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AIカメラ都市部100台設置プロジェクト始動、点から面のオフラインデータ活用

エッジAIカメラソリューション「IDEA(イデア)」を提供するIntelligence Design(株)はAIカメラが従来苦手としていた面での利活用を促進するため、渋谷を中心に都市部に集中的にAIカメラを配置することで面的なリアルデータ取得を行うためのプロジェクトを始動した。
本プロジェクトで取得される情報は安全安心に暮らせるまちづくりや次世代交通計画などに活かすことができるため、まず東京渋谷から都市部を中心に展開準備を進める。その第一弾として、(一社)渋谷未来デザイン、(一社)渋谷再開発協会とともにスマートシティ化し1人1人に合わせた理想の渋谷のまちづくりを目的として、渋谷駅周辺に100台のエッジAIカメラの設置及び人流データの取得・解析に向けて準備を進めている。

※取得したデータはIntelligence Design(株)が保有し、設置場所を提供頂いた方には、該当箇所のデータを共有。なお、取得したデータは一部オープンデータ化を計画。
※映像から抽出される人数、属性、滞留状況情報には個人を特定できる情報を含まない。また、カメラで撮影した映像は解析情報を抽出した後、即時破棄し、保存しない。

■ 本プロジェクトの概要
本プロジェクトは、都市部のスマートシティ化を目的とし、都市部の主要駅周辺、商業施設や公共エリアに当社のエッジAIカメラを100台設置しリアルタイムで利用者の人流データ取得し、解析をおこなう。
主要駅周辺の人流や交通量データをリアルタイムに取得することが可能となり、まちづくりにおける事前事後評価や夏の花火大会、年末年始のカウントダウン時といった渋滞や混雑時の防犯における警備員配置の最適化や人材不足の解決に寄与することができる。
また、マーケティングにおける新たな視座の獲得やデータ利用価値を模索するべく、幹線道路の通行量や各商業施設への入店客数といったリアルタイムの利用者の属性情報(性別・年代)や滞在時間等の人流データを複合的に可視化・分析したビックデータを一部オープンデータ化し、各協賛事業者が利用できる形で、まちへ還元することを予定している。

■実施概要
・設置期間:2023年7月~
・設置箇所:都市部の主要駅周辺、商業施設や公共エリアを中心
・解析内容:利用者のシルエットに基づく属性情報(性別・年代)の解析
      利用者ごとの移動方向の解析、滞在時間の計測

■本プロジェクトで期待される人流データの利活用・施策への今後の展開
本プロジェクトでは、特に人流が多い商店街、商業施設や小売店・飲食店をテナントに持つ駅ビルが立ち並ぶエリアにAIカメラを設置することを想定しており、今回取得するデータをより多くの事業者に利用されることを目指す。
都市部の主要駅周辺を対象として一部費用を同社が負担し、駅周辺を網羅した人流データの提供・利活用の提案をおこなうことで、スマートシティの実現に還元するとのこと。

渋谷100台AIカメラ設置プロジェクト 特設サイト:https://idea.i-d.ai/shibuya-project/

新東工業、「電力分析パッケージby ePVS」を発売

新東工業(株)は、階層ごとに電力量を見える化することで節電につなげられる「電力分析パッケージby ePVS」を発売した。
電力分析パッケージは電力の使用状況を「会社全体」「工場全体」「各生産ライン」「設備」のみならず「設備の各部の機械動作」まで階層化して把握可能。これにより機械動作のレベルまで突き詰めて電力ロスの原因を見つけ出し、対策を打つことができるという。

まずは会社全体の電力量を把握。どの時間帯で電力量が多くなっているかを確認し、その上で大きな電力量がかかる設備や動作を把握することで、効率的に節電対策を打つことができる。大量の電力を使う時間帯や機械動作を突き止めて節電対策をすることで、企業は電力会社との契約電力量を下げることができ、コスト削減ができる。

◆電力分析パッケージの特徴
・電力を階層化して把握
各設備に電力センサを取り付けることで、会社全体から各設備、機械動作まで5階層にして電力の使用状況をそれぞれ把握できる。これにより電力ロスの原因となっている設備や機械動作を見つけ出すことができる。古い設備でも対応できるため、漏れなく原因を追究できる。

・クラウドでどこでも分析
特別なソフトウェアは不要で、クラウド経由でどこでもリアルタイムに分析できる。電力量の推移と設備の動作タイミング、サイクルタイムのばらつきが見られる。設定した電力量を超えるとアラートとメールで知らせる。

・最大2年間保存
クラウドで最大2年間のデータを保存可能。期間は延長することもできる。

・自社工場で実証済み
新東工業の自社工場で実証済みのパッケージ。安心して使える。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000098.000058550.html

特別寄稿「センシング技術は如何に社会に貢献するのか」

小林 彬(こばやし あきら)
東京工業大学名誉教授
一般社団法人次世代センサ協議会会長
小林 彬

はじめに

 多方面においてセンシング技術への強い期待が寄せられている。計測技術の長い歴史を振り返ってみても、その時代のその時の状況の要請に従い様々な役割を果たし、多くの社会的貢献を為し続けてきたことが分かる。今、その延長線上にあって、計測技術は今後も益々種々の貢献に寄与して行くものと考えられる。
 しかし、そのようなことが一般にどれでだけ認識されているかと言えば、「知る人ぞ知る」の範疇に近いというのがその現状ではなかろうか。計測技術者としては極めて残念な状況ではある。
 そこで以下では、計測技術の役割を改めて見直すと共に、計測技術の正しい利活用が、公正な世の中の活動を齎すものであることをいくつかの視点から述べることとする。

1.計測技術の歴史の概観

 周知のように計測技術には度量衡に始まり現在に至るまで極めて長い歴史が有り、土木工学にも匹敵するものであり、社会の変遷に伴い、新しい機能を付加・実現すると共に、その時代の要請に応じた様々な役割を果たして来た。
 その役割の変遷を概観すれば図1のようなことが伺われる。

図1 計測技術の役割の変遷
図1 計測技術の役割の変遷

 税金が穀物の体積で納められた時代、徴税時の升は大きく、給料支払い時の升は小さくするようなことが起きれば公正さを欠くことは明らかで、計測の標準化は社会的に重要である。計測の客観性が公正さの基盤となる。
 また、地動説で有名なガリレオ・ガリレイは実務において望遠鏡の制作に熱心で、いち早く敵船の到来を検知し、有効で正確な軍事情報の獲得・提供に寄与したと言われている。勿論、一方で、現象を究めることを通じ物理学等真理の探究に大きく貢献してきたことも事実である。
 他方、計測の歴史を、計測すべき量の種類の個数及びその質の変遷の観点から概観して見た物が以下の図2である。

