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Azmee、Embedded AI を搭載した「小型トラック用安全AIカメラシステム」を発売

Azmee Inc.は、増加している小型トラックと自転車や小型バイクとの接触事故(左巻き込み事故)に対して Embedded AI 技術を搭載して効果的に防止することができる、小型トラック用安全AIカメラシステム【ACSL-0001】を2021年3月17日に発売した。

同社 は、Embedded AI 技術を使ったシステムの研究開発を行っているハードウェア・スタートアップである。昨今、問題となりつつある小型トラックと、自転車や小型バイクとの接触事故(左巻き込み事故)を防ぐ AI を新たに開発し「小型トラック用安全AIカメラシステム【ACSL-0001】」として発売した。 小型トラック左側ミラーのブラケット部に取り付けることで、小型カメラに組み込まれた AI が小型トラック左側方のすり抜け追い越しや急な割り込みを検知し、ドライバーに警告し事故防止を行う。2021年度に約1500台の販売を見込んでいるとのこと。

●小型トラック用安全AIカメラシステム【ACSL-0001】の概要
AI の実装としてクラウド型やエッジ型のシステムがあるが、小型トラックに装着するためには主にコストと電力、パッケージングの問題点で大きなデメリットがあった。Azmee Inc.ではそれらの問題を解決できる Embedded AI の特徴を生かし、AIの持つ「認知・判断」の学習モデルを低コスト、低電力で堅牢な小型カメラに組み込んでいる。
これにより、小型トラックの死角側となる左側方をすり抜ける自転車や小型バイク、急に割り込んでくる自動車などを見分ける AI の学習モデルを小型カメラで実行でき、ネットワーク不要での動作を実現している。小型トラック用安全AIカメラシステムは安価に導入できるため、様々なトラック事業者様において所有する全ての車両の「標準的な安全装置」として大量導入することができ、トラックドライバーの安全教育も均質化できるメリットがあるという。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000031970.html

シャープと平和テクノシステム、介護施設向け集中管理システムを共同開発

シャープ(株)と(株)平和テクノシステムは、平和テクノシステムが販売する介護施設向けナースコールシステム「Yuiコール」と、シャープのAIoT※1対応エアコン・空気清浄機を連携させることで、施設内の各居室のエアコンなどの運転状況を確認・制御できるシステムを共同で開発し、今月より提供を開始した。

 高齢化が進行する近年、介護業界においては、要介護者の増加と介護スタッフの人手不足が大きな課題となっている。現在、多くの介護施設では、スタッフが各居室を巡回してエアコンや空気清浄機などの運転状況を確認することが多く、入居者がナースコールで温度設定変更などを要望した場合も、スタッフが居室まで向かい、個別に対応することが一般的となっている。

 本システムは、「Yuiコール」とエアコン・空気清浄機をクラウド上で連携※2させることにより、管理室にある「Yuiコール」の画面上で施設内のエアコンなど機器の運転状況の確認や、温度設定変更などの遠隔操作を可能にした。また、運転状況のほか、エアコン・空気清浄機に内蔵されたセンサを通じて各居室の温湿度情報などを常時取得するので、「入居者が夏場にエアコンを暖房運転する」といった誤操作も管理室で確認できるほか、室温が「Yuiコール」上で設定した温度を上回るとナースコールと連動してアラート通知することも可能という。

■サービス名 :空調集中管理システム
■提供開始月 :2021年3月
■対象機種※3 :
 [エアコン]*末尾がLHTの機種は、住宅設備用エアコン。
 ・AY-L22P/AY-L25P/AY-L28P/AY-L40P
 ・AC-22LHT/AC-25LHT/AC-28LHT/AC-36LHT/AC-40LHT2/AC-56LHT2
 [空気清浄機]
 ・KI-NP100/KI-NX75/KI-NS70

【概 要】
1.介護施設向けナースコールシステム「Yuiコール」と、AIoT対応エアコン・空気清浄機の連携による集中管理システム
2.管理室から、家電機器の運転状況や居室の空気環境の確認、遠隔操作が可能
3.介護スタッフによる巡回業務の負担軽減や施設運営の効率化を実現

※1 「AIoT」は、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット化)を組み合わせ、あらゆるものをクラウドの人工知能とつなぎ、家電などを人に寄り添う存在に変えていくビジョン。「AIoT」はシャープ株式会社の登録商標。
※2  シャープのグループ会社である(株)AIoTクラウドが提供するクラウドサービスを通じ、「Yuiコール」とデータ連携が可能。 AIoTクラウドのクラウドサービス(WebAPIサービス)については、以下のウェブサイトに詳述。 (https://www.aiotcloud.co.jp/transitionHP/aiotpf/servicetech/platformsolution.html#anchor-webapi)
※3  対象機種については、順次追加予定。

ニュースリリースサイト(SHARP):https://corporate.jp.sharp/news/210317-a.html

徳島大学、簡便・迅速な新型コロナウイルス検出法を開発

徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所(以下:pLED)及び大学院医歯薬学研究部(以下:BMS)による共同研究チームは、日本医療研究開発機構(AMED)による支援のもと、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRNA/抗原を標的とした新規診断機器の開発」を2020年6月より進めてきた。
この度、最先端の光技術と診断プローブ技術を融合することにより、SARS-CoV-2の簡便・迅速検出が可能な技術を開発し、その成果の一部を第68回応用物理学会春季学術講演会(2021年3月16〜19日オンライン開催)にて発表した。


