6.【D2CがIoTを変える】
当然ながらIoTデバイスが4G/5Gを扱える以上、IoTデバイスも直接衛星につながる時代が来る、というのは当たり前の話だ。IoTはすべてのものがインターネットでつながる、ということを言っていたのだが、今やインターネットは衛星経由ということになれば、全てのIoT機器は衛星経由での利用、ということになる。しかも、コストは安い。衛星の微弱な電波を確実に地上で捉えたり、地上から電波を遠い衛星まで送る必要もなくなる。大きな地上局のアンテナが必要無くなるから、全体のコストは劇的に低下する(した)。
7.【衛星コンステレーションがもたらすセンサ・ネットワーク】
さらに、昨今のセンサ・デバイスは、小型化だけではなく、複数のセンサを組み合わせ、低消費電力で小さなCPUチップとメモリーなどの周辺機器を1つの小さなチップに入れる「SoC(Sytem on Chip)」が主流になっている。よく言われる例が自動運転車で使われる「LiDAR(Light Detection And Ranging)」だ。複数の異なる性質を持つセンサを1つの小さな筐体に入れておき、実際二自動運転をするCPUには、処理済のデジタルデータで、障害物などの動的データを送信する。
例えば秋葉原で売っている温度センサでも、すでにSoCを搭載した温度センサがあり、デジタルデータで他の機器とセンサを接続するものが出てきている。もちろん、出てくるデータは「℃」の数値などの使いやすい数値にリニアライズされているから、ソフトウエアではその数値を余計な変換なしに扱える。当然だが、キャリブレーションは個々にレーザー切削などで行われており、品質は安定している。切削だけでは対応できない場合は、SoC内蔵のソフトウエアがキャリブレーションも担当して出荷されていたりする。
そして、最近のSoCには通信機能も搭載可能なものが出てきているので、これを少々変えるだけで、センサ・デバイスそのものが直接衛星と通信する、という未来もすぐそこだ。いま、デバイスメーカーはIoT向けのSoC込のセンサを多く作っており、ごく近い将来には、利用者(例えば自動車メーカー等)の注文に応じて、既に「衛星と直接通信するIoTデバイス」を作る準備はできていると言って過言ではない。
本文では、衛星コンステレーションの話が多くなったが、センサネットワークといえども、このインフラの劇的な変化の中にあるもので、無視はできないのは、よくおわかりかと思う。
8.【衛星システムのコスト】
なぜ、Starlinkなどでは衛星コンステレーションのシステムを、安価で提供できるのだろうか?それはSpaceX社が多くの投資を集め、NASAを退職した優秀な技術者を多く集め、衛星ビジネスの中核を担うべく、何度ものロケット打ち上げ失敗を糧とし(それができるお金があった、とも言える)、安定して多くの「インターネット基地局衛星」を短期間に多く打ち上げ、複雑で膨大な技術を確立したからだ。そして、そのベースにあるのは、ロケット打ち上げに至る「アナログ技術」と「デジタル技術」の融合であることは言うまでもない。
9.【衛星コンステレーションはなにをもたらすか】
これからの衛星コンステレーションは、多くの変革を、特に通信や放送のビジネスにももたらすだろう。まず、BS/CS放送は必要無くなる。大きな声では言えないが、これまでのこれらの衛星放送にかけた投資は無に近くなる。衛星でインターネットにつないで、Youtubeを見ていればいいからだ。また、NTTなどの国内巨大通信会社は、衛星を使えば国内の光ファイバーなどの通信網は必要なくなる。電話局も架線も、基地局も、それを作ったり保守したりする費用も必要なくなる。
10.【衛星コンステレーションのビジネスで必要なこと】
この衛星コンステレーションのビジネスが通信という分野では大きな動きになることは確実だが、日本でその目的で、できるだけ低価格で衛星を打ち上げられるシステムがある。が、現状は失敗した。H3ロケットがそれだ。H3が失敗したのは「コストダウン」が仇になったからだ。しかし、コストダウンしなければ世界の衛星ビジネス競争には勝てない。次の打ち上げとその成功(2024年2月17日に打ち上げと軌道への衛星打ち上げは成功した)、その先のさらなるコストダウンが望まれる。
11.【センサ・ネットワークのまとめ】
1.インフラでは衛星コンステレーションが主流になる。
2.センサ部分はSoCを使ったインテリジェント構成のセンサが部品として供給される。
ということになる。
センサ・ネットワークは、単にセンサがネットワークにつながっている、というイメージではなく、そのインフラをも考えた大きな括りで、これから考える必要がある。
12.【衛星コンステレーションの付帯技術としてのレーザー通信技術】
現在、米国では長距離レーザー通信技術の会社の目深が上がっている。衛星どうし、あるいは、衛星と地上局とのデジタルデータのやりとりに、現在は無線が使われているのだが、そのままでは電波には拡散性があるので、盗聴の危険が常に伴う。そのため、電波の「ビームフォーミング」の技術が最初は脚光を浴びたのだが、それから数ヶ月という短い期間に「電波」ではなくレーザー光線での通信に、近い将来の衛星間・衛星-地上通信の将来の主流が移りそうな気配だ。2024年2月17 日、日本でもH3ロケットの成功による、日本の衛星打ち上げビジネスの隆盛がこれから考えられるところまで来た。そうなると、現在、米国中心で行われている衛星コンステレーションによるビジネスのデータ通信でも「レーザー通信」が大きなトレンドとなる可能性を含んでいる。現状は米国企業がレーザー遠距離通信のイニシアチブを握っているのが現状だが、これは日本の特分野であるように思うので、光通信の技術のチャンスであると筆者は思うのだが。
【著者紹介】
三田 典玄(みた のりひろ)
株式会社オーシャンIoT事業部長
■著者略歴・他
インターネットを日本に持ってきた一人。
元 韓国・慶南大学校教授
元 東京大学先端技術研究所協力研究員
元 産業技術総合研究所特別研究員
元 台湾新聞日本語版副編集長。
現在、株式会社オーシャン(鹿島道路グループ)IoT事業部長。IoTのセミナー&プロダクト開発に従事。