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子どもの登下校に付き添うAIみまもりロボット”GPS BoT”第2世代

ビーサイズ(株)(Bsize)は、開発製造と販売運営を行うAIみまもりロボット「GPS BoT」の第2世代モデルを、2020年3月2日より発売開始と発表した。
新モデルではモバイル通信をする端末としては画期的な、1度の充電で最長1ヶ月充電不要の超ロングバッテリーライフを実現。日本版GPS「みちびき」に対応し精度向上を果たすなど大幅に進化。新型肺炎の影響で混乱する新学期に向けて、安心安全に貢献する新機能を実現したとのこと。

■ GPS BoTの基本機能
1:位置の常時測位とアップロード
 子どもに動きがある限り、常時子どもの位置をサーバーで捉え続ける。
 保護者は子どもの現在地はもちろん、一日の足どりも離れた場所からでもスマホで閲覧出来る。
2:自動のお知らせ
 自宅や学校、習い事など、よく行く場所に、到着・出発すると、自動でお知らせ。
 アプリを開いていなくても、PUSH通知でお知らせ。
3:行動の学習
 AIが子どもの行動を学習し、よくいく場所や、ふだんの行動範囲を学習。
 ふだんの行動範囲を逸脱すると、普段行かないところに行っているとして、自動で通知。

サービス利用料金は、端末代4,800円と月額480円。
初期契約事務手数料や解約料、契約年数の縛りなど、追加費用や付帯条件は一切必要なし。キャリアの縛りもなく、格安SIMスマホでも利用できるとしている。

製品サイト(Bsize):https://www.bsize.com/bot/gps

量子型赤外線センサの基礎と最近のトピックス(1)

(株) 富士通システム統合研究所
研究企画部 中里 英明

赤外線センサの内、感度(高速性)や検知の対象や環境に応じた最適化につながる波長選択性に優れた量子型の基礎と最近のトピックスを、特に撮像用センサについてご紹介する。

1. 量子型赤外線センサの基礎

量子型赤外線センサの基礎を述べる。具体的なセンサの説明に入るに先立ち幾つかあった方が理解が進むと思われる予備知識を説明する。

1.1. 予備知識
センサ説明の理解に資する予備知識として、赤外線の分類、赤外線画像の表示手法、赤外線イメージング・センサの構成およびセンサ冷却手段について述べる。

1.1.1. 赤外線の分類
一口に赤外線と言っても、近赤外、中赤外とか、長波長赤外線といった微妙に異なる表現を聞かれることがあると思う。他の分野でも散見されるが、赤外線分野においてもコミュニティによって異なった用語がされたり同じ用語に対して異なる定義が適用される事例が見られる。
ISO(国際標準化機構)、天文学、CIE(国際照明委員会)、光通信分野等の定義があるが(図1)1)、事物のセンシングという観点からは、後述する「大気の窓」と目標の放射(自ら出す自発放射と外部放射の反射があり、後者は外部放射源にも依存)の組合せ特性の特徴を的確に反映している防衛分野の分類(図2)2)が最適と思われる。

図1. 各分野の赤外線分類定義1)
図2. 防衛分野の赤外線分類定義2)
〔クリックで拡大〕https://sensait.jp/wp-content/uploads/2020/03/nakazato_02.jpg

1.1.2.赤外線画像の表示手法
赤外線そのものは目に見えない電磁波である。それを介して得られた情報はどのように表現するべきであろうか? 可視ではないので所謂「色」を見ることはせず、強度情報を画像化することが多い。すなわち、強度が高いほど白く、低いほど黒く表示するモノクロ画像とする(図3)3)-6)

図3. 各赤外波長帯の表示画像例3)-6)

強度を階層化して色を割り振る擬似カラー表示が使われることもある(図4)7), 8)。サーモグラフィ等で測温値が分かり易い場合もあるが、一般的に温度表示分解能が低下する。

図4. 赤外線画像の擬似カラー表示等7), 8)

1つあるいは少数の波長帯の画像は波長帯に1つの画像を用意すればよいが、多数の波長に分けて詳細な分光特性をセンシングするマルチスペクトルやハイパースペクトルのセンサでは、画像ではなく、x: 走査方向視野角、y: 波長、z: 強度から成る3次元グラフで「データキューブ」を表示する場合もある。

1.1.3. 赤外線センシング関与因子と影響
赤外線センサ技術を語るに当たり、赤外線センシングに関与する因子とその影響について議論しておきたい。というのも、赤外線センシング能力はセンサ特性だけで決まるのではなく、センシング対象であるシーンにおいて、その背景の放射強度、検出したい目標と背景とのコントラスト、目標側の妨害を含めた目標の検出を邪魔する事物、目標からセンサ開口までの伝播路における余計な放射の生成と目標コントラストの低下、等が複雑に関わり(図5)、それらを左右する環境条件や運用条件を考慮して最適な特性配分をすることが重要だからである。そこでも波長毎の特徴を踏まえた検知波長選択が重要となる。

図5. 赤外線センシングの関与因子

シーン構成品となる諸事物の赤外放射に関しては連続放射体と選択放射体があり(図6)9)、前者ではプランク(Planck)の法則、ウィーン(Wien)の法則、温度自発放射と太陽光散乱(検知を邪魔するもの: グリント)の関係等が重要である(図7)。

図6. 選択放射体の分光放射特性と大気分光透過特性との関係9)
図7. 連続放射体とプランクの法則、ウィーンの法則、太陽グリントの特性

目標からセンサ開口までの伝播路の影響に関しては、大気の分子吸収(図8)とエアロゾル(浮遊粒子)散乱(図9) 9),10)によるコントラストの低下の他、周囲事物からの放射を散乱して信号蓄積や露光時間に制約をもたらす影響にも留意する必要がある。

図8. 大気の分子吸収
図9. 大気のエアロゾル散乱9) ,10)

1.1.4. 赤外線イメージング・センサの構成
センシング・システムのキー・デバイスはセンサ(赤外線検知器)だが、他にも能力に大きな影響を及ぼす構成品がある。光学系、クーラ、周辺回路等のハードウェアの他、適切な信号を収集し、的確に有用情報を抽出する信号処理と、それを支えるシステム設計と情報処理アルゴリズムも影響大である(図10)。

図10. 赤外線イメージング・センサの構成

ハードウェア個々の特性は技術進展が進んで理論限界にかなり近づいているものも多く、能力進展の余地は信号種の選択と不要情報を切り捨て、有用情報をより効果的に抽出するよう組合せる信号処理のウェイトが増している。
その能力を大きく進展させる可能性のある構成品にはROICのディジタル化がある。センサ直後にDX(Digital transformation、ディジタル革新)をもたらし、エッジ・コンピューティング能力の飛躍的増大をもたらすことが期待されている。

