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AIカメラを活用した養豚の体重・体格・肉質計測に関する実証実験

(株)コーンテックとNTT東日本神奈川事業部、(有)臼井農産とは、養豚業界における生産の効率化・省力化および知見の継承に向けて、AIカメラを活用した養豚の体重・体格・肉質測定の実証実験の取り組みを開始する。


1.取り組みの背景
神奈川県では豚の飼養戸数が減少傾向にある一方で、一戸あたりの飼養頭数は1,000頭以上に増加※1しており、効率的な豚の飼育が求められている。
豚の飼育において豚舎環境の把握は重要であり、NTT東日本が2019年より神奈川県養豚協会、神奈川県畜産技術センターとの連携により、既存設備へ導入が容易なIoTを活用したシステムを構築し、「飼養環境の見える化」(温湿度データや豚の衛生環境等監視)の実現に取り組んで来た※2。
更には、2021年4月より今回の実証実験を一緒に行う臼井農産と連携し、CO2濃度センサを用いて、適切なCO2濃度を維持・管理方法を見極める、品質・生産性向上を目指した実証実験を実施している。
この度、AIカメラを活用した体重・体格・肉質の計測および推定算出、飼育状況のデータ活用などのシステム化を通じて、従業員の計測作業省力化や熟練従業員のノウハウのデータ化・知見の継承、出荷量・質の安定化の実現に向けた実証実験を実施するという。

※1 神奈川県HP「豚の統計(平成31年度)」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/w5c/minnnanotikusan/buta_2018.html
※2 NTT東日本 報道発表
https://www.ntt-east.co.jp/kanagawa/information/detail/1261755_1751.html

2.本取り組みの概要
コーンテックの深度センサ付きAIカメラにより、最大50頭の飼養豚を同時に体重および体格による肉質を計測する。あわせて、豚舎管理として温湿度・CO2濃度も計測。
また計測したデータは、クラウド上のサーバーにデータ蓄積し、飼育・出荷判断時に有効活用する。
そして、蓄積された計測データと飼育・出荷判断データの相関性を導くことで、熟練作業員のノウハウを見える化した知見の継承、適切な時期での出荷に役立てていくとのこと。

3.実施期間
2021年6月7日から2022年3月末まで(予定)

4.実施場所
臼井農産・豚舎 (神奈川県厚木市飯山3575)

5.各社の役割
◆株式会社コーンテック
 AIカメラによるデータ収集・蓄積、体重・体格・肉質の解析・精度向上、実体重との差異確認および教師データ化、機器検証情報の提供
◆NTT東日本
 通信機器の設置・管理、実証実験の遂行における総合的な支援
◆有限会社臼井農産
 実験フィールドの提供、豚衡機計測による肥育豚体重情報提供、AIカメラ利用評価、体格(肉質)に関する評価・アドバイス

6.今後の予定
本取り組みにて集積したデータを活用 (AI等による分析、活用等)し、臼井農産は最高品質の豚肉の提供を目指していくとともに、NTT東日本とコーンテックは、神奈川県内における養豚業へのIoTサービス導入のサポートを実施していくほか、各種連携等により養豚業の発展に向けた新たな仕組みづくりを検討していくとしている。

ニュースリリースサイト(corntec):https://corntec.jp/news/

構造計画研究所、次世代非破壊検査デバイス「3MA」の提供を開始

(株)構造計画研究所は、ドイツのフラウンホーファー非破壊試験研究所が開発した次世代非破壊検査デバイス「3MA(スリーエムエー)」の提供を開始した。

「3MA」は、金属材料が持つ磁気特性と強度特性を、データ分析・機械学習で結びつけることで、製品・部品を破壊せずに品質を検査する革新的な磁気式センシングデバイス。従来の破壊試験に比べ、品質検査にかかる費用・時間を大幅に削減することが可能である。さらに、産業用ロボットと連携させることで、製造中のリアルタイムな品質検査を実現する。
これまでに欧州の自動車産業を中心に多くの導入実績があるとのこと。

同社ではこれまでに培ってきたデータ分析・機械学習、センシングなどの要素技術と、材料力学・ものづくりプロセスに関する知見をもとに、国内の製造業を中心に「3MA」の販売・技術サポート、委託計測サービス、「3MA」を活用した技術コンサルティングを提供することで、 スマートなものづくりを実現し、品質と生産性の両立を支援するとしている。

■「3MA」の概要
「3MA」は、計測センサ部より取得される磁気特性から、本来は破壊検査によってのみ取得できる機械特性を間接的に推定するソフトセンサ。磁気特性と機械特性には強い相関関係があることが知られており、事前に機械学習を用いてキャリブレーションすることにより、これを可能とする。原理が磁気式のため計測材料は強磁性材料に限られるが、硬さ、降伏応力、引張強度、残留応力、メッキ被膜厚さ、ナゲット径、疲労損傷度など多岐にわたる材料特性の完全非破壊計測が可能となる。
従来、プレス、溶接、切削加工、焼入れなどの工程における品質保証は、抜き取りの破壊試験が主であり、それには材料費、工数、時間を要する。また、万一不良品が出た場合にはロット単位の製品が大量廃棄されることも少なくない。「3MA」による非破壊検査は、これらの課題を解決する技術であり、品質保証プロセスに対する革新的なイノベーションとして大きな期待が寄せられているという。

ニュースリリースサイト(kke):https://www.kke.co.jp/news/solution/newsrelease_20210603.html

キリン、工場のテスト展開で、年間200時間強の作業負荷軽減効果・安定稼働を確認

 キリンビール(株)は、キリンテクノシステム(株)と連携して、キリンビール北海道千歳工場における、センサの活用およびビッグデータの解析による缶商品パッケージングライン製造設備の異常兆候管理のテスト展開が2021年4月に完了し、設備不調の予兆を検知するシステムを確立した。

 ビール・RTD※などの製造の効率化を図るには、製造現場の担当者が各設備を理解し、適切な管理を行うことが求められる。キリンは高品質な商品を提供するため、設備の定期点検に加え、感覚をもとに設備の異常兆候管理作業を実施しているが、本点検は担当者の経験や熟練度に依存しているため、作業の属人化による業務負荷の偏りや、作業の平準化が進まないことが課題となっているという。
※ Ready to Drinkの略。栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料

 今回、缶商品パッケージングライン製造設備の特定箇所における複数のセンサの取り付けにより運転状況のデータが蓄積され、そのビッグデータを解析・数値で確認することで、設備異常の予兆を検知するシステムを確立できた。現場の担当者は熟練度に左右されることなく設備点検を行うことができ、設備の不調を早期に検知することで、生産ラインの安定稼働・稼働効率化を実現できる。
 また、定期点検や異常兆候管理作業といった作業時間の省略化が進むことで、従業員の業務負荷軽減につながる。キリンビール北海道千歳工場では異常兆候管理により1年間で約200時間の業務時間の削減が期待でき、まずは一部の設備に絞って運用を開始する予定とのこと。

