SUCS センシングトレインの標準化(1)

1.はじめに

 (一社)次世代センサ協議会では2021年10月にSUCS®※1(ザックス)コンソーシアムを立ち上げ、以下のビジョン&ミッションを掲げ新しいIoTセンシングフレームワークの社会実装に向けての鋭意活動を行っている。

Vision & Mission

すべての人が安全・安心で利便性の高い生活を送れ、
幸福感に満ちた世界をつくるため
多様なセンサデータを簡便に且つ高いコストパフォーマンスで
使うことができるセンシング系を提供する。

古川 洋之(ふるかわ ひろゆき)
アズビル株式会社
技術開発本部基幹技術部
古川 洋之
図1 SUCSフレームワーク
図1 SUCSフレームワーク

 現在SUCSコンソーシアムでは、本SUCS特集の最初の報告でも紹介があった図1に示すSUCSフレームワークにより、センサ、AD変換、通信、電源の4つのユニットの組み合わせによるSUCSセンシングトレイン(以下センシングトレイン)とサイバー空間の様々なメタデータの活用により、進化し持続可能なIoTセンシングシステムが無数に生まれる世界を実現するために活動を行っている。
 本稿で、SUCSの標準化の第一弾であるSUCS1.0ガイドラインのフィジカル空間側のセンシングトレインの標準化技術について解説を行う。なお、SUCS1.0のガイドラインは2023年6月末にリリースしており、詳細はSUCSコンソーシアムのホームページにて公開予定となっているので、詳細情報は本稿末尾のURLにアクセスし閲覧いただきたい。

2.SUCS誕生の背景

詳細の技術説明に入る前にSUCSの考えが生まれた背景を紹介させていただく。近年、サイバー空間側の演算の高性能化と通信の高速化およびストレージの大容量化によりハードウェアのソフトウェア化が急速に進んでいる。ハードウェアの役割は無くなるのではないかと危惧する声も少なくないが、実際にはサイバー空間で取り扱えるデータはデジタルデータのみであり、フィジカル空間上の物理量をアナログ信号に、アナログ信号をデジタル信号にするまでの役割は必然的にハードウェアが担うことになる(図2)。それを踏まえIoTセンシングシステムにおけるフィジカル空間のハードウェアのソフトウェア化を突き詰めていった結果は、図1に示すように最終形態としてはセンサ、AD変換、通信、電源の4つの機能のハードウェアが残る。

図2 IoTセンシングシステム
図2 IoTセンシングシステム

ここで図3に示す様にセンサ、AD変換、通信、電源の4つの機能を独立させた機器(以下ユニット)とし、接続の標準化を行うことにより各社のユニットの接続が可能となる。各ユニットのラインナップが充実した暁には、様々なユニットの中から最適なユニットを選択することで必要とするセンシングトレインが実現できる。これがSUCSの考え方の第一歩である。

図3 ユニットラインナップ
図3 ユニットラインナップ

 次に、SUCSではセンシングトレインでの機能を必要最小限としているため、AD変換直後のデジタルデータをセンシングトレインからサイバー空間のクラウドに送信している。その結果、最も情報量が多いセンシングデータをクラウドで扱うことが可能となる。クラウドではAD変換データに対して単位変換や補正式を使って物理量に変換し、スマートフォンなどを使って可視化情報を確認することができる。この単位変換や補正式はセンサユニットのメタデータとしてメーカがクラウドに事前に登録している情報を使用している。このメタデータの活用がもう一つのSUCSの重要な技術である。
 即ち、センシングトレインとメタデータを活用したクラウドサービスが中心技術となり、新しいセンシングフレームワークとしてSUCSの誕生に至った。
 なお、本稿ではセンシングトレインの接続標準化に関する説明を行うものとし、メタデータおよびクラウドサービスに関する標準化の説明は本特集の次の論文にて紹介されるが、メタデータに関しては上記以外に各ユニットの様々な情報や観測データへの拡張と標準化を行っているのでご確認いただきたい。

3.センシングトレインの接続標準化

 センシングトレインを簡便に構築するために図1と表1に示す4つのユニット間のアナログ信号、デジタル信号、電源の3カ所の接続に対する電気的・機械的な接続およびデジタル信号のI2C通信の標準化を行っている。
 機械的接続の標準化としてSUCSコネクタとしてUSBコネクタの様に接続が簡単で強度を有するコネクタを採用している。ユニット同士のコネクタ接続によりユニットの交換も簡単となり、トライ&エラーを繰り返すことで様々なユニットを試すことができアジャイル開発に有効となる。
 なお、多チャンネル計測用のAD変換ユニットの利用も可能であり、SUCS1.0では最大8個のセンサユニットの接続に対応している。

表1 接続信号
表1 接続信号


次回に続く-



商標

※1 SUCSは、SENSPIRE TM※2 Universal Connecting System(センスパイア自在連結システム)の頭文字を採ったものである。(一社)次世代センサ協議会の登録商標である。

※2 SENSPIREは、センサの発展進化系を表すSensor×Inspireの造語であり、(一社)次世代センサ協議会の登録商標である。



【著者紹介】
古川 洋之(ふるかわ ひろゆき)
アズビル株式会社 技術開発本部基幹技術部
次世代センサ協議会社会 インフラ・モニタリングシステム研究会委員
次世代センサ協議会 SUCSコンソーシアム幹事

■略歴

  • 1989年04月山武ハネウェル株式会社 入社(現アズビル株式会社)
    温度調節器、地震センサなどの製品開発および遠隔遮断システムのプロジェクトリーダを経て、現在SUCSに関する研究に従事している
  • 2017年07月~次世代センサ協議会社会インフラ・モニタリングシステム研究会委員
  • 2021年10月~SUCSコンソーシアム幹事