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慶應大と富士通「Trustable Internet」のコンセプトに関するホワイトペーパーを公開

慶應義塾大学SFC研究所と富士通(株)は、共同研究拠点「トラステッド・インターネット・アーキテクチャ・ラボ」における研究の成果として、既存のインターネット層とアプリ/Web層の間に、新しい階層「Endorsement Layer」を追加し、インターネット上のデータの確からしさ(正しさの程度)を汎用的に確認可能とする「Trustable Internet」(信頼できるインターネット)のコンセプトを策定し、そのホワイトペーパーを10月13日に公開した。

「Trustable Internet」では、従来、データの確からしさの確認が困難だったインターネット上のデータに対して、データの生成や処理などに関与したヒト・モノの情報や、データを見た第三者による確認や評価に関する情報、そのデータに関連したフィジカル空間の情報(センサデータなど)を付与し、その付加情報に基づいてデータの正しさを利用者が判断可能となる。これにより、多角的な視点からデータの確からしさを判断できるようになり、データの確からしさが不明なまま利用することや、偽情報を信じたまま再拡散することなどを未然に防止できる。

今後、慶應義塾大学SFC研究所と富士通は、「トラステッド・インターネット・アーキテクチャ・ラボ」での技術開発を通して、2028年度までに「Endorsement Layer」、および利用者の端末からデータの確からしさを確認するアプリやブラウザ機能などを実装することで、「Trustable Internet」の実現を目指すという。

・「Trustable Internet」のコンセプトについては、Web技術に関する標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)の年次総会である、W3C TPAC 2022会合(2022年9月12日~16日)において発表し、専門家の様々な意見を踏まえたうえで策定した。

■背景
現在、インターネットは社会・経済活動において不可欠である一方、意図的に誤った内容を含む偽情報や、確からしさが検証できないデータも多く存在しており、フェイクニュースによる経済損失は年間780億ドル(約10兆円)に達する(注)とも言われている。従来、データの確からしさを確保する手法として、文書の承認管理システムや配送荷物の追跡システムなど個別システムごとに証跡を記録する機能が存在するが、膨大なデータが存在するインターネット上でその確からしさを確認できる汎用的な方法は存在せず、該当データが本当に正しいかどうかの判別は非常に困難となっている。

慶應義塾大学SFC研究所は、1990年代よりWeb技術に関する標準化を進めてきたW3Cの日本拠点であり、様々な活動を通じてグローバルにインターネットの標準化を牽引してきている。富士通は、インターネット黎明期よりITビジネスを開始しており、長年開発・提供してきたセキュリティ関連技術や、近年開発した、異なるアイデンティティー基盤を相互接続して自己主権型で連携利用が可能な技術など、多くの技術や知見を有している。

慶應義塾大学SFC研究所と富士通は、データの確からしさの課題を解決するため互いの知見やノウハウを結集し、インターネット上で信頼に基づいたデータのやり取りを実現する技術の研究を目的とし、2022年4月に設立した共同研究拠点「トラステッド・インターネット・アーキテクチャ・ラボ」での研究成果として、「Trustable Internet」のコンセプトをまとめたホワイトペーパーを公開した。

■「Trustable Internet」について
「Trustable Internet」によるアプローチでは、インターネット上のデータの確からしさを容易に判断できるよう、発信者または第三者が元のデータの確からしさとして裏付け可能な情報を付加し、利用者との間で共有する「Endorsement Layer」をインターネットの階層上に追加することでデータの確からしさを確認可能とする新しいアプローチである。この構成は、既存のインターネットに影響を与えず実現可能なため、インターネット利用者は従来通りにWebとアプリケーションを利用し、必要に応じてデータの確からしさの根拠となる情報が取得可能である。

確からしさの判断の根拠となる付加情報は、データ生成時に人と機器が付与するもの(生成者(人・法人)の名前、所属、資格、または生成した機器、場所、日時など)のほか、データ生成後に付与されるもの(専門家のような第三者によるデータへの確認・評価など)、さらにはセンサの計測値といったフィジカル空間から得られるものがある。これらの付加情報を「Endorsement Layer」(図)にグラフデータとして蓄積し、利用者がインターネット上のデータを閲覧する際に「Endorsement Layer」から付加情報を検索・確認したり、また確からしさを判断するために必要な情報をリクエストしたりすることで、利用者がデータの確からしさを判断可能になる。
これにより、多角的な視点からデータの確からしさを判断できるため、データに基づく意思決定をより正確にすることと、確からしさが不明なデータの拡散を防ぐことが可能になるとのこと。

■「トラステッド・インターネット・アーキテクチャ・ラボ」の体制
代表 中村 修 (慶應義塾大学環境情報学部 教授)
副代表 村井 純 (慶應義塾大学 教授)
副代表 鈴木 茂哉 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授)
慶應義塾大学SFC研究所と富士通の研究員 約20名

(注)フェイクニュースによる経済損失は年間780億ドル(約10兆円)に達する:
   THE ECONOMIC COST OF BAD ACTORS ON THE INTERNET FAKE NEWS | 2019

プレスリリースサイト(fujitsu):https://pr.fujitsu.com/jp/news/2022/10/13.html

AgxとEta Compute、AIカメラを活用した自動人数カウントシステム

(株)Agxは、IoT技術を活用したデータ可視化ソリューション「ThingBridge VISION(https://thingbridge.jp/vision/)」とEta Compute社の人数カウントアルゴリズムを内部に有するAIカメラであるTaliaとのアプリケーション連携を発表した。販売はエレクトロニクス商社の丸文(株)が行う。

この機能連携によりAIカメラ利用ユーザーはアプリケーション開発等行うことなく、入退出の人数や、通過した人数の情報を確認することが可能になるという。

◇想定顧客と利用シーン
1.店舗・テナント・ショッピングセンター・展示会など
  ・時間ごとの入退場の人数の把握
  ・施設内に滞留している人数を時系列データとして確認
  ・展示会など広い会場においての個別エリアやフロアごとの人の滞留の把握

2.マラソンなどの屋外イベント
  ・出入口ゲートを設けることで参加者総数の把握
  ・時系列データとしての人数把握が可能
3.高齢者施設・介護施設
  ・施設出入口に設置することで時間外の人の移動の検出
  ・プライバシーに配慮した居室の入退出の確認
  ・複数施設の人の動線を把握することが可能

