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無線計測で、工業計測分野の生産性向上に「MRS-100シリーズ」ラインナップ

共和電業(株)は、デジタルテレメータ「MRS-100シリーズ」の4チャネルタイプを、2019年12月にリリースする。

MRS-100シリーズは、デジタル変調で安定した通信が行える小型な無線ユニットで、ひずみゲージおよびひずみゲージ式センサを手軽に無線化できる。工業計測や実験研究分野での高速現象にも対応し、ほぼリアルタイム(定遅延)で試験データの送信が可能。此度多チャネル測定の要望にこたえて4チャネルタイプをリリースしたとのこと。

〔MRS-100シリーズ 4チャネルタイプの特長〕
●安定した通信を実現する無線計測システム
・通信距離最大50 m(見通し)、周辺環境によりアンテナ延長などフレキシブルに対応可能
・安定した通信が行える2.4 GHz帯デジタル変調方式
・最大64チャネルの測定システム構築が可能
・日本、米国、インド、タイ、欧州の電波認証取得
●送信機は電池を使用し最大連続13時間駆動(LR03EJ単四型電池2本使用時)
・単四型の充電池 2本でも最大10時間駆動
●簡単に設定でき試験までの時間を短縮
・初期設定以降はPC不要で簡単操作
・センサチェック機能
・送信機電池残量モニタなどの安心機能を受信機に搭載
●動的現象の測定に最適
・高速現象にも追従し、ほぼリアルタイム(定遅延)で試験データを送信
・サンプリング周波数最高4.8 kHz(応答周波数DC~370 Hz、1チャネル測定時)
●周囲温度影響を低減した1ゲージ3線式にも対応(別売のセンサ接続アダプタ使用時)

製品紹介サイト(共和電業):
https://www.kyowa-ei.com/jpn/product/category/acquisition/s_mrs-100_series/index.html

みまもり電池、ソフトバンクの「みまもりサービス」向けに提供開始

ノバルス(株)は、「MaBeeeみまもり電池 みまもりサービス専⽤」(以下「みまもり電池」)を開発し、2019年12⽉19⽇よりソフトバンク(株)が実施する新サービス「みまもりサービス」向けに提供を開始すると発表した。
(画像は見守り電池システム構成)

少⼦⾼齢化の進展の中、⾼齢者の⾒守りニーズが益々⾼まっているが、これまでの⾒守りシステムは重篤な介護が必要な人に向けた機器や、煩雑な設置設定が必要なみまもりシステムなどが中⼼で、広く普及には⾄っていない。

ソフトバンクが提供する「みまもりサービス」は、⾼齢者のみまもりを、スマホや電池1本で可能とする⼿軽なみまもりサービス。

家庭にあるテレビリモコンや照明リモコン、センサライトなどの電池を、「みまもり電池」と⼊れ替えるだけで、それらの機器をみまもり機器として利⽤できる。 スマホや「みまもり電池」を装着した電化製品などが⼀定時間使⽤されていない場合には、⾼齢者など⾒守られる側にシステムから⾃動的に電話が発信され、応答がなかった場合は⾒守る側に異常を通知するという。

ノバルスはコネクティッドバッテリーでメーカーからサービス事業者まで、あらゆる業種業態でのデジタルトランスフォーメーションを実現し、モノとモノ、モノと⼈、⼈と⼈、各々がより密接に繋がり合うことで、豊かな社会の実現を⽬指すとしている。

ニュースリリースサイト(ノバルス):http://novars.main.jp/new_WP/archives/2031

製造業におけるIoTサービス「OMNIedge」の正式受注を開始

THK(株)、シスコシステムズ(同)、伊藤忠テクノソリューションズ(株)は、2018年10月に発表した、製造業向けIoTサービス「OMNIedge」(オムニエッジ)の正式受注を2019年12月18日(水)、出荷を2020年1月末から開始する。
 加えて、「OMNIedge」対応第二弾として、ボールねじの対応を予定しており、2019年12月18日(水)より、試験導入を希望される50社を対象とした無償トライアルの募集を開始するという。