 将来的にはデータ解析による設備故障の予兆を実施し、メンテナンス頻度の適正化、メンテナンス費用の削減を目指す。キリンビール北海道千歳工場においては、今後缶商品パッケージングライン以外への製造設備への展開を目指すとともに、2023年以降は国内の他工場へも展開を目指す。
 なお、キリンテクノシステムにおいては、2022年以降にセンサを活用した異常兆候管理システムの外販を目指し、設備課題の解決に取り組むとしている。

<システム概要>
1.システム名・概要
センサの活用およびビッグデータの解析による缶商品パッケージングライン製造設備の異常兆候管理
2.対象工場・展開時期
キリンビール株式会社北海道千歳工場:2020年1月よりテスト展開を実施し2021年4月に効果を確認。
他設備、他工場:2023年より本格展開予定
3.導入効果
点検負荷低減(約200時間/年の業務時間の削減)
ビッグデータ活用による設備異常の早期発見および設備の安定稼働の実現

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000113.000073077.html

ToF技術を搭載した距離測定が可能な BLEビーコン、ToF距離センサ

レンジャーシステムズ(株)は、ToF技術により物体までの距離を高い精度で測定可能なBLE・ToF距離センサ(iBS03R)を2021年6月1日より販売開始した。

ToF(Time of Flight)とは、出力した光線が物体に反射して受信するまでの時間を測定することで物体までの距離を算出する技術。ToF距離センサの特徴として、測定した距離の精度が高く1~3cm程度の誤差で測定することができ、また、コストパフォーマンスが高い。
レンジャーシステムズはこのToF技術を使用し、測定した物体までの距離をBLEで送信できる低価格なIoTセンサを開発・販売を開始した。

小型でIP67防水防塵対応しているうえ、内蔵のボタン電池により2年程度動作が可能なため、利用環境を選ばず簡単設置が可能。ダストボックスの利用状況や在庫の監視、物体の有無の検知など、幅広い用途で利用できるとしている。

■仕様
・電池:CR2450×1
・検知距離
 〔短距離用〕:40~1300mm
 〔長距離用〕:40~3000mm
・電池寿命
 〔短距離用〕:約1.8~2.8年
 〔長距離用〕:約1.4~2.2年
・Bluetooth Smart4.2、BLE 5 (Long Range)
・防水・防塵:IP67
・運用温湿度:-20~70℃/0~95%RH
・認証:TELEC/FCC/IC

ニュースリリースサイト(ranger-systems):https://ranger-systems.co.jp/release/20210601ibs03r/

高機能センサ インテリジェントシリーズガスセンサ(iシリーズ)新発売

 日本ハネウェル(株)は、高機能センサ インテリジェントシリーズ ガスセンサ(iシリーズ)を発売する。

 次世代のインテリジェントシリーズ(iシリーズ)は、ハネウェル有数のガスセンサのブランドCity Technologyが新しく発売したガスセンサ。デジタルインターフェース搭載のIシリーズは、長寿命で、さまざまな解析機能を内蔵している。
 iシリーズのインテリジェントな機能により、機器全体の性能を格段に向上させることができる。故障を表示し、機器の状態をモニタリングできるため、よりスマートで、より安全な機器を実現。作業の中断時間を減らし、所有コストを抑えることができる。
 校正済みのセンサは、簡単に統合できるため、ユーザーにとって使いやすく、また、OEMメーカーにも最適。内蔵のOEMロックコード機能により、権限のない第三者によるセンサの交換を防ぐことができる。
 5年という長寿命を実現し、広範囲にわたる温度・湿度変化に対応できるガスセンサIシリーズは、幅広い用途、さまざまな気候条件下で使用することができる。
 City Technologyブランドのiシリーズは、欧州防爆規格(ATEX)および国際標準防爆規格(IECEx)の認証、 (EN IEC 60079-0およびEN IEC 60079-11)を取得している。
 また、BS EN 45544-1、BS EN 50104、ANSI/ISA 92.00.01、ANSI / ISA 92.04.01、AS/NZS 4641をはじめとするさまざまな性能基準を満たした設計となっているという。

【製品特長】
·デジタルインターフェース
·交換可能
·デジタルトレーサビリティ
·OEMロック機能
·校正済センサ
·再校正時期/交換時期/故障お知らせ機能
·コンパクトサイズ
·対応ガス
 電気化学:一酸化炭素(CO) 、硫化水素(H2S) 、二酸化硫黄(SO2)、酸素(O2)
 触媒ビーズ方式:爆発下限界(LEL:Lower Explosion Limit)

【最適アプリケーション】
 ガス検知器や監視システムなど

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000030062.html

映像AIを活用して組立工程の作業ミス見逃しを防止、「外観異常判定システム」

 OKIは、製造現場のなかでも特に熟練者の技術・経験を必要とする検査工程にAIを取り入れて省力化・自動化を実現する映像AIソリューション「外観異常判定システム」を開発し、6月1日より販売を開始した。

 本システムはカメラで撮影した検査対象の部品・製品の高精細映像をAIで映像解析することにより、リアルタイムで製品の外観異常を自動判定する。OKI本庄工場(埼玉県本庄市)で実施した実証実験では、本システムの導入により、組立工程における作業ミスの見逃し“0”化、さらには製造工程全体の作業時間の15%削減という効果を確認した。OKIは本システムを、スマート工場を実現するManufacturing DX(注1)のソリューションの一つとして販売し、今後3年間で10億円の売り上げを目指す。

 生産労働人口が減少する中、製造現場における省力化・自動化の取り組みが進んでいる。製造の各工程の中でも、組立工程における作業ミスの有無を部品・製品の外観の目視でチェックする「検査工程」は特に熟練者の技術や経験への依存度が高く、そのノウハウや技術のデジタル化による継承が喫緊の課題だった。OKIは、この課題を解決するため、検査対象の部品・製品の映像データに対し熟練者の「目」および「知(ノウハウ)」に値するAI分析を行うことで外観の目視検査を自動化する「外観異常判定システム」を開発した。

 本システムは、カメラで撮影した検査対象の部品・製品の高精細映像をOKIのAIエッジコンピュータ「AE2100(注2)」で解析することにより、リアルタイムで製品の外観異常を判定し、即座に作業者に結果を通知する。判定結果を含む検査画像、製品情報などの証跡データは上位に位置する管理サーバーに蓄積し、品質管理や分析に活用することができる。ローカル5G(注3)実験試験局を備えるOKI本庄工場の通信機器製造ラインで実施した本システムの実証実験では、高精細映像をローカル5Gネットワークで伝送し、AE2100で映像解析した結果、作業ミスの見逃し“0”化とともに、製造工程全体の作業時間を15%削減する効果を実証した。従来熟練を要した目視検査工程を自動化したことで、作業者の負荷軽減効果も期待できる。OKIは引き続き本庄工場をはじめとする自社工場でのManufacturing DX導入実績・ノウハウを活かしてAIエッジ×5Gの各種ソリューションを提供し、製造業の現場力強化およびITとOT(注4)の改革に貢献するという。