4.オフィスビル・工場
  ・エリアごとの入退室管理
  ・フロアごとの入退出管理
  ・各会議室の稼働状況の管理
  ・オフィスの密状況の把握と管理

5.電車・バス・送迎バス
  ・時間ごとの乗降者数の把握
  ・搭乗者の置き去りの検知

◇他社サービスとの差別化
カメラの簡単設置      ・Taliaは配線不要で簡単に設置することができる
              ・内蔵バッテリーで最大3年間の連続駆動を実現できる

クラウドでのデータ一元管理 ・同一拠点の複数のTaliaの情報を一元的に管理可能
              ・複数拠点の複数のTaliaの情報を一元的に管理可能

プライバシーへの配慮    ・AIカメラ筐体に映像を残さない
               □GDPR:EU一般データ保護規則 準拠
               □CPRA:カリフォルニアプライバシー権法 準拠

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000038068.html

ドローンを用いたリモートセンシング技術の大規模圃場への応用(2)

沖 一雄
京都先端科学大学工学部
教授
沖 一雄

3.結果

3.1 樹高マップ

 図 4 には、2017 年 8 月 5 日に観測された画像から推定されたピーカンナッツの樹高マップを示した。 図 4より樹高が高い領域と低い領域が散在していることがわかる。 この樹高マップを別の日の樹高マップと比較することで、その期間の樹高成長量を評価することができる。 そうすることで、広大な果樹園の中で生育が著しく悪い樹木を効率よく検出することができる(図5)。

図4 UAV画像から推定されたピーカンナッツの樹高マップ
図4 UAV画像から推定されたピーカンナッツの樹高マップ
図5 UAV画像から推定された2時期のピーカンナッツの樹高差
図5 UAV画像から推定された2時期のピーカンナッツの樹高差

3.2 NDVI マップ

 図 6 は、2017 年 6 月 3 日に可視近赤外カメラにより撮影された画像から作成されたピーカンナッツ樹木の葉の NDVI マップを示している。

図 6 UAVに搭載された可視近赤外カメラにより撮影された画像から作成されたピーカンナッツ樹木の葉の NDVI マップ
図 6 UAVに搭載された可視近赤外カメラにより撮影された画像から作成されたピーカンナッツ樹木の葉の NDVI マップ

 ピーカンナッツ樹木の葉は品種によって異なるため、NDVI マップ上の値も品種によって異なる。 そのため、同じ圃場内であっても、品種ごとに NDVI 値を評価する必要がある。本研究では、高空間分解能で観測可能なUAVを使用しているため品種ごとのNDVI値の評価を可能にしている。
 図7は,健康な樹木とxylellaとよばれるウイルスに感染した樹木の比較写真である.健康な樹木では枝先まで葉が生い茂っているのに対し,感染樹木では葉が枯れ落ちている.図 8にUAVによる各樹木のNDVIの違いを確認すると,健康な樹木と感染している樹木でNDVIの値および形状に違いがあることがわかる.具体的には、葉が疎になっている感染樹木では,健康な樹木と比べて樹木全体のNDVIの値が低くなっていることに加え,隙間が存在することから一本の樹木の中で値に斑が生じている.このようにNDVI情報を評価することにより広域な農場から不健康な樹木を速やかに検出することが可能となる。

図7 健康な樹木(左)とxylellaとよばれるウイルスに感染した樹木(右)の比較写真
図7 健康な樹木(左)とxylellaとよばれるウイルスに感染した樹木(右)の比較写真
図 8 UAV画像から算出された各樹木のNDVI値
図 8 UAV画像から算出された各樹木のNDVI値

3.3 熱赤外画像マップ

 図9には、2017年6月3日に熱赤外カメラにより観測された地表面温度マップを示した。図9から、ピーカンナッツの樹木が植えられたエリアで温度が低いことがわかる。 植物は土壌よりも温度が一般的に低いため、これは予想された結果になった。日中、植物は太陽光を吸収して光合成を行い、ピーカンナッツの樹木の葉は活発に蒸散を行い、温度上昇を防ぐことが知られている。したがって、温度情報は植物の状況を評価するために有効である。
 さらに、図9に注目すると熱赤外カメラで観測された地表面温度マップから果樹園の中に大きな円があることが発見された。過去の衛星画像(Google Earth、2011 年 5 月 20 日撮影)や農場経営者からの情報によると、ピーカンナッツの樹木を栽培する前に、ここではピボット灌漑によるアルファルファ栽培が行われていたことがわかった。マップの温度は円の内側で高く、円の外側で低いことを示しており、高温を示す地域では生育阻害の可能性があると考えられる。農場経営者はピーカンナッツの樹木をよりよく成長させるためにアルファルファ栽培をおこなっていたにもかかわらず逆にアルファルファ栽培領域の成長がよくないことがわかり大変驚いていた。

図9 UAVに搭載された熱赤外カメラにより作成した地表面温度マップ
図9 UAVに搭載された熱赤外カメラにより作成した地表面温度マップ

4.考察と結論

 本研究では、米国アリゾナ州の64 ヘクタールのピーカン果樹園で、UAV を使用した連続モニタリング方法を確立した。特に、米国アリゾナ州のピーカンナッツ果樹園を対象に、可視近赤外と熱赤外カメラを搭載したUAV による樹木の NDVI モニタリング、樹高マップの作成、および地表温度分析を実施しました。確立された継続的な監視方法から、NDVIマップを利用して広大な圃場内で容易に不健康樹木を早期発見する手法は、生産性の維持・向上に役立つことを示せた。特に、生産者を悩ませるXylellaに感染した樹木はいち早く発見することが望まれている。
 また、熱赤外センサにより観測されたUAV 画像は、ピーカンナッツを植えてから 3 年後に、ピボット灌漑によるアルファルファ栽培の円形の痕跡があったことを示した。アルファルファを含むマメ科植物は土壌を肥沃にすることが知られている10)が、樹木はこれに反応していないようであり、その地域は樹木に有害であるように見える.米国アリゾナ州の土壌は石灰質であることが知られているため、この円は実際には乾燥地の灌漑でよく見られる塩の蓄積によって引き起こされている可能性があると想定している11)が、これを結論付けるには、土壌のテストを実施し検証する必要がある。
 今後は、本研究で得られた可視近赤外・熱赤外データの値や樹高マップなどの変数と実際のピーカンナッツの収量との関係を調査し、UAVによるさらなるフィールドモニタリング手法の有用性を検証する予定である。

謝辞
この研究は、North Bowie Farmingおよび一般財団法人生産技術研究奨励会の支援を受けて実施された。ここに感謝の意を表します。



参考文献

  1. Flynn, R., and Idown, J., Nitrogen Fixation by Legumes. Publications. College of Agricultural, Consumer, and Environmental Sciences, New Mexico State University.
    https://aces.nmsu.edu/pubs/_a/A129/ Accessed 3 September 2022.
  2. Sentis, I.P.,Soil salinization and land desertifcation. In: Rubio, J.L., Calvo, A. (eds.) Soil degradation and desertification in Mediterranean environments, pp. 105–129. Geoforma Ediciones, Logroño (1996).


