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panasonic、空間の混雑度や温度・湿度などを計測「空間見える化ソリューション」

パナソニック(株)は、空間の混雑度、温度、湿度、CO2濃度などを定量的に計測し、データとして見える化する「空間見える化ソリューション」を2021年12月より受注開始する。
この「空間見える化ソリューション」は、人・環境センサ(AIカメラ、CO2センサ、温湿度センサなど)をオフィスなどの空間に最適配置し、空間の状況を計測。その情報をクラウドに収集し、人や環境のデータとして提供することで、管理者と利用者の両方の視点で安心・快適なオフィスや施設の運用をサポートする。

近年の働き方改革に加え、COVID-19発生後は新しいワークスタイルに対応したオフィスや施設の形が模索されている。オフィス利用者からは、「混雑を避けてオフィスや施設を利用したい」などの要望があるのに対し、管理者には、「オフィスや施設の利用率が適切か、空気環境は快適か、などの状況がわからない」といった問題があり、具体的な改善に踏み切れないという課題が新たに見えてきた。

今回発売する「空間見える化ソリューション」は、空間内に人・環境センサを最適配置することで、空間の混雑度、温度、湿度、CO2濃度などを計測し、データとして提供するサービス。データをLTE回線でクラウドに自動収集することで、管理者は、多拠点の情報を遠隔で管理することも可能。計測したデータを分析するツールにより、今後の改善・改修提案などへの活用もできる。また、施設の利用者視点では、混雑度の見える化をはじめとする各種データをモニターやスマートフォンなどで確認・共有することができ、例えば、執務室や食堂の混雑状況を利用者が確認することも可能となる。

この「空間見える化ソリューション」は、空間ソリューション事業推進の一環として、ニューノーマル時代のワークプレイス創造に向け「『働く』を実験する」をテーマとしたライブオフィス「worXlab(ワークスラボ)」に約1年間設置して様々なデータを計測、解析してきた。今後、そのノウハウを活用し、施設の管理者、利用者に対して、活用しやすい見える化したデータを提供することで、安心・快適なワークプレイスの運用をサポートするという。

<主な特長>
1. AIカメラなどで人数を計測し、スマホ、PC、サイネージで空間の混雑度をリアルタイムで表示
2. CO2センサ、温湿度センサで空気環境を計測し、スマホやPCなどで確認、メールでアラート通知
3. 分析ツールを使い、多拠点&遠隔でのデータ分析が可能

ニュースリリースサイト(panasonic):
https://news.panasonic.com/jp/press/data/2021/11/jn211118-1/jn211118-1.html

異なるメーカーの無人搬送車が 自律的に交差する「分散型優先走行制御システム」構築

 (株)トライアートとトヨタ自動車九州(株)は、レクサスを製造するトヨタ九州宮田工場の屋外で用いる長距離無人搬送車において、参加する端末を搭載した車両などが環状につながり直接通信する「リングネットワーク」を形成し、互いに安全性確認を行う優先走行制御システムの運用を開始する。屋外長距離無人搬送車の動向監視、交差点における優先走行制御、歩行者との間の安全性確認までを、同一のシステムで運用する計画であるという。

 現在さまざまな業種の製造工場では、製品や部品の構内搬送に無人搬送車(=Automatic Guided Vehicle、以下AGV)を導入するケースが増えている。AGVは、一般的に磁気線、QRコード、RFIDなど何らかの誘導にしたがって走行し、車載のセンサによって衝突を回避する機能を備えており、広大な敷地を構える自動車工場でも、作業員の負担を減らし生産性を向上する施策として随所で欠かせないものとなっている。しかしこれまでのところ、交差・合流が発生するような複雑なレイアウトは、走行順序を完全管理した予定走行でなければ運用できず、それもすべてのAGVが同一メーカーの同一システム上で集中管理できている場合に限定されていた。
 トライアートはこのたび、複数メーカーのAGVがそれぞれのデータフォーマットや通信仕様で稼働しているトヨタ九州の宮田工場を想定し、車両同士が交差点での優先走行を自律的に判断する「優先走行制御システム」の開発に成功した。2022年1月から、同様のシステムを用い宮田工場の一部の区間で屋外を走行する長距離無人搬送車の動向監視の運用を開始する予定。

 これらは異なるメーカーのAGV同士がインフラレスで直接通信する対話システムで、各メーカーの車両や歩行者の端末、将来的には道路設備などが持つ仕様の差異を吸収しながら自律協調することを可能にする、画期的なアーキテクチャである。このしくみは、主に以下の2つの独自開発によって実現している。

【1】各種端末が参加/離脱可能な、リングネットワークを構成する
 トライアート独自の分散コンピューティング技術『XCOA(クロスコア)*』のエージェントを各種端末(車載スマートフォン、作業員スマートフォン、管理者PCなど)に搭載し、端末間直接通信(P2P通信)でつながる「リングネットワーク」を形成する。リングはそれ自体が自律したネットワークで、さらに今回のような「優先走行判定ロジック」などのプログラムを実行する一つのコンピューターとして作用するため、サーバによる集中監視/制御と異なり、リアルタイム処理や継続処理にも通信負荷がかからない。また、端末の任意の参加・離脱時にも、通信が保たれる冗長性を有している。

【2】仕様の異なる機器との連携機能を構築する
 リングネットワーク上で処理された結果(停止命令など)を、AGV車両やAGV管理機器などにメッセージングし、各デバイスの制御(車両にブレーキを掛けるなど)を実現する。メッセージングする対象によってはPLC(機械制御装置)や、ROS(ロボットOS)マシンを経由。各社仕様によるデータフォーマットの違い、通信仕様の違いなどはここで共通化(翻訳)を施し、判定はリングネットワーク上の共通ロジックに委ねることで、その差異を吸収する。(画像)

 このしくみの基盤であるリングネットワークは、P2P通信をベースとしているため、サーバに負荷が集中することで生じるリスクやコストが発生しない。参加する端末の数や役割によってリングを増やしながら連携を拡張すれば、スケールの拡大とともに分散コンピューティングの強みはさらに発揮されるであろう。また、統一規格のためのソフトウェア開発・維持の社会的コストが軽減でき、用途や環境によって柔軟な設計ができる点もメリットである。

