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「農業版デジタルツインプラットフォーム」での、無人走行車シミュレーションの実証完了

(株)Happy Qualityは、(株)フィトメトリクスと共同で開発した「農業版デジタルツインプラットフォーム」(以下、本プラットフォーム)をさらに高度化し、農業用無人走行車 (以下、UGV: Unmanned Ground Vehicle)の開発および本プラットフォームの各農場に合わせてたカスタマイズ提供を開始した。
本プラットフォームを利用することで農場に特化したあらゆる環境の走行データをすばやく取得することが可能になり、UGVなどのロボットの開発速度を向上させつつ、ロバストなシステム開発が可能になるという。

<開発背景>
実際の農場では、植物の栄養状態や果実熟度、病害虫など日々の状態把握に多大な労力を要しているという課題がある。その改善として画像診断を利用する方法があり、その際、画像診断用のカメラを自律的に移動させ、農場全体の状態を把握することが理想であり、その移動手段としてUGVが利用可能である。 また、UGVを利用すれば、遠隔地の栽培管理のために、農場へ移動する必要がなく、自宅で遠隔の農場内を観察することも可能になる。
しかし、農場特有の周辺環境の変化 (植物の成長、日々の管理作業、日光、地面など) など様々な農場に適用可能な自律走行UGVの開発は容易ではない。そこで、本プラットフォームで各農場の周辺環境を網羅的に再現し、デジタルツイン上で走行シミュレーションを行うことで、これらの課題改善および実証検証に取り組んだとのこと。

<開発した農業用UGV>
開発したUGVは、小回りの利く車体に走行用センサと植物観察用のカメラを備えており、農場全体の植物状態観察を可能にしている。

<走行シミュレーション>
本プラットフォームは、Unity (3Dゲームエンジン) を用いて植物や農業用ハウス、地面など周辺環境を高精度Lidarを活用して完全再現している。それによりリアルな周辺環境データの生成が可能。同社では、本プラットフォームとロボット開発用オープンソースミドルウェア (ROS) を連携させ、UGV開発のための走行シミュレーションを実現している。また、走行シミュレーションの結果を用いて、実際の農業用ハウス内でのUGVの自律走行および画像や動画データの収集を効率よく行い、解析する実証実験も開始している。

<今後の展望>
「農業版デジタルツインプラットフォーム」のトマト以外へ展開するため、多品目のデジタルツイン農場製作をオーダーメイドで受注し、デジタルツイン農場のライナップ強化および大規模農業への展開を目指す。さらに、悪路などでも走行可能なUGVの開発は、引き続き様々な企業や研究機関と共同で推進していく等としている。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000053860.html

おかしなセンサ開発に始まり今に至る
From Development of Strange Sensor to Now

都甲 潔
九州大学 高等研究院
特別主幹教授
都甲 潔

1.はじめに

 センサイト協議会事務局から「センサイト談話室」執筆の依頼がありました.啓発的な記事を掲載,広く計測・センサ・AI等の関係経験者・技術者・事業家に役立つ内容で,計測への思いを書いて欲しいとのこと.なるほど,とうとう私もセンサや計測の専門家の仲間入りしたのか,と感無量です.
 ここでは,味覚センサ開発談,ものを測るセンサが人を知る術になること,そしてアフターコロナの世界を眺めてみたいと思います.所詮,人間というのは自分で経験したことしか真摯に語ることができないものですから,まずは私の味覚センサ開発の歴史から話をスタートさせたいと思います.「啓発」というより「思い」を語ったものとお考え下さい.これから新しいことにチャレンジしようと思う方の参考になれば著者望外の喜びです.

2.味覚センサ開発を始めた動機

 学生時代から文化人類学などに興味があった私が,工学部に所属している事実を何とか活用できないかと思い悩み生み出したのが,生理学や栄養学の「味覚」と工学の「センサ」を合体させた「味覚センサ」でした.また,その当時,研究室で進めていた自己組織化(非線型非平衡)も研究テーマに合わせて取り込みたいと思いました.1985年頃,学位を取って直ぐの30数歳のことです.
 その際,味覚では,化学物質を対象とするミクロの世界,そして受容・伝達メカニズムに関する生化学や神経科学,生まれ育った環境や伝統が食文化を決めるといった極めてマクロかつグローバルな世界といった幾つもの切り口があります.そして,センサを研究開発されている方ならご存知でしょうが,センサは電気や機械工学といった種々の学問の知見を採り入れて1つのデバイスとして完成します.結果,「味覚センサ」をキーワードとすると,工学という出口指向の学問に加え,「人は何ゆえこういった嗜好を持つのか」「人と動物はどう違い,何処が同じなのか」「人(ヒト)とは何ぞや」等々,考え始めるととても楽しいわけです.
 このように味覚もセンサも双方とも特定の分野に限定されていません.重箱の隅ではないのです.幾つもの重箱を重ね合わせたようなものです.だからこそ面白いとも言えますし,だからこそ論文発表先や科研費申請先を選ぶのに苦労するという面もあります.
 論文では,Sensors and Actuators, Sensors and Materials, Sensors, IEEE Sensors Journal, 電気学会E部門誌,Biosensors and Bioelectronics, 最近始まったChemosensors等,幾つもありそうです.科研費申請だと,大区分Cの中区分「電気電子工学」の計測工学関連や電気電子材料工学関連が,材料に着目すると大区分Dの中区分「ナノマイクロ科学」や「応用物理物性」とでもなるのでしょう.

3.味を測るとは

 こうして味覚センサの研究開発を始めて10年近く経った1990年半ばでも,味覚センサは市民権を得ていませんでした.それこそ研究予算獲得のためのヒアリングでは「イオンセンサのようなものを複数準備して統計処理すれば味は測れるのではないか」「味なんぞ自分の舌で分かる」「人によって味の感じ方は違いますよね」「グルタミン酸の味とイノシン酸の味の区別はつくか」等々,どう答えて良いものか,散々な結果でした.
 順に回答を言いますと,イオンセンサはもちろんイオンしか測れないので,疎水性物質である苦味は測れませんし,各々の味の間には互いに味を強め合ったり弱め合ったりする相互作用があるので,後からの統計処理では無理.自分の舌で味が分かる(誰でも分かる!)のは結構なのですが,それは主観であり客観ではありません.センサは客観的な物差しを提供するものです.人によって味の感じ方が違うからこそ,共通の尺度を創ろうと言っているのです.グルタミン酸の味とイノシン酸の味はどちらも「うま味」に属するという意味では区別する必要はありません.もちろんさらに進んだ研究や識別ということですと話は別ですが.
 人間というのは,よほどの天才でもない限り,ものごとを先天的に把握しているものでもなく,時間をかけ学んで成長するものです.上記回答は今の私なら可能です.でも30年前の私には無理でした.友達や研究室の教え子から「この研究室はあと何年かしたら消滅していますよね」などと言われる始末で,当時の状況を懐かしくかつ感慨深く想い出します.結局,仕事というのは,生きるためには,強い意志とそれを実行し続ける勇気を持つことが肝要なのかもしれません.
 確かに味覚センサというのは「おかしなセンサ」です.だって,人の感じる感覚を数値化するのですから.本来「計測」というのは人と無関係なところに位置するもの,つまり属性を数値化するものであるはずです.
 そういった中1987年から共同研究をスタートさせたアンリツ(株)の協力もあり,論文だけはコンスタントに発表し,研究開発は一歩一歩進みました.また1991年に講談社から発刊した一般本『美味しさを測る』が意外と受けて,多くの方が製品の完成を強く要求した結果,1993年に味覚センサ初号機も試験販売となりました.数多くの食品メーカーとの共同研究が始まったのもこの頃です.