【著者紹介】
沖 一雄(おき かずお)
京都先端科学大学工学部 教授
東京大学生産技術研究所 特任教授

■略歴
1997年筑波大学大学院社会工学研究科博士課程修了後、国立環境研究所、群馬大学工学部、東京大学大学院農学生命科学研究科、東京大学生産技術研究所と異動し、現在、京都先端科学大学工学部および東京大学生産技術研究所に所属している。また、途中、イタリア・イスプラにあるJoint Research Centreへの研究留学や、数年間の内閣府総合科学技術会議へ出向(併任)の経験を持つ。研究では、一貫して環境、農業分野における衛星リモートセンシング手法の開発に従事してきたが、この頃、農業生産者に役立つドローンでのリモートセンシング手法の開発にも興味を持ち、是非、農学と工学の融合による食料生産技術分野の確立に貢献したいと思っている。食料生産技術研究会を運営中。

自然災害発災初期の対応におけるドローン活用の動向と期待(2)

国立研究開発法人
防災科学技術研究所
内山 庄一郎

4.土砂災害初期対応における現場活動の課題

4.1 情報収集と安全確保の課題

土砂災害では、土砂や瓦礫、広範囲に達する泥水によって道路網が寸断され、車両が進入できない場所も多い。このような地上からの限られた目線では十分に情報収集が行えないため、災害状況や被害の全体像を早期に把握することが難しい(図2)。さらに、平成30年7月豪雨のように、広域で同時多発するケースもあり3)、現場活動のリソース(部隊)が分散する。また、防災ヘリの数は限られるため、速やかに上空からの情報収集ができるとは限らない。平成26年8月豪雨による広島市の土石流災害では、各地で同時に発生した土石流により住宅や道路が流失し、地域の景観が一変した。これにより、道路や建物などのランドマークが失われ、既存の地図が使えない状況となった4)

図2 土砂災害発生直後の現場の状況(2018年7月撮影、株式会社ライズ伊木則人氏提供)
図2 土砂災害発生直後の現場の状況(2018年7月撮影、株式会社ライズ伊木則人氏提供)
大量の土砂や瓦礫が道路を埋め、暗渠からあふれた水が地面やアスファルトを侵食して濁流と化している

検索活動の第一の課題は、要救助者・行方不明者の特定に時間を要することが挙げられる。自治体が把握している住民情報と居住実態が異なることは多く、災害当時の在・不在や、訪問者の存在もあるために、要救助者の特定には相当な時間と労力を要する。聞き取りで有力な情報が得られない場合、要救助者がいる可能性が高い場所の絞り込みが難しくなり、空間検索と最終検索の効率は大きく低下する。
次に、安全確保の課題として、情報の少ない初期対応フェーズでは特に、土砂の流出傾向が不明な中での活動となるため、安全監視員の配置と退避経路や退避場所の確保が課題になる。例えば土石流が秒速10mで流下すると想定した場合、活動場所から600m上流部に安全監視員や監視装置を配置できれば、60秒間で退避できる範囲で活動を展開できるが、常に退避時間に余裕を持たせた安全監視体制が構築できるとも限らない。こうした現場の安全確保対策は、現場の状況がほとんど分かっていない現場到着直後の情報収集の段階から必要となる。このため、夜間や道路でアクセスできる範囲が大きく限定される状況では、検索救助活動の開始までに長時間を要することもある。

4.2 救助活動の課題

流出した土砂、瓦礫等が障害となって車両で現場に到達できない場合、活動に必要な資機材を人力で搬送しなければならない。多くの場合、障害物は人力で撤去が難しい重量物であり、さらに撤去後の一時置き場や廃棄場所までの搬送も課題となる。
現場活動者の個人レベルでも救助活動には困難を伴う。降雨時には視界不良に加えて会話も不明瞭となり、ぬかるみの移動やその中での重量物の扱いが難しく、疲労を加速させる。加えて、切れた電線や太陽光パネルからの漏電、ガス漏れ等の事故リスクも常時抱えている。
重量物の撤去作業では重機が用いられる場合もある。この際、民間企業の重機が投入されることもあるが、二次災害のリスクが高く一般の工事現場とは異なる安全管理が求められるため、重機操作員の安全確保も課題となる。このほか、重機レンタル費や燃料代の負担、災害によるものか重機か定かではない建物等の破損に対する補償など、災害後に生じる問題も多い。

4.3 情報活動と情報資機材の課題

情報収集では、要救助者と活動現場に関する膨大な情報を扱う。これらは部隊間の無線コミュニケーションと白地図への情報集約によって行われる。無線コミュニケーションには、情報の不正確さ、聞き逃し、現場活動から手が離せず無線対応ができない、振り返って情報を確認できないといった制約がつきまとう。また、白地図へ情報を集約する担当者にとって、多数の部隊や外部組織からの報告を集約して地図を更新し続ける負担は大きい。さらに、長時間の活動では、書き込まれた情報が多くなり、情報の読み取りや外部組織等へ情報共有の困難さが課題となる(図3)。

図3 林野火災図上訓練で情報が書き込まれた白地図(画像提供:釜石大槌地区行政事務組合消防本部)
図3 林野火災図上訓練で情報が書き込まれた白地図(画像提供:釜石大槌地区行政事務組合消防本部)
各小隊から異なるタイミングで、時には同じタイミングで無線報告される情報を白地図に書き込むため、時間経過とともに情報量が増え続け、読み取りが困難な地図になる

5. ドローンの活用と現場のニーズ

災害初期対応におけるドローンの活用では、情報収集の課題(4.1)に対する有効策としての活用が先行している状況にある。一方で、ドローンには元来、様々なセンサを搭載できるプラットフォームとしての潜在能力があり、その活用可能性は情報収集だけにとどまらない。例えば空間検索では、瓦礫や土中の要救助者の呼吸や心音などのバイタルサインの検出や、土中の人体の存在の検出、携帯電話の電波発信源の検知といった、要救助者の位置を直接的に特定する技術へのニーズは大きい。これらに対するセンシング技術が登場すれば、人命救助活動のあり方を大きく変えうるものとなるだろう。また、要救助者の特定では人口動態に関するもの(4.1)や、隊員の身体能力の限界(4.2)などの課題を示した。これらの課題についても、現場のニーズと考えることができる。

