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IoT デバイスを1個から購入可能な「SORACOM IoT ストア」4月23日開設

(株)ソラコムは、ソラコムウェブサイトにて、IoT活用で必要となるデバイスを気軽に選択し、購入することができる「SORACOM IoT ストア」を、新たに2020年4 月23日より開設を発表した。

この度、ソラコムのウェブサイトに「SORACOM IoTストア」を開設し、IoT デバイス販売を強化する。利用者は、ウェブサイトから用途に合った IoT デバイスを選び、その場でショッピングカート機能を用いて購入できるようになるという。

さらに、温湿度の簡易計測、ドアの開閉の検知、監視カメラ、位置情報取得、ボタンを利用した呼び出しシステムといった IoT 活用を始めやすい典型的な7つのユースケースについて、デバイスの開発からクラウド連携までを解説したIoT 活用レシピを提供。デバイス開発が初めての人も、クラウド連携に不慣れな人も、購入前の開発手順確認や、購入後のハンズオン手引として本レシピを利用することで、より IoT 活用をスムーズに始められるようになるとのこと。

4月23日時点では、本ストアで合計31種類の IoT デバイスと、日本国内で利用できる IoT SIMを取り扱う。なお、提供デバイスおよび、IoT 活用レシピは、徐々に拡充していくとしている。

「SORACOM IoTストア」サイト:https://soracom.jp/products/

オン・セミ、Wi-Fi6Eアプリケーション向けQCS-AX2シリーズを新発売

オンセミコンダクターは、拡張された Wi-Fi6E 規格に基づいて 6GHz 帯をサポートする新製品 「QCS-AX2」 チップセットファミリのサンプル出荷を開始したことを発表した。 この新製品ファミリは、6GHz 帯を最大限に活用するために、高性能で柔軟なアーキテクチャで設計されており、密集した環境やサービスが行き届いていないエリアに対応するために、アクセスポイント、ゲートウェイ、メッシュネットワーキングのソリューションなどの、高スループットの Wi-Fi アプリケーションに最適化されているという。

QCS-AX2 シリーズは、直交周波数分割多元接続(orthogonal frequency-division multiple access: OFDMA)、高度なMU-MIMO(Multi-User, Multi-Input, Multi-Output: マルチユーザ、マルチ入力、マルチ出力」)、高速化のための160MHzチャネルサポート、最大帯域利用のためのSmartScanチャネル選択など、主要な Wi-Fi6E 機能をサポートする統合ベースバンドおよび RF (無線周波数)アーキテクチャに基づいて構築されている。
新製品のポートフォリオには以下のものが含まれるとのこと。
・QCS-AX2-A12:AdaptivMIMO技術を使用したトライバンド(6GHz/5GHz/2.4GHz)、柔軟な8×8または4×4構成をサポート
・QCS-AX2-T12:高性能向けトライバンドコンカレント4×4動作、コスト効率の高いルータソリューション
・QCS-AX2-T8:メッシュノード及び主流アクセスポイント向けトライバンド、コンカレント8ストリーム構成

 米連邦通信委員会(FCC)が、今年後半に米国で 6GHz 帯の開放を見込んでおり、最大 1,200MHz の新たな利用可能周波数帯がWi-Fi およびその他の免許不要の使用に割りあてられる。電流 2.4GHz 帯と 5GHz 帯の合わせたもののほぼ 5 倍のスペクトラムにより、6GHz 帯は次世代 Wi-Fi 6 アプリケーションの開発を加速している。6GHz クライアント・エコシステムの構築には時間がかかるが、ゲートウェイ、ルータ、アクセスポイントなどのWi-Fiインフラ機器は、既存のデュアルバンド(2.4GHz/5GHz)クライアントを引き続きサポートする必要があり、ゲートウェイとメッシュノード間の 6GHz バックホールなどのインフラ・アプリケーションが導入を主導することになるという。

ニュースリリースサイト(onsemi):https://www.onsemi.jp/PowerSolutions/newsItem.do?article=4533

3密を防止するLocarise TRAFFIC 新機能「SIGNAL」の提供を開始

ローカライズ(株)は、2020年4月20日(月)より、新型コロナウイルス(COVID-19)に対する企業のBCP(事業継続計画)対策、あらゆる人の健康と安全が守られるよう、IoTを活用した新型コロナウイルス感染症に対応するソリューションLocarise TRAFFICの新機能「SIGNAL 」の提供を開始したと発表した。

◇サービスの概要
店舗出入口に弊社が取り扱う来店分析カメラXovis3Dセンサを設置し、来店客数をリアルタイムでカウントしながら、店舗内の混雑状況のモニタリング、リスク回避をタブレットやデジタルサイネージに自動で表示する。
新型コロナウィルス感染対策に挙げられている、3密「密閉」・「密集」・「密接」を防ぐ一助となり来店客と従業員の安全を守る仕組みになっているという。

◇リアルタイムで店舗の来店客数や混雑状況を測定
Xovis(本社スイス)の 3D センサカメラは世界最高水準の高精度で、その視認率は99 %。店舗出入口の天井に設置を行いディスプレイと連携するだけで、 正確な来店状況をリアルタイムに表示することができるとのこと。
また、映像解析によって人の集まっている場所のヒートマップ表示、長時間同じ場所にいる(待たされている)顧客の表示色変更、顧客の動きを記録するゾーン指定等が可能。PoE対応なのでインターネット回線があれば簡単に設置・利用でき、端末内で解析を行うため、プライバシーに配慮し画像データは保存せず即時破棄することも可能としている。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000057029.html

NUWAロボティクスJAPAN株式会社設立、代理店や開発会社との連携開始

 NUWAロボティクスJAPAN株式会社が2020年1月9日に名古屋で設立され、手頃な価格で豊富な機能をもつAIスマートロボット Kebbi Air及び関連ツールをプラットフォームとして提供し、多くの一次代理店、ソリューション開発会社と連携して法人向けに様々なソリューションを展開することになったと発表した。