●THKだから提供できるセンシングシステム
 THKは、機械要素部品にセンサを装着し、収集したデータを数値化、状態を可視化できるセンシングシステムを提供している。これにより、LMガイドの破損や潤滑状態、ボールねじの予圧、ガタの状態を検知することが可能となる。これを「THK SENSING SYSTEM(TSS)」と呼び、専用開発したセンサとアンプ、LMガイドのトップシェアメーカーとして蓄積してきた膨大なデータベースを 活用したアルゴリズムを確立した。
 従来、現場の作業員の感覚で確認判断していたものを数値化することで、計画的なメンテナンスを可能とし、担当者の経験やスキルを問わず保全の効率化を実現するとともに、予備在庫の管理コストを削減できる。さらに、これまでの時間管理から状態管理に移行することで、交換時期を適正化して設備稼働率を高め、全体の生産効率を向上させることができる。また、既に製造現場で稼働している設備にも装着できるよう、後付けが簡単にできる設計になっているとのこと。

 今後は、このセンシングシステムをボールねじや他部品へも展開し、装置から取得できるデータとの連携なども視野に入れているとしている。

OMNIedgeのサイト:https://www.thk.com/omniedge/jp/

ベッドのスマート除菌AIロボット「Cleansebot2.0」が日本上陸

(株)マグクルーズが独占輸入販売する、スマート家電ブランドMagicLilyのスマートAI除菌ロボット「Cleansebot2.0」が、クラウドファンディングサイトMakuakeにて発売開始された。

Cleansebot(クリーンズボット)は、ベッドの上を自動で走行する世界初のAI除菌ロボット。 本体に搭載された18個のセンサが自動除菌走行を実現した。ベッド上の障害物やマットレスの傾きなどを探知し、ベッドから落ちること無く走行。 2つのUV-Cライトの除菌率は第三者機関により99.99%の除菌率が証明されており、バクテリアを始めあらゆるウイルスを除菌、安心できる睡眠環境を提供するという。
2019年12月9日よりMakuakeにて発売を開始し、約30日間のプロジェクト終了後は一般販売を楽天/アマゾンなどでも随時開始予定とのこと。

makuakeサイト:https://www.makuake.com/project/cleansebot/

電⼒ゼロで姿勢保持ができる「ピエゾソニック モータ」一般販売を開始

(株)Piezo Sonicは電力ゼロでロボットや搬送装置の姿勢保持が可能な「ピエゾソニック モータ」PSM60シリーズの一般販売を開始すると発表した。

ラインナップとして一般環境での利用に適したPSM60Sシリーズ、磁場環境での利用を想定したPSM60Nシリーズを展開。また、ピエゾソニック モータの制御に最適な駆動回路であるドライバ:PSMDシリーズも同時に販売を開始するとのこと。

ピエゾソニックモータは駆動源として⼀般的なマグネットやコイルは利⽤せず、圧電セラミックの伸縮運動を回転運動に変換し、摩擦を利⽤して回転する超⾳波モータ。搬送装置に広く利用されるDCモータと比べ、同サイズで5倍以上のトルクを発揮する。また、同サイズのステッピングモータと比べ重量は1/3以下で、より精密な制御が可能なモータである。 動作音が小さく、MRI内などの磁場環境でも利用可能なため、⼈の側で活動するロボットやMRI用医療機器、半導体製造装置のためのモータとして期待されているという。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000049450.html

アイエスエイ、LoRa通信対応3軸振動センサユニット発売

 (株)アイエスエイは、生産工場、公共施設や施工現場の各種稼働機器の振動を継続的に計測・解析して機器故障の予兆を把握し予防保全対策に寄与するための安価な据え置き型振動計測・解析装置を開発、本年12月5日より販売すると発表した。

〔開発の背景〕
 機器の発生する振動には、使われているモータ、ベアリング、チェーンやギア機構などを発生源とする各種振動要素が含まれており、この振動周波数毎の振幅変化(加速度変化)を継続的に計測することによって、発生源の特定と故障の予兆をとらえることが出来る。
 従来、このような計測で特にFFT解析と呼ばれる周波数領域での分析には高価で大掛かりな装置が必要だった。小型ポータブル計測装置であっても、センサを手で押し付けるタイプでは計測誤差が大きく、また多点での継続的な計測には適さなかった。

