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バイタル・サイン・モニタリング向けリファレンス・デザイン
(The Reference Designs for Vital Sign Monitoring)(1)

井口 璃音(いぐち りおん)
アナログ・デバイセズ(株)
デジタルインフラストラクチャー
ビジネスグループ
井口 璃音

1.バイタルサイン(Vital Sign)のモニタリング

 近年の健康に関する意識の高まりを受けて、日常の健康状態や運動量などをモニタリングする機能は、携帯電話や腕時計などのウェアラブルなスマート・デバイスに組み込まれるようになった。それらは疾病の治療を行う以外にも、良好な健康状態にある人も含め広く利用できるようになっている。その背景には、センサそのものの精度向上に関わるエレクトロニクスの継続的な進歩はもちろん、クラウド・コンピューティング、AI(Artificial Intelligence)、IoT(Internet of Things)、5Gなどデータ収集と解析を支える技術の発展がある。

 人々の健康状態(生命状態)を知る為の指標はバイタル・サイン(Vital Sign)と総称され、医療や介護の現場においては「呼吸数」「体温」「脈拍」「血圧」の4つが主要なものとして用いられている。加えて、「意識レベル」「尿量」「酸素飽和度(SpO2)」も扱われる場合がある。
特に脈拍は、様々な疾病や日々の健康状態を測る指標として有用であると知られるバイタル・サインのひとつである。なおかつ、その測定には非侵襲な光学的手法を用いることが可能である為、脈拍のモニタリング機能はウェアラブル機器に搭載されやすい特徴がある。

 次項では、バイタル・サイン・モニタリングの代表的な一例として脈拍測定を取り上げ、その信号処理の流れと心拍検出プログラムについて説明する。

2.脈拍のモニタリング

2.1 光電式容積脈波記録法(Photoplethysmography, PPG)の概要

 脈拍を電子的に測定する手法として、心電波形の計測や心音の計測など様々なものが知られているが、その中でも今日ウェアラブル機器における脈拍測定に広く用いられている手法が「光電式容積脈波記録法(Photoplethysmography, PPG)」である。この手法では、体表近くの血管にLED光を照射し、その透過量又は反射量をフォトダイオードで計測することで、血管の容積変化を非侵襲で検知することができ、その変動から脈拍を求めることができる。測定部位について比較的柔軟に対応できるのもこの手法の利点であり、指先や耳たぶなど体表面から光学的に血管を確認しやすい部位はもちろん、手首で計測を行う機器も既に実用化されている。

図1 光電式容積脈波記録法(Photoplethysmography, PPG)の概略図
図1 光電式容積脈波記録法(Photoplethysmography, PPG)の概略図

2.2 PPGの信号処理回路

 以下にPPGを実現する標準的な回路を示す。
 光信号を生成するための光源として、通常LEDが用いられる。光源の波長としては600 – 900 nmの範囲から1つ、または測定精度向上の為に複数が選択されるが、よく用いられるのは、人体の組織における吸光度が高いことが知られる緑色 (495 – 570 nm)である。また緑色は、特にウェアラブル機器においては重要な課題となる、モーション・アーティファクト(MA, 被験者の体動により生じる検査上のノイズ)の除去率が高い1)ことも知られている。
 光源から生体を透過又は反射した信号は、フォトダイオードによって光信号から電気信号(電流)に変換される。さらに電流-電圧変換、周囲光の影響を除去する為のバンドパス・フィルタ(BPF)によるフィルタリング、増幅が行われた後、このPPG信号から脈拍を算出するデジタル処理の為にA/D変換される。

図2 PPG測定用の標準的な回路
図2 PPG測定用の標準的な回路

2.3 脈拍数算出アルゴリズム

 PPG信号からは、脈拍のみならず、動脈圧、血管硬化指数、脈波伝播時間、脈波伝播速度、心拍出量、動脈コンプライアンス、末梢抵抗といった心臓血管系の関連情報を得ることができる2)3)4)が、そのためには波形から、収縮期ピーク値、心臓から大動脈への血液の送出によるオンセット、大動脈弁の閉鎖によるディクロティック・ノッチなど、心臓の働きを観測する為に重要なポイントを正確に抽出するアルゴリズムが必要である。
 本稿で紹介する脈拍数算出アルゴリズムは、弊社アナログ・デバイセズが手首のPPG信号用に提案するものであり、本来、動脈圧波形用に提案された予測法を利用した信頼性の高いピークおよびオンセット検出アルゴリズムである5)。これは、「前処理」「補間」「予測」「信号品質評価」「心拍抽出」の各モジュールにより構成される。

図3 脈拍数算出アルゴリズムの流れ
図3 脈拍数算出アルゴリズムの流れ

(1) 前処理
 PPG信号は、血液還流の低下やMAなどの影響を受けやすいことが知られている6)。これら要素の影響を最小限に抑える為、解析の前処理として、バンドパス・フィルタ処理や信号レベルを制限する自動ゲイン制御、信号の平滑化とベースライン変動の除去を行う必要がある。
 バンドパス・フィルタでは、PPG信号の高周波成分(外乱光や電源など)と、毛細血管密度や静脈血量の変化、温度変動のような低周波成分の両方を除去する。フィルタのカットオフ周波数は0.4Hzと4Hzに設定する。これは、脈拍の基本周波数範囲が0.4Hzから3Hzであり、心拍時間を強調する高調波を含める為にそれよりわずかに高い範囲で設定を行うことによる。
 フィルタ処理した信号のスパイクは、メジアン・フィルタを使って除去され、後段で信号振幅から選択するべきピークを検証する為に自動ゲイン制御が信号レベルを正負電圧に制限する。元のPPG信号は心拍以外の要因によるベースライン変動も含まれているが、特に心拍抽出を行う場合にはこれを取り除く必要がある。よって、ベースライン変動ノイズを除去する為にローパス有限インパルス応答(FIR)フィルタを使用し、取得信号を平滑化する。