Kebbi Airは、コミュニケーションロボットとして必要な、音声認識、チャットボット、画像認識などのAI機能、マイクアレイ、カメラ、タッチセンサと人感知センサなど多くのセンサを搭載、12個のAIサーボモーターでアニメーションのように滑らかな動作も可能。
教育と医療をはじめとした様々な分野に対し、SDK、コンテンツ開発ツールなどのビジネス用の管理システムを提供し、様々なサービスを早期に日本市場に展開する準備を進めているという。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000056095.html

産婦人科の「在宅・遠隔胎児モニタリング」の広域実証研究開始

メロディ・インターナショナル(株)は、公益社団法人 日本産婦人科医会と共同で、産婦人科の「在宅・遠隔胎児モニタリング」の実証研究を、埼玉医科大学病院産科・婦人科(亀井良政教授)を主幹研究機関として全国13の医療機関で開始したと発表した。

◇主な目的として以下の項目が上げられるとのこと。
a) 産婦人科領域における遠隔医療、オンライン診療の構築
b) 医療従事者の勤務環境改善、働き方改革サポート
c) 診療科偏在・地域偏在による地域医療の崩壊防止のための地域連携構築
d) より安全・安心な妊産婦の管理
e) 産科診療ガイドラインへのオンライン妊婦健診・診療の掲載
f) オンライン妊婦健診・診療を診療報酬上の評価対象とすること

◇実施内容
「遠隔胎児心拍数陣痛図を用いた在宅リアルタイム胎児サポートシステム確立に向けた予備的研究」
 胎児心拍数陣痛図(CTG)は、現在胎児の様子を非侵襲で知ることが出来る数少ない検査手法。胎児は低酸素状態などに伴い、心拍パターンの異常を生じることが知られており、産科医療においては、医療施設でのCTGによる胎児心拍と子宮収縮のモニタリングが、胎児の健康状態を評価する極めて有用な手段として汎用されている。妊娠25週以降の妊婦健診の際に一般にはノンストレステスト(NST)として、胎児の心拍数とお母さんのお腹の張りを図るという。
 実際には、妊産婦の合意の上で、外来や病棟内にて医師・助産師の指導のもとに「分娩監視装置iCTG」の使用方法を習得して、帰宅後に自身により胎児心拍・子宮収縮に関するデータを計測。これらのデータを、院内にいる医師がネットワークに接続されたタブレットなどで確認して、通常院内にて計測したものと同じデータが得られるか、また異常の早期発見に繋がるかなどを定量的に実証するとのこと。

ニュースリリースサイト(melody):
https://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/20200420pdf.pdf

有機EL材料で自己組織化エレクトレットを実現

 千葉大学先進科学センターの田中有弥助教らは、自然に整列する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子(注1))用の材料を利用することで、荷電処理を一切要しない『自己組織化エレクトレット』型振動発電素子の開発に成功した。本研究は有機EL材料がエレクトレット(注2)の材料としても有用であることを実証したものであり、発電素子だけでなく、エレクトレットが使用されるセンサ、マイク等のデバイスの作製プロセスを簡略化や、低製造コスト化に貢献することが期待されるという。
この成果は2020年4月20日に科学誌「Scientific Reports」に掲載としている。

 より安心・安全な社会を実現するために、ビルやトンネル、橋梁等の人工物や自然環境の現況、人の健康状態といった様々な情報を取得し、それをネットワーク上に送信する無線センサが大量に利用される時代が到来するといわれている。これまで無線センサの電源としては主にボタン電池が利用されてきたが、電池は頻繁に交換する必要があり、また使用後は有害なごみになる。そのため、光や熱、振動といった身の周りにあるエネルギーから電力を得る環境発電(エネルギーハーベスティング)が注目を集めている。エネルギー源によって様々なデバイスが提案されているが、周波数が低い振動で比較的高い出力電圧を得られるエレクトレット型の振動発電素子は特に有力視されている。
 一般的にエレクトレットは絶縁体薄膜に荷電処理を行って作製する。例えばポリマー型の絶縁体薄膜には、コロナ荷電が広く普及しており、2 mC/㎡という高い表面電荷密度(注3)が実現されている。しかしながら、コロナ荷電は処理条件の最適化や均一な荷電が困難であり、その他の荷電処理方法も提案されているが、どれも製造コスト増加の一因となっていたとのこと。

 この研究成果を用いることで、エレクトレット型の振動発電素子やセンサといった様々なデバイスの製造プロセスを簡略化することが可能となる。またこの研究は有機EL材料がエレクトレットからなるデバイスにとっても有用であることを実証したものであり、将来的には『自己組織化エレクトレット』を利用した新しいデバイスは、電池を使用しない自己給電型環境センサによるハイテク農業やインフラ設備の監視、医療器具の高度化と無線給電応用等へと展開されると期待される。
 今後は極性分子の自発的配向機構の解明を目的として研究を進め、自己組織化エレクトレットの高表面電荷密度化、及びさらなる長寿命化を通じて、エレクトレット型デバイスの実用化につなげる予定としている。

注1)有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子
有機発光ダイオード(OLED)とも呼ばれる。有機半導体材料からなり、柔らかくて軽量という特長を有する発光ダイオードのこと。一般的に様々な材料の多層膜で構成される。
注2) エレクトレット
半永久的に電荷、もしくは電気分極を持つ絶縁体。
注3)表面電荷密度
薄膜の表面に存在する電荷量をその表面積で規格化した値。単位面積あたりに表面に存在する電荷量を示す。エレクトレット型の振動発電素子ではその出力電力は表面電荷密度の二乗に比例するため、表面電荷密度はデバイス性能を決定する重要なパラメータである。

ニュースリリースサイト(JST):https://www.jst.go.jp/pr/announce/20200420/pdf/20200420.pdf

非破壊・非接触のテラヘルツ波IoTセンシングとデータサイエンス(2)

日本電信電話株式会社
NTT先端集積デバイス研究所
  味戸 克裕

3.テラヘルツ分光センシングシステム

THz分光センシングシステムは、分光のやり方によって連続波型とパルス波型とに大別することができるが、得られる情報は複素誘電率の実部と虚部、すなわち位相と吸収の度合いである。連続波型はTHz波の周波数を変えて、位相や吸収を測定するので理解はしやすいが、THz波の周波数可変の光源はTHzギャップといわれている周波数領域にあり、フォトニクス技術でもエレクトロニクス技術でも難しいため、連続波型のセンシングシステムの構築が難しい。そのため、分光の主流はパルス波型というフェムト秒レーザーを用いた特殊なシステムとなる[10]
図5には連続波型のTHz分光センシングシステムの構成図を示す。この手法は、THz周波数領域分光 (THz-FDS: Terahertz Frequency-Domain Spectroscopy)とよばれる。

