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真空の圧力測定技術(Pressure measurement method in vacuum)(1)

キヤノンアネルバ(株)
桑島 淳宏

1. はじめに

真空環境の圧力を測定するために利用される圧力計は真空計と呼ばれている.真空は日本工業規格(JIS)で「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間」と定義されているため,一般的には大気圧(1.013×105 Pa)以下の圧力を測定する圧力計が真空計である.圧力とは単位面積あたりを気体が押す力であるが,真空の圧力測定が,この力の定量化を目的とすることは少ない.表1にあるように真空環境を利用する主な目的は,気体分子が少ない空間の特徴を利用するためであり,真空計はその空間の気体分子数密度を圧力で管理するために利用される.

表1. 真空環境の利用事例

真空を利用した代表産業に半導体やディスプレーなどの製造を行う電子デバイス産業がある.その製造に使用される薄膜形成装置(図1)での真空計の利用例を説明する.

図1. 薄膜の形成装置の概略図

装置全体がいくつかの真空室で構成されており,真空計は各真空室,真空ポンプごとに設置され,測定した圧力をもとに

・大気圧,真空排気後の到達圧力の確認
 ⇒ポンプの起動・停止,プロセスの開始,ウェハー搬送(ゲートバルブ開閉)タイミングの管理
・プロセス圧力(薄膜形成中の圧力)の測定
 ⇒プロセスガス導入量の調整,工程パラメーターのモニタリング

が行われている.最先端デバイスの製造に使用される装置では,圧力が静止衛星の軌道上と同程度の10-8 Pa台に達するものもあり,真空計は大気圧から10-8 Pa台の広い測定範囲をカバーしなければならない.しかし,単一の測定方式ではこの測定範囲をカバーするのは困難であり,2種類以上の真空計を組み合わせて圧力測定を行うのが一般的である.
本稿では,各種真空計の紹介を行い,その中から真空装置の管理に汎用的に使用されている真空計をとりあげ,その測定方式の解説を行う.

2. 真空計の分類

真空容器内の残留気体は,大気成分やプロセスガスから構成される混合気体である.真空計には,この混合気体全体の圧力を測定できる全圧真空計と構成成分ごとの分圧を測定できる分圧真空計に分類される(表2).このうち,全圧真空計に関して,詳細な説明を行う.

表2. 各種真空計の分類 4)

全圧真空計はその測定方式により,3つに分類される.「機械的現象」を利用する真空計は,圧力に応じて変化する物体の変位や歪量を測定し,圧力に変換する真空計である.この分類に属する真空計は,大気圧以上を測定する圧力計と同じ方式のものが多く,https://sensait.jp/14779/ にも測定方式の解説がある.
「気体の輸送現象」を利用する真空計は,気体の熱伝導や粘性抵抗が圧力の低下と共に小さくなることを利用して測定を行う真空計である.
「気体中の電離現象」を利用する真空計は,気体分子を電離(イオン化)して,イオン電流として,気体分子数密度を測定する真空計である.気体分子数密度は圧力と比例関係にあるため,この方式で圧力測定ができる.
表3は代表的な真空計の圧力測定範囲をまとめたものである.この中から,汎用的に利用されている真空計として,「隔膜真空計」,「ピラニ真空計」,「B-A真空計(熱陰極電離真空計)」の測定方式を解説する.

表3. 代表的な真空計の圧力測定範囲 4)

3. 隔膜真空計

この真空計は,圧力による隔膜の変形を測定し,圧力測定を行うもので,大気圧以上の圧力測定にも同様の構造のものが利用されている.図2に隔膜真空計の構造を示す.

図2. 静電容量型隔膜真空計の構造と測定方式

隔膜真空計は隔膜によって仕切られた2つの空間があり,一方は圧力測定を行う真空容器に接続される.もう一方には,電極が設置され,この空間は真空に保たれている.真空容器と接続されている空間の圧力が高くなり,隔膜に気体の圧力がかかると,電極のある空間との圧力差により隔膜に変形が生じ,隔膜と電極間距離が短くなる.静電容量 C,隔膜と電極間距離 d,誘電率をεとするとC =ε/d の関係があるので,静電容量を測定することで,隔膜にかかる圧力差を測定できる.圧力差と記述しているが,実際には電極側の空間は真空(≒0 Pa)に保たれているので,0 Paを基準とした圧力が測定できる.また,気体の圧力を直接測定しているため,気体の種類による感度差は生じない.
この真空計は圧力が低くなるほど,圧力変化に対する隔膜の変形量は小さくなる.そのため機械的・電気的な限界により測定できる最小圧力は10-2 Pa程度である.また,1台の真空計がカバーできる測定範囲は3桁程度であるので,広い圧力領域を測定するには,測定範囲の異なる真空計を組み合わせる必要がある.

