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ST、GaN HEMTとゲート・ドライバを集積したSiPに最大200W / 500W。

STマイクロエレクトロニクスは、GaN(窒化ガリウム)パワー・トランジスタとハーフブリッジ・ゲート・ドライバを集積したシステム・イン・パッケージ(SiP)「MasterGaN」の新製品「MasterGaN1L」および「MasterGaN4L」を発表した。 これらの製品は、ワイド・バンドギャップ半導体技術を活用し、電源設計の簡略化や最新のエコデザイン基準への対応に貢献するという。

STのMasterGaNファミリは、650V耐圧のGaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)に、最適化されたゲート・ドライバやシステム保護機能、および起動時に電力を供給するブートストラップ・ダイオードを備えている。これらの機能を1パッケージに集積することで、GaNトランジスタの複雑なゲート駆動の設計要件に対処できる。小型のパワー・パッケージで提供されるため、信頼性の向上や部品数の削減、回路レイアウトの簡略化にも貢献する。

「MasterGaN1L」および「MasterGaN4L」は、ハーフブリッジ構成で接続された2個のGaN HEMTを内蔵している。この構成は、スイッチング電源やアダプタ、充電器の開発に最適で、アクティブ・クランプ・フライバック回路、アクティブ・クランプ・フォワード回路および、共振コンバータの回路トポロジを使える。それぞれ、MasterGaN1およびMasterGaN4とピン配置互換性がある。従来製品に比べて、新たにターンオン遅延が最適化されているため、より高周波かつ高効率で動作でき、負荷、特に共振回路トポロジを小さくできる。

入力は3.3V~15Vの信号電圧に対応し、ヒステリシスとプルダウンを備えているため、マイクロコントローラやDSP、ホール効果センサなどと簡単に接続し、直接制御することができる。また、専用のシャットダウン・ピンを備えており、システム全体の低消費電力化に貢献する。2個のGaN HEMTは、インターロック回路とのタイミングを正確に合わせているため、貫通電流を防ぐことができる。

MasterGaN1Lに搭載されたGaN HEMTは、RDS(on)が150mΩ、定格電流が10Aで、最大500Wのアプリケーションに使用可能である。無負荷時の消費電力がわずか20mWで、変換効率が高いため、スタンバイ電力と平均効率が厳しい産業向けの基準に対応できる。MasterGaN4Lに搭載されたGaN HEMTは、最大200Wのアプリケーションを対象としており、RDS(on)が225mΩ、定格電流が6.5Aである。

さらに、各製品の機能評価に使用できる評価ボード「EVLMG1LPBRDR1」(MasterGaN1L)および「EVLMG4LPWRBR1」(MasterGaN4L)も提供されている。これらの評価ボードには、GaNベースのハーフブリッジ電源モジュールが搭載されており、LLCアプリケーションで動作するようになっている。そのため、基板をゼロから設計する必要がなく、MasterGaN1LやMasterGaN4Lを使用した新たな電源システムの開発をすぐに開始できる。

両製品ともに現在量産中で、GQFNパッケージ(9 x 9 x 1mm)で提供される。単価は、MasterGaN1Lが約4.40ドル、MasterGaN4Lが約3.78ドル。

製品サイト(ST):https://www.st.com/ja/power-management/mastergan1l.html

ワープスペース、月・地球間の長距離光通信用の高感度センサ開発を受託

(株)ワープスペースは、(国研)宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)より、月と地球間の長距離光通信を実現に近づける光学素子の開発業務を受託した。

光通信では、まず接続を行う前段として双方の衛星を光学スキャンによって捕捉する必要がある。しかし、40万キロ隔たった月と地球間では光も大きく減衰するため、微弱な光子をも検知できる超高感度センサが必要となる。

このセンサ(InGaAs四分割アバランシェフォトダイオード)については既にプロトタイプの開発を終えており、顕著な性能を示した。更に現実的な要件を満たすため、今回の開発ではノイズのさらなる低減に焦点を当てている。このようなデバイスのノイズは、熱がある状態において素子に電圧を加えたときに、熱的原因、絶縁不良、結晶欠陥などによって光を当てなくても流れる電流の流れ(暗電流)によって引き起こされる。光子を感知した際に電気信号を流すことではじめて光を検知することとなるが、微弱な光子の場合ではノイズとの区別がつきづらく、検出を困難にしてしまう。

これに対処するため、開発チームは二つのアプローチからノイズの低減をはかる予定である。ひとつはシステム全体を-20°Cまで冷却することと、もうひとつはセンサーのサイズを縮小すること。これらの措置により、暗電流を効果的に抑制し、デバイスが微弱な光信号を検出する能力を高めることが期待される。

この感度の向上は、宇宙における信頼性の高い光通信の確立にとって重要である。特に、月探査プロジェクトにおいては40万Kmという途方もない距離の中で確実な通信を実現する必要があり、これにあたって今回開発するセンサは非常に重要な役割を果たすことが期待される。

本件開発は、2024年2月末に完了する予定とのこと。

ワープスペース公式サイト:https://warpspace.jp/

海洋ロボットの概要と課題(2)