4.二つのベンチャー企業の設立

 このような共同研究を通じ,2002年に(株)インテリジェントセンサーテクノロジー(略称,インセント),続いて2004年に(株)味香り戦略研究所(略称,味研)が設立されるに至りました.インセントは味覚センサを開発・製造・販売し,味研は味覚センサを活用し商品開発等のサービスを提供する会社です.現在,彼らの出資による寄附講座が九州大学に設立されています.
 味覚センサが正式に認可されたと感じたのは2006年の文部科学大臣表彰科学技術賞でした.それまで無冠だっただけに,やっと努力が実った,と思いました.もちろん,この努力は皆の協力あってのことで,特にインセントの池崎秀和社長とは今でも1日に1回はメールや電話をする仲です.戦友であり同志ですね.味研の小柳道啓社長とも頻繁にWeb会議を行っています.

5.人を知る

 さて,以上のような経緯で,現在600台以上もの味覚センサが世界の食品や医薬品メーカーで活躍しています.言うまでもなく,味覚センサは食品の属性である味を数値化・可視化できます.それでは,その結果を利用して,個人の味嗜好を予測することができるでしょうか.答えはイエスです.質問紙(スマホ対応)に質問項目を15問用意します.この項目は,予め味覚センサで食品を測り,その応答パターンから2項比較として選ばれたものです.例えば,ブラックコーヒーとミルク入りコーヒーとでは苦味の強さが大きく異なるわけで,その場合の質問項目は「普段のコーヒーの飲み方はどちらですか? ブラック/それ以外」となります.このように味覚センサで食品の味の特徴を把握し15問の設問を用意します.
 その15問にスマホで回答させます.その設問項目の回答に予め点数を振り当てておき,結果を集計すると,その個人の「嗜好ベクトル」とでも言うものを得ることができます.例えば(酸味,甘味,苦味,うま味,塩味)=(3,5,1,4,2)といった具合です.調査した人数に応じて人数分の嗜好ベクトルが得られることになります.続いてこれをクラスター解析すれば,幾つかの特徴的かつ代表的嗜好ベクトル(嗜好パターン)を得ることができます.幾つの嗜好パターンに収めるかは任意性がありますが,典型的には20数パターンという結果となりました.例えば,苦味を好むパターンは中高年男性に特徴的で,うま味と甘味を好むパターンは若い世代や女性に比較的多く発現するパターンであることが判明しました.
 そして,これらの結果から,幾つかの食品に対し「どれが好きか」の予測を立て,調査を行いました.結果,約80%の正答率を得ることができたのです.この事実は,味覚センサを利用することで,個人の味嗜好を予測できることを示唆します.味覚センサは「モノを測る」装置でしたが,それを利用することで「ヒトを知る」ことができるのです.

6.アフターコロナでは

 コロナ禍でオンラインでの会議が随分と増えました.私も九州に住んでいるため以前は東京や大阪への出張が週1ペースでしたが,いまは全てWeb会議です.「会いましょうかね」がWeb会議を意味することが一般となりました.結局,出張に行かない分,毎日のように会議が入ってしまいました.
 さて,このような世の中を便利と考える方も多々おられるでしょう.実際,在宅勤務も当たり前のようになってきています.こういった状況を考えると,密を避けるため,多様な暮らし方を可能とするために,工場をはじめとする現場の製品管理を遠隔で行おうという試みが現れるのは当然のことでしょう.既に視覚と聴覚情報は遠方へ伝達可能です.残る科学技術は触覚,味覚,嗅覚の伝達・再現となるでしょう.味覚センサは既に実用化され,嗅覚センサは種々存在し用途や対象を限定すれば使えそうです.触覚にはその目的から言って幾つかの開発レベルが要求されそうですが,これも用途と対象を絞ればできそうです.いずれ味覚や嗅覚を伝送する時代が来ると多くの研究者が語ることです.確かにその通りです.
 視覚と聴覚を再現する技術がテレビです.白黒テレビが1950年代,カラーテレビが1960年から,大型化と薄型化が1990年から,デジタル化が2000年で本格化が2011年から,3Dや4Kも2010年から始まっています.テレビは対象を演出する近似デバイスです.どんどん近似の度合いが上がっています.自然や人を検知し,再現する装置やセンサは全て自然界の近似を行います.五感に係るデバイスもそうです.
 アフターコロナでは,世界の近似技術の開発がますます必要となることでしょう.センサはその近似を可能とする出発点に他なりません.さて,私たちはどこまで近似レベルを上げることができるのでしょうか.このような努力が多くの人を幸せにすることを切に願ってやみません.



【著者紹介】
都甲 潔(とこう きよし)
九州大学 高等研究院 特別主幹教授
九州大学 五感応用デバイス研究開発センター 特任教授

■略歴
昭和50年3月 九州大学工学部電子工学科卒業
昭和55年3月  〃  大学院博士課程修了
同  年4月 九州大学工学部電子工学科助手
平成2年7月 九州大学工学部電子工学科(電子材料物性講座)助教授
平成9年4月 九州大学大学院システム情報科学研究院 教授
平成20年10月~23年3月 同研究院 研究院長
平成21年5月~30年3月 同研究院 主幹教授
平成25年11月~30年3月 九州大学味覚・嗅覚センサ研究開発センター長
平成30年4月~現在 九州大学高等研究院 特別主幹教授
平成30年4月~現在 九州大学味覚・嗅覚センサ研究開発センター (現 五感応用デバイス研究開発センター)特任教授

■主な受賞
・第27回電気学会業績賞,社団法人 電気学会,2018.04.
・第17回山崎貞一賞,材料科学技術振興団,2017.10.
・第17回日本応用物理学会業績賞,社団法人 応用物理学会,2017.03.
・第16回日本味と匂学会賞,日本味と匂学会,2015.09.
・平成25年度春の褒章/紫綬褒章,内閣府,2013.05.
・平成22年度飯島食品科学賞/技術賞,財団法人 飯島記念食品科学振興財団,2011.04.
・第1回立石賞/功績賞,財団法人 立石科学技術振興財団,2010.05.
・第34回井上春成賞,独立行政法人 科学技術振興機構,2009.07.
・第13回安藤百福賞 優秀賞,財団法人 安藤スポーツ・食文化振興財団,2009.03.
・第20回産学官連携特別賞,財団法人 りそな中小企業振興財団,2008.03.
・平成19年度消防防災機器の開発等消防庁長官表彰 奨励賞,総務省消防庁,2008.02.
・日本感性工学会出版賞,日本感性工学会,2007.08.
・文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門,文部科学省,2006.04.

超音波による薄型可変焦点レンズ(1)

小山 大介
同志社大学 理工学部
教授
小山 大介

1.はじめに

 昨今スマートフォンにおいて,カメラ性能はその製品のスペックを代表する重要な要素の一つであり,一固体に複数個のカメラを搭載することは常識となりつつある.一方で,カメラ性能の向上はカメラモジュール全体,すなわち製品サイズの増大に繋がるというトレードオフが存在し,レンズ部分が製品中の最厚部となるケースは少なくない.この様なスマートフォンなどの電子機器に搭載されるカメラモジュールは,一般的に複数枚のガラスもしくはプラスチック製の固形レンズから成る.また焦点位置を画面奥行き方向(光軸方向)に移動させる場合,これらのレンズのうちのいくつかを光軸方向に動かす必要があり,そのためのアクチュエータも搭載する必要がある.そのため,機械的可動部を有する現在主流のカメラモジュールでは将来的な小型・薄型化には限界がある.またモジュール内の部品数の増加はサイズの問題のみならず,製造コスト,ロバスト性,製品寿命の観点からも今後改善すべき項目と言えよう.一方で,ご存じの様に我々人間の眼はレンズの役割を果たす水晶体を毛様体筋によって変形させ,その焦点距離を瞬時に変化できる可変焦点レンズである.この様にレンズの位置を動かすことなく,レンズ形状を変化させることにより焦点距離を制御可能な可変焦点レンズは,これまでいくつかの研究グループによって報告されている.本稿では,これまでに我々のグループが開発してきた超音波を用いた可変焦点レンズについていくつか紹介する.