図5:連続波型のテラヘルツ分光センシングシステムの構成図

周波数可変の1.5μm帯の連続波近赤外レーザダイオードと周波数固定のもう1台のレーザダイオードをそれぞれエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)で増幅し、差周波混合でフォトダイオードを使って光電変換を行い、任意の周波数のTHz波を発生させる。2台のレーザダイオードの周波数の差が発生するTHz波の周波数となる。このTHz分光センシングシステムではInPを使った高効率のTHz光発生用のフォトダイオード、単一走行キャリアフォトダイオード(UTC-PD: Uni-Traveling Carrier Photodiode)を使用している。周波数可変のレーザダイオードの周波数を変えることで0.2~2.0 THzの任意の周波数のTHz光得ることができ、周波数やアンテナ形状によって出力は変わるが、0.3 THzの周波数において最大で1mW出力を確認している[11]。UTC-PDからのTHz波を単に受信するだけでなく、位相制御機構を通して受信機のPCAに送信信号と同じ信号を入れてミキシングをすることをホモダイン検波方式と呼ぶ。ホモダイン検波方式のようなコヒーレント検出法は、位相制御機構を使わないで振幅(吸収の度合いに対応)のみを検出する一般的なエンベロープ検出法に比べてダイナミックレンジが大きくなるため、材料の吸収を測定する際に有利になる。また、複素誘電率の実部と虚部、すなわち位相と吸収の度合いに対応する値を得ることができ、材料評価に役立つ。さらに、周波数を連続的に変えることでスペクトル測定が可能であり、周波数を任意の吸収ピークに固定してステージを平面内で走査することで、高速で物質同定のイメージを取得できることがメリットである[12]。1THzは波長0.3mmに相当するので、波長の2分の1を回折限界と考えれば0.15mmの空間分解能となるが、周波数が10倍の0.1THzとなれば、1.5mmと空間分解能は低下することに注意する。
図6はパルス波型のTHz分光センシングシステムの構成図を示すが、このシステムはTHz時間領域分光 (THz-TDS: Terahertz Time-Domain Spectroscopy)システムとよばれ、1989年にIBMのGrischkowskyらが最初に水蒸気のTHzスペクトルを報告したのが最初である[13]

図6:パルス波型のテラヘルツ分光センシングシステムの構成図

パルス幅が10~100フェムト秒の近赤外フェムト秒レーザで光伝導アンテナ(PCA: Photoconductive Antenna)を励起して、キャリアの超高速移動によってTHzパルスを発生させ、検出も同様の構成の光伝導アンテナを用い、遅延ステージを使って時間分解スペクトルを測定する。そして、得られた時間領域スペクトルをフーリエ変換することで周波数スペクトルを得る。10フェムト秒の近赤外フェムト秒レーザと低温成長GaAs膜の組み合わせの場合で約0.1~7THzの周波帯のTHzスペクトルを得ることができる[14]。さらに、3次元移動ステージを用いてサンプルを平面内で走査することでサンプルに照射するTHz光のスポット位置を移動させることができ、分光イメージングが可能であることは THz-FDSと同様である。THz-TDSの測定時間は、主に遅延ステージが律速となっているため、高速の遅延ステージほど測定時間は短くとなる。現在では1スペクトルを1ミリ秒程度で取得できるタイプも市販されており、イメージ測定もより高速となっている[15]

4.医薬成分のテラヘルツセンシングとデータサイエンス

連続波型THzイメージングシステムを使った医薬品の共結晶の識別の例を図7に示す[16]。共結晶(コクリスタルともいう)は薬品分野において注目されている複合分子結晶で、API結晶と各種の添加剤結晶から成る複合分子結晶である。

図7:テラヘルツ分光センシングシステムを使った医薬品の共結晶の識別の例

難水溶性のAPI結晶であっても、水に易溶性の高い添加剤結晶と共結晶化することによりその溶解性を飛躍的に高め、薬物の吸収性を向上できる。例えば、APIのカフェイン結晶は溶解性が低いが、溶解性の高いシュウ酸を加えて、カフェイン:シュウ酸の共結晶(ここではカフェイン共結晶とよぶことにする)を合成することによって溶解性が高くなる。共結晶にする前のカフェイン結晶やシュウ酸結晶それぞれにはTHz波の吸収がほとんどないが、水素結合など分子間相互作用が強く働くことによって共結晶には高いTHz吸収ピークが1.4THz付近にあることがTHzスペクトルから分かった[17]。図のテストサンプル錠剤の共結晶の濃度は左上が20%、右下が40%で、共結晶の吸収のない0.8 THzと共結晶の吸収のある1.4 THzに周波数を固定して2次元のスキャンを行っている。透過率の低い部分がカフェイン共結晶の多い部分に対応し、非破壊・非接触で共結晶の濃度の2次元分布を得られることが分かった。この2次元分布は、水への溶解性やそれに伴う薬効とも深く関係すると考えられる。THz-FDSは周波数を固定化できることが、THz-TDSと比べて測定時間において優位となる。
THz分光スペクトルのピークは医薬結晶などの固体サンプルでも比較的ブロードであったり、ピークが明確でない場合があるため、単純にピークの周波数をデータベース化するのでは定量分析をすることは難しいため、THzスペクトルを解析するためのデータサイエンスが必要となる。各成分のTHzスペクトルをデータベース化し、カーブフィッティングや主成分分析などの多変量解析を行うことで定量分析を行うことが可能となる。図8の例では、医薬品の共結晶として、カフェインとシュウ酸の共結晶とテオフィリンとシュウ酸の共結晶、錠剤を成型する賦形剤としてセルロースとポリエチレン、合わせ4本のTHzスペクトルを単位密度あたりで規格化してデータベース化した。この規格化によって、各成分の重量分布を知ることができる[18]。テスト錠剤は、3つの部分から成り、サンプル写真の中央付近は100%セルロース、上部は20%がカフェイン共結晶、下部は40%がカフェイン共結晶である。錠剤の重量は実測で92.20mgであった。図8のイメージはTHz分光から計算された、カフェイン共結晶とセルロースの各成分の重量分布である。単位密度あたりで規格化されたTHzスペクトルのデータベースから、計算することができる。前述したように、THz分光スペクトルのピーク比較的ブロードであったり、ピークが明確でない場合があるため、未だに高精度の定量分析は難しいのが現状である。カフェイン共結晶とセルロースの各成分の重量分布を加算することで、総重量のイメージとなる。このイメージの各ピクセルの重量を加えると、錠剤の重量の計算値が求められ、94.55mgとなった。実測の92.20mgと比較すると、約2.5%重くなっており、これが誤差といえる。分析化学の分野では、%オーダーの誤差は大きく、さらなる精度の向上が望まれる。