機能概要
●現場端末に実装される機能
 ・生産管理連携
 ・エッジ連携(工程制御)機能
 ・判定結果表示
●AIエッジに実装される機能
 ・画像前処理:背景差分での物体検知
 ・画像解析※による外観異常検知
※:解析モデルは個別開発要
●管理サーバーに実装される機能
 ・製品情報+判定画像保存
 ・検査履歴、画像データの取得(WEB)
 ・アクセス権制御
 ・画像判定項目設定(DLモデル生成)
 ・外部システム連携(個別対応)

注1:Manufacturing DX(マニュファクチャリング・デジタルトランスフォーメーション)
注2:AE2100
 ネットワークカメラや各種センサを収容してエッジ(現場)で高速ディープラーニング推論処理を行う、耐環境性に優れたAIエッジコンピューター。大容量の映像データをクラウドへ送信せずエッジでAI処理することにより、信頼性・リアルタイム性・プライバシー保護を実現。(URL:https://www.oki.com/jp/AIedge/)
注3:ローカル5G
 通信事業者ではない企業や事業者が、プライベート空間に専用の5Gネットワークを構築する自営の無線ネットワーク。
注4:OT(Operational Technology:オペレーショナルテクノロジー)

プレスリリースサイト(OKI):https://www.oki.com/jp/press/2021/06/z21018.html

東大発AIベンチャー SMITH&FACTORY、無人フォークリフトの開発に着手

TRUST SMITHグループ傘下の企業である、SMITH & FACTORY(株)は、 無人フォークリフトの開発に着手した。本技術により、工場内物流や流通現場における事故防止・労働力不足の解消・作業効率の向上を目指す。

●技術開発の背景
近年、機械技術の発達により生産の合理化が進み、搬送におけるフォークリフトの需要が増加している。一方で、 フォークリフトによる労働災害の死傷者数は年間約1,900人と長年横ばい傾向にあり危険な状況が続いている。事故原因としては、転倒・転落・落下・追突などが挙げられる。
SMITH&FACTORYは以前から、このフォークリフトによる事故の問題に注目しており、過去には「フォークリフトの衝突防止システム」を開発してきた。
今回は衝突事故だけでなく、フォークリフトに関わるあらゆる事故を未然に防ぐため、「無人フォークリフト」の開発に着手した。本技術により、工場内物流や、流通現場におけるフォークリフトによる事故防止を始め、労働力不足の解消や作業効率の向上を目指すとのこと。

●技術の特徴
①SLAM誘導で走行
LiDARセンサにより自己位置を常に把握し、 最適な経路を生成しながら設定された目的地へ自律的に走行ができるSLAM方式の自律走行アルゴリズムを用いる。従来の磁気誘導方式のように床面への磁気テープの埋設を必要としないため、 導入が容易であり、加えて効率的な移動が可能であるという特徴を持つ。
②安全かつ正確にタスクを実行
3D-LiDARセンサに加え、デプスカメラと障害物検知アルゴリズムの組み合わせにより安全性を更に担保する。1次元LiDARセンサとサイドシフト制御などの組み合わせによりミリ単位でのパレット運搬が可能となっており、安全かつ正確なタスクの遂行が可能である。
③搬送物の種類に依存せず、様々な物を搬送可能
オーソドックスなパレットの搬送に加え、原紙ロールのような貨物の搬送も、 ニーズに応じてカスタマイズ可能なハードウェアを用いることで対応できる。

本技術は特に以下のような課題の解決を目的としている。
・事故の防止
・人為的ミスの削減
・労働力の不足
・人件費の削減
・感染症の予防
・レイアウト変更への柔軟な対応

●今後の展望
今後は、同社が同様に重要視している「在庫の置き場がまちまちなために在庫探しの効率が悪い」という課題の解決に向けて、倉庫内のナビゲーションシステムも同時に開発を進めていく予定。 今回開発に着手した「無人フォークリフト」は、工場内物流や流通現場における事故防止・労働力不足の解消・作業効率の向上に繋がるだけでなく、社会全体で起きている諸問題に対して一石を投じることができると考えているという。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000063451.html

量子磁気計測センサ応用ME機器の研究開発と実用化(1)

元 横河電機(株) 取締役中央研究所長
大手計測センサ技術事務所
大手 明

現在量子計測センサに大きな注目が集まり、ME機器応用などを目標とした多くの研究開発が行われ、勝れた成果も報告されている。これらの成果も単なる研究報告だけでは、社会に貢献しない。ME機器として実用化を行い、更に事業化、産業化に展開させることが次の科学技術の発展につなげるためにも必須である。このため、企業の積極的な取組みが必要である。
本稿では例として現在大きな産業として育っているMRIの研究開発から実用化の過程を報告する。今後の展望に関してはAppendixで私見を述べる。

1. MRIの研究開発と実用化、事業化

(注) NMR (Nuclear Magnetic Resonance) 分析装置など
MRI (Magnetic Resonance Imaging) イメージング装置

横河電機のMRIの研究開発は未だ製品が市場に発表される以前に文献調査から開始した。小型試験装置での予備実験からオリジナリティある新しい方式を考案し、YMS(横河メディカルシステム社)と共同で人体用モデルまで開発した。この間約3年である。この成果が後にGE社、YMS社の経営に寄与したことは、理想的な研究開発事例と考える。開発の経験は貴重な技術蓄積であり、今後のME機器の実用化、事業化、更には産業化の参考になるので、経過を報告しておきたい。

(注)YMS社は現GEヘルスケア・ジャパン社であるが、本文ではYMSで統一

1.1 研究開発

横河電機ではME画像分野に進出するとのCMK(コーポレートマーケティング部門)の提唱に従って超音波断層像装置の開発・製品化、X線CT装置の横河モデルの開発が既に進められていた。次の画像診断装置として癌の診断の可能性のあるNMRの利用が話題になっており、大手は調査を進めていた。我が国の当時の研究は一点毎のデータ集めて画像にするような方式であった。世界では1973年にニューヨーク州立大学のLauterbur教授の提案による勾配磁場を用いて断層像を得る方式の研究が始まっていた。
英国を中心とする世界中の文献を全て集めてもファイル一冊程度の量であった。これならば何かブレークスルーが出れば良い製品が開発できるとの考えで1981年10月から岩岡秀人さん(故人)を中心に具体的な検討を開始してもらった。研究メンバーは岩岡さん、藤野健治さん、杉山直さん、松浦裕之さんの4名である。この時点でGE社が開発を進めているとの情報は入っていなかった。