1.1.5. センサ冷却手段
量子型赤外線センサは、センサ自体が発する赤外線も検知してしまうので、基本的に充分低い温度まで冷却しないと検知対象からの赤外線が埋もれてしまうことになる。「基本的に」と言ったのは、PbSやPbSeという例外的に室温動作が可能な材料と、内部に自身の熱に起因して流れる電流を阻止する障壁層を持つ構造で動作温度を高めるHOT(High Operating Temperature、高動作温度)技術があるためである。
代表的な量子型赤外線センサの冷却手法には、冷媒充填、J-T(Joule-Thomson)効果利用、冷却サイクルを利用する循環冷却、および熱電効果を利用するサーモエレクトリック冷却がある(図11)。

図11. 量子型赤外線センサの冷却手段

また、近年、研究開発が行われている技術にレーザ冷却があるが、実用化は未だ先なので回折は別の機会に譲ることにする。

1.2. センサの種類と検知原理
予備知識の説明を以上で終えて、量子型赤外線センサの種類と各々の検知原理の説明に入る。主要な検知原理には真性半導体直接遷移、不純物半導体間接遷移、超格子漁師閉じ込め効果、ショットキ・バリア効果および高温超電導の5種類が挙げられる。

1.2.1. 真性半導体直接遷移
真性半導体直接遷移は、価電子帯と伝導帯の間(禁制帯)のバンドギャップ・エネルギーが赤外線のフォトン・エネルギーに相当するほど小さい半導体を用いる。そのようなHgCdTeをはじめとする半導体化合物においては、入射した赤外線のフォトン・エネルギーを受取った価電子帯の電子が直接、伝導帯へ励起する(図12)。

図12. 真性半導体直接遷移

1.2.2. 不純物半導体間接遷移
不純物半導体間接遷移は、価電子帯上端より高い(伝導帯の直ぐ下の)エネルギー準位の電子を供給する不純物(ドナー)または、伝導帯下端より低い(価電子帯の直ぐ上の)エネルギー準位の正孔を供給する不純物(アクセプタ)をドーピングすることによって、ドナー準位と伝導帯の間または、価電子帯とアクセプタ準位の間に赤外線のフォトン・エネルギーに対応するエネルギーの小さなバンドギャップを形成するものである(図13)。

図13. 不純物半導体間接遷移

1.2.3. 超格子量子閉じ込め効果
超格子量子閉じ込め効果とは、バンドギャップ・エネルギーが大きいが差の小さな2種類の半導体をnmオーダの厚さで積層すると、差に対応するような小さなバンドギャップ・エネルギーを形成するエネルギー準位が生成される効果である。一方の半導体の価電子帯または伝導帯の中にサブバンドが形成されるタイプⅠ、一方の半導体の価電子帯と他方の半導体の伝導帯の間にミニバンドが形成されるタイプⅡがある。タイプⅡはさらに、一方の価電子帯上端が他方の伝導帯下端よりは下にあるスタガード型と、前者が後者より上になるブロークン・ギャップ型若しくはミスアラインド型に分かれ、ブロークン・ギャップ型はタイプⅢとも呼ばれる。近年は、タイプⅡ超格子と言えばブロークン・ギャップ型の方を指すことの方が多い(図14)。

図14. 超格子量子閉じ込め効果

量子閉じ込めには次元があり、面内の所謂積層による1次元閉じ込めを行ったものを量子井戸、線内に2次元閉じ込めを行ったものを量子細線、点に3次元閉じ込めを行ったものを量子ドットと呼ぶ。閉じ込められていない方向の電場には反応しないので、量子井戸は積層面に垂直入射する赤外線には感じず、これを検知するセンサとするには、積層面に平行に進む赤外線にする散乱面等を設ける必要があり、その分変換効率が低い。量子ドットはどの方向から入射する赤外線にも感じる(図15)。

図15. 量子閉じ込めの次元

1.2.4. ショットキ・バリア効果
ショットキ・バリア効果とは、金属と半導体を接触させた時に、半導体の界面でのエネルギー準位が持ち上がる現象で、相対的に界面から離れた伝導帯のエネルギー準位が下がり、金属において小さなフォトン・エネルギーに対する光電効果で励起した電子がトンネル効果で半導体の伝導帯へ流れることができる(図16)。金属と半導体の適当な組合せを選んで、赤外線フォトンを検知するセンサを構成できる。

図16. ショットキ・バリア効果

1.2.5. 高温超伝導
高温超伝導体の中に形成される電子のクーパー対には赤外線に対応するような小さなエネルギー・ギャップが発生する。これによって生ずる励起電子をトンネル効果で読み出すことにより赤外線センサとして使用することができる(図17)。

図17. 高温超伝導

次回に続く-

参考文献
1) http://en.wikipedia.org/wiki/Infrared
2) J. Byrnes, “Unexploded Ordnance Detection and Mitigation,” Springer, pp. 21-22 (2009)
3) https://www.youtube.com/watch?v=a8FqUWV9G8g
4) https://www.fujitsu.com/jp/group/labs/resources/tech/techguide/list/vein/p04.html
5) D. Acton et al., “Large Format Short Wave Infrared (SWIR) Focal Plane Array (FPA) With Extremely Low Noise and High Dynamic Range,” Proc. of SPIE Vol. 72983E (2009)
6) http://www.sensorsinc.com/applications/military/photonic-mast/
7) https://en.wikipedia.org/wiki/Infrared#/media/File:Human-Infrared.jpg
8) http://www.physics.umd.edu/news/photon/Archives/Issue20.pdf
9) R.D. Hudson, Jr., “Infrared System Engineering” (1969)
10) J.A. Curcio, “Evaluation of Atmospheric Aerosol Particle Size Distribution from Scattering Measurements in the Visible and Infrared,” J. Opt. Soc. A. Vol. 51, No. 5 (May, 1961)

【著者紹介】
中里 英明(なかざと ひであき)
株式会社 富士通システム統合研究所 研究企画部

■略歴
1980年03月 東北大学理学部天文および地球物理学科第1(天文)卒
1980年04月 富士通(株)入社。無線事業部・特機技術部に配属。宇宙・防衛用赤外線機器開発に従事
1981年01月 (株)富士通システム統合研究所に出向。防衛用赤外機器研究・開発に特化。以来、防衛用光波システムの研究・開発に従事。
2011年度~ 防衛装備庁電子装備研究所研究試作「遠距離探知センサシステム」に参画。
2012年度~ 「戦闘機の概念設計および3次元デジタル・モックアップ」等将来戦闘機関連事業に参画。
2004年06月~(一財)防衛技術協会「防衛用赤外・ミリ波技術研究部会」および後継の「赤外・ミリ波センシング研究部会」幹事。
2016年06月~(一社)日本赤外線学会執行役員。
2016年12月 富士通(株)退職、(株)富士通システム統合研究所に再雇用。継続して光波センシング・システムの研究・開発に従事。
2019年05月 (一社)日本赤外線学会理事副会長。

ダイオード方式非冷却赤外線イメージセンサ(1)