2.液体レンズ

 機械的可動部を持たない可変焦点レンズの代表的なものとして,いわゆる“液体レンズ”が挙げられる.液体レンズでは水と油の様な,混ざり合わず,屈折率が異なる2液の界面をレンズとして用いる.すなわち2液界面が凹型(もしくは凸型)であれば,高校物理で学ぶ単純なスネルの法則に従ってレンズ透過光を集束(もしくは発散)可能で,2液の屈折率差を利用して光学設計を行うことができる.これまでに発表されている液体レンズでは,この2液界面形状を何らかの手法によって変形することで可変焦点機能を生み出しており,その中でも金属導体に電圧を加えることにより,その表面の濡れ性を変化させる手法(エレクトロウェッティング)を利用したものが多く,入力電圧によって2液体と電極の接触角,すなわちレンズ形状を制御している.焦点移動距離にも依るが,その応答時間(液体レンズの場合はレンズ変形に要する時間)は液体の物性やレンズ形状に依存するものの数10 msであり,この値はアクチュエータを搭載する現在の汎用カメラモジュールとほぼ同等である.他にも圧力発生機構を利用した高速応答レンズなども報告されているが,別途アクチュエータやコンプレッサ等が必要となり大型化する傾向がある.これに対し我々のグループではこれまでに,音波の放射力(音響放射力)を利用することにより,小型かつ高速応答性を有する液体レンズを開発している1-4)
 図1は超音波液体レンズの構造であり,円筒ケースの一端にリング形状の圧電超音波振動子を接着し,振動子中央部に水滴半球を形成させた後,その周囲を水と屈折率の異なるシリコーンオイルで満たしている.ケースのもう片端および振動子中央はガラス板によって密閉することにより,外部からケース内に気体が流入することなく2液で満たされた状態となり,レンズ内を光軸方向に光が透過する.レンズは密閉されており,水半球がリング型振動子の中央部に注入されているため,レンズを傾けたり反転しても重力の影響によるレンズ形状の変化はほとんどない.レンズに連続正弦波の電気信号を入力すると,振動子からレンズ内液体に向かって超音波が放射され,2液界面には音響放射力が働く.音響放射力とは入力電気信号に同期する時間変動を伴う圧力変動(すなわち一般的な音波)ではなく,異なる媒質間の音響エネルギー密度の差によって生じる時間平均的な静圧(直流成分の圧力)である.この液体レンズの場合,レンズはオイル側から水側に静的に変形する.
 図2は周波数1.62 MHzで駆動した場合のレンズの形状と透過光の変化である.超音波駆動に伴って発生する音響放射力によって,レンズ(2液界面)はオイル側から水側に向かって変形し,左側から右側に向かってレンズに入射した光が2液界面において屈折した後集束することがわかる.すなわち,入力電圧振幅値によってレンズの焦点距離を制御することが可能となる.また液体粘性を最適化することにより,アクチュエータなどによる従来型カメラモジュールに比べて1桁程度速い応答速度(応答時間6.7 ms)を実現できる.

図1 超音波液体レンズ
図1 超音波液体レンズ
図2 超音波液体レンズの動作のようす.水・オイル界面が変形し,透過光が集束する.
図2 超音波液体レンズの動作のようす.水・オイル界面が変形し,透過光が集束する.

3.ゲルレンズ

 上記の液体レンズは著者らのグループのものも含めて,その動作特性はレンズ内の液体粘性に大きく依存するため環境温度の影響を受けやすい.また,長期間の使用に伴い液体の溶存気体がレンズ内に気泡として発生したり,2液の混合(乳化)によってレンズが曇るなどの問題点がある.これらの問題を解決するレンズとして,透明粘弾性体を用いたゲルレンズが報告されている5-9)
 図3は著者らが開発した超音波ゲルレンズであり,他の液体レンズやゲルレンズと比較してより単純な構造で小型・薄型化を実現できる.ゲルレンズはリング型の超音波振動子の片端に高分子フィルムなどの透明弾性板を接着し,振動子の中心部にレンズの役割を果たす透明粘弾性材料であるシリコーンゲルを充填している.弾性率変化の温度係数が小さいゲルを選定することにより,より広い環境温度での使用が可能となるが,圧電振動子の温度特性も考慮する必要がある.ゲルの片面は周囲空気に直接触れる構造であるが,適切な粘弾性を持つゲルを選定することより,レンズを傾けても重力によってその形状はほとんど変化することはない.このゲルレンズを共振周波数(226 kHz)で駆動すると,ゲル表面にはゲルから周囲空気に向かって音響放射力が作用し,ゲル中心は凸状に変形する.これは,ゲル内の超音波のほとんどがゲル表面で反射し,ゲル内の音響エネルギー密度が周囲空気よりのそれよりも大きいためである.超音波液体レンズと同様に,連続正弦波を印加し続けることにより,レンズの変形は静的に保たれる.
 図4(左)はレンズの入力電圧振幅を変化した場合のレンズ形状と透過光の様子を表しており,レンズ表面の変位は入力電圧に伴い増加し(21 Vpp入力時の最大変位は150 µm),レンズは凸レンズとして働き透過光は集束する.
 図4(右)は駆動電圧振幅値と焦点距離の関係を表しており,電圧の増加に伴い凸レンズの曲率半径は小さくなり,焦点距離はレンズ側に近づくことがわかる.
 図5はゲルレンズを通して得られた光学顕微鏡画像である.時間t = 0 sにおいて信号入力を開始し,テストターゲット(ゲルレンズから10 mmの位置)からからツバメマーク(同23 mm)までおよそ0.3 sで焦点が移動する.ゲルレンズの応答時間はその粘弾性に依存するため,液体レンズのそれに比べて一桁程度遅いものの,単純構造であるため小型・薄型化が容易であり産業用途としてのメリットは大きい.

図3 超音波ゲルレンズ
図3 超音波ゲルレンズ
図4 左)超音波ゲルレンズの動作のようす 右)レンズ入力電圧と焦点距離の関係
図4 左)超音波ゲルレンズの動作のようす 右)レンズ入力電圧と焦点距離の関係
図5 超音波ゲルレンズの動作のようす.焦点位置がターゲットからツバメに移動する.
図5 超音波ゲルレンズの動作のようす.焦点位置がターゲットからツバメに移動する.


次回に続く-



参考文献

  1. D. Koyama, R. Isago K. Nakamura, Compact, high-speed variable-focus liquid lens using acoustic radiation force, Opt. Express, Vol. 18, No. 24, pp. 25158-25169 (2010)
  2. D. Koyama, R. Isago K. Nakamura, Liquid lens using acoustic radiation force, IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq. Contr., Vol. 58, No. 3, pp. 596-602 (2011)
  3. D. Koyama, R. Isago K. Nakamura, High-speed focus scanning by an acoustic variable-focus liquid lens, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 50, No. 7, pp. 07HE26-1-5 (2011)
  4. D. Koyama, R. Isago, K. Nakamura, Three-dimensional variable-focus liquid lens using acoustic radiation force, IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq. Contr., Vol. 58, No. 12, pp. 2720-2726 (2011)
  5. D. Koyama, R. Isago, K. Nakamura, Ultrasonic variable-focus optical lens using viscoelastic material, Appl. Phys. Lett., Vol. 100, No. 9, p. 091102 (2012)
  6. D. Koyama, M. Hatanaka, K. Nakamura, M. Matsukawa, Ultrasonic optical lens array with variable focal length and pitch, Opt. Lett., Vol. 37, No. 24, pp. 5256-5258 (2012)
  7. D. Koyama, Y. Kashihara, M. Hatanaka, K. Nakamura, M. Matsukawa, Movable optical lens array using ultrasonic vibration, Sens. Actuators A, Phys., Vol. 237, No. 1, pp. 35-40 (2016)
  8. D. Sakata, T. Iwase, J. Onaka, D. Koyama, M. Matsukawa, Varifocal optical lens using ultrasonic vibration and thixotropic gel, J. Acoust. Soc. Am., Vol. 149, No. 6, pp. 3954-3960 (2021)
  9. S. Taniguchi, D. Koyama, K. Nakamura, M. Matsukawa, Fabrication of an optical lens array using ultraviolet light and ultrasonication, Ultrasonics, Vol. 58, No. 4, pp. 22-26 (2015)


【著者紹介】
小山 大介(こやま だいすけ)
同志社大学 理工学部 教授

■略歴
2005年同志社大学大学院工学研究科博士後期課程修了(博士(工学)).同年東京工業大学精密工学研究所助手,2011年同准教授.2012年同志社大学理工学部准教授,2018年同教授,現在に至る.
これまで超音波と光を用いた波動応用デバイス,特に超音波アクチュエータや医用デバイスに関する研究に従事.2008年日本音響学会粟屋潔学術奨励賞,2013年エヌエフ基金研究開発奨励賞優秀賞,コニカミノルタ画像科学奨励賞(優秀賞),2016年文部科学大臣表彰若手科学者賞など各賞を受賞.IEEE,日本音響学会,応用物理学会,電子情報通信学会会員.現在Nature Publishing GroupのScientific Reports誌編集委員を務める.