 現在の運用は、少数の車両と、協業する作業員を主な対象としているが、今後は工場の構内を歩く人や道路設備なども参加できるシステムへ発展させる計画である。宮田工場の屋外では、全長2.5kmの敷地内に部品を運搬する搬送車が10種走行しており、それぞれが異なるタイミングで走行し、歩行者や、出入りするトラックなどとも共存していることを考えると、そこには多彩なパターンの交差・合流が発生している。仮にこれらの搬送車すべてを無人化し、歩行者や設備を含めて集中管理することなく互いの判断によって走行を制御できるようになれば、自動運転車が走る一般の交通インフラを分散コンピューティングが支えるという未来が視野に入ってくる。

 新しい社会基盤が導入されるとき、これまでのしくみを全て刷新する中央集約的な方法がある一方で、既存のしくみを連携させることで性能を担保し、同時に情報や権限の過集中を生じさせない方法を検討することは、これからの情報技術を考えるうえで重要な視点である。トライアートは、自社開発の技術を応用しながらさまざまな分野でその可能性を追究し、またトヨタ九州は、現場の実課題から生まれた新しい生産技術の汎用化に率先して取り組んでいる。当システムも、今回の実用化を足掛かりに、これからの社会に実装する価値ある技術へ発展させるべく研究開発を継続していくとしている。

ニュースリリースサイト(triart):https://triart.co.jp/news/20201201-xyl7k-433sm-rzanl-z3lsx

現場の正確な空間情報を簡単に取得する小型軽量なGNSS受信アンテナ「Leica Zeno FLX100」

ライカジオシステムズ(株)は、コンパクトで軽量、正確なスマート受信アンテナLeica Zeno FLX100 (以下 FLX100 )を、2021年11月22日に日本国内で販売開始した。

■FLX100の特徴
・超軽量でどこにでも持ち運べる手のひらサイズのGNSS。
・2cm以内の水平(2D)精度でリアルな多周波トラッキングを実現。
・ 汎用的なハンディ型ホルダーにFLX100とスマートフォンやタブレット端末を組み合わせることで、ニーズに合ったハンディ型ソリューションを実現。
・AndroidやWindowsのモバイル端末で使用可能。
・Leica Zeno Mobileまたはその他のデータ収集アプリでさらに可能性が広がる。
・防水、防塵で、1.2mからの落下に耐性があり20時間以上バッテリーが持続。

■FLX100の誕生背景
汎用性と利便性を実現する為に、アンテナと組み合わせて使用するコントローラを既に所有しているデバイスをすることを目的に開発された。

■FLX100の使い方・利用シーン
FLX100はLeica Zeno Mobileと組み合わせて使用すると、GISデータを容易に現場で取得して、属性を紐付けることができる。 Leica Zeno Tab 2、または所有しているAndroidスマートフォンやタブレット端末を使用して、レーザー距離計や埋設ケーブル探査器などの他のセンサと組み合わせて、より多くのデータを短時間で取得することができる。 クラウドを介してオフィスとデータを共有できる。 独自のデータ収集用アプリを使用する場合、Leica Zeno Connectアプリを使用すれば、FLX100から任意のアプリへ高精度のGNSS位置情報を容易にストリーミングできる。

■「FLX100」製品概要
対応衛星:GPS, Glonass, BeiDou, Galileo, QZSS

製品サイト(leica-geosystems):
https://leica-geosystems.com/ja-jp/products/gis-collectors/smart-antennas/leica-flx100

アトラックラボ、アームレスキューと消防用無人放水ロボット「ARGシリーズ」開発

(株)アトラックラボは、(株)アームレスキューと消防用無人放水ロボットを開発した。

開発した消防用無人放水ロボット「ARGシリーズ」は、平成28年に発生した糸魚川市大規模火災などの建物密集地や隊員が容易に近づけない危険物火災を教訓に、隊員一人が進入可能な幅約0.7mで遠隔操作可能なクローラータイプフレームをベースとし開発。
消防用無人放水ロボットの重量は約19㎏。バッテリーで約60分走行が可能。縦600㎜×横600㎜の台座に消防用ノズルと、消防ホースで構成されている。ノズルの上下は遠隔操作で、毎分500ℓの放水可能となっている。台座には、カメラ、作業アーム、センサなど様々なユニットを取り付け可能で、多目的災害に活用可能であるという。

アトラックラボでは、アームレスキューのノウハウを活かし災害時に活動支援する消防防災に特化したロボットの開発を推進するとしている。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000063.000052796.html

スイッチサイエンス、Raspberry Pi Pico関連新製品2種を発売、続き3種を発売予定

(株)スイッチサイエンスは、 Conta 規格の小型基板をRaspberry Pi Picoに繋ぐためのベースボード「Raspberry Pi Pico用 Conta™ベースボード」と、「Raspberry Pi Pico(ピンヘッダ実装済)」を、スイッチサイエンスのウェブショップにて2021年11月17日より販売開始した。
また、低消費電力なモノクログラフィック液晶基板を搭載した「Raspberry Pi Pico用小型グラフィック液晶ボード」、HDMIのような形状のコネクタにDVI-D出力できる「Raspberry Pi Pico用DVIアダプタ基板」、Raspberry Pi Picoの幅に収まる単4電池電源基板「Raspberry Pi Pico用電池駆動基板」も近日中に販売開始する。

●Raspberry Pi Pico用 Conta™ベースボード(ESP-WROOM-02搭載)
センサなどを乗せたConta規格(※)の小型基板(Contaモジュール)を、Raspberry Pi Picoに繋ぐためのベースボードです。最大四つのモジュールを同時接続できる。ベースボード上にWi-Fiモジュール「ESP-WROOM-02」(シリアル接続)を搭載しているので、Raspberry Pi Picoに無線 LANを追加できる。
Contaモジュールとベースボードは、I2C・SPI・アナログ入力/デジタル入出力(汎用IO)による接続が可能で、複数のモジュール、複数のインターフェースが共存可能。