三菱電機(株)
先端技術総合研究所
藤澤 大介

1. はじめに

赤外線イメージセンサは、物体(熱源)から輻射される赤外線の分布を画像化するもので、可視のイメージセンサのように光源の物体からの反射光を見るのではなく、物体から放射される赤外線を直接に検知する。さらに、物体が放射するエネルギーはその物体の温度に依存することから、非接触で物体表面の温度を計測することが可能である。赤外線イメージセンサで用いられる波長帯は、大気の窓と呼ばれる、大気が赤外線をよく透過する波長帯から、1~3 µm帯SWIR(Short Wavelength InfraRed,短波長赤外)、3~5 µm帯MWIR(Mid Wavelength InfraRed,中波長赤外)、8~14 µm帯LWIR(Long Wavelength InfraRed,長波長赤外)に分けられ、各波長帯はそれぞれ特徴があり、用途・使用条件に応じて選択される。常温物体からは10 µm近傍の赤外線が最も多く放射されることから、これらの波長帯のうち8~14 µm帯を検知対象とした赤外線イメージセンサは、常温物体の検知に優れ、様々な用途で、広く用いられている。

また、赤外線イメージセンサは、検出原理の違いから冷却(量子型)赤外線イメージセンサと非冷却(熱型)赤外線イメージセンサに大別され、本稿の内容は後者に関するものである。非冷却(熱型)赤外線センサの構造を、図1に示す。赤外線を吸収する赤外線吸収部と温度センサ部から構成された検知部において、赤外線の入射により発生する微小な温度変化を検知する。この微小な温度変化による温度センサの特性変化を、シリコン基板上に形成された読み出し回路により読み出す。温度センサとしては、ボロメータ、ダイオード、強誘電体等、様々なものが用いられている。非冷却赤外線イメージセンサは、シリコン基板上に断熱構造を有する画素(温度センサ)を2次元アレイとして形成したものである。この非冷却赤外線イメージセンサは、冷凍機が不要であることから、赤外線カメラの小型・軽量化、低消費電力化、低コスト化を可能とする。

図1 非冷却赤外線センサ

非冷却赤外線イメージセンサは、Si – LSI技術とマイクロマシニング技術が融合した代表的なセンサであり、近年、マイクロマシニング技術の発展によって着実に性能が向上している。非冷却赤外線イメージセンサには幾つかの方式があるが、我々は、温度センサとして図2に示すSOI(Silicon On Insulator)層に形成した単結晶Siダイオードを用いるSOIダイオード方式を提案し、開発してきた 1-12)。この方式は、温度センサ部にSi単結晶でできたダイオードを使用しており、他方式に比べ、画面内感度均一性が優れた特徴などを有している。ここでは、民生向けなどビジネスの拡大フェーズにある非冷却赤外線イメージセンサの開発技術について紹介する。

図2 ダイオード方式非冷却赤外線イメージセンサ

2. SOIダイオード

非冷却赤外線イメージセンサ画素の断面図を図3に示す。本構造は、高断熱特性と高赤外線吸収を同時に実現する反射膜を有する構造となっている。SOIダイオードが形成された温度センサ部と断熱用支持脚の上方には、温度センサ部と熱的に接触している赤外線吸収膜が形成されている。赤外線吸収膜と断熱用支持脚との間に反射膜が設けられ、この反射膜は、温度センサ部とは熱的に直接接続せずに、周辺の配線部近傍で支えられる。赤外線の一部は赤外線吸収膜を透過するが、温度センサ部と赤外吸収膜の間に設けられた反射膜で反射させ、高い赤外線吸収率を実現している。温度検知部は基板内に形成された空洞の上に支持脚で保持された高断熱構造を有しており、入射赤外線量に応じてSOIダイオードの温度が変化する様になっている。図4に示すように、ダイオードには、外部から順バイアスにより一定電流を流しておき、入射赤外線量をダイオードの温度変化による順方向電圧の変化として読み出す。入射赤外線により温度センサであるSOIダイオードの温度が高くなると、定電流動作において順方向電圧Vfが低くなるSOIダイオードの特性を用いている。

図3 画素断面構造
図4 ダイオード特性

また、SOIダイオード方式非冷却赤外線イメージセンサの被写体温度感度はダイオードの順方向電圧Vfの温度変化係数dVf/dTに比例する。dVf/dTを表す式のmは、画素内に形成されたダイオード直列個数、Ifは順方向電流、kはボルツマン定数、Tは温度、qは素電荷、ISは逆方向飽和電流、nはダイオードの理想係数、EgはSiのバンドギャップである。温度変化係数はダイオードの直列個数Nに依存する為、駆動電圧の範囲でダイオードの直列個数を増すことがセンサの高感度化に寄与する。

次回に続く-

参考文献
1) T. Ishikawa, M. Ueno, K. Endo, Y. Nakaki, H. Hata, T. Sone, M. Kimata, and T. Ozeki : Proc. SPIE, Vol. 3689, pp.556-564, 1999.
2) Y. Kosasayama, T. Sugino, Y. Nakaki, Y. Fujii, H. Inoue, H. Yagi, H. Hata, M. Ueno, M. Takeda, and M. Kimata : Proc. SPIE, Vol. 5406, pp.504-511, 2004.
3) M. Ueno, Y. Kosasayama, T. Sugino, Y. Nakaki, Y. Fujii, H. Inoue, K. Kama, T. Seto, M. Takeda, and M. Kimata : Proc. SPIE, Vol. 5783, pp.567-577, 2005.
4) H. Hata, Y. Nakaki, H. Inoue, Y. Kosasayama, Y. Ohta, H. Fukumoto, T. Seto, K. Kama, and M. Takeda : Proc. SPIE, Vol. 6206, 620619, 2006.
5) M. Kimata, M. Ueno, M. Takeda, and T. Seto : Proc. SPIE, Vol. 6127, 61270X, 2006.
6) Y. Kosasayama, T. Sugino, Y. Nakaki, M. Ueno, and K. Kama : The Japan Society of Infrared Science and Technology, The 49th meeting, Feb., 2008.
7) T. Ohnakado, M. Ueno, Y. Ohta, Y. Kosasayama, H. Hata, T. Sugino, T. Ohno, K. Kama, M. Tsugai, and H. Fukumoto : Proc. SPIE Vol. 7298, 72980V, 2009.
8) D. Takamuro, T. Maegawa, T. Sugino, Y. Kosasayama, T. Ohnakado, H. Hata, M. Ueno, H. Fukumoto, K. Ishida, H. Katayama, T. Imai and M. Ueno : Proc. SPIE Vol. 8012, 80121E, 2011.
9) D. Fujisawa, T. Maegawa, Y. Ohta, Y. Kosasayama, T. Ohnakado, H. Hata, H. Ohji, R. Sato, H. Katayama, T. Imai and M. Ueno : Proc. SPIE, Vol. 8353, 83531G, 2012.
10) D. Fujisawa, S. Ogawa, H. Hata, M. Uetsuki, K. Misaki, Y. Takagawa, and M. Kimata : Proc. MEMS 2015, pp.905-908, 2015.
11) D. Fujisawa, Y. Kosasayama, T. Takikawa, H. Hata, T. Takenaga, T. Satake, K. Yamashita and D. Suzuki : Proc. SPIE, Vol. 10624, 1062421, 2018.
12) D. Fujisawa, Y. Kosasayama, T. Takikawa, H. Hata, T. Takenaga, T. Satake, K. Yamashita and D. Suzuki : Proc. SPIE, Vol. 11002, 110022C, 2019.

