2.3 国内の洋上風力発電導入の動き
国内における洋上風力発電については、着床式、浮体式ともに、2008年より経済産業省、NEDO、環境省により洋上風況観測システムや洋上風力発電の実証研究がなされ、その成果から、台風、地震荷重、波浪など環境条件の評価手法や支持構造物の計算手法などについてIEC国際電気標準会議に対して提案を行ってきた。さらに2011年から、福島沖での浮体式洋上風力発電の実証研究も2MW、5MW、7MW風車とそれぞれ異なる形式の浮体を用いて実証試験が行われた。6) 7)
一方、2016年の港湾法の改定で、港湾内風力の設置が可能となり、2019年4月からは、「海洋再生可能エネルギー発電に関わる海域利用促進法」も施行され、一般海域での洋上風力発電の開発環境が整った。同年6月には海域指定、事業者選定を含むガイドラインが公表された。これは経済産業省、国土交通省を中心に関係省庁が共同で進められており、地元調整の場である地域協議感の設置、事業者の選定などが定められている。
そして2019年7月末には既に一定の準備段階に進んでいる海域として、青森3海域、秋田4海域、新潟1海域、千葉1海域、長崎2海域の5県11海域のうちから、最初の有望な4海域(秋田県能代市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖、長崎県五島市沖)が発表された。認定された事業については30年間一般海域での海域利用が可能となる。
欧州諸国に比べて大きく遅れていた日本の洋上風力発電は、20020年10月の菅首相による「2050年ゼロカーボン宣言」を契機に、CO2ゼロ実現の最有力手段として洋上風力発電が大きく取り上げられ、官民協議会も立ち上がった。2020年末には「洋上風力発電産業ビジョン」が発表され、2030年までに1000万kW、2040年までに3000万~4500万kWを導入するという野心的な目標が掲げられた。さらに、民間では2040年までに洋上風力発電関連産業のサプライチェーンにおいて国内到達率60%を目指すことも確認されたのである。8)
再エネ海域利用法の施行プロセスと施行状況を図3に示すが、2019年12月には長崎県五島市沖を初の促進区域に指定し、占用計画の評価を経て、2020年6月には戸田建設が事業者に確定している。続いて、2020年7月には秋田県由利本荘市沖や千葉県銚子市沖などが促進区域に指定され、さらに、2021年7月には秋田県八峰町・能代市沖を含む4海域が新たな有望区域として公表された。認定された事業については、30年間にわたって一般海域での海域利用が可能となる。
このように、各自治体の要望を反映しつつ、政府主導で洋上風力発電の導入が急ピッチで実施されつつあるが、図4に示すように、多くの海域で洋上風力発電のための環境アセスメントが実施されている。これらの案件は、2021年末時点で総容量約35GWに達している。
3.わが国における洋上風力発電の可能性と課題
洋上風力発電を今後の脱炭素化社会の最強の切り札と分析しているIEA Offshore Wind Outlook 2019において、地域別に見ると圧倒的に先行している欧州に加えて、今後は中国、中国以外のアジア、そして米国が大きく増えるとしている。洋上風力の潜在開発可能量ポテンシャルは、欧州、米国、日本が大きく、特に日本は電力需要の9倍ものポテンシャルがあることが注目される。日本政府の2040年までに3000万kW~ 4500万kWという導入計画を達成すると日本は、図4に示すように、2040年には米国並み世界3位ないし4位の洋上風力発電国となり、再エネを主力電源とする第6次エネルギー基本計画も実現することになる。2) 8)
一方、世界的に洋上風力発電が急進展する状況の中で、国内では2015年に、三菱重工業はデンマークのVestas社との合弁により、国内の開発製造を休止し、2019年には日立製作所と日本製鋼所が風車の製造からの撤退し、国内に1MWを超える風車メーカーは存在しないのが現状である。現在、洋上風力活性化の動きの中で、欧州で実績のある洋上風力発電事業者が日本市場に強力な攻勢をかけており、日本は国内風力関連産業を再興しうるかどうか、文字通り岐路に立たされているのである。さらに、洋上風力発電の運用が始まると洋上風力発電の技術者に加えてO&M要員などの急増が見込まれることから、洋上風力発電関連の人材育成も急務と言える。9) 10)
このような脱炭素化が世界の大目標となる動きの中で、IEA(国際エネルギー機関)はEnergy Outlook 2019年版において、初めて再エネを大きく取り上げ、洋上風力に関する詳細な分析をしている。図5に示すように、当然のことながら、石炭火力は現状の20%から2040年には2%~3%に激減し、原子力も次第に減少し、2040年には18%になり、その後さらに減少が進む。一方、2019年に電力の10%程度の陸上風力は2026年頃に15%、2040年に20%となるが、その後は適地の減少もあって横ばいとなるのに対して、洋上風力は、現状の2%から2028年には10%、2040年に20%となり、その後もさらに増大して、再エネの中で最大のシェアを占めることになるとしている。まさに、これからは洋上風力発電の時代なのである。2)
4.おわりに
わが国では、2019年には海洋再エネ発電促進法が施行され、さらに、送電線への接続枠も電力会社の空き容量の開放などにより拡大しつつあり、洋上風力発電の大量導入の準備は整いつつある。2021年に改定された第6次エネルギー基本計画においても、風力などの再生可能エネルギーを「主力電源」とすることがうたわれている。同じ海洋国である英国の壮大な洋上風力導入プランに倣い、官民により掲げられた風力導入に対する野心的な高い目標実現を目指して、研究開発と市場拡大によりコスト低減を図り、洋上風力発電事業と地域と共生しうる洋上風力発電産業の振興が期待される。
参考文献
- 2)IEA Offshore Wind Outlook 2019
- 石原孟; 洋上風力発電の現状と将来展望, 第21回風力エネルギー利用総合セミナーテキスト, 足利大学総合研究センター, 2021 年6月.
- 永尾徹;福島浮体式洋上風力発電の総括と将来展望、第21回風力エネルギー利用総合セミナーテキスト, 足利大学総合研究センター, 2021年6月
- 資源エネルギー庁、洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ、(2020)官民協議会
- Wood Mackenzie. Power & Renewables; Total market Outlook 2016-2018, March 18, 2019
- Craig Richard;Emerging offshore markets facing skills shortage, Wind Power Monthly,16 April (2020)
【著者紹介】
牛山 泉(うしやま いずみ)
足利大学理事長
■略歴
1942年長野県生まれ。1971年上智大学大学院理工学研究科博士課程修了、工学博士。
エネルギー変換工学を専門とし、主に風力発電など再生可能エネルギーの研究に従事。1971年より足利工業大学(現足利大学)機械工学科講師、助教授、教授を務め、2008年度より2期8年間学長。2016年度より足利大学理事長、大学院特任教授。日本機械学会フェロー、1977年に足利工業大学において日本風力エネルギー学会創設、元会長、日本太陽エネルギー学会元会長、フェロー、日本技術史教育学会前会長、経済産業省(METI)および新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)洋上風力発電委員長、新エネルギー財団(NEF)風力委員長、などを歴任。論文は風力関連を中心に160件、著書は単著共著合わせて26冊(うち5冊は中国、台湾、韓国で翻訳出版)。受賞はWWEC世界風力エネルギー会議栄誉賞、WREC世界再生可能エネルギー会議パイオニア賞、同功労賞、文部科学大臣賞、日本風力エネルギー学会特別表彰など12件。