6. まとめ

土砂災害を例として、災害初期対応フェーズにおける情報収集、検索活動、救助活動の実態と課題を紹介した。現状ではアナログ的な手法が用いられている部分も多く、今後、最新のセンシング技術が活用される余地がある。自然災害の被災地という危険かつ生身の人間には太刀打ちが困難な状況において、センシング技術を通じて人間の活動能力を高めることができれば、安全・安心な社会の発展に貢献できる。土砂災害などの危険な現場活動には、民間企業や研究者の入る余地は通常はほとんどないため、今回はその実態を紹介した。本稿がこの分野に対する技術者の挑戦の幅を広げるきっかけとなれば、これに勝る喜びはない。



参考文献

  1. 内山庄一郎(2020)災害対応の初期フェイズにおける無人航空機の活用-平成30年7月豪雨における広島県での捜索支援地図の作成事例-, 防災科学技術研究所主要災害調査報告, 53, 175-189.
    https://doi.org/10.24732/nied.00002158
  2. 内山庄一郎、須貝俊彦(2019)平成26年8月豪雨による広島市土石流災害の被害の特徴,
    自然災害科学, 38(特別号), 57-79.https://www.jsnds.org/ssk/ssk_38_s_057.pdf


【著者紹介】
内山 庄一郎(うちやま しょういちろう)
防災科学技術研究所 マルチハザードリスク評価研究部門 特別研究員

■略歴
1978年宮城県仙台市生まれ。博士(環境学、東京大学)。2003年より現職。
ドローンによる災害状況把握技術の開発と社会実装に従事。地すべり地形分布図(2014年完了)、災害事例データベース(2012年)、防災科研クライシスレスポンス(現bosaiクロスビュー、2012年)の設計と構築を行った。著書「必携ドローン活用ガイド」など。

IoT時代の自動飛行ドローンの高信頼化(2)

吉本 丈
大阪大学
大学院情報科学研究科
吉本 丈
谷口 一徹
大阪大学
大学院情報科学研究科
谷口 一徹

3. ドローンの高信頼化に向けたエッジ・クラウド連携のためのタスクマッピング手法

3.1 概要

 ドローンに搭載された小型コンピュータでは多種多様なタスクが繰り返し実行される。機体の安全性を司るタスクに加え、さまざまなセンサ情報の処理や動画像撮影など応用に関するタスクまでその優先度や求められる制約も異なる。IoTの普及に伴い、クラウドとも連携して所望のタスクを実行することが可能となるが、通信遅延の変動により満たすべき処理時間制約を満たせないこともあり得る。本研究では、さまざまな特性を持つタスクをエッジとクラウドに適切にマッピングするタスクマッピング手法を提案した。提案手法では、与えられた通信遅延の状況に応じて必須のタスクを最優先にマッピングしつつ、影響を最小限に抑えるような最適なタスクマッピングを探索する。なお、本手法は文献[21]で発表しており詳細はそちらを参照いただきたい。

3.2 システムモデル

 本研究では、次のようなエッジ・クラウドプラットフォームを想定する。タスクはデータ並列性を持ちエッジまたはクラウド上で実行できる。エッジは複数のプロセッサコアが搭載されており、クラウドは計算資源の制限はない。エッジでタスクが割り当てられると複数のプロセッサコアでタスクが実行される。エッジとクラウドは相互に通信可能であるが通信遅延を考慮する必要がある。各タスクにはデッドライン制約があり、タスクは周期的、非周期的、散発的に繰り返し実行される。タスクは設計時にエッジまたはクラウドに静的に割り当てられる。また実行時に新規のタスクが追加されることはない。

3.3 提案手法

 本研究では、タスクに優先度を持たせ、クリティカルタスクは最優先で制約を満たして実行し、オプショナルタスクは可能な限り実行することで被害を最小化するタスクマッピング手法を提案する。本提案手法は先行研究である文献[22]の組込みシステム用ホモジーニアスメニーコアSoCを対象とした静的タスクマッピング手法をIoT向けに拡張した。
 提案手法ではタスクは重要度とデッドライン制約の2種類の優先度をもち、全てのタスクは以下の3つに分類される。

  • Category I: クリティカルかつハードデッドライン
  • Category II: クリティカルかつソフトデッドライン
  • Category III: オプショナルかつソフトデッドライン

Category IとIIに分類されたタスクはドローンが安全に飛行する上で重要(クリティカル)なタスクでありそのタスクは必ず実行される必要がある。Category IIIのタスクはオプショナルタスクでありシステムは必要に応じてCategory IIIのタスクを放棄することが可能である。また、デッドライン制約に関してはCategory Iのタスクはハードデッドライン、それ以外のタスクはソフトデッドラインをもつ。
 本稿ではスペースの都合で詳細な定式化は割愛するが、この問題を数理計画問題として定式化することで解を求めた。入力はタスクセットとエッジ・クラウド間の通信遅延、出力はタスクのコアへのマッピング結果である。主な制約はハードデッドラインのタスクはデッドライン以内に実行される、タスクが重複してマッピングされない、などである。目的はデッドライン超過コストとタスク放棄コストの最小化である。

3.4 評価実験

 提案手法の有効性を示すために、複数種類のタスクからなるタスクセットを想定し、通信遅延を変化させた場合のタスクマッピング結果を評価した。本実験では以下の通りType A〜Dの4つの種類の合計20個のタスクを想定した。

  • Type A: Category I, 5 tasks
  • Type B: Category I, 1 task
  • Type C: Category II, 4 tasks
  • Type D: Category III, 10 tasks