(トピックス:Lauterbur教授を訪ねて)

1982年3月19日、大手は横河電機ニューヨーク駐在の三木勇二さんの運転する車でニューヨーク市対岸のロングアイランド島を北上していた。着いたのはStony Brookと言う所。ここでSUNY(ニューヨーク州立大学)at Stony Brookの Lauterbur教授を訪ねた。教授は1973年に勾配磁場を用いて断層像が得られる原理を提唱していた。1982年にTemperatureの国際会議がWashington DCで開催され、大手は量子計測センサのNQR(核四重極共鳴)標準温度計の発表を行った。その帰途にStony Brookに立寄ったものである。大きな身体であるが、もの静かな教授も三木さんの巧みなジョークに和み、いろいろ話をしてくれた。因みにジョークの内容は大手には全く理解できなかった。

図1 Lauterbur教授と大手

Lauterbur教授が勾配磁場を用いた断層像装置の提案をした頃には米国でも注目され、GE社からは何回も調査に来た。しかし、その後は全く音沙汰が無く、彼は米国には仲間が居らず、英国の研究者と情報交換を続けていたとのこと。ところが、この頃になって再びGE社から調査に来るようになり、日本の各社からも来ているとのことであった。当時のLauterbur教授はNMR顕微鏡の開発に注力していた。光学顕微鏡と異なり、対象物の内部が観察できるので、分解能が上がれば魅力的なものと思われた。新しい研究開発テーマの開始にあたり、原理の提唱者から直接の教示を受けることが出来たのは大変幸運なことであった。教授は2003年にノーベル医学生理学賞を得ている。

1.2 NMRイメージング法(MRI)の原理

図2 NMRイメージング法の原理

本題に入る前に基本原理を簡単に紹介する。均一磁場B0中におかれた1H(プロトン)はラーモアの周波数ν0=γB0で歳差運動し、熱平衡状態ではB0方向に磁化Mを生じる。γは磁気回転比である。B0と直交してν0の高周波パルス(90°パルス)を印加すると磁化MはⅩY平面内に倒れる。さらにMをⅩY平面内で反転させるためRFパルス(180°パルス)を印加すると、NMR信号としてエコー信号を放出する。信号検出の際、線形勾配磁場Gxを印加する。得られたエコー信号をコンピュータでフーリェ変換すると周波数軸上に対象物の投影像が得られ、Ⅹ軸の位置情報を周波数に対応づけることができる。Y軸方向の位置情報は線形勾配磁場Gyを用いて位相軸に変換する。Gyを変化してこのパルス系列を繰返し、得られたデータを2次元フーリェ変換して画像を得る。 静磁場B0の発生には電磁石を用いる。

図3 人体用NMRイメージング装置の原理構成

均一な磁場が得られるよう電磁石をいくつかに分割して構成する(図の例は4コイル)。この内側にX、Y、Zの3組の勾配磁場コイル、RFの励起コイル、受信コイルなどが組み込まれている。NMR信号のSN比が磁場強度に比例することから強磁場を発生できる超電導磁石を用いる例もあるが、大型、高価という欠点がある。SN比はパルス系列や信号処理技術により改善することができる。
従来のNMRイメージング法ではRFパルスの印加後、次のプロジェクションに進むまでに磁化Mが熱平衡に戻る時間(約1秒間)待たなければならない。例えば128プロジェクションの信号を得る場合、128秒のスキャンタイムを要することになる。これが大きな欠点となっていた。

1.3 小型実験装置の開発-最初のNMR画像-

図4 着磁器を利用した「野菜のねぎ」の画像

研究テーマ名は「NMRイメージング装置」で、1)小型動物用装置の開発、2)人体用装置の開発、の2段階を想定していた。担当者はNMR、MRIについては素人であるので、そもそもの基本原理や装置開発の基本を学習することから1)の開発を始めた。
まず手始めとして、均一磁場の測定道具として磁束密度の絶対値を正確に測定できるNMR磁束計を試作した。これには、NQR温度計のマージナル発振器の技術がそのまま生かされた。均一磁場を発生する電磁石の原理や設計技術の習得をかねて図5に示す卓上の小型電磁石を設計し外注した。外注先は電源トランスの試作を得意としている町工場に依頼した。
小型磁石の外注作業が完了し納期待ちの期間は、NMR画像の基本を実体験することに当てた。画像再構成プログラムの作成も開始した。また社内の着磁器を使用して、撮像サンプルの野菜のねぎ、小魚のシシャモなどを画像化して基本原理を実体験するとともに、それらの画像からねぎの中空部分やシシャモの卵の部分を識別でき、MRIの良さを実体験した。

図5 試作した小型電磁石

高精度磁場測定器の作製、電磁石の設計、画像再構成プログラムの作成、着磁器を用いた実体験など、これらを手分けして行い、不十分な画質ながら5ヵ月後には自社設計した小型電磁石を用いた初めてのNMR画像が得られた。小型電磁石の磁場強度は0.1T(テスラ)、磁場均一性は4.3×10-5T、均一磁場領域(画像化領域)は直径40mm×長さ20mmと小さかったが、アイデアを確認するためには最適なシステムであった。

1.4 高速イメージング法の発明(Fast Recovery法:FR法)

担当となった岩岡さんは、MRIの実用化を阻んでいるものは何か、それを解決すれば実用化の道は開ける、そこに注力してアイデアを考案しよう、それを「ゴール」と考えていた。当時、MRIの研究は主に英国の大学で行われていたが、実用的な良い画像を得るためにはスキャン時間が20~60分と長かった。これらの論文では、良い画像を得ることを目的としていたが、プロトン(水)のT1(縦)緩和時間が1.5秒でありNMRの原理からスキャン時間が制限されるのは原理的なもので致し方ない、とい結論であった。そこに目を付け、原理的にスキャン時間を短くできれば実用化に大きく寄与できると考えた。
NMRの基本をまず勉強し、FR法の前段階にあたるパルスシーケンスを独自に考えたが、調査してみるとNMR分析ではすでに時間短縮のためにDEFT法として使用されている方法であった。ここで普通は諦めるのだが、目的・用途が違えば課題の解決法も違ってくるはずだと思い、松浦さんと共にDEFT法のイメージングでの課題と解決法について研究を進めた。その結果が下記のFR法である[1] 。また自作の小型電磁石で確認実験した卵の画像写真を示す。この発明は、米国IEEEの論文誌であるMedical Imaging誌に投稿し無修正で掲載された[2]。FR法の発明、英文による論文発表が国内・国外に横河の研究グループの存在を知らしめ、事業化を目的としたYMSとの人体用MRI装置の研究につながったと考える。
1981年10月から1983年7月までの1年10ヶ月、74人月で、学術界・産業界(GE社)にインパクトを与えるようなオリジナリティのある研究が行なわれた[4] [5]。