■研究の背景と研究体制
現在、一般に使用されているCOVID-19診断法は、ウイルスRNAを標的とした「PCR法」。PCR法では、DNA増幅の利用により、高感度である一方で、検査に要する時間、診断正確度、検査技師の熟練度、費用などの問題が指摘されている。このような背景から、簡便かつ迅速にCOVID-19を診断できる手法が望まれている。
徳島大学では、昨春のCOVID-19の感染拡大を受けてその対応に向けた学内連携研究体制をいち早く検討し、先端光技術とその医光融合研究に強みを有するpLEDと、COVID-19に対応可能なバイオセーフティーレベル3(BSL3)実験設備を有するBMSとの協働研究体制を確立した。この協働研究体制は、SARS-CoV-2の「不活化(殺菌)」と「検出」の両方に対応可能であることを特徴としている。SARS-CoV-2の不活化に関しては、深紫外LEDを用いて、不活化に有効な「深紫外光量」の定量化に成功した(2020年10月27日プレスリリース)。
SARS-CoV-2の検出に関しては、AMED「ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究支援)」による支援のもと、pLED、BMS、大阪大学微生物病研究所、(株)カン研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所、シスメックス(株)、(株)JVCケンウッド及び神戸大学大学院保健学研究科から構成された産学連携コンソーシアム体制を構築し、協働・協力により、SARS-CoV-2のRNA/抗原を標的とした簡便・迅速診断機器の開発を推進している。今回、pLEDとBMSが主体的に進めていた簡便・迅速な新型コロナウイルス検出法が、研究成果の1つとして創出されたとのこと。

■実証の結果
今回の研究成果では、表面プラズモン共鳴(SPR)と呼ばれる技術を利用している。SPRとは、特定条件の光を入射することにより金属中の電子が集団振動をする現象であり、これを利用するとウイルス等のバイオセンシングが可能になる。しかし、既存のSPRでは、SARS-CoV-2を検出可能なレベルの高感度性を得ることが困難だった。
本研究では、金ナノ粒子を用いた近赤外ナノ・プラズモニクス技術をSPRに導入することにより、センサ表面に光増強場を生成し、大幅な高感度化を実現した。同時に、SARS-CoV-2由来RNA配列に相補な一本鎖DNAプローブを開発し、センサ表面に固定した。このプラズモニックバイオセンサを用いてSARS-CoV-2由来RNAを計測したところ、現在PCR検査に必要とされる鋳型濃度に迫る低濃度領域(10-15モル/L=fM)の計測が、簡便かつ迅速に可能であることが示唆されたという。

■今後の展開について
今回の研究成果等を基にCOVID-19診断機器の基本仕様を確定し、数年以内の製品化を目指す。また、今回の開発技術は、DNAプローブの設計・開発により、SARS-CoV-2だけでなく、変異型SARS-CoV-2や新興・再興ウイルスにも迅速に適用可能であることから、未知の感染症に対する先取対策としても有用であると期待されるとのこと。

■研究予算
採択事業名称:国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
       ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究支援)
課題分野:「ウイルス等感染症対策に資する医療機器・システム等の改良研究支援」
研究開発課題名: 新型コロナウイルスのRNA/抗原を標的とした新規診断機器の開発

プレスリリースサイト(tokushima-u):https://www.pled.tokushima-u.ac.jp/pressrelease-7/2718/

SECOM システムセキュリティ「AZ」の機能拡充

セコム(株)は、法人向け主力サービスのシステムセキュリティ「AZ」の機能を拡充させ、3月15日より提供を開始した。

2019年9月に発売したシステムセキュリティ「AZ」は、防犯や防災などのリスク管理から従業員の就業管理などによる事業効率化までをオールインワンで提供するサービス。専用のスマートフォンアプリを使って外出先からでもセキュリティ状態の確認や操作ができるなど、多彩な機能が特長である。

このたびの機能拡充では、利便性をさらに高めるために、IPカメラの映像をクラウドプラットフォームで管理する「セコム画像クラウドサービス」※との連携機能を追加し、これまで「AZ」に接続可能だった画像センサ、センサライトカメラだけでなく、さまざまなIPカメラでライブ映像、警備のセット・解除時やセンサ検知時の記録映像を高解像度で確認できるようにした。これにより、映像を把握したい場所や範囲に応じて設置できるカメラの選択肢が格段に拡がるという。

また、利用者がより確実なセキュリティ運用を行えるように、警備セット忘れの防止のために予め設定した警備セット予定時刻前に通知する機能や、従業員の居残りや未開店などの把握のために予め設定した時刻に警戒状態を通知する機能などを追加したとのこと。

※「セコム画像クラウドサービス」:
セーフィー(株)のクラウドプラットフォームを利用して、セコムグループでBPO・ICT事業を担うセコムトラストシステムズ(株)が提供するサービス。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000069357.html

STの最小MEMSミラー、Intel® RealSense™ LiDARL515に採用

STマイクロエレクトロニクスは、Intel® RealSense™ LiDARカメラ L515に、STの小型MEMSミラーが採用されたことを発表した。
STのMEMSミラーをベースに開発されたIntel社のLiDARシステムは、ロボット・アームによるピッキング、容積測定、ロジスティクス、3Dスキャニングなどの産業用アプリケーションにおいて、高解像度のスキャニングを実現するという。

STの小型MEMSミラーは、L515の小型化(直径61mm x 高さ26mm)に貢献すると共に、視野角全体にわたる連続的なレーザー・スキャニングを実現する。また、L515をカスタムのフォトダイオード・センサと組み合わせることで、シーン全体の3D深度マップをレンダリングすることができるとのこと。

STの小型MEMSミラーは、L515の小型化(直径61mm x 高さ26mm)に貢献すると共に、視野角全体にわたる連続的なレーザー・スキャニングを実現する。また、L515をカスタムのフォトダイオード・センサと組み合わせることで、シーン全体の3D深度マップをレンダリングすることができるとしている。

ニュースリリースサイト(ST):https://newsroom.st.com/ja/media-center/press-item.html/t4264.html

屋内測位技術とその利活用(2)

名古屋大学
未来社会創造機構
教授 河口 信夫

2.2 その他のメディアを利用する屋内測位技術

無線を用いず、その他のメディアを利用する屋内測位技術も様々な手法が提案されている。表2に特徴を示し、以下では個々の特徴を示す。

表2 その他のメディアを利用する屋内測位技術
利用するメディア 位置決定手法 精度 環境側機材 端末側機材 応用事例
非可聴音
(超音波)
TOA,
TDOA
数cm~30cm程度 音波ビーコン/マイク マイク/スピーカー ActiveBat
可聴音 近接情報 ID登録位置の近傍 音波ビーコン/マイク マイク/スピーカー  
画像/レーザー/距離画像センサ 画像マップ/VSLAM/点群地図マッチング 数cm 広角カメラ/LIDAR ARKit(iOS), ARCore(Android)
画像/レーザー オブジェクト認識 数cm~数m カメラ/LIDAR 人流センサ
可視光
(輝度変化)
RSSI,
AOA
数mm~数cm*2 LED照明 専用端末 LinkRay,
Picalico
磁気 磁気マップ 数m 磁気センサ Indoor Atlas
気圧 基準位置との比較 数m(高度) 気圧センサ  
加速度・角速度 PDR 数m 加速度・角速度センサ  