ISAのWD100-FA01はこれらの課題を解決することを目的として開発された据え置き型の高機能・LPWA無線方式の計測・解析装置であるとのこと。

ニュースリリースサイト(ISA):http://www.isa-j.co.jp/momoaya/?news-cat=news

「T型回路構造」を採用した MOS FETリレーモジュール「G3VM-21MT」発売

オムロン(株)は、世界で初めて※1「T型回路構造」※2を採用した、MOS FET※3リレーモジュール「G3VM-21MT」を2019年12月2日より全世界で発売。無接点で信号を出力する長寿命で小型の半導体リレーを複数組み合わせて、T型回路構造のモジュールとしたことにより、半導体などの試験装置で課題となっていた「漏れ電流」※4を極小化することに成功した。「G3VM-21MT」により、電子部品の製造における高精度の品質検査と生産性向上の両立に貢献するとしている。

「G3VM-21MT」は、主に半導体の電気的な試験を行う試験装置において、計測信号の切替えを行う機器。小型で長寿命なMOS FETリレーの特長に加え、世界で初めて3つのMOS FETリレーで構成される「T型回路構造」を採用したことで、漏れ電流を極小化し試験装置の検査精度に影響を及ぼさない水準まで抑え、高精度での測定と試験装置のメンテナンス頻度の低減を両立するという。

近年、デジタル化の流れを受け、電子部品の機能は多様化し、生産量はますます増加してゆく中で、半導体の試験装置において能力増強のニーズが高まっている。半導体試験装置で従来、高精度な測定を行う箇所で主に用いられていた接点式のリードリレー※5は、漏れ電流の発生が少ない一方、使用に伴う接点の摩耗や荒れにより徐々に検査精度が低下するため、月に数回、定期的に交換する必要があった。こうしたメンテナンス作業による生産性低下を回避するため、長寿命な半導体リレーの採用が望まれていたが、その特性上、漏れ電流を抑えることは技術的に難しく、高い信頼性を求められる検査装置においては採用が進んでいなかったとのこと。

オムロンは、こうしたニーズに応えるため電子部品事業で培った技術をもとに、「T型回路構造」を採用し、漏れ電流値を1pA(1兆分の1)以下におさえたリレーモジュールの製品化に成功した。半導体リレーの課題である漏れ電流の発生を限りなくゼロに近づけることで、接点式リレーと、小型で長寿命な半導体リレーそれぞれの特長を兼ね備え、試験装置において長年の課題であった、信頼性の向上と、メンテナンスによるダウンタイムの削減を両立した。オムロンは、「G3VM-21MT」の提供を通じて電子部品の生産性を向上し、デジタル化による社会の進化を支えていくとしている。

※1 リレーモジュールとして世界初となる、複数のMOS FETリレーを組み合わせて構成した「T型回路構造」を採用(2019年4月、オムロン調べ)
※2 減衰機(アッテネータ)等に用いられる回路構成を応用した、漏れ電流を極小化する回路
※3 MOS FET=Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor(電界効果トランジスタの一種)
半導体を用いたリレーで、物理的な接点を持たないことから、接点の摩耗などによる劣化が起こらず、長寿命であることが特長
※4 電子回路の内部で、本来電流が流れない絶縁された箇所から漏れ出るように電流が流れる現象
※5 ガラス管に配置された2本の接点付きのリードが、ガラス管に巻かれたコイルの磁束により接点開閉を行うリレー

ニュースリリースサイト(omron):
https://www.omron.co.jp/press/2019/12/c1202.html

ヴァイサラ、NEXCO中日本向けに「MD30 モバイル路面凍結検知センサ」を納入

ヴァイサラ(株)は、中日本高速道路(株)に、小型複合モバイルセンサを納入した。

この度納入した「MD30 モバイル路面凍結検知センサ」(以下MD30)は、厳しい環境下で活動する除雪車などの雪氷車向けに設計されており、車両に設置することで継続的な路面状態監視を行い、道路気象データ(摩擦係数、路面状態、路面膜厚、路面温度、大気温度、露点温度、相対湿度)を計測する。

MD30は、NEXCO中日本の管理する高速道路のより適切で効率的な除雪作業やきめ細やかな情報提供などを目的として活用されるという。

MD30の詳細については以下を参照のこと。
 https://www.vaisala.com/ja/md30 

ニュースリリースサイト(vaisala):
https://www.vaisala.com/ja/press-releases/2019-12/md30-delivery

センサ技術は何を変えたか? 未来に向かって何を変えるのか?(1)