図6 FR法の原理(研究ノートから)
図7 小型電磁石を用いたFR画像(卵)

1.5 人体用NMRイメージングシステムの開発
    -横河電機とYMSとの共同開発プロジェクト-

小型電磁石のNMR画像が得られる少し前、研究がスタートして4ヶ月目の1982年1月には、社内のME事業が米国GE社と合弁で新会社であるYMSを起こし、そこで医療画像機器の開発・製造・販売を行うことになった。
1983年8月にYMSとの共同開発プロジェクトとして、人体用MRIシステム開発チームがスタートした。横河の大手、YMSの山口珪紀さんをリーダとして、実務は岩岡秀人さん他、YMSからは島崎通さん他電気計測技術チーム、機械設計チーム、ソフトウェアチームが参加した。期間は1984年9月までと短期間ではあるが、横河電機が開発した高速法と常電導磁石で人体用を実現することが目標である。
常電導磁石の設計はコンピュータを使っての電磁場計算により、均一性能と共に小型小電力を目標とした磁石の設計ができた。コイル部分の試作は外部に発注した。電磁石の開発は、ビオサバールの式をコンピュータで計算し、10mm角の銅線を用いたので現実の巻き線の引き出し線や形状に従って綿密なシミュレーションを実施し、かつ手元にあった直径100mm程度の巻き枠で実験し、使用した式に間違えがないことを確認した。

図8 人体用MRI装置の常電導磁石の組立風景
図9 完成した小型小電力常電導磁石

シムコイル、RFコイル、メカ部分はYMSが担当した。実験室は4.7m×14.1m の大きさで壁・床など周囲に鉄骨(磁性体)がなく、銅板による電磁シールドを施した。電磁石の電源等は購入した。電力150kW、冷却用給排水70リッター/分。すべてが研究者として初体験の大きな物理単位であった。電磁石は電気的設計はもちろんのこと磁場均一性を得るためのメカ調整プログラムやそれを考慮したメカ設計などの事前の配慮により予定通り完成し、そのため研究のスピードアップが図られた。
この装置を用い、1984年4月には人体頭部画像、ファントムで1mm分解能が得られている。その後、FR法画像のために調整を進めた。

図10 開発した人体用MRI装置を用いた画像

1.6 学会発表とまとめ

1984年8月に米国ニューヨークで開催された、Third Annual Meeting, Society of Magnetic Resonance Imaging in Medicine で杉山(直)さんがFR法を発表した[3]。発表の際の質問はT2(横緩和時間)に関してであったが、質問者の意図は、FR法の画像コントラストが低くなる点にからみ医療画像としての位置づけに注意を払うことが必要とのことであった。学会で発表しいろいろな意見を聞くことが重要である。その後、GE社ミルウォーキーのMRI Labで杉山(直)さんが講演したが、その際、参加者全員が赤線入りの我々のIEEEの論文を机上に広げていてFR法への関心の大きさと横河への敬意に改めて驚いた。

1983年8月-1984年9月(13ヶ月)、開発工数:横河43人月、YMS82人月で所定の目的を果たして人体用MRI装置の研究を完了した。成果を下記にまとめる。[6] [7] [8] [9]

1) 高均一磁場を発生し、小型・低消費電力という特長がある人体用0.15テスラの常電導磁石を自社開発した。
2) FR法で人体像を得、理論どおり従来法(SR法)の1/3から1/10のスキャンタイムを実証した。
3) 16秒の高速スキャンで人体頭部像、8分のファントム像で分解能0.5mmが得られた。
4) YMSへの技術トランスファーが完了した。1981年10月開始の基礎研究からちょうど3年目である。後日のことだが、FR法は高速法の基本となり、各種の新たな手法が付加されてGRASSという名前でGE社からMRI装置に搭載され、1990年代まで世界市場に供給された。
この他「T1,T2,プロトン密度計算画像」の研究もあるが、ここでは省略する。
この研究開発は、横河の医用画像装置展開の確たるビジョンのもとで、世の中のニーズの立ち上がり時期と合致した研究のタイミング、オリジナリィティを求めたコンセプト、実用的なモデルの設定、必要な技術分野を集積したプロジェクト体制、がポイントである。YMSは共同研究成果を活用して世界市場に対して事業化へ取り組み、成功された。

1.7 GE社とYMS社のMRI製品開発

資料によると、GE社のME事業部は当初X線CT事業の成功のためにMRIに関心を持たなかった。これに対しGE社のR&D Centerは生きた人間のリン31Pの代謝の研究用を名目に、Corporateの費用で1.5T超伝導磁石の全身NMR装置を開発した。MRIの研究で著名な英国のDr. P. Bottomley, Dr. B. Edelstein, などを採用している。
X線CT事業で敗れた各社はMRI 開発に注力し、1983年になるとMRIの商用モデルがヨーロッパで設置された。GE社でもイメージング装置の開発が始まり、1.5Tの研究用システムが転用された。RSNA ’83/84でSIGNAとして正式に発表され、超伝導磁石も社内生産とした。
SIGNAは1.5Tの強力なMRIで世界標準とされるが、装置が大きく、病院での設置に苦労した。特に日本の病院では普及が遅れた。広く普及させるためにはより小型の装置が必要との考えでGE社ME事業部からの要望で技術開発に取り組んだ。RESONA(輸出名MR MAX)はYMSが独自に開発した、0.35T/ 0.5Tの超伝導中磁場MRIシステムである。エレクトロニクス技術とマイクロプロセッサ、ソフトウェア技術を駆使し、小さいながら高画質、低価格の本格的実用機として注目された。中磁場ながら、腹部の画像はむしろ1.5Tより良質との評価とのことである[9]。技術的には横河-YMSの共同開発の成果が活かされている。言うまでもなく、GE社は世界中の病院に大きな販売ネットワークを持っている。これに対してYMS社はME機器の開発、設計、製造を日本国内で行い、GEブランドで世界市場に供給している。MRI装置機種別国内設置台数などは各種の調査報告がある(例えばhttps://www.jira-net.or.jp/vm/pdf/mri_pdf02.pdf)。

発表文献

[1] 岩岡秀人、藤野健治、杉山直、松浦裕之, “高速NMRイメージング法の基礎実験”, 第3回核磁気共鳴医学研究大会, 口演3, p.4, 1983.

[2] H.Iwaoka, T.Sugiyama, H.Matsuura, K.Fujino, “A New Pulse Sequence for “Fast Recovery” Fast-Scan NMR Imaging”, IEEE Transactions on Medical Imaging, Vol.MI-3,p.41-46, 1984.

[3] H.Iwaoka, K.Fujino, T.Sugiyama, H.Matsuura, “Fast Recovery Method for Fast Scan NMR Imaging”, Third Annual Meeting Society of Magnetic Resonance Imaging in Medicine, p.373-374, 1984.