図8:テラヘルツスペクトルの規格化とデータサイエンスによる重量分布の表示の例

液体サンプルとして生体分子を含む水溶液では、図9にスペクトルの概念図を示すが、さらにピークがブロードとなり複雑化する。水分子だけでも、分子間伸縮振動、速い緩和、遅い緩和などのモードがあり、さらに、生体分子の水和(溶質の分子などが周囲の水分子と結合して1つの集団を形成すること)によるピークはTHz波領域よりさらに低い周波数帯のマイクロ波領域に存在する。そのため、マイクロ波分光と組み合わせることによって、THz波領域からマイクロ波領域までの、連続した広帯域のスペクトルを測定することができ、カーブフィッティングなどによって、スペクトル解析が可能となる[19]。これまでに、タンパク質の凍結や乾燥に対して生体分子保護機能を有するトレハロースにおいて, 濃度0.15モル/ℓでは第一水和層を上回る20個以上の水和水を有していることが分かった[20]。水和の状態は、ガンなどの細胞の変化に鋭敏であると考えられており、そのためにも今後さらなる水和状態の分子レベルでの解析が重要であるといえる。

図9:液体サンプルとして生体分子を含む水溶液のテラヘルツ波領域からマイクロ波領域のスペクトル概念図

図10にフリーズドライ過程における塩化ナトリウムのナノ粒子であるNa4Cl4クラスタのTHzスペクトルを示す[21]。THz波は水の吸収が非常に高いが、氷に対しては透過する。純粋の氷は可視光が透過できるが、水に化学物質が溶解していると均一には凍結せず白濁し、可視光は散乱・反射するため透過できない。より長い波長の赤外光は吸収が大きく透過できないが、さらに波長の長いTHz波は透過する。そのため、フリーズドライ過程の様にこれまで把握することのできなかった凍結材料のプロセスモニターリングが可能となる。これまで、塩分(NaCl)は凍結の際に氷の結晶から排出されるか、あるいはNaCl・2H2Oという水和物になると考えられてきた。しかし、THzスペクトルには2つの明確なピークが見られ、NaCl やNaCl・2H2O には吸収がなかったため、分子動力学計算や非経験的分子軌道計算を用いたシミュレーションによって、Na4Cl4クラスタという約1nmの非常に小さなナノ結晶が2種類存在することを初めて発見した。フリーズドライは食品のみならず、ワクチンなど医薬分野でも利用されており、今後、医薬結晶のナノ結晶プロセス化学研究に役立つと期待できる。

図10:フリーズドライ過程における氷中の塩化ナトリウムのナノ粒子(Na4Cl4クラスタ)のシミュレーション構造とテラヘルツスペクトル

このように、THzスペクトルの解析にはデータサイエンスが必要であり、これにより定性・定量分析、水和状態に基づくガン研究、ナノ結晶の研究が進むと思われる。

5.まとめ

 

本稿では、THz波センシング技術の基本原理、医薬分野を中心にIoTセンシングとしての優位性やデータサイエンスの活用の必要性などについて解説した。今後のTHz波IoTセンシングの高性能化・小型化とTHzデータサイエンスによるスペクトル解析技術の向上によって用途は飛躍的に広がり、安心・安全のための非破壊・非接触のセンシング技術として世の中に貢献することを期待したい。

謝辞
本報告をまとめるに際し、中村昌人氏、徐照男氏、瀬山倫子博士、児玉聡博士(NTT先端集積デバイス研究所),上野祐子博士(NTT 物性科学基礎研究所)に御協力を頂いたので深く感謝する。

参考文献
10) K. Ajito, Terahertz Spectroscopy Methods and Instrumentation, Chapter 18, Encyclopedia of Spectroscopy and Spectrometry 3rd Edition, pp.432-443, 2016.12, Academic Press, Elsevier.
11) H.-J. Song, K. Ajito, Y. Muramoto, A. Wakatsuki, T. Nagatsuma, IEEE Microwave and Wireless Components Letters, 22, 7(2012) 363-365 .
12) J.-Y. Kim; H.-J. Song, M. Yaita,; A. Hirata, K. Ajito, Optics Express, 22, 2(2014) 1735–1741.
13) M. van Exter, Ch. Fattinger, D. Grischkowsky, Optics Letters, 14, 20(1989) 1128-1130 .
14) 味戸克裕, 電子情報通信学会誌, ,97, 11(2014) 964-970.
15) S. S. Dhillon, M. S. Vitiello, E. H. Linfield, A. G .Davies, M. C. Hoffmann, J. Booske, C. Paoloni, M. Gensch, P. Weightman, G. P. Williams, Journal of Physics D: Applied Physics, 50, 4(2017) 043001.
16) J.-Y. Kim, H.-J. Song, M. Yaita, A. Hirata, and K. Ajito, Optics Express, 22, 6(2014)1735-1741.
17) D. M. Charron, K. Ajito, J.-Y. Kim, Y. Ueno, Analytical Chemistry, 85, 4(2013)1980−1984.
18) J.-Y. Kim, R. Boenawan, Y. Ueno, K. Ajito, Journal of Lightwave Technology, 32, 20(2014) 3768− 3773.
19) 白神慧一, Optronics, 38, 5 (2019) 84-88.; 中村昌人, 田島 卓郎, 瀬山倫子, 電子情報通信学会論文誌 C, J101–C, 6(2018) 258-265.
20) K. Shiraga, A. Adachi, M. Nakamura, K. Ajito, Ogawa, The Journal of Chemical Physics, 146 (2017)105102.
21) K. Ajito, Y. Ueno, J.-Y. Kim, T. Sumikama, Journal of the American Chemical Society, 140, 42(2018) 13793−13797.

