アーカイブ

LiLz Gaugeに対応した電源レスIoTカメラのサーモタイプ「 LiLz Cam-Th」

LiLz(株)は、設備保全現場の日常点検を省力化するIoT・AIサービス「LiLz Gauge」に対応した電源レスIoTカメラのサーモタイプ LiLz Cam-Thを2023年春頃、提供開始すると発表した。

新バージョンのLiLz Camは、赤外線センサを搭載し撮影したエリアの温度情報を定点監視することができる。
設備保全における日常点検では、配管や発電設備の温度が異常になっていないかを点検している。従来では触覚による点検もしくはハンディタイプの赤外線カメラでの点検が主流だった。今回のLiLz Cam-Thは、低消費電力で連続動作時間が3年と、従来のLiLz Camと同等程度の性能を持つ定点型LTE赤外線カメラ。電源工事・ネットワーク工事不要で現場に定点設置でき、点検の省力化・リモート化に貢献するという。
なお、以下の二つの展示会では参考出展してデモを行う予定。
・スマートビルディングEXPO 12/5-12/7 東京ビックサイト 西展示棟 TMES(株)ブース
・プラントショーOSAKA 12/7-12/9 インテックス大阪 NBKマーケティング(株)ブース

■LiLz Cam-Thの主な仕様
センサ   :赤外線センサ
解像度   :160×120
計測温度範囲:-10℃〜140℃
防水・防塵 :IP65
電源    :リチウムイオン電池

■ LiLz Gaugeについて
LiLz Gaugeは、電源が無いあらゆる場所の目視巡回点検をリモート化する。1⽇3回撮影で約3年と⻑期稼働する低消費電力IoTカメラとクラウド側の機械学習・画像処理によってアナログ計器の値を⾃動で読み取るため、現場に⾏くことなく点検対象の情報を効率的に取得する。カメラを設置した当⽇から目視点検の省⼒化をスタートできる。 https://lilz.jp/lilzgauge/

ニュースリリースサイト(lilz):https://lilz.jp/news/press_release_20221206/

竹中セントラルビル サウスにサイバーセキュリティ対策サービス「Smart Secure Service」

SBテクノロジー(株)〔以下 SBT〕は、2022年10月3日に開業した竹中工務店グループの新オフィスビル「竹中セントラルビル サウス」において、オフィスビル向けのサイバーセキュリティ対策サービス「Smart Secure Service(スマートセキュアサービス)」の導入と、データ連携が容易なクラウド型の建物OS「ビルコミ?」の一機能であるデータ処理基盤の導入支援をおこなった。

■「Smart Secure Service」導入の背景
昨今、BA(ビルオートメーション)システムは、建物の照明や空調などの建物内外のシステムやIoT機器とつながるようになり、建物管理の効率性や省エネルギー性が高まる一方で、サイバー攻撃のリスクも大きくなっている。従来のオフィスビルのBAセキュリティ対策では、主に建物外部からの脅威に対する防御に限られ、内部からの不正侵入やマルウェア等のウイルス感染を前提とした対策が必ずしも十分とは言えない状況であった。

こうした中、SBTはこれまで日本電気株(株)〔以下 NEC〕、サイバートラスト(株)〔以下 CTJ〕、(株)竹中工務店とともに、竹中工務店所有のビルにて「Smart Secure Service」を用いたサイバーセキュリティ対策の有用性に関する実証実験※1をおこない、不正侵入やウイルス感染に対しても強固なセキュリティ性能が発揮されることを実証した。この結果を受け、このたび竹中セントラルビル サウスにおいて「Smart Secure Service」を導入するに至った。

竹中セントラルビル サウスは、建物の脱炭素化・運用管理に関わる各種ソリューション技術をBAシステムに盛り込んでおり、「Smart Secure Service」は、これらBAシステムのサイバーセキュリティ対策として実運用を開始した。

■竹中工務店における「Smart Secure Service」提供内容
竹中セントラルビル サウスのBAシステムにネットワーク中継型IoT-GWデバイス※2を実装し、内外からの不正アクセスやIoT-GWデバイスによる誤作動、プログラム・データの改ざん、ウイルス混入などを検知・防御し、許可されていないアプリケーション起動の抑制や機械学習による異常通信・検知等をおこなう。そして、ネットワークオペレーションセンター(NOC)により、24時間365日体制での常時監視をおこない、攻撃を検知した際にも迅速に対応できる体制を構築した。セキュリティの構築から運用・監視まで担うことにより、セキュアなデータのやりとりを実現するとともに、長期的なサポートによる建物設備のライフサイクルにあわせたセキュリティ対策支援をおこなう。

■ビルコミ®におけるデータ処理基盤の開発について
「Smart Secure Service」の導入とあわせて、「ビルコミ?」の一機能であるデータ処理基盤の導入支援をおこなった。ビルコミ®は、オープンな通信規格を採用したクラウド型のデータプラットフォーム。建物設備システムや各種センサを通じて得られるビッグデータを効率的かつセキュアに扱うことができる。

竹中セントラルビル サウスにおいては、IoTセンサネットワークやアプリケーションメニュー等を加えて構成されたソリューションパッケージである「ビルコミプラス」とあわせて導入されており、建物OSとして、建物設備やIoTシステムの運用性能を高めている。また、クラウドの利点を生かし建物ごとに分断されたシステム管理の形から、多棟管理が可能なデータプラットフォームの共通基盤化を可能にする。

■今後について
竹中セントラルビル サウスは、今後もスマートビルの実現に向けて様々な先端技術の導入が予定されている。SBTは、「Smart Secure Service」を通じてさらなるBAシステムのセキュリティ対策の支援をおこなっていくとともに、今後セキュリティアナリストによる24時間365日監視をおこなうセキュリティ監視センター(SBT-SOC)との連携も予定している。加えて、竹中工務店が設計・施工する新設建物および既設建物へも導入を進めていく予定とのこと。

※1  IoT-GWデバイス:データを省電力・高速に処理を行い、通信量やクラウドでの処理負荷を軽減する通信機器
※2 プレスリリース 建物内サイバーセキュリティ対策システムの性能検証を実建物のBAネットワークで実施
   https://www.softbanktech.co.jp/news/release/press/2020/019/ 

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000536.000007357.html

ST、センサ・フュージョンと機械学習に対応した6軸MEMSモーション・センサ

STマイクロエレクトロニクスは、6軸MEMSモーション・センサ「LSM6DSV16X」を発表した。同製品は、低消費電流センサ・フュージョン(SFLP)技術、機械学習コア、および自己構成機能(ASC)を備え、消費電力の最適化に貢献するという。