(2)補間・予測
 補間モジュールでは、あるフレーム内のn個のデータ点から心拍間隔値を算出しmsec単位の高分解能な心拍間隔を取り出す。予測モジュールはその出力とPPG信号波形の1次導関数から、極大点前のゼロクロス点と対応する点をオンセット、その極大点後のゼロクロス点に対応する点を収縮期ピークとしてそれらを抽出する。この処理に用いられる予測モデルは、”An Adaptive Delineator for Photoplethysmography Waveforms7)(光電式容積脈波記録波形用の適応型予測モデル)および ”On an Automatic Delineator for Arterial Blood Pressure Waveforms8)(動脈血圧波形用の自動予測モデルについて)にそれぞれ示されるものと理論的には同じである。

(3) 信号品質評価・心拍抽出
 信号品質評価モジュールはPPG信号の品質を示す指標を算出し、それに基づき心拍抽出モジュールは抽出されたオンセットと収縮期ピークを信頼できる値としてレポートするかどうかを判断する。この指標は、”A Smarter Way to Find Pitch9)(よりスマートなピッチ検出法)の中で提案された手法を用いて、正規化された二乗誤差関数(自己相関関数の一形態)からPPG信号の周期性の程度を割り出すことで得られる。

図4 PPG信号とその処理過程
図4 PPG信号とその処理過程
フィルタリング前のPPG信号(左上)とフィルタリング後のPPG信号(右上)、
自動ゲイン制御及びFIRフィルタによる平滑化後の信号(左下)、
フィルタリング後のPPG信号とその1次導関数をプロット(右下)

次回に続く-



参考文献

  1. Jihyoung Lee, Kenta Matsumura, Ken-Ichi Yamakoshi, Peter Rolfe, Shinobu Tanaka, Takehiro Yamakoshi ”Comparison Between Red Green and Blue Light Reflection Photoplethysmography for Heart Rate Monitoring During Motion” 2013 35th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC)、2013年7月
  2. Justine I. Davies and Allan D. Struthers “Beyond Blood Pressure: Pulse Wave Analysis–a Better Way of Assessing Cardiovascular Risk?” Future Medicine, 2005.
  3. Arthur de Sa Ferreira, José Barbosa Filho, Ivan Cordovil, and Marcio Nogueira de Souza “Three-Section Transmission-Line Arterial Model for Noninvasive Assessment of Vascular Remodeling in Primary Hypertension” Biomedical Signal Processing and Control, Vol. 4, No. 1, p. 2–6, January 2009.
  4. John Allen “Photoplethysmography and Its Application in Clinical Physiological Measurement” Physiological Measurement, Vol. 28, No. 3, p. R1, 2007.
  5. Bing Nan Li, Ming Chui Dong and Mang I. Vai “On an Automatic Delineator for Arterial Blood Pressure Waveforms” Biomedical Signal Processing and Control, Vol. 5, No. 1, pp. 76–81, 2010.
  6. Margareta Sandberg, Qiuxia Zhang, Jorma Styf, Björn Gerdle and Lars-Göran Lindberg “Noninvasive Monitoring of Muscle Blood Perfusion by Photoplethysmography: Evaluation of a New Application” Acta Physiologica,Vol. 183, No. 4, pp. 335–343, 2005.
  7. Mohanalakshmi Soundararajan, Sivasubramanian Arunagiri and Swarnalatha Alagala “ An Adaptive Delineator for Photoplethysmography Waveforms” Biomedical Engineering/Biomedizinische Technik, Vol. 61, No. 6, p. 645–655, January 2016.
  8. Bing Nan Li, Ming Chui Dong and Mang I. Vai “On an Automatic Delineator for Arterial Blood Pressure Waveforms” Biomedical Signal Processing and Control, Vol. 5, No. 1, pp. 76–81, 2010.
  9. Philip McLeod and Geoff Wyvill “A Smarter Way to Find Pitch” ICMC, 2005.


【著者紹介】
井口 璃音(いぐち りおん)
アナログ・デバイセズ株式会社
デジタルインフラストラクチャー ビジネスグループ
ヘルスケア
フィールドアプリケーションエンジニア

■略歴

  • 2020年3月北海道大学工学部 卒業
  • 2020年4月アナログ・デバイセズ(株)(米国Analog Devices, Inc. 日本法人)入社
  • 以降フィールドアプリケーションエンジニアとして、主に医療機器向け各種ICのアプリケーションサポートに従事。

インピーダンス・センシング向けアナログ・フロント・エンド技術
(Overview of analog front end technology for impedance sensing)(1)

渡邉 慶太郎(わたなべ けいたろう)
アナログ・デバイセズ(株)
インダストリアルビジネスグループ
渡邉 慶太郎

1. はじめに

 半導体技術の進歩により、測定対象物(Device Under Test; DUT)のインピーダンス測定、そしてDUTの特性変化の検知を目的とするインピーダンス・センシングはその応用範囲を広げている。本稿ではまずインピーダンスの測定手法を概観し、次いで最新半導体製品が可能とするインピーダンス測定/センシング・システムの構成と、その応用事例について紹介する。

2. インピーダンスとその測定手法

2.1. インピーダンスとその周波数特性

 インピーダンスは交流における電気の流れにくさを表す物理量であり、電気抵抗(実数軸のR)とリアクタンス(虚数軸のX)の和として複素平面上のベクトルで表現される(図1)。リアクタンスは容量性リアクタンス(=キャパシタンスXC)と誘導性リアクタンス(=インダクタンスXL)から構成される。

図1 インピーダンスの複素数表示
図1 インピーダンスの複素数表示

 電気抵抗の大きさは周波数によらず一定、キャパシタンスは周波数に反比例、インダクタンスは周波数に比例するが、現実世界においてインピーダンスは理想と異なる複雑な周波数特性を示す。
 例としてキャパシタの等価回路とその周波数特性を図2に示す。キャパシタンスCの周囲には、寄生成分として等価直列抵抗(ESR)、等価直列インダクタンス(ESL)、そして誘電体吸収の効果を反映するRDA, CDA、漏れ電流を反映する絶縁抵抗RPなど、様々な非理想性に起因する成分が存在する。結果としてキャパシタのインピーダンスは、自己共振周波数より低い周波数においては周波数が高くなるに従って減少するが、それより高い周波数では増加する。

図2 現実のキャパシタの電気的モデル(上)と周波数特性(下)
図2 現実のキャパシタの電気的モデル(上)と周波数特性(下)

