SUCSが要求される背景と狙い(1)

小林 彬(こばやし あきら)
東京工業大学名誉教授
一般社団法人次世代センサ協議会会長
小林 彬

はじめに

 SUCSの語は聞きなれていない方が多いと思うが、次世代センサ協議会(以下JASST)が提唱する新しいセンシングフレームワークのことで、
 SUCSとは:
 SENSPIRE Universal Connecting System(センスパイア自在連結システム)の頭文字を採ったものである。
 昨年10月にSUCSコンソーシアム(以下SUCS CS)がJASST内に立ち上げられ、鋭意検討が進められている。
 SUCSでは、センシングシステムを構築する第一段階として、センサ、AD変換器、自立電源、通信部、の4つのユニットの連結で実現する場合を想定し、各ユニットには様々な機能・性能のものがラインアップされることを前提とする。この点、センシングシステムは、各ユニットからそれぞれ目的に合ったモノを選択し、その組合せの連結で実現されることになる。
 一方、市場には様々なセンサ、AD変換器、自立電源、通信部が提供されているが、それらの仕様や構成等はそれぞればらばらで統一が取れておらず、その結果、そのまま相互に連結してシステムを構成することは難しい。
状況を改善し、目的のセンシングシステムを誰でも簡単に構築することが可能となるようにするには、ばらばらな仕様や構成等を揃え、ユニット間接続仕様の標準化を適切に進め、連結するだけでシステムが構築できるようにすることが肝要である。(図1参照)

図1 SUCSとユニット間接続仕様の標準化
図1 SUCSとユニット間接続仕様の標準化

 以上の観点から、SUCS CSはユニット間接続仕様の標準化と標準化規定の基礎となるガイドラインの作成を初期目標とし、現在多面的に活動している。

1.SUCSが要求される背景

 SUCSが要求される背景には、センサ技術、センシング技術への大きな期待がある。すなわち、IoT、Society5.0、DX化等が叫ばれ、出発点となる必須情報を拾い出すための基盤技術として、センサ技術、センシング技術の重要性があり、その最大限の活用により世の中が変革出来るとの期待が一つの大きな背景である。
 この場合、拾い出すべき情報は何処にどんな形で存在しているのかを改めて冷静に見直すことが大切である。これまでセンサ技術の活用は主として製造技術の自動化・オートメーション化の中で進められてきたが、今後は、製造業分野の枠を遥かに超え、農林水産業、社会インフラの維持管理、アミューズメント業界等、非製造業分野・行政的分野にまで及ぶと考えられ、ここには、膨大で潜在的なセンシングニーズが広く・深く存在している。
 様々に考えられる隠れた潜在的ニーズの一例として、密・換気のモニタリング用に、例えばCO2センサ等を活用する適用先の可能性について考察したものが図2である。(図2参照)

図2 膨大な個数のセンサニーズが見込まれる適用先イメージの例
図2 膨大な個数のセンサニーズが見込まれる適用先イメージの例

 種々の交通機関や一般家庭を始めとして、講義室・教室、映画館やコンサートホール、居酒屋等飲食店など、全国、津々浦々、幅広い適用・導入先が想定され、必要とされるセンサ類の個数を積算すれば膨大な数になることは明らかである。密・換気のモニタリング用センサの他にも、多様なセンシングニーズがあることは容易に想像でき、膨大なセンシング市場を開拓することを目指すべきである。
 それらを丹念に掘り出し、具体的に顕在化させその活用を円滑に進めてゆくことが重要であるが、その為の開発体制の整備が何より必要である。
この意味ではIoTということ以上にSoT:Sensor of Things つまり様々なシステムにセンサを利用し有用なデータを拾い上げ活用する考えが求められる。このためのセンシングフレームワークがSUCSであり、SUCSが要求される重要な背景である。

2.センシングシステムが世の中を変革する

 前項で触れたようにセンシング技術は、今後新しい分野に急速に進出しようとしている。
 ただし、センシング技術のみが孤立して進出する分けではない。様々な分野で世の中を活性化させるために新システムの開発が構想されることに連携するもので、新システムが生み出す価値の創造により、世の中を進化させることが目指される。
 この場合、新システム開発ということは、これまでにない機能の創出、向上した性能の実現を意味するが、センシング技術は、実際に新機能・性能が提供されていることを客観的に確認する(計測する)役割を果たすことになる。
 従って、新システム開発による世の中の変革に伴い、これまでに無い新しい測定項目や評価項目が続々と現れて来るので、それらへの円滑な対応としてのセンシングシステム開発体制の整備が要求されるのである。SUCSの目指す狙いの一つが此処にある。
 なお、分野により、どのように測定項目や評価項目が変わるのかを製造業分野(例えばプロセス産業)と非製造業分野(例えば道路橋梁の維持管理分野)を対比させて示したものが図3である。