LSM6DSV16Xは、先進的なアーキテクチャにより、高度な処理をエッジ内で実行できるため、スマートフォンでの先進的な3Dマッピング、ノートPCやタブレットのコンテキスト・アウェアネス、XRヘッドセット向けの信頼性に優れた高精度ジェスチャ認識、および常時オンのアクティビティ・トラッキングなどに最適。同製品では、すべての処理がセンサ内部で実行される。また、ユーザ・インタフェース制御や、光学式・電子式手ブレ補正機能(OIS/EIS)など幅広いニーズに対応するため、3つの独立したコアを内蔵している。 

LSM6DSV16Xには、高速のイベントやユーザ定義のジェスチャ検出用に、優れたステート・マシン(FSM)が搭載されている。また、STの革新的な機械学習コア(MLC)がアップデートされ、アクティビティ認識などの推論アルゴリズムの性能が向上している。すぐに使用可能なMLCおよびFSMアルゴリズムがGitHubに公開されているため、先進的な機能を実装した新製品を短期間で開発可能。MLCによって抽出した特徴量は、センサ外部で処理することも可能である。

また、ASCにより、測定範囲や動作周波数などをオンザフライで独立して設定することができ、ホストの介入も不要。ASCを低消費電流センサ・フュージョン(SFLP)技術と組み合わせることで、消費電力を最小限に抑えつつ、高速かつ強力なエッジ処理が実現する。SFLPは、ジェスチャ認識や継続的なトラッキング・アプリケーションにおける消費電流をわずか15µA程度まで削減可能である。

LSM6DSV16Xは、STの6軸MEMSモーション・センサとして初めて電荷変動(ST Qvar®)検出チャネルを搭載した製品である。Qvar検出チャネルは、スマートウォッチやフィットネス・バンドによる接触センシング、または非接触センシングによって、静電荷の変化をモニタリングする。これにより、タッチ、長押し、スワイプといった高度なユーザ・インタフェース制御を実現し、シームレスな操作が可能になる。

高精度の6軸MEMSモーション・センサであるLSM6DSV16Xは、低ノイズの3軸加速度センサと高精度の3軸ジャイロセンサを業界標準のサイズに集積し、新しいI3Cインタフェースを備えている。加速度センサ、ジャイロセンサともにリフローはんだ実装時に発生する熱機械ストレスに対する耐性が優れているため、機器メーカーが製造ラインで再較正を行う必要がなく、優れたセンシング性能を提供する。
 
LSM6DSV16Xは現在量産中で、14ピンのLGAパッケージ(2.5 x 3.0 x 0.83mm)で提供される。単価は、1000個購入時に約2.98ドル。STは、今後も第3世代MEMSセンサの製品ラインアップを継続的に拡充し、さまざまな性能・機能を備えた製品を追加していく予定としている。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001276.000001337.html

ST、超高速充電を実現するQi規格準拠 100Wワイヤレス充電レシーバIC

STマイクロエレクトロニクスは、業界最高クラスの100W出力を備えたワイヤレス充電レシーバIC「STWLC99」を発表した。同製品は、市場でも最速クラスのワイヤレス充電を実現し、ハイエンド・スマートフォンの大容量バッテリを30分未満で充電できるという。

高出力ワイヤレス充電は、ユーザの利便性向上だけでなく、電源ソケットと電源コードが不要な産業機器の開発も可能にし、設計者にさまざまなメリットを提供する。充電ソケットが不要になることで、省スペース化や過酷な環境における防水性・防塵性の実現にも貢献する。さらに、電源コードのねじれや絡みによるトラブルを防ぐこともできる。ロボットやドローンなどのモバイル・デバイスは、ケーブル接続や人間の介入無しで簡単に充電することができる。

STWLC99は現在量産中で、WLCSPパッケージ(4.859m x 4.859mm)で提供される。単価は約2.50ドル。

・技術情報
STWLC99は、低オン抵抗のMOSFETによる同期整流器と低ドロップアウト(LDO)レギュレータで構成される電力効率に優れたアーキテクチャを備えており、入力電力を最小限の損失と低放熱でバッテリに出力する。

また、Qi1.2.4および1.3規格に準拠しているため、Qi Extended Power Profile(EPP)に対応するとともに、急速充電に最適化されたSTのSTSuperCharge(STSC)プロトコルも採用されている。STのSTWBC2-HPトランスミッタ・ソリューションと組み合わせた場合、バッテリ充電電力は最大100Wに達する。

STWLC99は、設定パラメータ保存用の不揮発性メモリを内蔵し、設定データの交換および充電制御用のI2Cインタフェースを備えている。また、正確な電流検出による異物検出(FOD)、送信モードでのQファクタ検出、過電流 / 過電圧 / 過熱保護など、包括的な安全機能を搭載している。

STWLC99は、他のデバイスを充電するための最大25WのトランスミッタICとしても動作可能。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001275.000001337.html

千差万別・森羅万象 -センサは面白い-

栗山 敏秀(くりやま としひで)
(一社)センサイト協議会
理事
栗山 敏秀

 2022年は、筆者がセンサ研究をスタートさせる為ペンシルベニア大学のZemel先生の研究室に留学(留学中の1981年の11月にボストンでMaterial Research Societyの1セッションとして開催された第1回のInternational Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystemsにも出席しました)してから40年目となります。その間、色々な方と一緒に仕事をさせていただきました。センサは良く『センサ(千差)万別』と言われるように種類が多く、そのうちの一部を経験しただけですが、振り返ってみるとともに将来・未来を考えてみたいと思います。

 1977年には日本電気株式会社に入社し、中央研究所の電子デバイス研究部でSOS(Silicon on Sapphire)基板を用いた高耐圧MOSFETの研究を行ったのが、センサの研究を始めるきっかけになりました。これは絶縁体であるサファイア上にエピタキシャル成長されたSi薄膜を用いて製作され、ゲート部が通常のゲート電極とオフセットゲートあるいは延長ドレインと呼ばれる部分からなる構造を持っています。ドレイン電圧が高くなるとスーパージャンクションであるオフセットゲート部全体が完全に空乏層化し電圧上昇を吸収し、デバイスの高耐圧化が可能となるものです。

 ゲート絶縁膜の汚染対策に苦労しながら漸くキチンと動く高耐圧MOSFETや高電圧Opアンプを完成した頃、上記の留学の際にもお世話になった東京大学工学部電子工学科の菅野卓雄先生から、研究室の学生がISFET(Ion Sensitive FET)の製作で苦労しているので手伝ってくれないかという話があり、丁度、上記の高耐圧MOSFETのオフセットゲート部がISFETのセンサ部と似ており、また、サファイアの高い絶縁性が素子分離とともに液体中で使われるISFETの耐水性にも有効だという事でSOS/ISFETを製作しました。
 これに関連して、その後の留学のテーマは、液体中のイオン濃度をゲート部の容量変化を用いて検出するマルチイオンセンサでした。

