SUCSセンシング系の付加価値を高めるメタデータの活用(1)

小田 利彦(おだ としひこ)
SUCSコンソーシアム幹事
オムロン株式会社
小田 利彦

1 はじめに

 SUCS®※1(ザックス)コンソーシアムでは、すべての人が簡便に且つ安価に実世界の現象やモノをセンシングし、収集したセンシングデータを様々に活用できるセンシング系(SUCSフレームワーク)の標準化活動を推進している。SUCSフレームワークでは、フィジカル空間においてセンサ、AD変換、通信、電源の4種のユニットを組み合わせてできるセンシングトレインと、サイバー空間においてセンシングデータやメタデータを管理するクラウドサービスとが連携している。

図1 SUCSフレームワークの全体像
図1 SUCSフレームワークの全体像

 ユーザはSUCSユニット(以降ユニットと略する)を接続してセンシングトレイン(図1参照)を作製すると、直ちに電源が供給されセンサによる計測が始まり、計測データが通信によってクラウド側に送信される。従来のセンサ計測で必要だった特別なプログラムを用意することなく、こうした簡単な手順でセンシングデータの収集が行える。このようにITに不慣れなユーザでも身近な現象や事物の観測を楽しめるようになることが期待される。

 このSUCSフレームワークでは、センシングトレインとクラウドの連携が自動的に行われることが特徴であり、そのために、SUCS仕様に準拠したユニットで構成されたセンシングトレインとの通信が可能なデータ管理基盤としてSUCSクラウドサービス(以降 クラウドサービスと略する)を構築することが必要となる。SUCSコンソーシアムでは、このクラウドサービスを中立的な立場で構築・運営することを検討している。

 このクラウドサービスの主な機能(図2参照)は、ユニットの申請・認可機能とともに、センシングトレインから送信されるセンシングデータの登録・管理機能、さらにメタデータの登録・管理機能である。データ前処理、データ匿名化、データ可視化、外部との連携などのデータ利用に便利な機能も備える予定である。

図2 SUCSフレームワークのセンシングトレインとクラウドサービス
図2 SUCSフレームワークのセンシングトレインとクラウドサービス

2 SUCSフレームワークにおけるメタデータ

 メタデータとは、一般にデータに関する付帯的な属性情報が記載されたデータであり、書籍、映像、Webページなど様々なコンテンツを効率よく検索するために要約された情報として使われている。SUCSフレームワークでは、ユニットやセンシングトレインの属性情報、センシングデータや観測の属性情報をメタデータとしている。
 SUCSコンソーシアムでは、様々なユースケースに基づきメタデータの項目を洗い出し、メタデータの共通なフォーマット仕様を2023年6月に公開するガイドラインに記載する予定である。
 メタデータの種類の一覧を表1に示す。表中にあるユニットメタデータは、ユニットの製品仕様などを記載するメタデータである。センシングトレインメタデータは、4種のユニットの構成を示すためにユニットを識別するIDを記載する。センシングデータセットメタデータは、観測によって収集したデータの集まりであるデータセットの属性情報を記載する。観測メタデータはセンシングトレインによる観測に関する情報を記載する。以降、ユニットメタデータと、観測メタデータついてに内容を紹介する。

表1 メタデータの種類

表1 メタデータの種類

2.1 ユニットメタデータの概要

 ユニットメタデータとは、ユニットの4種のユニットごとに製品仕様を記述したメタデータである。データを利用する際に、このメタデータの内容を調べることで、どのような種類や性能を持つユニットを使用したのかを正確に知ることができる。

 今回、4種のユニットの中でセンサユニットのメタデータを紹介する。センサユニットメタデータのデータ項目の一覧を表2に示す。
 表2にある識別情報の中では、センサユニットの製品型式を登録して付与されたSUCS認可番号、製品の名称、製品の型番、製造したメーカ名などをテキストで記載する。
 特徴情報の中では、センサユニットの防塵性や防水性をJIS C 0920 / IEC 60529に基づくIP試験のIPコードを記載する。物理量変換式は、センサユニットが出力するアナログ値がAD変換されたデジタル値を、単位のある物理量に変換するために、多項式変換の場合は多項式の係数や切片、テーブル変換の場合はテーブルデータを記載する。温度補正変換式は、計測時の温度による補正を行うための手段を同様に記載する。
 能力情報では、センサユニットの使用可能な温度や湿度の範囲を記載する。また、センサが保証する総合精度や計測値範囲、応答時間も記載する。
 文書情報では、センサユニットに関する仕様書や取扱説明書などの文書があれば、文書が公開されているURLや文書名、文書の説明を記載する。
 履歴情報では、センサユニットの工場出荷した日付やセンサユニットに対して実施した校正の日付や実施内容に関して記載することができる。こうした履歴情報は個々のセンサユニットに対して紐づくメタデータとなる。
 これらのデータ項目はすべてを記載するのではなく、登録が必要な必須項目と登録が任意なオプション項目とに分かれている。6月公開するガイドラインにおいては、必須あるいはオプションの区別に加え、データ型の定義、数値については物理単位の記載などのデータ仕様を示している。