図2 計測量種類の量的・質的増大の歴史
図2 計測量種類の量的・質的増大の歴史

 図2において重要なことは、20世紀半ば、第二次世界大戦後いわゆるオートメーションが始まったが、この本質は、製造業における製造工程の機器計測化・自動化であり、センシング技術の別の効用が発揮され、同時に計測すべき量の種類の爆発的増加が起きていることで、極めて興味深い。
 また、単に物理量に留まらない感覚量や安全・安心にまつわる新しいインデックス(指標)を介在させた安全社会の構築にも寄与しようとしていることも留意すべきで、安全・安心を客観的に保証できるのは計測技術だけである。(図3参照)

図3 安全・安心を客観的に確認するセンシング技術
図3 安全・安心を客観的に確認するセンシング技術

2.DX化が叫ばれる中で

 周知のように、DX(Digital Transformation)とは、スウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した概念で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされる1)
 また、企業がビジネス環境の激しい変化に対応する為に、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを考慮し、製品やサービス、ビジネスモデルを進化させ、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性確保を目指すことでもある2)
 データとデジタル技術を活用する点がポイントであり、どのようなデータを利用しどのようなデジタル技術と連携させるのかが問題解決の鍵で、ここにもセンシング技術が果たすべき新たな役割がある。しかも広範囲の多様性と可能性があることは想像に難くない。
 即ち、正にビッグデータの領域に該当するものでもあり、対象を広義の社会システムとして認識し、その状況・状態のオンライン的把握を目指すべきことは必然である。そうだとすれば、そこには、センシング技術の側面から考えて潜在的で未開の膨大な分野が広がっている。
 この場合、DXを実現する中核をなすのはSoT、IoT、AIであり、それらの緊密な連携が図られるようシステム構成を工夫することが重要である3)。(図4参照)
 なお、三者の緊密な連携により目指すものは、システムの広い意味での品質を確認する有効な評価インデックスの創出であり、その意味での新センシング系の実現である。
ここで、SoT、IoT、AIの意味と役割分担は以下の通りである。

  • SoT:Sensor of Things
    所要の箇所にセンサを積極的に設置し、必要なデータをオンライン的に拾い挙げる考え方で、IoTに併行する形で主張されている。
  • IoT:Internet of Things
    インターネットによるデータの効果的伝送・収集システム
  • AI:データの活用
    新たなセンシング技術を創出する様々なアルゴリズムの開発
図4 DXの実現:SoT、IoT、AIの緊密な連携活用
図4 DXの実現:SoT、IoT、AIの緊密な連携活用

3.膨大で潜在的な新センシング技術市場の開拓

 センシング技術の新たな役割を考える上で重要なことは、センシング技術が何に適用されようとしているのかである。
 この点、従来センシング技術が、自動車産業やプロセス産業を中核とする製造業において利活用されてきたのに対し、今後は社会インフラを始めとし、これまでとは全く異なる非製造業分野への適用分野拡大への機運が高まっているのは見過ごすことのできない大きな変化である。
 即ち、センシング技術から見たとき、対象の状況を示すパラメータの機器計測化、見える化、情報化が遅れている、あるいはそれらがほとんど実施されていない領域・分野が新分野であり、図5に示すように数限りなく存在している。(図5参照)

図5 潜在的で膨大なセンシングニーズの開拓
図5 潜在的で膨大なセンシングニーズの開拓

 そのような分野は極めて広く、多種・多様であり、具体的ニーズは必ずしも明確にはなっていない。その意味でニーズは潜在的である。しかし膨大な多量のセンシングニーズがあるとされる。また、分野が異なれば、見える化すべき評価インデックスも異なってくるものであり、評価インデックスを確立するためには、その顕在化手法の開発を鋭意検討しなければならない。

4.新分野への展開と新しいセンシング技術の開発

 前述したように、SoT、IoT、AIの緊密な連携によりDX化を始める訳であるが、これに伴い新しい分野へ展開する為のセンシング技術の開発に直面することになる。
 ここで重要なことは、新しい分野ということは単にこれまでと異なる分野ということ以上に、その分野にとっても新しい「こと」を始めることを意味し、それによって世の中が変わって行くと言う事である。また、新しいということは、何らかの意味で、新しい機能が提供されたり、これまで以上の性能向上が図られたりすることの筈である。
 従って、世の中を変化させる為には、それなりの新しい機能・性能を持つシステムの実現が要求される。さらに、新しい機能・性能を持つシステムが実現されたかを客観的に確認・保証することも必要となる。その為には然るべき観点からの客観的評価は必須で、この役割を担うのが正にセンシング技術である。
 即ち、センシング技術の新分野への展開に伴い、新しい評価の観点に立った、新しい測定項目への対応(評価インデックスの創出と評価アルゴリズムの整備)が要求され、ここには、新システムが新測定項目を要求するばかりでなく、逆に新測定項目が新システムの誕生を促すと言った、双方向のインスピレーション(inspiration)関係が見出されるのである。
 なお、分野が異なることによる測定項目等の違いを製造業(例えばプロセス産業)と非製造業(例えば社会インフラ;道路橋梁)とで比較した例が図6である。(図6参照)

図6 分野が違えばセンシング技術も異なる
図6 分野が違えばセンシング技術も異なる

 図6にも見られるように、「センサを制する者はシステムを制する!」の言葉にある通りであり、このような効用を考えると、センシング技術が世の中を向上させまた変革させる原動力ともなることが分かるが、これはセンシング技術が社会に貢献できるまた別の側面であり、留意すべき役割である。

5.センシング技術導入の効用:生産性向上1.0 から 2.0へ

 既に触れたように、嘗て、オートメーション化の時代、デジタル技術活用は多くはなかったかもしれないが、今から振り返ってみると、DX化の先触れではあった。そこでは結果として製造業における生産性向上が図られ、世の中は大きく変化した。
 今改めて、DX化が叫ばれ、製造業の分野を越え、一般社会を中心に、センシング技術の展開がされようとしており、そのことの新たな意味は、人間作業に関わるリードタイム短縮を核とする新たな生産性向上にあると考えられる。
 人間社会における活動形態を大胆に分類すれば次の3形態がある。

  1. ① 製造作業
    製造業に代表される、製造設備を用いる製造作業
  2. ② 社会インフラ作業
    交通インフラ等、社会インフラ設備を利用して実現される作業
  3. ③ 人間作業
    行政活動を始め、社会規範・人間の判断・行動に基づき行われる、広くサービス作業

