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最新産業用センサソリューションを特集したeBookの公開

ネット販売商社マウザー・エレクトロニクス(Mouser Electronics)は、STマイクロエレクトロニクス(STMicroelectronics)社と共同で、産業用センサ市場における各種製品、戦略、およびイノベーションの概要を包括的に紹介したeBookを公開した。

このeBook『産業用センシングソリューション』では、STとマウザーの有識者が、産業用センサを使用した最新の戦略をはじめ、工場現場でのイノベーションを推進する各種製品について詳細にわたり解説し、MEMS技術の進歩に関する記事を複数掲載し、Industry 4.0においてMEMSデバイスが果たす重要な役割に焦点を当てているという。

新しいeBookは、STが提供する約20種類におよぶセンサの製品情報へのリンクや注文情報のほか、役に立つ配信ビデオへのリンクを掲載。マウザーで購入できるSTの製品ラインアップには、センサ、開発ボード、RFモジュールをはじめとする各種電子部品があるとのこと。

ebookサイト(マウザー):
https://www.mouser.com/news/st-sensors-ebook-2019/mobile/index.html

国内初、自治体が公道で自律走行バスを実用化

茨城県の境町はSBドライブ(株)および(株)マクニカの協力の下、町内の移動手段として自律走行バス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」(仏Navya社製)を、2020年4月をめどに定時・定路線で運行し、自治体が国内で初めて自律走行バスを公道で実用化すると発表した。
※ 定員11人以上の車両が一般の方の移動手段として、期間を限定せずに大半の区間を自律走行するのは初めて(SBドライブ調べ)。

境町は、まずSBドライブが保有するナンバー取得済み「NAVYA ARMA」と、複数の自動運転車両の運行を遠隔地から同時に管理・監視できるSBドライブの自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」を活用して、町内の医療施設や郵便局、学校、銀行などをつなぐルートで自律走行バスの運行を開始する。
その後、仏Navya社と「NAVYA ARMA」の販売代理店契約を結ぶマクニカから、境町が同車両を3台購入して、夏頃をめどにこれらの車両での運行に切り替える予定とのこと。

境町では、高齢化に伴う免許返納者の増加や鉄道の駅の不足、バスやタクシードライバーの不足などの課題を抱えており、移動手段の拡充が喫緊の課題であった。
境町は、SBドライブおよびマクニカの協力の下、自律走行バスを運行させることで、住民が便利に移動できる環境を構築することを目指す。
また、このたび境町、SBドライブおよびマクニカの3者は、新しいモビリティサービスを通して、地域および産業の活性化と町民サービスの向上に取り組むための連携協定を締結し、今後3者で境町の発展に取り組んでいく予定だという。

プレスリリースサイト(MACNICA):
https://www.macnica.co.jp/business/maas/news/2020/133985/

成田空港、第3ターミナルへの最新型警備ロボット導入による更なる館内警備の強化

成田国際空港(株)は、東京2020オリンピック・パラリンピックに向けたロボット導入の取組の第3弾として、最新型警備ロボットを第3ターミナルに導入すると発表した。

成田空港では、2019年6月に自律走行型巡回監視ロボットであるセコム社製「X2」を第1ターミナル及び第2ターミナルに計4台導入し、館内警備の強化を行ってきた。

今回、更なる旅客数の増大が見込まれる第3ターミナルへの警備ロボットの導入にあたり、足回りの面積が小さく、人込みや狭い通路等での機動性が高いSEQSENSE(シークセンス)社製「SQ-2」を選定した。全ターミナルに警備ロボットを配備することで、人とロボットの力を融合させた、より高度で効率的な館内警備を実現していくという。
また、あくまでも予定ではあるが、今後、多言語情報発信のできるサイネージロボットや、案内ロボットの導入も視野に入れている。

●導入概要
1.機  種 : SEQSENSE SQ-2(シークセンス エスキューツー)×1台
2.導入日 : 2020年2月4日(火)
3.用  途 : 立哨警備及び巡回警備の更なる高度化・効率化(巡回警備は順次運用開始予定)
4.導入エリア: 第3ターミナル 国際線出発(出国手続き後エリア)