 上に示したように現実に存在するDUTの電気的モデルは複雑な周波数特性を示すため、より現実に近いモデルを適用するためには、インピーダンスを複数の周波数で測定し周波数特性を得ることが必要である。

2.2. インピーダンスの測定手法

 インピーダンスの測定に適した機器や特徴は、測定周波数により異なる。以下に、現在広く用いられている代表的な測定機器とその手法、そして特徴の概要を示す。

測定機器 測定手法 適用周波数 特徴
周波数特性分析器(FRA) FRA法 10uHz – 1MHz 高確度だが周波数スイープ測定不可
FFTアナライザ FFT法 < 数百kHz 高速測定可能だが周波数分解能が低い
LCRメータ/インピーダンス・アナライザ 自動平衡ブリッジ法 1mHz – 100MHz 高確度かつ広いインピーダンスレンジでの測定可能
RF I-V法 1MHz – 数GHz 広帯域での測定可能
ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA) ネットワーク解析法 100kHz – 数十GHz 周波数ごとの校正が必要
特性インピーダンスから離れた値で確度が低下する

表1 代表的なインピーダンス測定手法

 なお各測定手法の原理については紙幅の都合で割愛する。電子計測器各社のアプリケーション・ノートやセミナーにおいて解説がなされているので、必要に応じて活用いただきたい。

3. インピーダンス測定/センシング・システムの代表的なアプリケーション

 インピーダンスはDUTの電気的特性のひとつであり、DUTの成分や構造に起因する物理的性質を反映する。この特徴から、インピーダンス測定/センシングは様々な用途に応用されている(図3)。以下に、その代表例をいくつか紹介する。

図3 インピーダンス測定ならびにセンシングのアプリケーション(EDAはElectrodermal Activity; 皮膚電気活動)
図3 インピーダンス測定ならびにセンシングのアプリケーション
(EDAはElectrodermal Activity; 皮膚電気活動)

3.1. 生体インピーダンス法(Body Impedance Analysis; BIA)

 人体は、血液や組織液等の電解質と、脂肪や骨等の電気を通しにくい物質から構成されている。このことを利用して、インピーダンスの測定結果から人体の電気的モデルを求めることが可能である。BIAは非侵襲的でありながら、体組成分析から疾病診断まで幅広い用途に応用できる
 BIAでは、利用する人体モデルの複雑さによって、50 kHz程度の単一周波数でのインピーダンス(Single-frequency BIA; SF-BIA)または約1 kHz~1 MHzの複数周波数でのインピーダンス(Multi-frequency BIA; MF-BIA)が利用される。
 また、BIAは食品の品質測定や検査への応用も試みられている。魚の脂肪含有量を推定する装置が実用化されている他、冷凍による鮮度変化や果実の熟し具合、そして異物検知等への応用も学術的に検討されている。

3.2. 電気化学分析

 電気化学分析にはいくつかの手法があるが、電極間のインピーダンスの周波数特性を測定し電極において生じる化学反応の過程を把握する電気化学インピーダンス分光法(Electrochemical Impedance Spectroscopy; EIS)はその代表的なものの一つである。
 EISは研究開発用途で広く活用されており、リチウム・イオン・バッテリや今後の電池材料として期待される固体電解質等の特性評価、また金属材料の腐食等の評価に活用されている。また酵素や抗体などの生体物質を修飾した電極を用いることで、いわゆるバイオ・センサとして様々な有機物のセンシングにも用いられている。
 EISに用いる周波数は測定対象物によって大きく異なり、低周波数の場合はmHz程度から、高周波数の場合はMHzを超える場合もある。

3.3. 電子部品試験

 インピーダンスの測定は、抵抗、キャパシタ、インダクタといった受動部品や、トランジスタ・FETなどの能動部品等様々な部品の研究開発や量産試験に広く活用されている。研究開発用途では周波数スイープ可能なインピーダンス・アナライザ、量産時試験には各電子部品の規格に対応した周波数のインピーダンスを高速測定可能なLCRメータが用いられる場合が多い。
 電子部品試験に用いられる周波数はDUTと試験する特性によって大きく異なるが、一般的な電子機器に用いられる受動部品では、100Hz(キャパシタの容量測定) – 数百MHz(インダクタの自己共振周波数測定)程度である。
 一方、近年、モバイル通信、Wi-Fiなどの無線通信やUSB、PCI Expressなどの有線通信において、高データレートでの信号伝送のため高周波数帯の利用が拡大している。このことを背景として、各種部品やプリント基板等に対して、例として数GHzまでの広帯域の周波数特性を実測する要求も増加している。

3.4. インピーダンスを用いたCbM

 近年、状態基準保全(Condition based Maintenance; CbM)が次第に普及している。CbMとは、各種センサを用いて測定対象物を監視し、製品の劣化・故障の兆候を検知することで、不意のダウンタイムを削減するとともに保守作業を効率的に実施するための製品保全の手法である。
 CbMに活用し得るデータには、振動や音、温度、電流などが挙げられるが、インピーダンスもその1つである。ケーブルの断線検知・コネクタの嵌合検知から、電極やフィルタ等の劣化/故障検知、水位監視に至るまで、産業からインフラまでの広範なアプリケーションにおいてインピーダンスに基づくCbMが活用されることが期待される。このようなシステムにおいては、いわゆるラボ・グレードのインピーダンス測定装置ではなく、常時モニタリング可能を可能にする小型かつ経済的なソリューションが求められる。



次回に続く-





【著者紹介】
渡邉 慶太郎(わたなべ けいたろう)
アナログ・デバイセズ株式会社
インダストリアルビジネスグループ インスツルメンツ
シニアフィールドアプリケーションエンジニア

■略歴

  • 2015年3月東北大学理学部 卒業
  • 2017年3月東北大学大学院理学研究科 博士前期課程修了(修士(理学))
  • 2017年4月アナログ・デバイセズ(株)(米国Analog Devices, Inc. 日本法人)入社
  • 以降フィールドアプリケーションエンジニアとして、主に電子計測器市場向け各種ミックスド・シグナルIC及びモノリシック・マイクロ波IC(MMIC)のアプリケーションサポートに従事。
    2020年より、マイクロウェーブ展(MWE)実行委員会展示委員。