表2 センサユニットのメタデータの項目一覧

表2 センサユニットのメタデータの項目一覧

2.2 観測メタデータの概要

 クラウドサービス上では多くのユーザによって様々なセンシングデータが蓄積され、そうなるとユーザ間でデータの共有や流通が行われるようになる。センシングデータは数値の集まりであり、自分で収集したセンシングデータでない限り、データを利用するユーザにとってセンシングデータを理解することは難しい。センシングデータを理解する上で、どのような目的で観測を行ったのか?観測の対象は何か?観測対象のどの特性を測定したのか?という情報は重要であり、これらを記載するメタデータとして以下の3種類を用意する。

① 観測活動メタデータ : センサによる観測活動を記述する、例えば医療ボンベの監視という観測活動がある。
② 観測対象メタデータ : センサによる観測した対象を記述する、例えば医療ボンベという観測対象がある。
③ 観測特性メタデータ : センサで観測した特性について記述する。例えば医療ボンベのガス残量という観測特性がある。

 観測活動メタデータは、例えば「医療用ボンベの統合監視」、「斜面崩落の監視」や「デジタル百葉箱による環境測定」のような観測活動について、
 • 観測活動に与えられる識別子や名称
 • 観測活動の目的や意図などの概要の説明
 • 観測の責任者とその連絡先
 • 観測した期間や関係する場所の位置
等の情報を記載する。

 観測対象メタデータは、例えばセンシングトレインを設置する「P病院の100番ボンベ」、「道路斜面のP地点」や「P学校の校庭」のような観測対象について、
 • 観測対象に与えられる識別子や名称
 • 観測対象に関する概要説明
 • 観測対象の特徴や履歴の情報
 • 観測対象が存在する地理的な位置
等の情報を記載する。

 観測特性メタデータでは、ボンベの「ガス残量」、斜面の「斜面変動」や校庭環境の「気温」のような観測特性について、
 • 観測特性の名称と定義
 • 計測に用いたセンサユニットの識別子
等の情報を記載する。

 他方、観測の種類や条件によって、メタデータに独自のデータ項目を追加することは可能である。その場合、データ項目の意味やデータ型などのデータ仕様を公開して共有することを推奨する。

図3では、3つの観測活動をユースケースして、メタデータを簡易にした例を示す。

図3 ユースケースから観測メタデータを記述する概要イメージ

図3 ユースケースから観測メタデータを記述する概要イメージ


次回に続く-



商標

※1 SUCSは、SENSPIRE®※2 Universal Connecting System(センスパイア自在連結システム)の頭文字を採ったものである。(一社)次世代センサ協議会の商標登録である。

※2 SENSPIREは、センサの発展進化系を表すSensor×Inspireの造語であり、(一社)次世代センサ協議会の商標登録である。

参考文献

  1. QUDT:https://www.qudt.org/doc/DOC_VOCAB-UNITS.html
  2. DCAT2.0:
    https://www.w3.org/TR/2020/REC-vocab-dcat-2-20200204/
  3. データ社会推進協議会公開資料、ホワイトペーパー センシングデータのためのメタデータ策定の基準化に向けた提案
    https://data-society-alliance.org/survey-research/metadata-for-sensingdata/
  4. SensorML: Model and XML Encoding Standard,
    https://portal.opengeospatial.org/files/?artifact_id=55939
  5. Semantic Sensor Network Ontology,
    https://www.w3.org/TR/2017/REC-vocab-ssn-20171019/


【著者紹介】
小田 利彦(おだ としひこ)
オムロン株式会社イノベーション推進本部 DXビジネス革新センタ
データ社会推進協議会 技術基準検討委員会センシングメタデータTGリーダ
次世代センサ協議会 SUCSコンソーシアム幹事

■略歴
大阪大学基礎工学部卒
日本シュルンベルジェ株式会社で油層解析システムの開発に従事
株式会社リコーで事務機器システムなどの開発に従事
オムロン株式会社で駅務機器システムなどの開発に従事