また図1に各タイプのタスクの実行された場所ごとの処理時間を示す。図1はそれぞれのタスクをクラウドで実行した場合、エッジで1コア〜16コアで実行した場合のそれぞれの実行時間を示す。
 図2に実験結果を示す。X軸はエッジ・クラウド間の通信遅延時間を示している。Y軸左側と棒グラフはマッピング結果を、Y軸右側と折れ線グラフはソフトデッドラインを持つタスクのうちの最大超過時間を示している。棒グラフの青はエッジ、オレンジはクラウド、グレーは廃棄されたタスク数をそれぞれ表す。図2より、遅延時間が短い間はクラウドも活用しつつタスクが実行されるが、遅延時間が増大するにつれクラウドでの処理からエッジでの処理に移行し、実行できないタスクが放棄される結果となった。放棄されたタスクはオプショナルなタスクで、それらのタスクが犠牲になることでクリティカルなタスクの実行が可能となっている。加えてタスクのデッドラインミスが許容されるソフトデッドラインタスクの最大超過時間も遅延時間の増大によって増加していることがわかる。このように、通信遅延時間の変化により最適なタスクマッピングは異なり、エッジ・クラウド間のタスクマッピングを適切に切り替えることで、信頼性の向上に貢献できると考えられる。

図1 タスクごとの処理時間
図1 タスクごとの処理時間
図2 マッピング結果
図2 マッピング結果

3.5 まとめ

 本研究では飛行前に最適なタスクマッピングを求める静的タスクマッピング手法を開発した。提案手法により通信遅延の変化により最適なタスクマッピングを求めることができた。特に、タスクの放棄を許容することでデッドラインを満たすことが可能となった。今後の課題はより実用的なタスクモデルでの評価や飛行中に適切なタスクマッピングを求める動的タスクマッピング手法の開発が挙げられる。

4. 今後の方向性

 ドローンの高信頼化を実現するためには、障害物回避や自己位置推定などを駆使しつつ起こりうる様々な事象に備えることが重要である。しかし先に述べた通りドローンを取り巻く環境は多岐に渡り、事前に全ての事象に備えることは現実的ではない。特に飛行環境は想定外の事象に溢れており、想定外を如何に想定してそれに備えるかは非常に大きな課題である。
 加えて想定された事象が発生した場合に瞬時に対応することは被害を最小限に収めるためにも極めて重要である。先に述べた通りIoTではエッジとクラウドの通信遅延が問題となり、クラウドで瞬時の対応が必要な処理を実行することは現実的ではない。通常エッジの計算資源は限られており、限られた計算資源で高信頼化に必要な処理を行わなければならない。
 ドローンの高信頼化は決して特定の要素技術だけで実現できるものではない。エッジやクラウドの特性や求められる信頼性、考えられる事象などを総合的に捉えたアプリケーションとシステムの協調設計が重要である。高信頼化を支える新しいアプリケーションの開発に加え、そのシステム実装を行うための設計方法論も合わせて議論することで、コストや性能などのトレードオフを考慮した全体最適化が可能となる。このような分野横断的な取り組みが今後ますます重要になると考えられる。



参考文献

  1. J. Yoshimoto, I. Taniguchi, H. Tomiyama, T. Onoye, “Priority-aware Static Task Mapping for Edge-Cloud Collaborative Platforms,” Proc. of International Conference on Electronics, Information, and Communication (ICEIC), pp. 518-521, Feb. 2022.
  2. I. Taniguchi, J. Kaida, T. Hieda, Y. Hara-Azumi, H. Tomiyama, “Static Mapping with Dynamic Switching of Multiple Data-Parallel Applications on Embedded Many-core SoCs,” IEICE Trans. on Information and Systems, Vol.E97-D, No.11, pp.2827–2834, Nov. 2014.


【著者紹介】

吉本 丈(よしもと じょう)
大阪大学 大学院情報科学研究科 博士前期課程

■略歴
2020年3月 大阪大学 工学部 電子情報工学科 卒業
2022年3月 大阪大学 大学院情報科学研究科 博士前期課程修了
IoTシステムの設計技術に関する研究に従事。

谷口 一徹(たにぐち いってつ)
大阪大学 大学院情報科学研究科 准教授

■略歴
2002年3月 石川工業高等専門学校 電子情報工学科 卒業
2004年3月 大阪大学 基礎工学部 情報科学科 卒業
2006年3月 大阪大学 大学院情報科学研究科 博士前期課程修了
2007年〜2008年 Katholieke Universiteit Leuven (IMEC)にてInternational Scholar
2009年3月 大阪大学 大学院情報科学研究科 博士後期課程修了、博士(情報科学)
2009年4月〜2017年1月 立命館大学理工学部 助教及び講師
2017年2月 大阪大学大学院情報科学研究科 准教授、現在に至る
VLSI設計技術、システムレベル設計方法論、低消費電力設計技術、サイバーフィジカルシステム設計方法論、次世代アプリケーションなどに関する研究に従事。IEEE、ACM、電子情報通信学会、情報処理学会 各会員。

水空合体ドローンの音響測位技術(2)

川田 亮一
(株)KDDI 総合研究所川田 亮一
西谷 明彦
(株)KDDI 総合研究所西谷 明彦
小島 淳一
(株)KDDI 総合研究所小島 淳一

3 水空合体ドローンの音響測位方式

3.1 基本構成

 水空合体ドローンに適した音響測位システムには、2 に書いたような要件があるが、今回はその中でも、特に小型・低コスト・反射に強いという点を考慮したものを設計・開発した。複数ターゲットの同時測位については、当初は水空合体ドローン 1 式で動作することを想定し、まだ対応していない。
 また、今回は水空合体ドローン自体が試作であったため、音響測位システムも柔軟に変更可能なものを短期間で開発する必要があった。
 水中音響測位の方式は主として LBL(Long Base Line)、SBL(Short Base Line)、SSBL(Super Short Base Line) の 3 方式がある [8] が、小型という要件を考慮すると、SSBL 方式が最も適しているといえる。
 SSBL 方式について簡単に説明する。図 7 に示すように、空中ドローン側にハイドロフォン(水中マイク)が数 cm の間隔で 3 個、それらが直角二等辺三角形を成すように取り付けられている。音源が十分離れているとみなすと、音響パルスが各マイクに到達する時間差から、上記三角形の各辺と音源の方向との成す角がそれぞれ求まる。ここから、音源の存在する方向が特定できることになる。音響パルスの検出や各ハイドロフォン間の受信時刻差は、送・受信信号間及び受信信号同士間の相互相関関数の計算により、正確に求める。

