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アラヤ、西松建設と計測用装置の自動運転化を実現 〜山岳トンネル工事における建設機械の自動化に〜

(株)アラヤは、西松建設(株)と共同で、計測用装置『Tunnel RemOS-Meas.(トンネルリモスメジャー)』*1の自動運転化を実現した。
 アラヤは建設現場における自動化技術の実装を推進している。今回、西松建設が取り組んでいる山岳トンネル工事の切羽作業の無人化において、各種建設機械の遠隔化・自動化技術構築システムの一つにあたる計測用装置に、アラヤの自動化技術を組み込んだという。

■背景
 山岳トンネルの施工では、切羽(きりは)における岩盤の崩落事故に対する安全性向上や若手入職者の減少による労働力不足に対する生産性向上が課題となっている。この対策の1つとして、特に過酷な環境下である切羽近傍で従事する現場技術者や作業員の立ち入りを不要とする切羽作業の無人化(建設機械の遠隔化・自動化)が求められている。
 このような背景から、西松建設では山岳トンネルの施工に使用する各種建設機械の遠隔化・自動化技術『Tunnel RemOS(トンネルリモス)』の構築を進めている。これまでは、切羽から離れた場所より建設機械を遠隔操作する“遠隔化“技術を中心に開発を進めてきたが、そこにアラヤが得意とするAIやSLAM*2等の技術を組み込み、建設機械の“自動化”を加速させていく。
 そしてこの度、自動化技術の開発の第一歩として、山岳トンネル工事の計測作業を遠隔操作で行うための装置『Tunnel RemOS-Meas.(トンネルリモスメジャー)』の自動運転化技術の開発や現場試行を行った。これにより、駐機場所から切羽までの装置の移動が自動化されるため、これまでに必要とされていたタブレットによる遠隔操作が不要となる。

■概要
 今回開発した自動運転化技術は、SLAMにより駐機場所と切羽の間の装置の移動を自動化する。
 計測用の装置には複数のカメラやLiDAR*3やカメラ、制御用PCを搭載している。LiDARで取得したトンネル壁面や周辺環境の点群データを基に、制御用PC内のSLAMソフトで自己位置の推定を行い、側壁と一定の距離を保ちながら駐機場所と切羽の間を自動運転する。また、周囲の建設機械や人、切羽等もLiDARで検知するため、障害物との衝突の危険性を察知し停止・回避するだけでなく、ゴールとなる切羽地点への到着・停止も可能。駐機場所においては、事前に設置したARマーカーをカメラで視認することで、良好な精度で駐機・出発を行う。なお、装置の走行や計測作業はタブレットを用いた遠隔操作による制御を基本とし、画面上で設定を切り替えて自動運転を行う。
 切羽写真の撮影等、日々行われる定常的な計測作業の際に自動運転を活用することで、装置の移動操作が不要となり、労働生産性の向上が見込まれる。また、今後は本開発のノウハウを他の各種建設機械の自動化に活用することで、切羽作業の無人化の早期実現が期待される。

■補足
*1 カメラによる切羽写真の撮影やスキャナによる出来形計測といった切羽近傍における計測作業を遠隔化するために、西松建設株式会社とジオマシンエンジニアリング株式会社が開発した装置。
2021年5月19日西松建設ニュースリリース:
山岳トンネル工事における計測作業を遠隔で行う『Tunnel RemOS-Meas.(トンネルリモスメジャー)』を開発-トンネル切羽近傍の計測作業の無人化-
*2 SLAM(Simultaneous Localization And Mapping):距離センサやカメラで取得したデータを基にして、自身の位置の推定(Localization)と地図の作成(Mapping)を同時に(Simultaneous)行う技術。
*3 LiDAR(Light Detection And Ranging):レーザー光を照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を基にして、物体との距離、方向、性質等を測定する技術です。自動運転等に用いられる。

ニュースリリースサイト(araya):https://www.araya.org/publications/news20230913/

ST、車載・産業機器の堅牢性向上や寿命延長に、最大175°C動作が可能な低ドリフト・高精度オペアンプ

STマイクロエレクトロニクスは、幅広い温度範囲(-40°C~175°C)において高い精度と安定性を発揮する車載グレードのオペアンプ「TSZ181H1」およびデュアル・オペアンプ「TSZ182H1」を発表した。これらの製品は、高い最大動作温度により、過酷な環境や長期間のミッション・プロファイルが求められるアプリケーションに最適とのこと。

両製品は、きわめて低い入力オフセット電圧(25°Cで3.5µV)および入力バイアス電流(25°Cで30pA)を備えている。これらのパラメータは、広い温度範囲に渡り、きわめて低いドリフトを示す。最大入力オフセット電圧は25°Cで70µV以内、全温度範囲で100µV以内に規定されている。また、最大入力バイアス電流は25°Cで200pA以内、全範囲で225pA以内。

TSZ181H1およびTSZ182H1は、幅広い動作温度範囲を備えているため、車載・産業アプリケーションの過酷な環境に耐えることができる。ダイ温度が低い場合は、長期間のミッション・プロファイルのICが要求されるアプリケーションにおいて、より長時間の動作が可能。両製品は、AEC-Q100規格に準拠し、HBM(人体モデル法)で4kVのESD(静電破壊)耐圧を備えている。