(公財)野口研究所 学術顧問
柴﨑 一郎

巻頭言

新たな時代の訪れやイノベーションは、必ずキーとなる複数の技術が統合されて実現している。2019年度のノーベル化学賞には、リチウムイオン2次電池(LIB)を創った旭化成(株)の名誉フェロー吉野彰博士が米国の2人の科学者と共に受賞に輝いた。日本の民間会社の物造り研究の受賞であり、会社の研究者にも大きなチャンスがあることを示した喜ばしい事である。映像、電子・情報機器の携帯化、パーソナル化を実現し、社会生活の在り様を変えた電池である。また、LIBは、小型で、大容量の極めて高いエネルギー密度を有する。この理想の電池を安全に使う為には、温度センサと充放電の制御回路が必須であり、センサ技術も深くかかわる。

ところで、センサが使われるシステムは語られても、センサが前面に出ることはこれまで稀有であった。AI、IoT時代を迎え、何ゆえにセンサが必要であったか、センサが如何なるイノベーションと関わったか、如何なる産業貢献をしたのか、我々の生活を如何に変えたのか、センサの果たした役割を知り、語ることも大切である。

一例であるが、著者らが開発した高感度InSb薄膜ホール素子は、20世紀の最後の20年を象徴する、家庭用VTR、PC、パーソナルオーディオ等の機械駆動に必須の回転の角速度を精密、且つ自由に電子制御出来る超小型のDCブラシレスモータ、通称ホールモータの開発、実用化、量産供給を実現した磁気センサである。放送局独占のVTRは家庭に入り、旅行や楽しい家庭生活、ドラマなどの動画映像を自由に楽しむことが出来、更に、コンピュータは小型化し、PCとなり、インターネットに象徴される電子情報化社会の実現に貢献し、社会の在り様も大きく変わった。2014年には、社会貢献の大きな電気の技術として、電気学会の「でんきの礎」顕彰に於いて、「電子制御モータを生んだ高感度InSb薄膜ホール素子」として顕彰された。

回転を自由に可変制御出来るホールモータは、歴史上で人類が手にした最も欲しかった動力技術であり、夢の動力である。また、三種の新規技術、①角速度を電子制御する電子回路(駆動&制御回路)、②強力な永久磁石回転子、そして、③回転子の位置や速度を高精度検出する超小型磁気センサが統合されたモータである。ホール素子の役割は、従来の磁界計測とは全く異なり、回転制御の情報を得て制御回路に入力する微小な電子部品センサであった。モータの駆動の為に、駆動制御回路(CPU の一部というべき)へ、(回転)情報を取得(センシング)し入力する部品というセンサ機能の新たな役割の発見とその実用化がイノベーションを起こした。磁気センサは、時代が必要とした動力を生むことで、社会のライフスタイルを変えたことは確かである。これは、センサ技術がライフスタイル変える時代の到来を意味している。

更に、未来への指針も示した。21世紀は、IoT、AI時代である。ホールモータは、①磁力を生むコイルと回転系の機械構造から成る(従来の)モータに、②回転を検出する磁気センサ(耳目に相当)が付けられ、その信号により、③どの様にモータを回転させるかを指示する制御回路=頭脳(モータ駆動回路)が付与されたモータである。これは明らかに、AIモータの原型である。将来、④学習能力、⑤考察力が備われば、AIモータとなる。磁気センサやホールモータの先にAI動力創出の夢が見える。

21世紀の中葉に向け、研究開発や物創りを志す技術者や研究者にとってセンサ技術が如何に時代を変えたか、何を変えることが出来るかを知ることは、研究のモチベーションともなり、極めて有益である。社会の在り様を変えるセンサ技術へ若いセンサ研究者、技術者の挑戦を期待したい。

§1 高感度薄膜ホール素子の開発と応用のインパクト

1.1 高感度薄膜ホール素子のニーズと開発の背景
本稿の巻頭言では、センサ技術の置かれた現状や未来への役割などを述べた。今回は、戦後日本人の高度成長の夢を叶える役割を担い、近年応用が著しく拡がる磁気センサ、高感度薄膜ホール素子技術に焦点を当てた。