【著者紹介】
味戸 克裕(あじと かつひろ)
日本電信電話株式会社 NTT先端集積デバイス研究所 主任研究員

■略歴
1995年 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程修了、同年日本電信電話(株)(NTT物性科学基礎研究所)入社。ミリ波・テラヘルツ光を使った分析化学および超高速無線技術、多孔質材料や光ピンセット技術を使った脳神経伝達物質のラマン分光分析法、医薬品のIoT非破壊イメージング検査技術などのセンサとデータサイエンスの研究に従事。
2010〜2014年 日本分光学会理事
2017〜2018年 千葉工業大学機械サイエンス学科非常勤講師
2018年 横浜国立大学理工学部数物・電子情報系非常勤講師、京都大学農学部森林科学科非常勤講師
2018年〜 電気学会センサ・マイクロマシン部門幹事(広報担当)
2018年~ 早稲田大学先進理工学部非常勤講師
IEEE学会会員、電子情報通信学会会員、アメリカ化学会会員、電気学会会員、日本分光学会会員、日本分析化学会会員

ミリ波応用センシング技術(2)

新潟大学 工学部工学科
  教授 山田 寛喜

移動するプラットフォームへの応用としては、車載レーダとしての応用であろう。図3のように斜め前方に向けて観測することにより、車両周囲のターゲットまでの単なる距離だけでなく、空間走査するLiDAR同様に空間的な位置の二次元イメージングが可能となる7)。この特徴を利用した車載レーダにおける側方監視への応用例を示す。実験は標準ゲインホーンアンテナを送受アンテナとした76.5GHz(帯域幅500MHz)のミリ波レーダを用い、 側方から45°斜め前方を向け、新潟大学構内を20km/hで走行して実施した。図4の上段が周囲のターゲット配置である。図に示すように歩道上には緑で示した生垣があり、また2つの街頭と道路標識が設置されている。実験に際して人物と自動車を配置し、さらに参照ターゲットとしてコーナーリフレクタ(図中の三角マーク)を2つ設置した。中段の図は、合成開口を行っていない実開口イメージング結果である。これは単にレーダにより得られた距離推定結果をレーダ視線方向(ここでは斜め45°)に並べたものである。同図から分かるようにターゲット位置に強い応答が表れるが、送受信アンテナの素子指向性のため、それらの応答は空間的に広く分布しターゲット位置が不明確といえる。下段が合成開口処理を施した結果である。合成開口処理による空間分解能改善効果に伴い、より明瞭な二次元イメージングが実現されている。この処理により、ターゲット応答は強調され雑音等のランダム応答は抑圧されるためダイナミックレンジの改善効果も得られる。同画像から分かるように自動車から4m程度の歩道の段差、植え込みの分布も読み取れる。また7m程度の距離に連続的に表れている応答は歩道の奥の植え込みや木々の応答である。

図3. 斜め前方監視車載レーダによる合成開口イメージングの概念
図4. 車載レーダによる合成開口イメージング実験

このように単なるSISOレーダシステムにおいても信号処理と併用することにより、より高次元のイメージングを実現することが可能となる。合成開口レーダの空間分解能自体はLiDARに劣るが、非常に鋭いビームでターゲットを探査するLiDARに比べ、面的にビームを照射するレーダはターゲットの見逃しがなく全天候性である点でLiDARの欠点を補完するセンサといえる。また、特徴的ターゲット(ランドマーク)情報が登録されているカーナビゲーションとの併用が可能であれば、それらと照合した自律的な自己位置推定などへの応用も期待できるものといえる。

4.ミリ波レーダと機械学習

ミリ波レーダは波長が短く、ターゲットのわずかな変位に対して、そのレーダ応答の位相が大きく変化する。その時間変動をドップラ周波数として容易に観測することができる。ターゲットに対して一定の制約を施せば、人物の呼吸や心拍の状態をモニタすることも不可能ではない。いわゆるマイクロドップラ周波数の検出である。近年、人物の動作推定などに対して急速に研究が進められている。

この場合、前述までのMIMOや合成開口レーダのように高分解能なイメージングにより、人物の部位のイメージングを行うのではなく、各部位の動きに伴うドップラ周波数成分の変化を用いた動作識別を目的としている。図5が我々の研究室で実施した実験結果の一例である。これらの図の横軸は時間、縦軸はドップラ周波数であり、ある人物の16個の異なる動作(歩行、椅子に座る・立つ、しゃがむ等)を示したものである。これは単なるSISO(単一送受信)レーダにより得られたものであるが、この時間-ドップラ周波数だけであっても動作に応じて特徴的な応答を示していることがわかる。マイクロドップラの特徴量に関しても動作のスピードや個体差などのため、画一的な指標を示すことは難しく、曖昧さが存在する。この問題点を機械学習により解決しようする研究が近年急速に進められている8)。最近、スマートフォンに実装されたことで話題となったGoogleにおけるProject Soilもレーダ応答に対して機械学習を用いて、マンマシンインターフェースを実現した応用例である。

図5. 人物の動作に伴うドップラ周波数応答

5.おわりに

ここでは筆者らの研究グループによる研究を通して、信号処理的な観点からMIMOレーダ、合成開口レーダ、マイクロドップラレーダに関して、その特徴を論じた。
ミリ波レーダの急速な発展、低価格化は、今後、様々な分野への応用をもたらすものと期待される。ミリ波レーダ応用においては、光学カメラ、LiDAR、赤外線センサなど他のセンサに対する電波の必要性、優位性を考えることは必須である。ここで示したアプローチにより、分解能に関する問題点は、ある程度解決可能となることがわかるであろう。今後、ミリ波レーダは単なる距離計測だけでなく、イメージングセンサとしての活用も期待できるといえる。さらに機械学習との組み合わせにより、判読が難しいといわれるレーダ画像の応用が容易となり、様々な分野へ応用が広がるものと思われる。柔軟な発想で、多方面への応用が創出されることを期待したい。

参考文献
7) H. Yamada, et al, “High-Resolution 2D SAR Imaging by the Millimeter-Wave Automobile Radar,” Proc. 2017 IEEE Conference on Antenna Measurements & Applications (CAMA2017), Tsukuba, Japan, Dec. 2017.
8) 例えば S. Z. Grurbuz, et al., “Radar-based Human-motion Recognition with Deep Learning,” IEEE Signal Processing Magazine, vol. 36, no,4, pp.16-28, July 2019.