また、両製品ともに高精度・広帯域のセンサ・インタフェースにおいて優れた性能を提供する。高精度の信号処理にも較正なしで使用できるため、最終製品の製造工程を簡略化しながら、標準的なオペアンプより高い精度を確保できる。3MHzのゲイン帯域幅と、わずか1mA(5V駆動時)の動作電流により、優れた速度対電力比が得られる。両製品ともに幅広い電源電圧範囲(2.2V~5.5V)で動作するように設計されているため、レール・ツー・レールの入出力が可能で、使用可能なダイナミック・レンジをきわめて広く使える。

両製品は現在量産中で、SOT23-5パッケージまたはSO8パッケージで提供される。単価は、TSZ181H1が約1.58ドル、TSZ182H1が約2.66ドル。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001326.000001337.html

AI潅水施肥システムの「ゼロアグリ」大阪府池田市の先進農福連携農園に導入

(株)ルートレック・ネットワークスは、大阪府池田市細河地域に開設された先進農福連携農園(※1)にて、同社の開発するAI潅水施肥システム「ゼロアグリ」を導入し、同市が推進する農福連携(※2)の取り組み及び細河地域の活性化を支援していくという。

同社は、パイプハウス向けのスマート環境制御機器としてAI潅水施肥システム「ゼロアグリ」をこれまで全国の生産者に約370台提供し、農業における生産性向上や収益向上に貢献してきた。また、2021年より(株)クボタが運営する「クボタインキュベーションファーム(※3)」に参画し、アスパラガスやミニトマト栽培のスマート化実証を推進している。

池田市は、植木の四大産地の一つとして知られる細河地域が抱える「植木需要の減少や農家の高齢化などによる離農」への対策として、ハウスでのミニトマト栽培において、AI やIoT を活用したスマート農業に農福連携を組み合わせた新たなビジネススキームの構築に取り組むとともに、その他の地域への展開による地域活性化をめざしている。

同社は、ゼロアグリを池田市に開設される先進農福連携農園に導入することにより「AIによる潅水施肥の自動化」を行い、「クボタインキュベーションファーム」の各パートナー企業と共に本取り組みを支援していくとのこと。

※1) スマート農業と農福連携を組み合わせた農業を実現する農園
※2) 障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組み
※3) https://www.kubota.co.jp/news/2021/management-20210712.html

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000060692.html

構造物の高速振動を簡単・高精度に計測する圧縮センシングを用いた新手法

(株)構造計画研究所と広島商船高等専門学校 商船学科 加藤由幹助教の共同研究成果が,オランダ エルゼビア社の論文誌『Mechanical Systems and Signal Processing』に掲載された。
 また、日本機械学会が主催する「Dynamics and Design Conference 2022」における本研究成果の発表が、この度、2022年度機械力学・計測制御部門 部門一般表彰:オーディエンス表彰を受賞した。
 圧縮センシングと呼ばれるデータサイエンス技術とデジタル画像相関法(DIC)を組み合わせた新技術により、高価な高速度カメラを用いることなく構造物の高速振動の分析を実現するという。

■ 本リリースの要点
① モノづくりの現場における振動計測の常識を変える、簡単・高精度に計測を実現する新技術を開発
② 同成果が著名論文誌『Mechanical Systems and Signal Processing』に掲載され、
 また日本機械学会のオーディエンス表彰を受賞
③ 国内での特許も出願済みであり、今後は自動車業界での実用化を皮切りに、
 電力や航空宇宙など他業界への展開を想定
■ 背景
 自動車などの輸送機器、回転機械、配管など多くの人工物は絶えず振動にさらされており、振動がそれらの性能や製品寿命、安全性を大きく左右する。そのため、設計・製造・維持管理といった現場においては振動の計測が不可欠である。
 これらの現場では、加速度センサと呼ばれる接触式センサを用いて計測を行うことが一般的だ。しかし、センサは手作業で貼り付ける必要があり、設置や配線等にかかる手間と労力が課題となっていた。また、複雑形状を持つ対象物や、センサの質量が対象に影響するような軽量または柔軟な構造物は計測が困難だった。さらに、空間的な振動の把握が難しいことから製品の性能や安全性を低下させるリスクがあった。
 一方、デジタル画像相関法(DIC)と呼ばれる画像計測技術と高速度カメラを用いることで、センサを貼り付けることなく、高速で振動する対象物の変位やひずみを非接触かつ面的に計測することが可能となる。しかし、高速度カメラそのものが非常に高価かつ大型であるため導入のハードルが高く、また画素数が低いため高速な微細振動を計測できないといった多くの制約が残る。同社は2017年から同技術を活用した事業開発に取り組んでいるが、その中でこうした振動計測の現場における課題を認識した。

 上記の課題を解決し高速かつ高精度な振動計測を実現するため、この度、広島商船高等専門学校 加藤由幹助教との共同研究を通じて、DIC技術に圧縮センシングと呼ばれるデータサイエンス技術と特殊な撮影方式、およびその数学モデルを組み合わせた新手法であるCompressed Sensing DIC技術を開発した。