参考文献

1) 熊谷寛夫, 富永五郎編著:真空の物理と応用, 裳華房.

2) 日本真空学会編:真空科学ハンドブック, コロナ社.

3) 関口 敦:トコトンやさしい真空技術の本, 日刊工業新聞社.

4) 日本真空工業会編:真空ポケットブック, 非売品.

5) 日本工業規格 JIS Z 8126-1:1999 真空技術-用語- 第1部:一般用語.

6) 日本工業規格 JIS Z 8126-3:2018 真空技術-用語- 第3部:真空計及び関連用語.

7) 川﨑洋補:各種全圧真空計の特徴とメンテナンス, Vac. Surf. Sci. 61 (2018) 514.

8) 大沼永幸:隔膜真空計の原理と技術, Vac. Surf. Sci. 64 (2021) 174.

9) 秋道斉:種々の真空計とそれぞれの測定原理, J. Vac. Soc. Jpn. 56 (2013) 220.

次回に続く-



【著者紹介】
桑島 淳宏(くわじま あつひろ)
キヤノンアネルバ株式会社 コンポーネント開発部

■略歴
2008年 キヤノンアネルバ株式会社へ入社
    ·真空コンポーネントの開発に従事

半導体製造へのAI活用(1)

東京エレクトロン(株)
先端データ企画部
部長 守屋 剛

1.はじめに

我々の生活には多くの電子機器が使われており、身近なところでは、自動車、スマートフォン、ドローンなど、数えれば限りがない。それら電子機器の心臓部である半導体デバイスは、シリコンから製造されている。半導体デバイスの製造は図1に示すような流れで行われる。シリコンインゴットから切り出されたシリコン基板に対して、さまざまな微細加工が行われて、半導体デバイスが製造される。ナノメートルオーダーの精度が求められ、薬液やプラズマなどを用いたエッチングや成膜プロセスが行われる。
半導体の加工は製造装置で行われ、さまざまな調整パラメータを用いて製造プロセスを制御している。機械学習を用いた新規材料の探索や製造プロセスの最適化について、さまざまな研究が行われており、コンピュータ性能が向上したことによって本格的に活用されるようになっている。1–4)
本稿では、半導体製造プロセスにおける機械学習技術の適用にフォーカスし、基本的な機械学習の理論について、プラズマプロセスなど複雑な系における条件最適化や材料スクリーニングの事例と、機械学習の基礎や技術的手法などを中心に紹介する。

図1.半導体デバイス製造の流れ

2.機械学習を用いた半導体製造の最適化

人工知能(Artificial Intelligence:AI)とは、人間の知能をコンピュータ上で実現させる試み、あるいはそのための技術の総称のことである。時代や目的によって注目される技術が変遷するが、近年は深層学習(ディープラーニング)を含む「機械学習」を用いて様々な機能を実現させようという研究がなされている。
機械学習は、データ群に含まれる有用な知見を効率良く抽出するための技術である。図2に、機械学習の処理の流れを示す。機械学習アルゴリズムを用いて、様々なデータを学習することにより、規則や判断基準となるモデル式を自動生成する。このモデル式に基づいて、判定対象データを予測したり、分類したりすることができる。

図2.機械学習による回帰・分類の流れ

機械学習を用いることによる優位性として、大量のデータを処理できる、リアルタイムで処理できる、人間のスキルによらず高精度に処理できる、モデルを繰り返し利用できる、といったメリットが挙げられる。限られた少ないデータから推論するのは人間の方が得意であるが、十分なデータがあれば、機械学習は人と同等以上の精度で判断することが可能である。
代表的な機械学習は、未知の入力に対して出力を予測する「教師あり学習」とデータ自体の性質を抽出する「教師なし学習」とに分けることができる。教師あり学習には、ラベルを予測する「分類」と数値を予測する「回帰」がある。分類は、たとえば犬や猫の画像をラベル分けする目的で用いられ、回帰は、たとえば経時変化する金属疲労を予測し、装置の故障タイミングを予知することなどに用いられる。

表1に、代表的な分類、回帰アルゴリズムを示す。回帰アルゴリズムでは、観測データから関係式(モデル)を作成し、モデルを用いて未来の数値を予測する。新しいデータを取得した際、もしモデル式と合わなかった場合には、予測精度が悪いということになり、さらに多くの学習データを用いて、モデルの精度を上げる必要がある。一般に、データ量が多いほどモデルの精度が高くなるが、適切なモデルを作成するには統計の知識が必要となる。本稿で取り扱う、半導体製造プロセスへの機械学習適用では、主に回帰分析を行っている。