 この内、①は過去オートメーション化の実績もありDX化が最も進んでいる作業である。勿論、今後も更なる進化を目指し、持続的開発がなされることを期待したい。
 一方、②は、近年世間の検討対象となり、様々な技術開発も行われ、今後開発されたセンシング技術の社会実装が展開される作業である。
 他方、③は、最もDX化が遅れている、未開拓な作業分野で、ここでの機器計測化・見える化。自動化のため種々センシング技術を開発すべき作業であり、この分野を開拓することで大きく世の中が変革されると考えられる。
 この点に気付いていない人が多いかもしれないが、結果として社会に大きな影響を与える要因になり得るのである。即ち、リードタイムの短さは「もの・こと」を変革させるスピードそのものであり、ビジネスにおける競争の原点でもある。
 ここで、オートメーション化の時代の生産性向上を「生産性向上1.0」と呼ぶとすると、新たな生産性向上は「生産性向上2.0」と呼ぶのが相応しい。なお、図7は両者を比較してその特徴を図式化したものである。

図7 生産性向上1.0と2.0の対比
図7 生産性向上1.0と2.0の対比

 図7に関し、自然災害減災ついて、センシング技術の複合計測化、予測技術の必要性等、センシング技術の新しい役割と期待が議論されているが、ここでは割愛したい。
ともかく、センシング技術には社会の変革に向け多様な可能性があり、正に、社会のDX化における基盤技術を担うものである。

6.客観的事実の提供を目指して

 前章までにおいて、センシング技術を俯瞰的に捉えたとき、社会的貢献としてどのようなことに寄与できるのかを考えてきたが、最後にセンシング技術の持つ特殊であるが重要な役割について2・3述べることにしたい。
 これは、一般には意識されていないかも知れないが、センシング技術の役割として一番大切なことが「客観的で冷静に、対象の状況につき正しく情報を収集し、それを示しつつ、場合によって事実の検証を行うこと」にあることに関係している。

6.1 サッカー競技におけるVAR(ビデオアシスタントレフリー)の衝撃

 未だ記憶に新しい人もいると思うが、サッカーのカタール・ワールドカップ(W杯)で、日本は2022年12月1日、スペインに2-1で逆転勝ちし、決勝トーナメント進出を決めた。1-1の後半6分に田中碧が2点目を入れたが、直前にゴールラインを越えていたのではないかと海外で論争に発展した。これに決着をつけたのがVARで、FIFAは「使用できる証拠では、ボールは完全には外に出ていなかった」と見解を示している。
 使用できる証拠の内にVARが入っていると考えるが、以下は、筆者のセンシング技術者としての私見も交えた見解である。
 テレビ放送によれば、基本情報は、多方向からの有効なビデオ画像を採用し、問題となる瞬間にボールがどの位置にいたのかを同時分析した画像を明示するものであった。この場合次のようなことがポイントになると考えられる。

  1. 問題となる瞬間(田中碧がボールを蹴った時刻)の特定:画像のフレームレート(何枚/秒)は
  2. その時刻にボールを写している多方向からの画像の切り出し:ビデオ画像間の時刻同期性は
  3. 多方向からの画像情報と三角測量的解析によるボール位置の同定
  4. ゴールラインとボール位置の関係を明らかにする画像の表示

 以上のような処理に基づくと考えられる情報が提供され、その上で、ボールは完全には外に出ていなかったと決定された。ルール上は審判が最終判断するものとされている。
 我々の立場から考えれば、人間の知覚では追いつけない状況の判断について、客観的で冷静に必要な情報を把握するものがセンシング技術である。
 なお、以上のような処理は、バトミントンや硬式テニスの分野でもオンライン判定に用いられており、今後益々利用の輪が広がると想像される。

6.2 数値モデル出力は現実ではない:現実を把握するのはセンシング技術

 デジタル技術が大きな発展を示しその利用は広く行き渡り、社会的にも多くの恩恵を受けている。その便利さは言うまでもなく、チャットGDPに見られるようにその可能性は通常の人間の活動の範囲を脅かすまでになろうとしている。
 しかし、数値モデルの出力は飽くまで数値出力値であり現実ではない点は充分留意して対応する必要がある。勿論、程度の差の範囲に収まることは多く、その効用もある。天気予報を取り上げてみても、予報がそう正確ではないことを知りつつも、適当な対応を準備することは我々も日常よく経験することである。一方、予報には洪水予想がなかったのに、洪水が発生したということになればことは重大であり、このような意味では数値モデルの精度を今後も持続的に向上させて行くことが望ましい。
 問題は両者に基本的差違が生じた場合である。ややもすると、経済性や簡便さから数値モデル出力に引きずられるケースが見られるとの話も聞くが、本末転倒であり、センシング技術による現実の正しい把握を基本としなければならない。
 数値モデル出力(計算機シミュレーション)が現実と異なる最大の問題点は、現実には起こり得る現象への影響要因を全て隈なく考慮することが難しい点にある。(現実には発生している、分布的境界条件、突発的・予想外的状況要因、等)

6.3 計測による事実の確認無くして何の証明・検証か

 最近の傾向として、大学等教育研究機関において、講義も含めセンシング技術への関心が薄らいでいるとの話を聞くことがある。大学等においては、新しい技術・理論が創造されその新規性が競われる訳であるが、事実として新しい「物」が創出されたことが証明・検証されなければ議論は無意味である。
 この点、証明・検証手段として計算機シミュレーションが用いられているのは問題が多い。数値モデルは現実ではないからで、先ず、数値モデルが現実を高精度に近似するものであることを証明するまたはそれが保証されていることが大前提で、このためには、センシング技術により現実を正しく把握する必要がある。単に計算機シミュレーションだけでは証明・検証にはならないのである。

おわりに

 以上、センシング技術が社会に如何に貢献するのかに就いて考察した。幅広い貢献につき実績もあり今後の可能性も多大である。従って、センシング技術の重要性を改めて再認識すると共に、その利活用に鋭意努め、延いては、潜在的なセンシングニーズを開拓し、膨大なセンシング市場を実現しようではありませんか!



参考文献

  1. https://www.i-learning.jp/topics/column/useful/digitaltransformation.html
  2. https://www.sas.com
  3. 小林彬:センシング技術のDX 社会に向けた役割と将来展望、計測と制御、第62巻第07号(2023年7月)


【著者紹介】
小林 彬(こばやし あきら)
東京工業大学 大学院理工学研究科 機械制御システム専攻 教授
東京工業大学 名誉教授
次世代センサ協議会 会長

■略歴
昭和44年03月 東工大理工学研究科博士課程修了(制御工学専攻)、工学博士
昭和44年04月 東工大工学部 助手 (1969.04)
昭和50年08月 東工大工学部 助教授 (1975.08)
昭和62年12月 東工大工学部 制御工学科 教授 (1987.12)
平成5年4月  東工大工学部 制御システム工学科 教授 (1993.4.)
平成6年4月  東工大総合情報処理センター教育・研究専門委員会委員
平成12年4月 東京工業大学 大学院理工学研究科 機械制御システム専攻
平成13年4月~平成15年3月
東京工業大学 保険管理センター所長
平成17年03月 東京工業大学 大学院理工学研究科 定年退職 東京工業大学名誉教授
平成17年04月 大学評価学位授与機構客員教授
平成17年04月 帝京平成大学現代ライフ学部教授
平成22年04月 帝京平成大学現代健康メディカル学部教授
平成24年03月 帝京平成大学定年退職