山本 郁夫(やまもと いくお)
長崎大学副学長・教授
山本 郁夫

4.魚ロボットの概要

 生物の運動からヒントを得て開発された魚ロボットはAUVの一種に分類される。
 海中の生物の生活環境を乱さずに観測できる。本物そっくりに泳ぎ、カメラを搭載すれば海中生物の自然体な生息状況を観測できる。開発の歴史は以下の通りである。
 1995年にケーブルなしで本物そっくりに泳ぐ魚ロボットを開発した。魚ロボットは図10に示すように魚の鰭のように振動して推進力を生み出す弾性振動翼7)、弾性振動翼を振動させるモータ、魚ロボットの動きを制御する制御コンピュータ4)、魚ロボットの外界・内界の状態を感知するセンサシステム8)、位置を検知するソナー、外界を撮影するカメラ、電源であるバッテリー、バッテリーへ充電する電力を制御する充電システム、浮力材、浮力を調整するバラストタンク、バラストタンクの注排水を行うポンプ、無線によって情報を通信する無線情報通信システム等で構成される。また、尾鰭の振動翼の動きは実際の魚のストローハル数に合わせている。結果、本物そっくりの泳ぎを実現する鯛ロボットを開発した(図11)。この系統で、1997年にシーラカンスロボット(図12)とバッテリー自動充電自律遊泳システム、鯉ロボット(図13)、金の鯱ロボット(図14)、鮪ロボット(図15)の開発に至っている9)。シーラカンスロボット以降は尾鰭のみならず胸鰭等複数の翼を動かし、多自由度の運動を可能としている。2004年に開発したマンタロボットは弾性振動翼を2枚重ねたメカニズムで水中を羽ばたきながら宙返りなど滑らかな方向転換を可能とした(図16)1)。この系統で、2009年に東雲坂田鮫ロボット(図17)を開発した1)。羽ばたき翼と長い尾鰭でロボットは駆動され、速度を落とさずにその場で回頭できる運動能力を有する。一方で、水棲哺乳類の動きを模擬したロボットとして、2013年にイルカロボット(図18)を開発した1)。弾性振動翼を水平翼として尾鰭に使った点に特長がある。全長1mでモータ駆動である。

図10 魚ロボットの構成
図10 魚ロボットの構成
図11 鯛ロボット図11 鯛ロボット 図12 シーラカンスロボット図12 シーラカンスロボット
図13 鯉ロボット「将軍」図13 鯉ロボット“将軍” 図14 金の鯱ロボット図14 金の鯱ロボット
図15 鮪ロボット図15 鮪ロボット 図16 マンタロボット図16 マンタロボット
図17 東雲坂田鮫ロボット図17 東雲坂田鮫ロボット 図18 イルカロボット図18 イルカロボット

5.海洋ロボットの課題と将来像

 海洋ロボットの実ミッション上の課題と将来像をROV、AUVを中心に述べる。まず、ROVは自律性が高まり、自動作業性能の向上が図られると予想できる。その結果、ROVの海中作業能力が強化され、試料採取や機器の設置と回収を細やかに大パワー対応できる作業マニピュレータの開発が行われる。また、重作業用モジュールパーツの取り付け可能なROVの開発も期待される。他にも、ROVが無人洋上浮体とリンクすることにより洋上浮体の位置情報からROVの位置を自動認識し、洋上浮体の位置保持や移動性能と運動をリンクし、総合的にROV運動性能を高める協調系ROVシステムの開発も期待される。次にAUVが抱えている課題は、航続可能距離増加のための対策(電池、海中充電システム等)、 運動知能化(自己で周囲を認識して、判断し、行動できる機能の強化)、作業性強化(ロボットハンド装着し、ケーブルなしで海中作業)であり、これらを解決することによりAUVの次世代化が図られる。 リチウム電池、燃料電池等バッテリー技術の発展によりコンパクトで航続可能距離が長く、搭載されるセンサの高精度化により海中及び海底の細かな状況をセンシング可能で、人工知能技術によりセンシング情報から的確な判断を自動で行い、自律危険回避行動ができ、小型量子コンピュータ内蔵により収得データ容量の増大と知能性の強化されたものが実現されると思量する。さらに、翼をAUVに装着してグライディング効果により省エネ長距離航走を実現させることもできる10)。その他にも、海中非接触充電により海中でバッテリー充電を行うことによる効率的なAUVの運用(図19)、AUVの複数運用による海洋探査の効率化、マニュピュレータを装備したAUVによる海中及び海底の複雑な地形や環境での作業が期待される。
 海洋ロボット全体の将来像は複数のAUVとASVとの連動による海中のロボット群による探査(図20)の実現であり10)、飛行ドローンや衛星との通信連動によりその有用性がさらに高まる(図21)11)

図19 AUVとROVの海中ドッキング
図19 AUVとROVの海中ドッキング
図20 次世代海洋システムネットワーキング
図20 次世代海洋システムネットワーキング
図21 ロボット群による海洋探査
図21 ロボット群による海洋探査


参考文献

  • 1)Ikuo Yamamoto,Practical Robotics and Mechatronics,IET (The Institution of Engineering and Technology, UK),Control,Robotics and Sensors Series 99,ISBN978-1-84919-968-1(2016)
  • 4)山本郁夫, 滝本隆, 工科系のためのシステム工学, 力学・制御工学, 共立出版、ISBN978-4-320-08191-8, 2013年
  • 7)Ikuo Yamamoto, “Elastic oscillating fin technology and its application to robotic fish”, Proc.ISFA, PARIS, France, pp.264-269, 2020
  • 8)山本郁夫, 水井雅彦, 基礎から実践まで理解できるロボット・メカトロニクス, 共立出版, 2013.
  • 9)山本郁夫, 伊藤高廣, 実例で学ぶ機械力学・振動学, コロナ社, , 2014.
  • 10)IKUO YAMAMOTO, RESEARCH AND DEVELOPMENT OF PAST, PRESENT, AND FUTURE AUTONOMOUS UNDERWATER VEHICLE TECHNOLOGIES, THE BRITISH LIBRARY, ISBN090690486, 2007
  • 11)山本郁夫, ロボット開発と海洋エネルギー利用促進、ながさき経済、5,No.307、2015