・音
音を用いる屋内測位技術には、大きく非可聴音と可聴音を使う手法が存在する。非可聴音としては超音波が用いられ、複数のマイク・ビーコン間の音波の到達時間を比較して距離を計測する。また同時にIDを送信して、固有の位置を判定する。測位精度としては、数cmから30㎝程度が主流である。また、音波を発信するのが環境側、端末側のそれぞれの手法が存在する。端末側が送信する場合は、複数の端末の同時利用が困難であるため、ある程度の規模で同時利用される場合は環境側にビーコンが置かれる手法が用いられている。また、指向性があるビーコンを用いて、受信エリア毎のIDを用いて位置を測定する手法も存在する。可聴音を使う場合は、音波ビーコンとマイクが近接した状況で音を出して来店通知やポイント登録などを行う手法が利用されている。

・光
光を用いる屋内測位技術には、可視光を用いる手法や赤外線レーザーを用いる手法、距離画像センサを用いる手法があり、さらに可視光においては、画像を用いる手法と輝度変化を用いる手法がある。画像を用いる手法では、端末側のカメラから環境を撮影し、VSLAM(Visual Simultaneous Localization And Mapping)と呼ばれる手法を用いて、画像特徴量から自分の相対移動を取得する手法が広く使われており、iPhoneやAndroidなどのスマートフォンにもARKitやARCoreとしてライブラリが搭載されており、対応アプリケーションで活用が可能になっている。iPhone12以降では、LIDARも搭載され、より詳細な情報が取得できる。また、自律移動ロボットなどでは、LIDARを用いて事前に取得した点群地図とのマッチングを用いる手法が広く使われている。同様に、事前に環境を画像マップとして取得しておき、特徴量の比較によりマッチングを行い端末の現在位置を取得する手法も存在する。一方、環境側にカメラやLIDARを設置し、撮影対象のオブジェクト認識などに基づいて位置を推定する手法も存在する。可視光では、設置された発光デバイスのIDを光の明滅や強度などに埋め込み、位置を推定する手法が存在しており、実用化も進んでいる。

・磁気
屋内環境では、地磁気に加え、建物や建具などに存在する磁場によって生じる環境磁場が存在する。これは、建物内の鉄骨などの鉄材が、製造時や溶接時に大きな磁場にさらされて磁化されていることが原因である。磁気による屋内測位はこの環境磁場を活用しており、事前に学習した環境磁場とのマッチングにより測位を行う。しかしながら、環境磁場が同じ条件の場所も存在するため、一定の経路上やWiFi測位などの他の手段との統合測位によって実際の位置を推定している手法が多い。

・気圧
気圧を利用した測位手法は、高さの違いにより気圧が異なることを利用して、高度を推定する手法であり、平面的な位置を推定する他の手法との組み合わせが必要である。また、気圧は天候や環境条件(空気の吹込み、吸出し)などによって変化するため、既知の場所における基準となる気圧が必要となる。

・加速度・角速度
高精度な光ファイバージャイロなどを用いれば、加速度の積分処理などを用いて極めて高い精度で自律航法(Dead Reckoning)が実現できる。初期位置・方向が与えられれば絶対的な測位も可能となる。一方、スマートフォンなどに搭載された加速度・角速度センサには、完全な自律を行うための精度が不足している。そのため、歩数などを用いた歩行者自律測位(PDR: Pedestrian Dead Reckoning)などの技術が利用されている。PDRは、単独では相対的な位置測位しかできず、さらに相対的な誤差が累積されていくため、実用上はWiFiやBluetoothなどの他の技術との組み合わせが必要になる。

3 屋内位置情報の利活用

屋内における位置が取得できると様々な応用が可能になる。以下では、すでに実用化されている例も含めて説明する。

3.1 ナビゲーション

屋内外を含めて位置情報を用いる大きな目的は人のナビゲーションであろう。自分自身の位置や、目的とする店舗やエリアの位置を確認することが可能になる。また、目的地に到着するためにどのような経路を通るのかも含めて、屋内位置が把握できれば、巨大なショッピングモールや地下街においても迷子になる心配がない。また、空港や病院といった場所でも様々な利用者の利便性を向上できる。一方、ナビゲーションのためには、経路が計算できる屋内の地図が必要になる。屋内は、屋外の地図と異なり、フロアという概念やドアやシャッター、エレベータ、エスカレータといった複雑な要素が存在しているため、標準的な屋内地図フォーマットが2021年時点では登場していない。ナビゲーションなどを対象としたIndoorGMLは、GMLをベースに経路情報や部屋の接続情報などを記述可能なフォーマットでありOGC (Open Geospatial Consortium)で標準化が進められている。屋内構造を記述するフォーマットとしては、他にCityGMLやBIM(Building Information Modeling)で用いられるIFC(Industry Foundation Classes)などが存在するが、これは主に景観や構造を記述するためのものであり、ナビゲーションには向いていない。IndoorGMLはこれらの補完的な役割を果たしている。

3.2 ナビゲーション用屋内地図の原状

Apple社ではApple Indoor Mapsとして屋内地図のフォーマットであるIMDF(Indoor Mapping Data Format) を定義し、ショッピングモールや地下街のオーナーが自身が所有するエリアを登録できるようになっている。さらに、WiFiのサイトサーベイ(環境調査)用のアプリを提供しており、Indoor Maps Programを通じた屋内測位が可能になっている。

<以下のビデオなどが参考>
https://developer.apple.com/videos/play/wwdc2019/245/
Google社も、Google MapやAndorid上のMapでIndoor Mapを提供しており,WiFiを用いた屋内測位を実現している。この地図はGoogle社とエリアオーナーとのパートナーシップで実現されている。