■賞罰
昭和48年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
昭和55年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
昭和61年07月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
平成5年5月 日本ファジィ学会;著述賞。「あいまいとファジィ」
電気学会編、オーム社発行(1991)
平成4年10月 (社)日本産業用ロボット工業会;工業会活動功労者賞
平成8年07月 計測自動制御学会フェロー受称
平成17年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
平成15年10月 東京都科学技術振興功労者賞
平成23年10月 経済産業省産業技術環境局長

見えないイオンの濃度分布を可視化する半導体化学イメージセンサ Chemical imaging sensor system for visualization of chemical species(1)

吉信 達夫(よしのぶ たつお)
東北大学 大学院医工学研究科
教授
吉信 達夫

1. はじめに

 さまざまな分野において、試料中に含まれる特定の化学種(イオンや分子)の分布を観察・定量したいという需要があるが、そうした場合の第一選択肢は光学的な観察手法であるといえる。測定したい化学種が有色の場合はもちろん、そうでない場合も何らかの呈色反応や発光現象を利用することができれば標的化学種の濃度分布を可視化することができる。医学・生物学分野では古くから標本の染色が用いられ、さまざまな染色法や色素が開発されてきたが、さらに近年はデジタルカメラの性能向上により高解像度・高精細の画像や動画を高感度に得ることができ、顕微鏡や分光学的手法との組み合わせも容易である。
 一方、何らかの制約から光学的な観察手法が適さない応用も存在する。生体試料における色素の毒性が問題となるケースはその一例である。また、試料に光を当てると反応してしまう場合や、空間的な制約から光学系を用いることができない場合もある。そのような場合に適用できるセンサ技術の1つとして、本稿では光走査型の半導体化学イメージセンサについて紹介する。

2. 半導体化学センサデバイス

2.1 ISFET

 半導体デバイスを用いた化学センサとしては1970年にBergveldが提唱したイオン感応性電界効果トランジスター(Ion-sensitive field-effect transistor; ISFET)が実用的にも広く普及している[1]。ISFETは図1(a)のようにMOS型電界効果トランジスター(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor; MOSFET)のメタルゲートを除去して絶縁膜表面が露出した構造を有し、これをセンサ面として試料溶液と直接接触させることにより、標的化学種の濃度に応じた電位差が表面に生じる。絶縁膜表面の電位に応じて半導体中の電荷分布が変化し、ソース-ドレイン電極間のコンダクタンスが増減することを利用して信号を読み出す。ポータブルなpHセンサとして市販されているほか、センサ面を感応膜で修飾することによってさまざまな化学種に対応した化学センサ・バイオセンサが開発されてきた。

図1 (a)ISFET、(b)LAPSおよび(c)化学イメージセンサの模式図
図1 (a)ISFET、(b)LAPSおよび(c)化学イメージセンサの模式図

2.2 LAPS

 その後、1988年にHafemanらによって提唱されたのがLAPS (light-addressable potentiometric sensor) である。LAPSの場合も、標的化学種の濃度に応じて絶縁膜表面の電位が変化し、半導体中の電荷分布が変わるところまではISFETと同じであるが、それを読み出すために半導体を光照射して発生する光電流を用いる点が異なる。光はセンサ面の上方から(すなわち試料溶液を透過する形で)照射することもできるが、それとは反対側のセンサ裏面から照射することもでき、その場合、試料そのものには光が当たらない(図1(b))。
 ISFETと比較した場合、LAPSは以下の特長を有する。(1)ISFETの測定領域はゲート領域に固定されるが、LAPSの測定領域は光を照射する範囲を変えることで自由に定義できる。そのため、1枚のセンサ上に多数の測定点を設けて複数の検体を測定したり、あるいは1枚のセンサ上に異種感応膜を集積して複数の化学種を標的とするマルチアナライトセンサを作製することが可能である。(2)ISFETを製造するためには、トランジスター構造を形成して配線する工程が必要であるが、LAPSは半導体基板上に絶縁膜を堆積しただけの単純な構造を有する。センサを消耗品として扱わなければならない応用(使用環境のためにセンサ面が劣化しやすい場合や、衛生管理上ディスポーザブル使用が不可欠な医療用途等)において、センサを安価に製造できることは大きな利点である。(3)シリコンウェハ全面を測定領域として用いることができるので大型試料に対応できる。
 ISFETとLAPSは最終的な信号の読み出し方法が異なっているが、両者ともセンサ面上で標的化学種の濃度に応じた電位を発生させる機構は共通であるため、ISFETで使われてきた絶縁膜や感応膜の多くはLAPSにおいても利用可能である。LAPSのセンサ面上にイオノフォアを含む感応膜を作製することによってさまざまなイオン種の濃度測定が行われているほか、酵素反応や抗原-抗体反応、DNAのハイブリダイゼーション、アプタマーによる分子認識などバイオセンサへの応用も盛んに研究されている[3]。

2.3 化学イメージセンサ

 上述のとおり、LAPSは1枚のセンサで多検体あるいは多項目の測定に対応可能な技術として考案されたものであるが、これを標的化学種の濃度分布の可視化に応用したものが本稿で紹介する光走査型化学イメージセンサである[4,5]。なお、これとは別に集積回路技術を用いてISFETをアレイ状に並べて配線したもの[6]やCCD技術を用いた化学イメージセンサデバイス[7]も開発されている。
 光走査型化学イメージセンサシステムの典型的な構成の模式図を図1(c)に示す。レーザー光を1点に集光する光学系を備え、XYステージまたはミラースキャナでセンサ裏面を光走査する。光電流信号はセンサ裏面のオーミック電極から取り出し、トランスインピーダンスアンプで電圧信号に変換したのちAD変換を行ってPCに収録する。励起光は一定の周波数で変調されており、光電流信号に含まれる当該周波数成分をロックイン検出し、各画素位置での信号を記録して標的化学種の濃度分布画像を生成する。空間的な分解能は集光系の性能と半導体中におけるキャリアの拡散距離によって決まり、最も高い場合でサブミクロン程度である。
 一方、時間的な分解能に関しては、走査型の手法であるため各画素データを逐次的に収集する場合、画素数に比例した時間を要するという問題がある。例えば1画素あたり10ミリ秒の測定であっても、128×128画素の測定には約3分の時間を要する。そこで考案されたのが周波数多重型の測定システムである。各画素位置をそれぞれ異なる周波数で変調された多数の光で同時に照明することにより、各周波数成分が重畳した光電流信号が得られ、これを各周波数成分に分解すれば全画素位置のデータを同時に取得できる。現在までに64チャネルの周波数多重化で毎秒200コマの動画記録あるいは毎秒30コマのリアルタイム画像生成が達成されている。