【著者紹介】
藤澤 大介(ふじさわ だいすけ)
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 主席研究員

■略歴
2002年,豊橋技術科学大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 修士課程修了.
2005年,同大学院工学研究科電子情報工学専攻 博士後期課程修了.
同年,三菱電機株式会社に入社.
同年より赤外線固体撮像素子の研究開発に従事し,現在に至る.
博士(工学).

近赤外蛍光樹脂による患部可視化(1)

高知大学医学部循環制御学
教授 佐藤 隆幸

1 はじめに

近赤外蛍光は、生体深部を可視化する”ひかり”として有用であることから、医療応用がすすんでいる。近赤外蛍光色素の一種インドシアニングリーン(ICG)を用いたセンチネルリンパ節同定、術中冠動脈グラフト造影、術中脳血管造影などは、すでにその多くが医療保険適用となっている。しかし、ICGを用いた医療イメージング1)-6)が普及するにともない、その欠点を指摘する声も聞こえてきた。本稿では、近赤外蛍光樹脂による患部可視化に関する研究成果を紹介する。

2 ICGによる蛍光標識法の短所

ICGは、水溶性であることから、体内のリンパの流れや血液の流れを可視化する目的には適している。しかし、このようなICGの特徴は、長所となるとともに短所ともなっている。

(1)低い量子収率
ICGの量子収率(分子が吸収した励起光フォトン数に対する、発光フォトン数の割合)は1~2%前後であるため、近赤外蛍光(波長800~850nm)はきわめて微弱である。そのため、大出力レーザ光で強い励起光(波長740~800nm)を照射する方法や冷却型撮像素子で感度を上げる方法などが開発されているが、いずれも医療現場、特に手術室では使いにくい。レーザに対する保護メガネをかけるのは面倒であるし、また、術野近くに配置するカメラには滅菌袋を被せなければならないため、冷却性能が著しく劣化するおそれがある。

(2)易分解性
ICGは、水溶液中では光分解性が高いため、固形の状態での厳重な遮光保存が必要である。したがって、使用する場合には、直前に固形色素を蒸留水に溶解するという作業を行わなければならない。これは、医療現場ではかなり煩雑な作業であると言わざるを得ない。

(3)顕著な濃度消光現象
ICGは、濃度消光の現象が著明であるため、最適な蛍光強度を得るための用量の設定が困難である。なぜなら、体内に投与後にリンパ液や組織液等によってどの程度ICGが希釈されるかを予想して、投与する用量を決めなければならないからである。

(4)可溶性・易拡散性
最も大きな問題は、この点であろう。ICGが水溶性であるがゆえ、正確に患部を標識する目的には用いることができない。ICG水溶液を患部に直接注入した場合、あるいはまた、ICG水溶液を体内留置物に塗布して用いた場合は、ICGが溶出・拡散してしまい、標識目的の患部の位置が不明瞭になってしまう。不具合の具体例としては、軟性消化管内視鏡によるICG蛍光点墨法が挙げられる。術前に内視鏡を使って、患部あるいはその周辺の粘膜下にICGを注入し、術中に漿膜面からICGから発せられる近赤外蛍光を目印として患部を同定する方法である。
ICGは注入後速やかに粘膜下層・筋層に沿って拡散するため、患部の正確な位置の特定が困難となる。そのため、患部をピンポイントにナビゲーションできる技術が求められている。

(5)肝集積性
生体に投与されたICGは、最終的には、すべて肝細胞に取り込まれた後、胆汁内に排泄される。この特徴を利用して、肝細胞癌の術中局在診断に用いることができるが、尿中には排泄されないため、尿管の描出には使用できない。脂肪組織に埋もれて走行している尿管は、視認不能であるため、腎臓、子宮、卵巣の鏡視下手術の際に尿管を損傷することがある(合併症リスク約2%)7)。したがって、後腹膜の脂肪組織内に隠れた尿管の走行を可視化できる技術が求められている。

3 発想の転換

ICGの化学構造から出発して,上記のようなICGの欠点を解決する試みが多くなされているが,水溶性・易拡散性のICGでは,上記にあげた欠点を解決することが原理的に不可能である8)
そこで,筆者は,生体深部の構造や位置をピンポイントに可視化するための手法として,「近赤外蛍光色素を注入して可視化する」という発想を大転換して,「近赤外蛍光色素を溶融混練した樹脂製の標識具を留置して可視化する」技術を考案し、製品化を目指している。

次回に続く-

参考文献
1) http://www.hypereye.jp/
2) Marshall MV、 Rasmussen JC、 Tan IC、 et al: Near-infrared fluorescence imaging in humans with indocyanine green: a review and update. Open Surg Oncol J 2; 12-25: 2010.
3) 佐藤隆幸: 近赤外蛍光を利用した血管・血流、リンパ管・リンパ節の可視化装置の開発. Medical Photonics No. 2; 45-47: 2010.
4) Handa T、 Sasaguri S、 Sato T: Preliminary experience for the evaluation of the intraoperative graft patency with real color charge-coupled device camera system: an advanced device for simultaneous capturing of color and near-infrared images during coronary artery bypass graft. Interact Cardiovasc Thorac Surg 9; 150-154: 2009.
5) Handa T、 Katare RG、 Nishimori H、 et al: A new device for the intraoperative graft assessment: The HyperEye charge-coupled device camera system. Gen Thorac Cardiovasc Surg 58; 68-77: 2009.
6) Yamauchi K、 Nagafuji H、 Nakamura T、 et al: Feasibility of ICG fluorescence-guided sentinel node biopsy in animal models using the HyperEye Medical System. Ann Surg Oncol 18; 2042-2047: 2011.
7) 郭翔志、清水良彦、脇ノ上史朗 他: 腹腔鏡下手術における発光尿管カテーテルを用いた尿管損傷予防の工夫. 日本産科婦人科内視鏡学会雑誌 26; 541-544: 2010.
8) http://www.licor.com/

【著者紹介】
佐藤 隆幸(さとう たかゆき)
高知大学医学部循環制御学 教授

■略歴
1985年 高知医科大学 卒業
1985年 東京女子医科大学 循環器内科    研修医・レジデント
1994年 国立循環器病センター研究所     研究員
2000年 高知医科大学医学部循環制御学    教授
2003年 高知大学医学部循環制御学      教授(大学統合による転任)
2019年 大学発ベンチャー ニレック株式会社 代表取締役

大学における研究成果を活用して,動脈可視化や蛍光ガイド技術の製品化研究に従事している。

赤外線で脳を観る fNIRSを使える研究ツールにするために(1)

中央大学理工学部人間総合理工学科
教授 檀 一平太

1.fNIRSとは?