※Conta規格とは、breakout 基板の外形・コネクタ・信号配列などに一定の規約を設けることで、各基板間の相互接続性を確保するための規格。

▶︎ 「Raspberry Pi Pico用 Conta™ベースボード(ESP-WROOM-02搭載)」基板仕様
 - Contaモジュールコネクタ × 4(M1~M4のU字のコネクタ1組で1モジュール分)
 - Contaモジュールコネクタの 5 V ピンはRaspberry Pi Pico及び電源コネクタから供給
 - 各 I/Oピンは 3.3V駆動(Raspberry Pi Picoに直結)
 - Wi-Fi モジュール「ESP-WROOM-02」搭載(Raspberry Pi Picoとはシリアル接続)
 - 5V入力電源コネクタ装備(DCジャック、USB Type-C)
 - ベースボードの全ての部品は実装済み

●Raspberry Pi Pico(ピンヘッダ実装済)
Raspberry Pi Picoにピンヘッダを実装した製品。ブレッドボードにて抜き差ししやすいよう、2 x 20ピンには細めのピンヘッダを実装している(デバッグ端子3ピンは通常の太さのピンヘッダ)。

●Raspberry Pi Pico用小型グラフィック液晶ボード
Raspberry Pi Pico用の低消費電力なモノクログラフィック液晶基板で、画面サイズは28.1mmx9.1mm、解像度は128 × 48ピクセル。

▶︎ 「Raspberry Pi Pico用小型グラフィック液晶ボード)」基板仕様
 - 小型グラフィック液晶 (AQM1248)
 - 4方向ジョイスティック (押し込みスイッチ付き)
 - タクトスイッチ x 4
 - LED x 2 ( 赤、緑 1個づつ )
 - リセットボタン
 - 電源入力端子( 2.3V~5.5V )
 - 基板サイズ : 76.2mm x 33.02mm

●Raspberry Pi Pico用DVIアダプタ基板
Raspberry Pi PicoのGPIOをHDMIのような形状のコネクタに出力できる変換基板で、Pico-DVI-Sock(※)をスイッチサイエンスで製品化したもの。Raspberry Pi Picoを直接はんだ付けしたり、ピンソケットとピンヘッダを使って接続して利用する。
※ https://github.com/wren6991/pico-dvi-sock

●Raspberry Pi Pico用電池駆動基板
Raspberry Pi Pico の幅に収まる単4電池電源基板。ローム社製DCDCコンバータ「BU33UV7NUX」で3.3Vに昇圧するので、NiH充電池にも対応している。
※ 基板上のコネクタは未実装のため、用途に合わせて実装する必要がある。

▶︎ 「Raspberry Pi Pico用電池駆動基板」基板仕様
 - 単4電池バッテリーホルダー搭載(入力:0.6V ~ 3.3V)
 - BU33UV7NUXによる昇圧回路搭載(出力:3.3V/500mA max)
 - 電源スイッチ搭載
 - Raspberry Pi Pico 用リセットボタン搭載
 - 電源出力専用端子搭載
 - 基板サイズ:76.2mm x 20.32mm

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000065.000064534.html

ユーブロックス、UDRおよびADR技術の両方を搭載の測位モジュール「NEO-M9V」

スイスのu-blox AG(日本法人:ユーブロックスジャパン(株))は、全地球測位システム(GNSS)レシーバーNEO-M9V(*1)を発表した。
アンテザード推測航法(UDR、車速情報無し)*と自動車用推測航法(ADR、車速情報有り)*の両方を提供するユーブロックス初の測位レシーバーであるNEO-M9Vは、都市部などGNSS信号の受信が困難な環境でも信頼性の高いメートル級の測位精度を必要とする車両運行管理やマイクロモビリティのアプリケーションに最適という。

コスト削減と二酸化炭素排出量削減に努めている車両運行管理者は、高精度な測位データとナビゲーションデータを頼りに燃料消費量を削減している。さらに、料金請求やコンプライアンスに関連して、高精度なオドメーター(走行距離計)のデータも運行管理者にとって重要である。

マイクロモビリティ事業者は、個々の自転車やスクーターのサービスを提供するためにデバイスの位置を正確に示す必要がある。たとえば、車両の位置情報が道路の反対側を示していたとすると、ドライバーは目的地まで遠回りをしなければならなくなり、コストの追加、サービス品質の低下、大気汚染につながる可能性がある。高精度測位は、各地の規制に準拠して運用をジオフェンスするためにも不可欠である。

慣性センサによる測定を使用するUDRは、GNSS信号カバレッジのギャップを埋め、建物から跳ね返ってくるGNSS信号によって引き起こされるマルチパス効果の影響を軽減することにより、密集した都市環境でスムーズなナビゲーションを提供する。ADRは、センサ・フュージョン・アルゴリズムに車速を含めることにより、要求の厳しい環境での測位精度をさらに向上させる。

UDRとADRの両方を同一モジュールで提供することで、最大限の測位性能と設計の柔軟性を同時に実現し、利用者がそれぞれのエンドカスタマーのケースに応じた最適なソリューションを提供できるようになっている。

NEO-M9Vは、自動車と電動スクーターのいずれにも最適な動的モデルも備えている。これらの動作モデルは、推測航法ソリューションのアルゴリズムをこれらのユースケースの動作に適合させることで、位置情報の読み取りの品質をさらに向上させるとのこと。

●堅牢なu-blox M9テクノロジー・プラットフォーム上に構築
NEO-M9Vはu-blox M9 GNSSテクノロジー・プラットフォーム上に構築されている。最大4つのGNSS衛星を追跡できるため、見通し線上のGNSS衛星の数を常に最大にすることができる。SAWおよびLNAフィルター搭載により、堅牢なソリューションに必要な優れた干渉緩和効果を発揮し、製品設計を加速することで市場投入までの時間を短縮する。また、広く普及しているNEOフォーム・ファクターとの互換性により、既存の設計をアップグレードする際の移行作業が軽減される。

NEO-M9Vの初回サンプルはまもなく提供開始予定。
詳細についてはhttps://www.u-blox.com/en/product/neo-m9v-moduleを参照。

