光コム・デジタルホログラフィーによる高ダイナミックレンジ表面形状測定 Wide dynamic range three-dimensional shape measurement based on synthetic-wavelength digital holography using optical frequency comb(2)

【 徳島大学・ポストLEDフォトニクス研究所 】

長谷 栄治(はせ えいじ)
長谷 栄治

時実 悠南川 丈夫安井 武史

3. 実験装置

 図3に実験装置の概略図を示す.大まかには,光源部分,単一コムモード抽出のための光学部分,およびデジタルホログラフィーの光学系部分に分かれる.まず,光源部分では,隣接するコムモードの間隔を広く設定できる結果(周波数間隔 frep = 10 GHz,波長間隔 = 0.08 nm),単一波長抜き出し(分離)が比較的容易となる電気光学変調器を用いた光変調技術に基づく光コム光源を用いた.本光源は光通信に用いられる波長帯であり,デュアル・マッハツェンダー型変調器と高非線形分散シフトファイバーの利用により,光強度スペクトル波形が平坦で(それぞれのコムモードの光強度が等しい), 1540 nmから1570 nmの帯域において約300本のコムモードが利用可能である 2).単一コムモード抽出の光学系に関して,我々の研究グループではこれまでに,抽出速度が比較的高速であるが光学的なスループットが犠牲になる方法 3)と,その反対に低速であるが高スループットでSN比(信号対雑音比)の高い方法 4)の2つを用いている.前者はそれぞれの異なる波長を異なる2次元空間に展開する波長-2次元空間変換素子(VIPA(Virtually imaged phased array)と回折格子の併用)と空間光変調器の組み合わせから成り,後者は光通信波長帯における市販の狭線幅バンドパスフィルターから成る.今回の実験結果では後者の方法を用いて得られた結果を後に記述する.
 最後に,デジタルホログラフィーの光学系・解析法の種類も様々であるが 5),我々のグループではオフアクシス(非共軸)型のマイケルソン干渉計と角スペクトル法による再構成(回折)計算の組み合わせを採用し,1枚の干渉縞画像から位相画像(および振幅画像)を再構成できる実験システムを用いた.測定対象から回折してきた光と,参照光として利用する反射鏡から反射した光による干渉縞(ホログラム)は近赤外カメラによって検出され,抽出波長を変えながらこの計測を繰り返す.実際には300本のコムモードを用いて299通りの合成波長を生成することにより,最長で30 mmの合成波長が利用可能な位相画像接続型の多波長デジタルホログラフィーを実現した.

図3 光コム・デジタルホログラフィーの実験装置.
図3 光コム・デジタルホログラフィーの実験装置.

4. 実験結果

 図4に本手法を用いて得られた実験結果を示す.計測の対象として,厚さの異なる4つの金属製ブロックゲージをオプティカルフラット上にリンギングにより密着させたものを用いた.図4(a)に示すように,それぞれA: 1.0000 ± 0.00014 mm,B: 8.0000 ± 0.00014 mm,C: 1.100 ± 0.00014 mm,D: 2.0000 ± 0.00014 mmの厚さである.この対象を光コムデジタルホログラフィーにて計測する際に,すべてのブロックゲージを計測できるよう図4(a)赤破線枠にレーザー(光コムの各モード)を照射し,3次元再構成した結果を図4(b)に示す.この画像から,計測に用いた光の波長を大きく超えるような数mmオーダーの形状を計測できていることがわかる.この結果を定量的に評価するため,得られた結果から各段差の大きさを計算し,ブロックゲージのカタログ寸法と比較する. A-B間,A-C間,C-D間,B-D間の4つの段差について,それぞれ7.0028 mm ± 0.0725 µm,0.1000 mm ± 0.0831 µm,0.9002 mm ± 0.0766 µm,6.0025 mm ± 0.0661 µmという計算結果が得られ,寸法とよく一致していることが確認できた.
 最後に図4(b)の3次元像における各面(各段)の赤破線枠を抽出したものを図4(c)に示す.画像の色は平均高さからの差を示しており,その表示スケールは± 200 nmである.B,C,およびD面ではリンギングによる密着の不完全性に起因すると予想される傾き(縞)が発生しているが,密着が適切に行われていると予想されるA面ではフラットな形状が得られており,この領域の標準偏差を計算したところ数十nm程度であった.この値を計測の下限(分解能)として定義し,上限を決定する合成波長は数十mmであったことからダイナミックレンジは106となり,本手法を用いれば高ダイナミックレンジ性を確保した表面形状の計測が可能となることが確認できた.

図4 実験結果. (a) 計測対象の写真,(b) 測定結果の3次元表示,(c) 各段(図4(b)中の赤枠)の表面形状. 図4 実験結果. (a) 計測対象の写真,(b) 測定結果の3次元表示,(c) 各段(図4(b)中の赤枠)の表面形状.
図4 実験結果. (a) 計測対象の写真,(b) 測定結果の3次元表示,(c) 各段(図4(b)中の赤枠)の表面形状.

5. まとめ

 本文献では光コムの各コムモードを利用した多波長デジタルホログラフィーにより,3次元表面形状情報を得られる位相画像計測におけるダイナミックレンジの大幅な拡大が可能であることを示した.一方,現状の実験装置は原理実証を目的とした構成となっていることから,実際の産業への応用に関しては時間分解能,面内視野サイズ,あるいは鏡面以外の対象の計測などの観点からの再検討余地がある一方,各種の最適化や高度化によって業界の要望・要求に近づけられると考えている.機械加工については今後も益々の技術進展により高精度化が進んでいくものと予想されるが,これに対応するためには,高いダイナミックレンジでかつ機械的な機構を有さない本手法は有望なツールの一つであり,上記進展に並走あるいは先立って高機能な計測手法を確立することは重要な課題であると考えられる.



参考文献

  1. I. Morohashi et al., “Widely repetition- tunable 200fs pulse source using a Mach–Zehnder-modulator-based flat comb generator and dispersion-flattened dispersion-decreasing fiber,” Opt. Lett. 33, 1192 (2008).
  2. E. Hase et al., “Multicascade-linked synthetic-wavelength digital holography using a line-by-line spectral-shaped optical frequency comb,” Opt. Express 29, 15772 (2021).
  3. E. Hase et al., “Nanometer-precision surface metrology of millimeter-sized stepped objects using full-cascade-linked synthetic-wavelength digital holography using a line-by-line full-mode-extracted optical frequency comb,” Opt. Express 31, 18088 (2023).
  4. S. Ulf and W. Jueptner, Digital Holography (Springer, 2005).


【筆頭著者紹介】
長谷 栄治(はせ えいじ)
徳島大学 ポストLEDフォトニクス研究所 特任助教
⟨ 略歴 ⟩
1989年生まれ.2017年,徳島大学・大学院先端技術科学教育部知的力学システム工学専攻博士後期課程修了,博士(工学).2017年,高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門,研究員.2019年,徳島大学・ポストLEDフォトニクス研究所,特任研究員を経て特任助教.現在に至る.

【著者紹介】
時実 悠,南川 丈夫,安井 武史
徳島大学 ポストLEDフォトニクス研究所