画像処理・画像解析による医療支援 〜内視鏡と画像強調解析における画像センサの役割〜(1)

納谷 友希
徳島大学大学院医科学教育部
医学研究科
徳島大学ポストLED
フォトニクス研究所
納谷 友希
髙成 広起
徳島大学ポストLED
フォトニクス研究所
髙成 広起

1.はじめに

 古来より、疾患を理解し、診断・治療を行うために病変の可視化が試みられてきたが、体表面に病変がある場合を除いて、侵襲性の高い外科的処置なしに病変を体表から視認するのは困難であった。1970年代にComputed Tomography(CT)や超音波診断装置、消化管内視鏡などの革新的な画像診断装置が次々と実用化されると非侵襲・低侵襲で病変が可視化され、疾患の診断精度が格段に向上すると共に、疾患の病態メカニズムの理解が進んだ。本稿では、日本発の光学医療機器である消化管内視鏡に焦点を当て、画像センサがどのように内視鏡技術を支えているか概説する。

2.消化管内視鏡と画像強調内視鏡

 消化管内視鏡の原型は1950年に東京大学とOlympus社の協同研究で開発された胃カメラにある1)。当初は先端部のカメラと光源で胃内部の写真を撮影するもので、目視によるリアルタイム観察ができなかった。光ファイバの開発によって胃カメラはファイバスコープへと変容し、接眼部から胃内部を直接視認できるようになった。さらにCCD画像センサの小型化が進むと先端部にCCDカメラを内蔵したビデオスコープが開発され、消化管内腔の画像をリアルタイムに複数人で共有できるようになった。ビデオスコープ開発から約50年、消化管内視鏡は消化器癌の早期発見に必須の検査となり、現在では胃・十二指腸で年間50万件、大腸で20万件を超える検査が国内で行われている(図1)2)

図1. 過去約20年の消化管内視鏡検査件数の年次推移(政府統計:医療施設調査、一般病院の統計2)
図1. 過去約20年の消化管内視鏡検査件数の年次推移
(政府統計:医療施設調査、一般病院の統計2)

 消化管内腔が見えるようになると、粘膜表面の癌が肉眼で判別しにくいなど、通常の光学観察で病変特定が困難なケースが多く存在する事が分かってきた。そこで近年は早期癌や炎症を検出する新たな画像解析技術の研究開発が行われている。Olympus社のNarrow Band Imaging(NBI)や富士フイルム社のFlexible spectral Imaging Color Enhancement(FICE)など画像強調技術は臨床応用も順次進んでおり、この分野でも日本が世界をリードしている3)

 ここで言う画像強調とは、ヘモグロビンの吸収波長が周辺組織と異なることを利用し、血管の輪郭を強調して可視化する画像処理技術である4)。生体に光を照射すると、血液中の赤血球に多く含まれる色素ヘモグロビンが400 nm付近と520 nm付近の波長帯の光を強く吸収する(図2a)。一方、同じ波長でも血管の周辺組織を進む光は吸収されずに散乱して体表面に戻るため(図2b)、血管に当たった光とそうでない光とでヘモグロビンの吸収波長帯の明暗コントラストが大きくなる。NBIは青色と緑色の狭帯域光を照射し、血管で両者の光が吸収されることから血管の輪郭を強調する。FICEは白色光を照射し、粘膜からの散乱光スペクトル分析から、青色光や緑色光の吸収が強い血管の輪郭を描出する。照射光や画像取得法に違いはあるが、癌で早期から増成する血管を捉えて癌の早期発見を実現する画期的な画像技術である。さらに、光の特性として波長の短い青色光は表皮付近で散乱・吸収が生じ、波長の長い緑色光は青色光より深部まで到達する。このため青色光は浅い部分、緑色光は深い部分の血管の可視化に適する。今後は画像分析によって、血管の広がりだけでなく深さ方向まで、より詳細な走行を可視化できるようになると期待される。

図2. a) ヘモグロビン吸収スペクトルの概形、b) 血管と周辺組織における光の散乱・吸収
図2. a) ヘモグロビン吸収スペクトルの概形、
b) 血管と周辺組織における光の散乱・吸収

3.画像センサとカラー画像

 内視鏡や画像強調観察には、光を検出する画像センサが必要不可欠である。画像センサでは受光素子の数が画素数として表現されるが、各受光素子のフォトダイオードが受光すると、光の強弱に応じた電荷を生じる(光電変換)。受光素子で変換・蓄積された電荷は、増幅器で電荷に応じた電圧値に変換されて信号出力される。固体撮像素子には電荷の伝送形式が異なるCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)とCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)がある。CCDセンサではフォトダイオードの電荷は伝送路をバケツリレーのように伝送・統合され、増幅器で電圧に変換される。一般にCCDセンサは高感度・低ノイズだが、常に全ての素子を稼働させるため電力消費が大きく、また高度な製造技術を要するため高価になる傾向がある。一方CMOSセンサは個々の画素がフォトダイオードとトランジスタを備え、画素ごとに信号を増幅して読み出すことで高速伝送を可能にする。CCDより安価で消費電力が小さく、高集積化によるオンチップデバイスなど小型化も進んでいる。以前はCCDに比べて高ノイズ・低感度とされてきたが、最近では低ノイズ・高感度化されている。初期には内視鏡先端部は主にCCDセンサが用いられたが、最近では高感度CMOSセンサを搭載した内視鏡も多く開発されている。

 画像センサはさらにモノクローム(モノクロ)センサとカラーセンサに分けられる。モノクロセンサは被写体からの光量に応じて白から黒までの濃淡を2n階調(n: ビット数)で表すが、色情報は欠落する。一方カラーセンサは、受光素子にR、G、B三色のフィルタを搭載し、各受光素子がフィルタに対応する色を検出してカラー画像を取得する。光沢などのために明暗だけで表面情報を検出できない観察対象でも色に基づいた検出ができるが、フィルタ越しの検出で感度が低下し、受光素子を3色に割り振るため単色ごとの受光素子数が減少して解像度も低下する。モノクロセンサでもカラー画像取得は可能である。対象に青・緑・赤色の単色光を照射してモノクロ画像で撮像し、光量に対応する階調で各照射光に該当する擬似カラーを割り当てて合成すると、白色光で撮像したようにカラー画像を再構築できる。光源の切り替えや画像処理のため時間分解能は低下するが、高解像度のカラー画像を取得できる。

 ここまで医療における画像技術の応用例として消化管内視鏡を紹介し、それを支える画像センサについて概説した。後半では画像センサで得られた画像の評価について、当研究室の研究成果の一部を紹介しつつ概説する。



次回に続く-



参考文献

  1. オリンパスグループ企業情報サイト(参照日: 2022年4月10日)
    https://www.olympus.co.jp/technology/museum/endo/
  2. 政府統計:医療施設調査 平成20・23・26・29年 医療施設(静態・動態)調査
  3. 永尾 重昭.画像強調観察(Image-Enhanced Endoscopy)を用いた消化管腫瘍診療の最前線,日本内科学会雑誌. 2013; 102巻: 7号.
  4. 小田島慎也,藤代光弘,小池和彦.画像強調イメージングの特徴―NBI, FICE, i-scan―.
    日本消化器内視鏡学会雑誌. 2010; 51巻: 9号.