【著者紹介】
山本 郁夫(やまもと いくお)
長崎大学副学長・教授

■略歴

1983.3 九州大学工学部航空工学科卒、同大学院工学研究科修了、博士(工学)。
1985.4 三菱重工本社技術本部、2004.4 海洋研究開発機構、2005.4 九州大学大学院総合理工学府教授、2007.4 北九州市立大学教授、2013.4 長崎大学教授、2019.4 同大学副学長。GlobalScot(スコットランド名誉市民)、フランス国際賞受賞。

専門はロボット工学。実用的なロボットを世界に先駆けて開発することで定評がある。三菱重工業(株)で10000m(10900m)無人潜水ロボットやB787主翼、JAMSTECで300km(317km)以上を自律で航走する水中ロボットを開発してきた。大学では小型飛行体や小型水中ロボット、本物そっくりにおよぐ魚ロボットを世界に先駆けて開発している。宇宙遊泳する魚ロボットも開発した。30年以上のロボット研究歴の中で英国、フランス、日本などでPractical Roboticsの創出法に関する本など多く執筆している。内閣府総合海洋政策本部参与会議自律型無人潜水機(AUV)戦略PT有識者委員。

複数AUV同時運用による海底広域探査(2)

藤原 敏文(ふじわら としふみ)
海上技術安全研究所
藤原 敏文

4.SIP第3期におけるAUV技術開発

 SIP第3期でのAUV技術開発に関する主眼は、AUVや観測機器の相互連携とデータ収集能力の強化による長期的・広範囲の環境モニタリングシステムの構築と言える。前項で対象としていた海底鉱物資源の探索のみならず、CTD(塩分濃度、水温、水深)を始めとする海洋環境評価に必要な情報を、例えば定点観測装置“江戸っ子1号”と周辺状況を把握可能なAUVが連携して収集する。AUVが自身で取得したデータのみならず江戸っ子1号が収集した情報も途中経過としてAUVに集約、さらに海中拠点となりAUV電力供給が可能な深海ターミナルに集約することで、陸上に素早く収集データを転送することを可能とする。このような新たな技術開発と実運用を目標として、2023年度からプロジェクトを開始している。開発イメージを総括して、図6に示す。
 従前AUVは運用としてASVとの垂直方向連携のみであった状況をSIP第3期では水平方向AUV連携を進める。さらに江戸っ子1号を海中の道標として活用することで、航行誤差、すなわち観測の欠落や逆に余分な重複観測を大幅に減少させることが可能であり、運用効率の向上が実現できる。その中で、センシングに関してAUVに搭載しながら計測を行う場合は、省電力で計測地点を正確に捉える必要性から小型・高感度のセンサ・機器開発が望まれる。5年後には、“海中の見える化”を大幅に進めることの可能な手段が実証される予定である。

図6 長期的・広範囲の海洋環境モニタリングに資する複数AUV運用技術開発の今後の展開
図6 長期的・広範囲の海洋環境モニタリングに資する複数AUV運用技術開発の今後の展開

5.おわりに

 海底資源探査、海洋環境調査や国防的な観点も含めたMDA(海洋状況把握)、洋上風力発電施設、漁業関連施設等の海上・海中点検での無人化のニーズは今後益々増大すると考える。海洋AUV産業は、世界規模での市場開拓が可能な分野であり、世界的な開発競争が激しいことも事実であるが、我が国の技術レベルが追い付けないほど後塵を拝しているとも思われない。無人機運用による自動観測、計測に対する社会要請は今後益々増大していく中、国内産業・技術の育成と活用、連携がより一層必要とされている。
 最後に本技術開発は、内閣府戦略的イノベーション創造プログラムSIP第1期「次世代海洋資源調査技術-海のジパング計画-」、SIP第2期「革新的深海資源調査技術」、第3期「海洋安全保障プラットフォームの構築」(研究推進法人:JAMSTEC)によって実施・計画された内容であることを付記する。寄稿するにあたり関係各位に感謝申し上げる。



【著者紹介】
藤原 敏文(ふじわら としふみ)
(国研)海上・港湾・航空技術研究所海上技術安全研究所 研究統括監 工学博士
SIP第3期海洋安全保障プラットフォームの構築 海洋ロボティクス調査技術開発 テーマリーダー

■略歴

  • 1994年大阪府立大学(現、大阪公立大学)大学院工学研究科修了
  • 1994年運輸省船舶技術研究所 運動性能部 研究官
  • 2003年英国サウサンプトン大学 工学部船舶科学科 上級客員研究員
  • 2004年海上技術安全研究所 輸送高度化研究領域 主任研究員
  • 2011年同 海洋開発系 海洋システム研究グループ長
  • 2016年同 海洋利用水中技術系 海洋エネルギー研究グループ長
  • 2018年同 海洋先端技術系長
  • 2021年海上・港湾・航空技術研究所 研究監
    (兼)海上技術安全研究所 海洋先端技術系長
  • 2023年海上技術安全研究所 研究統括監

船舶・海洋構造物の風・波等外乱下での運動特性に関する研究、安全性評価研究に従事、最近では海洋再生可能エネルギー関連、AUV研究開発に関与
https://researchmap.jp/read0079257

ホバリング型AUVによる海中探査技術(2)

