が搭載されることが求められる。

  • エンジニアリング解析:異常状況の設備を特定目的(設備のコントロールパネルとの連動)
  • 操業監視-1:設備の通常状況確認監視(コントロールパネルと無人探査機の情報で対処)
  • 操業監視-2:地層や海底等に異常状況が無い事を監視(同上)
  • 保守解析:設備摩耗・能力低下を感知し定修時の対処案の検討機能(同上)
  • 事業検討:操業・保守の監視を通じて、設備の事業性を検討し提言する機能(DXシステム独自)

 設備の中央制御室で得られた操業データと現場での無人探査機から得られた現場データを組み合わせての対処が頭脳としてのDXシステムに求められる。

6.省人化による経済的事業展開

 このように海洋事業におけるデータ収集では殆ど人が関与出来ない事業モデルが求められる。人のアクセスが困難という状況に加え、人の投入は事業コスト上昇と密接に関与する点が事業者には重要な要素となる。 人が自由に滞在出来ない場所での事業であり、人が事業の前提となる様では海洋事業の展開は難しいものとなる。初めに述べた様に、海洋事業開発では人の代わりをする「現場対応の無人探査機」と「入手データを解析しての確実な操業を実現するDXシステム」の組み合わせが、これらを実現させる前提となる。

【海洋事業でのセンサの役割】 

 これまで事業の観点からセンサ、搭載する無人探査機、入手データを解析するDXのシステムに分けて説明してきたが、具体的にセンサは各事業に於いて、どの様な使用されるかという点を少し述べる。
 まず、システムが活用される各段階で整理すると、無人探査機と搭載センサは海洋事業の初期段階から有用となる。無人探査機の活用では、海洋事業の計画段階から操業に至るすべての段階での活用が可能である。 
無人探査機として海洋ロボティクスの技術が事業の各段階で活用可能になる部分を次の表2に纏めた。

表2:海洋産業における、センサの活躍可能範囲例
表2:海洋産業における、センサの活躍可能範囲例

 初期から最終段階まで無人探査機とそのセンサ、解析DXを利用することにて多くの状況確認ができ、海洋事業の進展に繋がると考えられる。
 海洋事業において無人探査機と搭載センサ、頭脳となるDXシステムの導入が容易と思われる方もおられるが、容易なものではなく、これらを使えるようにするという事が最も重要となる。その各々の導入には必要な段階があり、その概略を纏めると次のとおりになる。

無人探査機とセンサを導入する際に検討が必要なステップ(表3)

表3:AUV・Drone投入の必要なステップ
表3:AUV・Drone投入の必要なステップ

DX導入に必要なステップ(表4)

表4:DXにAI投入の必要なステップ
表4:DXにAI投入の必要なステップ

 何れも、きちんとステップを確認しながら、導入することで十分な活躍が期待できる。
 【新しい、「眼」・「鼻」・「耳」・「蝕感」そして「頭脳」】
 海洋への進出は今後、避けては通れない道筋であり、それには多大な努力と知恵を必要とする点はご理解のとおりである。それを少しでも確実な事業として立ち上げるには「無人探査機」・「搭載センサ」・「人の代わりをする頭脳」という三つは必要なツールであり、その開発は重要と考えられる。
 これらを活用することで日本における海洋開発が促進され、さらに日本の技術の海外活用が早期に実現されることを期待し、本寄稿を終了する。



【著者紹介】
佐藤 弘志(さとう ひろし)
海洋産業タスクフォース
東洋エンジニアリング株式会社 海外営業統括本部 カーボンニュートラス本部

■略歴

  • 昭和56年04月東洋エンジニアリング㈱入社
  • 平成05年06月エネルギー事業推進センター幹部部員・主査 等
  • 平成11年06月プラント事業本部施設・環境事業部エネルギーグループ兼 基本計画本部幹部部員・参事補
  • 平成12年10月プラント事業本部施設・環境事業部資源開発グループ幹部部員・参事補 -Toyo U.S.A., Inc.(副社長)
  • 平成17年04月より海外事業本部資源開発部長・資源エネルギー本部長 など歴任
  • 平成23年05月より執行役員・エネルギー事業本部長を歴任
  • 平成31年04月社長特命(ストラテジックアライアンス担当)
  • 令和03年04月プラントソリューション事業本部(シニアプリンシパル)
  • 令和04年06月海外営業統括本部カーボンニュートラス本部
  • (シニアプリンシパル、現在に至る)

配筋検査自動化システムの開発で国交省「SBIRフェーズ3事業」に採択さる

HMS(株)は国土交通省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3基金事業)」に「3Dセンサと独自開発AIによる3次元認識の複合による配筋検査自動化システム」が採択された。

■中小企業イノベーション創出推進事業について
本事業は、革新的な研究開発を行う中小企業・スタートアップによる研究開発を促進し、日本国内の行政課題の解決、イノベーション創出を促進するための制度に基づいて行う補助金事業である。

