水晶振動子をトランスデューサとするe-Nose型ニオイセンサ(2)

橋詰 賢一(はしづめ けんいち)
(株)アロマビット
最高技術責任者
橋詰 賢一

4 アロマビット製e-Nose型ニオイセンサ

アロマビット社は創業時よりe-Nose型ニオイセンサに特化して開発及び製品化を進めている。弊社では上記のトランスデューサのうち最も歴史が長く、電子部品としても成熟している水晶振動子と将来の超小型化・低価格化を視野に入れたFET・CMOSの二種類に着目し、これらをニオイセンサとして有効に利用するための感応膜開発および測定されるパターンデータの解析と匂い判定技術を中心に技術開発を行っている。
図-3にアロマビットで開発、販売している水晶振動子型およびCMOS型のセンサモジュール製品の写真を示す。図に示したように、水晶振動子型はセンサ表面に吸着した分子の重量の測定、CMOS型は吸着により生じる感応膜上の電気的変化を測定するという意味で、それぞれ体重計と体組成計のような概念的な違いがあるが、いずれも異なる感応膜に対するニオイ分子の親和性の違いを読み取りパターン化するという点では同じ原理のセンサである。

図-3 アロマビット製ニオイセンサ及びそれぞれの動作原理の違い
図-3 アロマビット製ニオイセンサ及びそれぞれの動作原理の違い

水晶振動子型ニオイセンサ用の吸着膜は創業時より先行して開発していたこともあり、現在は40膜をお客様にご提供している。40膜すべてを搭載した匂い分析装置 Aroma Coder V2 も上市している。(図-4)

図-4 Aroma Coder V2
図-4 Aroma Coder V2

このAroma Coderを用いて様々なニオイ物質を測定し、レーダーチャートの形で表現した結果を図-5に示す。相違がわかりやすくなるように選抜した28膜としているが、アンモニアとアミン、アセトアルデヒドとプロピオンアルデヒドが一定の類似性を示すことから、Aroma Coderを用いた匂いのパターン化が一定の有用性がることがわかる。
また、これらの物質を例に取ると、アンモニアやトリメチルアミンなどの高極性物質においてはCMOS型ニオイセンサでも十分な感度を有する感応膜の開発に成功しているが、酢酸エチルやトルエンなどの低極性物質に関しては今のところ水晶振動子型のセンサ向けの吸着膜が進んでおり、現状では水晶振動子型センサが一歩先行しているという状況である。
ただしCMOS型の感応膜の開発も順調に進んでおり、膜の種類という視点ではここ2年ほどで両方とも同程度の感応膜のラインナップが準備できると考えている。

図-5 Aroma Coderを用いたニオイ物質のパターン化
図-5 Aroma Coderを用いたニオイ物質のパターン化

5 最後に

これまで述べてきたようにe-Nose型ニオイセンサはその仕組が最初に提唱されてから既に60年にもなる古い概念のセンサである。また、水晶振動子デバイスも大変歴史が長く成熟した技術であり、こうした完成度の高い2つの技術を組み合わせることでデジタル化の困難であった嗅覚という感覚をデータ化できる可能性を持つセンサである。
21世紀に入ってからこのようなアプローチでいくつものスタートアップが製品化・事業化を目指して開発を進めてきたが、近年のビッグデータ解析技術や人工知能技術の発展に伴って多次元で表現される匂いパターンデータをAIの助けを借りて用意に利用できる環境が整ってきた。この環境下で上記のように完成度の高いe-Nose型ニオイセンサ技術と組み合わせることで様々な社会的なニーズに答えることができる可能性が飛躍的にましていると考えている。
弊社においても、このような匂いのパターン化・デジタル化の技術に対して期待されている用途分野は業界を問わず多岐にわたっている。図-6にはそれらのうち、弊社が把握しているいくつかの産業界における用途の例を示す。
これらの他にも、匂いのデジタル表示、健康管理や病気検知など無数の応用が期待されている。

図-6 e-Nose型ニオイセンサの用途の一例
図-6 e-Nose型ニオイセンサの用途の一例


【著者紹介】
橋詰 賢一(はしづめ けんいち)
株式会社アロマビット 最高技術責任者

■略歴

  • 1983年日本カーリット株式会社中央研究所入社 主として電子材料・機能性化学品の開発に従事
  • 1991年ERATO吉村π電子物質プロジェクト研究員 ファインカーボン・テーラードカーボンの基礎研究に従事
  • 1999年ノキア・ジャパン株式会社ノキアリサーチセンター入社 リサーチマネージャおよびプリンシパル・サイエンティストとしてプリンタブルエレクトロニクス、バイオマテリアルおよび5感通信技術の研究を行った
  • 2008年Invention Development Fundにて材料技術・環境技術・エネルギー技術担当ディレクターとして10年先を見越した技術開発テーマの策定と知財化を行った
  • 2014年株式会社アロマビット最高技術責任者