3.3 屋内動線管理・物品管理・資産管理

屋内位置情報の活用法として、工場や倉庫などにおいて従業員の動線を取得し、効率化を目的とした分析や動線の改善などが行われている。詳細な位置情報の取得により、工場や倉庫での作業や稼働状況のデータ化(数値化)が可能となるため、これまで把握できなかった情報が得られ、様々な改善の効果を数値として示すことが可能になる。従業員だけでなく、台車や計測器などの機器・資産の位置を把握できるため、物品を探す手間を削減できるだけでなく、利用状況の確認などが確認できる。また、会議室などの運用状況やオフィスの着席状況などの把握も可能になる。

3.4 人流・混雑推定

展示会やスーパーマーケットなどにおいて、顧客がどのような経路で移動し、どこに滞在しているか、といった情報はマーケティング上重要な情報である。顧客やショッピングカートなどへのビーコンの設置や、スマートフォンアプリの活用により屋内位置推定を行えば、これらの人流解析が可能になる。また、ユーザ属性などと共に滞在時間などを測定できれば、店舗内の商材の種類や配置を最適化できる。また、人の動線を用いて、広告などの効果を検証することが可能になる。また、最近では店舗や公共施設などのCOVID-19の感染対策のための混雑度情報を取得するために、WiFiやBluetoothを用いた技術が用いられている。これらの電波を用いる手法は、そのエリアの滞在人数の推定にも利用可能である。

4 まとめ

様々な技術の登場により、屋内でも位置が取得できるようになりつつある。しかしながら、屋内測位においては屋外におけるGNSS技術のように、特定の技術をどこでも利用することが困難であるため、利用目的によって適切な手法の選択や複数の手法の融合が必要となる。また、屋内の地図表現や、位置そのものの記述方法についても十分な標準化が進んでいるとは言えないため、異なるシステム間での連携が十分とは言えない。屋内においては、緯度・経度・高度といった情報で十分であったが、屋内においては、どの部屋にいるのか、どのフロアにいるのか、といった情報がより重要であるが、このような情報をどのように記述するか、について十分な議論ができているとは言えない。今後、より広く屋内位置情報を活用するためにも、適切な情報レベルを設定して活用することが望まれる。特に最近では、LIDARが安価になり、スマートフォンに搭載されるようになっており、またAR(Augmented Reality)技術などの高まりにより、VSLAMに代表される屋内の相対的な測位技術も広く利用されるようになりつつある。今後は、異種システム間やインフラとスマートフォン間などでの屋内位置情報やマップの共有が進むことが期待される。

参考文献

1) Faheem Zafari, et.al, “A Survey of Indoor Localization Systems and Technologies”, IEEE Communications Surveys and Tutorial, Vol.21, No. 3, pp.2568—2599(2019).

2) Hakan Koyuncu, Shuang-Hua H Yang, “A Survey of Indoor Positioning and Object Locating Systems”, International Journal of Computer Science and Network Security, Vol. 10, No. 5, pp.121-128(2010).

3) Ali Yassin, et.al. , “Recent Advances in Indoor Localization: A Survey on Theoretical Approaches and Applications, IEEE Communications Surveys and Tutorial, Vol.19, No. 2, pp.1327—1346(2017).

4) German Martin Mendoza-Silva, et.al. , “A Meta Review of Indoor Positioning Systems”, Sensors, Vol.19, 4507(2019).

5) IndoorGML : https://www.ogc.org/standards/indoorgml

6) IMDF Specification : https://register.apple.com/resources/imdf/



【著者紹介】
河口 信夫(かわぐち のぶお)
名古屋大学 未来社会創造機構 教授・博士(工学)

■略歴
岐阜県生まれ。名古屋大学工学研究科博士課程後期課程情報工学専攻満了。名古屋大学工学研究科助手、講師、助教授等を経て、2009年より名古屋大学大学院工学研究科 教授。2014年より現職。
専門は、ユビキタスコンピューティング、位置情報システム、スマートシティ基盤、移動イノベーションなど。
著書に、「情報処理大辞典」(分担、オーム社)、「つながるクルマ(モビリティイノベーションシリーズ)」(コロナ社)など。
NPO法人位置情報サービス研究機構(Lisra)に加え、自動運転ベンチャー株式会社ティアフォーを設立。

屋内Wi-Fi 測位の基本と最前線(2)

九州大学大学院
システム情報科学研究院
石田 繁巳

3.多辺・多角測位に関する最新技術

2.1では多辺測位、多角測位の基本として、複数のAPを用いて測位を行う方式を説明した。多辺測位、多角測位は原理こそ単純であるものの、距離・角度の推定に誤差が生じることから測位精度に課題があり、精度向上に関して多くの研究が行われている。
ArrayTrack1)は、Wi-Fi端末がAPから見通しがきかない場合があることを想定した到来波方向推定技術である。ユーザが持つスマートフォンなどを測位する場合、スマートフォンとAPの間に人体が入り、Wi-Fi端末からの電波を遮蔽して電波がAPに到達しない状況が想定される。このような場合にも壁や床、天井などで反射した電波によって通信は可能であるが、電波の到来波方向を推定すると反射波の方向を推定してしまう結果となる。ArrayTrackでは、スマートフォンを保持しているユーザが動くことによって遮蔽状況が時々刻々と変化することに着目し、比較的長い時間で見たときの到来波方向ごとの信号強度に基づいて「見通しがきく状況であるか」を推定して高精度な到来波方向推定を実現している。

ToneTrack2)は、Wi-Fiの複数チャネルを結合することで高精度化を図った多辺測位技術である。APとWi-Fi端末の距離を測る方式としては2.1で述べたような減衰量からの推定以外にも電波伝搬時間を測定する方式が存在する。電波伝搬時間の測定には、電波の位相差を利用しているため、分解能を上げるために広い帯域幅で通信を行う必要がある。帯域幅は通信信号の周波数であり、Wi-Fiの場合はIEEE 802.11acで最大160MHzである。
この場合には1.9m程度の分解能しか得られないことから、ToneTrackではWi-Fiチャンネルを切り替えながら通信した結果をつなぎ合わせて擬似的に広帯域の信号を作り出し、1m未満の誤差での測位を実現している。
また、位置が既知である複数台のAPを用いることは実用上大きな課題となることから、1台のAPを用いて測位を行う方式が提案されている。Chronos3)は、市販のWi-Fi APを用いて単一のAPのみで多辺測位を実現する技術である。昨今のWi-Fi APやWi-Fi端末が複数のアンテナを有することに着目し、ToneTrackと同様に複数チャンネルの情報を結合して高い精度でアンテナ間の距離を全アンテナの組み合わせで推定する。その上で、AP・Wi-Fi端末上のアンテナ間距離を既知の情報としてAP・Wi-Fi端末間の距離を推定することで、見通し環境(AP・Wi-Fi端末間に遮蔽物がない状況)で65cm、見通しがきかない環境で98cmの測位精度を実現している。