【著者紹介】

納谷 友希(なや ゆうき)
徳島大学大学院医学研究科医科学専攻 生体防御医学分野
徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 医光融合研究部門

■略歴
2017〜2021年 徳島大学理工学部 理工学科 情報光システムコース(光系)
2021年〜 徳島大学大学院医科学教育部 医学研究科 医科学専攻

理工学部から「医学と光技術を融合させた研究」に興味を持ち、徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所医光融合研究部門の髙成研究室で卒業研究を行う。現在も同研究室にて修論研究に従事している。

髙成 広起(たかなり ひろき)
徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 医光融合研究部門 准教授

■略歴
2000年 名古屋大学医学部医学科 卒業
2011年 名古屋大学大学院医学系研究科 学位(医学)取得
2011〜2013年 University Medical Center Utrecht(オランダ) 博士研究員
2013〜2016年 大分大学医学部 病態生理学講座 助教
2016〜2019年 徳島大学病院 糖尿病対策センター 特任講師
2019〜2022年 徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所 医光融合研究部門 特任講師
2022年〜 現職

6年間の臨床医としての経験を経て基礎研究へ転身。主に細胞や生体の生理機能を視覚的に捉えるバイオイメージングの研究を行う。2019年から徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所医光融合研究部門に所属し、「医学と光技術を融合させた研究」を目指して、従来のバイオイメージングに加えて新しいイメージング法の開発などに従事している。

非冷却型マイクロボロメータを検出素子とする赤外線サーモグラフィ装置を用いた アクティブサーモグラフィ法による非破壊検査
Active thermographic nondestructive testing using infrared thermography with uncooled microbolometers(1)

石川 真志
徳島大学
大学院社会産業理工学研究部
石川 真志

1.はじめに

 赤外線放射の強度分布を画像化する赤外線カメラ、およびその強度分布を見かけの温度に変換して画像化する赤外線サーモグラフィ装置は、監視カメラや防犯カメラの普及、あるいは最近では感染症予防の目的で多くの施設に設置されるなど、近年その需要が拡大している。その多くは非冷却型マイクロボロメータを検出素子として使用したものであり、波長約8~14 µmの赤外線を検出し画像化する。一方、インジウムアンチモン(InSb)や水銀カドミウムテルル(HgCdTe)などの量子型センサを検出素子とした赤外線カメラも市販されている。これらのセンサはマイクロボロメータと比較して高感度かつ応答速度が速い点が長所であるが、室温環境での使用時には熱雑音の抑制のためにセンサの冷却が必要である点や、非常に高価である点が短所であり、その利用は主に研究・開発用途に限られている。このため、冷却機構が不要で小型化可能であり、かつ安価な非冷却型マイクロボロメータを使用した赤外線カメラが多くの分野で使用されている。
 本稿では、非冷却型マイクロボロメータによる赤外線サーモグラフィ装置を使用した非破壊検査技術について紹介する。赤外線サーモグラフィを利用した非破壊検査において、その検査能力は赤外線カメラの検出感度や応答速度に依存する。このため、一般に非冷却型マイクロボロメータを使用した検査の精度は、量子型センサを使用した場合と比較して劣る。しかし、安価に、かつ汎用性の高い検査装置系を実現するうえでは、その検出素子として非冷却型マイクロボロメータの利用が望まれる。ここでは検証実験で得られた検査結果画像(熱画像)の例を示すとともに、検査精度の低さを補う方法の一つとして、得られる温度データの位相変換技術を紹介する。

2.赤外線サーモグラフィを利用した非破壊検査

 赤外線サーモグラフィを利用した非破壊検査は、アクティブサーモグラフィ法とパッシブサーモグラフィ法に大別される1)。アクティブサーモグラフィ法は検査対象物をヒーターなどで人為的に加熱し、加熱中もしくは加熱後の対象物表面温度を赤外線サーモグラフィ装置で観察するものである(図1)。検査対象物内で生じた熱流は時間経過に伴い表面から内部へ伝搬するが、内部に空隙や異物などの欠陥部が存在する場合、欠陥部により熱流が妨げられ、欠陥部近傍に局所的な温度異常部が生じる。これに伴い生じる対象物表面の温度変化を赤外線サーモグラフィで得られる熱画像から検出することで、内部の異常を同定する。これに対してパッシブサーモグラフィ法では、太陽光による日射や昼夜の温度差により検査対象物内に生じた熱流を利用して検査を行う。人為的な加熱を行う必要がなく、検査時の作業は検査対象物を赤外線カメラで観察するだけであることから、検査が非常に簡便である。その一方で、パッシブサーモグラフィ法の検査精度は、日射条件や風速など、周囲環境に影響を受けやすく、検査条件への配慮が不可欠である。以下ではアクティブサーモグラフィ法に注目し、その検査例を示す。

図1 アクティブサーモグラフィ法の模式図
図1 アクティブサーモグラフィ法の模式図

3.アクティブサーモグラフィ法による非破壊検査の例

3.1 CFRPの検査

 樹脂材料や樹脂を母材とする複合材料は、金属材料と比較して熱拡散率が小さいことから、比較的応答速度の遅い非冷却型マイクロボロメータを使用した赤外線サーモグラフィ装置でも効果的な非破壊検査が可能な検査対象物であると言える。ここでは炭素繊維強化プラスチック(Carbon fiber reinforced plastic: CFRP)に対するアクティブサーモグラフィ法の検査例を示す。図2に検査を行ったCFRP試験片を示す。本試験片は強化材をPAN系炭素繊維、母材をエポキシ樹脂としたCFRP積層板(200×200×5 mm)であり、積層間には人工欠陥として、厚さ100 µmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを複数個所に封入している。人工欠陥は1辺の長さが10, 20, 30 mmの正方形であり、表面(加熱/観察面)から0.5, 1, 2 mmの深さに位置する。本試験片の表面をキセノンフラッシュランプ(1000 J×2灯)で加熱し、加熱後の表面温度分布を赤外線サーモグラフィ装置(FLIR A315,320×240ピクセル)で観察した。図2(b)中の赤破線で囲まれた領域について、観察された熱画像を図3に示す。内部に人工欠陥が存在する領域では、周囲と比較して局所的に高温となっており、熱画像からフィルムの封入を検知することができる。しかしながら、本熱画像では比較的浅い深さ0.5 および1 mmのフィルムは検出可能であるものの、2 mm深さに位置するフィルムの検出は困難であることがわかる。

図2 (a) 実験に使用したCFRP試験片,および (b)試験片の模式図
図2 (a) 実験に使用したCFRP試験片,および (b)試験片の模式図
図3 キセノンフラッシュランプによる瞬間加熱後に得られた熱画像
図3 キセノンフラッシュランプによる瞬間加熱後に得られた熱画像

 ここで欠陥部の検出感度の向上を図るため、得られた熱画像の位相画像変換を試みる。これは熱画像における温度の時間変化データをフーリエ変換により位相値へ変換し、位相値による2次元画像を得るものである(図4)。具体的には熱画像上の各画素における温度の時間変化データに対して時間方向のフーリエ変換を行い、温度-時間データを位相-周波数データに変換する。得られた位相-周波数データより任意の周波数における位相値を熱画像と同様に2次元的に配列することで位相画像が得られる。図5は図3の熱画像を位相画像変換した結果である(ここで位相画像変換には(株)KJTD製の熱画像取得・位相画像処理用ソフトウェアIRPhaser2)を使用した)。熱画像(図3)と比較すると、深さ0.5および1 mmのフィルム挿入部に加え、0.04 Hzでの位相画像では熱画像では検出が困難であった深さ2 mmのフィルムも検出可能となる様子が確認できる。位相値は欠陥部で生じる温度変化の大小ではなく、温度変化が生じる時間(熱波動的な観点で考えた場合の位相遅れ)に依存する値であるため、温度差が微小な場合であっても位相値に変換することで比較的顕著なコントラストが生じ得る。このことから、特に温度差が生じ難い深い欠陥の検出に際して位相画像変換は有効である。加えて、同様の理由により表面の変色や放射率の変化による結果画像への影響を低減する効果があることも知られている3,4)。これらのことより、取得した温度データに対するポスト処理として位相画像変換を適切に利用することで、元の熱画像では不足していた検査能力の改善を図ることができる。なお、図5には周波数を変化させた2つの位相画像を示しているが、これらの比較から明らかなように、位相画像では検出可能な欠陥深さが画像周波数に依存する。これは、位相画像の周波数が位相画像変換前の温度データの観察時間に依存するためである(フーリエ変換により得られる周波数の最低値は観察時間の逆数となる)。このため、検出に長時間を要する深い欠陥の検出には、低周波数の位相画像の取得が必要となる5,6)