光を頭の上から照らして,跳ね返ってきた光から脳の活動を読み取る-そんな夢のような方法がfNIRSである。省略なしの名称は,functional Near-InfraRed Spectroscopy(機能的近赤外分光分析法)で,頭文字をつなげて,エフニルスとよぶ。
fNIRSによる脳機能の計測は,大がかりな計測器や特別のスペースを要するわけではない。fNIRSの本体は,ハイエンド機種でも小型のコピー機程度のコンパクトさである。押せばキャスターで動き,日常的な環境ならばたいていの場所で使用することができる。生体に影響をおよぼすことなく,非侵襲的に脳機能の計測ができる。ハイエンドの多チャンネル機であれば,大脳の広い領域をカバーすることも可能である1,2)
fNIRSの計測はとても簡単だ。頭の上に帽子のような測定器をかぶるだけで,脳のはたらきを見ることができる(図1)。帽子の内側には,光を送る送光器と光を受け取る受光器が互い違いに並んでいる。帽子から送られてきた信号は,コンピュータの画面にリアルタイムで映し出される。線グラフとして。あるいは,脳の活動を表すマップとして。

図1 fNIRSによる計測風景。
日常的な環境での計測が可能で,被験者の負担も少なく,比較的自由に実験課題を設定できる。

たとえば,右手を開いたり閉じたりを繰り返すと,左耳の上あたりのマップが赤く光る。大脳左半球の運動野で神経が盛んに活動して,脳の血流が増えているためである。あるいは,つぶやきながら一人でしりとりを始めると,左側のこめかみの上あたりのマップが光り出す。言語の生成をつかさどるブローカ野の活動が高まったためである。このように,現実に起こっている行動が,脳の活動として表される。fNIRSを通して,われわれは現実世界の背景に存在する脳内表象を垣間見ることができるのである。

一見,fNIRSは脳機能を簡便に計れる夢の機器のようにも思える。実際,脳を測るという想いを抱きつつ,われわれの研究室を訪れる客人は多い。fNIRSで「食品のおいしさをはかりたい」,「消費者の好みをはかりたい」,「商品の心地よさをはかりたい」といった具合に,夢の活用プランを熱心に語ってくださる。しかし,もうしわけないことに,夢を打ち砕いてしまうというケースがほとんどである。とはいえ,われわれの研究室はfNIRSに関する共同研究の成功率が高い方で,「ADHD(注意欠如多動症)の治療効果の評価」3),「運動が認知機能におよぼす影響の評価」4),「ファンデーションの価値評価」5)など,日の目を見た共同研究もある。では,fNIRS研究の成功と失敗を分ける違いはなんなのだろう?その答えは,fNIRS計測の特徴と限界を知り,適切に使用するという,いわば当然の解答である。いくつかの重要な点に的を絞り,解説をこころみていく。

2.fNIRSは大脳の外側しか計れない。

fNIRS計測では,頭の上においた送光器から脳に向かって近赤外光を照らす。ただし,最近は赤色光もよく使われる。波長の長い光は生体への透過性がよく,散乱と反射を繰り返しながら,皮膚を超え,頭蓋骨を超え,脳脊髄液と硬膜を超え,脳組織まで届く(図2)6)。脳組織には血管が張りめぐらされている。血液に含まれるヘモグロビン分子は光をよく吸収する。しかし,吸収されなかった光のうち,一部は脳組織から反射と散乱を繰り返し,頭皮に戻ってくる。このとき,脳活動が盛んになって血流量が増えると,光は多く吸収される。このため,頭皮に戻ってくる光の量も減ることになる。この変化をモニタリングすることによって,脳組織中の血流量の変化がわかるわけである7)

図2 fNIRSで用いる近赤外光の生体内での伝播。
受光器で検出される光が生体組織をどのように通過するかを示している。赤色が濃いほど,通る光量は多い。点線は,脳組織を通る光路の典型的な例を示している。文献6を基に作成。

では,光はどのくらいの深さまで通るかと言うと,実は,脳の表面にしか到達しない。そもそも,脳組織は表面が灰白質,内部が白質というように,白っぽい色をしている。白は光を反射するから白いということを考えれば,脳組織に光が通りにくいということは,想像に難くない。実際,慶應大の岡田英史教授らが行なった光伝播のシミュレーションによると,光は脳の表面を主に通ることが明らかになっている。送受光器の間隔を広げても,光はあまり深くには行かず,脳組織の表面を這うように進んでいく6)
脳からの信号を運ぶ光の特性を考えると,fNIRSでは脳の深部の活動が計れないことは明らかである。したがって,大脳皮質の深部や,大脳辺縁系の活動は計ることができない。たとえば,快不快の中枢である扁桃体や,報酬系の中枢である線条体,記憶整理の中枢である海馬などの脳血流変化はfNIRSではとらえられない。となると,好き嫌い,気持ちよさ,既知か否かといった情報を,脳の信号としてfNIRSから読み取ることは困難である。
このような場合,研究上の問いを,fNIRS計測の土俵に持ってくるという工夫が必要になってくる。たとえば,われわれは資生堂との共同研究で,化粧の下地となるファンデーションの評価に関わる脳活動をfNIRSで計測した5)。単純な好き嫌いに着目した場合,fNIRSは絶望的なツールにしかなりえない。そこで,われわれはファンデーションの価格判断に着目した。
過去のfMRI(機能的核磁気共鳴撮像法)研究では,大脳皮質の外側にある右前頭前野の背外側部が価格判断に関係した領域であることが分かっている8)。なお,fMRIは磁気を用いて血流変化の計測ができる装置である。fNIRSと違って脳全体を測ることができるが,機械が大がかりで,騒音が多く,動きに弱いという欠点もある。
fMRI研究を参考にして,ファンデーションを塗布した後,価格判断をする際の脳血流変化をfNIRSで計測した。各個人ごとにファンデーションの価格評価は異なるので,脳血流変化との相関係数を算出した。個人間で安定的に相関の高い脳領域を調べたところ,右前頭前野の背外側部が関与していることを見いだした6)。このように,fNIRS研究においては,研究上の問いをそのまま解くより,fNIRSで解きやすい問題にすり替えるということが有効な場合が多々ある。
あるいは,fNIRSが得意な分野に研究対象を持っていくというアプローチもある。たとえば,成人の頭部というのは頭蓋骨が発達していて光が通りにくいが,乳幼児の頭部は光が通りやすい。また,fMRIのスキャナーの中に乳幼児を連れて行くの困難であるが,fNIRSを乳幼児の頭に装着して脳機能を測るということは”比較的”簡単である。ここで強調したのは,あくまでも比較上の問題であって,実際の乳幼児計測はかなり難易度が高い。日本の場合,日立製作所と島津製作所というfNIRSメーカーが早くから計測サポートに力を入れたという歴史もあって,乳幼児研究は盛んである。東京大の多賀研,開研,慶應大の皆川研,中央大の山口研など,国際的にも有力な研究室が多い。