表1.代表的な分類アルゴリズムと回帰アルゴリズム
  回帰 分類 説明
線形回帰   説明変数の係数と切片から連続値を予測する
ロジスティック回帰   線形回帰の出力をロジット関数に入力することで分類結果を予測する
自己回帰移動平均モデル   過去の値からの自己回帰や他の共通要素の移動平均を使って予測対象の時系列データを実績値のみから予測する
状態空間モデル   状態モデルと観測モデルを定義して、予測対象の時系列データをそれ以外の説明変数の時系列データから予測する
k 近傍法   未知データに対して、k個の学習データから最も近いものを選ぶ
サポートベクターマシン 各学習データ点からの距離(マージン)が最大となるような識別境界のパラメータを学習する
決定木 データと閾値を比較して段階的に分割するルールを木構造でモデル化する
ランダムフォレスト 互いに独立決定木を大量に生成し、各々が異なる特性を持つように学習させ、各決定木の結果を集計して予測する
勾配ブースティング 生成済みの決定木が間違えてしまうデータを優先的に正しく予測できるように決定木を逐次的に増やす
ニューラルネットワーク 複数のニューロンをつなげてネットワークを構成し、出力層での誤差が小さくなるように各ニューロン間の結合の重みを更新する

3.プロセス最適化への機械学習の適用

機械学習においては、目的変数と説明変数を用いてモデル式を算出する。目的変数は、膜厚や膜応力などの目標値を意味し、説明変数は、半導体製造装置におけるプロセス条件などの設定値を表す。プロセス最適化の流れを図3に示す。

図3.機械学習を用いたプロセス最適化の流れ

実験計画法によって初期実験データを取得し、測定データを機械学習し回帰モデルを作成する。モデル式に対して、目標値と制約を探索条件として、モデルから予測される最適値を算出する。その最適値でプロセス実験を行い、その結果をさらに機械学習させる。このループを目標値に到達するまで繰り返し実施する。
最適化において、モデル式と目的変数の目標値を入力し、その値を得るための推奨設定値を探索する。代表的な最適化アルゴリズムには、最急降下法と確率的勾配降下法がある。最急降下法は最適解を求める最も基本的な手法であり、現在位置における勾配を計算し、勾配が最も急な方向に進むことを繰り返すことで、最適解を求める手法である。一方、確率的勾配降下法はランダムサンプリングの手法をもちいて局所解を避けるようにした方法であり、深層学習でも頻繁に使われている。
半導体製造プロセスでは、たとえば、成膜速度と膜厚の均一性など、複数の目標を同時に最適化する必要がある。このような多目的最適化では、複数の目的関数に対して最適な結果を導くパラメータを求める必要がある。一般に、ある目的関数に対する最適解は、他の目的関数に対しては最適解ではないこと(トレードオフ)がある。このようなとき、パレート解を求めるという対応が行われる。複数存在するパレート解の中から適切な解を選択するのは人による判断に委ねられる。パレート解を求める手法としては、遺伝的アルゴリズムが代表的である。

発表文献

1) M. Hankinson, T. Vincent, K. Irani and P. Khargonekar, IEEE Trans. Semicond. Manufact. 10, 121 (1997).

2) S. Kang, IEEE Trans. Semicond. Manufact. 31, 149 (2018).

3) T. Tsutsui and T. Matsuzawa, IEEE Trans. Semicond. Manufact. 32, 428 (2019).

4) F. Tanaka, H. Sato, N. Yoshii and H. Matsui, IEEE Trans. Semicond. Manufact. 32, 444 (2019).

次回に続く-



【著者紹介】
守屋 剛(もりや つよし)
東京エレクトロン株式会社
先端データ企画部 部長

■略歴
1997年 日本電気株式会社入社
2001年 東京エレクトロン株式会社入社、現在に至る
2005年9月 広島大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)
2008年3月 英国国立ウェールズ大学経営大学院修士課程修了(MBA)

■著書
戦略的CSRのススメ(共著、日新報道社)
超LSI製造・試験装置ガイドブック2009年版(共著、工業調査会)
クリーンルームにおける瞬低対策事例と装置(共著、日本工業出版)

Bosch、アイドリングストップ車用バッテリーの最高モデル「ハイテックプレミアム プラス」を7月1日発売

ボッシュ(株)はこのたび、輸入車用バッテリー技術の応用により耐久性を最大化し、保証内容も約35%拡大(18カ月または3万kmから2年または4万kmに)したアイドリングストップ車用バッテリーの最高モデル「ハイテックプレミアム プラス」を全国カー用品店、整備工場にて7月1日より順次、発売開始する。

