SUCSが要求される背景と狙い(2)

小林 彬(こばやし あきら)
東京工業大学名誉教授
一般社団法人次世代センサ協議会会長
小林 彬

4.SUCSに関する5つの利点

 前項で触れたセンシングフレームワークの具体的な構成方法の詳細については本特集の他の解説において説明されるが、基本は、冒頭で述べたように、4つのユニットの組合せ連結によるものであり、次のような利点を持つと考えられる。(図5参照)
(注:4つのユニットを組合せ連結したものを、4両列車編成に見立てセンシングトレインと呼ぶ)

図5 SUCSが齎す5つの利点
図5 SUCSが齎す5つの利点
  1. ① 各ユニットについて、種々ラインアップが揃うことが前提であるが、センシング系は、目的に対応して、それぞれのユニットから適当なものを選択し、それら組合せの連結(USB接続に類似するコネクター《SUCSコネクタ》を利用する)により構成できるので実現は極めて容易である。
  2. ② 故障等により、修理・修繕の必要が生じた場合は、該当ユニットの交換のみで対応できるので保守が容易である。
  3. ③ 時間の経過や、ユーザーの意向により機能・性能につき改良の必要が生じた場合には、該当箇所につき進化したユニットに変更すればよく、ヴァージョンアップ等進化に即応することが可能である。
  4. ④ センシング系の実現には、一般に多様な方式が想定でき、その中でどれが適切であるのかは実践によって決められるものである。SUCSにおいては、組合せ連結の多様性により、試行錯誤を円滑に短時間で行うことができるので、最適なセンシング系を合理的に選択することが可能である。
  5. ⑤ ユーザーからの新センシング系ニーズに対して、短い開発期間で対応できることは重要であり、SUCSであれば、確実に開発期間を短縮することが可能である。

 SUCS CSはSUCS 1.0として、現在SoTとIoTの連携強化つまりSIoTのガイドラインを整備中で、今後、SUCS 2.0においてAIまで含めた連携に基づく高度化された新センシングシステムの構築を目指そうとしている。

5.新分野への展開とセンシング技術が拓く生産性向上2.0

 嘗て、センシング技術のプロセス産業や自動車産業への導入は、システムの機器計測化、機械化、自動化を支援し、製造業分野における製造工程の生産性向上に大きく寄与した。
 これに対し、今後、センシング技術未開の分野への展開が社会にどのような影響を及ぼすのか最後に考えてみたい。
 センシング技術未開の分野は種々あるが、例として行政を始めとするサービス業分野を想定して見たい。DX化が指摘されているように、この分野、人による作業が中心で、作業の中身は、状況の判断及びそれに続く意思決定であり、それに対応するサービスを提供することの繰返し・連鎖になっている。
 そのような場合、結果として、迅速、的確、それでいて見落としのない作業が要望される訳だが、これに資するためには、的確な状況モニタリングとデータ全体を総括した客観的な評価指標の提示が必要となる。このことは、堤防決壊時の避難誘導指示等を想定して見れば容易に分かることである。この種の作業の品質向上を図ることは、言い換えると結果として:

的確なモニタリングデータの提示に基づく
《人間作業におけるリードタイムの短縮》

ということに要約される。
 このように見てくると、センシング系は作業者の思考パターン等を考慮しつつ、「気付き・見守り」の側面からも支援する、知的センシングの性格を帯びることになり、システムの知能化が必須となる。(図6参照)

図6 生産性向上2.0を齎すセンシング系
図6 生産性向上2.0を齎すセンシング系

 上述の点を、オートメーション化に対比して考えると、支援対象が製造工程から意思決定者へと大きく変わっており、振り返って、嘗てが、生産性向上1.0の時代とすれば、今正に生産性向上2.0の時代を迎えようとしていると言える。

おわりに

 以上、特集号「新しいセンシングフレームワーク『SUCS』とは何か」に関し、《SUCSが要求される背景と狙い》について解説した。膨大な市場を開拓し、客観的で的確な情報を提供することにより社会を変え、新たな生産性向上が図られるものと考えている。
 なお、SUCS CSへの入会案内のURLは https://www.jisedaisensor.org/sucs/#member
であり、多数の方々の積極的参加を期待するものである。

【著者紹介】
小林 彬(こばやし あきら)
東京工業大学 大学院理工学研究科 機械制御システム専攻 教授
東京工業大学 名誉教授
次世代センサ協議会 会長

■略歴
昭和44年03月 東工大理工学研究科博士課程修了(制御工学専攻)、工学博士
昭和44年04月 東工大工学部 助手 (1969.04)
昭和50年08月 東工大工学部 助教授 (1975.08)
昭和62年12月 東工大工学部 制御工学科 教授 (1987.12)
平成5年4月  東工大工学部 制御システム工学科 教授 (1993.4.)
平成6年4月  東工大総合情報処理センター教育・研究専門委員会委員
平成12年4月 東京工業大学 大学院理工学研究科 機械制御システム専攻
平成13年4月~平成15年3月
東京工業大学 保険管理センター所長
平成17年03月 東京工業大学 大学院理工学研究科 定年退職 東京工業大学名誉教授
平成17年04月 大学評価学位授与機構客員教授
平成17年04月 帝京平成大学現代ライフ学部教授
平成22年04月 帝京平成大学現代健康メディカル学部教授
平成24年03月 帝京平成大学定年退職

■賞罰
昭和48年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
昭和55年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
昭和61年07月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
平成5年5月 日本ファジィ学会;著述賞。「あいまいとファジィ」
電気学会編、オーム社発行(1991)
平成4年10月 (社)日本産業用ロボット工業会;工業会活動功労者賞
平成8年07月 計測自動制御学会フェロー受称
平成17年08月 計測自動制御学会学術論文賞受賞
平成15年10月 東京都科学技術振興功労者賞
平成23年10月 経済産業省産業技術環境局長