高度成長が軌道に乗った1970年代後半、オイルショックも経験した日本の電気、電子メーカーは、カラーTVに次ぐ、次代の大型商品、家庭用VTRやコンピュータの小型化(PC化)の開発に注力していた。世にいう、軽、薄、短、小の時代への突入の始まりであり、ハンデイ(携帯?)または、パーソナルユース、家庭用が合言葉であった。開発を狙ったシステム、VTRの例では、テープ走行の精密な制御や回転ヘッドの駆動等に、角速度が精密に制御できる超小型モータによる駆動が必須であった。更に、従来のモータの様なブラシによる電磁ノイズの発生が在ってはならなかった。勿論PCも同様なモータを必要としていた。この様な目的に適合するモータは、永久磁石回転子を備えた直流駆動(DC駆動)ブラシレスモータである。開発に必要な技術は、①強力で保持力の高い永久磁石、②精密な角速度制御用の小型で低コスト制御回路、③回転検出に超小型で高感度の磁気センサ、ホール素子が必要であった。当時、強力な永久磁石は磁石メーカーの研究開発、また、制御回路開発は、電機・電子メーカーの社運をかけたLSI開発が期待できた。その一方で、当時のホール素子は、磁界計測用プローブであり、感度も低く、手作りで、電子部品として超小型DCブラシレスモータに使えるホール素子ではなかった。 更に不都合なことに、当時はSiのLSIやGaAs系の電子素子の研究開発が中心であり、重要であってもホール素子研究は無く、ホール素子入手は大問題となり、VTRやPC開発の大きな障害となった。しかし、問題を解決したのは、電気・電子系のメーカーの研究ではなく、オイルショックの後の企業体質転換を迫られていた、全く異業種の旭化成工業(株)(現旭化成株式会社)が手掛け開発した高感度InSb薄膜ホール素子であった。

1.2 高感度InSb薄膜ホール素子の開発
旭化成工業(株)のホール素子の本格研究は、1974年に始まった。しかし、当時の研究グループは、半導体の専門家は皆無であり、数々の未経験の課題に、議論に議論を重ね、更に、実験と試作を重ねた。また、失敗、トラブル、また失敗という数々の危機があった。振り返れば、至難、曲折を極めた研究であった。しかし、何れもかろうじて乗り越えた。その一は、世界最初の真空蒸着によるInSb薄膜の工業的量産技術、その二は、従来比で一桁上の磁界検出の高感度化、第三は、半導体素子としての量産製造技術の確立である。更に、電子部品として必須の信頼性、耐熱性等のユーザの強力な要望を完全にクリヤーする性能の実現や長年問題とされていたInSbホール素子の温度依存性の改善という難題もあった。研究スタート以来7年が経過し、漸く1980年、延岡に小さな工場がスタートした。しかし、困難は続いた。

こうした数々の生みの苦しみ(?)を乗り越えて、最終的に開発した高感度InSb薄膜ホール素子の特性は、従来比20~30倍(当時)という世界トップの超高感度で、大きなセンサ出力(200~300mV/V0.05T)を有していた。そして、超小型樹脂パッケージで高温自動実装に耐える260℃の耐熱性があり、実用性は極めて高く、更に、特筆すべきは、従来の磁界計測プローブとは全く違ったコンセプトの電子部品センサであった。この高感度InSb薄膜ホール素子(市販の製品)の写真をFig.1に示し、特徴を表1に示した。

Fig.1 市販の高感度薄膜ホール素子(左下は、パッケージ前の写真)
 
表1 高感度InSb薄膜ホール素子の特徴
特徴
1 従来の常識を破った高感度ホール素子 (従来比20~30倍の高感度)
2 超小型で量産性に優れる電子部品
3 強固な樹脂パッケージと高信頼性、耐熱性
4 磁気を利用した非接触センサ

1.3 高感度InSb薄膜ホール素子の応用とインパクト
この高感度InSb薄膜ホール素子を使うことで、VTRやPCの機械駆動に必須のモータ、即ちホール素子により回転を検出し、電子制御により、精密に回転速度を可変制御できる超小型DCブラシレスモータモータ、通称ホールモータの実用化と量産が可能になった。