燃費効率が良いと言われるアイドリングストップ車は、国交省のデータによると2010年以降急激に普及しており2015年では約86%に達している。広く普及したアイドリングストップ車は、信号など停止・発進のたびに停止状態のエンジンを再始動させるため多くの電力を必要とする。更に、センサ搭載による車の電子化や、電動スライドドアなどの電動化により停車中でも消費電力は増加の傾向にある。特にこれからの行楽シーズンは冷房を使用した車の移動も増えるためバッテリーの耐久性は重要である。

今回、世界トップクラスの自動車システムサプライヤーとしてボッシュが発売する「ハイテックプレミアム プラス」は輸入車用バッテリーに採用している極板、スタンプルフレームを採用。さらにそのデザインに改良を加え、充放電能力と耐腐食性を向上させたため、安定した電力供給をより長く供給する事が可能となった。そのため保証期間も18カ月3万kmから2年または4万kmと従来品より約35%大幅に拡大した。
これによって、今後冷房の使用や、渋滞などにより車の消費電力の増える行楽シーズンの車移動をより快適に、安全にサポートする。また、車の電力が不足するとアインドリングストップシステムが停止し燃費が悪化につながるため、耐久性の高いバッテリーは省燃費サポートにもつながるという。
価格はオープン。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000053190.html

工場デジタル化市場に関する調査-IoT活用による次世代型のメンテナンス/見える化が進む

(株)矢野経済研究所は、国内の工場デジタル化市場を調査し、製造現場におけるIoT活用実態やサービス化する製造業の動向、スマートファクトリー/デジタル工場やデジタルツイン/CPSへの取り組みなどを明らかにした。ここでは、工場デジタル化市場規模予測について、公表する。

1.市場概況
国内の工場では多くの業種・業態において、生産設備・機器の保全やライン稼働監視などで、IoT/クラウド、AIなどを使った異常・故障監視、稼働監視、保全、エネルギー使用量の見える化などの次世代型のメンテナンス/見える化が始まっている。さらには品質管理や外観検査など検品、生産最適化、作業者支援といった部分でもIT活用が広がっている。この背景には、製造現場における人手不足や生産性向上、省エネルギーといった工場由来のテーマの他、IoTを始めクラウド、センサーシステム、AI/解析ソリューションなどのIT技術の進展、および各種のハードウェアやサービスの低廉化がある。
これらにより、製造現場では多様なデジタル活用が起こっており、2020年度の国内の工場デジタル化市場規模を、ユーザー企業の発注金額ベースで1兆5,760億円と予測する。

2.注目トピック
「IoT活用による次世代メンテナンス/次世代型の見える化が進む」
生産設備・機器の稼働データをクラウドにアップロードし、そのデータを機器メーカーやメンテナンス事業者なども利活用することで、異常検知や予兆保全、CBM(状態基準保全)といった高度な保全や次世代メンテナンスを実現し、ダウンタイムの最小化を図る取り組みが進んでいる。実際に、既にCBMで100件(PoC:Proof of Conceptを含む)ほどの実績を持つITベンダーもあり、ここ1年で倍増した模様である。

また、例えばコンプレッサーの利用コストの8割前後が電気代(残りがイニシャルコスト、メンテナンスコスト、部品など)と言われ、コンプレッサーでは省電力化(電気代削減)が大きな訴求力を持つことは明白で、この部分でIoTモニタリングによる電力使用量の「次世代見える化」ニーズは大きい。

さらに近年、大型設備(ボイラーやコンプレッサー、ポンプなど)では、初めから通信機能(IoT機能)が組み込まれているケースが増えている。そのため、工場や生産ラインを新設するユーザー企業や省人化・省力化志向の強いユーザー企業、人手不足が深刻なユーザー企業などでは、生産現場でのIoT活用が急速に注目される状況となってきた。

3.将来展望
コロナ禍で2020年度中は保留になったプロジェクトの復活や、工場でも遠隔/リモート、省人化、接触レスなどのシステム構築志向もあり、2021年度の国内の工場デジタル化市場規模を、ユーザー企業の発注金額ベースで1兆6,760億円(前年度比6.3%増)になると予測する。
2025年度に向けては、一部業種での設備投資自体の停滞は見込まれるものの、輸送用機械器具製造業や電子部品・デバイス・電子回路製造業、生産用機械器具製造業などでの旺盛な工場向けシステム投資意欲を背景に、堅調に推移する見通しである。加えて、その他業種の既存工場でも老朽化した生産設備・機器の更新需要、省人化・自動化対応ニーズの高まりがあり、工場デジタル化市場は堅調に推移すると予測する。