1-Wire®バス(1)

永井 郁(ながい いく)
アナログ・デバイセズ(株)
リージョナル・ビジネス・グループ
永井 郁

1. 1-Wire®バスとは1), 2)

 センサ・システムの設計において、センサそのものの性能実現と共に、用途に適した通信手段と給電手段を選択する事が重要である。本稿に紹介する1-Wire技術は、電源や電気回路が搭載されていないメカ部品などのモニタリングや管理を簡易かつ経済的に行う上で有効な通信技術である。
 1-Wireバスは、1対のデータ線とグランド線を共有するコントローラと1つまたは複数のペリフェラルとの間で半二重双方向通信を実行するシリアル通信であり、ペリフェラル・デバイスの電力も1-Wireラインを介して供給することができる(図1)。

図1.1-Wireコントローラ/ペリフェラルの構成
図1.1-Wireコントローラ/ペリフェラルの構成

 ペリフェラル・デバイス内では、データ送信中のラインがHi状態のときに内部コンデンサへ電荷を蓄え、ラインがLoのときに蓄えた電荷をデバイスの回路駆動に使用する。1-Wireコントローラには、専用のライン・ドライバICを使用する以外に、マイコンのオープン・ドレインI/Oポート・ピンへ3Vから5Vへの抵抗プルアップを接続して構成する事も可能である。
 すべての1-Wireペリフェラル・デバイスには、個々のデバイスに固有の変更不可能な64 ビットのシリアル番号 (ID) が格納されている。デバイスの種類や機能の識別ビットを含むこの64ビットID値により、コントローラは同じバスに接続できる多数のデバイスの中から個々のペリフェラル・デバイスを認識でき、個々のペリフェラル・デバイスを搭載した製品に固有の電子IDを付与することができる。
 I2CやSPI などの他のシリアル・バスと比較して、1-Wireバスは断続的な接続環境で使用できるように設計されている。1-Wireバスから切断、または接続を失うと、1-Wireペリフェラル・デバイスは規定のリセット状態に戻る。再びバスに接続されて電源が戻るとペリフェラル・デバイスが再起動し、その存在をバス上に通知する。また1-Wireデバイスは保護する通信端子が1点のみであるため、堅牢なESD保護を内蔵でき、メカ製品など静電気に晒される非電子オブジェクトに追加して識別、認証、および校正データまたは製造情報の保存や配信などを経済的に行うことができる。
 1-Wireコントローラは、すべての 1-Wire 通信を開始および制御する。図1左に示すように、1-Wire 通信波形はパルス幅変調によりロジック0(パルス幅大)およびロジック 1(パルス幅小)を表現する。コントローラがバス全体を同期させる規定の長さのリセット・パルスを発行することで通信シーケンスが開始となり、すべてのペリフェラルはLoレベルのプレゼンス・パルスを発行してリセット・パルスに応答する。コントローラからペリフェラルへの書き込み操作では、各ビットのタイムスロットでコントローラが最初に1-WireラインをLoに駆動することでタイムスロットを開始し、次にラインを Low に保持してロジック0を送信するか、ラインを解放してロジック1を送信する。コントローラがペリフェラルからデータを読み取る場合も、各ビットのタイムスロットでコントローラが最初に1-WireラインをLoに駆動することでタイムスロットを開始し、次にペリフェラルがオープン・ドレイン出力をオンにしてラインをLoに保持してパルスを延長することでロジック0を返すか、オープン・ドレイン出力をオフのままにすることでロジック1を返す。ほとんどの1-Wireデバイスは、約15kbpsの標準速度と約111kbps のオーバードライブ速度の2つのデータ伝送速度に対応する。1-Wireプロトコルはセルフ・クロックであり、長いビット間遅延を許容し、割り込みのあるソフトウェア上でもスムーズな動作が可能である。
 その他1-Wireバスの詳細は参考資料に説明を譲る。

2. 1-Wireデバイスの例と用途

 表1に、1-Wire製品の種類と用途例を示す。以下にこのうちの幾つかの製品と用途の紹介を行う。

表1.1-Wireデバイスの種類と用途
表1.1-Wireデバイスの種類と用途

2.1.1-Wireインターフェース製品

 図2に1-Wireインターフェース製品の用途例として、DS28E18を用いてSPIセンサとマイコン間の通信を1-Wireで延長する例を示す。比較的低いデータ伝送速度の用途では、このようにSPIなどの基板内の短距離通信を1-Wireに変換して基板外へ伸ばすことで、大幅な設計変更を必要とせず、また無線で伝送距離を伸ばす場合と比べて部品点数や開発工数を削減できるシンプルで経済的な設計を実現できる。

図2.1-Wire―SPI変換による遠隔センサ・ノードとの通信
図2.1-Wire―SPI変換による遠隔センサ・ノードとの通信


次回に続く-





【著者紹介】
永井 郁(ながい いく)
アナログ・デバイセズ株式会社 リージョナル・ビジネス・グループ

■略歴

  • 1999~2004年電子部品メーカーで製品開発に従事
  • 2004年~アナログ・デバイセズ社 MEMSセンサのビジネス開拓と技術サポート、産業分野のビジネス等に従事

IceCubeニュートリノ観測実験 千葉大学が開発したD-Egg光検出器、2024年に南極点へ

 千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターの吉田滋教授と石原安野教授を代表とする千葉大学グループは南極点で宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノを観測する国際共同研究プロジェクト「IceCube (アイスキューブ)」に2002年から参加している。
 この度、千葉大学グループは国内の企業らと協力し、日本の優れた技術と部品を積極的に取り入れ開発した新光検出器モジュール「D-Egg」(ディーエッグ: Dual optical sensors in an Ellipsoid Glass for Gen2)320台を製造し、その性能検証結果を論文 “D-Egg: a Dual PMT Optical Module for IceCube”にて発表した。
同論文は、学術誌 Journal of Instrumentation (JINST) から2023年4月11日に出版された。
 D-Eggの光検出感度は、現行のIceCube光検出器と比べおよそ3倍向上し、より低コストで宇宙ニュートリノ観測網を築くことが可能となった。このD-Eggは、南極点に展開する世界最大の宇宙ニュートリノ観測実験をアップグレードする基幹検出器として、南極点に移送される予定である。  2024年、日本が生んだ先端技術が、南極点という極限環境で科学観測のため活躍するという。

