東京理科大学大学院 創域理工学研究科の橋本貴史氏、進藤大輝氏、東橋本研志助教、坪山 祥子ポストドクトラル研究員、朽津 和幸教授らの研究グループは、京都大学の宮川拓也准教授、東京大学の田之倉優名誉教授の協力を得て、ゼニゴケを用いて、植物の活性酸素種生成酵素RBOH(Respiratory Burst Oxidase Homologues)(*1)の基本的な活性化メカニズムを解明することに成功した。
活性酸素種(ROS, Reactive Oxygen Species)(*2)は一般に、呼吸や光合成の際に生じる有害な副産物として捉えられてきた。しかし、近年の研究から、多くの真核生物、特に植物ではROSを積極的に生成する酵素系が発達しており、免疫(感染防御)応答をはじめとする生体内のさまざまな生命現象にROSを利用していることが明らかとなってきている。こうした研究に朽津教授らの研究グループも大きく貢献してきた。ROSは毒性が高いことから、生体内の適切な部位で適切な量を生成するための巧妙な制御機構が存在していると考えられる。カルシウムイオン(Ca2+)の結合と、リン酸化が相乗的に活性化に関与することが2008年に朽津教授らの研究グループによって提唱されたが、両者の関係など詳細なメカニズムは解明されておらず、世界的にも重要な生物学上の未解決課題となっていた。
本研究では、モデル植物であるゼニゴケ(Marchantia polymorpha)を用いて、微生物由来のキチン(*3)により誘導される感染防御応答時のROS生成メカニズムを調べた。研究の結果、キチンによって細胞内のCa2+濃度上昇が誘導されること、RBOHはCa2+との結合により活性化されること、そしてこのCa2+結合は、陸上植物全般に保存された活性制御領域内に含まれる2つのアミノ酸残基のリン酸化により増強されること、すなわちこの2つのアミノ酸残基のリン酸化によりCa2+が結合しやすくなりRBOHが活性化されることを見出した。
本研究で解明された基本的なRBOH活性化メカニズムは、陸上植物全般に共通している可能性があり、ROSを介して、病原体に対する免疫、成長や生殖など植物のさまざまな機能を制御するための重要な基礎的知見になると考えられる。
本研究成果は、2023年12月12日に国際学術誌の「Physiologia Plantarum」(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ppl.14101)にオンライン掲載された。
*用語解説
*1 RBOH
細胞膜局在型酵素(NADPHオキシダーゼ)であり、NADPH由来の電子を酸素分子と反応させることで、細胞壁空間に活性酸素種を生成する。
*2 活性酸素種(ROS)
酸素分子(O2)と水(H2O)との間の酸化還元状態に位置する反応性の高い分子群で、スーパーオキシドアニオンラジカル(・O2−)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル(・OH)などが含まれる。生体内では、DNAやタンパク質など種々の生体分子と反応することで細胞毒性を示す一方、さまざまな生命現象におけるシグナル分子として利用されている。
*3 キチン
カビなど真菌類の細胞壁を構成する糖鎖。植物が持つキチン分解酵素(キチナーゼ)により遊離したその断片であるオリゴ糖は、代表的なMAMP(微生物分子パターン; *5)として、植物に感染防御(免疫)応答を引き起こす。
ニュースリリースサイト(tus):https://www.tus.ac.jp/today/archive/20240124_7312.html