プレスリリースサイト(yano):https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2725

Woven、自動地図生成プラットフォームの先進運転支援技術への活用に向けた共同研究

ウーブン・プラネット・ホールディングス(株)のグループ会社であるウーブン・アルファ(株)と三菱ふそうトラック・バス(株)は、ウーブン・アルファが開発する自動地図生成プラットフォーム(Automated Mapping Platform、以下「AMP」)を用いた共同研究を開始する。
今回は、ウーブン・アルファにとって、トヨタグループの枠を超えた商用車メーカーとの共同研究となる。両社は、高度な先進運転支援技術を用いた新たな安全機能の研究と、新機能を搭載した商用車による実証実験を行い、さらなる安全の向上をめざすという。

本共同研究において、両社は既に10以上の実証項目を検討している。今回はその第1弾として、AMPの高精度地図をMFTBCが開発するカーブ進入時速度超過警報装置(Entering Curve Speed Warning、以下「ECSW」)に実装し、同装置を搭載したMFTBCの大型トラック「スーパーグレート」を走行させる実証実験を行う。 これにより、大型トラックの安全運転支援における高精度地図の効果や課題を検証する。同社は、本共同研究を通じてAMPの大型商用車への展開、また、トヨタグループの枠を超えた先進運転支援技術や自動運転に関する協業を推進していくとのこと。

背景
先進運転支援や自動運転において、センサ情報の1つとして地図を用いる際には、従来は主に費用の観点から、カーナビゲーション用の地図情報が使われてきた。しかし、この方法では地図情報の更新が数ヵ月ごととなり、精度もメートル単位となるため、高度な自動化技術を搭載した車両への採用や、車線レベルで安全な運転を支援する精度の高いアプリケーション開発の難しさが課題となっていた。カーナビゲーション用の地図情報では、車線と物体の位置関係を理解することも困難である。また、一般的に高精度な地図の生成や更新には専用の計測車両が使われているが、専門性が高く高価な点が課題となっている。

さらに、道路や車線、信号や道路標識などに何らかの変更があった場合には、速やかにその変化を検出し、地図に反映する必要がある。道路を走行する一般車両からのデータや、衛星・航空写真のデータ等を使って高精度地図を生成するAMPは、費用を抑えながら地図の更新頻度やカバレッジを向上させ、これらの課題を解決することをめざしている。

今回の実証実験では、AMPをECSWに実装し、車両の状態に応じて適切なタイミングでドライバーに急カーブへの進入を予告し、安全な速度までの減速を促す機能を検証。道路や車線の状況を予測する機能は、商用車による事故を防ぐために特に重要な機能である。低コストで高精度な地図を高頻度で更新するAMPをセンサ情報として活用し、システムの冗長性とドライバーの道路状況認識を高め、商用車の安全性の向上をめざすとしている。

ニュースリリースサイト(woven-planet):https://www.woven-planet.global/jp/news-release/20210623

外耳道が血液由来ガス成分の連続計測に有効な部位であることを発見

東京医科歯科大学生体材料工学研究所センサ医工学分野の三林浩二教授の研究グループは、関西大学化学生命工学部化学・物質工学科の岩﨑泰彦教授との共同研究で、外耳道由来の経皮ガスが、疾病や代謝に関連する揮発性有機化合物(VOCs)を安定かつ連続的に計測するのに有用であることをつきとめた。
この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびにIDDM ネットワークの支援のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports に、2021 年6 月10 日にオンライン版で発表されたという。

【研究の背景】
呼気や皮膚ガス(経皮ガス※1)などの生体ガスには、代謝や疾病に基づく血液由来の揮発性有機化合物(VOCs※2)を含むことから、非侵襲かつ簡便な代謝評価や疾病スクリーニングへの応用が期待されている。特に経皮ガスは、呼気に比べて低負担に連続採取しやすいことから、VOCs濃度の経時変化を詳細にモニタリングするのに有用なサンプルである。
しかしながら、経皮ガス中のVOCs 濃度は呼気に対して3桁ほど低い(体積比率ppt※3 から ppb※4 レベル)場合もあり、高感度な計測技術が必要である。既にガスクロマトグラフ質量分析計※5 のように、高感度にガス成分を分析できる装置は普及しているが、リアルタイムな連続計測を行うことができない。
また装置自体も大型なため、研究室など特殊な環境での利用が一的である。既に小型でリアルタイム計測が可能なガスセンサも多数開発されているが、既存の多くのセンサは呼気や皮膚ガスに含まれる「湿度の影響」を受け、目的のVOC だけ選択的に計測することは容易ではなかった。
さらに皮膚からは、血管から皮膚を通過するもの以外に、汗腺や皮膚上の常在菌から放出される成分が高濃度で存在し、加えて、身体の部位によって放出動態や濃度、発汗や汗腺からの激しい放出が、対象成分の安定的なモニタリングを困難にしていた。