ニュースリリースサイト:https://www.chiba-u.ac.jp/others/topics/info/icecube_d-egg2024.html

有人自律運航の新システムを試験導入、JERA向け内航新造船「しらなみ」竣工

2023年04月28日:日本郵船(株)が建造発注した石炭専用船「しらなみ」(以下「本船」)が本田重工業(株)の佐伯工場で竣工した。先立って行われた命名式には(株)JERAの中村 直 常務執行役員最適化管掌、当社専務執行役員の鹿島伸浩をはじめとする関係者が出席した。

本船は2022年7月に竣工した内航石炭専用船「うしお」の姉妹船。本船には、国土交通省が実施している「海事産業集約連携促進技術開発支援事業」(注1)の一環で、船舶の有人自律運航の実現に向けて、航海系、機関系それぞれに新システムを試験導入した。

・航海系:カメラによる視覚的情報と、各種センサ情報の統合によって周囲の船舶交通情報の信頼性を向上させ、それを元に避航計画の立案を行う航海当直サポート機能を導入した。今後は実証実験を行い、その結果と「うしお」の運航データを元に更なる有人自律運航の安全性向上を目指す。
・機関系:本船機関の陸上管理システムとシミュレーション技術を活用した独自のシステムを採用した。機関の異常検知に加え、異常原因の推定が可能になることで、安全運航と乗組員の作業負荷の軽減に貢献する

本船は一番船の「うしお」と同じく、JERAと当社の運送契約に基づいて当社関連会社のアジアパシフィックマリン(株)が運航し、海外から外航船で東京湾内の中継基地に輸送された石炭を、横須賀火力発電所向けに供給する2次輸送に従事する予定。粉じん対策のため、貨物倉の蓋に該当するハッチカバーを密閉して揚げ荷役を行うことができるなど、環境に配慮した設計となっている。

同社グループは、本船の運航を通じて、引き続き外航海運分野と内航海運分野をシームレスに連携させたサービスを提供するとともに、東京湾内の効率的な2次輸送ネットワークを実現し、エネルギーの安定輸送に貢献する。また、内航海運業界で今後懸念される船員不⾜、長時間労働の解決も視野に入れ、関連会社と協力して技術による社会問題の解決を目指すという。


ニュースリリースサイト(NYK):https://www.nyk.com/news/2023/20230428_01.html

SkyManhole(IoT型遠隔水位観測システム)農業用施設向サービス開始

 (株)NJS〔エヌジェーエス〕 は、都市浸水災害への対策に有効な水位観測システム「SkyManhole®」を開発・提供している。
此度、当該技術を発展させ農業用施設への適用を開始した。これに伴い、当該技術が「農業農村整備民間技術情報データベース(NNTD)(※注)」に登録されたという。

1.背景
①豪雨災害の激化とNJSの水位観測システム
 近年、気候変動に伴い局地的な豪雨が多発し浸水のリスクが高まっている。降雨は広域にわたって流入し、ボトルネックとなる施設があると上流域の地域が広域に浸水するため、地域内または上流側地域との連携により総合的な対策が不可欠となる。
 同社が開発した水位観測システム「SkyManhole®」は、浸水リスクをモニタリングすることで防災・減災対策の高度化を実現している。
    1)雨水排水施設の運転最適化
    2)避難情報の早期発出
    3)浸水シミュレーションの精度向上 など
 当該サービスは、溢水の可能性がある都市河川や、冠水の危険がある道路等、市域内の様々な施設に適用が可能な技術である。適用範囲を拡大しより有効な災害対策を実現するため、ため池等の農業用施設向けにシステムの見直しを図った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(※注)「農業農村整備民間技術情報データベース」
一般社団法人 農業農村整備情報総合センター(ARIC)がウェブサイト上で公開する技術データベース。
民間企業等が開発した農業農村整備の推進に資する技術情報を、国・都道府県等事業実施団体へ普及すること
を目的に開設された。
業者選定の際の評価にも用いられる。
URL:http://www.nn-techinfo.jp
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

②農業用施設における防災対策
 平成30年7月豪雨の際に多くの農業ため池が決壊し、人的被害を含む甚大な被害が発生した。これを機会に農業用ため池の防災工事が急ピッチで進められている。
 また、ため池や農業用ダムは雨水の一次貯留機能を有し、用排水路や樋門等の排水施設は雨水排除の機能を果たしている。大雨災害が多発するなか、これらの農業防災施設の機能向上と監視がますます重要となっている。
 同社のSkyManhole®システムは、これら農業用防災施設について、デジタル技術を用いて有効かつ低コストでモニタリングすることができる。

2.技術の概要
①システムの特長
 SkyManhole®の特長は以下のとおり。
 ● 圧力式水位計を用いることで正確な水位情報を取得
 ● 電池駆動方式を採用し電源工事が不要
 ● 低電力型の通信と通信頻度の自動切替機能によりバッテリー負荷軽減
 ● クラウドシステム連携により情報共有とAI等との連携

②農業用施設への適用
 SkyManhole®は、ため池等の水位を圧力計センサで監視し、携帯電話の電波を通じクラウド上に情報を収集する。(画像)
なお、農業用施設に適用し、次の改良を加えている。
● 携帯電話の電波(LTE-M方式)に適用
ゲートウェイ等の特別な通信設備を不要とし、利用範囲の拡大と導入コストの削減を可能とした。
注)LTE-M:携帯電話の周波数の一部を有効活用し、IoT等機械通信に利用される通信方法。
 速度が低いものの通信が安定しており、消費電力が低い特徴がある。

● 耐水耐塵性能向上
 圃場等の風雨にさらされる環境に対応し、耐環境タイプを開発した。IP68以上の耐水性を備え、過酷な環境でも安定稼働する。
注)IP68:JISが規定する電子機器などの防水防塵性能を表す等級。68は最高等級を表す。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000113407.html