動画 リアルタイムpHイメージングのデモ動画



次回に続く-



参考文献

  1. Bergveld P. 1970. Development of an ion-sensitive solid-state device for neurophysiological measurements. IEEE Trans. Biomed. Eng. 17, 70-71.
  2. Hafeman DG, Parce JW, McConnell HM. 1988. Light-addressable potentiometric sensor for biochemical systems. Science 240, 1182-1185.
  3. Yoshinobu T, Schöning MJ. 2021. Light-addressable potentiometric sensors (LAPS) for cell monitoring and biosensing. Current Opinion in Electrochemistry 28, 100727.
  4. Nakao M, Yoshinobu T, Iwasaki H. 1994. Scanning-laser-beam semiconductor pH-imaging sensor. Sens. Actuators B 20, 119-123.
  5. Yoshinobu T, Miyamoto K, Werner CF, Poghossian A, Wagner T, Schöning MJ. 2017. Light-addressable potentiometric sensors for quantitative spatial imaging of chemical species. Annual Review of Analytical Chemistry 10, 225-246.
  6. Yeow TCW, Haskard MR, Mulcahy DE, Seo HI, Kwon DH. 1997. A very large integrated pH-ISFET sensor array chip compatible with standard CMOS processes. Sensors and Actuators B 44, 434-440.
  7. Sawada K, Mimura S, Tomita K, Nakanishi T, Tanabe H, Ishida M, Ando T. 1999. Novel CCD-based pH imaging sensor. IEEE Transactions on Electron Devices 46, 1846-1849.


【著者紹介】
吉信 達夫(よしのぶ たつお)
東北大学 大学院 医工学研究科 バイオセンシング医工学分野 教授

■略歴

  • 1987年京都大学工学部電気工学第二学科卒業
  • 1989年京都大学大学院工学研究科電気工学第二専攻修士課程修了
  • 1992年京都大学大学院工学研究科電気工学第二専攻博士後期課程単位取得退学
  • 1992年大阪大学産業科学研究所 助手
  • 1992年京都大学 博士(工学)
  • 1996年大阪大学産業科学研究所 講師
  • 1999年ドイツ・ユーリッヒ研究センター薄膜イオン技術研究所 客員研究員
  • 2001年大阪大学産業科学研究所 助教授
  • 2005年東北大学大学院工学研究科電子工学専攻 教授
  • 2008年東北大学大学院医工学研究科 教授
  • 現在に至る

レーザー超音波可視化検査技術(1)

鈴木 修一(すずき しゅういち)
つくばテクノロジー(株)
常務取締役/開発製造部部長
鈴木 修一

1. はじめに

 工場や発電所といった施設の配管や、自動車や航空機の部品、さまざまな電気機械に用いられる電子部品など、それ自体を壊すことなく、欠陥や劣化の状況を検査する非破壊検査技術は、保守検査や製品評価が広く求められるようになった昨今、あらゆる場面でその重要性を増している。非破壊検査の手法としては、人が目で直接物体を確認する目視検査や、放射線を透過させ得られた撮影像を調査する放射線透過検査などがあり、超音波を試験体に伝搬させ、欠陥から反射した反射波(エコー)の強さと反射の範囲を元に、傷の大きさや形状を推定する超音波探傷検査もその一つである。
 超音波探傷検査は、微小な亀裂や剥離を検出することができるという特徴を有する。手順としては、探触子を対象に当てて照射を行い、超音波を発生・伝搬させて、その超音波信号を読み取るというものである。そのため探触子を当てることが困難な複雑な形状の対象の検査や広い範囲の検査には不向きであったり、受信した超音波信号が傷の有無とその程度によってどのように変化するのかという専門知識が要求されるといった難しさもある。
 一方、本稿で紹介するレーザー超音波可視化検査技術は、上記の超音波探傷検査におけるデメリットをクリアする、当社発の世界初となる技術である。すなわち、直接探触子を当てるのではなく、離れた場所からレーザーを照射することで超音波を発生させるため、安全に、かつ対象の形状を問わず検査が可能であり、反射波の伝搬の様子をその場で動画映像化し、波の乱れの有無を確認すればよいため、専門知識がなくとも分かりやすく、すぐに欠陥の発見が可能となる。
 本稿では、このレーザー超音波可視化検査技術の基本原理について説明したのち、実際の検査例を紹介する。

2. レーザー超音波可視化検査技術の基本原理

 レーザー超音波法とは、レーザー光を用いて対象物での超音波発生や検出を非接触で行う技術である。
 仕組みとしては、検査対象にレーザーを照射すると、照射された部分ではレーザーの高密度エネルギーによって生じた熱歪みにより超音波が発生し、検査対象上を伝搬する。その超音波信号を「接触式計測」では対象物に取り付けた圧電受信センサ(最大8個)で、「非接触計測」では非接触で受信可能なレーザードップラー振動計などを用いて検出し、検査データを取得して、パソコンのハードディスクに記録する。そして検査データを再構成することで、画面上で超音波の伝搬の様子を動画で視ることができるため、波の乱れから欠陥や異常の有無を検出することができるのである。
 このレーザー超音波可視化探傷技術を用いた非破壊検査装置が、当社が開発・製造・販売するレーザー超音波可視化検査装置(Laser Ultrasonic Visualizing Inspector, LUVI)である。
 LUVIのシステム構成図を図1に示す。LUVIでは、レーザーとガルバノミラーと高速A/D変換器を利用した同期システムにより、最大8,000照射点/秒のレーザー走査速度を実現している。例えば、標準的な200×200走査点の計測を走査速度4,000照射点/秒で行えば、僅か10秒のレーザー走査で動画映像を生成できる。
 以降では、このLUVIによる検査応用事例について紹介する。

図1 レーザー超音波可視化システム構成図
図1 レーザー超音波可視化システム構成図


次回に続く-



参考文献

  1. 鈴木 修一・高坪 純治・王 波:レーザー超音波可視化探傷法を用いた非破壊検査装置のご紹介、強化プラスチックス,69-5,30-33(2023)
  2. 高坪 純治:励起用パルスレーザー走査法による三次元物体表面を伝わる超音波の可視化、非破壊検査,57-4,162-168(2008)
  3. 高坪 純治・王 波・鈴木 修一・劉 小軍・齊藤 典生:レーザー超音波可視化探傷技術の新展開、光アライアンス,31-6,6-10(2020)


【著者紹介】
鈴木 修一(すずき しゅういち)
つくばテクノロジー株式会社 常務取締役 兼 開発製造部部長

■略歴
1992年日本大学卒。計測機器メーカーの開発部門に20年間勤務し、計測機器のハードウェア及びソフトウェア開発業務に従事。2012年よりつくばテクノロジー株式会社にて、開発・製品化・製造全般を担当。第6回ものづくり日本大賞優秀賞受賞。

中赤外光熱変換による化学組成の可視化技術(1)

加藤 遼(かとう りょう)
徳島大学
ポストLEDフォトニクス研究所
特任助教
加藤 遼

1.

