オープンデータから広がるセンサデータ活用(2)

大島 正美(おおしま まさみ)
(一社)データクレイドル
代表理事
大島 正美

3.オープンデータ

 データの生成者(保有者)は、データにライセンスルールを適用することで、アクセスできる範囲を自分で決めることができる。利用範囲によって、だれでも利用できるオープンデータ、権限を保有している人が利用できる(関係者限定)データに分けることで、「包括的データ戦略」のデータ三原則のひとつ、「データを勝手に使われない、安心して使える」という原則の実践につながる。
 国の「オープンデータ基本指針(平成29年5月30日IT本部・官民データ活用推進戦略会議決定 令和3年6月15日改正)」では、オープンデータとは、国、地方公共団体及び事業者が保有する官民データのうち、国民誰もがインターネット等を通じて容易に利用(加工、編集、再配布等)できるよう、以下のいずれにも該当する形で公開されたデータと定義されている。
① 営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの
② 機械判読に適したもの
③ 無償で利用できるもの
 二次利用とは、グラフや地図に加工・編集したり、アプリを作成して公表する等、元々のデータを利用して、加工・編集・再配布等をすることを指す。広く二次利用を認める際の利用条件としては、出典を記載することで自由に二次利用できるクリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示 4.0 国際(以下「CC BY」という)が国際的に採用されている。日本では、国や地方公共団体の公開データについては、CC BYまたはCC BYと互換性のある政府標準利用規約を適用することが推奨されている。政府標準利用規約は、公開データの二次利用促進のために各府省ウェブサイトの利用条件や免責事項等を定めたものである。
 また、機械判読とは、コンピュータプログラムが自動的にデータを加工、編集等できることを指す。統計情報等の構造が整ったデータについては、特定のアプリケーションに依存せず、活用がしやすいデータ形式である CSV 形式での公開を原則することと示されている。

(図-2 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス)
(図-2 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス)

出典:クリエイティブ・コモンズ・ジャパンWebサイト3)

3.1 国のオープンデータ

e-Govデータポータル4)は、デジタル庁が整備、運営する国のオープンデータポータルである。中央行政機関等が保有する公共データのうち、約2万件のオープンデータセットを横断的に検索し、閲覧、ダウンロードできる。データセットとは、メタデータ(データの説明)とリソース (ファイル等) の集合のことである。
 総務省統計局が運営する政府統計ポータルサイトe-Stat5)では、各府省等が公表する統計データを集約して公開している。いずれのポータルサイトも利用ルールは政府標準利用規約に準拠しており、CC BYに従うことでも利用することができる。なお数値データ、簡単な表・グラフ等は著作権の対象にはならないため、自由に利用できる。
 一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会が運営するG空間情報センター6)は、国や地方公共団体、民間企業が保有する地理空間情報(=G空間情報)データの流通を支援するプラットフォームである。最近の人気データセットは、国土交通省「全国の人流オープンデータ(1kmメッシュ、市区町村単位発地別)」、法務省「登記所備付地図データ」、国土交通省「3D都市モデル(Project PLATEAU)」、静岡県「VIRTUAL SHIZUOKA 静岡県 中・西部 点群データ」等、センシング成果をもとに作成されたデータである。
 全国の人流オープンデータは、新型コロナウイルス感染症が拡大する2019年~2021年を対象に、全国の「1kmメッシュ別の滞在人口データ」と「市区町村単位発地別の滞在人口データ」で、滞在人口はAgoop社が提供するSDK(AgoopSDK)を組み込んだスマートフォンアプリより取得されたGPSデータを基に作成されたものである。
 3D都市モデル(Project PLATEAU7))は、航空測量等に基づき取得したデータから建物等の地物を3次元で生成したデータで、都市空間を3Dデータで再現することにより、都市計画立案の高度化や、都市活動のシミュレーション、分析等への活用が期待されている。また、林野庁は、航空レーザ測量成果から整備された森林資源情報を公開しているが、ESG投資やカーボンニュートラルの視点で関心が高まっている。G空間情報センターで公開されているデータは、民間企業の保有データ等個別の利用ルールが定められているデータも混在しているが、政府標準利用規約が適用されたオープンデータも数多く公開されている。

3.2 地域のオープンデータ

 e-Govデータポータルでは、オープンデータ取組済の都道府県・市区町村がデータを公開しているデータベースサイトの一覧も参照できる。2024年3月時点で1000件以上のデータベースサイトが存在しており、各サイトでは統計情報、公共施設情報、防災、インフラ等のオープンデータが多数公開されている。
「オープンデータ基本指針」では、データ公開等に関する基本的な考え方として、「各府省庁にしか提供できないデータ」、「様々な分野での基礎資料となり得る信頼性の高いデータ」、または「リアルタイム性を有するデータ」等の有用なデータについては社会的ニーズが高いと想定されるため、積極的な公開を図ることを求めている。リアルタイム性を有するデータとは一定時間経過毎に情報を更新する必要があるデータであり、例として、イベント情報、公共交通機関の混雑率、または災害・防災情報などが示されている。
地域では、 IoT デバイスから取得したリアルタイム性を有するデータをオープン化する取組が始まっている。
広島県は、公共土木施設等に関するあらゆる情報を一元化・オープン化を可能とするインフラマネジメント基盤「DoboX」8)を令和4年度から運用し、道路の路面状況(積雪深・圧雪深・気温・路面温度・路面状態)、河川水位、ダム諸量、潮位、雨量、風速等観測等のリアルタイム性を有するデータについても集約、公開を行っており、防災や建設分野、観光MaaSなどでデータの利活用を進めている。