【著者紹介】
山田 寛喜(やまだ ひろよし)
新潟大学工学部工学科 知能情報システムプログラム 教授 工学博士

■略歴
1993年3月 北海道大学大学院博士課程修了、新潟大学工学部情報工学科助手、講師、助教授を経て、
2008年1月より情報工学科(現在、工学科知能情報システムプログラム)教授。現在に至る。
その間、2000年6月~2001年3月、NASAジェット推進研究所客員研究員
2001年4月~2008年3月、国際電気通信基礎研究所(ATR)、客員研究員を併任。

乳がん検出のためのマイクロ波イメージング技術(2)

静岡大学 工学部 電気工学科
  教授 桑原 義彦

5. UWBレーダを用いた臨床試験(14)

5.1 撮像装置
開発した撮像装置の外観と構成を図6に示す。装置は複数のアンテナから構成される撮像センサー、乳房を撮像センサーに吸引固定するアスピレータ、送受信機となるVNA(Agilent E5071C)、複数のアンテナの入出力を選択制御してVNAに接続するアンテナスイッチ、制御用のPC及び画像再構成に用いるWSから構成される。試作装置の大きさは600mm(幅)×600mm(長さ)×500mm(高さ)で、診察室に設置したベットと接続して使用する。

図6 マイクロ波マンモグラフィの実際

図7にセンサーの詳細を示す。センサーは脂肪組織とほぼ同じ電気定数を持つ半球の樹脂製のカップに複数のスロット給電のスタックパッチアンテナが埋め込まれている。カップの頂点にアスピレータに接続するためのバルブが設けられ、下面は乳房を入れるため開口している。アンテナは皮膚と密着した時に4~9GHzで整合するように設計されている。

図7 撮像センサー

欧米で試作された臨床撮像装置の多くは、乳房を整合液に浸す必要があった。時分割受信方式で散乱応答の受信データ群を収集する場合、数秒~数分程度を要する。その間に呼吸や体動で乳房が動くと、正しいデータが取得できず、撮像に失敗する。筆者らの開発した装置では乳房は撮像センサー内に固定されるので、撮像ミスを防ぐことができる。いろいろな形や大きさの乳房を撮像するため、直径13cm深さ5.5cm、直径10cm深さ4cm、直径8cm深さ2cmの3種類のセンサーを用意した。実装されているアンテナの数はそれぞれ30、18、6である。

5.2 撮像方法
撮像の前に適切なサイズのセンサーを選択する。被検者は図8に示すようにうつ伏せになって乳房をセンサーに入れる。そして吸引が開始される。吸引して乳房がアンテナと密着すると反射損失(S11)が低下するので、S11を順次測定し、密着が良好であることを確認する。密着が正常であれば、図9に示すように該当するアンテナに対応した表示が白色に、密着が不良であれば赤色になる。密着が異常な場合、S11が充分に下がるように、センサーの位置や体位を変える。密着の確認後、撮像を開始する。臨床試験ではアレー回転法によりアーチファクトを除去したため、センサーを20°回転させ、改めて密着を確認してからもう一度測定した。1回の測定時間は6、18、30素子の撮像センサーについてそれぞれ6、30、300秒である。

図8 撮像姿勢
図9 密着の確認

5.3 臨床撮像結果
7名のがん患者について臨床撮像を実施した。このうち6名について正しくデータが取得できた。代表的な撮像結果を紹介する。後方散乱は癌のある付近で最も強くなるので、がんのある乳房の測定で得られた最大散乱強度で規格化した画像を示す。3次元表示について、MRI像から推定した癌の大きさと位置を薄いグリーンの領域で示し、最大散乱強度の70%以上の分布を示した。本例では6素子の撮像センサーを用い、撮像アルゴリズムはMISTを用いた。
撮像結果を図10に示す。患者は50代の女性で、右胸の内側下方の胸壁近くに直径9mmの初期癌が認められる。癌の周りには腺組織が存在しない。MIにより3次元像、断層像とも癌の位置に強い反射像が確認できた。健康な胸では大きな反射像は認められない。

5.4 UWBレーダの課題
がん患者の臨床撮像では、いずれのがん患者ともがんの周りに強い散乱像が認められた。しかし、特に大きな進行がんでは、散乱像の形はがんの形状、大きさを反映していなかった。図10の例では、がんのある乳房の散乱強度の最大値で再構成画像を規格化することにより、がんの応答を際立たせることができた。しかし、実際の検診で健康な乳房を撮像した場合、最大散乱強度で再構成画像を規格化しても、散乱が強い領域にがんがあるかないかが判断できない。がんとそれ以外の組織を識別する手段として、磁気ナノパーティクルをがんに取り込ませる方法が提案されているが(15)、実証試験にはいたっていない。

6. 逆散乱トモグラフィの実現に向けて
4.2(2)で逆散乱トモグラフィの実現に向けた課題を示した。筆者らはこれらの課題の解決に向け次の方法を検討している。

a. モデル化誤差が出にくい形状のセンサー
b. 2で述べた乳房組織の複素誘電率に関する予備知識の活用
c. 高感度で簡単な構造の自己補対パッチアンテナの適用
d. アンテナの交差配置による、撮像センサーの小型化と観測データの多様化の両立。

これらの対策を適用して設計した撮像センサーの外観を図11に示す。また、計算機シミュレーションによって数値ファントムの比誘電率と導電率を再構成した画像を図12に示す。上段は比誘電率、下段は導電率の3次元分布で、左側は元の分布、右側は再構成した分布を示す。乳房の右にある白い部分が図10のがんの領域に相当する。設計した撮像センサーによりがんや乳腺の組織像が正確に再構成されていることがわかる。