 これらの経験から留学後は、SOS/ISFETを用いたマルチイオンセンサの研究を始めましたが、同じ中央研究所に生物(バイオ)のグループがあり、互いの技術を持ち寄ることでバイオセンサの仕事につながりました。これは酵素ISFET(酵素膜を表面に塗布)と参照用ISFET(アルブミン膜だけ)からなる幅1mm程度のワンチップ型センサで1滴の微量サンプルでも測定できるものです。専門が異なる研究者同士の仕事は、苦労もありましたが、専門以外の分野も勉強する機会があり、面白く行いました。

 このワンチップバイオセンサの新聞発表を行うと防衛医科大学校の菊地眞先生から、皮膚を介して得られる極微量の間質液(吸引浸出液)によるグルコース(血糖値)の測定に使えないかという提案があり、うさぎで実験した所うまくいったので、ヒトに適用し血糖値モニタリングを行いました。病院の医師や医用工学の研究者との共同研究もいい経験でした。

 その後、急に自動車のエアバッグ用加速度センサの開発の仕事が入り、上記の仕事は共同研究者にまかせ、加速度センサの仕事に専念しました。当時、米国ではエアバッグ搭載の自動車の保険が安くなるなど安全意識が高まり、アメリカで生産するホンダ製日本車のすべてにエアバッグを搭載しようという動きがあったためです。
 高耐圧MOSFETやSOS/ISFETの研究時や留学中にシリコンの異方性エッチングの技術を使っていたので、加速度センサへの応用はスムーズでしたが、シリコン材料の機械的な応用だったので応力やダンピングなどメカニカルな特性の勉強になりました。

 また、これらのワンチップバイオセンサや加速度センサを実際に使う際に、新しい課題が発生しました。

 センサ周りの各種機能の制御のためマイコンを使いましたが、ワンチップバイオセンサの検出回路とマイコンを同じ基板に搭載するとマイコンのノイズでセンサ信号が妨害され測定できなるという課題や、加速度センサを自動車に搭載するための電磁耐性試験で出力が異常になるという課題です。これらは、前者はアナログ回路基板とディジタル回路基板のアースを分離すること、後者は加速度センサのパッケージに高周波信号をカットするフェライトビーズを装着することで解決できましたが、このような課題に本格的に取り組む必要を痛感しました。センサは実装技術が重要!

 当時、マイコンのノイズ(マイコンとしては正常な動作が電磁ノイズの原因になっていました)が全社的な問題になっていたこともあり、EMC(ElectroMagnetic Compatibility)技術センターに異動し、電磁ノイズに取り組むことになりました。マイコンの高周波電源電流測定法の開発とその国際標準化や、高周波電流測定用磁界プローブの小型化・高周波化に取り組み、LSIチップ内の電源電流分布の測定法を開発しました。
 磁界プローブは積層セラミック技術、磁気ヘッド技術などを使用して製作され、それぞれの専門の技術者と共同で仕事を行いました。また、サファイアの絶縁性を用いたSOS基板製磁界プローブも、途中までの参加ですが、東北大学と共同で開発しました。磁界プローブもセンサの一種で、電磁界シミュレータと併用して各種プリント基板の電気設計(信号設計、電源設計、ノイズ設計)に応用し、その成果がプリント基板設計用CAD(DEMITASNX®)の開発へつながりました。

 その後、2006年に近畿大学の生物理工学部でセンサの教員公募があり採用されました。生物理工学部は和歌山県の紀の川市に位置し、私の出身地である和歌山市とはすぐ近くで、単身赴任ですが故郷に帰ったことになりました。
 近畿大学在任中は、地元の企業とセンサに関する委託研究を行ったり、前半がメカトロニクス系、後半が情報系の学科に属していたので、同じ近畿大学の水産研究所とロードセルとマイコン、電磁弁を用いた稚魚へのワクチン接種装置や、カメラで撮影した鯛稚魚のシルエット画像を用いたAI(Artificial Intelligence)による稚魚の選別法を開発するなど、地元と密着した仕事を行うことができました。

 以上のように、大学・大学院での専門領域である固体物理・光エレクトロニクスに加え、センサの仕事に携わったことにより電気化学、生物(バイオ)、電磁気(ノイズ)を学生時代に比べ深く勉強できたことはセンサの研究開発に携われたためであると思っています。

 センサはすべての物理・化学・生物量を対象として計測するもので、『森羅万象』に関わり、センサ材料、デバイス、プロセス、実装、回路、システム、解析方法、制御方法が対象になる広い分野であることを実感しています。

 今年(2022年)のノーベル物理学賞の受賞対象は「量子もつれ」ですが、この現象を利用した高感度な各種センサの研究開発が活発に行われているように、センサは常に新しい現象の利用の先駆けになり、今後もそれは続くと思われます。

 ここで、思い出したのですが、子供の頃、近所の百貨店で市内の高校の成果展示会があり、その中で板に指を近づけるとランプがON-OFFするデモが行われていました。子供心にスイッチに触らずにON-OFFできるのが不思議でたまらず、ずっと疑問を持っていました(その後、容量型近接センサの原理を利用していることを知りました)。

 従いまして、子供時代を含めると60年以上センサに関係してきた訳で、これはもう、『センサは面白い』と言う他はないと感じています。



栗山 敏秀(くりやま としひで)

【著者紹介】
栗山 敏秀(くりやま としひで)
一般社団法人センサイト協議会 理事
マロン技研 代表

■略歴
1971年東京大学工学部物理工学科卒業、1973年東京大学大学院工学部物理工学専攻修士課程修了、1977年東京大学大学院工学部電子工学専攻博士課程修了、1977年~2006年日本電気株式会社、2006年~20015年近畿大学生物理工学部、2016年~2022年早稲田大学招聘研究員、2015年~現在、マロン技研。

ウェット界面を利用した安静時汗成分センシングデバイスの研究開発(1)