■ 実現できること
 圧縮センシングとは、少数のデータからより複雑な情報を抽出するデータサイエンス技術です。MRI などの医療機器分野で用いられているほか、電波天文学の分野におけるブラックホールの可視化などでも実用化されている。
 この技術と既存のDIC技術を組み合わせることで、低速度の撮影画像から高速度の情報を復元するCompressed Sensing DIC技術を開発し、低速度カメラを用いた高速現象の振動計測を実現することに成功した。これにより、従来の課題であった解像度と撮影速度のトレードオフを解消し、高解像度かつ高速な画像振動計測が可能になる。

 本技術は特殊な専用のハードウェアは必要なく、一般的な小型・軽量カメラに、既製品の信号制御装置とストロボ光源を追加するだけで、ソフトウェアで高速な振動計測を可能にする。これにより、従来技術と比較して大幅に機材のコストを削減しながら、手軽に高精度な計測を実現することが期待できる。将来的に、超高解像度カメラを利用した超高分解能な振動計測だけでなく、低価格カメラを利用した画像振動モニタリングシステムの実現も期待される。
 現時点では 1200 万画素の単眼またはステレオカメラを用いた 10fps(1 秒間に 10 枚撮影)の撮影条件で、10μm 以下の微細な振動(参考:髪の毛は 40μm 程度)に対して、撮影速度を大きく超えた 3000Hz超の振動が計測できることを実験とシミュレーションで実証している。

※本成果は2022年5月に国内特許を出願済み、および2023年5月にPCT出願済み。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000062.000023284.html

住友重機械、JAXAのX線分光撮像衛星「XRISM」の観測装置開発に参画

 住友重機械工業(株)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した「X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)」に搭載されている2つの観測装置「軟X線分光装置Resolve(X線マイクロカロリメータ)」と「軟X線撮像装置Xtend(X線CCDカメラ)」の開発に携わった。本衛星は、2023年9月7日、種子島宇宙センターよりH-IIAロケット47号機にて打ち上げられた。

・Resolveは、X線が素子に当った際にごくわずかに温度が上がることを利用して、エネルギーの大きさを測る観測装置である。これにより、観測対象のX線天体の温度や組成などを非常に精密に計測することができる。
 この装置にあるセンサ部分のエネルギー分解能を高めるためには、0.05K(マイナス273.1℃)の極低温に冷却する必要がある。NASAが開発した断熱消磁冷凍機とともに、同社の超流動液体ヘリウムタンク(※1)、2段スターリング冷凍機(※2)、4Kジュールトムソン冷凍機(※3)およびそれらの駆動エレクトロニクスを含む冷却システムが使用された。

・Xtendは、可視光の望遠鏡と同じように、天体から届くX線を捉えて画像を撮影することができる。検出器の感度を上げるために、160K(約マイナス110℃)に冷却される必要があるため、同社の1段スターリング冷凍機(※4)とその駆動エレクトロニクスが使用されている。

・XRISMは、X線で宇宙を観測することにより、宇宙の成り立ちと宇宙に潜む物理現象を解明することを目指しており、同社の冷却システムを含むResolveとXtendには、これまでは見えなかった新しい宇宙の発見が期待されているという。

同社はこれまで60年にわたり、極低温技術の開発を進めてきた。今回の冷却システムは、培われた技術を余すことなく投入することで、コンパクトで信頼性の高い冷却システムを実現することができたとのこと。今後も科学衛星、惑星探査機および宇宙ステーションの搭載機器を手掛けるなど、宇宙開発に多くの技術貢献を続けていくとともに、さらなる技術力の向上を目指す。

(※1)断熱容器の中に超流動液体ヘリウムを保持し、1K(約マイナス272℃)で冷却できる。
(※2)宇宙用に特化し、冷却対象を20K(約マイナス253℃)まで冷却ができる。
(※3)冷却対象を4K(約マイナス269℃)まで冷却が可能。
   2016年に打上げられたX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)にも採用された。
(※4)宇宙用に特化し、冷却対象を80K(約マイナス193℃)まで冷却ができる。

ニュースリリースサイト:https://www.shi.co.jp/info/2023/6kgpsq000000mqls.html

パイオニアとNextDrive、「EV充放電制御システム」の開発で協業

 パイオニア(株)は、エネルギー管理とクラウドサービスの開発・提供を行うNextDrive(株)と協業し、電力データと移動データを掛け合わせることによりEV関連のエネルギーマネジメントを最適化する「EV充放電制御システム」の開発を行う。

 2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、走行時にCO2を排出しないEVの導入を検討する事業者が増えている。また、EVを蓄電池として利用し、太陽光などの再生可能エネルギーを効率的に活用する「V2H(Vehicle to Home)」の導入も進んでいる。その一方で、すでにEVやV2Hを利用している事業者からは、「複数台のEVを導入したが、充電タイミングが重なると電気代が高くなり、想定よりもコストがかかってしまう」「EVの充電が間に合わず、翌日の業務に支障を来した」といったコストや運用に関する課題が上がっている。さらに、一部のEV充電制御システムでは、導入時に既存の充電機器を取り換える、もしくはメーカーやモデルを統一する必要があるといった課題も存在している。
 本協業では両社の技術を活用し、電力データと車両の移動データを掛け合わせることでEV関連のエネルギーマネジメントを最適化し、それらの課題を解決する「EV充放電制御システム」の開発を行う。パイオニアは、車両の移動データを収集し、独自のプラットフォーム「Piomatix for Green(パイオマティクス・フォー・グリーン)」を活用してEVのSoC(State of Charge:充電状態)や消費電力量を予測。
 NextDriveは、同社のエネルギーマネジメントコントローラー/IoEゲートウェイ「Atto(アット)」を活用した電力データ収集およびEV充電機器やV2H機器の操作を担当する。両社が収集したデータを最適に制御することで、翌日の走行距離まで考慮した複数車両の充電制御やEVを蓄電池として利用した再生可能エネルギーの有効活用など、無駄のないエネルギーマネジメントが可能になり、EV導入事業者の運用効率化、電力コスト削減につながる。また本システムは、既にEVや充電機器を導入されている事業者にも幅広く活用してもらえるよう、車種や充電機器メーカー・モデルを問わずに後付け可能なシステム構成を想定している。