ニュースリリース(成田空港):https://www.naa.jp/jp/20200123-keibirobot.pdf

JDI、東大と共同研究で 指紋・静脈・脈波を計測可能な薄型イメージセンサを開発

ジャパンディスプレイ(以下JDI)は、東京大学 大学院工学系研究科染谷研究室と共同で高速読み出しと高解像度撮像を両立する薄型イメージセンサを開発したと発表した。
(画像:開発したイメージセンサのデバイス写真)

高移動度の低温ポリシリコン薄膜トランジスタと高感度な有機光検出器を集積することで、高速読み出しが必要な脈波の分布と生体認証に用いられる指紋や静脈といった高解像度撮像が必要な生体情報を1つのイメージセンサで計測することを可能にした。
また、このイメージセンサは15μmの厚みに形成できるため、軽量であり、曲げて使用することも可能。生体認証において、生体情報(指紋、静脈)に加えて生体信号(脈波)を取得することで模倣や「なりすまし」を防止することができるなど、高い安全性を有する認証システムへの適用が期待されるという。

なお、この研究成果は、2020年1月20日(英国時間)に英国科学誌「Nature Electronics」のオンライン版で公開された。
また、この研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業探索加速型(本格研究ACCEL型)(JPMJMI17F1)の支援を得ているとのこと。

ニュースリリースサイト(JDI):https://www.j-display.com/news/2020/20200121.html

amnimo、月額課金で利用できる「簡易無線水位計測サービス」を申し込み開始

アムニモ(株)は月額課金で利用できる「簡易無線水位計測サービス」を1月20日(月)より申し込み開始すると発表した。

水害のリスクは様々な場面で想定され、大規模な河川だけでなく、小さなため池から河川の工事現場まで、様々なシーンで水位の監視が求められている。水害を防ぐため、もしくは万一の際に避難を迅速に行うためには、水位計測サービスの導入が有効であるが、導入コストや導入する際の手間、定期的なメンテナンスなどが課題となっている。

アムニモの「簡易無線水位計測サービス」は、無線水位計、通信、クラウドのオールインワンパッケージを、初期費用不要の月額料金で提供することで、これらの課題に対応する。電池駆動なので、電源工事、通信工事が不要で簡単に設置ができ、設置後は、電源スイッチを入れるだけで、すぐにデータを見られる。また水位センサ部には、シリコン振動式センサを採用し、高精度(測定精度±10mm)かつ長期に安定した水位計測ができ、メンテナンス頻度を低減できるという。

このサービスは、ため池の管理や工場での水害の事前予測や事前対策、地下街や地下鉄の防災など幅広いシーンで手軽に利用でき、さらに、周辺地域への安全管理が課題となっている河川や水路の工事現場での一時的な利用も可能。また、運用監視、セキュリティまで、サービスに含まれているとのこと。

【簡易無線水位計測サービスの概要】
月額利用料金:30,000円~(税抜き)(※1)
※1 無線水位計1台、通信費、クラウド使用料の月額料金。最低利用期間は6か月、以降は1か月単位で利用可能。ケーブルプラン5m、10m、15mの場合。

ニュースリリースサイト(amnimo):https://amnimo.com/pdf/200120_1.pdf

富山県立大ら,SPR味覚センサを開発

「OPTRONICS Online」によると、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「NEDO AI&ROBOT NEXT シンポジウム ~人を見守る人工知能,人と協協働するロボットの実現に向けて~」が開催された。 その際に「革新的なセンシング技術」として7つの技術の発表と展示が行なわれ、その中で富山県立大学,東京大学,電気通信大学,富士電機,マイクロマシンセンターの研究グループは,表面プラズモン共鳴(SPR)を応用したMEMS味覚センサの開発を紹介したとのこと。
(画像は「味覚センサの原理」の図)

これはSPRによって試料中の化学物質を検出し,味を同定するというもの。ロボットの指先等に搭載することで,例えば入院中の患者や老人ホームに入所する高齢者の食の安全や健康管理に役立てることが期待できる。また,食品工場のラインに導入することで,生産した製品の品質の均一化といった用途も考えられるとしている。

このセンサは応答が早いためリアルタイムでの計測が可能で,濃度にして0.01%程度の物質が検出できる。現在のところ,塩見,甘味,苦味に対応した認識膜があり,塩分であればナトリウムとカリウム,甘味であれば果糖とショ糖といった判別も可能だという。