*「アンテザード自律航法(UDR:Untethered Dead Reckoning)」、測位衛星の電波受信が困難な場所で、速度パルス(車速信号)などを接続しなくても自律航法ができる技術。
*「自動車用推測航法(ADR:Automotive Dead Reckoning)」、車両走行中、トンネルなどGPSの電波が届かない位置に差し掛かった際に最後の位置から自動車の進行方向・速度から現在地を算出する技術。
*1: https://www.u-blox.com/en/product/neo-m9v-module ※URL表示先は英語

ニュースリリースサイト:https://www.dreamnews.jp/press/0000248149/

感動を測るーものづくりに活かす“感動指数”ー (2)

金沢工業大学
情報フロンティア学部
教授 神宮 英夫

3.記憶を手がかりにした感動指数の提案

 人がものやことと接したときに、心が動き感動することがある。感動すれば、その物事は自分との何らかの関わりを持つことになる。これは自我関与と呼ばれており、長期記憶で保持されるための重要な要因である。例えば、歴史の年号を覚えることを考えてみる。「鳴くよ (794) うぐいす平安京」、平安京へ都を移した年号を覚えるときの語呂合わせである。無意味な数字の794を語呂合わせで意味のあるものにする、つまり自分との関わりをつけて、長期記憶に保持することになる。
 心の動きを何らかの生理指標の数値化で表現できれば、感動の指数化が可能になる。この指数化が適切かどうかを確認する手立てとして、記憶との関わりを明らかにすることとなる2)(図3)。

図3 感動指数と記憶
図3 感動指数と記憶

感動することでそのことが記憶に残りやすくなるとなれば、記憶に残るイベントのプロデュースにつなげることができる。記憶に残るイベントにするにはまず、鑑賞者に強い印象を与える必要がある。芸術祭を例にすると、訪れた鑑賞者の心を動かし、記憶に残すことができれば、「もう1度行きたい、他の人にも感じてもらいたい」など前向きな印象を与えることができ、その後記憶に残っていくと考えられる。このようにプロデュースの場で応用することで、集客率やリピート率も上がるであろう。
 以下では芸術祭の作品を刺激とした実験結果を紹介する。記憶に残っている作品を鑑賞している時と、記憶に残っていない作品を鑑賞している時の生理指標の結果を比べることで、記憶に残った作品を鑑賞している時の心の動きが明らかになる。
 また、鑑賞する上で鑑賞者の目線も記憶に関係してくると考えられる。学習などで事前に予習したことは、当日の学習で理解が深まり記憶に残りやすいと考えられる。よって、事前の学習の有無によって感動の大きさ、記憶の残りやすさに違いが出ると考えられる。今回は実験を行う上で実験参加者を2つのチームに分けた。1つ目のチームは作品の誘致や企画を行う、ディレクターの視点を事前に学習し、当日学習したことを意識しながら鑑賞を行ってもらった。以後Aチームとする。もう1つのチームは事前に学習はなく、作品だけでなく風景も対象とし、鑑賞者の目線を意識しながら鑑賞を行ってもらった。以後Bチームとする。AチームとBチームを比べた場合、学習を行ったAチームの方が作品を鑑賞した際、理解が深く心の動きも大きいと考えられる。
 実験参加者は美術系大学の女子学生7名であった。Aチーム、Bチームそれぞれのチーム2名に、簡易型の心電計を装着してもらい芸術祭を2日間チームごとに見学してもらった。鑑賞後、7名全員にアンケートを行い、印象に残った作品を記入してもらった。1週間後、1か月後に再びアンケートを記入してもらった。
 鑑賞時の2秒ごとのHF(0.15~0.40Hz)値を実験参加者ごとに、それぞれ鑑賞した作品について算出した。
 両チームの4名ともアンケートで印象に残っていると答えた作品は、心の動きが大きく、感動していると考えられる。なので、心の動きの振れ幅が大きいと、HF値の分散が大きくなる。実験参加者ごとに、当日記憶に残っている作品全てのHF値の分散、当日記憶に残っていない作品全てのHF値の分散、1週間後記憶に残っている作品全てのHF値の分散を算出した。その結果を図4に示す。Aチームの2人は当日印象に残っていない作品全てのHF値の分散が最も大きく、Bチームの2人は当日印象に残っていない作品全てのHF値の分散が最も小さいという結果になった。

図4 副交感神経による心の動き(縦軸はHFの分散値)
図4 副交感神経による心の動き(縦軸はHFの分散値)

 AチームとBチームの分散を比べた時、真逆の結果が得られた。理由は鑑賞を行った目線が違ったことが考えられる。Bチームは自分達の好きなように鑑賞者の目線で作品を鑑賞した。なので、純粋に楽しむことで感動し、心の動きの振れ幅が大きい作品が記憶に残っていたと推測される。一方Aチームはディレクター目線で鑑賞を行った。事前に学習したことがあるので、作品を鑑賞すると、純粋に楽しむのではなく、学習したことを思い出しながら鑑賞していたのではないかと推測される。学習したことを理解しようと観察していたので、心の動きが小さくなったと考えられる。なので、記憶に残ってはいるが感動はあまりしていない可能性がある。
 このように、記憶を手がかりとすることで、HFの変動が、「感動指数」を表す可能性を持っていることが明らかになった。今後は、記憶以外の手がかりや他の生理指標から、「感動指数」を提案していこうと考えている。

4.感動指数の役割

 大きな感動は、言葉によるいわゆる官能評価などで捕捉でき、その指数化の可能性は高い。しかし、小さな感動は、言葉で捕捉できる可能性は非常に低く、“何となく”感じている心の動きである。この“何となく”は、生理・脳機能測定結果を踏まえて指数化を工夫することで、見える化することができる。さらに、主観的な言葉による結果からの指数化よりも、生理・脳機能測定に対する客観性という点から信頼が高い。
 今回のような、人が物事に対して感じている“何となく”を指数化することは、ものづくりやことづくりの方向性を大きく変えるきっかけになる。
 試作品のどれを発売するかを決定する際に、官能評価を実施して、統計検定の結果からこの試作品をということで発売したとする。当然結果からは、予想通りの売れ方をすると期待することになるが、現実は思ったほど売れないという事態が多々生じる。この最大の原因は、その製品に対してユーザーが感じている“何となく”を正確に把握できていないためであろう。今回のような“何となく”を見える化した感動指数は、このような齟齬を避ける大きな武器になるであろう。
 今後も「感動の指数化」について、他の生理・脳機能測定結果、多様な生体情報の混合による指数化など、研究を積み重ねていく予定である。最終的には、言葉による評価と感動の指数化との関係を明らかにして、言葉による結果からでも正確な感動指数が得られることを企図している。

参考文献

2) 市川航暉・神宮英夫 感動の指数化の提案ー芸術祭での記憶を手がかりにー, 2019年度日本人間工学会関西支部大会講演論文集,p.97 – 98,2019.