長峯 邦明(ながみね くにあき)
山形大学 大学院有機材料システム研究科
准教授
長峯 邦明

1.はじめに

 Society5.0社会における医療・ヘルスケア分野では、個人の主体的な未病ケア・予防医療への関与を促す、即ち新たな生活様式に向けて行動変容を促すようなセンシング技術の革新が期待されている。その実現に向け、近年では、患者だけでなく健常者まで対象を広げ、自分の健康状態を自分で測るというセルフヘルスケアの潮流が見られる。最近では低価格のスマートウォッチが普及しているが、個人の生体内「化学」情報を簡易に常時取得可能にするウェアラブル、あるいはポータブル型の化学センサが実現されれば、得られる生体情報が詳細になり、かつセルフヘルスケアを体験してみたいという意識が芽生え、個人の健康への意識も変わっていくかもしれない。また、センサから得られる個人、更には人々の生体情報ビッグデータをAI解析すれば,例えば病気の予兆を検知し、重症化前の予防活動や治療方針をユーザーに提供することが将来可能になるかもしれない。
 バイオセンサとは、酵素、抗体、核酸などの生体由来の分子認識素子(以下、受容体と記載)と、その分子認識反応を認知可能な信号に変換する変換器から構成される化学センサである。生体由来材料の高い反応選択性により、体液など夾雑物が多数共存する溶液中での目的物質の高選択的な定量を可能にする。血糖値センサは実用化された医療・ヘルスケア用バイオセンサの代表例であり、血中グルコースと選択的に反応する酸化酵素を分子認識素子としたバイオセンサである。定量性と小型化の点で有利とされる電気化学式血糖値センサは、血液と触れる使い捨て酵素電極チップと、繰り返し使用する小型測定器で構成される。極微量の血液を酵素電極チップに接触させるだけで迅速に血糖値を表示してくれる簡易なポータブルセンサではあるが、前述のように健常者を含めた個人の日常健康管理用途としては、採血を伴う測定法は受け入れ難い。そのため近年では、採血を伴わない、即ち身体的負担が少ない自己健康管理技術に注目が集まっている。非侵襲的に採取可能、かつ血中バイオマーカー(ある病気の指標となり得る生体内物質)の存在が示唆されている生体液(涙、唾液、尿、汗)や生体ガス(呼気、皮膚ガス)を用いる自己健康管理センサの研究開発が活発である 1)。本稿では、筆者らが特に注力している汗成分センサを中心に世界の研究開発事例を紹介しながら、筆者らの研究成果もご紹介する。

2.汗成分センシング

2.1 汗について

 汗は、細胞で構成された汗腺と呼ばれる分泌腺から分泌される。汗成分は血清(血液中の固形成分を除いた上澄み)成分と似ており、Na+イオン、K+イオン、Clイオン、NH4+イオン等の電解質、グルコース、乳酸、尿酸などの代謝物、コルチゾールなどのホルモン、そしてタンパク質や微量重金属イオンから主に構成される 2)。汗の99 %は水であり、残り1 %に前述の汗成分が含まれる。そのため、血液と比較して夾雑物の影響が比較的少ないと考えられる。汗成分の由来は、汗腺を構成する細胞やその間隙を介して汗腺内に輸送される間質液成分(血管外に滲出した血液成分)、汗腺細胞が分泌した成分、そして皮膚表面の常在菌由来の分泌物である。複雑な成分構成ではあるが、間質液由来成分が若干含まれることから血中バイオマーカーの存在が示唆されている。汗成分と病気の関連性に関する研究例は、以下の代表例を含め多数報告されている(グルコースと糖尿病 3)、コルチゾールとメンタルストレス 4)、乳酸と心不全・低酸素症 5,6)、Na+イオンと熱中症 7)、尿素・クレアチニンと腎機能障害 8)、Clイオンと嚢胞性線維症 9))。また近年では摂取栄養管理の目的から食事内容と汗成分の関連性も研究されており、塩分摂取と汗中Na+イオン 10)、ビタミンC摂取と汗中アスコルビン酸 11)、各種アミノ酸摂取とそれらの汗中濃度 12)などの関連性に関する報告例がある。その他、飲酒と汗中アルコールの関係性 13)や摂取薬物と汗中薬物濃度の関係 14)など様々な生体情報を汗成分が反映する可能性が示唆されている。しかし、汗成分の由来や病気との関連性の医学的根拠はまだ不十分とみられ、今後も引き続き詳細な分析研究や疫学研究が必要と考えられる 15)

2.2 汗成分センシングデバイス

 体表の汗を常時採取・検出する目的から、体表に装着可能な様々な形態(眼鏡、靴下、下着、リストバンド、タトゥー等)のウェアラブルバイオセンサが開発されている 16-20)。多くのウェアラブルデバイスは微小流路構造を有しており、発汗の圧力(約70 kN m-221)を利用して流路内に汗を誘導し(押し込み)、流路内に作りこんだ微小センサで検出する。一方で、センシングに必要な十分量の汗を日常的に採取することは容易ではなく、例えば運動時や温室内など積極的に発汗が誘導される条件下での使用に制限されたものが多い。このことが本センサの日常ヘルスケア応用を困難にしている要因の1つと考えられる。1つの解決策として、副交感神経系を刺激することで発汗を強制誘導する薬剤をイオントフォレシス法(経皮通電により化学物質の経皮透過を促進する技術)で投与しながら汗成分を連続的に採取・計測する新たなウェアラブルデバイスが開発されている 22)。本デバイスでは、皮膚に貼付した一対の電極間に微弱な直流電流を印加して正極から負極へ向かう皮下体液の流れを誘導し、その流れに乗せて効率よく経皮的に発汗誘導薬剤を投与する。その後得られる汗成分を、体表に設置したセンサで検出する。汗成分計測が任意のタイミングで実施できるというメリットの反面、定期的な薬剤投与がユーザーに受け入れられるかが課題である。