図3 分野が違えば測定項目・評価も変わる
図3 分野が違えば測定項目・評価も変わる

 以上、新しい機能・性能を持つシステムを実現するためには、実現したことを確認するための新しいセンシングシステムの開発が不可欠であって、新センシングシステムの開発なくして新システムの開発は有り得ない。
 この意味で、新センシングシステムの開発は世の中を変革することに連動すると言える。
 「センサを制する者はシステムを制する!」の言葉もあり、重要な考え方ではある。

3.オンラインビッグデータの時代

 「ビッグデータ」の時代の到来に指摘されるように、利用すれば有効な情報が至る所に眠っているとされる。しかし、言われている割には、それらの大部分が未だ顕在化されていない。その理由は、データを拾い・集め・活用するにつき、連携した全体的仕組みが充分整備されていないからである。
 言うまでもなく、データを拾い挙げる役割はセンサにあり、特にオンラインでの扱いを考慮すればセンサは必須で、先に指摘したSoTの認識を徹底しなければならない。一方、データを集めることに関してはIoTが普及されつつあり今後も更なる進展を期待したい。
 他方、集められたデータを総括的に分析・処理し、様々な意思決定プロセスに効果的に活用することが究極の目的の筈であるが、この点充分な議論が進められているかは疑問である。
 AIに期待することに異論はないが、AIのシーズからの議論が多く、ニーズに即した分析手法の開発が必要なのではなかろうか。
 利用する元の情報が同じであっても、立場の違いにより微妙に活用する仕方は異なり、それに即してマスカスタマイズされたインデックス化に留意することが重要である。(図4参照)

図4 データを拾い・集め・総括する
図4 データを拾い・集め・総括する

 図4に見られるように、SoT、IoT、AIの連携において、SoTは活用すべき情報の出発点となるデータを拾い出す役を果たすが、そもそもその種のデータがなければ情報の活用は始まらず、本来情報システム成立の鍵は此処にある。
 SUCSは情報の民主化を目指し、多くの関係者が、求める情報を拾い出すセンサ系を容易に実現することができるよう、できるだけ簡便なセンシングフレームワークを提供することを狙いとし、オープンイノベーションを目指している。

次回に続く-

【著者紹介】
小林 彬(こばやし あきら)
東京工業大学 大学院理工学研究科 機械制御システム専攻 教授
東京工業大学 名誉教授
次世代センサ協議会 会長

■略歴
昭和44年03月 東工大理工学研究科博士課程修了(制御工学専攻)、工学博士
昭和44年04月 東工大工学部 助手 (1969.04)
昭和50年08月 東工大工学部 助教授 (1975.08)
昭和62年12月 東工大工学部 制御工学科 教授 (1987.12)
平成5年4月  東工大工学部 制御システム工学科 教授 (1993.4.)
平成6年4月  東工大総合情報処理センター教育・研究専門委員会委員
平成12年4月 東京工業大学 大学院理工学研究科 機械制御システム専攻
平成13年4月~平成15年3月
東京工業大学 保険管理センター所長
平成17年03月 東京工業大学 大学院理工学研究科 定年退職 東京工業大学名誉教授
平成17年04月 大学評価学位授与機構客員教授
平成17年04月 帝京平成大学現代ライフ学部教授
平成22年04月 帝京平成大学現代健康メディカル学部教授
平成24年03月 帝京平成大学定年退職

■賞罰
昭和48年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
昭和55年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
昭和61年07月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
平成5年5月 日本ファジィ学会;著述賞。「あいまいとファジィ」
電気学会編、オーム社発行(1991)
平成4年10月 (社)日本産業用ロボット工業会;工業会活動功労者賞
平成8年07月 計測自動制御学会フェロー受称
平成17年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
平成15年10月 東京都科学技術振興功労者賞
平成23年10月 経済産業省産業技術環境局長