松田 匠未(まつだ たくみ)
明治大学 理工学部 専任講師
松田 匠未

3.2.複数AUVの相互ランドマーク測位による探査手法

 前節の方法でAUVはステーションの周囲で位置や姿勢を推定することが可能となる.しかし,ステーションとの通信圏内でないとAUVの推定誤差は徐々に増加する.ステーションの位置は固定であるため,AUVの観測範囲はステーションの周囲に限定されるという課題がある.この課題を解決するために,複数のAUVのうちの一台が交代で海底に着底し,AUVそのものが基準局(ステーション)としての役割を担う方法を開発した3, 4).着底AUVを基準にその他のAUVは,音響相対測位を実施しつつ海底探査を行う.必ず海底に着底したAUVが通信圏内に存在することで,すべてのAUVが着底AUVを基準に高精度な測位を実現しつつ,観測範囲を拡大していくことが可能である(図4).AUVはランドマークを交代するメイングループ(二台,図4のAとB)とそれ以外のサブグループ(図4のCとD)で構成される.
 三台のホバリング型AUV(AUV 1とAUV 2がメイングループ,AUV 3がサブグループ)による実証試験を沼津の内浦湾において行った.図5に海域試験の様子を示す.図6に三台の推定航跡とそれぞれのAUVが着底・停止した地点を示す.AUV 1とAUV 2が交代で海底に着底して基準局となり,AUV 3は着底AUVを基準に位置・姿勢を推定しつつ,海底観測を行った.海域試験を通じて,提案手法によって観測エリアを拡大しながら探査可能であることが示された.

図4 相互ランドマーク測位手法 3, 4)
図4 相互ランドマーク測位手法 3, 4)
図5 三台のAUVによる海域試験の様子
図5 三台のAUVによる海域試験の様子
図6 相互ランドマーク測位による三台の推定航跡
図6 相互ランドマーク測位による三台の推定航跡

3.3.高性能なAUVを親機とした複数AUVによる探査手法

 相互ランドマーク測位ではAUVが測位の基準局となるため,最低一台は海底に着底している必要がある.相互ランドマーク測位の改良型として,一台の高性能な測位性能を有したAUV(親機)を基準とした複数AUVによる測位手法を開発した5).親機は慣性航法装置(INS:Inertial Navigation System)やDVLなどを搭載し,支援船などの外部からの支援を受けずに位置や姿勢を推定することができる.親機との音響相対測位に基づき,親機以外のAUV(子機)は親機基準で位置や姿勢を推定する.子機単体では高い測位性能を有していない場合にも,親機との相対測位により,親機と同等の精度で海底を観測することが可能である.また親機を中心に群として移動することで,効率的に観測範囲を拡大していくことが可能である(図7).本手法の利点として,(1)子機がシンプルなセンサで構成されるため,コスト低減が可能である点,(2)子機の小型化によって展開が容易になるため,多くのAUVを同時に展開することが可能となり,調査効率の向上が見込める点などが挙げられる.
 鹿児島湾において二台のホバリング型AUV(親機と子機)を用いた実海域試験を実施した.二台は親機の海底到着位置を原点とした南向きをX軸とする座標系において探査を実施した.図8に二台の推定航跡と音響相対測位結果(親機:緑,子機:黄),また二台の推定位置の確率分布(3分間隔)を示す.親機が音響相対測位で計測した子機との距離と計測時の二台の推定位置から計算した距離を比較して推定誤差を評価した.距離の誤差は調査時間を通じて数m以内で拡大することなく,子機は親機と同等の測位精度で自己位置を推定できることが示されている.

図7 高性能なAUVを親機とした複数AUVによる探査手法 5)
図7 高性能なAUVを親機とした複数AUVによる探査手法 5)
図8 親機と子機の推定航跡と測位結果
図8 親機と子機の推定航跡と測位結果

4.おわりに

 本稿では海中探査プラットフォームとして注目されているAUVの中でもホバリング型AUVについて述べた.ホバリング型AUVは海底に接近できるため,海底環境のマッピングに適している.水中では陸上のように電波が使用できず,AUVは航法センサによって位置や姿勢を推定する.しかし,航法センサには計測誤差が含まれるため,時間とともに推定誤差が増加する課題がある.この課題を克服するために複数のプラットフォームの連携によって位置や姿勢を推定しつつ広範囲にわたる海底環境を探査する方法を開発してきた.開発した技術によって,海底に接近できるホバリング型AUVの利点を活かし,海底環境の可視化を促進させたいと考えている.



参考文献

  1. T. Matsuda, T. Maki, Y. Sato, T. Sakamaki, and T. Ura, “Alternating landmark navigation of multiple AUVs for wide seafloor survey: Field experiment and performance verification,” Journal of Field Robotics, vol.35, no.3, pp.359–395, 2018.
  2. T. Matsuda, T. Maki, Y. Sato, and T. Sakamaki, “Experimental Evaluation of Accuracy and Efficiency of Alternating Landmark Navigation by Multiple AUVs,” IEEE Journal of Oceanic Engineering, 43(2), pp.288-310, 2018.
  3. T. Matsuda, K. Fujita, Y. Hamamatsu, T. Sakamaki, and T. Maki, “Parent–child-based navigation method of multiple autonomous underwater vehicles for an underwater self-completed survey,” Journal of Field Robotics, vol.39, no.2, pp.89–106, 2022.