【著者紹介】
神宮 英夫(じんぐう ひでお)
金沢工業大学 情報フロンティア学部心理科学科
教授・文学博士

■略歴
1977年 東京都立大学人文学部心理学教室助手
1980年 東京学芸大学教育学部教育心理学教室助手
    同専任講師、同助教授
1998年 明星大学人文学部心理・教育学科心理学専修教授
2000年 金沢工業大学教授
2012年〜2015年 金沢工業大学情報フロンティア学部学部長
2016年〜2019年 副学長
2007年より 金沢工業大学感動デザイン工学研究所長. 文学博士

ロボットにおける擬似感情 −計測・生成・倫理− (2)

千葉工業大学 教授
未来ロボット技術研究センター
富山 健

4. 倫理

 人間とのコミュニケーションを主たる目的にしたいわゆるソーシャル・ロボットに対して倫理的側面が近年注目されるようになってきたのはなぜであろうか.それは単なる機械であるロボットが人間に対しそれ以上の存在であるかのように振る舞うことが人間を騙すことにつながる,という考え方による.
 人間のパートナーがロボットに対して感情を感じる時,ロボットは本当にその感情を持っているわけではなくそういう感情に見えるような仕草や反応をしているに過ぎない.これをもって,ロボットは人間を騙しているのではないか,という観測が出てくる.Monash大学のロバート・スパロウ(Robert Sparrow)教授は,ソーシャル・ロボットの一種であるペットロボットに関して,所有者はロボットを本物の動物であると自分を欺いているがこれは世界を正確に認識するという義務に反しているため,そういったロボットを設計・製作することは非倫理的である,と述べている.7)
 この観測は介護者支援ロボットにも当てはまるのであろうか.ケィティ・エンゲルハート(Katie Engelhart)氏はNew Yorker誌の記事8)で,利用者たちはロボットが人工の機械であることを承知でなおかつその存在が孤独という危険な状態に立ち向かう糧になっていることを報告している.周りに孤独を癒してくれる人間がいれば何の問題もないが彼らにはロボットたちしかいないという現実がある,と記事中で述べられている.そもそも倫理というものが人間のWell-beingを目指しているものであるなら,彼らからロボットを取り上げる行為は倫理的なのであろうか.私はそうは思わない.この倫理に関する問題は多くの論点が含まれており,これ以上の議論は紙面の関係で別の機会に譲ることをお許し願いたい.9)

5. おわりに

 本論ではロボットにおける感情とは擬似感情であり,それをパートナーの感情状態の同定,ロボット自身の擬似感情の生成,および生成感情の表出の3個の機能を用いて構築したことを述べた.この擬似感情は介護の現場において介護者を支援するロボットにとっては必須の機能であること,しかし,擬似であるが故にそういった機能を備えたロボットの倫理性を問う研究者も出てきていることを述べた.
 これからロボットはますます人間に寄り添うようになるであろう.その時,人工知能だけでなく擬似感情も備えていることは当たり前となってくるであろう.そういったロボットたちの倫理に関して今まさに議論が始まっている.

参考資料

  1. Robert Sparrow, The March of the robot dogs, Ethics and Information Technology, Volume 4, pp. 305–318, 2002.
  2. Katie Engelhart, “What Robots Can -and Can’t- Do for the Old and Lonely: For elderly Americans, social isolation is especially perilous. Will machine companions fill the void?” New Yorker, May 15, 2021.
  3. K. Tomiyama, “Virtual Emotion for Robot – Towards Human Support Robot,” 2018 Uehiro-Carnegie-Oxford Conference: Ethics and the Future of Artificial Intelligence, New York, 2018.
    (https://www.carnegiecouncil.org/studio/multimedia/ethics-future-artificial-intelligence-virtual-emotion-robot-human-support-ken-tomiyama)


【著者紹介】
富山 健(とみやま けん)
千葉工業大学 未来ロボティクス学科 教授
未来ロボット技術研究センター(fuRo)研究員

■略歴
1971年 東京工業大学 制御工学科 学士
1973, 77年 カリフォルニア大学・ロサンゼルス校
システムサイエンス学科 修士(M.S.),同 博士(Ph.D.)
1978~1983年 テキサス大学・エルパソ校 電気工学科 助教授
1983~1988年 ペンシルバニア州立大学 電気工学科 助教授
1988~2000年 青山学院大学機械工学科 助教授,のち教授
2000~2006年 青山学院大学情報テクノロジー学科 教授
2006~2014年 千葉工業大学未来ロボティクス学科 教授
2014年~ 現職

主な研究分野は介護者支援ロボット,ロボットの擬似感性,並びにロボットの倫理.英語による学術論文発表指導を日本機械学会及び日本感性工学会を含む様々な団体にて実施.YouTubeチャンネル「CIT Quality Education」で英語による講義「数学基礎」シリーズ担当.
活動の主体を表すキーワード:ロボット、介護、教育、プレゼンテーション指導

■著書・連載
理系科学英語 徹底トレーニング [ロボット工学],(監修),アルク
私の修行時代,「修行時代の出会いを生かす」,(分担),弘文堂
いざ国際舞台へ! 理工系英語論文と口頭発表の実際,(共著),コロナ社
国際舞台で“結果を出す” テクニカルイングリッシュの心得第1回〜12回,日本機械学会誌 2018年,Vol.121, No. 1190~1201連載
“Virtual Emotion for Robot – Towards Human Support Robot,” Uehiro-Carnegie-Oxford Conference: Ethics and the Future of Artificial Intelligence, 2018.