 今後両社は、本開発への賛同企業と共に、2023年度中に「EV充放電制御システム」の開発および実証実験を行い、エネルギーマネジメントの有用性を検証していくとしている。

ニュースリリースサイト(pioneer):https://jpn.pioneer/ja/corp/news/press/index/2793

アイサンテクノロジー、ドローンと自動運転車連携による農産物輸送の実証実験

 アイサンテクノロジー(株)は、「幸田町におけるドローン・自動運転車連携による農産物・買い物支援輸送」をテーマとした実証実験に、自動運転に関わる地図作成、および、自動運転車の提供・走行の分野より参加する。

 愛知県は、あいちロボット産業クラスター推進協議会を核とし、ドローンの開発支援や、社会実装を目指した実証実験の実施など、ドローンの産業活用に向けた取組を推進している。

 本実証実験は、国土交通省が公募した「無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証事業」に名古屋鉄道(株)が代表者として申請し、採択されたことに基づき、2自治体、3社、1大学の共同体で幸田町において実施するもの。

■内容について
実証テーマ:幸田町におけるドローン・自動運転車連携による農産物・買い物支援輸送の検証
概要   :幸田町山間部においては、人口減少や高齢化の影響により、通勤・通学や買い物の利便性に課題を抱えている。また、「筆柿」がブランド品として日本一のシェアを誇っているものの、高齢化や人材不足の影響により、販売量減少が懸念されている。
 その解決策として、農業の担い手不足の軽減や販売量増加による産業活性化に繋げるために農産物輸送をドローンと自動運転車が連携し、自動化する実証実験を実施する。
 実験に際しては、ドローンはレベル3(無人地帯での目視外飛行)相当で飛行し、自動運転車はレベル2(システムが前後・左右の両方の運転操作を支援)で走行。

自動運転実施ルート:道の駅 筆柿の里・幸田→ながや農園→道の駅 筆柿の里・幸田(画像)

使用車両  :ゴルフカート

・自動運転OS Autoware*1及び事前に取得する高精度3Dマップを使用して走行
・自己位置推定、障害物認識等の機能を実装
・乗車定員は2名(別途、オペレータ等が同乗)
・ヤマハ発動機開発のゴルフカートをベースに、自動運転専用に改造した車両。LiDAR*2を天井に搭載

*1自動運転システム用オープンソースソフトウェア。The Autoware Foundationの登録商標。
*2Light Detection and Rangingの略。レーザー光を使って離れた場所にある物体の形や距離を測定するセンサ技術。

ニュースリリースサイト(aisantec):https://www.aisantec.co.jp/ir/information/2023/09/post-79.html

水晶と水晶を用いたセンサー(1)

佐藤 健二(さとう けんじ)
セイコーエプソン(株)
マイクロデバイス事業部
佐藤 健二

1 はじめに

 水晶は「産業の塩」とも言われるほど、電子機器には欠かせない物質である。温度安定性の高さから、多くの通信機器の周波数源として水晶振動子や水晶発振器などが使われている。また、その高い温度安定性は、センサーとしても利用価値が高く、QCM(Quartz Crystal Microbalance)や圧力センサー、ジャイロセンサーなどのセンサー素子にも水晶は用いられている。
 ここでは、水晶について説明した後に、水晶を用いたセンサーを紹介し、水晶を用いる利点や特徴を解説していく。

2 水晶とは

 水晶は無色透明で、圧電性を有する単結晶である。宝飾品としても用いられるが、圧電性を利用した工業用電子部品としても幅広く利用されている。以下に水晶の特徴について述べる。

2.1 水晶の結晶異方性 1), 2)

 水晶は結晶学的にいうと、二酸化珪素(SiO2)の単結晶であり、異方性をもつ三方晶系・点群32に属している。二酸化珪素の単結晶の一つを石英と呼ぶが、石英にはα-石英とβ-石英の2つがある。α-石英は圧電性をもつ三方晶系であり、β-石英は圧電性をもたない六方晶系である。このα-石英のことを一般に水晶と呼んでいる。α-石英がα-β転移温度573℃を超えると、β-石英に転移してしまう。
 図1は水晶の結晶を表しており、図中のアルファベットは結晶面を表している。水晶はz軸を回転軸として120°毎に同じ結晶構造が現れる3回回映軸と2回の対称軸をもつ結晶である。そのため、x軸が3本表記されている。
 水晶は結晶の異方性によって、ウェハのカット角(切断角ともいう)に伴い、物理特性が変化するため、電子部品として用いる場合はその振動形態(振動モード)に合わせて、適したカット角を選ぶ必要がある。これまで、多くの研究者によって、各振動形態に合わせたカット角が提案されている。図2はZ板の人工水晶にそれらのカット角を示したものである。