【著者紹介】
松田 匠未(まつだ たくみ)
明治大学理工学部 専任講師

■略歴

  • 2012年3月東京大学大学院 新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 修士課程修了 修士(環境学)
  • 2015年3月東京大学大学院 新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 博士課程修了 博士(環境学)
  • 2015年4月~2019年3月東京大学生産技術研究所 特任研究員
  • 2019年4月~2020年3月東京大学生産技術研究所 特任助教
  • 2020年4月~現在東京大学生産技術研究所 協力研究員
  • 2020年4月~2021年9月明治大学理工学部 助教を経て2021年9月より現職

■所属学会

  • IEEE OES,日本船舶海洋工学会,海洋調査技術学会,日本ロボット学会

■受賞歴

  • 2020年海洋調査技術学会 第32回研究成果発表会 若手優秀発表賞
  • 2021年海のフロンティアを拓く岡村健二賞
  • 2022年日本ロボット学会 第37回研究奨励賞

■専門分野

  • 知能ロボティクス,フィールドロボティクス,自律型海中ロボット(AUV),マルチロボットシステム

海洋ロボコンを経て進化する海洋ロボット技術(2)

岡田 正之(したしま きみのり)
九州職業能力開発大学校
生産電子情報システム技術科
特任能力開発教授
岡田 正之

4.知能チャレンジ(ROV部門)

 競技課題として、海中建造物の表面欠陥検出。
必要な技術
・安定したホバリング制御:海中環境は、波浪や潮流などの影響を受けやすいため、安定したホバリング制御が求められる。そのため、制御アルゴリズムや機体設計などの技術が必要となる。
・画像処理:海中環境では、光の減衰や乱反射などの影響により、画像の品質が低下する。そのため、画像処理技術を用いて、傷などの欠陥を検出する必要がある。
・海中環境下での期待制御:海中環境では、水圧や水流などの影響により、機体の挙動が変化する。そのため、海中環境下での機体制御技術が必要となる。

 第8回海洋ロボットコンペティションin沖縄で長崎大学 山本郁夫研究室のメンバーがチャレンジした内容[4]を示す。
 2台のカメラを搭載、1台目は正面(フロントカメラ)、2台目は下部(海底方向カメラ)である。
① フロントカメラ を用いた テンプレートマッチング による 定点保持
 水中では波の影響で光の当たり方がフレームごとに変化すると考えられるため 、 その影響を抑えるために類似度計算の手法として零平均正規化相互相関 (ZNCC) を使用した 。式(1)ではテンプレート画像の輝度値をT(i,j) 、被探索画像の輝度値をI(i,j)とした 。座標(i,j)はテンプレートの幅をM画素、高さをN 画素としたとき、左上を原点、右下を(M-1,N-1)とした 。

式では、各輝度値から平均値を引いた後の正規化相互相関を計算することで、I(i,j),T(i,j)をそれぞれ画像領域内の濃度値分布と考え、統計量としての相互相関係数を計算することで照明変化に 対するロバスト性の向上が可能となった。TおよびIは領域内の輝度値の平均値を示している。

② 海底方向カメラを用いたオプティカルフローによる奥行制御
オプティカルフローによる画像処理に基づいたPID制御を採用する。オプティカルフローとは動画中の2枚の隣接した画像間フレームにおいて、移動前の画素と移動後の画素をベクトルで示したものである。オプティカルフローにおいての類似計算方法についてはLucas Kanade 法 勾配法を用いる。これはいくつかの条件を設けることで解を推定する手法である。
 ・移動前後の輝度分布が変化しない
 ・画像が時間的に微分可能である
 ・移動量が微小である
 ・近傍画素も同等のベクトル量になる
速度ベクトルV(u,v)}で移動する物体があるとする。時刻 t で輝度E(x,y)の点がdt後にE'(x+u,y+v)へ移動したとする。
移動前後の輝度より

移動量が微小より

したがってEからEへの輝度勾配をdEとするとベクトルの内積を用いて、

隣接する点について

この式から最小二乗法を用いて一意の解を得ることができる。

図9.Optical Flow画像
図9.Optical Flow画像

 図9で示した海底撮影によるOptical Flow画像である。白点が特徴点で、十分に取れていることが分かる。この画像で奥行き制御を行うことで、より精度の良い定点保持を実現した。

5.知能チャレンジ(AUV部門)

競技課題としては、海中測位手段を発案し、開発した装置を用いて競技
(但し、補助装置として音波発生器を目標地点に設置している。)

第8回海洋ロボットコンペティションin沖縄で、九州工業大学 西田裕也研究室メンバーがチャレンジした内容[5]を示す。

図10.九州工業大学の機体
図10.九州工業大学の機体

・MEMSマイクを用いたハイドロフォン
耐圧樹脂を用いてMEMS マイクを水中環境においても使用可能にする特許[6]に基づいて制作されている。センサ部分は耐圧樹脂Jellafin[7]を流し込むことで防水性を確保しつつも音波を受信できる。

図11.ハイドロフォンの構造
図11.ハイドロフォンの構造

・SBL(Short Base Line)方式
 SBL 方式を図12に示す。図12左はハイドロフォンが4つの場合の例、図右が Y軸の方向から見たハイドロフォン1 とハイドロフォン2の関係を表している。nはチャンネル番号,R はスラントレンジ[m]、xs,ys,zsは音源座標[m]、xn,yn,znは各ハイドロフォンの座標[m],∆R1nチャンネル1 と各ハイドロフォンのスラントレンジの差である。この図から関係式を導くと式(6)となる。∆t1nはチャンネル1 と各ハイドロフォンの到達時間差[s],c は音速[m/s] である。

座標推定には、式(6)を満たす音源座標を計算する必要がある.計算には、局所解に強く導関数が不要で比較的収束の早いPowell 法による数値最適化を用いている。式(6)より目的関数を式(7)のように定義し、この目的関数を最小化するXs,Ys,Zsを着底位置の推定座標Eとした。

図12.SBL方式
図12.SBL方式

・SSBL(Super Short Base Line)方式による角度推定
 SSBL方式を図13に示す。機体の前方下部に取り付けた2つのハイドロフォンを使って音波の到来方向を推定した。SSBL方式では、2つのハイドロフォンの間隔をベースラインとし、音源が平行に到来するものと仮定する。この仮定のもと関係式を導くと、式が得られる。θは推定角度[deg]、cは音速[m/s]、Δt は遅れ時間[s]、Bはベースライン[m] である。式より、2つのハイドロフォンの音波受信タイミングの差である遅れ時間から音波の到来角度を推定した。なお,ピンガは前方にあるものと仮定し、−90 から+90 deg の範囲で角度を推定した。