3.fNIRSは2種類のヘモグロビン濃度「由来の信号」を測る

これまでは,ざっくりと脳の血流量変化と記載したが,実際にはfNIRSは酸素化ヘモグロビン(OxyHb)と脱酸素化ヘモグロビン(DeoxyHb)の濃度変化を信号としてとらえる。fMRIは両者が合わさって生じるBOLD信号の計測しかできないので,ヘモグロビンの分離計測はfNIRSのメリットでもある。
2種類のヘモグロビン濃度変化は生理的には異なる意味を持つ。脳のある領域で局所的に神経活動が増えると,代謝が活発になるため,酸素消費量が増える。このためOxyHb濃度が減少し, DeoxyHb濃度が上昇する7)。これは数百ミリ秒〜1秒程度で起こる比較的速い反応で,図3のように信号変化として観察できることもある。このままでは脳組織は酸欠状態に陥ってしまうが,その後,神経活動の興奮を,グリア細胞の一種であるアストロサイト(星状細胞)が感知し,毛細血管を拡張するという神経血管連関という仕組みを通して,血流速度と血流量が増加する9)。OxyHbを多く含む動脈血が流れ,神経の代謝でdeoxyHbが増えた静脈血が洗い流されるので,OxyHb濃度が大幅に上がり,DeoxyHb濃度は減る(図3)。この反応は,神経の興奮から数秒で起こる。fNIRSが測るのは,主にこの遅い方の変化である。

図3 典型的な脳血流動態。指運動課題遂行時の脳活動を示してある。
赤線がOxyHbで青線がDeoxyHbの時系列データを表す。課題遂行期間をグレーの背景で示してある。黒矢印はdeoxyHbの初期増加,青矢印はdeoxyHbの減少ピーク,赤矢印はoxyHbの増加ピーク。

一般的には信号強度が強く出るOxyHbを使用することが多いが,解析方法によってはDeoxyHbの方がノイズの影響を受けにくくなることもある10)。両者を積極的に用いて大脳皮質の毛細血管由来の信号を効率的に抽出したり11),体動除去用のフィルターに用いるという用途も提案されている12)
fNIRSで2種類のヘモグロビン濃度信号変化を計測するためには,2波長以上の光度変化のデータに修正ビア・ランベルト法(MBLL)を用いる13)。ただし,MBLLを厳密に適用するには光が生体を通る光路長の情報が必要である。ところが通常のfNIRSではその計測ができない。時間分解計測法(Time-Domain Spectroscopy:TDS)という特殊な方法を用いれば光路長の計測はできるが1),数チャネルまでの利用にとどまっている。
このため,現実的には光路長が未知のまま計測を行なうという方法が一般的に用いられている。したがって,fNIRSが測定するのは,ヘモグロビン濃度の変化ではなく,ヘモグロビン濃度変化と光路長の積で表されるヘモグロビン信号変化となる14)。定量性の点では妙な気もするが,fMRIで計測されるBOLD信号にヘモグロビン濃度変化に対応する単位はない。脳波の電気信号にも,生理学的に対応する単位はない。

このようなfNIRS計測の制限を考えると,データの取り扱いには注意が必要である。具体的には,異なる領域,異なる被験者間でのヘモグロビン濃度信号値を直接に比較はしないという配慮は必要である。一方で,光路長が近い隣接チャネルの信号値をまとめる,左右半球の対応チャネルの信号値を比較するという処理は問題ない15)。そして,次章で述べるように,このような計測の限界を考慮した上で,統計的に計測信号を扱うということが,脳機能計測の一般的なアプローチである。

4. fNIRSデータの半定量性は統計的処理で解決

光路長情報の欠如によってfNIRSで得られるヘモグロビン信号データは定量的とはいいがたい。とはいえ,同じ被験者の同じチャンネルであれば,信号が増えたか減ったかは半定量的には判断できる。このような半定量的データに対しては,「認知的差分」という手法が有用である。これは,2つの異なる認知的な状態を比較する方法である。たとえば,安静状態となんらかの認知課題遂行時のヘモグロビン信号強度の比較をおこなう。そして,この際の変化量は課題遂行によるヘモグロビン濃度の変化に起因すると考えるわけである。
一般的には,主に2種類の認知的差分法を用いる。ブロックデザインと事象関連デザインである(図4)。ブロックデザインは,ベースラインとタスクといった2つの認知状態が交互に現れるというデザインである。血流反応の変化が数秒を要するので,2つの認知状態は少なくとも10秒程度は空けるようにする。タスクの繰り返しは数回から十数回が一般的で,数種類のタスクを混ぜることもある。

図4 ブロックデザインと事象関連デザイン。
上段はブロックデザインのGo/Nogo課題で, A,D,Cはボタンを押す刺激。Dはボタンを押さない刺激。下段は事象関連デザインのストループ課題で,それぞれの刺激に対して文字の色を答える。青枠は課題の遂行時間。ともに,実測波形およびHRF(脳血流動態関数)とのたたみ込みからの予測波形を示している。本図は文献2から改変。

一方,事象関連デザインは,ベースライン条件の間に1~数種類の事象を生じさせ,脳活動を引き起こす。事象の提示時間が短いので,脳活動変化は小さめになりがちだが,個々の事象と脳活動の関連性を明確に関連付けることができる。
いずれのデザインについても異なる条件間でヘモグロビン信号の差分値を算出し,ある認知状態に対応する脳活動を抽出することになる。脳活動の抽出には,区間平均値を用いるか,時系列データをモデル関数に回帰させ,その回帰係数(β)を求めるのが一般的である10)。これらをファーストレベル解析と呼ぶ。ちなみに,後者は通称GLM(一般線形モデル)解析と呼ばれている。しかし,本来は,モデル関数への回帰分析であって,fMRI研究で用いられた特殊な用語が,そのままfNIRSにも転用されてしまった状態になっている。
通常の実験では,ファーストレベル解析において差分値やβ値が被験者ごとに1セット得られる。これらの値をサマリー統計値と呼び,次に被験者間でt検定や分散分析といった統計的手法で解析する。これをセカンドレベル解析という。このようなプロセスを経て,ある認知状態に対応する脳活動が有意なレベルで大きいか否かを統計的に検証していくわけである。
センシングの分野では定量性が極めて重要な意味を持つが,fNIRSで脳活動を計測する場合には,定量性へのこだわりは得策ではない。計測される信号の曖昧さを許容した上で適切な統計手法を適用するというアプローチが現実的である。一方で計測信号に含まれる曖昧さには,生理的ノイズも含まれる。この点については次章で述べるように別の配慮が必要である。

5.脳以外のシグナル

fNIRSで計測されるヘモグロビン信号は脳活動由来のものだけではない。表皮の上に送受光器を設置する以上,その直下にある皮膚の血流はノイズとして混入してくる(図2)。さらに,全身の血流に伝播している全身性の生理信号の混入も考慮しなければならない。
これらのノイズのうち,脈波,呼吸など,周期が規則的なものは問題なく取り除くことができる。一方で,周期的ノイズのうち自律的低周波振動と呼ばれる0.01-0.15Hz程度の波は,扱いが厄介である(図5)。この波は,心肺機能の揺らぎ由来の周期的な生理振動であることは分かっているが,生成のメカニズムは未だ不明である16)

図5 低周波自律振動の例。
Go/Nogo課題遂行時の成人脳活動データから,0.01-0.1Hz帯域のデータを抽出し,時系列データとしてプロットしたもの。十数秒周期の緩やかな律動が観察できる。