図11 逆散乱トモグラフィ用撮像センサー
図12 数値ファントムの再構成画像

7. 終わりに

MIによる乳房内イメージングの技術について概説した。本技術は四半世紀にわたり欧米を中心に研究されてきたが、いまだ実用に至っていない。UWBレーダでは、がんと正常組織の識別技術、逆散乱トモグラフィでは、モデル化誤差や測定誤差の低減が、実現に向けた最大の課題である。UWBレーダでのがんと正常組織の識別は、磁気ナノパーティクルの活用のほか、機械学習の活用が提案されている(15)。また、波頭再構成や超分解法を用いた場合、従来のDASやビームフォーミング法よりSNRが改善し、がんの領域も正しく表示できるという報告もある(7)(12)。逆散乱トモグラフィについては近年目立つ研究成果が発表されていない。著者らは図11の撮像センサーを現在試作しており、その評価結果については別の機会で紹介したい。

参考文献
7) A. Fasoula, B. M. Moloney, L. Duchenene, J. D. Gil Cano, B. L. Oliveria, J-G. Bernard, and M.J. Kerin, “Super resolution radar imaging for breast cancer detection with microwaves: the integrated information selection criteria,” Proc. of EMB2019, 2019.
14) Y. Kuwahara, S. Miura, Y. Nishina, K. Mukumoto, H. Ogura, and H. Sakahara, “Clinical Setup of Microwave Mammography,” IEICE Trans. Vol. EB96, No.10 pp.2553-2562, 2013.
15) G. Bellizzi, O.M. Bucci, I. Catapano,“Microwave cancer imaging exploiting magnetic nanoparticles as contrast agent”, IEEE Trans. on Biomed. Eng., vol.58, no.9, pp.2528-2536, 2011.
16) T. Reimer1, J. Sacristan1, and S. Pistorius, “Improving the Diagnostic Capability of Microwave Radar Imaging Systems using Machine Learning,” Proc. of 2019 EUCAP.

【著者紹介】
桑原 義彦(くわはら よしひこ)
静岡大学 工学部 電気工学科 教授

■略歴
1978 慶大・工・電気卒、同年日本電気(株)入社
1999 静岡大学工学部助教授
2006 同大教授、現在に至る
工学博士
アンテナ・電波伝搬、航空電子機器、移動通信システム、アレー信号処理、ワイヤレス送電、マイクロ波イメージングの研究開発に従事
1988 防衛装備協会賞
1997、1999電波功績賞受賞 IEEE会員

CMOSアンテナ型THzイメージャ(2)

北海道大学
量子集積エレクトロニクス研究センター
  教授 池辺 将之

3.ピクセル並列ADCアーキテクチャによるグローバルシャッタ型テラヘルツイメージャ20)

3.1 提案型CMOSテラヘルツイメージャの概要
現在は、シリコンCMOSによる検波回路の進歩により、アレイ化した後の読み出し要素も含めたシステム統合の研究開発へシフトする動きも見られている。アンテナ型回路は、アンテナがピクセル部の大半を占め、余剰な回路を組み込みやすい。そこで、ピクセル部にアナログ積分器を集積する12)、ピクセル並列のA/D変換器のブロック配置を工夫する13)などのセンサシステム全体の考慮が必要となる。この場合でも、どのA/D変換器(Single Slope型、SAR型、ΔΣ型、VCO型など)を採用するかも考える必要がある。同時に、ピクセル部の製造バラツキを、オフセット/利得の面でいかに補償するかが、重要となる。各ピクセルに補償用のメモリを持つなどの解決手段も考えられる。そこで、回路負担および、補償を行うにあたりスキャンライン駆動によって1画素ごとに補償が必要になるかなど、実動作における駆動シーケンスとフレームレートへの影響、並びにセンサアレイの温度による変動と再補償の期間設定など、考慮すべき点も多い。

イメージャの開発に当たり、筆者らはパッチアンテナ型ピクセルを用いてアレイ構成とした。図2に設計したテラヘルツイメージャのブロック図を示す。イメージャは、32×32のテラヘルツイメージングピクセル、読み出しのためのデコーダを備えた16ADC×16クラスタ×4ブロック=1024ADC、および、4つの12-bit出力から構成される。32×32イメージャは内部で4つの16×16のサブイメージャに分割されており、これらは独立に動作する。16個のADCを含むADCクラスタは13μmの幅を持ち、これが215μmの間隔で16つ並び、16×16イメージングピクセルの下部(あるいは上部)の計4か所に配置されている。ADCはイメージングピクセルと1対1で対応しており、グローバルシャッタ動作を可能にする。さらに、各ADCにはON/OFFキーイング(OOK)変調テラヘルツイメージング用の2つのデータバッファを備え、9-bitの選択信号によって256ADCの512データバッファよりデータを選択し読み出すことが可能である。イメージャを4つのサブイメージャに分割したことにより、読み出しチャネルも4並列となるが、これはデータ読み出しの速度条件を緩和している。例えば、読み出し用デコーダを512kHzで動作させる場合、1kfpsのフレームレート(ON/OFF状態を分けると2kfps)でテラヘルツイメージを取得することが可能である。また、本テラヘルツイメージャはピクセル並列アーキテクチャを採用しているため、マルチフレーム超解像やマルチモーダルイメージングなどへの応用も可能である。

図2 本設計のCMOS THzイメージャのブロック図

3.2 ピクセル回路の設計
テラヘルツ光イメージング用ピクセル回路13)を図2-3 に示す。ピクセル回路はオンチップマイクロストリップアンテナ、マッチング回路、テラヘルツ検出器から構成される。また、テラヘルツ検出器は、カスコードアンプとサブスレッショルドオペアンプの2つの増幅回路から成る。カスコード増幅回路では、テラヘルツ波入力に接続されたn-MOSFET(M2)が駆動される。まず、OOK変調されたテラヘルツ信号は、カスコードアンプの入力段であるn-MOSの2章で述べた特性により包絡線検波回路として動作すると共に検出信号を増幅する。p-MOSFET(M1)は負荷抵抗として扱う。サブスレッショルド増幅回路を接続し、フィードバック回路として用いることで、M1 の負荷抵抗の値を決定する。この回路は、Tail電流源であるM3のゲートを接地することで1nA程度の微弱な電流を流す増幅回路として働く。サブスレッショルド増幅回路は大きな時定数を持つため、直流から極低周波(カットオフ周波数数10Hz)で動作する。フィードバックループを含めた検出器全体として見ると、サブスレッショルド増幅回路の動作領域が遮断されるため、検出器のDC オフセットを取り除くことができる。