【研究成果の概要】
本研究グループは、これらの課題を解決するため、汗腺の少ない外耳道に注目し、そこから放出される血中VOCs の評価を試みた。そこで、まずエタノールを対象成分として、濃度の経時変化をリアルタイムにモニタリングできる「外耳道由来ガスモニタリングシステム」を開発した。
本システムは、外耳道から放出される経皮ガスを捕集する「外耳道ガス採集セル」と、採取した経皮ガス中のエタノールを連続計測する生化学式ガスセンサ「エタノール用バイオスニファ」とを接続して、構成されている。
外耳道ガス採集セルは、市販のイヤーマフに送気用の孔(2箇所)を設けて作製し、エタノール用バイオスニファは生体触媒である酵素を用いることで、ガス情報を光情報へ変換する。具体的には、アルコール脱水素酵素(ADH)がエタノールを酸化触媒する際、電子の受容体としてはたらく補酵素(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+))が同時に還元される。その補酵素の還元型NADH は、波長340 nm の紫外光を吸収すると波長490 nm の蛍光を放出する「自家蛍光特性」を有している。ADH 酵素反応から生成されるNADH量はエタノール濃度に相関することから、NADH 由来の蛍光を検出することでエタノール濃度を測定する。
実証実験として、外耳道ガス採取セルを耳に装着した被験者に、一定量のアルコール飲料を摂取してもらい、飲酒により変化する外耳道由来の経皮ガス中エタノールを連続的に計測した。その結果、飲酒後のエタノール濃度の上昇と、その後のアルコール代謝によるエタノール濃度の減少が観察された(図1)。
また、測定中のセンサ出力は非常に安定しており、発汗に基づくスパク状のノイズが見られた「手のひら」とは対照的だった。これは外耳道に汗腺がほとんどないことが影響していると考えられる。
この結果は、同時に計測した呼気中のエタノール濃度の経時変化と比べ、遅延(約13 分)はあるものの同様の濃度変化を示し、両者に高い相関性が認められました。他の研究により呼気と血中エタノール濃度の相関性が報告されていることから、外耳道由来の経皮ガスによる血中エタノールの非侵襲な連続計測も期待される。

【研究成果の意義】
本研究により、エタノールなどの血中VOC をモニタリングする際に外耳道が有効な場所である可能性を示した。外耳道には汗腺が少なく、発汗の影響が小さかったことが、安定的な経皮ガス計測実現の要因であったと考えている。一方、本成果を基に、例えば呼気で行う飲酒テストのような検査を耳からの経皮ガスで行うようにすれば、飛沫由来の「感染症リスクの低下」につながる。また、バイオスニファは酵素種を変えることで、他のVOCsの計測も行えることから、例えば脂質代謝により生成されるアセトンを連続計測することで、有酸素運動中に脂質代謝(脂肪燃焼)をモニタリングする「ヘルスケア」「スポーツ技術」への応用も期待されるとしている。

【用語】
※1 経皮ガス
 皮膚ガスのなかで、血中に含まれる揮発性有機化合物が皮膚組織を介して皮膚表面から体外に放出されたもの。
※2 揮発性有機化合物(VOCs)
 常温常圧で、揮発性を有する有機化合物の総称。
※3 parts-per-trillion(ppt)
 1 兆分のいくらであるかの比率を表す数値。(1 兆分率)。
※4 parts-per-billion(ppb)
 10 億分のいくらであるかの比率を表す数値。(10 億分率)。
※5 ガスクロマトグラフ質量分析計
 複数の成分から成る混合気体をカラムと呼ばれる成分分離装置を介して分離し、後段の質量分析装置で濃度を定量するガス分析装置。

【論文】
掲載誌: Scientific Reports
論文タイトル: External ears for non-invasive and stable monitoring of volatile organic compounds in human blood

東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 三林浩二教授 研究室HP:
https://www.tmd.ac.jp/i-mde/www/inst/inst-j.html

監視カメラ動画をAIでリアルタイムに分析するモニタリングソリューション

 SREホールディングス(株)(以下SRE HD)およびSRE AI Partners(株)(以下SRE AIP)と ソニーネットワークコミュニケーションズスマートプラットフォーム(株)(以下SNCSP)は、三次元空間認識技術とIoTプラットフォームを活用し、監視/見守りにおいてデータ通信量を1/100以下¹に削減しながら、性能も向上させられるモニタリングソリューションのプロトタイプを開発した。