図13.SSBL方式
図13.SSBL方式

 図14にSSBL方式による実験結果を示す。紙面の都合でSBL方式の実験結果は省略したが、ハイドロフォン検証に関してはSSBL方式かSBL方式のどちらかで可能である。

図15.ハイドロフォンの方向推定実験結果
図15.ハイドロフォンの方向推定実験結果

6. おわりに

 海洋ロボットコンペティションin沖縄は、海洋産業の人材育成と技術発展を目的とした大会である。競技会を始めた当初のAUVは、防水を中心とした最低限の装備であったが、第4回大会から知能チャレンジを設けることで、制御系およびセンサ類を活用する動きが出てきた。知能チャレンジ部門のROVとAUVは、大会側の課題をクリアした機体であり、参加チームの創意工夫により、より良い制御方法等が紹介・実用化されている。

 今後は、参加チームのさらなる創意工夫を促進し、海洋ロボットの技術発展に貢献していきたい。そのためには、企業協賛金の獲得が不可欠である。各企業様には、海洋ロボットコンペティションin沖縄の趣旨をご理解いただき、広く協賛いただけることを期待している。

 また、海洋ロボットコンペティションin沖縄の実行委員、沖縄職業能力開発大学校、琉球大学、沖縄工業高等専門学校の皆様方の多大なご助力に感謝申し上げる。



参考文献

  1. 長崎大学 山本研究室知能犯 REMONA 技術解説書 第8回沖縄海洋ロボットコンペティション 知能チャレンジ(ROV)部門 2022年
  2. 杉野 晃弘 ハイドロフォンアレイを用いた音源位置推定に関する研究 九州工業大学大学院生命体工学研究科 博士前期課程修士論文 2022年
  3. 国立大学法人東京大学 水中音響マイクロフォン 水中音響マイクロフォンの製造方法 特開2021-197629.2021-12-27
  4. エスイーシー・シープレックス株式会社 “耐圧防水樹脂Jellafin” エスイーシー・シープレックス株式会社 2021年
    https://sec-seaprex.co.jp/jellafin/,(参照2023-02-03).


【著者紹介】
岡田 正之(おかだ まさゆき)
九州職業能力開発大学校 生産電子情報システム技術科 特任能力開発教授

■略歴

  • 1981年 3月東海大学工学部光学工学科卒業
  • 1990年 4月北九州職業訓練短期大学校講師
  • 1993年10月国際協力事業団出向 ブラジル国長期派遣
  • 1995年 6月北九州職業能力開発短期大学校 情報技術科 講師
  • 1999年 4月九州職業能力開発大学校 専門課程 情報技術科 准教授
  • 2000年 3月九州芸術工科大学大学院 博士後期課程修了
  • 2002年 4月九州職業能力開発大学校 応用課程 生産情報システム技術科 教授
  • 2013年 4月沖縄職業能力開発大学校 応用課程 生産情報システム技術科 教授
  • 2016年 4月九州職業能力開発大学校 応用課程 生産情報システム技術科 教授
  • 2020年 4月九州職業能力開発大学校 応用課程 生産電子情報システム技術科 特任能力開発教授

2014年から沖縄海洋コンペティションに実行委員として参加

温度変化に左右されずセンサ信号を高精度に増幅。ゼロドリフトオペアンプ「LMR1002F-LB」

 ローム(株)は、産業機器や民生機器向けに入力オフセット電圧*1と入力オフセット電圧温度ドリフト*2を極小レベルに低減したゼロドリフトオペアンプ「LMR1002F-LB」を開発した。各種計測機器に搭載されるセンサからの出力信号を高精度に増幅できるオペアンプとして、電力制御インバータなどの電流計測用途や温度・圧力・流量・ガス検知などに最適である。

 新製品は、チョッパ方式*3を用いたローム初のゼロドリフトオペアンプ。従来品の低オフセットオペアンプにおける入力オフセット電圧が最大150µVなのに対して、新製品では94%減の最大9µVに抑えた。これにより、入力オフセット電圧の調整に必要な周辺部品やソフトウェアが不要となり、設計工数やコストの削減に貢献する。また、入力オフセット電圧温度ドリフトは、動作温度-40℃~+125℃の範囲で最大0.05µV/℃と、ロームのオペアンプで最小を実現した。温度など環境の変化に左右されず、計測したセンサ信号を正確に増幅できることから、工場内で稼働する産業機器などの高精度な制御に貢献する。電源電圧範囲は2.7V~5.5Vと広く、Rail to Rail入出力*4も備えることから、幅広い産業機器向けアプリケーションに対応可能である。

 なお新製品は、2023年11月から月産100万個の体制で量産を開始(サンプル価格1,100円/個:税抜)している。生産拠点は、前工程がローム浜松(株)、後工程がROHM Electronics Philippines, Inc.である。インターネット販売も開始しており、チップワンストップやコアスタッフオンラインなどから購入することができる。