図 7	SSBL 音響測位方式
図 7 SSBL 音響測位方式

 水中ドローンにつける装置を小さく低コストにするため、トランスポンダー (音響パルスを受信したのちに送り返す) ではなくピンガー (音響パルスを発射するのみ) とした。また、反射波との分離を容易にするために、発射する音響パルスの周波数を比較的高く、パルス長を比較的短くした。すなわちパルスとしては周波数 50kHz 前後のチャープ信号、パルス幅は 1.6mS とした。周波数が高くなると距離による減衰が大きくなるが、水中ドローンの活動範囲は空中ドローンから数十メートルの範囲内であるため、50kHz であれば問題はない。
 また開発期間短縮のため、ピンガーでの音響パルス信号生成処理は Arduino で、空中ドローン側のレシーバーでの受信信号処理は Rasberry Pi で行うこととし、ソフトウェア開発を比較的容易にしている。さらにピンガーの音波発生器 (トランスデューサー) と圧力センサ (後述) の部分については、[9] で述べた実験で使用したものを流用している (図 8)。なお、簡易的な音響測位技術は、[10, 11, 9] にあるように、動物の生態調査にも利用されている。ここでは、イルカの鳴き声 (超音波) を捉えることでその位置を把握している。

図 8 ピンガーの中のトランスデューサー及び圧力センサ搭載部 [9]
図 8 ピンガーの中のトランスデューサー及び圧力センサ搭載部 [9]

 図 9 と図 10 にそれぞれピンガーとレシーバーのブロック図を示す。図 11 に示すように、水中ドローンにピンガー、空中ドローンにレシーバーを搭載し、水中ドローンの位置情報を LTE 経由で陸上まで送信している。運用者は地図上で空中・水中ドローンの位置を確認しながら遠隔操縦を行う。
 表 2 に音響測位システムの主要諸元を示す。パルス幅が 1.6mS と短いため、ピンガーの電池持ちは比較的良い。
 水中ドローンに搭載するのがトランスポンダーではなくピンガーであるため、SSBL では空中ドローンから

図 8 ピンガーの中のトランスデューサー及び圧力センサ搭載部 [9]
図 8 ピンガーの中のトランスデューサー及び圧力センサ搭載部 [9]
図 10 レシーバーの構成
図 10 レシーバーの構成

見た水中ドローンの相対的な方向しかわからない。絶対位置を特定するためには、両ドローン間の距離もしくは水中ドローンの深度が分かればよい。このため、つぎの 2 つの方法を備えている。

  1. ピンガーとレシーバーの基準時刻合わせピンガーとレシーバーの基準時刻を合わせ、ピンガーがどのタイミングでパルスを発射したかがレシーバー側で分かっていれば、受信時刻と音速の情報からピンガーまでの距離を知ることができる。レシーバー側は GPS により正確な時刻が分かるため、潜航前にピンガーとレシーバーの時計を同期させる。
  2. 深度センサ (圧力センサ) の使用ピンガーは小型の深度センサ (圧力センサ) を搭載し、自身の深度が分かるようになっている。ピンガーからは音響パルスを 1 回に 2 個発生させることとし、このパルス間の間隔を深度に比例させた値に設定する (1 個目を測位パルス、2 個目を深度パルスと呼ぶ。図 12 参照)。

 方法 (1) は GPS の受信可能な屋外でしか使用できず、方法 (2) はその他の場合も含め常に使用可能である。
しかし方法 (2) では、位置推定の精度が深度計の精度に依存することになる。

図 11 レシーバー (左) とピンガー(右)
図 11 レシーバー (左) とピンガー(右)
表 2 音響測位システムの主要諸元
使用周波数帯 50kHz
ピンガーの送波音圧 170dB re 1µPa@1m
測位レンジ 300m
レシーバー電源 5V1A
ピンガー電源 乾電池/24 時間動作
寸法・空中重量 レシーバー 90φ×220mm, 950g
Data size ピンガー 40φ×150mm, 220g

3.2 ピンガーの時計のドリフトの影響

 前述の通り、親機と子機の基準時刻の合わせこみを潜航前に実施し、以後は音響パルスの受信時刻から子機までの距離を算出している。このため、パルス発射時刻がずれてくると、測位誤差につながってくる。
 レシーバーは GPS から得られる正確な時刻を使っているが、ピンガーの時計の精度は、レシーバーとの同期後は発信器の安定性に依存する。今回のピンガーに搭載できるような小型低消費電力の発信機としては TCXO(温度補償型水晶発振器)が適する。現状使用しているものの安定度(実力値)は 10ppb であるため、 3 時間連続稼働したとしても理論上最大 16cm の誤差に留まる。現状、水中ドローンは自動航行ではなく人間が伝送映像を見ながら操作していることを考えると、その測位誤差としては十分小さいといえる。

4 測位性能試験結果

 音響水槽にて、ピンガーを測位ターゲットとしてレシーバーを旋回装置に取り付け (図 13)、方位推定精度の確認を行った。旋回装置は一定の回転速度でゆっくりと 360 度回転し、その時の俯角と方位角を音響測位で推定した。
 図 14 はピンガーの深度を 1.3 メートルとしたときの俯角と方位角の推定値である。またピンガー深度 1.3 メートルと 5 メートルの時の推定角度誤差を表 3 に示す。一般に SSBL 方式の場合、測位対象が浅い場所に

図 12 発射間隔が深度情報を表す 2 個のパルス
図 12 発射間隔が深度情報を表す 2 個のパルス
図 13 水槽実験の様子。レシーバー (赤丸印) が旋回装置に取り付けられている。
図 13 水槽実験の様子。レシーバー (赤丸印) が旋回装置に取り付けられている。

あり俯角が小さいと測位誤差は大きくなるが、表 3 では深度 5m の時に誤差 0.5 度以下、深度 1.3m であっても誤差約 1 度以下と、今回の利用シーン (水中ドローンは自律航行ではなく遠隔からの手動操作) のためには十分な高精度が出ている。

表 3 俯角・方位角の推定誤差
ピンガーの深度(水平距離:2m) 俯角推定誤差(標準偏差) 方位角推定誤差(標準偏差)
5 m 0.2 度 0.5 度
1.3 m 1.1 度 0.8 度
図 14 推定した方位角と俯角。ピンガーの深度は 1.3 メートル。
図 14 推定した方位角と俯角。ピンガーの深度は 1.3 メートル。

5 おわりに

 本稿では、筆者らが開発している水空合体ドローンの音響測位システムについて説明した。小型化のため SSBL 方式とし、また浅海域で使用するため、音響パルスを反射に強い設計としている。さらに低コスト・短期間で開発するため、Arduino や Rasberry Pi を活用している。
 現状、水中ドローンは遠隔からの手動操作となっているが、今後、自動潜航を実現するためには、音響測位の更なる安定化・高精度化が重要となる。このため方式改良を続けるとともに、多数のドローンが同時に作業可能とするため、複数のターゲットの同時測位機能も実現する予定である。