4.位置指紋測位に関する最新技術

多辺測位、多角測位に比べて高精度を実現しやすいことから位置指紋測位に関しては多くの研究が報告されている。特に、位置指紋測位に必須であるトレーニングの手間を削減するための技術が多く報告されている。
スマートフォンを持ち歩くユーザの力を借りてトレーニングに必要な信号強度情報を収集するクラウドソーシング手法は古くから研究が行われている4)-6)。このような技術を用いれば、ユーザがスマートフォンを所持して移動するだけで信号強度情報を収集できるため、ユーザに意識させることなくトレーニングを完了できる。
Wi-Fiを用いた位置指紋測位では、信号強度ではなくCSI(Channel State Information: チャネル伝搬情報)を利用する手法が報告されている。 Wi-Fiは「サブキャリア」と呼ばれる周波数のわずかに異なる複数の搬送波を束ねて送信するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing: 直交周波数分割多重方式)を用いている。送信機から送信された電波は直接受信機に到達するものもあれば、床や壁、天井などに反射してから受信機に到達するものも存在し、これらが混ざり合って合成された結果が受信機で観測される。反射の仕方は電波の周波数によってわずかに異なるため、周波数の異なるサブキャリアは異なる反射の影響を受け、送受信機の場所によってサブキャリアごとに位相や振幅の変化の仕方が異なる。そこで、サブキャリアごとの位相、振幅の変化を場所を表す特徴、すなわち位置指紋として測位を行う方式が提案されている。
CSIは位置依存性が高いものの、近接する場所でも似たような特徴となるとは限らない。このため、深層学習を用いて位置指紋測位を行うBiLoc7)、DeepFi8)DNNFi9)、DelFin10)、E-Loc11)などが提案されている。例えば、E-Loc11)は、CSIを用いてCNN(Convolutional Neural Network: 畳み込みニューラルネットワーク)により位置指紋測位を行う技術である。

5.デバイスフリー測位

これまでに紹介した技術はすべてスマートフォンなどのWi-Fi端末を測位する技術である。これに対し、Wi-Fi端末を持たない人間の位置を推定するデバイスフリー測位技術が存在する。4.で述べたCSIを用いれば反射して受信機に到達した電波の変化を取得することができるため、CSIを解析することで反射を起こした物体をセンシングできる。実際、筆者らもスマートフォンなどのWi-Fi端末を持たない人の位置を推定する技術を報告している12),13)
CSIを用いる場合には場所の依存性が高くなることから、トレーニング時にはさらに大量のデータが必要となる。このため、LiFS14)では比較的安定性の高いCSIとなるサブキャリアを特定し、そのサブキャリアの情報のみを用いて位置指紋測位を行うことで学習コストを削減する技術を提案している。
CSIと深層学習を組み合わせるデバイスフリー測位技術は多く提案されており、測位だけではなく呼吸のセンシング15)や行動認識技術16),17)などが提案されている。CSIを用いたセンシング技術は、既設のWi-Fi APを用いて高度なセンシングを可能とすることから今後も普及していくと筆者は見込んでいる。

6.おわりに

本稿では、Wi-Fiを用いた測位の基礎について説明した後、最新研究の動向を多辺・多角測位、位置指紋測位、デバイスフリー測位の3つに分けて概説した。特にCSIと呼ばれる伝搬路情報を用いた測位・センシング技術に関して多くの研究が行われており、本稿ではごく一部すら紹介できていない。興味がある方はその他の技術もぜひ調べていただきたい。

参考文献

1) J. Xiong and K. Jamieson, “ArrayTrack: A fine-grained indoor location system,” In Proc. USENIX NSDI, pp.71–84,April 2013.

2) J. Xiong, K. Sundaresan, and K. Jamieson, “ToneTrack: Leveraging frequency-agile radios for time-based indoor wireless localization,” In Proc. ACM MobiCom, pp.537–549, Sept. 2015.

3) D. Vasisht, S. Kumar, and D. Katabi, “Decimeter-level localization with a single WiFi access point,” In Proc. USENIX NSDI, pp.165–178, March 2016.

4) A. Rai, K.K. Chintalapudi, V.N. Padmanabhan, and R. Sen, “Zee: Zero-effort crowdsourcing for indoor localization,” In Proc. ACM MobiCom, pp.293–304, Aug. 2012.

5) H. Wang, S. Sen, A. Elgohary, M. Farid, M. Youssef, and R.R. Choudhury, “No need to war-drive: Unsupervised indoor localization,” In Proc. ACM MobiSys, pp.197–210, June 2012.

6) C. Wu, Z. Yang, Y. Liu, and W. Xi, “WILL: Wireless indoor localization without site survey,” IEEE Transactions on Parallel and Distributed Systems, textbf24(4), pp.839–848, April 2013.

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8) X. Wang, L. Gao, S. Mao, and S. Pandey, “CSI-based Fingerprinting for Indoor Localization: A Deep Learning Approach,”IEEE Transactions on Vehicular Technology, 66(1), pp.763–776, Jan. 2017.

9) G.-S. Wu and P.-H. Tseng, “A deep neural network-based indoor positioning method using Channel State Information,” In Proc. IEEE ICNC, pp.290–294, Maui, HI, March 2018.

10) B. Berruet, O. Baala, A. Caminada, and V. Guillet, “DelFin: A deep learning based CSI fingerprinting indoor localization in IoT Context,” In Proc. IEEE IPIN, pp.1–8, Nantes, France, Sept. 2018.