 生体内で起きる様々な生理現象や生体機能を理解するためには、生体内の分子の分布や状態、さらには分子同士が形成する高次の構造体やオルガネラなどを高い時空間分解能で可視化することが重要である。17世紀に光学顕微鏡が開発され初めて生命現象が可視化された後、様々な光学に基づく可視化技術の開発が行われてきた。この背景には、近年のレーザー技術や光検出素子、光学フィルタ、計算処理技術など、さまざまなテクノロジーの進歩がある。特に、波長が400〜800 nmの可視光を利用した光学顕微鏡は多様な分子物性を示す光と物質の相互作用を高い空間分解能で観察できるため、生命科学から医学や歯学など広範な分野で応用されている。。
 図1は、COS7細胞の光学顕微鏡像である。読者の中にも、細胞の光学顕微鏡像を見たことがある方が多いと思われる。光学顕微鏡は当たり前のように使用されているが、細胞の形状やオルガネラの観察が鮮明にできるのは、光学顕微鏡の空間分解能が光の回折限界によって決まるからである。回折限界は、おおよそ光の波長の半分程度、つまり光学顕微鏡の空間分解能は約400 nm程度である。動物細胞では、数十μm程度の外形に数μm程度のオルガネラや小器官が存在し、シアノバクテリアのような原核微生物であってもせいぜい1μm程度の大きさである。このサブミクロンという高い空間分解能により、光学顕微鏡で細胞やバクテリアを鮮明に観察することができる。一方で、明視野顕微鏡や位相差顕微鏡といった通常の光学顕微鏡で可視化できる物性は、屈折率や誘電率、透過率などの違いである。これらは、細胞内の構造を可視化できる場合もあるが、分子特有の光学信号ではないため、細胞内の分子を区別することや分子の状態を観察することは難しく、生命現象や医学的に有意な知見を得ることは難しい場合が多い。

図1:COS7細胞の光学顕微鏡像
図1:COS7細胞の光学顕微鏡像

2.

 生命科学や医学分野において、最も一般的で広く用いられている光学顕微鏡に基づく可視化技術は蛍光顕微鏡である。蛍光顕微鏡では、標的分子に蛍光を発する分子を標識し、その蛍光を計測することで、分子選択的なイメージングが可能となる。蛍光は励起断面積が大きく明るい光学信号であるため、高い信号対雑音比と高い時間分解能を持ち、細胞内の分子ダイナミクスを可視化する強力な顕微鏡である。蛍光は励起断面積が大きく明るい光学信号であるため、蛍光顕微鏡は高い信号対雑音比と高い時間分解能を持ち、細胞内の分子ダイナミクスを可視化する強力な顕微鏡である。、蛍光分子を細胞内の分子に標識することによる生体機能の阻害や、蛍光の退色により長時間観察ができないという課題も存在する。そのため、蛍光標識を必要としないラベルフリーな計測法の開発も重要視されてきた。
 ラベルフリーかつ分子選択性の高い可視化技術の代表的な手法は、振動分光顕微鏡である(ラマン顕微鏡、中赤外顕微鏡)。ラマン分光法や中赤外分光法では、分子振動を反映する光学効果(ラマン散乱・赤外吸収)を計測することで、細胞内のタンパク質や核酸などの分布をラベルフリーで可視化できる。また、分子の振動情報を直接観察できるため、生体内での分子の化学構造変化や官能基に関する情報も分析できる。特に、可視光を利用したラマン分光法はサブマイクロ空間分解能を実現でき、細胞内のタンパク質や脂質の物性の可視化や、ミトコンドリアや細胞核などの細胞内小器官の可視化などに広く応用され、生命科学の領域において新たな展開をもたらしてきた[1]。しかしながら、ラマン散乱光の散乱断面積は小さく(約10-30程度)微弱な光信号なので、1枚の画像を撮像するには少なくとも数十分から数時間を要する。そのため、細胞内の分子のダイナミクスや生きた試料の観察は困難である。また、散乱断面積の小ささは検出できる分子の濃度が高いことを意味し、細胞内で分子が高濃度に存在する成分からのラマン散乱しか検出できないという課題もある。近年、非線形光学効果を利用したコヒーレントラマン顕微鏡の開発も進んでおり、高速なラマンイメージングが可能となった。しかし、高強度のパルス光を使用するため、生体への光ダメージが懸念される点や、検出できる分子濃度が劇的に向上しない点など、解決されていない課題も依然として存在する。
 その点、中赤外吸収分光はラマン分光に比べて吸収断面積が8桁以上も高いため、低濃度の成分でも検出できるという特長がある。また、光学応答の効率が高いということは、高速イメージングも可能であるということであり、生体イメージングにおいて非常に大きなポテンシャルを持っている。また、本稿では詳細には触れないが、ラマン散乱に比べて中赤外吸収分光は生体内で重要な分子、例えばタンパク質や核酸の分子構造や物性を感度高く分析できるため、生体機能の解明に適した可視化技術である。しかしながら、前述の通り、顕微鏡の空間分解能は使用する光の波長によって決まる。中赤外顕微鏡で使用される波長は3〜20 µmであるため、空間分解能は約10 µm程度に制限される。細胞内の分子複合体やオルガネラを観察するためには、少なくともサブマイクロメートルの空間分解能が必要であることは、可視光を利用した光学顕微鏡像からも明らかである。また、水は中赤外光を吸収するため、溶液中の細胞やバクテリアの中赤外分光分析は困難である。これらの課題を克服することができれば、細胞内の分子ダイナミクスをそのままの状態で観察し、生命科学、医学、歯学などのバイオメディカル応用が拓かれると筆者らは考えた。



次回に続く-



参考文献

  1. T. Minamikawa, M. Ichimura-Shimizu, H. Takanari, Y. Morimoto, R. Shiomi, H. Tanioka, E. Hase, T. Yasui, K. Tsuneyama, Sci. Rep. 10, 1 (2020)


【著者紹介】
加藤 遼(かとう りょう)
徳島大学 ポストLEDフォトニクス研究所 特任助教

■略歴

  • 2021年4月 – 2022年5月徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 特任研究員
  • 2022年6月 – 現在徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 特任助教
  • 2021年6月 – 現在理化学研究所 メタマテリアルグループ 客員研究員
  • 2021年10月 – 現在JST ACT-X研究者「環境とバイオテクノロジー」