研究グループでは異なる種類のチップをアレー化することで,様々な味覚に対応するセンサとすることも考えている。また,味覚以外にも危険物質やアレルゲンの検出など,センサとして幅広い応用が期待できる。研究グループでは,まず富士電機での製品化を目指して開発を進めたいとしている。と伝えている。

ニュースサイト(OPTRONICS Online):
http://www.optronics-media.com/news/20200120/62383/

東京都港区における5Gの活用促進に向けた連携協定の締結について

住友商事(株)と(株)ジェイコム東京は、東京都港区と共同で、港区への次世代移動通信システム(以下「5G」)通信網の早期構築とその活用を目的とした連携協定を締結することに合意した。2020年度からの通信事業者向け5G基地局シェアリングサービスの導入を目指し検討を開始するとともに、港区内におけるローカル5G(注1)等の新たな技術の活用に向けた実証実験を行うとのこと。

5Gは、超高速・超低遅延・同時多数接続を実現する次世代通信技術であり、携帯電話などの通信に加え、教育や医療、防災など幅広い分野での活用が期待されている。その一方で、 1つの基地局でカバー可能なエリアが4Gと比較して狭いため、5Gの普及には基地局の迅速な整備と、その設置場所となる用地等の確保が必須である。東京都は、2019年8月に「TOKYO Data Highway 基本戦略」を発表し、都の保有施設への5G関連設備の設置を認めるなど、東京都内における戦略的な5Gの基盤構築の促進に乗り出している。

この協定の締結により、港区が保有する公共施設などに、5G基地局シェアリングサービスを可能とする共用アンテナシステムや同システムを備えたインテリジェントポール(注2)などを設置し、5G通信網の早期整備に貢献する。また、特定のエリア限定で利用可能なローカル5G等の設備を、港区庁舎や公共施設などに導入することで、区内における5G等の新たな技術の利活用方法やその実用性の検証を可能にする環境を整えるという。(画像:インテリジェントポールのイメージ図)

この協定の各参加者においては、港区は区有施設を活用した5Gの普及促進を、ジェイコム東京は光ファイバー回線および無線機設備などの設備設置場所の提供を、住友商事は共用アンテナシステムやローカル5Gの通信に必要な制御システムの提供を行う予定。国内初の官民による広域での5G実装モデルとなる見込みで、港区内における区民や来街者の利便性向上に貢献していくことを目指すとしている。

(注1)ローカル5G
地域や産業の多様なニーズに応じて、自治体や企業などが自ら主体となり、個別に利用できる5Gネットワーク
(注2)インテリジェントポール
通信事業者の無線機、カメラ、センサなどの多機能設備を搭載可能なスマート街路灯

プレスリリースサイト(住友商事):
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/release/2020/group/12880

感性をはかる(2)

信州大学 繊維学部 教授
上條 正義

4.表情から眠気を早期に検知する感性計測の研究事例

4.1 はじめに
人は、人と対話する際に、相手の表情から相手が関心を持っているか否か、理解しているか否かなど、相手の状態を推察して対話する。受ける刺激に対して快適感を感じれば、笑顔となり、不快を感じれば嫌悪な表情となる。表情は、人の心理・生理状態を示す良い指標であり、対話を支援する要素の一つである。楽しそう、眠そう、具合が悪そうと相手の表情を見ることによって、相手の状態を察することができる。しかしながら、なぜ、そう推察できるのかを明確に説明できる人はいないであろう。表情という幾何学情報を視覚から得て判断しているわけであるが、そのどんな特徴が人の推測を発現させているかは明確ではない。表情は、ネガティブとポジティブな心身状態両方を評価できる指標となる可能性を持つことから感性計測のための評価方法を検討する研究題材として興味深い。以下に、表情から心身状態を計測する研究の一つとして、自動車ドライバーの眠気を表情から早期に検知する方法について研究した内容を紹介する。

居眠り運転検知システムの自動車への装着率が年々高まりつつあるが、多くのシステムが居眠りを検知するものである。眠ってはいけない状況にある自動車運転において、眠気を早期に検出し、眠気を早期に解消する働きかけを自動車が行えると居眠り運転や漫然運転による自動車事故が軽減できる可能性がある。ここでは、表情を作り出す筋活動の計測から眠気を早期に検出する方法を紹介する[2,3]