開発以来、VTR、PC等の機械駆動用の超小型ホールモータの磁気センサに多数使われ、20世紀最後の20年を代表する大型商品、VTR、PC等の開発と実用化、その普及が実現した。工場で大量生産された最新の映像機器や情報機器は、町の電気店に並び、カラーTVと並び、VTR やPCが家庭に普及した。更に、同じ頃に開発された小型の8mmTVカメラなどで、美しい景色や旅行記録、家庭の記録等が実現し、自分たちが撮影した映像が楽しめる時代が到来した。超小型化したコンピュータ、PCは、多くの人たちが日々使う情報機器として、事務所や家庭に普及し、携帯化も実現した。これらの映像、電子情報機器は遠く海外にも輸出され、世界中の人達がその恩恵を受けることとなった。そして、21世紀に向けて、PCは、更なる小型化と共にインターネットの端末としても広く世界に普及してゆく時代が始まった。Fig.2 は、高感度InSb薄膜ホール素子を使うホールモータの例である。(a)はPC用のCD-ROM駆動モータ、(b)は、VTRのキャプスタンモータである。この他、VTRでは回転ヘッドモーターやVTRカメラなどにもホールモータは多数使われた。

Fig. 2(a)CD-ROM 駆動のモータ
Fig. 2(b)VTRのテープ駆動用のキャプスタンモータ

高感度InSb薄膜ホール素子は、電子制御回路と永久磁石回転子と共に、時代が必要とした、全く新たな電子制御モータ技術を生み、時の電機・電子産業の発展を強力にサポートする役割を担った。その社会的インパクトは大きく、高度成長は、働く人たちの収入アップにつながり、消費生活も豊かになり、日々美味しい食事を楽しみ、ドレスアップ、更に、国内は勿論、海外旅行も日常化した。センサ技術がモータ技術のイノベーションに深くかかわり、戦後日本の高度成長と豊かな生活の夢の多くを叶えた事例である。

§2 InAs単結晶薄膜、量子井戸の工業的量産と薄膜ホール素子応用

InSb薄膜ホール素子は、VTRやPC等室温やその周辺で用いる電子機器には好適で多数用いられた。しかし、限界もあった。100℃を超える高温度域や車載センサ、産業機械などより厳しい環境でも使いたいとの要望もあり、高い信頼性や使用温度域の拡大も求められた。こうしたニーズに応えるために、新たな薄膜技術による高感度InAsホール素子開発が試みられ、全く新たな技術、ナノ厚さの薄膜や単結晶薄膜の量産の製作が必要となった。

注目したのは、分子線エピタキシー(MBE)技術である。微小な面積での化合物半導体の単結晶薄膜や量子井戸の製作は可能であった。研究用、もしくは、単価が極めて高く、製作数も少ない通信用の半導体レーザや高周波デバイス等の製作では用いられたが、ホール素子の様な数百万個から数億個レベルの実用デバイス製作の工業的技術は全く出来ていなかった。しかし、魅力があった。理由は、一原子層の制御が可能な積層技術であり、単結晶薄膜や量子井戸、超格子などが製作出来ることであった。著者らは、こうした可能性に着目し、結晶成長装置の製作も含めて結晶成長面積の大面積化を試みた。研究は装置製作から取り組んだ。詳細は略するが、最も厳しかったのは、結晶成長時に加熱する為、800℃を超える高温度の基板ヒータ金属からのガス発生と~1×10-11Torrの超高真空を維持する排気の問題、及び膜厚の均一性の実現、更に、蒸発源からの蒸気ビーム強度の制御であった。

Fig.3は筆者らが1982年に開発、導入のInAs単結晶薄膜や量子井戸を大面積(マルチウエーハ)で量産製作をするMBE装置である。

Fig.3 単結晶や量子井戸を製作する分子線エピタキシー(MBE)装置写真
(左下写真は、製作した厚さ0.5μmのInAs単結晶薄膜)

このMBE装置により、世界で初めて電子移動度の大きいInAs単結晶薄膜やInAs量子井戸の量産が可能になり、厚さ0.5μmのSiをドープしたInAs単結晶薄膜ホール素子、厚さ50nm(0.05μm)の動作層のInAs量子井戸ホール素子が開発、実用化された。Fig.4(a)は、GaAs基板上にMBEで製作されたInAs単結晶薄膜ホール素子の例であり、(b)はパッケ-ジされたInAs単結晶薄膜ホール素子である。

Fig.4(a)SiドープInAs単結晶薄膜ホール素子チップ
Fig.4(b)パッケージされたInAs単結晶薄膜ホール素子
Fig.5 InAs量子井戸ホール素子:チップ写真(左上)、面実装パッケージ製品(右上)、ホール素子の断面(下図、矢印は50nm厚さのInAs量子井戸)