主観的触覚の評価と活用に関する展望 (2)

名古屋工業大学
大学院工学研究科 教授
田中 由浩

3.皮膚振動に基づく触覚評価

3.1 ウェアラブル皮膚振動センサ

 これまでに述べた触感に作用する皮膚や運動の特性を考慮し,皮膚を伝播する振動を検出して主観的な触覚を情報化することを考案した.特に,指全体の動きによらず純粋に皮膚の振動を検出するため,高分子圧電材料を指に巻きつける方法をとった7).図5左に示すようにPVDF(PolyVinylidene DiFluoride)を指の第2指腹部に巻きつける.これにより対象に直接触れることができ,感覚運動制御に干渉せず,自然な触知覚を行うことができる.取得される情報は,対象物の物理量だけでなく皮膚や運動の特性を含み,同じ対象物でも皮膚の硬さや押付け力などによって得られる情報は変化する.しかしながら,それが人が皮膚を通じて検知している情報であり,主観的触覚情報と対応するものと考えている.関連する事例として,なぞり速度と皮膚振動の関係がある.例えば,一定の直径を有するマイクロビーズを敷き詰めた試料を準備する.これを100, 150, 200 mm/sの異なる速度で指先でなぞった際の皮膚振動を計測すると,共振周波数はほとんど変化しない13)(図5右).対象表面の情報を正確に捉えられれば,共振周波数は速度に比例すると考えられる.しかしながら,実際は凹凸に応じて皮膚が振動を起こすことから,皮膚の粘弾性に基づく共振周波数が支配的に作用したと考えられる.実際,私たちの日常生活においても,なぞり速度を倍にしたからといって,触感が変化するとは限らない.

図5 ウェアラブル皮膚振動センサおよび350-500μm粒子を敷き詰めた試料に対する異なるなぞり速度条件下でのセンサ出力のパワースペクトル密度の一例
図5 ウェアラブル皮膚振動センサおよび350-500μm粒子を敷き詰めた試料に対する異なるなぞり速度条件下でのセンサ出力のパワースペクトル密度の一例

3.2 評価の応用事例

 上述のセンサを様々なテクスチャーの粗さ感の評価に応用した14).センサで皮膚振動を計測しながら触感の評価を行えることに着目し,78種類の試料をなぞった時の皮膚振動とその時に感じた粗さ感をマグニチュード推定法で回答してもらった.センサ出力の評価指標としては,10-1000Hzのパワースペクトル密度の総和を用いた.図6左に被験者1名の結果を示す.図に示すように,皮膚振動が粗さ感と良好に対応することが確認できる.さらに,比較として,粗さの指標として良く用いられる算術平均粗さも計測し,べき関数で推定した値と実際の感覚値との差(ノルム)を全試料及び全被験者に対してプロットした結果を図6右に示す.図を見ると算術平均粗さでは,各値に対して縦にプロットが並んでいる.これは試料が同じであれば物性値は同じあるが,粗さ感の評価値は被験者に応じて変化していることを意味している.一方,皮膚振動では,同じ試料でも得られる数値が異なる.そして,ノルムは算術平均粗さと比較して全体的に小さい.これは皮膚振動と粗さ感との対応を示す結果であり,私たちの触感が対象物が同じでも個々人の皮膚や運動特性によって異なることを示唆している.この他に,皮膚の洗い上がりの触感と皮膚振動との対応関係や個人差15),布地の物性値と皮膚振動,摩擦係数を用いた手触り感評価16)が示されている.

図6 78種のテクチャーに対する粗さ感と皮膚振動強度との関係の一例(被験者一名)および全被験者(9名)と全テクスチャーに対する皮膚振動または算術平均粗さによる粗さ感推定値と実測値の誤差
図6 78種のテクチャーに対する粗さ感と皮膚振動強度との関係の一例(被験者一名)および全被験者(9名)と全テクスチャーに対する皮膚振動または算術平均粗さによる粗さ感推定値と実測値の誤差

 触覚は,対象と皮膚との力学的相互作用の結果であり,一期一会と考えている.人の触知覚における支配的な機械刺激やその情報処理,また感覚運動制御は十分明らかになっていない.本センサのように人が取得する機械刺激を情報化することで得られる知見は触知覚メカニズムの解明にも貢献する.その知見は,将来のセンサ開発や計測方法の確立に繋がるであろう.

4.触覚の伝送

 これまで触覚の情報化について特に評価を中心に述べてきたが,人の主観的触覚の情報化は,自身や他者,ロボットへ伝送することによる応用もある.触覚は対象と皮膚との接触面においてのみ生じるものであり,視聴覚と異なり元来共有はできない.しかしながら,情報化することで,他者に触覚を伝送したり,自身の他の部位に触覚を返したりできる.さらに触覚は,対象の識別だけでなく運動とも密接であり,握手やハグに代表されるようにコミュニケーションとしても効果を持つ.身体にボンディングしている触覚を情報化し,記録,編集,伝送,提示,再現できるようになることは,様々な応用可能性を秘めている.
 ここでは筆者らが行なっている触覚伝送による応用を3つ紹介したい.一つは,触覚フィードバックによるリハビリテーションである17).脳卒中患者の中には感覚が鈍磨する方がいる.重度に感覚が鈍磨になった患者に対して,当該指先に上述したセンサを装着し,対象に触れた時やテクスチャーをなぞった時の皮膚振動を計測し,これを触覚を感じることができる部位に代行的に振動子により提示する(図7(a)).その結果,物体を把持する際の過剰な力が減少するなど,運動の向上が見られた.
 二つ目は,触覚の共有による協調作業である.他者やロボットに自身の指先の触覚を伝えることで,自身の触覚が伴う運動状態を伝えることができ(ロボットの場合,機械学習による人の運動識別が有効),その情報を基に他者やロボットは運動を決定し,協調作業を行うことができる.さらに他者やロボットからの触覚も得て,触覚の共有を双方向にすることで,協調作業を一掃円滑にできる.これまでに,2人で物体を持ち上げたり,人がボールペンで紙に線を引く時にロボットが適切な力で紙を押さえたり,ロボットが適切な力でボトルを把持して人が蓋を開けることを支援したり,人とロボットの間で連続する動作を円滑に繋げたりするシステムを構築してきた18)19)(図7(b)).
 三つ目は,触覚共有によるコミュニケーションである.他者に自身の触覚を与えることができるようになったことで,遠隔触診への発展がまず考えられるが,直接的な情報伝送の価値だけでなく,私たちの心理や行動がどのように変容するかも興味深い.筆者らは,机を叩いたり擦ったりした時の振動が遠隔地にある同じ机に再現される装置を開発し,これを用いた視聴触覚コミュニケーションを実験した20)(図7(c)).体験者には視聴覚のコミュニケーションに触覚が付与され高い実在感を与えられ,親密性の醸成に寄与しながら触覚コミュニケーションの発達が見られた.