参考文献

  1. 海洋音響学会:“海洋音響の基礎と応用”, 成山堂書店 (2004).
  2. J. Kojima, H. Sugimatsu, T. Ura, R. Bahl, S. Behera and K. Nagahashi: “Development of a prototype underwater acoustic and motion recorder for the Ganges river dolphin”, Proc. IEEE Oceans, pp. 1–6 (2014).
  3. J. Kojima, H. Sugimatsu, T. Ura, R. Bahl, S. Behera and V. S. Sagar: “An integrated observation system with multiple acoustic arrays for underwater behavioral study of the Ganges river dolphins”, Proc. IEEE Oceans, pp. 1–6 (2011).
  4. J. Kojima, H. Sugimatsu, T. Ura, R. Bahl, S. Behera, H. Singh and V. S. Sagar: “Long-term real-time monitoring system for Ganges river dolphins using two sets of 6-hydrophone array systems”, Proc. IEEE Oceans, pp. 1–6 (2013).


【著者紹介】

川田 亮一(かわだ りょういち)

■略歴
1991年,東大大学院了.同年,現KDDI入社,研究所に勤務.映像処理,特に動き補正TV方式変換,画質評価/監視,画像符号化などの研究 開発に従事.1997~1998年,米コロンビア大客員研究員.2014~2016年,慶大SFC上席研究員(W3Cフェロー).2016~2018年,内閣府上席政策調査員.現在,水空合体ドローンの音響測位技術の研究開発に従事.博士(工学).

西谷 明彦(にしたに あきひこ)

■略歴
1986年,鹿児島県立鹿屋高卒.現 KDDI 入社後は,OSI 通信,分散システム,サイレント障害検知技術に関する研究に従事後,研究フィールドを海洋に移す.2016年より深海探査技術の世界大会に,日本チーム(Team KUROSHIO)の一員として挑戦.2019年より海中光無線技術の応用研究,水空合体ドローンの開発等に取り組み中.

小島 淳一(こじま じゅんいち)

■略歴
1981年,東工大大学院工学研究科修士課程了,国際電信電話株式会社(現KDDI株式会社)入社,海底ケーブルの保守・点検に関連する研究開発に従事.海底ケーブル調査・点検用の自律海中ロボット(AUV)を開発.近年は水中音響技術を応用した研究開発を行う.2021年,定年退職し現在に至る.2016年,科学技術賞(開発部門)受賞,IEEE会員.

工学院大、自転車を漕ぐ時の股関節負担を詳細に測定する装置を公開

工学院大学の桐山 善守 教授(機械システム工学科)は、自転車ペダリング時の精密な股関節負担の評価装置に関する研究を進めている。

この装置は、自転車のサドル部と殿部に生じる荷重中心位置と大きさ・方向を測定できる。サドルは立体的に複雑な形状であり、ヒトの殿部および大腿背面の柔軟な皮膚組織と接触しているため、ペダリング時には、接触形状や荷重の分布が時々刻々変化してしまう。同システムのセンサは、複数の荷重センサを組み合わせることで、接触力の位置(サドル表面における接触中心位置)・大きさ・方向を検出することができる。さらに、任意のサドルに対応可能で、かつ左右分割しているため、両側脚に対する負担を別々に評価できることも特徴の一つである。

装置は2022年10月4日(火)から31日(月)までオンライン開催される「イノベーション・ジャパン2022~大学見本市&ビジネスマッチング~Online」(主催:国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)にて公開している。

■研究者コメント:桐山 善守 教授(工学院大学 工学部 機械システム工学科)
「サドルから殿部に生じる力と荷重中心位置を、左右別々に誤差2mmで計測でき、逆動力学解析と組み合わせることで股関節に作用する力学負担をより正確に評価できます。従来に比較して、荷重ベクトルを三次元で計測でき、サドル上での荷重中心および左右の股関節を別々に評価することが可能です。筋力トレーニング、リハビリテーションへの活用も見込まれるため、医療・医薬・バイオ関連の製造業の方々に見ていただきたいです。」

■『イノベーション・ジャパン2022~大学見本市&ビジネスマッチング~Online』概要

一般公開期間:2022年10月4日(火)~10月31日(月)
主催    :国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
URL     :https://innovationjapan-jst-nedo.jst.go.jp/
      ※サイト閲覧およびセミナー聴講予約には「参加登録」が必要。

<該当技術について>
出展エリア :大学見本市、大学等シーズ展示
出展分野  :装置・デバイス
出展番号  :JM-19
出展タイトル:自転車ペダリング時の精密な股関節負担の評価装置

プレスリリースサイト:https://www.atpress.ne.jp/news/329852

ミルウス、仮想センサ技術:リストバンドに指を添えて感情を見る

北大発認定ベンチャーの(株)ミルウスは、横浜国立大学発ベンチャー UNTRACKED(株)と連携して開発中の次世代仮想センサmiruWs (R) 2.0に向けた感情可視化の技術展示およびHTL(株)が11月末商品化予定のWitHBANDスマートウォッチに向けたライフログ可視化を「病院EXPO」(10月12日~14日 幕張メッセ)にて展示・デモンストレーションを行う。

[展示概要]
今回のミルウス社展示のテーマは「貯健箱(R):高齢者にも優しいパーソナル・データの活用」と「仮想センサ技術:リストバンドに指を添えて感情を見る」である。
前者は本年11月末に販売開始されるHTL(株)のスマート・ウォッチ「WitH BAND」のバンドル・アプリとして提供される。後者は来春サービス開始予定の「仮想センサ」の主要機能として提供予定であるという。

[仮想センサ技術:リストバンドに指を添えて感情を見る(技術展示)(※a)]
心の動きである感情やストレスを可視化することは医療・ヘルスケアだけでなく製品、食品、コンテンツの客観評価等の非常に幅広い応用が期待される。感情の可視化にはラッセル円環図が良く知られており、脳波・心電・脈波等等をAI解析することにより円環図上の喜怒哀楽にマッピングする技術が報告されている(※b)。
一方、最近機能向上が著しいリストバンドには、装着側と反対側の指を添えて心電のループを作り心電波形を得ることができる機種も出始めている。
今回展示する試作システムは、図に示すように、LSI応用システム開発用に販売されている開発用参照リストバンドを用い、そこで得られる心電波形をPCに入力し、AI感情推定により可視化するもので、最終的には、このPCアプリをスマホやクラウド上に搭載することにより、リストバンドに約1分指を添えることにより喜怒哀楽が1分ごとに更新される。