可視化技術を利用した近傍電磁界測定システム(1)

根津 伸丞(ねづ しんすけ)
(株)ノイズ研究所
根津 伸丞

1 はじめに

私たちの身の回りには、多くの電子機器から発する見えない電磁波(ノイズ)が飛び交っている。
その電磁波の強度(レベル)が小さければ問題は無いが、大きいと様々な障害を与える可能性がある。
例えば、飛行機内でスマートフォンやタブレット端末を利用する際には、電波を発さない状態(機内モード)にしなければならないが、それは機内に搭載している電子機器が誤作動を引き起こしたり、離着陸時の通信障害を与えたりする可能性があるからである。
このような周囲の電子機器に悪影響を及ぼす原因となる電磁波を電磁妨害波と呼び、電磁妨害波が他の電子機器に与える現象を電磁干渉(EMI : Electromagnetic Interference)と呼ぶ。
EMIによる様々な電子機器間のトラブルを防止するために、国や地域を超えた国際規格と各国が定めた国内規格が存在し、製品を流通させるためには、それぞれの規定をクリアしなければならない。
規格では、機器から空中に放射される電磁界の強度を測定するエミッション測定という測定方法が示されており、規定の強度内に収まっていることが求められる。
このエミッション測定は、電波暗室と呼ばれる外部からの余計な電磁波を遮断し、被測定物から輻射される電磁波のみを測定できる特殊な部屋で行われ、高額の費用が発生する(図1)。
また、測定結果が規定レベルに入らなかった場合は、何らかの対策を講じて規定に入るまで何度でも測定を行わなければならず、多くの電子機器メーカーはその手間とコストに悩まされている。
当然、設計段階で独自の設計ルールに基づいて電磁波を抑える配慮を行っているが、様々な要因で予期しない電磁波が発生することもある。それを抑えるために一箇所対策を行ってもまた別の問題が発生する「もぐらたたき」になることも珍しくなく、対策には充分な知識や経験、勘といった専門性の高いスキルが求められる。なによりその行為を難しいものにしている大きな要因が「電磁波が見えない」ということである。また、対策は仮説を立てて検証を行うのが一般的であるが、測定作業というハードルが高いため、そのサイクルを簡単に回せないというのも対策行為を困難にしている。
この問題の解決手法の一つとして、見えない電磁波を手軽に分かりやすく可視化する電磁波可視化システム(可視化技術を利用した近傍電磁界測定システム)を開発した。
空間電磁界可視化システム:https://www.noiseken.co.jp/products/rfsys/emission-measurement-system/2273/

図1:電波暗室のエミッション測定環境イメージ/(写真 e・オータマ様 10m法暗室内部)
図1:電波暗室のエミッション測定環境イメージ
(写真 e・オータマ様 10m法暗室内部)

2 システム概要

本システムは、電磁界プローブで測定したデータと被測定物の実画像を重ね合わせることで、電磁波の発生箇所を手軽に可視化するシステムを目的としており、電磁波を捉えるプローブとそれを解析するスペクトラムアナライザやオシロスコープ、データを処理するPC、そして被測定物を写すWebカメラと比較的安価で入手可能な製品で構成している(図2)。

図2:システム全体イメージ
図2:システム全体イメージ

<測定方法>
被測定物をカメラで写し、その上を電磁界プローブで手動測定を行う。
測定を行った箇所は、予め設定した電界強度に合わせた色を実画像上に重ね合わせて表示する(図3)。

図3:ノートPCの電磁波を可視化したイメージ
図3:ノートPCの電磁波を可視化したイメージ

3 可視化技術の説明(原理)

本システムの電磁界可視化は大きく分けて、電磁界プローブの位置認識、電磁界プローブの信号解析、位置と信号解析結果による色分け表示の3つの要素からなる。各要素を以下で説明する。

3-1 電磁界プローブの位置認識

本システムにおいて電磁界プローブの位置認識は色を用いて行う。あらかじめ電磁界プローブのセンサ部に色の付いたスポンジ等を被せることにより、プローブを色認識できるようにしておく。画像認識はリアルタイムで監視を行い指定された色(色相、彩度、明度)を元に検出し、重心を求めることで電磁界プローブの2次元位置を割り出している。
電磁界プローブの認識率を上げるために、なるべく鮮明な画像にしておくことや、プローブの色が他と重なっていない色に指定し、反射光が映り込まないことなどが求められる(図4)。

図4:プローブ認識確認画面例
図4:プローブ認識確認画面例

3-2 電磁界プローブの信号解析

電磁界プローブの信号に対してスペクトラムアナライザやオシロスコープ等の計測器を用いて電磁界強度と周波数の解析を行う。多くのスペクトラムアナライザが採用している掃引型には掃引時間が存在し、この掃引時間中に電磁界プローブの位置が移動すると、異なる位置の信号が含まれてしまい正確なデータとはならない。そのため電磁界プローブの位置が移動した場合にはデータの破棄を行う。

3-3 位置と信号解析結果による色分け表示

電磁界プローブで測定した信号を強度に応じた色分けで実画像に重ねて表示することで、今まで見えなかった電磁界の可視化を実現する。
電磁界を色分けした画像(電磁界分布画像)には測定区画の分解能が存在し、予め実画像に区画割を行い区画単位で色分けを実施している。区画のサイズは測定物の大きさ、電磁界プローブの大きさ及び希望の分解能によって決定する(図5)。

図5:電磁界分布の分解能例
図5:電磁界分布の分解能例

3-4 測定における留意点

本システムでは電磁界プローブを用いて手動で測定するため、測定には再現性の確保と処理速度が課題となる。
電磁界プローブは様々な大きさが存在しており、周波数や向きによる感度特性がある。そのため、適切な感度を得ることができるプローブを選択し、再現性が確保できるように同一条件(機器の動作モードや、被測定物の距離や向き)で測定する必要がある。
また、外来から飛び込んでくる電磁波にも気を付けなければならない。事前に外来の電磁波を確認し、被測定物からの電磁界と切り分ける必要がある。
電磁界プローブは非接触で測定しているため、機器へ影響を与えずに簡単に測定ができるというメリットがある反面、上記のように測定に気を使わなければならない。
処理速度に関しては、画像処理に要するプログラム上の処理時間は殆ど無視できるレベルであり、スペクトラムアナライザの処理時間(データ送受信時間含む)が殆どである。ある一定の速度を確保できないと測定者がストレスに感じるため、スペクトラムアナライザのスペックが重要となる。
最後に機器から発生する電磁波は定常的に発生しているとは限らない。時間で変化する場合もあるため、測定者は電磁波データを観察しながら測定を行う必要がある(そのタイミングから電磁波の発生元が分かる場合もある)。