次回に続く-



参考文献

  1. J. F. Hernández-Rodríguez, D. Rojas, A. Escarpa: Electrochemical sensing directions for next-generation healthcare: Trends, challenges, and frontiers, Anal. Chem., 93, pp.167-183 (2021)
  2. L. B. Baker, Physiology of sweat gland function: the roles of sweating and sweat composition in human health, Temperature, 6, pp.211-259 (2019).
  3. C. W. Bae, P. T. Toi, B. Y. Kim, W. I. Lee, H. B. Lee, A. Hanif, E. H. Lee, N. E. Lee, Fully Stretchable Capillary Microfluidics-Integrated Nanoporous Gold Electrochemical Sensor for Wearable Continuous Glucose Monitoring, ACS Appl. Mater. Interfaces 11, pp.14567 (2019).
  4. H. B. Lee, M. Meeseepong, T. Q. Trung, B. Y. Kim, N. E. Lee, A wearable lab-on-a-patch platform with stretchable nanostructured biosensor for non-invasive immunodetection of biomarker in sweat, Biosens. Bioelectron. 156, pp.112133 (2020).
  5. K. M. Stoffers, A. A. Cronkright, G. S. Huggins, J. D. Baleja, Noninvasive epidermal metabolite profiling, Anal. Chem. 92, pp.12467 (2020).
  6. E. V. Daboss, D. V. Tikhonov, E. V. Scherbacheva, A. A. Karyakin, Ultrastable lactate biosensor linearly responding in whole sweat for noninvasive monitoring of hypoxia, Anal. Chem., 94, pp.9201-9207 (2022).
  7. A.Cazalé, W. Sant, F. Ginot, J. -C. Launay, G. Savourey, F. Revol-Cavalier, J. M. Lagarde, D. Heinry, J. Launay, P. Temple-Boyer, Sens. Actuators B: Chemical, 225, pp.1-9 (2016).
  8. Y. Zhang, H. Guo, S. B. Kim, Y. Wu, D. Stojich, S. H. Park, X. Wang, Z. Weng, R. Li, A. J. Bandodkar, Y. Sekine, J. Choi, S. Xu, S. Quaggin, R. Ghaffari, J. A. Rogers, Passive sweat collection and colorimetric analysis of biomarkers relevant to kidney disorders using a soft microfluidic system, Lab Chip 19, pp.1545-1555 (2019).
  9. S. Emaminejad, W. Gao, E. Wu, Z. A. Davies, H. Y. Y. Nyein, S. Challa, S. P. Ryan, H. Fahad, K. Chen, Z. Shahpar, S. Talebi, C. Milla, A. Javey, R. W. Davis, Autonomous sweat extraction and analysis applied to cystic fibrosis and glucose monitoring using a fully integrated wearable platform, Proc. Natl. Acad. Soc. U. S. A., 114, pp. 4625-4630 (2017).
  10. M.Nishimuta, N. Kodama, Y. Yoshitake, M. Shimada, N. Serizawa, Dietary salt (sodium chloride) requirement and adverse effects of salt restriction in humans, J. Nutr. Sci. Vitaminol., 64, pp.83-89 (2018).
  11. Z.Zhao, H. Y. Y. Nyein, L. Hou, Y. Lin, M. Bariya, C. H. Ahn, W. Ji, Z. Fan, A. Javey, A wearable nutrition tracker, Adv.Mater., 33(1), pp.2006444 (2020).
  12. M.Wang, Y. Yang, J. Min, Y. Song, J. Tu, D. Mukasa, C. Ye, C. Xu, N. Heflin, J. S. McCune, T. K. Hsiai, Z. Li, W. Gao, A wearable electrochemical biosensor for the monitoring of metabolites and nutrients, Nat. Biomed. Eng., 2022. DOI:10.1038/s41551-022-00916-z.
  13. S.Lin, J. Zhu, W. Yu, B. Wang, K. A. Sabet, Y. Zhao, X. Cheng, H. Hojaiji, H. Lin, J. Tan, C. Milla, R. W. Davis, S. Emaminejad, A touch-based multimodal and cryptographic bio-human-macine interface, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 119(15), pp.e2201937119 (2022).
  14. X.Zhang, Y. Tang, H. Wu, Y. Wang, L. Niu, F. Li, Integrated aptasensor array for sweat drug analysis, Anal. Chem., 94(22), pp.7936-7943 (2022).
  15. A. Serag, Z. Shakkour, A. M. Halboup, F. Kobeissy, M. A. Farag, J. Proteomics, 246, pp.104310 (2021).
  16. R. Ghaffari, J. A. Rogers, T. R. Ray, Recent progress, challenges, and opportunities for wearable biochemical sensors for sweat analysis, Sens. Actuators B: Chemical, 332, pp.129447 (2021).
  17. K. Nagamine, S. Tokito, Organic-transistor-based biosensors interfaced with human skin for non-invasive perspiration analysis, Sens. Actuators B: Chemical, 349, pp.130778 (2021).
  18. L. Manjakkal, L. Yin, A. Nathan, J. Wang, R. Dahiya, Energy autonomous sweat-based wearable systems, Adv. Mater., 33, pp.2100899 (2021).
  19. P. Yang, G. Wei, A. Liu, F. Huo, Z. Zhang, A review of sampling, energy supply and intelligent monitoring for long-term sweat sensors, npj Flex. Electron., 6, pp.33 (2022).
  20. H. Shen, L. Xue, Y. Ma, H. Huang, L. Chen, Recent advances toward wearable sweat monitoring systems, Adv. Mater. Technol., pp.2200513 (2022). DOI: 10.1002/admt.202200513
  21. Z. Sonner, E. Wilder, J. Heikenfeld, G. Kasting, F. Beyette, D. Swaile, F. Shermen, J. Joyce, H. Hagen, N. Kelley-Loughnane, R. Naik, The microfluidics of the eccrine sweat gland, including biomarker partitioning, transport, and biosensing implications, Biomicrofluidics, 9, pp.031301 (2015).
  22. G. Bolat, E. De la Paz, N. F. Azeredo, M. Kartolo, J. Kim, A. N. de Loyola e Silva, R. Rueda, C. Brown, L. Angnes, J. Wang, J. R. Sempionatto: Wearable soft electrochemical microfluidic device integrated with iontophoresis for sweat biosensing, Anal. Bioanal. Chem. (2022) DOI: 10.1007/s00216-021-03865-9


【著者紹介】
長峯 邦明(ながみね くにあき)
山形大学 大学院 有機材料システム研究科 准教授

■略歴
2007年 東北大学大学院環境科学研究科博士後期課程修了(博士(学術))。同年より日立製作所中央研究所 研究員、東北大学大学院薬学研究科・理学研究科 COEフェロー、東北大学大学院工学研究科 助教を経て2017年1月より山形大学大学院有機材料システム研究科 准教授。同年から2021年まで文部科学省 卓越研究員を兼務。ヒトや植物、微生物などの生体情報のバイオセンシングの研究に従事。

機能性有機材料を用いたウェアラブル物理センサのヘルスケア応用(1)

関根 智仁(せきね ともひと)
山形大学
大学院有機材料システム研究科
関根 智仁

1.はじめに

 近年、有機エレクトロニクスを主軸としたフレキシブルセンサのIoT(Internet of Things)応用が活発に研究されている。これら有機センサデバイスには、垂直圧力や外界温度変化などの物理パラメータを検出する物理センサと、イオンや分子などの化学量をとらえ、電気信号として検出する化学センサに大別される。これらのうち、物理センサに着目すると、多種多様な材料やデバイスが報告されており、これまで目覚ましい発展を遂げてきた。近年では、ヒトの脈拍を検出できる圧力センサに注目が集まっており、ヘルスケアや医療など、応用範囲は多岐に渡っている[1, 2]。
 また、印刷法で有機エレクトロニクスを作製するプリンテッドエレクトロニクスは、デバイスの大面積化や低コスト化が可能なため次世代プロセス技術として学術/産業両面からの期待が大きい[3]。印刷法の一例として、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法がある(図1)。スクリーン法は、スクリーン枠にメッシュ(またはメタル)版膜を張り付けた孔版にスキージでインクを通し、転写することで成膜する有版印刷法である。また、インクジェット印刷法はインクをタンクに充填し、基板に直接インクを吐出することで成膜する無版印刷法である。いずれの方式においてもそれぞれ特徴があり、作製するデバイスによって使い分ける必要がある(表1)。

表1 各種印刷方式の特徴。膜厚と粘度の値は代表値である。
表1 各種印刷方式の特徴。膜厚と粘度の値は代表値である。
図1 各種印刷方式の概略図。
図1 各種印刷方式の概略図。