4.2 実験
高速道路での操縦を想定したドライビングシミュレータを用いて、走路に沿ってゆっくり左右に操舵する単純作業によって、覚醒が低下して眠気を誘発する過程における研究対象者の顔画像と顔面筋電図を採取した。取得した顔画像を顔表情評定によって6段階の眠気レベルに分類し、各眠気レベルの表情における顔面筋の筋電位を求めた。眠気レベルと顔面筋の筋活動から眠気を誘発することに伴って変化する顔面筋の活動を調査した。

研究対象者は20~40代の健常者17名であった。研究対象者は眠ってはいけないと指示し、ドライビングシミュレータでの操舵タスクを60分間実施させた。タスク中の頭部全体の正面動画像を暗視用CCDカメラで撮影し、顔画像を採取した。タスク開始直後から居眠り状態に至るまでの顔画像を5秒毎に区切り,17inch液晶ディスプレイに提示した直後に評定者3名に評定してもらった。評定基準は、北島ら[4]の評定基準に「眠っている」を追加した6段階:0:全く眠くなさそう、1:やや眠そう、2:眠そう、3:かなり眠そう、4:非常に眠そう、5:眠っている、とした。

筋電図は、右顔面および頸部の11筋部位:(前頭筋、眼輪筋(上下)、大頬骨筋、笑筋、咬筋、口輪筋(上下)、オトガイ筋、胸鎖乳突筋(左右)の筋電図を導出した。筋電図は電極(外径6mm,電極部の直径は3mm)を顔面に貼付し、テレメトリ筋電計(MARQ)を介してサンプリング周波数は1000Hzでコンピュータに記録した。生体増幅器の時定数と高域フィルタはそれぞれ16ms、1000Hzであった。心身への負担を評価するために胸部双極誘導により心電図をテレメータ(GE横河メディカルシステムズ社製,MT-11)を介してサンプリング周波数500Hzで導出した。心電図および筋電図ともに6段階の眠気レベル毎に5秒間の区間をそれぞれ15区間ずつ選択し、計90区間を解析区間とした。心電図からは心身への負担を評価するために瞬時心拍数を求めた。筋電図は、カットオフ周波数15Hzのハイパスフィルタ(HPF)を施して,DC成分を除いた後,各解析対象区間において2乗平均平方根(RMS)を求めた。覚醒状態であるタスク前の無表情区間の筋電図についてもRMSを同様に求め、各解析区間のRMSを無表情区間のRMSで除して基準化RMSを求めて、これを評価指標とした。

図1 顔面筋筋電図の導出

4.3 結果
各眠気レベルに応じた顔面筋活動を顔面筋電図により求め、17名の研究対象者のデータを解析した結果、前頭筋の筋収縮活動が,17名中16名(94.1%)に観察された。他の筋については表1に示したように前頭筋に比べて少ない人数の発生割合であった。

 
表1 顔面筋の活動の人数割合(%)
顔面筋(被験筋) 収縮 弛緩 筋活動変化なし
前頭筋 94.1 0.0 5.9
眼輪筋上部 70.6 11.8 17.6
眼輪筋下部 29.4 64.7 5.9
大頬骨筋 23.5 76.5 0.0
笑筋 23.5 64.7 11.8
口輪筋上部 17.7 64.7 17.6
口輪筋下部 25.0 62.5 12.5
咬筋 29.4 52.9 17.7
オトガイ筋 47.1 41.2 11.7
胸鎖乳突筋・左 47.1 23.5 29.4
胸鎖乳突筋・右 41.2 35.3 23.5

眠気の亢進に伴って前頭筋の収縮が生じた16名について眠気レベルごと前頭筋の基準化RMSの平均値と標準偏差を求めた結果を図2に示す。クラスカルウォリス検定とシェッフェの多重比較を行った。前頭筋の筋活動は眠気レベル上昇に伴い凸型に変化した。覚醒状態である眠気レベル0と眠気レベル2~4の筋活動には1%水準で有意差が認められ、眠気レベル2~4の筋活動が高く、眠気レベル2~4と眠っているの眠気レベル5の筋活動には有意差があり、眠気レベル5の筋活動が低い値を示した。