(図-3 広島県インフラマネジメント基盤DoboX)
(図-3 広島県インフラマネジメント基盤DoboX)

出典:インフラマネジメント基盤DoboXを核とした新たなサービスの提供について
~令和5年度中国地方建設技術開発交流会~
(令和5年10月23日広島県土木建築局建設DX担当)

 また、鳥取県はオープンデータポータルサイトにおいて鳥取県内の路線バス運行情報に加え鳥取県内12市町が運営するコミュニティバスの運行情報をオープンデータとして公開した。国際的な共通フォーマット「GTFS(General Transit Feed Specification)」をベースに国土交通省が制定した標準的なバス情報フォーマット「GTFS-JP」を使用して県内のバス運行情報を公開することで、経路検索など様々なサービスに活用されることを期待しており、バスの現在位置、遅延情報などのリアルタイムデータも公開する計画である。

4.センサデータの活用

4.1 地域の取組み

デジ田メニューブック9)では、センサやデータ活用の事例が多数掲載されている。例を挙げると、宇和海水温情報運営管理協議会は、深度も含めた空間的広がりにおける海水温の常時リアルタイム情報を漁業者に提供するため、観測センサ開発から、センサネットワーク(南北約65km)の構築、データ変換を含むデータ集約蓄積サーバの構築、利用者視点の情報可視化表示を実現している。また、福岡県飯塚市は、農作物被害をもたらすイノシシやシカの捕獲支援として、有害鳥獣捕獲従事者に対し、わな監視システムを貸し出し、見回りの頻度を減らし労力軽減を図る取組を行っている。

出典:デジ田メニューブック9)

 コロナ禍の中国圏では、民間主導でIoT センサによる観光マーケティングDX実証実験10)が行われた。広域の自治体・観光協会・DMO/DMCおよび観光事業者の参加を得て、83箇所の観光施設に人感センサまたはAIカメラを設置、入込客数や属性データのリアルタイム生成、取得データの共有による地域間連携が試行された。個人情報保護やプライバシーの観点から、AIカメラに映った顔画像は性別・年代の属性推定後、破棄し、判定結果のみをクラウドに送信して蓄積する仕組みである。観光の現場で発生した人の行動ログを各観光施設が自己保有データとして蓄積し、参加団体に共有(シェアリング)する仕組みと運用ルールは、現地ボトムアップ型データ流通のモデルとして参考になる。また、センサ設置場所で目視観測を実施してセンサ生成データの精度を評価し、必要に応じて補正を行うことで、観光地点等入込客数調査のDXにつなげられる可能性がある。実証事業で整備された分析ツールは継続して利用できるように、一般社団法人データクレイドル11)が2024年度にリリース予定の中国5県広域観光オープンデータポータルサイト「観光dataeye」に搭載する準備を行っている。

(図-4 IoT センサによる観光マーケティングDX実証実験)
(図-4 IoT センサによる観光マーケティングDX実証実験10)

4.2 社会インフラとデータ

 国は、社会インフラ整備計画「デジタルライフライン全国総合整備計画」12)を策定している。
 人口減少が進む中、都市部でも中山間地域でも安心して暮らし続けられる社会の実現に向けて、自動運転やドローン物流等のデジタル技術を活用した最適な生活サービス提供の基盤の整備を目指すもので、約10年の計画で、2024年度から社会実装が開始される。
 デジタルライフラインとは、ドローン航路や自動運転支援道などで構成される、デジタル時代における社会インフラの総称で、①ハード(高速通信網・IoT機器など)、②ソフト(データ連携基盤・3D地図など) ③ルール(認定制度・アジャイルガバナンスなど)で構成される。
 デジタルによる恩恵が全国津々浦々に行き渡り、すべての人やあらゆる物がデータを生成する社会において、適切なデータ消費者になるための準備もしておきたい。

出典:経済産業省「デジタルライフライン全国総合整備計画」12)





【著者紹介】
大島 正美(おおしま まさみ)
一般社団法人データクレイドル 代表理事

■略歴
民間企業研究所において情報検索業務に従事後、独立し起業、地域中小企業の情報検索・活用を 20 年余り支援。2012 年より NPO 法人地域 ICT 普及協議会設立、理事として遠隔医療や在宅医療介護連携などICT を活用した地域課題解決に取り組み、2015 年(一社)データクレイドル設立、理事就任。地域でオープンデータ推進、データ活用促進、データ活用人材の育成に取り組む。2022 年4月代表理事就任。

デジタル庁オープンデータ伝道師
総務省地域情報化アドバイザー
国土交通省「中国圏広域地方計画学識者等会議」委員