 ここで、印刷可能な物理センサの材料に着目した場合、ナノカーボン材料やポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFとトリフルオロエチレンとの共重合体P(VDF-TrFE)などがあげられる。このうち、ナノカーボンは、カーボンナノチューブ(CNT)やグラファイトなどの導電性を有する材料であり、デバイス内に電流を流したときの抵抗変化値を測定することでセンシングできる。これらは主に架橋性ゴム材料などに添加し、成膜することでデバイスとして作製される。センサ作製上の重要なパラメータには、導電性に加えて、デバイス筐体自体のヤング率や機械的耐久性などがある。図2(a)に、これら材料の概略を示した。
 また、PVDFやP(VDF-TrFE)は強誘電性を示す高分子材料である。とくにP(VDF-TrFE)は任意の極性溶媒に溶解(インク化)可能であり、高粘性のため主にスクリーン印刷法に優れた親和性を示す。図2bには、ナノカーボンとP(VDF-TrFE)をそれぞれ溶媒に溶解し、インク化したものを示した。図2cはナノカーボン材料を用いた溶液を成膜した時の、材料濃度に対する導電性(抵抗値)変化を表したものである。カーボン濃度が増加すると、急激に導電性が向上する点が現れるが、これを一般的にパーコレーション濃度と呼ぶ[4]。これは、導電体であるナノカーボンが特定の濃度以上で凝集し,系内でクラスター形成することで明瞭な導電性が発現するものである。
 ここで、PVDFやP(VDF-TrFE)が有する強誘電性について解説する。本特性は、外部電場Eが0でも自発分極Psが分子内に存在するものを指す。また、Eの符号を反転させることでPsの符号も同じく反転する。また、外部電場Eを0にしても分極したままの状態を保つことも特徴である。この場合の分極pEに対してプロットしたものをp-E履歴曲線(またはヒステリシス曲線)と呼ぶ。図2dに一般的なヒステリシス曲線を示した。特に、PVDFやP(VDF-TrFE)は、ポーリングと呼ばれる「薄膜形成後に外部電場Eを印加しヒステリシス曲線を取得する」処理を施すことで、微小な外部応力(たとえば垂直圧力や曲げ応力など)に対しても高感度にセンシングできる(電圧を発生する)ため、センサデバイスとして用いることができる[5]。
 上記のセンサ以外の応用開発も盛んに行われており、一例として赤外線センサや超音波トランスデューサー、メモリデバイスなど多岐に渡っている。本稿では、特にP(VDF-TrFE)を用いた圧力センサに着目し、筆者らがこれまで取り組んできたデバイスの基礎特性と、ヘルスケアへの応用展開について論じる。

図2 印刷可能な物理センサの材料例。 (a) ナノカーボンおよび強誘電性高分子材料。(b) グラファイトおよびP(VDF-TrFE)を用いたインク写真。(c) パーコレーション濃度と導電性(抵抗値)の関係。ここでは、一例としてカーボンブラックをポリジメチルシロキサンに溶解し、成膜した時の導電性を示した。(d) 強誘電体のヒステリシス曲線。

図2 印刷可能な物理センサの材料例。 (a) ナノカーボンおよび強誘電性高分子材料。(b) グラファイトおよびP(VDF-TrFE)を用いたインク写真。(c) パーコレーション濃度と導電性(抵抗値)の関係。ここでは、一例としてカーボンブラックをポリジメチルシロキサンに溶解し、成膜した時の導電性を示した。(d) 強誘電体のヒステリシス曲線。

2. P(VDF-TrFE)を用いたフレキシブルな印刷型圧力センサ

 P(VDF-TrFE)を用いて印刷法で圧力センサを作製し、その強誘電特性と印加圧力に対する応答感度を評価した。本センサはP(VDF-TrFE)層を上・下部電極でサンドイッチしたコンデンサ構造である(図3a)。電極およびP(VDF-TrFE)の各層はすべてスクリーン印刷で形成している。電極には導電性高分子のPEDOT:PSSを用いた。また、封止層にはポリビニルフェノールを成膜した。このときの各層の膜厚は、上・下部電極が500 nm、P(VDF-TrFE)が2μm、封止層が500 nmである。なお、筆者らのこれまでの研究から、極性溶媒のダイポールモーメントを最適化することで、印加応力に対する強誘電性(残留分極)および応答感度を向上できることが明らかになっている(図3b)。具体的には、4.0 D以上のダイポールモーメントの溶媒を用いることで、強誘電性やP(VDF-TrFE)の結晶性が向上する[5]。
 また、センサ中の強誘電体層の表面モルフォロジーを原子間力顕微鏡(AFM)で測定した。極性溶媒を変更したときの表面トポグラフィー像における、それぞれの二乗平均平方根粗さ(RMS)値も取得している。微視的なモルフォロジーは各条件で大きな変化はなかったものの、強誘電性に変化が生じたことは、P(VDF-TrFE)の結晶性が影響していることが考えられる。さらに、これら薄膜の結晶性をX線回折法で評価した。当該高分子の[110/200]面に由来するピーク高さが溶媒変更によって変化することが分かった。即ち、使用溶媒変更によるセンサの残留分極値向上は、高分子の結晶性の向上によるものである。これらの詳細な結果については参考文献[6]を参照頂きたい。
 続いて、作製したセンサの垂直応力に対する応答特性を評価した。本研究では、圧縮試験機を用いてセンサに微小圧力を印加した(図3c)。図3dには一定圧力(60 kPa)を印加したときの発生電圧を示した。本センサにおける発生電圧は、圧力を印加した微小時間のみに発生する一方で、その圧力を保持しているときは電圧が消失する。これは外部応力に対して強誘電性高分子から発生する電圧は、応力の1階時間微分値に比例するという特徴に由来している。この電圧を微分型信号と呼ぶ。また、圧力に対する応答特性も非常に高感度であり、10 kPaという微小圧力に対しても1 mV程度の電圧を発生する(図3e)。これらの発生電圧から見積もったd定数(d33, 圧電定数という材料の圧電特性を表す指標)は約20.4 pC N-1であった。これは、溶液法で作製したP(VDF-TrFE)によるセンサデバイスのなかでも高い値である[7]。

図3  P(VDF-TrFE)を用いたフレキシブルな印刷型圧力センサ。 (a) センサデバイスの断面図と外観。写真のスケールバーは10 mm。(b) 溶媒変更時のセンサデバイスの残留分極値と溶媒の分子構造。CPN: シクロペンタノン、IPN: イソホロン、DMF: N, N-ジメチルホルムアミド。 (c) 圧縮試験の外観図。 (d) 印加圧力に対して発生した微分型信号。 (e) 印加圧力に対する発生電圧の関係。なお、図3(d), (e) はT. Sekine et al., Sci. Rep., 8, 4442 (2018). より一部抜粋(Open access journal)しました(クリエイティブコモンズライセンス http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。

図3  P(VDF-TrFE)を用いたフレキシブルな印刷型圧力センサ。 (a) センサデバイスの断面図と外観。写真のスケールバーは10 mm。(b) 溶媒変更時のセンサデバイスの残留分極値と溶媒の分子構造。CPN: シクロペンタノン、IPN: イソホロン、DMF: N, N-ジメチルホルムアミド。 (c) 圧縮試験の外観図。 (d) 印加圧力に対して発生した微分型信号。 (e) 印加圧力に対する発生電圧の関係。なお、図3(d), (e) はT. Sekine et al., Sci. Rep., 8, 4442 (2018). より一部抜粋(Open access journal)しました(クリエイティブコモンズライセンス http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。



次回に続く-



参考文献

  1. S. K. Garlapati et al., Adv. Mater., 30, 1707600 (2018).
  2. Y. Shao et al., Nat. Commun., 13, 3223 (2022).
  3. Y. Khan et al., Adv. Mater., 32, 1905279 (2020).
  4. Y.-F. Wang et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 12, 35282 (2020).
  5. T. Sekine et al., Sci. Rep., 8, 4442 (2018).
  6. Y. Watanabe et al., Adv. Funct. Mater., 32, 2107434 (2022).
  7. B. Stadlober et al., Chem. Soc. Rev., 48, 1787 (2019).