11) B. Berruet, O. Baala, A. Caminada, and V. Guillet, “E-Loc: Enhanced CSI fingerprinting localization for massive machine-type communications in Wi-Fi Ambient Connectivity,” In Proc. IEEE IPIN, pp.1–8, Pisa, Italy, Sept.2019.

12) R. Takahashi, S. Ishida, A. Fukuda, T. Murakami, and S. Otsuki, “DNN-based outdoor NLOS human detection using IEEE 802.11ac WLAN signal,” In Proc. IEEE SENSORS, pp.1–4, Montr´eal, QC, Canada, Oct. 2019.

13) S. Ishida, R. Takahashi, T. Murakami, and S. Otsuki, “IEEE 802.11ac-based outdoor device-free human localization,” Sensors and Materials, 33(1), pp.53–68, Jan. 2021.

14) J. Wang, J. Xiong, H. Jiang, K. Jamieson, X. Chen, D. Fang, and C. Wang, “Low Human-Effort, Device-Free Localization with Fine-Grained Subcarrier Information,” IEEE Transactions on Mobile Computing, 17(11), pp.2550–2563,Nov. 2018.

15) D. Zhang, Y. Hu, Y. Chen, and B. Zeng, “BreathTrack: Tracking Indoor Human Breath Status via Commodity WiFi,” IEEE Internet of Things Journal, 6(2), pp.3899–3911, April 2019.

16) F. Wang, J. Feng, Y. Zhao, X. Zhang, S. Zhang, and J. Han, “Joint Activity Recognition and Indoor Localization With WiFi Fingerprints,” IEEE Access, 7, pp.80058–80068, 2019.

17) H. Yan, Y. Zhang, Y. Wang, and K. Xu, “WiAct: A Passive WiFi-Based Human Activity Recognition System,” IEEE SENSORS JOURNAL, 20(1), pp.296–305, Jan. 2020.5



【著者紹介】
石田 繁巳(いしだ しげみ)
九州大学 システム情報科学研究院 情報知能工学部門
先端情報・通信機構学講座 助教

■略歴
2006年 芝浦工業大学工学部卒業。
2008年 東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。
2012年 同大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。
2008年 (株)アクティス入社。
2013年 米国ミネソタ大学客員研究員。
2013年より九州大学システム情報科学研究院助教。
無線通信、センサネットワークなどに関する研究に従事。
ICMU Best Paper(2016年)、山下記念研究賞(2016年度)、
電子情報通信学会通信ソサイエティ活動功労賞(2019年)など受賞。

超音波屋内位置測位技術(2)

3.超音波ビーコンの仕組み

大手自動車部品メーカの試作開発でパラメトリックスピーカの開発に携わってきた。その指向性という特性を他の用途に利用できないかということがずっと考えられてきた。調査の過程で電波ビーコンの問題点を見つけ、指向性という特性を生かし超音波ビーコンを開発できないかということでその大手自動車部品メーカと伴に研究してきた。

(株)イーソニック
中山 哲治
図3 超音波変調

超音波ビーコンは、パラメトリックスピーカの応用として開発されたものである。従って、パラメトリックスピーカの仕組みを解説することがそのまま超音波ビーコンの解説となる。超音波は波長が短いため人間の耳には聞こえないということは一般によく知られている。そこで、超音波を可調音の波長に沿って変調することで、可聴音のうねりができ、それが人の耳に聞こえるようになる(図3参照)。なので、超音波を聴くことができる犬やコウモリのような動物には全く異なった音として認識される。超音波変調は既知の技術であるのでネット検索で情報を得ることが容易である。
次に、通常のスピーカと超音波変調した出力の指向性の比較について記述する。
図4は、18kHz~20kHzの可調音と超音波を変調した音源の指向性を比較したものである。同じ18kHz~20kHzの音源でも超音波変調した音源のほうが高い指向性を示すことがわかる。

図4 可聴音と超音波変調との指向性の比較

この特性を利用したものが超音波ビーコンである。
超音波ビーコンは、専用の受信機ではなく、広く使われているスマートフォンでの信号受信をターゲットにおいている。スマートフォンの内蔵マイクではそのままの超音波を受信できないため、内蔵マイクが受信できるような周波数に変調する必要がある。ただし、超音波ビーコンの場合、人の耳に聞こえてはいけないので、マイク性能の上限である18~20kHzに変調している。それほど高い音圧は必要ないので超音波素子には、密閉型が使用されている。

図5 ホーンによる超音波の均一化と指向性

超音波ビーコンは、指向性があるとはいえ、きれいな円錐形に出力されるわけではなく、有効角度も一定ではない。そこでテーパのついた円筒形(以降、ホーンと呼ぶ)の金属を取り付けることで、ほぼ均一な円錐形の出力が可能になった(図5参照)。
超音波素子は、振動により音を出力しているため、振動に対し大変敏感である。その振動が打ち消されないため超音波素子の取付けには工夫が必要になってくる。超音波素子の固定台の材質や配置でかなり音圧に違いがあることが分かった。例えば、超音波素子の固定台としてアルミ板を使用した場合、2mm厚では音圧は下がらないが、1mm厚だと音圧が下がってしまった。アルミでなくスチールを使用すると1mm厚でも音圧が下がらなかった。そのスチールでも表面積を増やすと音圧が下がってしまう。
現在の形になるのにかなりのトライ&エラーが行われてきた。
超音波ビーコンというとハードウェアばかりに目が行きがちだが、実は受信した信号を解析するためのソフトウェアもかなり重要となる。
人が歩いて通過する地点で受信、解析を行うためには、その作業をおよそ1秒以内で行う必要がある。解析時間に制限がなければ、できるだけ長い時間のデータを取得して解析していけばより正確な結果を得ることができるが、短すぎると解析精度は落ちてしまう。少なくとも1秒以内で完了させなければいけないため、そのバランスが重要なポイントとなる。そのためのアルゴリズムの作成にかなりの時間を費やしている。一般的にはSFFT(短時間フーリエ変換)が利用されることが多いようだが、時間軸に対する解析には弱い部分がある。そのため当社では別のアルゴリズムを応用することでその弱点を補っている。また数十年に培ってきたソフトウェアの経験も大きい。
どのようなアルゴリズムを使用したかは社外秘なのでここでは割愛させていただく。以前、取引をさせていただいた某大手企業でも同様なことをやろうとしたようだが、ハードウェアはできてもソフトウェア部分ができなかったようである。