図4 フーリエ変換による熱画像の位相画像変換
図4 フーリエ変換による熱画像の位相画像変換
図5 図3の熱画像を位相画像変換した結果, (a) 周波数0.04 Hz, (b) 周波数0.12 Hz
図5 図3の熱画像を位相画像変換した結果, (a) 周波数0.04 Hz, (b) 周波数0.12 Hz


次回に続く-



参考文献

  1. 川嶋紘一郎, 阪上隆英, 巨陽. 非破壊検査工学最前線, 共立出版, 2009.
  2. 株式会社KJTD webサイト (赤外線非破壊検査システム サーモ・インスペクター),
    https://www.kjtd.co.jp/products/thermo_inspector/index.html
  3. X. Maldague, S. Marinetti. Pulse phase infrared thermography. Journal of applied physics, 79(5), 2694-2698, 1996.
  4. X. Maldague. “Theory and practice of infrared technology for nondestructive testing”, John Wiley & Sons, New York, 2001.
  5. M. Ishikawa, H. Hatta, Y. Habuka, R. Fukui, S. Utsunomiya. Detecting deeper defects using pulse phase thermography. Infrared physics & technology, 57, 42-49, 2013.
  6. 特許第5574261号, 探傷方法及び探傷装置


【著者紹介】
石川 真志(いしかわ まさし)
徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 講師

■略歴
2012年 総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻 修了
2012年 東京理科大学 基礎工学部材料工学科 助教
2015年 徳島大学 大学院ソシオテクノサイエンス研究部 助教
2017年 徳島大学 大学院理工学研究部(現 大学院社会産業理工学研究部) 講師
現在に至る
赤外線サーモグラフィおよび超音波を利用した非破壊検査技術の基礎および応用研究に従事。日本非破壊検査協会 赤外線サーモグラフィ部門 幹事。

高コヒーレンス波長掃引光源を用いたOFDRによる3次元形状計測(1)

腰原 勝
アンリツ(株)
センシング&デバイスカンパニー
腰原 勝
斉藤 崇記
アンリツ(株)
センシング&デバイスカンパニー
斉藤 崇記

1. はじめに

 スマートファクトリー化の一環として、製品の形状検査は接触式測定から非接触式の光学測定へ置き換えが進められている。これにより、従来抜き取り検査で行われてきた製品の形状測定をインラインで、かつ全数検査とすることが可能となる。更に省人化や生産性の向上も期待できる。光学測定による非接触・非破壊検査の手法には、白色干渉法やOCT(Optical Coherence Tomography)など種々の干渉計測法があるが、これらの手法は数µm~数mmの測定レンジでnm~µmオーダーの高精度測定が実現できる特長を持つ。このため、小面積で浅い深度に対する近距離・高精度測定に適している。反面、対象物がcm~mオーダーの大面積である場合、一度に測定できる狭い範囲に分割して対象全体を少しずつ測定するため、時間や手間がかかる。大面積の測定対象物に対して、測定レンジ、測定精度共に最適な手法がOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)である。本手法はFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)法としても広く知られている技術である。波長掃引光源を用いた干渉計測法であるOFDRは、測定対象物からの反射光と参照光との間で生成される干渉信号から、測定対象物までの距離を高精度に測定する手法であり、数cm~数mまでの距離を数µmの精度で測定可能である。その特長からLiDAR(Light Detection And Ranging)向けなどへの応用が進められている。ここで利用される波長掃引光源は、測定に要求される分解能や速度によって、適切な仕様の光源を選択する必要がある。例えば、高い位置分解能を得るためには、波長掃引幅が広い光源を必要とし、高速に移動する対象物の位置に応答して測定するためには、波長掃引周波数の高い光源が必要である。また、測定可能範囲を広げるためには可干渉距離(コヒーレンス長)の長い光源を選択する必要がある。高コヒーレントな光源を用いることで、OFDRの干渉信号を高いSNR(Signal to Noise Ratio)で測定でき、位置分解能や測定精度を向上させることもできる。
 当社では高コヒーレントな波長掃引光源を開発し、販売を行っている(AQA5500P、AQB5500P、AQA5500D、AQB5500D)1)。本波長掃引光源は、MEMS(Micro Electro-Mechanical System)スキャニングミラーとグレーティングを用いたリットマン型の外部共振器レーザーであり、下記の特長をもつ2),3)
   ① kHzオーダーの高速波長掃引(AQA5500P、AQA5500Dの場合)
   ② 単一縦モードの狭線幅レーザーによる高コヒーレンス性
   ③ モードホップ(波長跳び)がない連続的で、かつ広い波長掃引幅
 本稿では、当社が開発した波長掃引光源の製品仕様について説明した後で、本波長掃引光源を利用したOFDRによる形状計測について基本原理および実測例を示す。

2. 波長掃引光源の製品仕様

 当社製波長掃引光源の外観写真を図1に、主な製品仕様を表1にそれぞれ示す。卓上据置きでの使用を想定したBench topタイプ(図1(a))と、ユーザー機器への組み込み用途を想定したBuilt inタイプ(図1(b))の2機種を製品ラインナップとして準備した。また、市場からのさまざまな測定用途に対応するため、波長掃引速度1250 Hz品と150 Hz品の2機種を開発した。
 本器は主に、MEMSスキャニングミラーを用いた波長掃引光源モジュールと、同光源モジュールを駆動するための制御基板から構成される。Bench topタイプでは、光源モジュール、制御基板の他に、筐体内部に冷却用のファンを設け、使用環境温度範囲内における特性の安定化を図った。Built inタイプでは、ユーザー機器への組み込みを基本コンセプトとしているため、外装筐体と冷却用ファンをなくし、ユーザー機器の構成に整合できるような実装形態を提供した。

図1 波長掃引光源の外観
図1 波長掃引光源の外観
表1 波長掃引光源の主な製品仕様
項目 仕様 備考
形名 AQA5500P AQB5500P AQA5500D AQB5500D  
使用形態 Bench topタイプ
(卓上据置き用途)
Built inタイプ
(組み込み用途)
 
外観  
寸法 137.4(W) ×131.4(H) ×219.4(D) mm 160(W) ×118.6(H) ×175(D)mm 突起部は除く
光学的特性
掃引中心波長 1550±5 nm AQA5500P/AQA5500D:110nm掃引時
AQB5500P/AQB5500D:70nm掃引時
波長掃引幅 30~110 nm 15~70 nm 30~110 nm 15~70 nm 設定分解能:1 pm
USB経由にてPC上のソフトウェアより設定可能
掃引周波数 1250±50 Hz 150±20 Hz 1250±50 Hz 150±20 Hz 固定値であり調整不可
平均光出力 ≧10 mW CW出力
Class1(IEC 60825-1:2014)