■今回開発したモニタリングソリューションの概要と特長
〇概要
実環境へのIoTの展開とAIサービスの提供においては、データ通信量の増大が課題の一つとして挙げられ、とくに監視/見守り領域においてはネットワークカメラを監視カメラに用いる際、膨大な容量の映像データが通信回線をひっ迫することが、これまで導入の障壁となっていた。
こうした中、3社は上記課題の解決に向けたPoC(Proof of Concept, 概念実証)に取り組み、この度、映像から三次元空間情報を抽出し、映像そのものの通信を行うことなく、分析に活用できるデータのみをクラウド上のサーバに送信するソフトウェアのプロトタイプを開発した。本ソフトウェアは、以下の処理を実行することで、入手容易な小型端末で実行可能な三次元空間認識を実現するという。

1. ステレオカメラまたは深度センサを用いることで、入力映像から三次元空間情報を取得し、細かいキューブで構成される三次元空間マップを生成(図1)
2. 三次元空間マップの変化から動的物体の場所を特定
3. 構成した三次元空間マップの差分を抽出しクラスタリング、ノイズ除去処理を行うことで動的物体を個体ごとに検出
4. 検出された各動的物体の三次元空間上の体積、位置、速度等を観測

〇特長
これまで、監視カメラの映像全てをクラウド上に保存することは、膨大な通信コストを要するため現実的では無かった。本ソリューションでは、AIが映像から必要な情報のみを抽出するため、全ての映像を送る必要がなくなり、通信量を1/100以下に削減できる。例えば、監視カメラ側のAIが検知を行い、侵入者などの異常が観測された一定時間のみ映像を送ることが可能。この際、MEEQを用いることで、多数あるIoTカメラで観測された映像や抽出された三次元空間情報などのデータを安全に集約し管理できる。
さらに、以下の利点により、物体認識などの従来型の画像認識AIを用いた監視ソリューションと比べ、監視/見守りの利便性を向上させることが可能である。

A. 夜間の監視でも性能が劣化しない²。AIを用いた監視では、夜間は赤外線・高感度カメラを利用する場合が多く、侵入者などの特定の動的物体を検知するAIの性能が、日中に比べ劣化することが一般的であった。しかし、本技術では暗所でも情報を取得できる深度センサで取得可能な三次元空間情報を基に動的物体を検知しているため、夜間も監視を行うことが可能。

B. 高価な専用機器を必要としない。従来型のリアルタイム物体認識AIと比べ、必要とする計算量を90%以上³削減できるため、入手容易な小型端末を利用できる。こうした端末は片手で持ち運ぶことができ、扱いが容易。導入にかかる費用/手間を抑えながらも、リアルタイムで動物体情報を認識する。

C. AIの学習データの準備が不要なため、容易にAI監視カメラを導入できる。従来の画像情報を用いた機械学習では、人間や動物、車などの動的物体を画像から検知するために、対象の学習データの準備が必要だが、本技術では監視場面と体積の情報を活用することで、学習データなしに動的物体を検知することが可能。

注釈:
¹ 一般的に用いられる容量の監視カメラ動画の代わりに、動的物体の体積や座標などのデータ等のみを通信する前提でSRE AI Partnersが試算
²レーザーを使った深度センサの利用を想定
³同一映像を入力とし、一般的な物体認識アルゴリズムと比較

ニュースリリースサイト(SRE HD):https://sre-group.co.jp/news/2021/210621.html

モルゲンロット、森林管理&測量領域のDXを行うマプリィと事業提携

モルゲンロット(株)は、(株)マプリィと「山林やスマート測量の3次元データの高度利用」について、「再生可能エネルギーを利用したエッジ型データセンターにより達成すること」を目指す事業提携を行った。

マプリィは、森林情報を一元管理し、森林調査・林業のスマート化、測量、防災等を効率的に行うためのアプリケーション「mapry」(https://mapry.jp/)を提供している。
これまで効率的なデータ取得・活用がされていなかった森林管理において、GISアプリケーションを提供している他、iPad等に搭載されているLiDARなどのリモートセンシングを用いて3次元情報を低コストで取得するサービスを提供しており、地方自治体、林業事業者、インフラ関連企業の皆様にて幅広く活用され始めているという。