4.今後の課題

超音波ビーコンの認知度はまだ低いため大量生産に至らず、また使用されている部品の価格もまだ高い。電波ビーコンに比べてコスト面ではまだまだ高いと言わざるを得ない。また消費電力においても電池駆動での長時間使用という課題がある。どちらも今後普及してくれば、電波ビーコンでそうであったように解決されていくもの期待している。

※図および写真は株式会社イーソニック提供



【著者紹介】
中山 哲治(なかやま てつじ)
株式会社イーソニック 代表取締役

■略歴
1986年  国立静岡大学 工学部 精密機械工学科 卒業
1986年~ 日本DEC株式会社(現日本HP) 製品開発部
1992年~ 日本タンデムコンピューターズ株式会社(現日本HP) 技術本部
1999年~ 株式会社イーアンドディー 取締役
2013年~ 株式会社イーソニック 代表取締役
JIIA一般社団法人 日本国際情報通信協会会員

磁気を用いた屋内測位(2)

奈良先端科学技術大学院大学
総合情報基盤センター
准教授 新井 イスマイル

3.磁気測位の研究動向

前章で述べた通り、磁気は屋内で分散しており測位の手がかりになりそうだが磁気の類似性と地理的な距離に必ずしも相関はないため、測位誤差の精度が低くなりがちである。この課題を解決するアプローチを数例紹介する。以降に参照する論文は無償でダウンロードできる和論文を選んだのでぜひ読んでいただきたい。
村田ら[2]は磁気センサデータを時系列で取り扱い、パーティクルフィルタによって測位する。パーティクルフィルタはロボットの位置推定でよく用いられる手法で、測位結果の候補となる複数のリファレンスポイントをパーティクル(粒子)として取り扱って尤もらしいリファレンスポイントを逐次見出す。1点のFPでは測位結果の候補が分散してしまう場合でも、時系列になっていれば磁気センサデータの変化パターンは絞り込みやすくなり、またパーティクルフィルタによって極端な移動も除外できる。

図4 村田らの提案手法の全体像([2]図1)

電磁気の影響を指摘する研究もある。寺井[3]は、大学や駅にて短期的に磁気が変動しそうな箇所にて定点磁気センシングして、測位に影響する変動が起こる箇所を特定し、そのような場所で磁場が大幅に乱れる期間を検知する手法を提案した。磁場が乱れる期間が分かればその間は既存の磁気測位を実施せずに直前の測位結果を保持したり、乱れている磁気自体を別の磁気マップとして保存しておいて状況に応じてマップを切り替える等の対処をすれば良い。各実験箇所での磁気の変化具合は以下の通りだった。

●エレベータ前:ドアの開閉の度に1μT程度の変化あり
●エレベータ前1m:大きな変化なし(エレベータ前より1μT程度の変動が大幅に減る)
●7Fエレベータ前(モータ近く):エレベータ前1mと違いなし
●レーザ複合機の前:動作時も変化なし
●電子レンジ前:動作時も変化なし
●第三軌道の線路下10m:電車発着の度に約2μTの変動あり(図 5)

エレベータ前でのドアの開閉と線路下だけ磁気変動の根拠が明確だが、前者は残留磁気を伴うドアが開閉して移動したことによるものと考えられ、またドアの目の前というピンポイントな箇所なため例外として無視した方がよく、結局電磁気による影響を考慮しなければいけないのは電車の架線くらいの大電流が近くで流れた時だけと言える。この研究では歩いている最中も向きや高さの変動で磁気センサ値が変動することを考慮して、3軸地磁気と3軸加速度の値をSVM(Support Vector Machine)の入力にして磁気変動の有無の2値分類問題を解いている。

図5 線路下10mで定点観測した時の磁気変化量(寺井[3]図3.9)

周囲的な磁気変動を意図的に発生させて磁気マーカとして用いる発想もある。武島ら[4]は円柱状の磁石をステッピングモータで数Hzで回転させる回転磁石マーカ(図 6)を製作し、距離と磁束密度の関係を利用して2m以内ならば最大で13cm以下の平均誤差、1.4m以内の範囲であれば4cm以内の誤差で測位できることを確認している。有効範囲が狭いのは想定する用途例が店内の棚までたどり着いた後になっていることと、強すぎる磁石を用いると磁気カードや電子機器の故障が危惧されるためだった。

図6 回転磁石マーカ(武島ら[4]図7)

最後に、他の測位手法との組み合わせ事例を紹介する。前章でも紹介した通り、FPは無線LANベースの屋内測位でも用いられており、無線LAN基地局が環境中に複数設置されていることが前提となるが、例えば1つでも基地局が観測できればその周辺約100m以内であることを特定できる。一方で1つも基地局がなければ測位不能である。磁気FPは測位エリアが広ければ広いほど可能性のある測位誤差の範囲も広くなる。一方で、環境中への設備の設置が不要である。この両者の長短はうまく補完できるというのが東ら[5]の発想である。磁気も無線LANも測位時に1点しかFPしないが、予め準備フェーズで無線LANアクセスポイントから受信したビーコンの受信電波強度を基にレファレンスポイント毎の無線LAN FPの信頼度を計算しておき、測位時に無線LAN FPと磁気FPの測位結果候補を信頼度を基に加重平均を取る。基本的には無線LAN FPの補正手法として機能する立ち位置になるが、データベースに保存しているフィンガープリントの数を削減(一時的にビーコンを捕えなかったり、アクセスポイントの入れ替えでマップが劣化していることを想定)していっても他の既存手法と比べて測位精度の低下が低かったため、無線LAN FPと磁気FPをバランスよく利用できていることが証明できている。なお、学校の廊下100m程度の環境で実験した結果ではあるが測位誤差は中央値も平均値も10m未満に収まっている。

図7 相互補完型Wi-Fi・磁気フィンガープリンティングの概要(東ら[5]図2)