図3 提案するピクセル回路構成

マイクロストリップアンテナは、180 nm CMOS プロセスにおいて、メタル1層とメタル6層により形成する。アンテナもSi 基板上に同時集積することで、検出器とのワンチップ化が可能である。アンテナの形状は0.9 THz 近傍で動作するように電磁界シミュレータを用いて設計した。アンテナサイズは130×78.5 μm2 である(図4)。

図4 本設計のCMOS THzイメージャのチップ写真

3.3 Voltage-Controlled Oscillator Based ADC
図5にVCO-Based ADCのブロック図を示す。ADCは2つのランプ信号発生器、オペアンプ、SR-FF、および、2つの12-bitカウンタによって構成される。一方のランプ信号発生器の出力が閾値電圧VCtrlを超えると、もう一方のランプ信号発生器に対しリセット信号が入力される。このように、2つのランプ信号発生器が相補的にリセットを行うことで、デューティー比50%のクロック信号を生成することが可能になる。また、ランプ信号の傾き(クロック周波数の決定に関わる)は、イメージングピクセルから入力される電圧によって決定される。このクロック信号をカウンタへ入力することで、ピクセルから出力されるアナログ電圧値をディジタル値に変換する。また、カウンタはOOK変調信号を扱うためにVCO-Based ADCごとに2つずつ用意され、テラヘルツ波がON/OFFそれぞれの状態について変換値を保持することができる。また、カウンタの変換(カウントアップ)動作の際に、保持された前時刻の変換値を読み出すことも可能である。

図5 VCO型A/D変換器の構成

4.撮像実験と結果

本テラヘルツイメージャの撮像実験のための光源として、周波数可変テラヘルツ波源である光注入型テラヘルツパラメトリック発生器(is-TPG: injection-seeded THz-wave Parametric Generator)を利用した14)。is-TPGはYAGレーザーによるSeed/Pump光を非線形光学結晶であるMgO:LiNbO3により周波数混合し、差分THz光をSi プリズムにより取り出す(協力:理化学研究所)。
Responsivity は検出された出力電圧をアンテナに入射された電力で割ることで求めた。テラヘルツ光源の出力とビームプロファイルから求められたアンテナ面積(78。5μm×78.5μm)あたりの応答性は218kV/W@0.93THzであり、ピクセル面積(215μm×215μm)あたりの応答性は34.6kV/W@0.93THzであった。また、測定されたNEPは91 pW/Hz1/2@31Hzであり、テラヘルツ波パルスを100kHzでOOK変調した場合の推定NEPは13.7 pW/Hz1/2@100kHzである。

図6に撮像結果を示す。ただし、使用したテラヘルツ波光源のOOK変調周波数は200Hzであり、これにより本実験におけるテラヘルツイメージャのフレームレートは 400fpsに制限されている。テラヘルツ波ビームの形状はガウシアンであり、平均パワーは18.8μw@0.93THzである。図8左上はTHzONでの撮像結果であり、図中左上にテラヘルツ波ビームスポットと、図中中央付近に顕著な固定パターンノイズを見ることができる。撮像結果に対して外部CDSを行うことで、固定パターンノイズを取り除くことが可能であり、図6の左上以外の6つの撮像結果はすべて外部CDS後の像である。図8左側中段は図8左上の撮像結果に対して外部CDSを行ったものであり、固定パターンノイズを除いたビームスポットの形状を確認できる。ビームスポットに対し、直径0.08mmの金属細線をかざして撮像した結果が図8中央である。テラヘルツ波ビームスポットが金属細線によって2つに分断されている様子が確認できる。また、ビームスポットに対し、直径0.25mmの開口部を持つ金属箔をかざして撮像した結果が右側中段である。テラヘルツ波ビームスポットが開口部によって絞られ、より小さなスポットとして撮像されている様子が確認できる。図8最下段の3つの像はビームスポットの移動を観察している様子である。ビームスポットが左から右に向けて移動していくことがリアルタイムで観察された(ON/OFF Keying:400fps, CDS後200fps)。

図6 THzビームスポットの実時間撮像

参考文献
12) Al Hadi, Richard, et al. “A 1 k-pixel video camera for 0.7?1.1 terahertz imaging applications in 65-nm CMOS.” IEEE Journal of Solid-State Circuits 47.12 (2012): 2999-3012.
13) Y. Sayuri, et al. 5.8 A 32× 32-Pixel 0.9 THz Imager with Pixel-Parallel 12b VCO-Based ADC in 0.18 μm CMOS. In: 2019 IEEE International Solid-State Circuits Conference-(ISSCC). IEEE, 2019. p. 108-110.
14) S. Hayashi, et al., “Ultrabright Continuously Tunable Terahertz-Wave Generation at Room Temperature,” Scientific Reports, vol. 4, article #5045, June 2014.

【著者紹介】
池辺 将之(いけべ まさゆき)
北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授

■略歴
1998年 4月 日本学術振興会 特別研究員 「知的イメージセンサの研究」に従事
2000年 3月 北海道大学 大学院工学研究科 博士後期課程修了 (電子情報工学専攻)(博士(工学))
2000年 4月 大日本印刷㈱ 半導体製品研究所 勤務
2002年 8月 豊橋技術科学大学 知識情報工学専攻 受託研究員
2003年 4月 大日本印刷㈱にて 電子デバイス研究所 勤務 「無線・画像処理システムの研究・開発」に従事
2005年 4月 北海道大学 大学院情報科学研究科 准教授 「画像処理アルゴリズム/システム/センサLSIの研究・無線システム開発」に従事
2018年 4月 北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授 「イメージセンサ・高速画像処理(AIアルゴリズム・ソフト/ハードウェア)の研究」に従事