[4] 岩岡秀人、杉山直、松浦裕之, “高速NMRイメージング装置”, 第23回計測自動制御学会学術講演会, p.333-334, 1984

[5] 大手明、“総合技術リポート84、エレクトロニクス、2.1 高速NMRイメージング装置”、横河技報 Vol. 28, No.2, pp. 84-85, 1984

[6] 岩岡秀人、松浦裕之、杉山直、平田隆昭, “高速NMRイメージング法”, 計測自動制御学会論文誌, Vol.23, No.4, p.326-332, 1987.

[7] 岩岡秀人、松浦裕之、杉山直、平田隆昭、”NMRイメージング装置“、横河技報 Vol. 31, No.2,pp. 57-62, 1987.

[8] 岩岡秀人, “核磁気共鳴現象を用いた映像法の研究”, 博士論文(慶應義塾大学), 1987.

[9] 横河電機 「医療機器事業こと始め」 第三の柱・創業の使命に燃えて
MEを語る会 代表 杉田昌質 (2011.2.25)非売品、限定配布資料

次回に続く-



【著者紹介】
大手 明 (おおて あきら)
大手計測センサ技術事務所
(元 横河電機(株) 取締役中央研究所長)

■略歴
1961東京大学工学部応用物理学科卒業(計測工学専修)、横河電機製作所(現横河電機株式会社)入社
工計研究部、研究開発部などにて
1961-76 主としてプロセス制御用計測器及び温度計測関係の研究開発に従事
差動容量式変位変換器/磁気式変位伝送器/アナログ式プロセス制御システム(I-Series)/トランジスタ温度センサ/NQR(四重極共鳴)標準温度計
1976- 研究開発部 室長・部長として研究開発の企画推進
超音波診断装置/NMRイメージング装置(MRI)/コヒーレント光通信用計測技術/高速電子計測技術
1990 電子デバイス本部長、計測制御機器用センサ及びICの開発、設計、生産を担当
1996 取締役中央研究所長、
1998 同社顧問兼横河総合研究所副社長
2003 横河電機技術開発本部技術コンサルタント。
現在 株式会社イーエス技研 監査役、技術顧問
  (大手計測センサ技術事務所)
(次世代センサ協議会元理事、海洋計測センサ部会元代表)

■受賞等
工学博士(1980年東京大学)、IEEE Life Fellow、計測自動制御学会フェロー
1975年 科学技術庁 第1回研究功績者表彰 「NQR標準温度計」

光ポンピング原子磁気センサと次世代の脳機能計測(1)

京都大学
大学院工学研究科
小林 哲生

1.  はじめに

近年、ヒトの高次脳機能のメカニズムを解明し、さらに神経・精神疾患の克服や新たな産業の創出に結びつけることを目指す脳研究のビッグプロジェクトが主要先進国で相次いで始められ、その動きは世界各国に広がっている。この背景には、アルツハイマー病などの認知症に代表される神経・精神疾患患者が今後益々増加することが予想され、疾患の早期発見などにより医療費を抑えたいという財政上の事情に加え、非侵襲的な脳機能計測法が急速な進展を遂げたことがある。
筆者は、2006年に、光ポンピング原子磁気センサ(Optically pumped atomic magnetometer: OPM)1,2)と呼ばれる超高感度な磁気センサの開発を産学連携研究により開始し、現在このセンサをコアとした次世代の脳機能計測システムの実現を目指して研究・開発を進めている。

OPMは、光ポンピング法により生成したアルカリ金属原子のスピン偏極を用いて極微弱な磁場の計測を可能とする光学的磁気センサである。この光ポンピングをアルカリ金属原子に対して行い磁気センサとして用いる原理は、1957年に報告されていたが感度が低く3,4)、その用途は限られ極微弱な磁場を検出する必要のある生体磁気計測、中でも脳磁図(MEG)には使用できないものと考えられていた。しかし、2000年代に入り超伝導量子干渉素子(SQUID)と同レベル以上の超高感度が達成できることが報告(5,6)され、その後盛んに研究•開発が行われてきた。

2.  光ポンピング原子磁気センサの計測原理

円偏光は回転方向により光子の持つ角運動量が異なりσ+偏光が+1、σ-偏光が-1である。アルカリ金属原子が円偏光を吸収した場合、角運動量保存則により基底状態(S1/2)の-1/2にあった電子のみが励起状態(P1/2)の+1/2へD1遷移によって励起することなる。一方、励起状態から基底状態に脱励起する場合は自然放出過程で±1/2のどちらの準位にも戻り得る。この過程を繰り返すことで基底状態の+1/2の電子の占拠数が-1/2の占拠数よりも多くなることでスピン偏極が生じる。これが光ポンピングであり、フランスのKastlerが1950年に提案した。OPMの感度にはスピンの緩和時間の長さが関わっており、緩和時間が長いほど感度が高くなる。このスピン緩和時間を決める一因としてスピン交換衝突があるが、スピン交換衝突に伴う緩和が実効的になくなるような(SERF)条件を満たせばセンサの感度が10-16 T/Hz1/2オーダまで到達可能であることが2002年に実験的に示された(5)

このSERF条件は、密度行列式を解くことにより理論的に示されたもので、一つには光ポンピングされる原子密度が極めて高いという条件、もう一つがゼロ磁場に近い(実際には数nT以下程度で良い)の静磁場環境において動作させるという条件である。そのため、図1に示すようなアルカリ金属原子(K、Rb、Csなど)が封入されたガラスセルは地磁気をキャンセルするための磁気シールド内に配置し、さらに残留磁場を相殺してゼロ磁場に近づけるためのコイルシステムを周りに配置する。なお、感度を制限する要因の一つであるスピン偏極の緩和時間を長くするためセル壁面とアルカリ金属原子の衝突までの時間を長くする目的でセルにはバッファーガス(HeやNなど)が一緒に封入されている。図1では、一辺3cmの立方体型のガラスセルを例として示したが、サイズは数mm〜数cm、形状も立方体、直方体、円筒型など用途に応じて変えられる。

図1 OPMガラスセル(左)、気化したアルカリ金属原子(中)とスピン偏極生成のイメージ図(右)。

現在OPMには、様々なタイプのものが提案されている。その中で最も感度の高い計測が可能なポンプ用レーザ、プローブ用レーザの2つを直交させた配置であるポンプ-プローブ型OPM(図2)である。従って、SERF条件を満たすポンプ-プローブ型が最も高感度のOPMである。なお、その他の方式としてレーザ光の吸収特性の変化と磁場変調を利用する一軸型、ポンプ光とプローブ光を同一方向から照射する二色型などがある。