3. OFDRの基本原理

 本章では、波長掃引光源を用いたOFDRの基本原理について説明する。図2に、OFDRの基本構成を示す。

図2 OFDRの基本構成
図2 OFDRの基本構成

 波長掃引光源から出力された光は、光カプラによりリニアライズ用基準干渉計と測定干渉計に分岐される。測定干渉計では、再び光カプラにより、参照光路LRと測定光路LMに分岐される。参照光路に分岐された光は、合波用の光カプラに入射される。測定光路に分岐された光は、コリメータレンズから空間中に放射される。空間中に放射された光は、測定対象物で反射され、再びコリメータレンズを通過後、合波用の光カプラに入射される。参照光路と測定光路からのそれぞれの光は合波用の光カプラで合波後、バランスドレシーバーで電気信号に変換される。参照光路と測定光路の両光路では光路長が異なるため、それぞれの光路を通過した光が受光器で合波されたとき、光路長差に応じた周波数の干渉信号が出力される。波長掃引光源から出力された光が、参照光路を通って受光器まで到達する光路長(図2中の青色実線)と、測定光路を通ってコリメータレンズに到達し、コリメータレンズから受光器まで到達する光路長(図2中の赤色実線)が一致するように光ファイバ長を調整することで、受光器から出力される干渉信号には、コリメータレンズから測定対象物までの距離の情報が含まれることになる。干渉信号をサンプリングした後、FFT(Fast Fourier Transformation)を施せば、測定対象物までの距離に応じた周波数の位置にピークが観測されることで、コリメータレンズから測定対象物までの距離が分かる4),5)
 一方、リニアライズ用基準干渉計に分岐された光は、ファラデーミラーで反射された後、光路長差ΔLAUXに応じた周波数の基準干渉信号として受光器から出力される。リニアライズ用基準干渉計は、波長掃引の非線形性を補正するために利用される。時間に対する掃引波長の変化率が線形である場合、測定干渉計から出力される干渉信号の周波数は一定であり、FFTの演算結果もその周波数に応じた位置にのみピークが得られる。しかし一般には波長掃引光源から出力される光の周波数は時間に対して非線形であるため、干渉信号の周波数は時間により変化する。そのため、FFT後のピークは幅広く観測される。結果として、ピーク位置を正確に判別することが困難となる。そこで実際の測定では、測定対象物を含んだ測定干渉計の他に、基準となる干渉計を用いてその非線形性の影響を補正することが重要となる4),5)。基準干渉信号の立上がりに合わせて測定信号をサンプリングすることで、非線形性の影響を補正することができる。



次回に続く-



参考文献

  1. アンリツ㈱、”波長掃引光源(Wavelength Swept Light Source)”、https://www.anritsu.com/ja-JP/sensing-devices/products/swept-light-source
  2. K. Nakamura, S. Morimoto, and T. Nakayama, “Single-Mode and Mode-Hop-Free Wavelength Sweep Light Source with Range of Over 160 nm and High Swept Frequency,” IEEE Photonics Technology Letters, Vol. 22, No. 19, Oct. 2010.
  3. 中村賢一,腰原勝,斉藤崇記,川北浩二,“高コヒーレンス波長掃引光源”,アンリツテクニカル,No.92, pp.35-39 (2017.3)
  4. 斉藤崇記,“OFDRによる3次元形状測定”,アンリツテクニカル,No.95, pp.28-34 (2020.3)
  5. 腰原勝,斉藤崇記,“高コヒーレンス波長掃引光源を用いた光干渉計測”,アンリツテクニカル,No.97, pp.35-44 (2022.3)


【著者紹介】

腰原 勝(こしはら まさる)
アンリツ株式会社 センシング&デバイスカンパニー 開発本部 第1開発部 主任

■略歴
2005年 法政大学大学院工学研究科情報電子工学専攻 修了。
同年、アンリツ㈱入社
その後、光計測器や波長掃引光源など、機器製品の設計開発業務に従事
現在に至る

斉藤 崇記(さいとう たかのり)
アンリツ株式会社 センシング&デバイスカンパニー 開発本部 第1開発部 主席研究員

■略歴
1988年 東京都立大学大学院理学研究課程物理学専攻修了。 同年アンリツ株式会社入社。 1993年 神奈川科学技術アカデミー大津「フォトン制御」プロジェクト派遣研究員。 光周波数コム発生器の研究に従事 1996年 アンリツ株式会社に復帰
1998年 東京工業大学より学位授与(工学博士)
現在、アンリツ株式会社センシング&デバイスカンパニー主席研究員。
ファイバセンシング、OFDRによる3次元形状測定等の研究に従事

横河電機とドコモ、5G・クラウド・AIを活用したリモート制御に成功

 横河電機(株)と(株)NTTドコモは、横河電機と奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)が共同開発した自律制御AI(アルゴリズムFactorial Kernel Dynamic Policy Programming 以下、FKDPP※1)をクラウド上に置き、これを使用してドコモの第5世代移動通信システム(以下、5G)を介してプラントを模したシステムのリモート制御を行う共同実証実験を行い、遠隔操作における5Gの実用に向けた有効性を確認することに成功した。

 近年、広域に分散する設備や遠隔地、あるいは危険場所への対応など、リモート操業の需要は以前より高まり、人々の働き方も大きく変化している。日常生活に欠かせない資源、素材、産業材料などの精製・精錬を行うプロセス産業のプラントは、長年稼働することで、各装置が経年変化を起こす。これらが自律的な調整能力や制御能力をもつことは極めて大きなメリットが期待できる。
 たとえば、既存設備に高速無線通信に対応したエッジ端末を設置し、クラウド上の自律制御AIが装置の状況や変化を把握しながら制御を行うことは、自律的かつ、場所の制約にとらわれないリモート操業を実現する一つの方法である。
 2022年2月に実際の化学プラントで既存の制御技術(PID制御※2、APC※3)が適用できず手動制御せざるをえない箇所を世界で初めて35日間連続で制御することに成功※4したFKDPPと、低遅延、同時多数接続が可能などの特長を持つ5Gおよびクラウドは、産業における自律化を進めるうえで中核技術となるものである。

 本実証実験では、横河電機とドコモが2021年4月14日に報道発表した共同実証実験の合意に基づき、クラウドにFKDPPを搭載し、制御を検証するための装置である「三段水槽※5」を、5Gを介して制御できるかを検証した。目標水位を決めて、低速から高速の制御周期(どのくらいの頻度で制御を実行するか)での実験を行い、通信遅延がFKDPPによる制御に与える影響を調査した。
 結論として、特に高速の制御において5Gは4Gと比較して(1)通信遅延が小さいこと、(2)目標水位に対しオーバーシュートが小さいこと、(3)0.2秒程度までの制御周期に対応しうることが確認できた。これは、5Gがより良い制御を実現し、品質の安定や省エネルギーに寄与することを示している。

 横河電機とドコモは、産業において5G活用を促進する5G-ACIA(5G Alliance for Connected Industries and Automation)に加盟しており、プラントにおける5Gの有効利用について今後も検討し、活用を促進していく。また、さまざまな利用者のプラントにおいての実証も視野に、長期間稼働させた際の通信の信頼性や遅延の変化などを確認していくことで、5Gを活用したAI自律制御の実現に取り組んでいくとのこと。

※1 Factorial Kernel Dynamic Policy Programming(FKDPP):強化学習技術を使ったAIアルゴリズム。「品質と省エネの両立」のように相互干渉する目標など、既存の制御手法(PID制御・APC)では自動化できなかったものを含め制御全般に適用できる利点がある。
※2 PID制御:Proportional-Integral-Derivative Controlを日本語にしたもので、Pは比例、Iは積分、Dは微分を意味する。1922年にNicolas Minorskyが発表したプロセス産業の基盤制御技術。量、温度、レベル、圧力、成分などの制御に使われる。
※3 APC:高度制御(Advanced Process Control)のこと。プロセスの応答を予測できる数学的なモデルを用いて、生産性や品質をより向上させるための設定値をリアルタイムにPID制御ループに与えるもので、制御性を向上させるだけでなく、増産や省力化、省エネルギーを目的とした制御にも適用しやすい特徴がある。
※4 横河電機/JSR世界初 AIによる自律制御で化学プラントを35日間連続制御
https://www.yokogawa.co.jp/news/press-releases/2022/2022-03-22-ja/
※5 三段水槽:段状に水槽が設置され、水が上段の水槽から下段の水槽に順に流れていく中で下段の水槽の水位制御を行うことを目的とした、制御トレーニング実験装置の一種。