Fig.5は、InAs量子井戸(InAsDQW)ホール素子である。左上はInAs量子井戸ホール素子のチップ、右上は、面実装パッケージの製品、下図は、InAs量子井戸ホール素子の断面を示す図で矢印はホール素子の動作層である50nmのInAs量子井戸を示している。このInAsDQWホール素子は、世界初の実用的なナノテクホール素子である。

MBE技術で製作したこれらのInAs薄膜ホール素子の特徴は、ホール電圧の磁界比例性が極めてよく、高感度、高出力と共に、素子抵抗とホール電圧(センサ信号)の温度依存性が少なく、駆動温度域が広いことである。この為、各種の非接触センサ、非接触スイッチ、車載センサ、非接触電流センサ等に広く使われている。また、リニア―ハイブリッドホールICの磁気センサとしても好適であり、使われる。

次回に続く-

【著者略歴】
柴﨑 一郎(しばさき いちろう)
(公財)野口研究所 学術顧問

■略歴
1942年生まれる。
1966年東京理科大学理学部物理学科卒業
1971年、東京教育大学(現 筑波大学)大学院博士課程修了、理学博士
物理教室教務補佐(ポスドク)をへて、1974年旭化成工業株式会社(現 旭化成株式会社)
入社、ホール素子の研究開発を担当、技術総合研究所室長などを経て、
2003年旭化成のグループフェロー就任(2004年より柴﨑研究室長兼務)、2008年旭化成退職
2009より、公益財団法人 野口研究所学術顧問(現在に至る)
豊橋技術科学大学特命教授(2009-2016)、福岡大学客員教授(2019~現在)

1988年大河内記念生産賞(社名表彰)、1995年科学技術庁長官賞、2005年発明協会会長奨励賞、2017年電気学会業績賞、2018年山崎貞一賞を受賞。2003年には紫綬褒章を受章した。

専門分野:化合物半導体薄膜技術と薄膜磁気センサ応用

進化するフラックスゲート磁界センサ(1)

笹田磁気計測研究所
笹田 一郎

1. はじめに

フラックスゲート磁界センサ(フラックスゲート= Fluxgate, FG)は、静磁界(直流磁界)ないし低周波磁界を高感度に検出するが、その根本にあるのはファラデーの電磁誘導の法則である。磁界の時間変化が小さいものをコイルで検出できるようにするために、計測の対象とする低周波磁界を磁気コアを用いて高周波キャリア磁界(励磁磁界)で振幅変調する(1-2)。この変調過程がFGにおいては一番重要で、それが低雑音であればあるほど低雑音FGを実現できる。変調方法には信号磁界(計りたい低周波磁界)と高周波キャリア磁界の磁気コア内でのベクトル方向の違いから平行型と直交型がある。平行型は両者が平行方向にあり、直交型では両者は直交する。FGの雑音は磁気コアから発生する磁気雑音が主要因である。これまでは平行FGが直交FGよりも低雑音であったが、高透磁率アモルファス磁性材料の出現と、著者が2001年に発表した新しい駆動法(3-4)の導入によって直交FGが逆に平行FGを凌駕するまでになった。直交FGの構造は平行FGに比べシンプルであるので実用的にはこの発展には大きな意味がある、本稿では直交FGの新しい駆動法である基本波型直交FG(Fundamental Mode Orthogonal Fluxgate=FM-OFG)と、30チャンネルを越える規模のFGアレイで世界で初めて心磁計測に成功した結果を紹介する。

2.フラックスゲートとは

最初のFGは1936年、ミュンヘン工科大学で電離層を研究する物理学者であったAschenbrennerとGoubauによる(5)。彼らはパーマロイのリングコアを用い、入力磁界に対する応答として、誘起電圧の中に励磁周波数の偶数調波が現れるものを考案した。本稿は直交FGについて述べるが、比較の意味から倍周波型平行FGと呼ばれるこの歴史的なFGの原理について、図1に示すリングコアを上下から押しつぶしたレーストラック型磁気コアを用いて概説する。図から分かるように、平行FGのセンサヘッドには磁気コアと励磁コイルおよび検出コイルの3点が必須である。