図2 眠気レベル毎の筋活動

前頭筋は,眉を引き上げるはたらきをする。眠気が亢進すると上眼瞼が重くなるもしくは下がるような感覚を持ち、眠ることが許されない環境下では目を見開くために上眼瞼を引き上げる意識が働くことによって、前頭筋を収縮させ「眉上がり」の表情が発生したと考えられる。眠気が更に亢進し、睡眠に至ると前頭筋を収縮し続けることは困難になり、筋収縮が弱まり閉眼に至ると考える。
「眠ってよい」と研究対象者に指示して、同様の実験を実施した結果、眠ってはいけないと指示した実験と眠っても良いと指示した実験での前頭筋を比較すると有意差(t検定、p<0.01)が認められ、眠っても良いと指示した実験での前頭筋の活動が小さかった。

これらのことから、眠気の亢進によって生じる前頭筋の収縮による「眉上がり」の表情は、眠気に対する抵抗を表していると考えられる。
さらに、眠ってはいけないと指示した実験と眠っても良いと指示した実験での瞬時心拍数の平均値を比較すると有意差(t検定、p<0.01)が認められ、眠っても良いと指示した実験での心拍数が低かった。眠気に対する抵抗が生じると副交感神経活動が抑制され、心拍数が上がることが確認され、眠気を我慢することは身体的負担となっていることが明らかになった。
この研究の成果から、覚醒が保てている表情に対して、「眉上げ」の表情が増えた場合には、眠気が生じていることが計測でき、眠気を解消するような働きかけを自動車から行うことで、安全性が確保するシステムの開発につなげることができた。

5.おわりに

感性をはかる・・・「はかる」には、測る、計る、図る、諮る、謀るなど多様な「はかる」の意味を込めた。感性をどのような活用して新しい価値を持つモノづくりにつなげていくかの工夫が現在求められている。「性能が良い、品質が良いのになぜ売れないのか」と考えるのではなく、「人はなぜ購入したいと思わないのか、購入したいと思わせるにはどうしたら良いのか」を考えることが大切である。「心の仕組みを知り、心の形を学び、心の喜ぶモノをつくる」これは、信州大学繊維学部の感性工学発足当時からの理念である。まず、相手のことを良く知ることからはじめて相手にいたわりを持ってモノを作れば、相手が喜ぶモノづくりができるということである。相手のこと、そして自分自身のことを知り、相互理解するために感性計測が用いられる。訴求対象者に合わせたモノづくりは、高度成長以前の社会では当たり前のことだったのではないだろうか。相手と対話し、相手の身体的特徴や使い方を把握して上でモノを作って供給することは当たり前のことである。孫子の兵法「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」。現代の高度な計測装置はなくても、先人は人のこと、自然の摂理を把握できていた。様々なことが見えなくなっている現代人には、感性計測や感性工学が必要になっている。

参考文献
2) Kenji Ishida Asami Ichimura, Masayoshi Kamijo, A Study of Facial Muscular Activities in Drowsy Expression. Kansei Engineering International Journal, Vol.9, No.2, p.57-66 (2010)
3) 市村麻実,石田健二,上條正義、眠気に対する抵抗として生じる前頭筋収縮活動の実験的検証,日本感性工学会論文誌,Vol.9, No.3,pp.567-572(2010)
4) 北島洋樹,沼田仲穂,山本恵一,五井美博:自動車運転時の眠気の予測手法についての研究(第1報),日本機会学会論文集(C編),Vol.63,No.613,93-100,1997

【著者略歴】
上條 正義(かみじょう まさよし)
博士(工学)
信州大学繊維学部、先進繊維・感性工学科、教授

■略歴
1989年 信州大学大学院繊維学研究科修了
1990年 東京理科大学諏訪短期大学 生産管理工学科 助手
1996年 信州大学 繊維学部 感性工学科 助手
2001年 信州大学 繊維学部 感性工学科 助教授
2009年 信州大学 繊維学部 感性工学科 教授
現在に至る
■専門分野
感性工学、感性計測、計測工学、繊維工学
■学会活動
日本感性工学会 理事・副会長 (2019-)
日本繊維製品消費科学会 理事 (2019-)

脳波解析に基づいた超可聴音源の感性計測(2)

長岡技術科学大学 大学院工学研究科
教授 中川 匡弘

4.実験結果および考察

フラクタル次元解析を行う前処理として、計測した19chの脳波信号を電極間で差分信号をとり、157組(=19C2)の電極間電位差信号を作成する。それぞれの差分信号に対し、時間依存型フラクタル次元推定解析のパラメータを、q=2、 Ws=1[s]、Wm=0.1[s]、 τ=1、2[point]と設定し、解析を行った。