図1 水晶の結晶面と座標軸
図1 水晶の結晶面と座標軸

 図中のアルファベット2文字で表されているのがカット角の名称である。例えば、「AT」カットは通信向けのMHz帯の厚みすべり振動子として用いられている。このATカットは常温付近で共振周波数の温度特性がフラットになるゼロ温度係数をもった特徴あるカット角である。
 ここに図示されていないが、Z軸に垂直なXY面のウェハを「Zカット」と呼び、X軸あるいはY軸に垂直な面のウェハは「Xカット」、「Yカット」と呼ばれる。図中には「+2° X」などのように、座標軸に垂直な面からの回転角度で表されたものもある。Zカットを、X軸中心に+2° 回転させた「+2° X」は、音さ振動子など屈曲振動で共振周波数の温度特性が上に凸状の2次の温度特性をもち、常温付近に頂点温度をもたせたものである。
 この他にも、このような特徴のあるカット角が、水晶には20種類以上存在している。3)

図2 Z板人工水晶とカット角 2)
図2 Z板人工水晶とカット角 2)

2.2 圧電性

 水晶の大きな特徴であり工業的に多用される理由は、水晶がもつ圧電性にある。圧電性とは、圧電効果や逆圧電効果のことを指す。圧電効果とは、圧電性のある物質に圧縮力(あるいは伸張力)を加えることで、物質の表面にその力に応じた電荷が発生する現象のことである。それとは逆に、圧電性のある物質に電界を掛けると、物質に歪みが生じる現象のことを逆圧電効果と呼ぶ。圧電性をもった物質のことを圧電材料と呼び、水晶の他にも圧電結晶として、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ロッシェル塩などがある。また、圧電性をもった半導体材料やセラミックス、高分子材料などもある。圧電材料の詳細については専門書を参照することをお奨めする。4)
 水晶の圧電性は、1880年にP. CurieとJ. Curieの兄弟によって発見され、1922年にはW. G. Cadyによって水晶発振器が発明された。それ以降、水晶は通信機器の周波数源として欠かせないものとなっており、現在でもスマートフォンや多くの電子機器に幅広く利用されている材料である。

3 人工水晶

3.1 人工水晶の製造法

 水晶振動子については、1950年代から多くの研究が行われていた。当時は地中から採掘される図3に示すような天然水晶を使用していた。天然水晶は地中で結晶化する過程で異物が入り込むことが多く、電子部品として利用できるのは採掘されたもののうちのほんのわずかな量であった。
 現在のように、日本の水晶産業が大きく発展したのは、それまで天然水晶を利用してきたところを、結晶育成法を確立し、人工水晶の工業化に成功したところが大きい。世界で初めて人工水晶の工業化に成功したのが、東洋通信機株式会社(現セイコーエプソン株式会社)である。図4にさまざまなサイズの人工水晶を示す。
 人工水晶は、水熱合成法と呼ばれる結晶育成法によって製造されている。図5に示すようなオートクレーブと呼ばれる炉の中に、人工水晶の成長の起点となる種水晶と、溶解して再結晶化させるラスカ(水晶片)と、溶解液であるアルカリ性溶液を入れる。そして、炉内を高温・高圧の状態にし、溶解域から成長域に溶解液が自然対流により循環し、種結晶の表面に再結晶化され、結晶成長していく。図6は、製造した人工水晶をオートクレーブから引き上げた様子である。人工水晶は、天然水晶の性質とまったく差がなく、非常に高品質の水晶が安定的に供給されている。

図3 天然水晶
図3 天然水晶
図4 人工水晶
図4 人工水晶
図5 オートクレーブの構造
図5 オートクレーブの構造
図6 人工水晶の引き上げの様子
図6 人工水晶の引き上げの様子


次回に続く-



参考文献

  1. 「弾性波デバイス技術」, 日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編, オーム社, (2004)
  2. 「マイクロ・ナノデバイスのエッチング技術」, 式田光宏/佐藤一雄/田中 浩 監修, シーエムシー出版 (2009)
  3. 「人工水晶とその電気的応用」, 滝 貞男著, 日刊工業新聞社, (1974)
  4. 「圧電材料学の基礎」, 池田拓郎著, オーム社 (1984)


【著者紹介】
佐藤 健二(さとう けんじ)
セイコーエプソン株式会社 マイクロデバイス事業部 TD商品開発部

■略歴

  • 1995年山形大学 理工学研究科 電子情報工学専攻 博士前期課程修了
  • 1995年東洋通信機株式会社 入社
    水晶振動子(MHz帯)の設計業務に従事
  • 2000年東京都立大学 工学研究科 出向
    有限要素法による水晶振動子の設計応用の研究およびメサ型水晶振動子の工業化の研究
  • 2004年山形大学 理工学研究科 生体センシング機能工学 博士後期課程修了
    水晶を用いたジャイロセンサーの研究開発に従事
  • 2005年セイコーエプソン株式会社 マイクロデバイス事業部
    車載向けのジャイロセンサーの開発・設計業務に従事
    車載/センサーのマーケティング、戦略業務に従事
    加速度センサーの開発業務に従事