今回の事業提携により、マプリィが持つデータ・情報処理システムと、モルゲンロットの持つ計算力を組合せ、迅速かつ高度な解析とソリューション提供を実現する。
例えば、
・マプリィが取得する測量データを元に測量、防災シミュレーションの実現
・木材生産から流通までを計算力とブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティの構築
等の提供を検討していくとのこと。

また、一次産業に対してビッグデータやAIを活用することにより新たな市場開拓、価値の向上を狙うと共に、全国の自治体やインフラ関連会社、測量会社が抱える森林管理・防災・環境保全・地方創生等の課題に、テクノロジーで解決策の提供を目指すとしている。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000053470.html

アイポアと阪大の新型コロナウイルスの迅速検査に対する取り組み

OUVC(大阪大学ベンチャーキャピタル(株))1号ファンドの投資先であるアイポア(株)と大阪大学が共同で研究を進めている新型コロナウイルスの迅速検査に対する取り組みが、英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

 今回の取り組みは、アイポアが開発する「アイポア微粒子分析ソリューション」(※1)を活用して、患者の唾液から新型コロナウイルスの陽性陰性を5分という短時間で計測するもので、約90%以上の感度・特異度での診断結果が実証できている。実際に、本検査法を用いた大規模フィールドテストを2021年の春のセンバツ高校野球で実施し、PCR検査との一致率100%を達成している。
今回の取り組みにより、新型コロナウイルスの臨床現場即時診断とスクリーニング検査の実現が期待されているという。

 なお本研究開発は、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)による「AMED令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究)」の補助事業名「ナノポア技術と機械学習を用いた新型コロナウイルス検査法に関する研究」で支援を受けている。

 OUVCとしても、今回の「Nature Communications」への掲載はアイポアの本研究開発の成果が評価された大きな一歩考えており、閉塞感漂うコロナ禍の社会を変革すべく1日でも早い実用化を期待している。

※1 アイポア微粒子分析ソリューションについて
本ソリューションは、アイポアセンサモジュール(NOK製および朝日ラバー製)、微粒子計測装置(アドバンテスト製)、 AIソフトウェアAipore-OneTM(アイポア開発/運営)から構成されており、全てアイポアが販売している製品になる。なお、本ソリューションは、理化学研究用微粒子分析を目的とした製品であり、医療機器ではない。

プレスリリースサイト(OUVC):https://blog.ouvc.co.jp/topics/210617-0

阪大病院で患者を乗せた自動運転モビリティサービスの実証研究を開始

大阪大学医学部附属病院とWHILL(株)は、阪大病院の外来受診の患者を目的地まで自動運転で移動させる「WHILL自動運転システム」の実証研究を開始した(共同研究代表者:大阪大学大学院医学系研究科教授西田幸二(阪大病院AI医療センター長))。西日本の病院における本システムの実証研究は阪大病院が初という。

本システムでは、パーソナルモビリティを使ってタッチパネル操作で院内の目的地まで移動することができる。本実証研究では、長距離歩行に不安のある患者さんや足腰に障害がある患者さんなどに対して院内の移動手段を提供することにより、院内の快適な移動環境を整えるとともに医療サービスの向上を図る。このような新しい技術が病院という環境で技術的そして心理的な安全面にも配慮しつつ受容されるプロセスを評価する。同時に、自動運転によりスタッフのサポートを必要とせずにご自身で目的地まで移動することで、病院スタッフの負担を軽減することも目標としているとのこと。

本取り組みは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム(注)」プロジェクトによる支援を受けて行われている。

■実証研究の概要
◇開始時期:2021年6月7日〜
◇台数:2台
◇エリア・ルート:阪大病院1階外来・中央診療棟
 ①1階正面玄関から放射線部または院内郵便局
 ②郵便局から放射線部または1階正面玄関
◇内容:患者さんをWHILL自動運転システムにより、所定の場所に搬送する。往路は運転を必要としない自動運転モードで走行し、利用終了後は無人運転により元の場所に返却。
◇対象:外来受診の患者

今後の展望について、阪大病院とWHILL社は本実証研究の結果を基に連携を深め、 WHILL自動運転システムの運用ルートを順次拡張していくことを検討しているという。
なお、WHILLは他にも国立成育医療研究センターや慶應義塾大学病院でも同様の実証実験を進めている。

(注):AIホスピタルによる高度診断・治療システム
 AI、IoT、ビッグデータ技術を用いた「AIホスピタルシステム」を開発・構築・社会実装することにより、高度で先進的な医療サービスを提供するとともに、医療機関における効率化を図り、医師や看護師などの医療従事者の抜本的な負担の軽減を実現することを目的とした内閣府のプロジェクト。

プレスリリースサイト(whill):https://whill.inc/jp/news/30486