4.1 EFAMによる識別結果
課題タスク前後の基準測定の脳波データから、感性マトリクスCと定数ベクトルdを算出し、式(6)の入力ベクトルにリファレンスデータを再入力した結果、図4のように60秒毎にそれぞれの感性に対して識別可能と確認できる。
また、ある被験者の「快」と「不快」で識別したタスク時の感性出力を図5に示す。同図は、”You Are The Sunshine Of My Life”を音楽聴取時のハイレゾ対応、未対応のそれぞれの感性出力である。ハイレゾ音源を聴取時は「快」が正に出力し、時間経過に伴い「不快」はわずかに上昇した。一方、ハイレゾ未対応の同音源を聴取時は「快」が負の出力となり、「不快」が強く出力される結果となった。

図4 リファレンスデータに対する識別結果
(a) ハイレゾ音源
(b) 圧縮音源

図5 感性出力

4.2 感性変動率
EFAMによる感性出力は、被験者個人での感性の強さを表しており、例え感性出力が同値であっても、被験者毎でその意味は異なる。そこで相対的に比較を行うために、ハイレゾ対応、未対応の違いによる感性出力の変動率を式(10)より算出した。

ここで、ZHRはハイレゾ音源を聴取時の感性出力であり、Zrefはハイレゾ未対応の音源を聴取時の感性出力である。また式(10)の感性出力の値(< ZHR >、< Zref >)は、図5のような得られた感性出力ZHR、Zrefを時間平均した値である。

4.3 外れ値検定
4.2感性変動率で導出した感性変動率の結果、被験者によっては式(10)の分母の値が小さくなるため、感性変動率が発散してしまう結果となる。これより、外れ値の除外を行うため、両側検定の有意水準5[%]として、式(11)、(12)のスミルノフ・グラブス検定を用いた27)。式(11)、(12)のそれぞれの値は、データの最大(最小)値xi 、データの平均値 μ、データの標準偏差σ 、データ数n 、有意水準αかつ自由度n-2 のt分布のα/n×100 パーセンタイルである。τi ≥ τ の時にxiは外れ値となる28)。検定は曲ごとに行い、比較する2感性のどちらか一方でも外れ値と判定された場合、解析から除外した。

4.4 感性解析結果
外れ値検定を行い、解析から除外した感性変動率の分布を図6-9に示す。縦軸は被験者数、横軸は感性変動率の値である。ここで、図6、7は「快」と「不快」で識別した際の曲ごとの感性変動率の分布であり、上図が「快」、下図が「不快」の分布である。図8、9は、「安心」と「不安」で識別し、上図が「安心」、下図が「不安」の分布である。図10は図6-9をまとめた結果である。
図10より、平均値と中央値が共に正、または負の時にその感性の感性変動率が増加、または減少した。図6-9の分布はそれぞれ偏りがないために、平均値の値を用いて以下を述べる。
図10より、”So What”を聴取時は、「快」と「安心」が平均値に関して23.0[%]、194.6[%]増加し、「不快」と「不安」が42.2[%]、 29.2[%]減少した。また、”You Are The Sunshine Of My Life”を聴取時は「快」と「安心」が35.4[%]、15.2[%]増加し、「不快」が108.5[%]減少するという結果となった。この結果から、両方の音源に対して圧縮音源よりハイレゾ音源が「快」や「安心」といったポジティブな感性をより喚起し、ネガティブな感性を和らげる効果があると考えられる。

図6 感性変動率
(“So What”、「快」「不快」で識別)
図7 感性変動率
(“You Are The Sunshine Of My Life”、「快」「不快」識別)
図8 感性変動率
(“So What”、「安心」「不安」で識別)
図9 感性変動率
(“You Are The Sunshine Of My Life”、「安心」「不安」識別)
図10 感性変動率の平均値と中央値まとめ

5.おわりに

本稿では、従来の圧縮音源に対して、近年注目を集めているハイレゾリューションサウンドがヒトの感情にどのような効果をもたらすかを検討、実験を行った。 2曲の音源の両方で、圧縮音源よりもハイレゾ音源が「快」「安心」が増加し、「不快」が減少する結果となった。これより、同じ音源を聴取した場合、圧縮音源を聴取するよりもハイレゾ音源で聴取した方が正の感情を喚起し、負の感情を和らげる効果があると考えられる。