水晶ジャイロセンサーについて(1)

押尾 政宏(おしお まさひろ)
セイコーエプソン(株)
マイクロデバイス事業部
押尾 政宏

1. ジャイロセンサーとは

 ジャイロは「角速度」を検出するセンサーであり、角速度センサー、レートセンサー、ジャイロスコープとも呼ばれる。ジャイロとは、ギリシャ語で「回転」を意味するジャイロ(γυροσ)を語源とする。ジャイロが検出する「回転」とは、慣性空間に対する回転、すなわち方位変化で、通常ジャイロは移動物体そのものに取り付けて使用する。回転センサーというと、ロータリーエンコーダーの様に回転している部位を、基準となる固定部位より検知して回転数や回転角度をみるセンサーも含まれるが、このような回転センサーはジャイロとはメカニズムも用途も異なる。ジャイロは一般の人々には馴染みのない「角速度」を検出するセンサーであるため前述の回転センサーや「加速度」センサーと混同されやすい。この理由として、「角速度」が人間の感じる「角加速度」と異なる物理量であり、一般の人々にはイメージしにくいことが挙げられる。
 現在、産業・コンシューマ市場にて用いられる各種ジャイロセンサーの精度と価格の関係を図1-1に示す。価格の高い方から、リングレーザージャイロ(RLG)、光ファイバージャイロ(FOG)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動ジャイロなどが実用化されている。
 近年ではスマートフォンや車載ナビゲーションへの応用をきっかけに、MEMS振動ジャイロの小型・低コスト化や加速度センサー等の他のセンサーと組み合わせた多機能化が進んでいる。

図1-1 各種ジャイロセンサーの精度と価格の関係
図1-1 各種ジャイロセンサーの精度と価格の関係

 本稿で紹介するダブルT型水晶ジャイロは振動ジャイロに分類され、低コスト化や小型化に適している。図1-2はバネと質点で表した振動ジャイロの力学モデルである。図に示すような質量mを持つ質点をx方向に振動させている系を考える。この系に角速度Ω0の回転が加わったときに、速度vxで運動する質点には、式(1.1)に示すコリオリの力 Fc がy方向に作用する。

Fc = 2m (vx × Ω0 )  (1. 1)

このような回転時に発生するコリオリの力Fcは、振動方向と回転軸のそれぞれに直交する方向に発生し、その大きさは振動速度vxと回転角速度Ω0に比例する。したがって、何らかの方法によって、質点mの動きを観測すること、例えば、y方向に取り付けられたバネによってy方向の振動を観測することができれば、角速度Ω0を知ることができる。つまり、振動ジャイロでは、まず、ある方向に一定の振動=駆動振動を励振させて振動速度を発生させることと、次に、その駆動振動と直角方向の振動=検出振動を計測することの2つが必要である。このようなメカニズムは人間の方向の感覚とは根本的に異なるものである。人間は主に三半規管によって方向の変化を認識している。三半規管は管内の本来止まっているリンパ液の慣性を利用して「角加速度」を検出しているが、振動ジャイロの場合には、振動しているものに働くコリオリの力によって「角速度」を検出している。センサーを使用するにあたっては、この様な性質を踏まえることが重要である。

図1-2 振動ジャイロの力学モデル
図1-2 振動ジャイロの力学モデル

2. ジャイロセンサーのアプリケーション例

 図2-1に示す様に、ジャイロセンサーの性能やサイズによってアプリケーションは多種多様である。従来は、宇宙船や航空機、船舶などの移動体や産業機器における姿勢・方向検出といった用途が主なアプリケーションであった。しかし、小型で安価なMEMS振動ジャイロの台頭に伴い、カーナビゲーションや家庭用ゲーム機のモーションセンシングなどへの普及が近年急速に進んだ。以下に代表例として、「カメラの手ブレ補正」と「ロボット掃除機の走行制御」におけるジャイロセンサーの役割と特性による違いについて説明する。

図2-1 ジャイロセンサーの代表的なアプリケーション
図2-1 ジャイロセンサーの代表的なアプリケーション

2.1 カメラの手ブレ補正

 撮影時にカメラの揺れによって写真や動画がぼやけてしまうこと(手ブレ)を防ぐため、ジャイロセンサーを用いた手ブレ補正がおこなわれる。カメラの座標軸を図2-2の様に定義したとき、Z軸周りの回転(Yaw)とY軸周りの回転(Pitch)が手ブレに大きく影響する。そこで、ジャイロセンサーによりこれらの回転角度をリアルタイムに検出し、その情報をもとにカメラ内部のアクチュエーターを制御することで手ブレを抑制できる。厳密にはジャイロセンサーは回転の角速度を検出しているため、角速度を時間で積分して回転角度を算出するが、その角度精度はジャイロセンサーの特性に依存する。
 例として、積分時間5秒におけるYawとPitch誤差のシミュレーション結果を図2-2に示した。積分時間はカメラの露光時間に相当し、暗い場所での撮影時に露光時間は長くなる。比較しているセンサー特性は、角度ランダムウォーク(ARW: Angle Random Walk)と呼ばれるジャイロセンサーのホワイトノイズを表わす特性で、3章でも後述する様にジャイロセンサーにおける重要特性の一つである。シミュレーション結果より、ARWが小さく低ノイズであるほど、角度誤差も小さくなることが分かる。