LEDビジョンから送信される“見えない”データをカメラで受け取る「Luminary AR」技術

 東京農工大学 大学院工学研究院先端情報科学部門の中山悠准教授は、カメラの撮像素子であるCMOSイメージセンサを受信機に用いる光カメラ通信(Optical Camera Communication;OCC)をベースに、LEDビジョンから送信される“見えない”データをスマートフォンのカメラで撮影して受け取る「Luminary AR」技術を開発した。 この成果により、今後「カメラを構える」動作を契機として、LEDビジョンによる広告配信のほか、テーマパークやイベントにおける情報配信、デジタルスタンプラリーによる地域振興など様々な展開が期待される。また、イメージセンサの活用領域の拡大といった産業上の波及効果も期待されるという。

◇現状  Optical Camera Communication(OCC)とは、送信機にLEDやディスプレイのような光源を、受信機にカメラを用いた可視光通信である。デジタルデータを3色LEDの色へと符号化・変調して光信号として送出し、カメラで撮影した動画像の中から光を抽出し、そのRGB値などから信号を復調・受信する仕組み。 東京農工大学ではこれまでに、CMOSイメージセンサのRAWデータを用いた512色伝送により超多値化の世界記録を達成するなど、基礎技術開発を進めてきた。ただし、ユーザにとって身近なデバイスであるスマートフォンのカメラを受信機に用いるような、実際の活用例が従来ほとんどなかった、という課題があった。

◇研究体制
 本研究は、JSTさきがけJPMJPR2137の支援を受けて、東京農工大学で実施された。また「第7回 AI・人工知能EXPO【春】」の展示は、ニューラルマーケティング(株)の支援により高精細LEDビジョンの提供を受けて実施するもの。

◇研究成果
 本研究チームは、LEDビジョンに投影される映像コンテンツに対して、デジタルデータを埋め込むための符号化・変調方式を開発した。本技術を用いることで、製品広告や企業PR、周辺情報など既存の画像・動画コンテンツをそのまま利用して、カメラを備えたスマートデバイスへのデータ伝送を実現できるようになった(図1)。

◇今後の展開
 本成果により、LEDビジョンから送信される“見えない”データを「カメラを構える」動作によって受け取る、新たなARを展開可能になる。ユーザにとって身近なデバイスであるスマートフォンのカメラを受信機に用い、従来のQRコードなどを一部置き換えることができる。すなわち、世界観を壊さず審美性の高い形態で付与されたデジタルデータを、カメラを構えることで読み取り、広告配信、イベント、エンタメ、地域振興など、幅広い活用が期待されるとしている。

◇用語解説
注1)光カメラ通信(OCC)
送信機にLEDやディスプレイのような光源、受信機にカメラを用いた可視光通信。送信機として3色LEDを用い、データを光信号へと変調して送信するのが一般的な適用形態。
注2)CMOSイメージセンサ
フォトダイオードとアンプにより、電荷を電気信号に変換することで撮像する半導体素子。スマートフォンやデジタルカメラの撮像素子として広く利用されている。

プレスリリースサイト(tuat.ac.jp):
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2023/20230427_01.html

「かながわロボットイノベーション2023」「モノづくりパビリオンwithかながわ2023」出展企業募集

神奈川県および、(一社)日本ロボット工業会、(株)日刊工業新聞社、(地独)神奈川県立産業技術総合研究所の4者は、県内企業等による、生活支援ロボットや、モノづくりに関する製品・技術のPR及び販路開拓の場として、「かながわロボットイノベーション2023」と「モノづくりパビリオンwithかながわ2023」を開催する。このたび、出展企業を募集する。

1 出展のメリット
○ 世界最大規模のロボット関連展示会である「2023国際ロボット展」内で開催するため多くの来場者が見込める。
○ 特別価格で出展できる。
○ 特設ステージで、プレゼンテーションを無料で行える。
○ 会場内で、行政や支援団体にビジネスに関するご相談等ができる。

2 開催概要
(1)日時
  令和5年11月29日(水曜日)から12月2日(土曜日)まで 各日とも10時から17時まで

(2)会場
  東京ビッグサイト(東京国際展示場)(東京都江東区有明)「2023国際ロボット展」内

(3)小間の規模
  1小間あたり、間口約2m×奥行約2m又は間口約3m×奥行約2m。
  出展料金については、出展のご案内(募集要項)を参照。

(4)対象企業・団体
  ・ 県内に事業所を有する企業や団体、大学
  ・ 「さがみロボット産業特区」の取組に参画している県外企業や団体(予定含む)

(5)対象分野
  かながわロボットイノベーション2023
  生活支援ロボット、当該ロボットに関連する要素機器・部品
  モノづくりパビリオンwithかながわ2023
  精密加工技術、ネジ・締結技術、治具、軸受、モーション、モータ、油空圧機器、搬送機器、
  計測機器、センサ、部品供給・検査技術等、モノづくりに関連する各種技術・製品

(注記)
「さがみロボット産業特区」の支援事業において、審査等を経て採択された中小企業等・団体については、特別価格からさらに割引。詳細は、さがみロボット産業特区推進センターへお問い合わせのこと

3 募集期間
  令和5年4月27日(木曜日)から6月30日(金曜日)まで

4 応募方法
  出展申込書に必要事項を記入の上、事務局あてに、電子メールにより応募。

 【事務局】日刊工業新聞社 イベント事業部
      東京都中央区日本橋小網町14-1
      電話:03-5644-7220 メール:irex-apply@nikkan.tech(受信のみ/申込専用)

5 出展案内(募集要項)等
  本募集の詳細は出展のご案内(募集要項)及び出展申込書を参照。

募集詳細サイト:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/cnt/f430080/tenjikai.html

センシング技術応用セミナー「地球温暖化対策におけるセンシングの役割」開催。

テーマ:
  地球温暖化対策におけるセンシングの役割
日時:
  2023年6月8日(木) 10:00~16:35
会場:
  大阪産業創造館 6階 会議室E(大阪市中央区本町1丁目4-5)
     URL:https://www.sansokan.jp/map/
※オンラインでも参加出来ます。
アクセス:大阪地下鉄「堺筋本町」下車徒歩10分 