なお、本技術は特許第5589226号の技術を使用している。



次回に続く-



【著者紹介】
根津 伸丞(ねづ しんすけ)
株式会社ノイズ研究所 商品開発部 商品開発3課 課長

■経歴
2000年 株式会社 ノイズ研究所 入社 EMC機器のソフトウェア開発に従事。
ソフトウェアチーム開発責任者。
現在に至る。

FingerVision 光学式触覚センサ、用途拡大フェーズに入り、複数ロボットに接続対応

(株)FingerVisionは、米・カーネギーメロン大学発の「視触覚」技術の実用化を通じて、ロボットや機械の適用範囲を広げ、様々な社会課題を解決することを目指している。
同社では、様々な業界・用途での触覚センサ付きロボットハンドの利用ニーズ拡大に応え、複数メーカーのロボットアームとの通信インタフェースを実装した。これにより、ファナックや安川電機などのロボットに対して、触覚データに基づくフィードバック制御が実行できる環境が整った。


◆複数メーカーのロボットに対応する接続方式を採用、今後も順次拡張予定
触覚センサ付きロボットハンド(α版)に対応する初期的な接続方式として、複数メーカーのロボットへの接続が可能なModbus/TCPを実装した。協働ロボットを例にとると、
・ファナックCRX
・安川電機HC10
・Universal Robots e-series
・Techman Robot TM Robot Series
・NEURA ROBOTICS
などでの接続が可能になる。
・接続動画(ファナック):
 https://twitter.com/Yuki_Nono_fv/status/1679406380095258624
・接続動画(安川電機):
 https://twitter.com/Yuki_Nono_fv/status/1679788077018132483

2023年7月27日には、日本ロボットシステムインテグレータ協会主催の「新製品・サービス説明会」でも本製品を展示・説明を行い、好評を得た。今後もロボットシステムインテグレータ様をはじめとする皆様にとって、触覚センサ付きロボットハンドを活用したアプリケーションを実装・開発するための環境整備を進めるとしている。
・日本ロボットシステムインテグレータ協会 https://www.farobotsier.com/

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000095912.html

Thinker、“指先で考えてつかむ”次世代型ロボットハンド開発に着手

 (株)Thinkerは同社の取締役でもある大阪大学大学院基礎工学研究科の小山佳祐助教が独自に研究・開発した「カメラレスばら積みピッキング」を実現するロボットハンドの製品化を進めるとしている。

 昨今は人手不足が深刻化する中、製造業を中心にロボットハンドが有力な対策のひとつとして注目を集めている。しかし、従来のロボットハンドの多くは、カメラによってセンシングを行うことから死角ができやすく、どうしても対処が難しい作業(もしくは事前のティーチング(※注)に大きな手間や時間がかかる作業)がいくつかあった。その中でも最も実現が渇望されているのが、ランダムに置かれた部品などのピッキング(ばら積みピッキング)である。多様なリクエストに応じた少品種・少量の生産が求められ、スピード感を要するいまのような時代には、事前のセッティングに時間がかからず、かつその場で柔軟な対応(ばら積みピッキング)ができる能力がロボットに求められるからである。

 こうした社会の実情やニーズを踏まえて、Thinkerでは、7月31日より出荷を開始した「近接覚センサーTK-01」の提供に加えて、同じく近接覚センサーの技術によって「ばら積みピッキング」を実現できる次世代型のロボットハンドの開発・製品化に着手することにした。

同社の開発テーマでもある「3歳児でもできるのにロボットにはできない動作の実現」のひとつとして、2025年度の製品化を目指して取り組んでいくという。

※注・・・・・ティーチングとはロボットに作業を教え込む工程。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000106143.html

ミネベアミツミ、国内事業所に電力自己託送を開始

 ミネベアミツミ(株)は、三菱HCキャピタル(株)および中央電力(株)両社の共同出資により設立した、(同)リネッツを通じて、ミネベアミツミ(株)とミツミ電機(株)(以下、ミネベアミツミグループ)に太陽光発電所を活用した「じこたくサポートサービス(以下、じこたくサポート)」による電力の導入を開始した。

 2023年6月から7月にかけて、ミネベアミツミグループの関東エリア5カ所の事業所および工場にNon-FIT(非FIT*1)の追加性*2の高い低圧太陽光発電による電力の導入を開始、ミネベアミツミグループのCO2削減を進めるとのこと。

 リネッツ社が提供するじこたくサポートは、企業が太陽光発電による自己託送を円滑に進めることができるよう、発電所の開発、保守・管理をはじめ、自己託送を実施するにあたり必要な一般送配電事業者等への各種手続き、同発電所のリース契約、発電予測値の算出および発電計画提出等の運用まで、ワンストップで支援するもの。同社は、発電所の開発に係る初期投資が不要なうえ、安定的な再生可能エネルギー(以下、再エネ)電力の直接調達が可能となる。

 ミネベアミツミグループは、リネッツ社が提供するじこたくサポートを利用することで、環境への負荷が小さい低圧太陽光発電所27サイト(約2.4MW)から年間約270万kWhの再エネ電力を使用する。具体的には、東京本部、藤沢工場、松井田工場において計6サイト(約0.5MW)、多摩ミツミ電機本社、厚木事業所において計21サイト(1.9MW)を活用、グループ全体のCO2排出量は年間約1,755t‐CO2の削減を見込んでいる。
 ミネベアミツミグループは、今後ともGX(グリーントランスフォーメーション)を推進のうえ、環境長期目標に掲げた「2031年3月期までに、2021年3月期比にて同社グループにおけるCO2排出量30%削減(SBT(2℃目標)準拠)」を実現すべく、取り組むとしている。

 今回のじこたくサポートでは、三菱HCキャピタルは発電設備のリースなどのファイナンス面でのサポート、中央電力はインバランスなどのサービスを提供して貰う。三菱HCキャピタルおよび中央電力は、リネッツのじこたくサポート提供により、同社のGX(グリーントランスフォーメーション)をサポートして貰う。

 三菱HCキャピタルおよび中央電力は、リネッツを通じて2022年11月から中央電力へのじこたくサポートの提供を開始、太陽光発電所による自己託送を行っており、2023年9月をめどに100サイト(約10MW)となる予定。今後は、ミネベアミツミグループの関東エリアでのサービス提供を契機に、同グループの他拠点や他社へのじこたくサポートの提供を加速させることで、企業のカーボンニュートラルに貢献すべく、2025年6月期までには、500サイト(50MW)を超える発電規模をめざすとのこと。

*1 非FIT:固定価格買取制度に頼らない再エネ由来の電気のこと。
*2 追加性:需要家から得た資金が再エネの追加的な発電、具体的には、あらたな再エネ発電所の建設などに投資されることで、再エネ発電が確実に増えること。

ニュースリリースサイト(minebeamitsumi):
https://www.minebeamitsumi.com/news/press/2023/1206139_17683.html