図2-2 カメラの座標軸とYaw/Pitch誤差シミュレーション結果
図2-2 カメラの座標軸とYaw/Pitch誤差シミュレーション結果

2.2 ロボット掃除機の走行制御

 部屋をくまなく掃除するため、ロボット掃除機では事前に走行ルートが設定される場合が多い。目標とするルートに沿った走行を実現するには、ロボット掃除機がどの方向に進んでいるかを正確に把握して制御する必要があり、進行方向を検出する用途としてジャイロセンサーが用いられる。カメラの手ブレ補正と同様に、ジャイロセンサーで検出したロボット掃除機の角速度を積分することで、進行方向を表わす角度が得られる。
 図2-3に、積分時間1800秒(30分)における角度誤差のシミュレーション結果を示す。積分時間はロボット掃除機の走行時間に相当し、部屋の広さに応じて走行時間は長くなる。本計算では積分時間が長いため、ARWに加えて、3章で後述するバイアス安定性(BI: Bias Instability)も考慮してシミュレーションを実施した。更に、BIによるセンサー出力のずれ(オフセット)をロボット掃除機の停止時にゼロへ補正する前提とした。2.1節と同様に、ARWが小さく低ノイズであると角度誤差も小さいことが分かる。

図2-3 角度誤差シミュレーション結果
図2-3 角度誤差シミュレーション結果


次回に続く-




【著者紹介】
押尾 政宏(おしお まさひろ)
セイコーエプソン株式会社 マイクロデバイス事業部 TD商品開発部 課長

■略歴

  • 2000年電気通信大学 機械制御工学科 修士課程修了
  • 2000年セイコーエプソン株式会社 入社
    弾性表面波デバイスの研究開発に従事
  • 2009年水晶ジャイロセンサーの開発設計に従事
  • 2020年TD商品開発部 課長

水晶加速度センサーについて(1)

中仙道 和之(なかせんどう かずゆき)
セイコーエプソン株式会社
マイクロデバイス事業部
中仙道 和之

1. 加速度センサーとは

 加速度センサーとは、基本的な物理量単位である加速度を計測するためのセンサーです。加速度センサーには多くの種類があり様々な用途で使われています。用途に応じて振動や衝撃を計測するのに適した方式や、傾斜やゆっくりした動きを計測するのに適した方式などがあります。表1に加速度センサーの検出方式による分類を示します。加速度センサーには、加速度によって発生する力を直接的に検出するオープンループ型と、何らかの方法でフィードバックをかけて間接的に検出するクローズドループ型があります。一般にクローズドループ型は、高感度であり微小にゆっくり変化する加速度を計測するのに適した方式です。構造が複雑で熟練者による調整などが必要なため生産性は高くなく、高価格の商品が多い傾向があります。オープンループ型は、低感度で大きく早く変化する加速度を検出するのに適した方式です。構造がシンプルで小型なため大量に生産可能で低価格の商品が多い傾向があります。更に検出原理が異なる様々な方式がオープンループ型にはあります。圧電型とピエゾ抵抗型は、印可された加速度をピエゾ抵抗や圧電材料が発生する電荷の変化として直接捉える方式です。衝突による非常に大きな衝撃や非常に高い周波数の振動を計測するのに適しています。加速度の計測範囲は、数100G~数1,000G、周波数範囲は、数10Hz~数10kHzとなります。静電容量型は、バネ構造を有する稼働可能な電極と固定された電極で構成され、印可された加速度を電極間の静電容量の変化として捉える方式です。近年、MEMS(Micro Electro Mechanical system)と呼ばれる超小型の機械構造を高度に集積した小型、高性能な方式が実用化され、大量生産可能で価格も安価であるため自動車や民生機器に広く普及しています。周波数変化型は、印可された加速度を周波数の変化として捉える方式です。他の方式にはない優れた特徴を有しています。しかし、これまで周波数検出などに技術的な課題があり、軍事用途などの特殊な領域での活用に留まっていました。

表1.加速度センサーの方式分類
表1.加速度センサーの方式分類

 次に、小型で高性能な加速度センサーを大量かつ安価に生産可能なMEMS方式について主な構造原理と特徴を表2に示します。現在、広く普及しているのは、表面MEMS型とバルクMEMS型となります。どちらの方式も、材料は半導体デバイスに使われているシリコンで検出方式は静電容量型です。静電容量型は、原理的に固定電極と稼働電極のギャップを広くすることが出来ません。ギャップ距離は一般的に数μmと狭く、検出できる加速度の計測範囲と分解能の関係はトレードオフとなります。一方、水晶MEMS型は、静電容量型のようなトレードオフはなく、非常に広い計測レンジと高い分解能を両立する事ができます。セイコーエプソンでは、クオーツ時計で培った水晶振動子の設計及び製造技術を応用して、これまで実現が困難だった水晶MEMS型センサーの開発に成功しました。本方式は、小型で大量生産可能でありながら、シリコンMEMS型に比べて、広い検出レンジと高い分解能の両立も可能な優れた方式です。