図2 ポンプ-プローブ型OPMの原理

我々は、このSERF条件を満たすポンプ-プローブ型OPMの開発から開始し、さらにKとRbの2種類のアルカリ金属原子を一つのガラスセルに封入した、センサ特性の高い空間均一性を有し、かつ高感度のハイブリッド型OPMの開発と生体磁気計測分野への応用を世界に先駆けて行ってきた。本稿では、基本となるポンプ-プローブ型OPMについてその計測原理を説明する。
ポンプ-プローブ型OPM(以下、OPMと記す)では、まず図1に示すようなガラスのセルに封入された気体の状態にあるアルカリ金属原子に、そのD1遷移共鳴波長に調整したσ+偏光のポンプ光をz 軸方向から照射すると、アルカリ金属電子が光ポンピングされスピン偏極Sが生じる。さらに、y軸方向に計測対象磁場Bを印加すると、スピン偏極Sがトルクを受けz-x平面上で歳差運動することによりx軸方向成分が生じる。この状態で、プローブ原子のD1遷移共鳴波長から少し離調した直線偏光のプローブ光をx軸方向からと、磁気光学回転によりプローブ光の偏光面が回転する。この回転角θが十分小さいときスピン偏極Sのx 軸方向成分に比例しているため、偏光ビームスプリッタと2つのフォトディテクタ、差動増幅器からなるポラリメータ型のプローブ光検出器により回転角θを検出することで、y軸方向に印加された磁場Bを間接的に計測することができる。
なお、印加磁場Bと回転角θとの関係はセル内部の温度やポンプレーザ強度、プローブレーザ波長、アルカリ金属原子の種類などの計測条件によって変化する。数十pT以下の磁場においては印加磁場Bと回転角θは比例しているとみなせ、プローブ原子がK原子の場合では、1fTの磁場に対する回転角は約0.4μradである。また、z軸方向にバイアス磁場を印加しスピン偏極を歳差運動させることで、共鳴周波数を中心とした計測感度をセンサに与えることができる。
OPMは、測定体積が小さくても高い感度を保つことが期待でき、多チャンネル化により高い空間分解能を持った磁場計測が可能になる。理論的に10-17T /Hz1/2オーダの感度が期待できる(6)

3.  K-RbハイブリッドOPMによる多チャネルMEG計測

OPMによる脳機能計測、中でもMEG計測においては多チャネル化が必要であり、その実現には2つの異なるアプローチが考えられる。一つはガラスセル、光ファイバ、光学系、ヒーター、断熱材などが一体となった小型のOPMモジュールを開発し、それを1チャネルとしてそれをアレイ化する方法、他は、大きなガラスセル内に複数のビーム交差部を作り、各交差部を1チャネルとして複数点同時計測を図る2つの方法である。我々は、両方のアプローチにより研究・開発を進めてきた。本稿では、後者の大きなガラスセル内に設けた複数計測点における同時計測の例7)を紹介する。
本方法では、ポンプ-プローブ型のOPMに複数本のプローブ光を入射させ、複数チャネルを有する検出器で受けることにより多チャネルを構成する。このとき、通常のOPMでは、ポンプ光の減衰により、セル内でセンサ特性の分布が生じてしまうため、センサセルにKとRbの2種類のアルカリ金属原子を封入したハイブリッドセルを用いてセンサセル内での特性の均一化を図った。このハイブリッド型OPM7)では、まず原子密度の低いRb原子を光ポンピングし、スピン交換衝突によりK原子をポンピングした後、K原子に直線偏光のプローブ光を照射することにより磁場を計測する。
用いたガラスセルの内寸は5×5×5cm3であり、内部にはKとRbのほかにバッファガスとしてHeとN2を10:1の比で常温にて150kPaとなるように封入した。このセンサセルを180℃に昇温すると、KとRbの密度はそれぞれ1.6×1019m−3、1.0×1018m−3となった。ガラスセル内に複数のチャネルを生成するため、1列あたり10チャネルのフォトダイオード(3×3mm2)を2列配置したものを2枚用意し、偏光ビームスプリッタ(Polarizing Beam Splitter: PBS)によりそれぞれがS偏光とP偏光を受光するようにした。このとき、1列のフォトダイオード間の間隔は1mmであり、センサ密度は2.5個/cmである。図3は、ハイブリッドOPMを用いた実験系の概略である8)。MEG計測は、10Hzにおけるシールドファクタが104の3層磁気シールドボックス内で行なった。

図3 (a) 実験系の模式図。(b)ループコイルから発生する磁場分布の計算結果と(c)計測された磁場分布8)

ヒトのMEG計測に先立ち、図3の中央に設置したハイブリッドセルの上方60mmに固定した直径10mmのループコイルに0。4mA、10Hzの正弦波を印加し、発生する磁場分布を計測した。各チャネルの感度は10Hzにおいてチャネル単体で10-20fT/Hz1/2であった。図4に、ループコイルから発生する磁場分布の計算結果と4mm間隔で配置されたポラリメータ型プローブ光検出器によって100(10×10)点で計測された磁場分布を示す。ループコイル位置をマニュアルで変化させた際の位置ずれなどが原因でx軸方向については歪みが見られるものの、4mm間隔という高密度で磁場分布が計測できることが実証できた。

図4 α波のERD信号および全チャネルのERD信号の平均9)

続いて、上述したハイブリッド型OPMを用いてMEG多点同時計測を試みた9)。被験者は、磁気シールドボックス内に設置した木製のベッドに仰向けで横たわり、眼前に配置したスクリーンは常時点灯させた。被験者は24歳の健常男性であり、4sごとに鳴るビープ音で開眼・閉眼を繰り返し、視覚野におけるα波の事象関連脱同期(ERD)を被験者の視覚野近傍に配置したOPMで観測した。
データ取得は、被験者の後頭部から60mmの距離にある10チャネルを用いた。得られた信号は8~13Hzの帯域通過フィルタをかけた後、分散を計算し、50回加算平均をした。
MEG計測の結果を図4に示す8)。全10チャネルのうち、3チャネルはノイズの影響が大きかったため、7チャネルの結果及び全チャネルの平均を図示する。計測できた全てのチャネルにおいて、開眼時にα波が30%以上減衰していることが観測された。

次回に続く-

参考資料

(1)D. Budker and M. Romalis, “Optical magnetometry”, Nature Physics, Vol.3, pp. 227-234 (2007)

(2)D. Budker D et al. Edt., “Optical magnetometry”, Cambridge Univ. Press. (2013)

(3)H. Dehmelt, Phys. Rev. 105, 1924–1925 (1957)

(4)W. Bell and A. Bloom, Phys. Rev. 107, pp.1559–1565 (1957)

(5)J.C. Allred, et al., Physical Review Letters, Vol.89, No.13, 130801 (2002)

(6)I.K. Kominis, et al., Nature, Vol.422, pp.596-599 (2003)

(7)Y. Ito, T. Kobayashi, et al., AIP advances, Vol.2, 032127 (2012)

(8)K. Nishi, Y. Ito and T. Kobayashi, Optics Express, Vol.26, No.2, pp.1988-1996 (2018)

