ロボットによる海洋計測(2)

長崎大学副学長・教授
山本 郁夫

また、海洋計測は水中ロボット以外の方法もある。例えば、図7に示すような船型ロボットにより採水装置を海中に下して海水を採水し、環境汚染調査を行ったり、人工衛星により海の表面の画像を取得し赤潮や海洋プラゴミの把握を行う方法などがある。

図7 船型ロボット UKIBOT

本稿では筆者らが最近行った飛行ロボットによる赤潮自動検査通知システムの開発について紹介したい。これは、マグロ養殖を行っている人たちが、マグロの赤潮プランクトンへの脆弱さを懸念してなんとか早期に赤潮の予兆を発見したいとのニーズに基づき始まった研究である。マグロにとって有害な赤潮プランクトンは5種類あり、少量でも海水中に含まれるとマグロは死滅する。筆者らは飛行ロボット(図8)とAI(人工知能)デープラーニングによる有害赤潮プランクトンの形状判別法により本問題を解決した。

図8 赤潮サンプリング飛行ロボット AKABOT

図9に示すようにまず、広域海面空撮用飛行ロボット(図9では空撮用ドローンと称す)により海面の画像をカメラにより収得し、108色の海面色から赤潮予兆のある5色の海面を識別し、識別された色の海域に図8に示す赤潮サンプリング飛行ロボット(図では採水用ドローンと称す)が向かい、採水器が採水用ドローンから海中に繰り出され、所定深度(1m、3m、5m)の海水を自動で採水し、戻ってくる。次に、採水された海水が顕微鏡を介して人工知能にて赤潮有害プランクトンを含むか瞬時に判別して、結果をリアルタイム通知する仕組みである。

図9 飛行ロボットによる赤潮自動検査通知システム

本方法により従来通知まで半日要していた時間を15分に短縮できた。センサは飛行ロボットの位置認識のためのGPSと搭載カメラであるが、今後カメラシステムの小型化と人工知能搭載が可能となれば採水した時点の画像から有害赤潮プランクトンの判別が可能となる。また、潮流計を海域に配置すれば、赤潮の分布予測も可能となり、赤潮予報も現実味を帯びてくる。この仕組みは海洋プラごみの漂流予測にも応用でき、プラごみの検知と回収の問題解決にもつながる。

次週に続く-

【著者略歴】
山本郁夫(やまもと いくお)
長崎大学副学長・教授

1983年3月 九州大学工学部航空工学科卒、同大学院工学研究科修了、博士(工学)。
1985年4月 三菱重工本社技術本部、
2004年4月 海洋研究開発機構、
2005年4月 九州大学大学院総合理工学府教授、
2007年4月 北九州市立大学教授、
2013年4月 長崎大学教授、
2019年4月 同大学副学長。

GlobalScot(スコットランド名誉市民)、フランス国際賞受賞。
専門はロボット工学。実用的なロボットを世界に先駆けて開発することで定評がある。三菱重工業株式会社で10000m(10900m)無人潜水ロボットやB787主翼、JAMSTECで300km(317km)以上を自律で航走する水中ロボットを開発してきた。大学では小型飛行体や小型水中ロボット、本物そっくりにおよぐ魚ロボットを世界に先駆けて開発している。宇宙遊泳する魚ロボットも開発した。30年以上のロボット研究歴の中で英国、フランス、日本などでPractical Roboticsの創出法に関する本など多く執筆している。