図1 レーストラック型コアを持つ平行フラックスゲート

レーストラック型磁気コアには励磁コイルが巻かれ、磁気コア内を時計回り、反時計回りに循環する磁界(励磁磁界)を発生し、コアを周期的に磁化反転する。検出コイルは磁気コアを取り囲むように巻かれる。外部からの磁界印加が無い場合は、検出コイルに鎖交する磁束はコアの上下の長辺を左右逆方向に通過するので互いに打ち消しあい、誘起電圧は0である。図のように磁界Hexがコアの長手方向に印加されると、その強さに比例して一周期に2度鎖交磁束が発生して、偶数調波の誘起電圧を検出コイルに与える。(励磁磁界と印加磁界Hexの方向はコアの上下の長辺のいずれかで加算的になり他方では減算的になる。加算的になる長辺では時間的に早く磁化飽和し磁束がほとんど変化しなくなる。他方ではまだ磁化が変化するので平衡が破れ検出コイルに鎖交磁束を与える。)これを2fの周波数で同期検波して出力を得る。やや手が込んでいるがこれが変調のメカニズムである。磁気コアを磁化反転させるのでバルクハウゼン雑音は存在する。

直交FGにおいてはもっと単純な仕組みで振幅変調される。図2の左の図が最も構造が簡単な直交FGの基本部分で、構成要素は磁性ワイヤコアと検出コイルの2点である。この構造は1953年にT. Palmerによって発表された(6)。交流励磁電流はコアである磁性ワイヤに直接通電され、検出コイルはワイヤコアの周囲に巻かれる。このFGの定性的な動作原理は簡単に説明できる。電流が0をクロスする前後では円周方向の磁界は小さくHexによる磁束はワイヤコアに引き寄せられ磁束がコア内で濃縮される。一方、通電電流の正のピーク近傍と負のピーク近傍ではワイヤコアの外周部の磁化は円周方向に強制的に向けられ、Hexに基づく磁束はワイヤ外に押し出される。このように、励磁電流の一周期間でHexによる磁束がコア内で、濃縮→疎→濃縮→疎という変化(変調)を受ける。一周期間で2サイクルの変化が起きるので、誘起電圧は励磁周波数の偶数調波となる。このため図1の平行FGと同じく倍周波型となる。励磁磁界は円周方向にあり原理的に直接検出コイルに鎖交しないのでコアは1つで良いのである。

図2 直交FG。左は従来の倍周波型、右は基本波型。

本稿で述べる基本波型直交フラックスゲートの動作はこのPalmerの直交FGにおいて、交流励磁電流にそれより大きい直流電流を重畳することで現れる。ほんのわずかな変更で大きな違いを生み出すのであるが、その詳細を次節で述べる。

次回に続く-

参考文献
1) F. Prindahl, IEEE Trans. Magn., Vol.MAG-6, No.2, pp.376-383 (1970)
2) D. I. Gordon and R. E. Brown, IEEE Trans. Magn., Vol.MAG-8, No.1, pp.76-82 (1972)
3) Ichiro Sasada, Japanese Patent No.4565072
4) 笹田一郎, 日本応用磁気学会学術講演会,26pD-3 (2001)
5) H. Aschenbrenner and G. Goubau, Hochfrequenrtecnik und Elektroakustik, Band 47, Heft 6, pp.177-181 (1936)
6) T. M. Palmer, Proc. IEE (London), Vol.100, pt.B, pp.545-550 (1953)

【著者略歴】
笹田 一郎(ささだ いちろう)
笹田磁気計測研究所

■略歴
1974年九大工電子工学科卒、1976年同修士修了、
1986年 工学博士(九大)。日本電気(株)を経て1977年7月同上助手、1986年助教授、1997年教授。
1998年から大学院総合 理工学研究科(2000年改組により研究院へ名称変更)、2017年3月定年退職。
同年5月笹田磁気計測研究所(株)設立、この間、1988年8月から1年間MITにて、1995年10月から3ヶ月トロント大学にて在外研究。磁気応用の研究に従事し、主な仕事は磁歪効果を用いたトルクセンサ、磁気シールドのための磁気シェイキング、能動磁気シールド。基本波型直交フラックスゲートの研究。
1995年磁気シールドの研究で市村学術賞。
1993年および1996年IEEE Magnetics Society 主催国際会議IntermagのEditor、
2010年~2015年電気学会マグネティクス技術委員会委員長。九大名誉教授。