プレスリリースサイト(yokogawa): https://www.yokogawa.co.jp/news/press-releases/2022/2022-05-30-ja/

TOPPAN、自治体向け情報収集・発信システムを開発「PosRe™」

 凸版印刷(株)は、自治体の公式LINEアカウントに投稿された要望や困りごとなど「住民の声」や、エリア内に設置されたセンサが検知した温湿度や降水・降雪量などの情報を収集し、担当部署へ情報連携すると同時に、自治体内部での対応状況の一元管理と、公式LINEやウェブサイトからの情報発信を行う自治体DXソリューション「PosRe™(読み:ポスレ)」を開発した。2022年5月30日より、全国の自治体に向けて販売を開始する。

 近年、行政サービスのDX化への注目が高まりつつある一方、「住民からの要望や困りごとの集約とそれらへの対応」はデジタル化が困難で、自治体職員にとって負荷の高い業務となっている。「PosRe™」の導入により、自治体職員は「アナログ業務」から解放され、また住民は使い慣れたLINEを使って自治体への要望を投稿することができるようになるという。

▮開発の背景
 総務省が2020年に公表した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」(※1)で「行政手続きのオンライン化」が重点取組事項の一つとして示されるなど、行政サービスのDX化への注目が高まっている。凸版印刷は、様々な自治体へ「DX化の実情」に関するヒアリングを実施した結果、「住民からの要望集約・対応業務」に代表される「アナログ業務」が職員に与える負荷が高い、ということがわかった。電話による要望のヒアリング、その後の取りまとめ、実情把握、紙媒体への記録、対処手配、といった対応の全てに人手がかかるという実態が明らかとなっている。
 凸版印刷はそのような課題解決に向けて、住民からの要望の投稿・集約・対応管理・発信といった自治体業務を一元的に管理するサービスが有効と考え、自治体向けDXソリューション「PosRe™」を開発した。

▮本製品の特長
① 住民からの要望集約・対応管理・発信をワンストップで提供
 住民からの要望や困りごとが自治体の公式LINEアカウントに投稿されると、「PosRe™」上で自動的に集約、担当部門の職員に通知される。案件ごとの対応状況は職員の間で共有され、必要に応じて自治体のウェブサイトや公式LINEに公開される。
② 住民のインターフェースとして普及率の高いLINEを採用
 国内人口の70%以上をカバー(※2)し、メッセージングアプリとして広く普及しているLINEを、住民側のインターフェースとして採用した。これにより、住民は特別なアプリをダウンロードすることなく、自治体への要望を、画像や位置情報を添付して投稿することができ、また自治体からの情報もLINE上で入手することができる。
③ 地域内に設置のセンサを遠隔監視、タイムリーな情報収集を実現
 凸版印刷が普及を推進する次世代LPWA(低消費電力広域ネットワーク)規格ZETA(ゼタ)(※3)との連携により、「PosRe™」と接続した各種センサが、オフィスや教育関連施設の温湿度、照明、二酸化炭素濃度や、豪雪地域の降雪量、獣害対策エリアでの罠作動状況などを遠隔監視する。自治体職員は現地へ赴くことなく、地域の該当個所の状況を把握できる。

▮販売開始時期と価格
 販売開始時期: 2022年5月30日
 システム使用料: 月額70,000円

※1 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei07_02000106.html
※2 「LINE Business Guide 2022年1月-6月期」より引用
※3 英国ZiFiSense社が開発した、超狭帯域(UNB: Ultra Narrow Band)による多チャンネルでの通信、メッシュネットワークによる広域の分散アクセス、双方向での低消費電力通信が可能といった特長を持つ、IoTに適した最新のLPWA(Low Power Wide Area)ネットワーク規格。LPWAの規格のひとつであるZETAは、中継器を多段に経由するマルチホップ形式の通信を行うことで、ほかのLPWAと比べ、基地局の設置を少なくでき、低コストでの運用が可能な方式として注目されている。

ニュースリリースサイト(TOPPAN):https://www.toppan.co.jp/news/2022/05/newsrelease220530_1.html

独自薄型圧電センサのフレキシブル性・耐熱性を維持しながら長期モニタリングを実現

(株)CASTは、高温・高所・狭所などの常時モニタリング実施の要となる、センサの取り付けに関する特許(特許第7066092号)を取得した。

■配管減肉モニタリングシステムについて
工場の現場では、老朽化や働き手の高齢化による検査員の不足による、監視不十分が原因の漏洩・爆発事故が年々増加している。一方、通常行われている半年~1年に1回の定期点検では、高温・高所・狭所などの過酷な環境の中で主に検査装置を持った人の手による検査が主である。ここに、常時かつ遠隔からのモニタリングを導入することで、危険な場所で、センサを手に持ち人が検査をして回るという製造業の苦役解消を実現し、事故防止及び検査の負担を低減し設備寿命伸長を実現することが可能になるという。

CASTの配管減肉モニタリングシステムは、耐熱性とフレキシブル性を有するCAST独自の圧電センサを活用し高温環境でも壊れず常設できることが特徴で、腐食などによる工場配管やタンク等の厚み減少(減肉)を検知することができる。
本システムは従来アクセスが難しかったあらゆる場所に「つけっぱなし」が可能であり、工場配管等の以下のようなコストの削減並びに常時監視による事故の未然防止及び工場配管やタンク等の交換頻度の低減を実現できる。
1. 減肉懸念等の要監視箇所の測定の回数や手間
2. 設置箇所が高所の場合の足場設置頻度
3. 高温環境の場合の、保温材の取り外し・再設置頻度

■今回CASTが取得した特許について
特許番号:第7066092号
発明の名称:センサ装置及びセンサ装置を生産する方法
特許権者:株式会社CAST、国立大学法人熊本大学

従来技術では、CAST独自のセンサの特徴であるフレキシブル性と取り付けの安定性の両立が困難だった。
本特許の技術により、
1.平面以外の配管等測定対象に対してもフレキシブルに圧着させることであらゆる場所に取り付けること
2.測定対象への押し付けに用いる加圧部分を利用して、当社システムの特徴である「つけっぱなし」を実現する耐熱性・機械的強度の実現
の両立を可能にした。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000069778.html

阪大産業科学研究所とTOPPAN、 「リアルタイムAI技術」に関する共同研究

 大阪大学産業科学研究所(以下:産業科学研究所)と凸版印刷(株)は、「リアルタイムAI技術」の社会実装に向けた共同研究を、2022年5月より開始する。

 「リアルタイムAI技術」とは、産業科学研究所 産業科学AIセンターの櫻井研究室(教授:櫻井保志)が研究を進めている独自のAIアルゴリズム。工場等の生産現場におけるIoT機器や、ヘルスケア機器のセンサから収集されるような、連続的な時系列データをリアルタイムで解析し、複数のAIモデル(※1)を切り替えながらその先の状況を予測・推論することが可能なAIである。「リアルタイムAI技術」の活用によって、環境変化や外的要因を受けやすい個体差/個人差がある事象に対して、高速で高い精度の予測が可能となる。

 産業科学研究所と凸版印刷は、この「リアルタイムAI技術」の社会実装を推進するべく、その第一弾として、凸版印刷の生産現場における設備コンディション予測や、リアルタイムに取得された生体データから明らかにできる個人の健康や心理状態予測サービスの開発に向けた技術検証を行うとのこと。

(※1)AIモデル
 入力されたデータを解析して分類結果や予測値等を出力する仕組みを指す。本取り組みでは、時間経過によるデータ変化のパターン(時系列データ)を解析し、未来のデータの振る舞いを分類・予測しする。

ニュースリリースサイト(TOPPAN):https://www.toppan.co.jp/news/2022/05/newsrelease220527_1.html