磁気測位、磁気フィンガープリンティング、Magnetic Fingerprintingといったキーワードでググるとまだまだ色んな手法が研究されている様子が確認できる。いずれにおいても最近の研究は他のセンサと組み合わせており、磁気センサ単体で実用レベルに達するものは今のところ確認できていない。大抵の場所では無線LAN基地局がなくてもセルラー通信の電波は受かっていたり、安価なBluetoothビーコンを設置すれば解決するからである。筆者が現在共同研究している清掃工場(クリーンセンター)ではその施設の性質上、僻地にあってセルラー通信も工場内だと見つかって1基地局だけであったり、空間が広すぎるためビーコンの設置・維持コストも高くなったり、無線LANを整備するほど通信の需要がなかったりして磁気FPの実用が期待されている。

4.おわりに

初期のスマートフォンから搭載される磁気センサは主に方角や姿勢を知るために利用されてきたが、屋内では特に残留磁気が原因で使用に支障があった。磁気を用いた屋内測位手法はその残留磁気の問題を逆手にとったものと言える。磁気の変化パターンは建物内の金属の量と性質に依存し、また対象空間が広くなればなるほど磁気単独での測位性能の維持は難しくなるが、他のセンサとの組み合わせによって測位に役立つセンサであることは3章で紹介した研究から明らかである。筆者らも磁気測位が活きると思われる清掃工場といった環境で研究を2020年から始めているが、本稿の読者らの新たな発想により、適するフィールドが広がったり、測位性能の飛躍的な向上のきっかけが生まれれば幸いである。

参考文献

2) 村田雄哉, 梶克彦, 廣井慧, 河口信夫, 神山剛, 太田賢, 稲村浩, “歩行時の磁気センシングデータを利用した屋内位置推定手法,” 情報処理学会論文誌, Vol. 58, No. 1, pp.57—67, 2017. http://id.nii.ac.jp/1001/00176872/

3) 寺井元基, “地磁気フィンガープリンティングの精度向上のための3軸の地磁気と3軸の加速度を用いたSVMによる地磁気の変化検知,” 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修士論文, 2019年3月. https://library.naist.jp/mylimedio/search/av1.do?target=local&bibid=90563

4) 武島知勲, 梶克彦, 廣井慧, 河口信夫, 神山剛, 太田賢, 稲村浩, “回転磁石マーカによるスマートフォンの3次元位置推定手法,” 情報処理学会論文誌, Vol. 59, No. 1, pp.138—149, 2018年1月. http://id.nii.ac.jp/1001/00185276/

5) 東和樹, 新井イスマイル, “相互補完型Wi-Fi・地磁気フィンガープリンティング手法の評価,” 情報処理学会論文誌, Vol. 58, No. 2, pp.384—395, 2017年2月. http://id.nii.ac.jp/1001/00177465/



【著者紹介】
新井 イスマイル(あらい いすまいる)
奈良先端科学技術大学院大学 総合情報基盤センター 准教授 博士(工学)

■略歴
2008年3月 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士後期課程修了
2008年4月 立命館大学 総合理工学研究機構 ポストドクトラルフェロー
2011年4月 明石工業高等専門学校 電気情報工学科 助教
2013年4月 同講師
2015年4月 同准教授
2016年4月 奈良先端科学技術大学院大学 総合情報基盤センター 准教授 現在に至る

TOPPAN、曲率半径1mmで100万回屈曲可能な フレキシブルTFTを開発

凸版印刷(株)は、曲率半径1mmで100万回屈曲可能な高可撓性(※1)/高耐久性と高キャリア移動度(※2)を兼ね備える新規構造フレキシブル薄膜トランジスタ(Thin-film-transistor、以下TFT)の開発に世界で初めて成功した。
本開発品は曲率半径1mmで100万回折り曲げ可能な高可撓性と高耐久性だけでなく、キャリア移動度10cm2/Vs以上で電源On/Off比107以上など実用的な特性を示した。これらの特性を活用したフレキシブルセンサの実現を目指すという。

▮開発の背景
 近年、折り畳み式スマートフォンなどに利用されているフレキシブルエレクトロニクスは、ウエアラブルセンサや遠隔患者モニタリングをはじめとする医療機器、スマートパッケージ、電子テキスタイルといった消費者向け製品などの幅広い用途で、その開発が期待されている。フレキシブルエレクトロニクスのTFTとしては、可撓性や軽量性などの点から有機TFTが有力視されているが、キャリア移動度が低く、信頼性や耐久性に劣るなど多くの課題が残されている。一方でシリコン系や酸化物の半導体からなる無機TFTはキャリア移動度が高く、量産工程も確立していますが、可撓性には改善の余地がある。そのためキャリア移動度と可撓性、耐久性すべての特性を満たすTFTの開発が切望されている。
 このような課題に対し、凸版印刷は独自の成膜技術/印刷技術/フィルムハンドリング技術を駆使し、シャープペンシルの芯に巻き付けられるような高可撓性、フレキシブルプリント回路基板並みの高耐久性、そしてテレビなどで広く使用されるアモルファスシリコンTFTの10倍以上の高キャリア移動度を兼ね備える新規構造フレキシブルTFTの開発に世界で初めて成功した。また、本開発品とセンシング部材を組み合わせることで、高可撓性/高耐久性を求められるフレキシブルセンサの実現を目指すとのこと。

▮特長
新規構造フレキシブルTFT
 量産適用されている技術を活用した全く新しい構造により、トランジスタとしての優れた電気特性だけでなく、高可撓性/高耐久性を有す。
・可撓性/耐久性: 曲率半径1mm/100万回の屈曲試験前後で、キャリア移動度の変動等、特性の変化は観察されず
・キャリア移動度: 10cm2/Vs

▮今後の目標
 凸版印刷は、製造技術の開発を進め、新規構造フレキシブルTFTの可撓性や耐久性、キャリア移動度など特性をさらに向上させるとともに、フレキシブルセンサの用途開拓を進めるとしている。

※1可撓性:
 物質の弾性変形のしやすさを示し、曲げたり、たわませたりすることができる性質を表す。
※2キャリア移動度:
 半導体では、電子や正孔などのキャリアの移動のしやすさ。キャリア移動度はトランジスタ性能を計る一つの目安である。

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