(9)伊藤,西,小林, 日本生体磁気学会誌,Vol.31, No.1, pp.178-179 (2018)



【著者紹介】
小林 哲生(こばやし てつお)
京都大学大学院工学研究科
電気工学専攻 生体医工学講座 教授

■略歴
1984年 北海道大学大学院工学研究科 電子工学専攻 博士後期課程修了(工学博士)
1984年〜1992年 北海道科学大学講師・助教授
1987年〜1992年 University of Rochester, USA, Visiting Scholar
1992年〜2004年 北海道大学電子科学研究所講師・助教授
1996年〜1997年 Simon Fraser University, Canada, Visiting Associate Professor
2004年3月より現職

専門分野は、脳計測科学、電気電子工学、認知神経科学、ニューロイメージングなど。現在、国際複合医工学会副理事長,国際磁気共鳴医学会日本支部 (ISMRM-JPC) Past-Chair, 国際脳電磁図トポググラフィ学会 (ISBET) 理事,日本生体磁気学会理事・監事・第36回大会長、International Journal of Magnetic Particle ImagingのEditorなどを務めている。医用生体工学分野の国際賞James Zimmerman Prize (IFMBE, 2018年)などを受賞。

走査型SQUID顕微鏡の開発と地質試料への応用(1)

産業技術総合研究所
地質調査総合センター
小田 啓邦

1.海底鉄マンガンクラストと地球磁場逆転

今から20年以上前に高知大学の臼井朗教授から海底鉄マンガンクラストの分析を持ちかけられたのが、超伝導量子干渉素子(SQUID)を用いた走査型SQUID顕微鏡(以下、SQUID顕微鏡)を開発することになったきっかけである。
海底鉄マンガンクラストは深海底の海山など露岩の表面に百万年に数mmという極めて遅い速度で成長することが知られている。鉄マンガンクラストは鉄とマンガンを主成分とするが、コバルトを多く含むものはコバルトリッチクラストと呼ばれ、白金・ニッケル・ニオブ・ネオジムなどの貴金属・レアメタル・レアアースを多く含むため海底鉱物資源として注目されている。また、鉄マンガンクラストは数千万年の長期にわたって深海底の環境変動を記録しているため、過去の海洋環境を復元する上でも貴重である。環境復元には年代軸が重要であるが、これまでベリリウムなど放射性同位体を用いた年代推定、あるいはストロンチウムやオスミウムなどの安定同位体の特徴的長期変動を用いた年代推定が主に用いられてきた。
当時は産総研研究者であった臼井教授から「鉄マンガンクラストに記録された地球磁場逆転を1mm以下で読み取れませんか?」と相談され、「磁気顕微鏡が使えればなんとかなるかもしれません」と答えた記憶がある。その頃、臼井教授は産総研の上嶋正人博士と鉄マンガンクラストを厚さ2.5mmの試料にして、SQUID素子を用いた超伝導岩石磁力計で分析し、鉄マンガンクラストが地球磁場逆転を記録していることの確認と年代推定に部分的に成功していた1)。地球磁場は極性逆転を繰り返していたことが知られ、逆転年代は標準地磁気逆転年代軸としてまとめられている。
例えば、約77万年前の最も新しい地球磁場逆転を地質時代「チバニアン」開始の基準とすることが2020年1月に国際認定された2)。地質試料に記録された地球磁場逆転を、標準地磁気逆転年代軸と対応づけて試料の年代を推定する手法を古地磁気層序という。現在の地球磁場と同じ極性を正帯磁、逆の極性を逆帯磁と呼ぶが、薄切り分析では厚さ2.5mmの試料に正帯磁と逆帯磁が混在する場合があり、鉄マンガンクラストの磁気記録と標準地磁気逆転年代軸の対応は不完全であった。このため、臼井教授から相談をうけることとなり、分析装置の探索が始まった。

2.ヴァンダービルト大学での分析と地磁気逆転縞模様

図1 北太平洋の鉄マンガンクラスト試料の電子顕微鏡像(上)と磁気画像(中)。左端がクラストの表面。磁気画像はヴァンダービルト大学のSQUID顕微鏡で最初に取得されたもの。赤(青)が上向き(下向き)を示す。下図は標準地磁気逆転年代軸。黒(白)は正帯磁(逆帯磁)を示す。

カリフォルニア工科大学のKirschvink教授と面識のあった私は、火星起源隕石の分析3)に使われたヴァンダービルト大学のSQUID顕微鏡が使えないかと考えた。Kirschvink教授にコンタクトをとると、当時大学院生であったWeiss博士を紹介され、2002年に臼井教授と私はカリフォルニア工科大学を訪問した。宿泊したゲストハウスの隣の部屋の扉に”Einstein Suite”とあったのは印象的である。アインシュタイン博士は1931-1933にカリフォルニア工科大学の客員教授であった。Weiss博士からはカリフォルニア工科大学にSQUID顕微鏡が導入されるのを待つように言われたが、導入はなかなか進まなかったので、結局ヴァンダービルト大学の装置を使うこととなり、2005年に北西太平洋正徳海山の鉄マンガンクラスト薄片試料を持参して分析を行った。ヴァンダービルト大学からは、Baudenbacher教授、Fong博士、McBride博士が実験に参加し、さらにマサチューセッツ工科大学に職を得ていたWeiss博士が参加した。
このとき用いたSQUID顕微鏡のSQUID素子は検出コイルがジョセフソン素子と一体化したものであった4)。最初の分析結果を我々は期待と不安で見守ったが、鉄マンガンクラストの成長縞と平行な赤と青の縞々(図1)が見えたときには成功を称え合い、日本の臼井教授にも朗報を伝えた。最終的に標準地球磁場逆転年代軸と良く対応する磁気縞模様が約0.1mmの分解能で得られ、成長速度は5.0-5.3 mm/百万年と推定された5)。これは、ベリリウム同位体で推定された成長速度(6.0 mm/百万年)とも一致する。

次回に続く-

参考資料

1) Joshima and Usui (1998) Marine Geology, 146, 53-62.

2) https://www.aist.go.jp/aist_j/news/pr20200117_2.html

3) Weiss et al. (2000) Science, 290, 791-795.

4) Fong et al. (2005) Rev. Sci. Instrum., 76, 053703.

5) https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20110228/pr20110228.html



【著者紹介】
小田 啓邦(おだ ひろくに)
産業技術総合研究所
地質情報研究部門
上級主任研究員

■略歴
1995年 京都大学理学部地質学鉱物学専攻 博士課程修了
工業技術院地質調査所 ポスドク、職員を経て
2001年より産業技術総合研究所 職員
2016年より現職


2001年4月〜2002年3月 文部科学省研究開発局海洋地球課併任
2002年3月〜2004年3月 ユトレヒト大学地球科学部在外研究