自律的低周波振動の問題は,その周期がブロックデザインにせよ事象関連デザインにせよ認知課題の周期と干渉しやすいという点にある。脳の血流動態反応は標準的には血流が上昇して下降が終わるまでの1サイクルが16秒程度である。課題のサイクルはこれ以上の長さであることが多いため,自律的低周波振動と重なってしまうことがしばしばある。課題のサイクルが20秒以上の場合は,倍周期で重なる可能性も出てくる。
自律的低周波振動を回避するための明確な方法があるわけではない。まずは,課題周期をずらすという方法があるが,ノイズ軽減といった程度の効果である。このような場合,一般論にしたがって,ノイズのレベルが抑えがたい場合,シグナルを増やすことが有用である。

たとえば,われわれが行なっているADHD研究においては,抑制機能を調べるためにGo/Nogo課題を使っている3)。Go課題では,小児の被験者にPC画面に「どんな動物が出てもボタンを押して」と指示する。それに続くNogo課題では,「虎が出たらボタンを押して,でも象が出たらボタンを押さないで」と指示する。このときOxyHbについてNogo課題とGo課題の差分値を比較すると,右前頭前野の中前頭回と下前頭回の境界付近の限局された領域に脳の活動が観察できる(図6)。限局されている信号であれば,課題との特異性が高い脳活動であれという論理的判断が成り立つ。さらに過去のfMRI研究からもGo/Nogo課題における右前頭前野が活動することが分かっており,この点でも理にかなった脳活動であると言える。このように複数の根拠から妥当性が高いと判断できる脳活動をわれわれはニューロマーカーと呼んでいる。

図6 限局された脳活動の例。
定型発達児がGo/Nogo課題を遂行している際の脳活動を示している。左は,標準脳座標系上での脳活動情報。右下前頭回(IFG)と右中前頭回(MFG)の間に位置しているチャネル(CH)10のみに有意な脳活動が見られる。右図は同じCH10の時系列データ。OxyHb信号の有意な上昇が,課題遂行時に観察できる。

課題と同期するさらにやっかいな信号は覚醒や緊張状態の変化である。これは交感神経の働きによって皮膚の血管が拡張するという反応だ。緊張を伴う課題には出やすいノイズである。この場合,脳の反応よりも早期に血流の変化が現れる。このノイズは,皮膚血流のすばやい変化であるため,送受光器間距離の短い配置を組み込むことによって取り除ける場合もあるが17),それ以前に,覚醒や緊張状態の変化を伴う課題設定を避けるという配慮が適切である。この皮膚血流変化は広い領域で現れるため,上記のように限局された活動であれば,特に問題が生じるわけでもない。この意味でも,頑健なニューロマーカーを見いだすことは,fNIRS研究を成功させる秘訣であると言える。

次回に続く-

1) M. Ferrari, V. Quaresima, A brief review on the history of human functional near-infrared spectroscopy (fNIRS) development and fields of application, Neuroimage 63, 921-35 (2012)
2) 檀一平太, fNIRSによる脳機能研究:スペクトロスコピーからイメージングへ, オプトロニクス, 3月号 (2019)
3) Y. Monden et al., Right prefrontal activation as a neuro-functional biomarker for monitoring acute effects of methylphenidate in ADHD children: An fNIRS study, Neuroimage Clin. 1, 131-40 (2012)
4) H. Yanagisawa et a., Acute moderate exercise elicits increased dorsolateral prefrontal activation and improves cognitive performance with Stroop test. Neuroimage. 50, 1702-10 (2010)
5) K. Kawabata-Duncan et al., Willingness-to-pay-associated right prefrontal activation during a single, real use of cosmetics as revealed by functional near-infrared spectroscopy. Front Hum Neurosci. 13, 16 (2019)
6) E. Okada E, D.T. Delpy, Near-infrared light propagation in an adult head model. II. Effect of superficial tissue thickness on the sensitivity of the near-infrared spectroscopy signal, Appl. Opt. 42, 2915-22 (2003)
7) H. Obrig, A. Villringer, Beyond the visible–imaging the human brain with light, J. Cereb. Blood Flow Metab., 23, 1 (2003).
8) H. Plassmann, et al., Orbitofrontal cortex encodes willingness to pay in everyday economic transactions, J. Neurosci. 27, 9984–88 (2007)
9) P. G. Haydon, G. Carmignoto, Astrocyte control of synaptic transmission and neurovascular coupling, Physiol. Rev., 86, 1009 (2006).
10) M. Uga et al., Optimizing the general linear model for functional near-infrared spectroscopy: an adaptive hemodynamic response function approach, Neurophotonics, 1, 015004 (2014)
11) T. Yamada et al., Separation of fNIRS signals into functional and systemic components based on differences in hemodynamic modalities, PLoS One. 7, e50271 (2012)
12) X. Cui et al., Functional Near Infrared Spectroscopy (NIRS) signal improvement based on negative correlation between oxygenated and deoxygenated hemoglobin dynamics, Neuroimage 49, 3039-46 (2010)
13) M. Cope et al., Methods of quantitating cerebral near infrared spectroscopy data, Adv. Exp. Med. Biol., 222, 183 (1988).
14) A. Maki et al., Spatial and temporal analysis of human motor activity using noninvasive NIR topography, Med. Phys., 22, 1997 (1995).
15) A. Katagiri et al., Mapping of optical pathlength of human adult head at multi-wavelengths in near infrared spectroscopy, Adv. Exp. Med. Biol. 662, 205-12 (2010)
16) Y. Tong tet al., Low frequency systemic hemodynamic “noise” in resting state BOLD fMRI: Characteristics, causes, implications, mitigation strategies, and applications. Front. Neurosci. 13, 787 (2019)
17) S. Brigadoi and R.J. Cooper, How short is short? Optimum source-detector distance for short-separation channels in functional near-infrared spectroscopy. Neurophotonics, 2, 025005 (2015)

Functional neuroimaging using fNIRS: from “spectroscopy” to “imaging”
Ippeita Dan
Professor, Applied Cognitive Neuroscience Laboratory, Faculty of Science and Engineering, Chuo University

【著者紹介】
檀 一平太(だん いっぺいた)
中央大学理工学部人間総合理工学科 教授

■略歴
1969年生まれ。国際基督教大学教養学部理学科生物学専攻卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退。日本学術振興会特別研究員,科学技術振興事業団研究員,健康食品会社営業員等を経て,食品総合研究所に入所。PD,研究員,主任研究員,自治医科大学医学部先端医療技術開発センター脳機能研究部門准教授を歴任。
2013年より,中央大学理工学部人間総合理工学科教授。学術博士。キャリア初期の専門分野は分子生物学。その後,脳科学と食品科学の融合分野の開拓に従事し,fNIRS(近赤外分光分析法)の空間解析手法の確立,fNIRSによる味覚記憶に関する研究などの成果を挙げるとともに,ヒトの脳における認知構造を活用した食品開発法の探索を行った。現在の主な研究テーマは,fNIRSによる脳機能イメージング法の医療応用,fNIRSの空間解析手法の開発,および,サイコメトリクスによる食生活QoLの解析,マーケティング応用等。 2007年に味覚記憶の脳機能イメージング研究により安藤百福賞・発明発見奨励賞受賞。NEDO産業技術研究助成事業,生研センター新技術新分野創出のための基礎研究推進事業,JST-RISTEX等のプロジェクトリーダーに従事。
現在は,Neurophotonicsの創設エディター,SfNIRS理事,2020年fNIRS Conference共同大会長。また,中央大学研究開発機構にて,サイゼリヤ食認知科学研究ユニット長。英文有査読論文発表数100,被引用総数7400,h指数37。研究の傍ら,筑波山麓の里山にて菜園生活を営んでいる。趣味はロングボードサーフィン。