■プログラム
開会挨拶   センシング技術応用研究会 会長 筒井 博司 氏 
<講演> (講演番号前に*印のある講演はオンライン講演)
1.「カーボンニュートラル実現に向けた対策と政策の見通し」 
    (公財)地球環境産業技術研究機構 システム研究グループ
        グループリーダー 秋元 圭吾 氏
2.「海から見る気候変動・温暖化
    ~ どうやってははかるの? そして、わたしたちへの影響は?~」  
   (国研)海洋研究開発機構 (JAMSTEC) 研究プラットフォーム運用開発部門 技術開発部
       観測技術研究開発グループ グループリーダー 石原 靖久 氏
3.「CCUS盛り上りに伴う実体CO2の計測と追跡の重要」
   三菱重工業株式会社 CCUSビジネスタスクフォース サブリーダー 堀 秀爾 氏
4.「パナソニックの水素及び燃料電池事業の取り組み」
    パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 電材&くらしエネルギー事業部
    環境エネルギーBU 燃料料電池・水素SBU 燃料電池技術部 部長 四十住 祐介 氏 
5.「モデルベースによる自動車の熱マネジメント技術開発に向けた計測解析技術とその応用」
    マツダ株式会社 技術研究所 スペシャリスト 森島 千菜美 氏
6.「宇宙からの温室効果ガス観測に用いる衛星搭載センサ技術」
     三菱電機株式会社 鎌倉製作所 衛星情報システム部 技術第三課 第1チーム
           チームリーダー 藤井 康隆 氏
主催:センシング技術応用研究会
後援:(地独)大阪産業技術研究所
■参加費(テキスト代・消費税を含む)
 主催・協賛団体会員:8,000円、 一般:10,000円、 学生:3,000円
■申込方法
 下記URLからお申込みください。
 https://forms.gle/bpk4Bzib4y3wdtRHA
■定員(先着順):60名(現地会場)・80名(オンライン) ■申し込み締め切り:5月31日(水)
※ 講演はOnlineでも配信します。
 協賛団体(予定):(公社)応用物理学会、(公社)応用物理学会関西支部
         (一社)電気学会、(一社)電子情報通信学会、
         (一社)次世代センサ協議会、(一社)大阪府技術協会
         (一社)日本機械学会、ニューセラミックス懇話会、
         (一社)KEC関西電子工業振興センター 他12学協会
 ※協賛団体の詳細につきましては、センシング技術応用研究会事務局にお問い合わせ下さい。

■問い合わせ先  センシング技術応用研究会
  〒594-1157 大阪府和泉市あゆみ野2-7-1  大阪産業技術研究所内
   TEL :0725-51-2534    FAX:0725-51-2597  
   E-mail:sstj@dantai.tri-osaka.jp
   URL:http://tri-osaka.jp/dantai/sstj/

加振レーダによる鉄筋コンクリートの劣化可視化技術(2)

三輪 空司(みわ たかし)
群馬大学
大学院 理工学府電子情報部門
教授
三輪 空司

5.コンクリート中の鋼材の振動過渡応答の計測

 低周波の正弦加振を鋼材に与える手法に対し、鋼材にパルス状の磁界を与え、その鋼材の過渡振動応答を非破壊的に計測する電磁パルス加振レーダ法3,4)もある。本加振システムは図6(a)に示すようにコイルとパルス電源装置で構成される。パルス電源装置では1000 V で充電した大容量コンデンサから励磁コイルに放電する。励磁コイルは寸法135 mm×100 mm×175 mm、材質は方向性電磁鋼体であり、コイルを片脚8 巻、計16 巻した。コイルにはピーク値3000 A 半値全幅0.3 ms のパルス状の電流が印加され、0~1.5 kHz 程度の広帯域な振動を鋼材に対して与えることができる。その振動応答をレーダで計測する上で、レーダターゲットの振動が波長に比べて十分短く、その振動変位に比例して反射応答の位相が変化することを利用する。本変位計測には反射波の瞬時位相の情報を得るため図6(b)に示す直交検波パルスドップラレーダシステムを開発した。
図6 電磁パルス加振による非接触レーダ変位計測システム
 また、パルス加振による鋼材の振動は正弦加振と同程度のGHz帯の波長に比べ極めて小さいµmオーダであるが、瞬時的な信号であるため、正弦加振の場合に比べ、反射波に対して20 dB以上の高いダイナミックレンジが必要となる。これは、レーダパルスとサンプリングパルスの繰り返し周期を少し変化させ、オーバサンプリングにより低周波に変換する通常の等価サンプリング方式のレーダシステム(図7(a))では一般に実現困難である。

図7 サンプリング方式図7 サンプリング方式

一方、反射波はその場で微小振動するだけのため、反射波の遅延時間が既知であれば、レーダパルスとサンプリングパルスの繰り返し周波数を同一にし、反射波の遅延時間分だけの時間差を与えるレンジ固定実時間サンプリング方式(図7(b))とすることで、実時間サンプリング方式と同程度の20 dB以上のSN比向上を実現している。これにより深さ8 cm程度までのコンクリート中の鋼材の振動過渡応答を計測できる。

6.PCコンクリート中のPCシースのグラウト充填評価

 本手法は鋼材の共振周波数の評価に有効であり、その特性を利用したプレストレストコンクリート(PC)の劣化評価について述べる。プレストレストコンクリートは橋梁等の輪荷重による曲げひび割れを防ぐため、あらかじめコンクリート中に設置した鋼材を緊張させ、たわみに拮抗させる内部応力を与える構造であり古くから首都高速道路などにも多く使用されている。通常、コンクリートが固まった後、事前に通しておいた管(シース)の中に設置した鋼材を緊張させ固定した後、鋼材腐食の原因となる水分を防ぐため、シースと鋼材の隙間にグラウト材を充填する。しかし、グラウトの粘性不足等により、グラウトが完全に充填されず、充填不足を起こすことが知られている。そのような未充填シース内の空洞に水分が混入するとPC鋼材が腐食していくが、あらかじめ引張力が与えられたPC鋼材は鋼材破断のリスクが極めて高くなり、実際にPC鋼材の破断した構造物が顕在化してきている。そこで、衝撃弾性波や超音波を用いたPCシースの充填率の非破壊評価が行われているが、ひび割れ等に敏感な弾性波では精度に問題があることが指摘されている。一方、シースの未充填により鋼材は特徴的な共振振動を起こすため、それらを弾性波を利用せず、非破壊的に計測できれば、シースの充填率評価に有用となる。