図7 触覚伝送の応用例.(a)感覚代行リハビリテーション,(b)触覚共有による人―ロボット協調作業,(c)触覚公衆伝話
図7 触覚伝送の応用例.(a)感覚代行リハビリテーション,(b)触覚共有による人―ロボット協調作業,(c)触覚公衆伝話

5.おわりに

 対象物の情報ではなく,対象物と皮膚との力学的相互作用である現象の情報として触覚を捉え,その数値化の意義や応用について述べてきた.特に振動を中心に述べてきたが,温度や圧力も触覚として重要な刺激であり,さらに手や指だけでなく,触覚は全身にある.主観的な触覚を情報化するための様々なセンシング技術は,人々の知覚認知の拡張だけでなく,運動や行動,情動に作用し得る応用技術に発展できるだろう.

謝辞
本研究の一部は,JSPS科研費22686026, 17H01252,19K22871,JSTさきがけJPMJPR14D7,JST ムーンショット型研究開発事業 JPMJMS2013の支援を受けて行われたものです.

参考文献

  •  Y. Tanaka, D. P. Nguyen, T. Fukuda, A. Sano, Wearable skin vibration sensor using a PVDF film, Proceedings of the 2015 IEEE World Haptics Conference, pp. 146-151 (2015).
  1. K. Kimura M. Natsume, Y. Tanaka, Influence of scanning velocity on skin vibration for coarse texture. Proceeding of the EuroHaptics 2018, pp. 246-257 (2018).
  2. M. Natsume, Y. Tanaka, W. M. Bergmann Tiest, A. M. L. Kappers, Skin vibration and contact force in active perception for roughness ratings, Proceedings of the 2017 26th IEEE International Symposium on Robot and Human Interactive Communication, pp. 1479-1484 (2017).
  3. 橋本雅俊, 五十嵐崇訓, 尾崎慎吾, 舛井喬, 田中由浩, ウェアラブル皮膚振動センサを用いた洗浄肌の触感評価, 第80回SCCJ研究討論会要旨集, (2017).
  4. 伊豆南緒美, 田中由浩, 佐藤真理子, 皮膚振動・摩擦と衣素材の触感に関する研究, 繊維学会誌, 77(9), 239-249 (2021).
  5. 河島則天, 田中由浩, 脳卒中後感覚障害に対する振動を介した知覚惹起の試み-振動子を介した物体への接触タイミングの認識-, LIFE2018講演論文集, OS2-8 (2018).
  6. K. Katayama, M. Pozzi, Y. Tanaka, K. Minamizawa, D. Prattichizzo, Shared haptic perception for human-robot collaboration, Proceedings of the EuroHaptics Conference, pp. 536-544 (2020)
  7. Y. Tanaka, S. Shiraki, K. Katayama, K. Minamizawa, D. Prattichizzo, Bilaterally shared haptic perception for human-robot collaboration in grasping operation, Journal of Robotics and Mechatronics, 33(5), pp. 1104-1116 (2021).
  8. 早川裕彦, 大脇理智, 石川琢也, 南澤孝太, 田中由浩, 駒﨑掲, 鎌本優, 渡邊淳司, 高実在感を伴う遠隔コミュニケーションのための双方向型視聴触覚メディア「公衆触覚伝話」の提案, 日本バーチャリリアリティ学会誌, 25(4), pp. 412-421 (2020).


【著者紹介】
田中 由浩(たなか よしひろ)
名古屋工業大学大学院工学研究科 教授

■略歴
2006 年東北大学大学院工学研究科修了.同年より名古屋工業大学助手,特任助教などを経て,2015 年同准教授,2021年教授,現在に至る.これまでに JSTさきがけ研究者,ユトレヒト大学客員助教,藤田保健衛生大学医学部客員准教授,秋田大学産学連携推進機構客員教授などを兼任.触覚を現象的に捉え知覚メカニズムの解明,およびそれを活用した触覚デバイスの開発と応用研究に取り組んでいる.錯覚や知覚メカニズムに基づく触感デザイン,触覚フィードバックによる感覚運動制御の支援,触覚の共有による人―人/ロボット協調システム,触覚コミュニケーションの研究などに従事.Advanced RoboticsおよびIEEE Transactions on HapticsにおいてAssociate Editorを務める.博士 (工学).

感性の計測 ―体感からひも解く評価および提示技術の紹介― (2)

宇都宮大学 工学部 准教授
石川 智治

4.空気流発生装置(AFGD)の開発

 空気流発生装置に関連する技術としては、空気の輪を放出させるエンターテイメント用の小型装置24)がある。しかし、多様な空気流を放出させる目的で設計された装置ではないため、多様な空気流に対するヒトの認知特性に関連する絶対閾値や感度特性に関する詳細な調査には至っていない(少なくとも結果の詳細は未公表)。更に、空気覚としての新しいメディアを確立するためには、多様な空気流に対する心地よさや温冷感などの感性評価に加えて、皮膚温度などの生理的特性も調査し、それらの相互関係を明らかにしておく必要がある。そのため、多様な空気流を発生させることができる空気流発生装置(AFGD)を設計開発した(図2)。