参考文献
27) 朝木善次郎、安藤貞一、倉知三夫、小島次雄、清水祥一、技術者のための統計的方法, 近藤良夫(編), 舟阪渡(編), 共立出版株式会社, 東京, 1967。
28) 中井検裕 他、統計学入門(基礎統計学Ⅰ), 東京大学教養学部統計学教室(編), 東京大学出版会, 東京, 1991。

【著者略歴】
中川 匡弘(なかがわ まさひろ)
国立大学法人長岡技術科学大学・教授

■略歴
1982年3月 長岡技術科学大学大学院工学研究科 電子機器工学専攻修了
1982年4月 長岡技術科学大学工学部 助手
1988年2月 工学博士 (名古屋大学)
1988年3月-1989年1月 文部科学省甲種在外研究員(Strathclyde Univ. 数学科、連合王国)
1989年4月 長岡技術科学大学工学部 助教授
2001年6月 長岡技術科学大学工学部 教授
2004年4月 国立大学法人長岡技術科学大学 電気系 教授
2015年4月 国立大学法人長岡技術科学大学 技学研究院 教授
      兼 株式会社TOFFEE 代表取締役(2016年4月~)

フラクタル工学、カオスニューラルネットワーク、液晶の物理学に関する研究に従事。
著書に「Chaos and Fractals in Engineering」(World Scientific)、「カオス・フラクタル感性情報工学」(日刊工業新聞社)等がある。
2016年4月より、大学発ベンチャー企業である株式会社TOFFEEを設立し、代表取締役を兼務。
平成29年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞(科学技術振興部門)。

日常生活行動に関する感性工学的研究(2)

信州大学 繊維学部 教授
吉田 宏昭

3.寝姿勢は立位姿勢のS字に近い方がよいのだろうか?[4]


3.1 はじめに
1日の睡眠時間を8時間とすれば、人生の3分の1という時間を睡眠に費やしており、その間、寝具に触れていることになる。それだけ寝具は重要である。しかし、実際に寝具を購入した後に、自分には合わないという経験をされた方もおられるでしょう。その原因のひとつとして、自分の曖昧な基準で寝具を選ぶことが挙げられる。そこで、寝姿勢を定量的に計測できないかと考えた。そこで、共同研究先の櫻道ふとん店(静岡県御殿場市)とエヌ・ウェーブ(長野県白馬村)と協力して、体圧分布と沈み込み量をリアルタイムに計測できる新たな4D寝姿勢計測装置を開発した。現在、この装置を活用して、その人に合った個人対応型寝具の販売を目指して、研究を推進している。本コラムでは、この4D寝姿勢計測装置を用いた研究事例を紹介する。
これまで寝姿勢については様々な見解があり、通説では、立位姿勢のS字型が良い寝姿勢とされている。本当にそうだろうか?寝姿勢と立位姿勢では重力方向が異なるため、立位姿勢がそのまま良い寝姿勢になるとは限らないと予想される。そこで、寝姿勢と立位姿勢を比較することによって、その姿勢変化と寝心地との関係を検証した。

3.2 方法
寝姿勢の計測は4D寝姿勢計測装置、立位姿勢の計測は背面形状計測装置を用いた(図4)。被験者は20代の女子大学生10名とし、服装は指定したジャージとした。
4D寝姿勢計測装置は、縦2400mm・横幅600mmの部分に約19000本のバネが入ったプローブピンとこのプローブピンの下に圧力センサが設置されている(図4:左)。人が横たわると、圧力センサによって体圧分布が、プローブピンによって沈み込みが同時に計測できる。リアルタイムに寝姿勢変化も計測でき、”4次元”で定量的に寝姿勢を分析できる。本研究では、沈み込み量を計測し、背面形状の寝姿勢データを取得した。
背面形状計測装置は、高さ1040mmの測定部に9mm×300mmの棒が51本設置されている(図4:右)。棒を横にスライドすることで、頭頂部から臀部にかけて立位時の背形状を計測した。

図4 4D寝姿勢計測装置(左)と背面形状計測装置(右)