※a:仮想センサについては「AIで街の快適を可視化」を参照。  https://prtimes.jp/main/action.php?run=html&page=releasedetail&company_id=57464&release_id=10&owner=1
※b:感情解析技術については日本機械学会主催 ロボティクス・メカトロニクス講演会 (ROBOMECH2021)で発表。  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmermd/2021/0/2021_2P3-J17/_article/-char/ja/

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000057464.html

三菱重工、自動運転支援を目的とした路車間通信(V2I)の実証実験に参画

三菱重工業(株)、三菱重工グループの三菱重工機械システム(株)(以下、MHI-MS)ならびに三菱重工エンジニアリング(株)(以下、MHIENG)は、中日本高速道路(株)(以下、NEXCO中日本)が建設している「E1A新東名高速道路」の一部区間で2023年度に実施が予定されている路車間通信(V2I)(注1)の実証実験に参画する。三菱重工グループが有するさまざまな技術を活用し、自動運転社会の実現に向けた路車間通信システム案を構築する。

事業名は、「高速道路の自動運転時代に向けた路車協調実証実験」。MHI-MSと、AIをはじめとした最新テクノロジーを駆使したリスクの可視化を手掛ける株式会社スペクティ(Spectee Inc.)が、事業を主催するNEXCO中日本の公募に共同応募し採用されたもので、未供用区間である神奈川県の新秦野ICから静岡県の新御殿場ICまでのうち、静岡県内の約4kmを使って自動運転社会の実現に向けた実証実験を実施する。

具体的には、自動運転車両の車載センサでは検知できない前方の「先読み情報」をV2Iによって自動運転車両に配信する「路上障害情報の後続車への提供」「路面状況や走行環境に応じた最適な速度情報等の提供」や、自動運転車による「追随走行」を成立させる情報を提供する「目的地別の追随走行支援」を検証する予定。三菱重工グループは今回の検証に、高速道路の料金徴収や都市部の混雑課金(ロードプライシング)などで培ってきたMHI-MSの道路交通におけるセンサ/通信技術や、地上・車上システム間の協調によって安全性を担保する鉄道システムの構築実績があるMHIENGの知見などを活用する。

「先読み情報」の後続車配信は、早期に危険を把握することで余裕を持った回避行動を可能とし、交通事故低減に寄与する。また、先頭車に後続車が接近して走行することで空気抵抗を低減し省エネ運転を実現する「追随走行」は、V2Iによるマッチング支援でその可用性が高まる。これらの技術は、自動運転車やICT端末としての機能を有するコネクテッドカーの普及率・通行車両に占める混入率が低い時点でも、V2Iで得られた車両運行情報はリアルタイム性の高い道路交通情報・安全情報に活用できるため、交通事故の低減や道路運営の高度化という、通行する全ての車両の利益につながるものとして期待されている。

CASE化(注2)により大きな変革期を迎えている自動車分野において、「安全性と効率性の向上」「環境負荷の低減」といった将来ビジョンは不変であり、三菱重工グループの目指す姿と一致している。三菱重工グループは、2021事業計画の成長戦略の一環として、カーボンニュートラル社会の実現に向けた「社会インフラのスマート化」によるソリューションビジネスの開拓に取り組んでおり、本プロジェクトは「CASE化を支えるインフラ」をテーマとするさまざまな取り組みの一つに相当する。今回の実証実験への参画を通じ、交通関連分野のインフラ整備などで長年培ってきたグループの総合力を発揮し、AI・デジタル化の活用による自動運転社会の実現を目指すとしている。

(注1)V2I は「Vehicle to Infrastructure」の略で、ICT通信機能を有するコネクテッド車両とインフラ設備の無線通信を指す。
(注2)Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった造語で、安全で利便性の高い次世代型モビリティ・サービスを構築するための自動車産業界における技術トレンドのこと。

ニュースリリースサイト(MHI):https://www.mhi.com/jp/news/22100502.html

がん患者をサポートする「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」にて 見守りセンサ「Tellus」を導入

三井不動産(株)と、(株)三井不動産ホテルマネジメント、テラス・ユー・ケア(同)は、がん患者をサポートするホテル「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」にて、ミリ波レーダー技術を用いた見守り機器「Tellus(テラス)」を導入した。また、「Tellus」付き宿泊プランを10月5日より販売開始する。なお、「Tellus」のホテルへの本格導入は初の取り組みとなる。

2022年7月に開業した「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」は、年間30万人弱の来院がある国立がん研究センター東病院敷地内に立地し、通院する患者や付き添いの家族を24時間サポートする滞在環境を提供している。今後さらに患者や家族が安心して利用できるように、継続的に多様な企業の先進技術やサービスを活用した宿泊プランを企画する。今回、開業後に導入するサービスの第一弾としてテラス・ユー・ケアが開発・提供する先進のミリ波レーダー技術を用いた見守り機器「Tellus」を本格導入する。

「Tellus」はミリ波レーダー技術を用いたセンサを搭載しており、プライバシーに配慮した形で睡眠や、活動状況を検知する見守り機器である。レーダーはカメラと異なり、男女や着衣の差異を捉えず、動きのみを検知する。微細な動きをセンシングし、高度なAIと組み合わせることで睡眠などの活動状況を判断することができまる。情報はクラウドで管理され、管理者はリアルタイムにデータをモニタリングすることができる。同ホテルでは、はじめは就寝と起床の検知を行い、2023年以降は、死角となるトイレ、客室内での転倒、うずくまり等の検知の検証を進める。家族、およびホテル内に常駐するケアスタッフへリアルタイムにデータを通知することにより、一人で宿泊する患者やその家族の不安を軽減するサービスを構築し、より安心・安全な滞在環境を提供するとのこと。

■「Tellus」付き宿泊プラン概要
対象ホテル     三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド
客室タイプ     モデレートダブル(14室限定)
サービス提供開始日 2022年11日1日より当面の間
プラン料金     通常の宿泊料金にて利用可能
予約方法      公式サイトより予約可能
公式サイト     https://www.gardenhotels.co.jp/kashiwanoha-parkside/

※一名での宿泊のみ対象。
※宿泊プランとしてサービスを提供すること以外で、個人の同意なくデータを活用はしない。

ニュースリリースサイト:https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2022/1005/