<用語説明>
*1) 入力オフセット電圧
  オペアンプの入力端子間に生じる誤差電圧のことを入力オフセット電圧と呼ぶ。
*2) 入力オフセット電圧温度ドリフト
  温度の上昇、下降により入力オフセット電圧が変動することを入力オフセット電圧温度ドリフトといい、この変動量が小さいほど高精度なオペアンプといえる。入力オフセット電圧温度ドリフトをオペアンプ内で自動補正するのがゼロドリフトオペアンプ。
*3) チョッパ方式
  オペアンプ内部で生じるオフセット電圧を検出し、デジタル回路による制御で自動補正する回路方式のひとつ。回路内の静電容量に蓄えたオフセット電圧を電圧-電流変換回路を用いてフィードバックすることで、オフセット電圧をキャンセルする。
*4) Rail to Rail入出力
  オペアンプの入力及び出力の電圧が、供給されている電源電圧の範囲まで対応可能な回路形式のこと。このときの電源電圧をRailと呼ぶ。

ニュースリリースサイト:
https://www.rohm.co.jp/news-detail?news-title=2023-12-19_news_opamp&defaultGroupId=false

切って、貼って、測るだけ。簡便・多目的のフレキシブル・ウェアラブル化学センサ

(株)LucasLandは、東京大学と提携して開発した簡便・多目的フレキシブル・ウェアラブル化学センサ【LL-SN-01: 銀ナノメッシュSERSシート (大)】と【LL-SN-02: 銀ナノメッシュSERSシート (小)】を2023年12月25日に販売開始する。銀ナノメッシュSERSシートは、表面増強ラマン分光法(SERS)と呼ばれる技術を応用した、3次元ナノ構造の超薄型センサ。伸び縮み自在で丈夫なため、どこにでも貼り付けてその場で簡便に超高感度な化学測定を行うことができる。

●はさみで切って貼り付けるだけ。手軽で高度な化学測定
 普通「化学測定」と言うと、専門知識を持った人が長い時間をかけて行うもの、というイメージがある。実際、多くの研究現場や産業分野で行われる化学測定は、時間と専門知識を要するものである。
 しかし本センサでは表面増強ラマン分光法(SERS)と呼ばれる技術を応用して、極めて簡単でかつ詳細な化学測定を可能にする。ハサミでセンサを好きなサイズに切り、分析したい物質に貼り付けてレーザーを当てるだけ。センサの裏側には糊が塗られているため、様々なものに貼り付く。片面しかSERS機能が無い従来のSERSセンサと異なり、超薄型の本製品は両面がセンサ機能を果たすため、測りたい物質の上に貼り付ければそのまま測定が可能。発生したシグナルをもとにして、物質に含まれる化学種を5秒ほどで検出する。

●伸び縮み自在で丈夫。様々な場面に応用可能
 実際に現場でセンサを使うとなると、柔軟さと壊れにくさの両方が重要になるが、本センサは、1000回におよぶ柔軟性テスト後でも、テスト前となんら変わらぬ検出能力を保っていた。また、室内でそのまま放置しても経年劣化しにくいという利点を持っています。1ヶ月経っても性能は変わらない。
 丈夫で柔軟な構造を持つ本商品は、ヒトの肌やキーボード、衣服といった動きやすい部位にも貼り付けでき、簡便なフレキシブル・ウェアラブル化学センサとして高い汎用性を秘めている。毎日の健康管理やスポーツ科学のために、涙や尿などに含まれる微量の代謝物質を検出することも可能である。また、本商品はフレキシブル・ウェアラブル化学センサとしてだけではなく、犯罪捜査にも応用可能。ボタン、手すり、スマートフォンといった人が良く触る場所に貼り付けておいて、麻薬などの検出もできる。さらに、ミカンやリンゴなどの食品に貼り付けてSERS測定を行い、残留農薬を検出する食品安全検査を行うことも可能である。SERSはサンプルを破壊しないので、測定によって食品が損なわれることも無い。
 これまでは、その高価さと加工の困難さによって、実用化が難しいとされてきたSERSセンサだが、低コストで丈夫な本商品の登場によって、より広い産業界に普及していくことが大いに期待されている。残留農薬検査、マイクロプラスチック検出、感染症センシング、有害物質の検出など、幅広い用途に使える。

●表面増強ラマン分光法(SERS)を用いた、安価で実用的なセンサ
 本センサを使えば、分析したい物質に貼り付けてレーザーを当てるだけで、そこに含まれる化学種を検出することができる。別売りの小型レーザー付き検出器【LL-PR-01: 超小型ラマン分光器】【LL-PR-02: ベルト装着型ラマン分光器】を併せて使用することで、スマートフォンを通して誰もが簡単にその場で、超高感度な化学測定が可能になる。しかも様々な波長のレーザーが使えるので、既に在る分光器と組み合わせることもできる。
 このセンサには表面増強ラマン分光法(SERS)と呼ばれる技術が応用されている。従来のSERSセンサは、ナノ加工を施した金や銀を使うため高価なものとなっていたが、LucasLandはナノファイバー状にした糊の上に銀を定着させることで、最大限までコストを抑え、その上で感度を高めるという革新的な製造法を生み出した。

論文:V. Kesava Rao et al, “An ultralow-cost, durable, flexible substrate for ultrabroadband surface-enhanced Raman spectroscopy”, Advanced Photonics Research, DOI: 10.1002/adpr.202300291 (2023)  https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adpr.202300291 

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000133240.html

インクジェット印刷で高速にスピントロニクス素子を作製

【概要】
 磁性絶縁体に熱を与えることで、熱から電気を取り出すことが可能となる、スピンゼーベック効果 ※1 が次世代の熱電変換素子、熱流センサとして注目を集めている。スピンゼーベック熱電変換素子 ※2は従来の熱電変換素子と異なり、熱の流れと電流方向が直交するという特徴を持ち、従来素子よりも薄型、フレキシブルに作製できるという利点をもつ。一方で、発電電圧が従来素子に比べ小さいという問題があった。