本事業では、HMS(株)の3Dセンサと独自開発AIによる3次元認識を融合した配筋検査自動化システムの開発を行う。同社がハードウェア・ソフトウェア両面を開発するこのシステムは、既存の検査プラットフォームとの連携を可能とし、検査の省力化を実現する。それと同時に、建設業界全体の研究/開発基盤である建設RXコンソーシアムに協力を得て、本システムの実用化に向けて実証・普及活動を行う。配筋検査自動化システムでは、組まれた配筋そのものを3Dスキャナで読み込み、ほぼリアルタイムで3Dモデルに変換し、前述の既存検査プラットフォーム内の設計・施工データと照合することで、配筋検査の効率化・自動化を目指す。

本事業の実施期間は2023年度から2027年度までであり、補助金の金額は最大2.9億円を予定している。
※国土交通省 報道発表資料:https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08hh001042.html

■配筋検査自動化システムについて
本事業の目標は、当社3Dセンサを活用した配筋検査自動化装置の開発・活用による建設現場における生産性向上の支援である。

同装置の開発として、①当社の既存3Dセンサ(StereoPRO)にオートフォーカス機能を持った4K RGBセンサを一体化するための制御基盤開発、②取得したデータから当社のエッジクラウディングAI技術を活用して、エッジでデータ取得結果をその場で確認可能にして、確認後数分程度でクラウドで鉄筋を3Dモデル化して迅速な検査完了を可能にするソフトウェア開発、③既存の検査プラットフォームとの連携機能の開発、を行う。

さらに、開発結果は、建設RXコンソーシアムに昨年末に新たに立ち上がった分科会において、同社も参加することで、これまでにない機能として紹介し、意見を貰うことで、製品化やその後の業界全体への普及展開が進むものと考えられる。

なお、この開発と並行して、分科会では、同社は他の協力企業と共に、鉄筋に対して、鋼種や鉄筋径の情報を表す2次元コードの貼付を行うことを提案している。この提案がゼネコン各社や鉄筋製造メーカーの同意を得られ、普及するようになれば、このシステムのいっそうの機能向上が図れると共に、鉄筋の搬送経路確認時や配筋作業時の誤認等のミス削減にも寄与し、副次的な効果が得られることも期待しているという。

プレスリリースサイト:https://www.hms-global.com/news/LFAnT1Mt

腕時計型睡眠計測「アクティグラフセンサ ACCEL ATRIA」の医療機器登録完了

東大医学部発のメディカルスリープテック・スタートアップである(株)ACCELStars(アクセルスターズ)は、腕時計型睡眠計測「アクティグラフセンサ ACCEL ATRIA」について、この度、一般医療機器(クラスⅠ)として医療機器製造販売届出が完了したと発表した。

<<医療機器としての製造販売届出の背景>>
「アクティグラフセンサ ACCEL ATRIA」は、加速度センサによって体動を検出する機能を有しており、睡眠障害の評価に用いることができる医療機器である。また、「ACCEL Stars Analytics Platform ベータ版」(通称ASAP)を組み合わせることで、加速度センサのデータをもとにアルゴリズムによって高精度な睡眠・覚醒リズムを測定することができる。
ACCELStarsは、2020年8月の創業後、R&Dを行い、非医療機器として「ACCEL POLARIS」を開発。その後、2023年6月より本件の開発に着手し、届出完了となった。病院や自宅等あらゆる場所で簡便に測定が可能で、体動の測定データにより睡眠障害の評価に活用できるという。

届出日:2024年1月31日
一般的名称:体動センサ
販売名:アクティグラフセンサ ACCEL ATRIA
製造販売届出番号:4082K10040000001

画像は実際の納入予定機器より変更する場合がある。
「ACCEL ATRIA」は商標登録中。

プレスリリースサイト(accelstars):https://www.accelstars.com/news/2024-02-14.html

dymon、天井裏点検ロボットの開発に着手 -月面探査車YAOKIの技術を活用

ダイモンは、月面探査技術を活用し、それを地上での課題解決に向けて応用した新型の「天井裏点検ロボット」の開発に着手した。2024年内の開発完了を予定している。

本開発は、1960年代からの高度経済成長期に建設された老朽化ビルの維持・保全を目的としている。超軽量・小型で転んでも走行可能な月面探査車YAOKIの強みを活かし、天井裏点検ロボットとして改良することで、複雑な天井裏や配管設備を安全かつ効率的に点検する。

また、本事業において、同社は東京都中小企業振興公社の助成事業「令和5年度TOKYO地域資源等を活用したイノベーション創出事業」に採択された。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/kigyo/rmepal000000dudd-att/r5_tokyo_chiiki_innovation.pdf

同社では「月面探査事業」を主力事業として邁進する一方、「地上ロボット事業」への技術展開を図っている。本開発は、月面探査車YAOKIの特徴である、シンプル、小型軽量、高い走破性を活かし、地上点検ロボットへの展開を図ったもの。その中でも特に市場ニーズの高い、天井裏点検ロボットの開発をスタートした。

本ロボットは、ビルの天井裏等の人が立ち入れない狭いスペースや危険な領域の点検を可能とし、ビルの定期的な点検作業を効率化する。さらに、広角カメラや立体把握センサー等を搭載することで、より高精度な点検が可能となる。これにより、ビルの寿命を延ばし、都市部の安全と環境保全に大きく貢献するとのこと。

プレスリリースサイト(dymon):https://dymon.co.jp/news/202402-roof-space/