図8 計測対象のPC供試体の概要図8 計測対象のPC供試体の概要図9 計測の様子図9 計測の様子

 計測対象のPC構造物を模擬した供試体の概要を図8 に示す。供試体寸法は高さ150 mm×幅150 mm×長さ400 mmであり、かぶり30 mm で内径35 mm のシースを用いた。シース内には呼び径23 mm の鋼棒を設置した。ただし鋼棒に軸力は与えていない。シースの材質はポリエチレン樹脂とし、グラウト材の充填率が100 % 0 %の計2種類の供試体を用意した。励磁コイルによる磁場や電磁波はシースを透過するためシース内部の鋼棒が加振及び振動計測の対象となる。そこでFEM解析を用いて加振対象である鋼棒の固有振動解析を行った。解析結果から今回の計測で確認できる可能性のある鋼棒の1次たわみ共振周波数は421 Hzであった。
 鋼材の広範囲な振動変位を取得するため、供試体を220 mm の範囲でリニアアクチュエータを用いた移動機構により、5 mmずつ逐次移動計測を行った。計測は図9 に示すように鋼棒直上長手方向に励磁コイルを設置した。なお、励磁コイルと供試体の表面の接触面には市販の耐震マットを貼りパルス電流の印加時に発生するコイルの磁歪振動が計測に影響しないようにし、送受信アンテナを給電点間隔50 mm で固定した。またアンテナは励磁コイルに巻いたコムバンドを用いてコイルの自重によって固定した。

図10 レーダ波形の様子(充填率0%)図10 レーダ波形の様子(充填率0%)

 図10に充填率0 %の供試体での等価サンプリング方式において得られたレーダ波形を示す。0.5 付近に見られるピークはアンテナ間の直達波であり、アンテナを供試体に押し付けているため極めて小さい。1 ns付近のピークは鋼材からの反射波であり、良好なSN比で鋼材の反射波が計測されていることがわかる。
 この遅延時間だけ遅延させたレンジ固定サンプリング方式により、パルス加振中の反射波の位相変化を計測し、変位波形を算出した。両供試体に対する各計測位置での変位波形を図11(a) に示す。振動波形の特徴は加振直後に加振パルスと同程度の鋭いパルス振動が現れ、その後6 ms程度のパルス幅の低周波の振動が表れている。さらに、充填率0%では100%に比べ、周期的な振動成分も現れていることがわかる。図11(b)に変位スペクトルを示すが、低周波のパルス振動は100 Hz以下の帯域を持つ。これは、両供試体でほぼ同様の特徴を持つため、供試体やコイル等の振動であると考えられる。また、充填率0%では300 Hzに充填率100 %に比べ20 dB程度大きい鋭いピークスペクトルが表れており、これが充填率0%で得られた周期信号に対応する。鋼材の1次たわみ共振の431 Hzに比べ、実験では300 Hzと低くなっているが、充填率0%の場合、鋼材両端を1 cm程度の幅のモルタルを充填して固定しているだけであり、完全拘束されていないため共振周波数が低下したものと考えられる。
図11 各供試体での鋼材振動の様子(全計測位置での信号を表示)
図12 変位計測の結果のプロファイル
図12(a)(b)に変位波形、及び変位スペクトルの位置依存性を示す。一次たわみ共振では供試体中央部の振動が最も大きくなると考えられるが、300 Hzの振動スペクトルも供試体中央部が最も大きく、供試体中央部から両端に近づくにつれて振動が小さくなるような特徴を有していることがわかる。一方、それ以外には時間波形、周波数スペクトルともに充填率による供試体の構造由来の違いは確認されなかった。未填領域に対して共振周波数は変化するが、充填率100%の変位スペクトルでは100Hz以上では明瞭なスペクトルピークが見られないため、未充填領域の幅がある程度変化してもその応答を明瞭に計測できる可能性がある。

7.おわりに

 コンクリートや地中内といった不可視領域の比誘電率や導電率の空間分布を可視化するレーダ技術は実用化されており、確立された技術であるが、今後、AI技術や新たな逆問題手法などを用いて、その波長限界を超えた高分解能可や新たな計測パラメータのイメージング等をメインストリームとした研究が進められいくと考えられる。その中で、今回紹介した『計測対象に振動を与えることで発生する2次的な応答をレーダで変位としてセンシング』する手法も、摂動の物理量、与え方、センシングする物理量など、まだ多くの発展が考えられ、これまで議論されてこなかった新たなセンシング分野への応用が期待できる。



参考文献

  1. 清水崇至,三輪空司,服部晋一,鎌田敏郎, 電磁パルスにより励振された鉄筋の加振レーダによる振動変位計測, コンクリート工学年次論文集, 43,1,1181-1186 (2021).
  2. 三輪空司,清水崇至,服部晋一,鎌田敏郎,ドップラレーダを援用した電磁パルス法におけるコイル最適化とPCグラウト充填評価, コンクリート構造物の補修, 補強, アップグレード論文報告集, 22,1,255-260(2022).


【著者紹介】
三輪 空司(みわ たかし)
群馬大学 大学院 理工学府電子情報部門 教授

■略歴
1995年 東北大学工学部資源工学科卒業
1997年 東北大学大学院資源工学専攻博士前期課程修了
1999年 東北大学大学院地球工学専攻博士後期課程修了 博士(工学)
1999年 電気通信大学電子工学科助手
2005年 群馬大学工学部電気電子工学科 助手
2011年 群馬大学大学院理工学府電子情報部門 准教授
2021年 群馬大学大学院理工学府電子情報部門 教授
現在に至る

電磁波を使った地下計測特にボアホールレーダの研究で学位取得、その後、地中レーダのハードウエア、信号処理、超解像アルゴリズム、超音波による生体内の硬さ評価システム、加振応用イメージング、バケット前方探査用地中レーダ、ドリル先端モニタリングレーダ、加振レーダによるコンクリート内の鉄筋腐食、劣化評価の研究に従事