櫻道ふとん店から、「敷き布団は腰を硬く打て」という教えがあるとお聞きしたことがある。これは、敷き布団の臀部周辺を硬くすると、寝た際の臀部の沈み込みが抑えられ、寝返りがしやすくなるためだと予想される。そこで、臀部周辺の硬さのみが異なる敷き布団を用意して、寝心地を評価することにした。硬さの異なる3種類の試料(160N、220N、300N:220Nが標準的な硬さ)を用いた。ここで、Nはニュートンであり、JIS規格に基づくウレタンフォームの硬さの指標である。試料のサイズは長さ400mm・幅970mmで、試料5枚(頭部・背中・臀部・脚部・踵部)で1組の敷き布団となる。160Nと220Nの硬さをベースとし、臀部に相当する部位の硬さを3条件で変化させ、計6パターンとした。被験者にこの6パターンの敷布団に関して寝心地を評価してもらった。評価項目は嗜好度(快適性、沈み込み、硬さ、フィット感)と全体に関する項目(寝心地、寝返り、好き、フィット感、利用したい)について7段階評定とした。被験者は計測を実施した同じ20代女子大学生10名とした。

3.3 結果と考察
寝姿勢と立位姿勢の姿勢変化が大きい群と小さい群の2群に分類できた。
寝姿勢と立位姿勢の姿勢変化が小さい被験者群の特徴は、寝姿勢では背中の沈み込みが大きい。臀部の嗜好度は、220×160の評価が全体的に高く、160×300の評価が全体的に低くなった。よって、臀部が柔らかいと好まれ、硬いと嫌われる傾向があり、寝具が柔らかいと寝心地の評価も高くなると考えられる(図5)。この群に所属していた被験者の立位姿勢は腰の反りが比較的大きかったので、体型は骨盤が前傾しているタイプであると推察される。欧米人は柔らかめの寝具を好む傾向にあるが、骨盤が前傾していることが寝具の嗜好度を決定している理由のひとつであると推察している。この群に属する人は、通説通り、寝姿勢は立位姿勢のS字型に近いといえるだろう。

図5 姿勢変化が小さい被験者群の寝心地評価
図6 姿勢変化が大きい被験者群の寝心地評価

寝姿勢と立位姿勢の姿勢変化が大きい被験者群の特徴は、寝姿勢では臀部の沈み込みが大きい。嗜好度は、全体的に160×220の評価が高く、姿勢変化が大きい群は、臀部周辺が少し硬い寝具が高評価になると考えられる(図6)。この群の立位姿勢はいわゆる猫背に近く、骨盤が後傾ぎみのタイプであるといえ、寝ると臀部が沈み込みやすいといえる。その臀部周辺の沈み込みを支持するために、臀部周辺の寝具を少し硬くして、寝姿勢を保持する必要があると考えられる。臀部の沈み込みを保持すれば、寝姿勢が直線的になり、寝返りがしやすくなると考えられる。多くの日本人は骨盤が後傾しており、布団作りの教えのように、臀部周辺が硬めの寝具が適していると考えられる。この群に属する人は、寝姿勢は立位姿勢のS字型とは異なっているといえる。

総括すると、骨盤の前傾と後傾の程度によって適した敷き布団の硬さが異なり、多くの日本人の寝姿勢は立位姿勢のS字型になっていないと考えられる。

参考文献
4) 吉田宏昭、上條正義。「寝姿勢計測に基づいた寝心地評価」、第18回日本感性工学会大会予稿集、東京、2016

【著者略歴】
吉田 宏昭(よしだ ひろあき)
信州大学 繊維学部 先進繊維・感性工学科 教授

■略歴
1995年3月  京都大学工学部卒
1997年3月  京都大学大学院工学研究科修士課程修了
2000年3月  京都大学大学院工学研究科博士後期課程研究指導認定退学
2000年4月  京都大学再生医科学研究所研修員
2001年3月  京都大学 博士(工学)
2001年9月  京都大学再生医科学研究所研究機関研究員(講師)
2003年4月  Johns Hopkins University ポスドク
2005年1月  産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター研究員
2007年6月  信州大学繊維学部感性工学科助教
2010年12月 信州大学繊維学部先進繊維・感性工学科准教授
2019年4月  信州大学繊維学部先進繊維・感性工学科教授

■専門分野
感性工学、バイオメカニクス