新型コロナウイルスの最新情報をSNSから抽出・配信 3月2日より無償提供開始

(株)Specteeは、当社の危機管理情報サービス「Spectee(スペクティ)」に、新型コロナウイルスに関する最新情報をSNS(※1)から収集し、地図情報とともに表示する特設チャンネルを設置した。

スペクティを利用しているすべての企業・自治体・官公庁は、本チャンネルより新型コロナウイルスに関する動向や、企業による対策状況などを一元的に見られるようになるという。国内のみならず、海外の動向もいち早くキャッチできるとしている。

また、スペクティをまだ利用していない企業・自治体にも、新型コロナウイルスによるBCM(事業継続マネジメント)に活用して貰うことを目的に、1か月間無償で提供する。

(※1) 対象SNSは、ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、ティックトック。

ニュースリリースサイト(Spectee):https://spectee.co.jp/news-media-20200302/

ポケットサイズのハンドヘルド4Kカメラ 「POMi」発売

(株)ロア・インターナショナルはHACRAY (ハクライ)から、3軸のメカニカルジンバルが縦・横・前後の手ブレを自動で調整し、スムーズな動画撮影を可能にしたハンドヘルドカメラ「3軸スタビライザー搭載4Kカメラ POMi Pocket Gimbal(ポミ ポケットジンバル)」を発売した。

この製品は1/3.06” CMOSセンサーと110°の広い視野角で体験をそのままに記録、ダイナミックで臨場感あふれる映像や、一人称視点のFPVでの視界を再現して撮影が出来る4Kハンドヘルドカメラ。
移動しながらの撮影でも手ブレを自動で補正するので、動きながらの撮影はもちろん、映画のようなスリリングなアクションも滑らかに撮影出来るという。

●最大4K/30fpsの解像度、1/3.06” CMOSセンサと110°の広い視野角。
特長の一つは最大4K/30fpsの解像度・110°の広い視野角で、鮮明で美しい映像を残せること。12メガピクセル(1200万画素)の高解像度での写真撮影も可能だとしている。

HACRAY (ハクライ)公式サイト:https://www.hacray.com/

問題解決×プログラミングを含めたオンライン教材の無償提供を開始

(株)ライカーズアカデミアは新型コロナウイルスの影響による各種学校の休校の状況に対し、自宅等でクリエイティブな学びのサポートするため、期間限定でオンライン教材を無償提供する。
現在、学校の主要5科目の学びをサポートするオンライン教材が多い中、「スクーミー」は子どもたちの創造力を向上させることのできる教材、またクリエイティブな活動に興味を持ってもらえるような教材を提供することで、子どもたちがよりものづくり・創作活動に興味をもてる環境を自宅でも構築できるようにし、現在の教育課題の解決と突破を目指すとしている。

スクーミーは、オンラインコンテンツDAYsと、ITリーダー育成の「SchooMyLEADERS」の特別コンテンツとして、「感染症対策・予防」をテーマにしたオンライン学習コンテンツを提供していくという。学校の休校やイベントの中止に伴い、感染症の対策や予防を呼びかけられている中、より子どもたちの危機管理意識や当事者意識を持ってもらうために用意されたコンテンツとなる。講義は全てオンラインで行い、全コンテンツ3回(60分×3コマ※予定)で構成されている。
人数限定で、授業料・入会金無料、とキットのレンタルもしくは購入で行う。講座終了後に購入することも可能。

▽感染症対策×問題解決×プログラミングのページ(SchooMy):http://schoomy.com/onlinequest01/

5Gを活用したスマート物流の実現に向けた実証実験

Wireless City Planning(株)(WCP)と日本通運(株)は、シャープ(株)およびソフトバンク(株)と協力し、総務省の「多数の端末からの同時接続要求を処理可能とする第5世代移動通信システムの技術的条件等に関する調査検討の請負」において、第5世代移動通信システム(以下「5G」)およびIoT機器向けのLTE規格であるCat. M1(カテゴリーエムワン)などを活用して、物流の効率化によるスマート物流の実現に向けた実証実験を、日本通運の江古田流通センター(東京都練馬区)および奈良ロジスティクスセンター(奈良県大和郡山市、シャープの奈良事業所周辺)で、2020年1月下旬から2月下旬まで実施したとのこと。

現在ドライバーの不足や働き方改革などに対応するため、効率的な集荷システムの構築が望まれている。また、MaaS(Mobility as a Service)の発展とともに、貨客混載や共同輸送などさまざまな輸送方法が提案されており、積載データの可視化のニーズが増えてきている。

このような課題やニーズに対して、WCPと日本通運は、ソフトバンクが開発した「おでかけ5G」(高い通信品質のサービスを局地的に提供できる可搬型5G設備)のネットワークを活用して、LiDAR(レーザースキャナー)によるトラックの積載状況の可視化や加速度センサなどによる荷室への積み込みを判定する実証実験を行った。また、Cat. M1などを活用して、荷物の温度状態および積載重量を確認する実証実験も行ったとのこと。

今回実施した実証実験は以下の通り。
1. 5GやMECサーバーを活用したトラックの積載状況の可視化および荷室への積み込み判定(江古田流通センター)
2.Cat. M1のセンサーを活用した荷物の温度状態や積載状態の確認(奈良ロジスティクスセンター)

WCPと日本通運は、今後も5GやIoTを活用したさまざまな検討を進めていくとしている。

ニュースリリースサイト(日本通運):https://www.nittsu.co.jp/press/2020/20200219-3.html

総務省の5G(第5世代移動通信システム)総合実証実験に参加

JIG-SAW(株)と酒井重工業(株)は、総務省が令和元年度に行っている5G総合実証試験において、KDDI、大林組、NECと共同で、5Gを用いた「ICT施工」の実証実験に参加した。

 当該実証試験では、JIG-SAWと酒井重工業が共同で行うASCS(「Auto-Drive Synchronized Control System」)プロジェクトで開発した自律走行式ローラを5Gネットワークに接続し、遠隔からの施工開始や施工状況を見ながら一時停止するなど、他の建機群と協調して一連の施工を行うことに成功したとのこと。

 今後も本実証実験に参加することで得た知見を製品・サービスにフィードバックするとともに、より一層利便性、生産性を向上させ、ICT施工分野に大きく貢献できる技術及びサービス開発を推進していくとしている。

ニュースリリースサイト(JIGSAW):https://www.jig-saw.com/news/20200220/