(a) 設計イメージ
(b) 開発装置

図2: 空気流発生装置

5.空気流による空気覚の認知特性

 開発したAFGDを用いて、多様な入力信号(正弦波およびインパルス状)による空気流を発生させて、各空気流による風圧特性および空気覚の認知特性を明らかにした25) 26)(※詳細は文献を参照のこと)。認知特性は、空気流刺激を認知する最小の値である絶対閾値と、空気流刺激の強度に対する感度特性を測定した。その結果、風圧は、正弦波空気流がインパルス空気流に比して高くなる傾向が示された。一方、感覚量は、インパルス空気流が正弦波空気流より高くなる傾向が示された。すなわち、インパルス空気流は小さい風圧でより大きい感覚量となることを明らかにした。また風速と感覚量の関係はスティーブンスのべき法則にしたがうことを明らかにした (図3)。

図3:風速と感覚量の関係の近似カーブ
図3:風速と感覚量の関係の近似カーブ

6.空気流に対する感性評価(温冷感、心地よさ等)・生理計測(皮膚温度)・物理特性(風速、放出周波数)の関係

 開発したAFGDを用いて、風速および放射周期の異なる多様な空気流を発生させ、その空気流を実験参加者(男女20名)の頬/手の甲/手のひら/後頸部の各部位に提示し、その際の感性評価および生理計測を実施して比較・分析した27)(※詳細は文献を参照のこと)。感性評価では、VAS(Visual Analogue Scale)による冷感評価および嗜好評価を行い、生理計測では、空気流を提示した身体の各部位における皮膚温度をサーモグラフィーで計測し、その温度変位を算出した。空気流提示実験の環境を図4に示す。

図4:空気流提示実験(恒温恒湿室:温度20±1℃(標準温度), 湿度65%、安静閉眼、ホワイトノイズ66dB提示)
図4:空気流提示実験(恒温恒湿室:温度20±1℃(標準温度), 湿度65%、安静閉眼、ホワイトノイズ66dB提示)

その結果、以下のことを明らかにした。

  1. 大きな風速の空気流を提示するほど、皮膚温度は大きく低下し、冷感評価は向上し、嗜好評価はネガティブ評価へと推移する。一方、放出周期の減少(周波数の増加)は冷感評価、および皮膚温度の変位⊿Tを増加させるが、嗜好評価には影響を及ぼさない。
  2. 性差としては、女性は男性よりも、冷感評価では高く、嗜好評価ではポジティブに評価する。逆に男性は、冷感評価では小さく、嗜好評価ではネガティブに評価する。すなわち、女性は男性に比して、高い冷感評価をより肯定的な嗜好評価と結び付けて捉えている可能性が示唆された。
  3. 部位差としては、冷感評価は、手の甲、手の平、頬、後頸部の順で高くなる。すなわち、手の甲で最も高くなり、後頚部で最も低くなることが明らかになった。また嗜好評価は、頬、後頸部、手の甲、手の平の順でネガティブ評価が高くなる(男性のみ)。すなわち、嗜好評価は、頬で最も高く、手の平で最も低くなることが明らかになった。
  4. 冷感評価は2点識別閾が小さい部位において高くなり、嗜好評価は圧覚閾が大きい部位で低くなる傾向が示された。

以上の結果は、空気流刺激が、快または不快刺激になり得ること、すなわち、空気流発生装置(AFGD)による空気流が、人間の心理・生理に作用する新しいメディアとなる可能性を示唆したといえる。

7.おわりに

 感性の計測は、ヒトの感性をセンシングするという観点から心理および生理計測技術を用いて、ヒトを計測する行為である。ただ、それはヒトが日常的に行うコミュニケーションの中で、他者の内面を理解する行為と同等であるといえる。つまり、ヒトは常に測定器となり、他者をセンシングしながら、日常を過ごしていると言い換えられるため、ヒトのセンシング技術を具現化した測定器を開発して計測することとも解釈できる。その意味で、感性の計測は、ヒトをセンシングすることと、ヒト自体を具現化することの両面を持った非常に面白い課題を解いているといえる。
 今回は、“体感”に基づく評価語を紹介した。心理生理的要素を含む体感評価語は身体性が要求される場面におけるセンシング技術の新しい発想を導く可能性を秘めていると考えている。また同様に“体感”に基づく空気流による空気覚について紹介した。多様な空気流を発生させる空気流発生装置(AFGD)、それを用いて発生させた空気流による空気覚の認知特性、冷感・嗜好の感性評価および皮膚温度変位の生理特性などの成果は、感性に関わる今後の新たな提示およびセンシング技術の萌芽となり得ると考えている。


参考文献

  1. R. Sodhi, I. Poupyrev, M. Glisson, A. Israr: AIREAL: interactive tactile experiences in free air, ACM Transactions on Graphics, Vol32, Issue 4, No.134, pp.1-10, 2013.
  2. 高橋陽香, 板東靜, 大岩孝輔, 野澤昭雄, 石川智治, 三井実:空気流刺激の認知特性評価, 電気学会論文誌C, Vol.137, No.7, pp.898-903, 2017.
  3. H. Takahashi, S. Bando, K. Oiwa, A. Nozawa, T. Ishikawa, M. Mitsui: Measurement of Psychophysical Quantities of Air-Flow Stimulus, Transactions on Electrical and Electronic Engineering, Vol.12, Issue S1, pp.5183-5184, 2017.
  4. K. Miura, T. Ishikawa, T. Itoigawa, M. Mitsui, A. Nozawa: Psychological and Physiological Responses to Airflow Stimuli: Differences in Responses based on Sex and Targeted Body Site, International Journal of Industrial Ergonomics, Vol.68, pp.176-185, 2018.


【著者紹介】
石川 智治(いしかわ ともはる)
博士(情報科学)
宇都宮大学工学部、基盤工学科・情報電子オプティクスコース、准教授

■略歴
2001年3月 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科修了
2001年4月 日本学術振興会・未来開拓学術研究推進事業・RA
2001年11月 北陸先端科学技術大学院大学 助手
2008年10月 宇都宮大学大学院工学研究科 助教
2012年6月 宇都宮大学大学院工学研究科 准教授
現在に至る

■専門分野
感性情報学、多感覚認知、質感知覚、心理物理学

■学会活動
日本感性工学会 理事 (2021-)