表2.MEMS方式の分類と特徴
表2.MEMS方式の分類と特徴

2. 水晶加速度センサーの動作原理と特徴

 水晶加速度センサーの素子構造と動作原理を図1に示します。基本構造は、双音さ水晶振動子と呼ばれる一定の周波数で振動する構造体の片側を固定端として、反対側におもりを付けた構造になっています。2本の平行に配置された構造は、点線で示す変位方向に機械的な共振を起こします。実際の構造は電子顕微写真に示すように振動するビームの4面に電極が付いており電圧を加えると、水晶の圧電効果で変形が生じ安定した高い精度の周波数で発振します。この構造体に図中に示す方向に力が加わると振動子に圧縮や引っ張りの力が加わります。振動子が圧縮されると双音さ振動子の周波数は低くなります。反対に引っ張りの力が加わると振動子の周波数は高くなります。ちょうどギターの弦を緩めると音が低くなり、強く張ると音が高くなるのと同じ原理です。センサー素子構造は、双音さ振動子に力を効率的に伝達するためにカンチレバーと錘を貼り合わせて一体とした構造になっています。双音さ振動子とカンチレバーの材料は水晶です。更に、振動の共振Q値を高くして周波数の安定度を高めるために、セラミックパッケージで真空封止した構造になっています。

図1.センサー素子構造と動作原理
図1.センサー素子構造と動作原理

 次に、3軸デジタル加速度センサーの機能ブロックを図2に示します。前述の印可される加速度の大きさに応じて出力される周波数が変化するセンサー素子は、1軸方向だけに加速度感度があります。従って3軸機能を実現するために、X軸、Y軸、Z軸に対応する3個のセンサー素子を搭載しています。センサー素子から出力される周波数は120kHz程度で軸間の干渉を回避するため各軸の周波数は数100Hz異なっています。後段には、各軸センサーから出力される周波数をカウントする周波数デジタル計測ブロックと単位変換や各種の補正処理を行う演算処理ブロックで構成されます。特徴は、アナログ要素が極限まで少ない技術アーキテクチャとなっており、電磁ノイズなどが大きな環境でも安定した計測を可能とします[1]。その他にも、以下に示す特徴があります。

■低ノイズで高安定、広い検出レンジ
 ○ 双音さ水晶振動子を開発することで、低ノイズで高安定な性能を実現
 ○ 周波数変化型の加速度センサーを開発することで、広い検出レンジと高分解能を実現

■3軸デジタルで高感度なのに使いやすい
 ○ 独自のアナログ回路を極限まで排除した周波数デジタル計測IPを開発
 ○ 利便性の高いフィルタ補償・演算処理機能を開発

図2.加速度センサーの機能ブロック
図2.加速度センサーの機能ブロック

 優れた特徴を持つ水晶加速度センサーですが、従来の周波数をカウントする技術には課題がありました。それは、高い分解能を得るには基準クロックを高速化する必要があり、消費電力が大きくなるという課題でした。これを解決するために、我々は並列周波数ΔΣ変調器(FDSMs:Frequency Delta Sigma Modulators)を考案しました[1]。図3に並列化したFDSMsのブロック図と信号イメージを示します。並列化されたFDSMsにより被測定信号を微小に遅延させることで、量子化誤差の低減と高速化を両立しています。本技術により、基準クロックが数10MHz程度でも、十分に高い分解能を得る事が出来るようなりました。

図3.並列周波数ΔΣ変調器
図3.並列周波数ΔΣ変調器

 実際に並列化の効果を実験で確かめた例を図4に示します。実験では、基準クロック25MHzで、被測定信号124kHz±5mHzに7.5Hzの変調をかけた信号を入力し、並列数を変えてノイズの低減効果を確認しました。後段のローパスフィルタとダウンサンプリングの条件は一定としました。その結果、並列数の増加に伴ってノイズが少なくなって周波数計測分解能が向上してることがわかります。本技術により、低速の基準クロックでも量子化誤差が少なく高速に周波数を計測できるため、水晶加速度センサーの低消費電力化が可能となりました。

図4.並列化によるノイズ低減実験
図4.並列化によるノイズ低減実験

 前述の独自に開発した技術により製品化した水晶加速度センサーのラインナップを表3に示します。すべてデジタル3軸で静止状態の重力加速度から、最大1,000Hzまでの振動を計測可能です。用途に応じて小型の組込みタイプとIP67防塵防水タイプを選択することができます。

表3.水晶加速度センサー ラインナップ
表3.水晶加速度センサー ラインナップ


次回に続く-



参考資料

  1. M.Todorokihara,“A resonant frequency shift quartz accelerometer with 1st order frequency ΔΣ modulators for a high performance MEMS IMU,” DGON Inertial Sensors and Systems,2018 September.


【著者紹介】
中仙道 和之(なかせんどう かずゆき)
セイコーエプソン株式会社 マイクロデバイス事業部 TD商品開発部 課長

■略歴

  • 1995年長岡技術科学大学 電子工学科 修士課程修了
  • 1995年東洋通信機株式会社 入社
    光通信用光学デバイスの開発設計に従事
  • 2007年セイコーエプソン株式会社 入社
    水晶センサーの開発設計及び、新領域の事業開発に従事
  • 2018年MSM推進プロジェクト 企画設計 課長
  • 2022年TD商品開発部 課長