 九州大学大学院システム情報科学研究院の黒川雄一郎助教、湯浅裕美教授、岐阜大学工学部の山田啓介准教授の研究グループ ※3はインクジェット印刷による新規な手法を用いて素子のパターニングを行い、スピンゼーベック熱電変換素子の発電電圧の増強を実証した。この手法では、原料となる磁性絶縁体ナノ粒子や導電性金属ナノ粒子をインクとしてインクジェットプリンターに投入することで、画像を印刷するように素子を印刷できる。したがって、高速に素子が作製できるというメリットを有します。さらに、フレキシブルなプラスチックシート上に印刷された素子が十分な柔軟性を有することを確認し、100回程度の曲げ動作を行っても素子の性能にほぼ劣化がないことを実証した。

 IoTを効率的に活用する社会を実現するためには、大量の環境発電素子やセンサを生産することが必須である。このためには、高性能な素子を高速に作製する必要があり、今回提案及び実証したインクジェット印刷法ではそれを実行できる可能性を秘めている。

本研究成果は2023年12月2日(現地時間)、独国の雑誌「Advanced Engineering Materials」にオンライン掲載された。

【用語解説】
(※1)スピンゼーベック効果
 磁性体に熱流を印加することにより、熱流方向に電子スピンの流れを励起する効果。この効果は磁性金属のみならず磁性絶縁体でも得られる。
(※2)スピンゼーベック熱電変換素子
 磁性体の上にスピン軌道相互作用の大きい重金属薄膜を積層すると、熱流で電子スピンを励起したときに重金属層に電子スピンが流れ込む。重金属層のスピン軌道相互作用により電子スピンは電流に変換される。この手法で発電を行うものをスピンゼーベック熱電変換素子と呼ぶ。
(※3) 研究グループ
 本論文著者 (全員)
 九州大学大学院システム情報科学研究院: 黒川雄一郎(助教)、湯浅裕美(教授)
 岐阜大学工学部: 山田啓介(准教授)

ニュースリリースサイト:https://kyodonewsprwire.jp/press/release/202312184463/html

DigitalBlast 東大と共同研究、宇宙ステーションを拠点とした新たな経済圏創出へ

(株)DigitalBlastは、東京大学大学院工学系研究科と社会連携講座「民間宇宙ステーションにおける宇宙資源利活用に向けた研究」を開設した。

●背景
 国際宇宙ステーション(以下ISS)は2030年に運用を終える予定となっており、世界では米国を中心に複数の民間企業による「ポストISS」を担う商用宇宙ステーション開発が進められている。日本においては、具体的な動きが未定となっているが、2023年6月に閣議決定した「宇宙基本計画」にISS「きぼう」日本実験棟を活用した民間の利用ニーズの掘り起こしや、ポストISSにおける日本としての在り方を検討する方針が記載されている。
 DigitalBlastは、2022年12月に日本国内における民間主導での宇宙ステーションを建設する「民間宇宙ステーション(CSS)構想」を立ち上げた。本構想は、将来の地球低軌道(以下LEO)の活動の場として、日本国内の民間主導で宇宙ステーションを構築することをゴールとしている。民間主導のLEO経済圏の構築に加え、この宇宙ステーションを拠点とする地球外天体間の宇宙機の往復を可能にし、In-Situ Resource Utilization(ISRU:現地調達における資源活用)の考えに基づき地球近傍小惑星(NEAs:Near-Earth Asteroids)の資源を活用する惑星間経済圏を創出するシナリオを描いている。
 こうしたなか、本講座では、探査機「はやぶさ」がサンプルリターンした小惑星「イトカワ」などの研究をけん引し、宇宙資源の研究の第一人者である東京大学の宮本英昭教授と、民間宇宙ステーション(以下CSS)における地球近傍小惑星の資源利活用に向けた月・小惑星の基礎的研究、および離発着プラットフォームの具体化を進める。

●研究内容
 DigitalBlastが計画する宇宙ステーションのモジュールは、小惑星で採取した資源や燃料等の保存・貯蔵・供給のプラットフォームとなる。宇宙資源の地上回収の他、宇宙ステーション内で3Dプリンタによるオンデマンド生産機能を実装し、In-Space Manufacturing(ISM:宇宙空間での製造)を実現することを目指している。
 担当教員を務める宮本教授は、火星や小惑星、月などの太陽系探査と宇宙資源の研究を国内外でリードされている。テラヘルツ波センサを用いて月面の水氷や金属資源の分布・存在量を調査する「TSUKIMI計画」にも参加するなど、小惑星や火星、月における宇宙空間の水や鉱物の有無を調べ、宇宙資源の活用にかかる研究に取り組んでいる。
 本講座は、宮本教授の指導のもと、CSSにおける地球外天体の資源利活用に向けた月・小惑星の基礎的研究と、宇宙資源利活用のための月・小惑星資源のデータベース化および市場規模の算出等を図り、CSSにおける月・小惑星探査機の離発着を可能とする構想の企画・検討を行う。将来の宇宙資源利活用に向けた研究を行い、新たな宇宙における経済圏創出の加速を図る。

●本講座の概要について
講座名称:
民間宇宙ステーションにおける宇宙資源利活用に向けた研究

研究目的:
地球近傍小惑星や月の資源活用のため、民間宇宙ステーション(CSS)における月・小惑星探査機の離発着を可能とする構想を具体化する。宇宙資源の活用を目的とした基礎研究および月・小惑星資源のデータベース化、市場規模の算出等の企画・検討を共同で実施する。

担当教員:
宮本英昭教授(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)

設置場所:
東京大学およびDigitalBlast

設置・研究期間:
2023年7月1日~2026年6月30日(3年間)

ニュースリリースサイト:https://digitalblast.co.jp/news/205/