【著者紹介】
関根 智仁(せきね ともひと)
山形大学 大学院有機材料システム研究科 助教
物質・材料研究機構 客員研究員(兼務)

■略歴
2010年 山形大学 工学部 物質化学工学科 卒業
2010年 山形大学 工学部 技術部 機器分析技術室 技術員
2016年 山形大学 大学院理工学研究科 有機材料工学専攻 博士後期課程 修了(社会人枠)、博士(工学)
2017年~現在 山形大学 大学院有機材料システム研究科 助教
2019年~現在 物質・材料研究機構 客員研究員(兼務)
有機材料システム工学や薄膜デバイス工学に従事

■受賞歴
2022年 第21回 インテリジェント・コスモス奨励賞
2020年 第9回 新化学技術研究奨励賞
2019年 第28回 マイクロエレクトロニクスシンポジウム研究奨励賞
2018年 第44回 応用物理学会 講演奨励賞
2017年 第33回 強誘電体応用会議 優秀発表賞

発汗計測技術とウェアラブル発汗センサ(1)

百瀬 英哉(ももせ ひでや)
(株)スキノス
代表取締役
百瀬 英哉

1. はじめに

 発汗は身近であるが,意外にも高度な神経活動によってコントロールされるヒトに特徴的な生理現象であることが知られており,ヒトの心と体の状態を知る上で貴重な情報が含まれると言われている1)
 近年ウェアラブルセンサの技術発展に伴い生体情報の活用が進められ,ビッグデータを用いた情報の解析が行われているが,発汗においても日常的な動態観測が可能なウェアラブルセンサを実現することにより,その情報の応用が進むと考えられる.
 本稿では,発汗の計測技術,及び発汗を定量的かつ経時的に数値化できる換気カプセル法に触れた上で,換気カプセル法の原理を用いたウェアラブル発汗センサについて紹介する.

2. 発汗の基礎と計測の目的

 一般に,発汗は精神性発汗と温熱性発汗に大別される.
 精神性発汗は,精神的刺激に対し手のひら,足の裏に限って瞬時に出現する発汗で,情動と関係の深い扁桃体,海馬,大脳辺縁系が関与している2)と言われている.神性発汗の発汗量を連続的に測定することで日常生活の不安や緊張,動揺など瞬時的な心の変化を客観的に把握できるものと考えられる3)
 一方, 温熱性発汗は,暑さを感じる時に,手のひら,足の裏を除く全身から出現する発汗である.精神性発汗に比べ,多量で,潜時(発汗刺激に対して汗が出始めるまでの時間)が長いという特徴がある.温熱性発汗は,自動車でいうラジエーターの機能を担っており,体温調節の要となるものである.人の身体や脳は体温を一定に保つことで高度な機能を維持しており,発汗は身体パフォーマンスを最大限に活かすために不可欠な機能と言える.特に気候変動,気温上昇に伴い熱中症が社会問題化する中,プロ・アマチュアスポーツや暑熱環境での労働分野でも,発汗機能の重要性が認識されている4)
 このように発汗の様相を詳しく調べるとヒトの心と体の状態を示す重要な情報が含まれている.しかしながら,発汗の全容を把握するのは意外にも高度な技術が必要となる.すなわち,汗は皮膚表面に出現したのち短時間で皮膚に拡散したり,蒸散することで機能するもので,液体から気体への状態変化も周辺環境に影響を受けて時間とともに生じる.また,汗の出現は身体各部位の部位差が大きく,その個人差も大きい.そのため,目的を達するためには複数の測定方法を組み合わせることも多い.

3. “発汗”をはかる技術

3.1 発汗計測の分類

 発汗計測法は大きく定性法と定量法に大別される.
 定性法としては,ヨードデンプン反応を用いて発汗部位を着色するミノール法が一般的で,発汗の有無や発汗している部位,発汗していない部位の判別に用いられる5).また,精神性発汗を定性的に評価する方法として,皮膚電気活動記録法がある.いわゆる“嘘発見器”として用いられるものであり,その発生機序については十分明らかにされていないが,発汗の出現による皮膚近辺の電気的特性の変化を捉えているものと考えられている6)7).電気現象を測定するものであるため,応答が早い.
 一方,定量法は発汗量(水分量)を定量的に測定するものであり,対象とする皮膚の範囲に応じていくつかの方法がある.
 全身から発生する発汗量は体重減量分の測定によって評価するのが一般的である.特に暑熱環境や運動時は発汗による体水分喪失量は大きく,体重変化の最も大きな要因となるため,体重減量分を全身からの発汗量とすることができる5).ただし,飲水量や尿量などの考慮が必要であることと,発汗量が少ない場合や測定の精度を向上するためには分解能の高い体重計が必要となる.
 また,全身より狭い領域では,汗をろ紙に吸湿させて収集するろ紙法や,四肢の測定部位をビニール袋で覆い汗を収集するアームバック法などが用いられる5).これらは,汗が蒸散しないよう液体の状態で収集する方法であり,収集した汗は精密天秤で秤量する.局所的な皮膚,または,四肢のように少し広い領域の皮膚から発生する発汗量を定量化するもので,対象とする身体部位の特定ができ,発汗量の身体部位差も評価可能な測定法である.
 しかしながら,ろ紙法・アームバック法などの方法は,連続的な測定を行うには難がある.また,収集した汗が大気中に蒸散しないよう秤量する必要があり,微量な発汗から多量の発汗までを高精度に測定するには秤量方法に細心の注意を払う必要がある.

3.2 換気カプセル法

 連続的,かつ高精度な発汗量の測定が可能な技術として,換気カプセル法がある8)
 換気カプセル法の基本的な原理は次の通りである.

  • カプセルで密閉した皮膚表面にキャリアガスを供給して皮膚を換気し,キャリアガスの湿度上昇から発汗の評価を行う.
  • 汗は,皮膚表面に出現すると瞬時に蒸散し,その水分はキャリアガスにより湿度センサに輸送され湿度センサ出力上昇として検出される.
  • 湿度センサの出力から絶対湿度(1kgのDry Airに対する水蒸気の重量割合)を得て,皮膚からの蒸散水分量に変換される.
  • キャリアガスが水分を含む場合は2つの湿度センサを用い,皮膚通過前のキャリアガスが含む水蒸気量を測定し,皮膚通過後のキャリアガスの水蒸気量との差分を用いる.

 換気カプセル法の測定値を局所発汗量といい,単位面積の皮膚における単位時間あたりの発汗量を示す.単位はmg/(cm2・min))である.発汗量と言えばその水分量がイメージされ,単位はグラムまたはミリグラムとなるが,これでは経時的な変化を表現できないため,発汗の状態を表現する概念として局所発汗量が用いられる.すなわち,局所発汗量は発汗の速度に相当し,局所発汗量の時間積分が発汗量(グラムまたはミリグラム)である.これにより,測定部位毎の発汗量の定量化と時間変化を捉えることができる.
 図1は,換気カプセル法を用いた据置型2CHの局所発汗計である(換気カプセル型発汗計SKN-2000M,以下,「据置型発汗計」という).本機は,医療機器の承認を受け,自律神経機能検査の用途で保険適応を受けており,医療機関はもとより,医学,健康科学,心理学など幅広い領域の研究機関で利用されている.また,2020年には,JIS規格『換気カプセル形発汗計』(JIS B 7923:2020)が制定され,ものづくりの分野でも活用されている.

図1 換気カプセル法を用いた据置型2CH局所発汗計(品名:SKN-2000M)
図1 換気カプセル法を用いた据置型2CH局所発汗計(品名:SKN-2000M)


次回に続く-



参考文献

  1. 大橋俊夫:日本発汗学会20年のあゆみと将来展望,発汗学Vol 20(1),2-11 (2013)
  2. S.Honma et al : Neurosci. Lett., 305:1-4(2001)
  3. 松村美由起:発汗計検査,自律神経機能検査 第4版,文光堂, 224-229(2007)
  4. 長谷川博:スポーツ活動時の体温調節,スポーツ現場における暑さ対策,三報社,2-8(2021)
  5. 西村直記:温熱性発汗試験,自律神経機能検査第5版,文光堂,249-252(2015)
  6. 新見良純,鈴木二郎:皮膚電気活動,星和書店,55(1986)
  7. H.Momose et al : Eyes Closing and Drowsiness in Human Subjects Decrease Baseline Galvanic Skin Response and Active Palmar Sweating: Relationship Between Galvanic Skin and Palmar Perspiration Responses, Front. Physiol. 11(2020)
  8. T.Ohhashi et al : Human perspiration measurment,Physiol.Meas.19,449-461(1998)


【著者紹介】
百瀬 英哉(ももせ ひでや)
株式会社スキノス 代表取締役

■略歴
2006年長野工業高等専門学校専攻科生産環境システム工学科卒業.長野県内のものづくり企業にて医療機器や福祉機器の開発,製造,販売に従事.在職中に信州大学大学院医学系研究科保健学専攻修士課程修了.学生時代から関わってきた発汗の計測技術開発や発汗に関する研究を専門的に推進するため,2017年に独立.恩師らが設立したベンチャー企業の事業を引き継ぎ,信州大学初ベンチャー株式会社スキノス(長野県上田市)を再始動.現在に至る.

ボールウェーブ、超小型ガスクロマトグラフ“Sylph”がCESイノベーションアワードを受賞

ボールウェーブ(株)によると2023年1月にラスベガス(米)で開催されるCES2023において同社が開発した超小型ガスクロマトグラフ“Sylph”がイノベーションアワードを受賞する事が決定したとのこと。この製品はCES2023開催中に現地出品される。

CES 2023 Innovation Award Product サイト: https://www.ces.tech/Innovation-Awards/Honorees/2023/Honorees/P/Palm-sized-Gas-Chromatograph-Sylph.aspx

大林組とNEC、バックホウ自律運転システムの適用範囲と工種を拡大

(株)大林組と、日本電気(株)は、共同開発した「バックホウ自律運転システム」を改良し、各種センサやカメラをバックホウに設置することにより、屋内外を問わず多様な建設現場へ適用範囲を拡大した。

2社は、2019年のバックホウ自律運転システムの開発以降、建設現場での利用拡大に向けて共創活動を続けてきた。従来のシステムでは、トンネル工事現場などバックホウの作業場所が固定化された建設現場を対象とし、バックホウの動きや盛土の掘削・積み込みポイントを算出するための各種センサやカメラをトンネルの天井などに固定していた。

今回、センサやカメラの認識機能を高度化し、バックホウに設置することで、屋内外を問わず状況が変化する多様な現場環境においても、従来と同様の精度で自律運転が可能となった。さらに、地表面以下を掘らない掘削や土砂の清掃、盛土の積み替え等ができる制御機能の向上や、外部接続機能(連携インターフェース)の追加により、複数台の建設機械が連動して協調運転するよう制御する建機フリートマネジメントシステム(建設FMS)を通じて、他の自動化・自律化重機と連携させた作業ができるという。
本システムは、大林組が実施した福島県飯舘村における建設機械の自動・自律運転の現場実証(※1)にて適用した。

■システムの特長
1.現場環境と工種の適用範囲が拡大
従来はトンネルの天井など高所に固定されていた各種センサやカメラをバックホウに設置したことにより、移動をしても姿勢・位置や周辺環境から、掘削ポイントや積み込みポイントを正確に判断できるため、多様な現場環境への適用を可能にした。また、NECの適応予測制御技術(※2)を活用することで、地表面の土砂のみを対象とした掘削制御技術を開発。これにより、盛土工事や造成工事における土砂の積み込み作業の自律化を実現した。

​2.工事作業における省力化の拡大
従来はあらかじめ堆積された土砂の積み下ろしだけに対応していたが、任意の地点に運搬され積み下ろされた土砂の積み替え作業や、積み下ろし場所の清掃作業を自律化する制御技術を今回開発した。これにより、自律運転で行える作業内容が増えるため、現場労働者の作業の負荷軽減・省力化を実現した。

3.施工管理システムとの連携の実現
自律運転を外部からの指示によって実行し、他の自動化・自律化重機と連携するために、建設FMSなどの管理システムとの連携インターフェースを開発しました。バックホウの制御と並行して建設FMSからの指示を処理できるため、自律運転を妨げることなく他の重機との連携が可能である。

※1 福島県飯舘村における建設機械の自動・自律運転の現場実証
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220422_1.html
※2 適応予測制御技術
制御対象の動特性の変化に適応する「適応制御」と、制御対象の動きを予測することで応答遅延に対応する「予測制御」を融合したNEC独自の制御技術

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000213.000078149.html