「皮膚ガスの見える化―皮膚表面から放出される微量な血中揮発性成分の高感度リアルタイム画像化に成功」

●皮膚より放出される 「 極めて微量な血中由来の揮発性成分」( モデル成分:飲酒後のエタノールとアセトアルデヒドガス)を高感度に検知し、その濃度分布をリアルタイムに 画像化可能なガスイメージング装置(探嗅カメラ)を世界で初めて開発した。
●皮膚曲面の凹凸を補正する装置(2次元真弧:マコ)により、「皮膚から放出される血中揮発性成分の濃度分布」「身体部位毎の異なる皮膚ガス放出動態 」 等の詳細な評価が可能となり、皮膚ガスによる新規な ウェアラブル型ヘルスケア機器の研究開発を加速することができる 。
●非侵襲・無意識下での代謝状態モニタリングの他、疾患の新規な早期スクリーニング法 、さらには 「人工の探知アラート犬」 の開発が期待される。

 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 センサ医工学分野の三林教授の研究グループは、経皮放出される血中揮発性成分の濃度分布の非侵襲的リアルタイムイメージング装置(sniff-cam)を開発し、発汗が少なく表皮が薄い耳周辺領域、中でも耳道開口部が血液中に含まれる揮発性成分の非観血計測に適した部位であることを発見した。この研究は文部科学省 科学研究費補助金、生体医歯工学共同研究拠点支援、日本IDDM(インスリン依存型糖尿病)ネットワーク研究費助成の支援のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌ACS Sensorsに、2019年12月25日0時(米国東部時間)にオンライン版で発表されると発表した。

≪研究成果の概要≫
 三林教授の研究グループは、上述の研究課題を解決するため、ヒト皮膚から経皮的に放出される血中VOCsの濃度分布を経時的に観察可能な「ガスイメージング装置(探嗅(たんきゅう)カメラ)」を開発した。また、経皮ガスの放出を模倣した新たなガス負荷法、および複雑な曲面を有する体表面における正確なガスイメージングを実現するためのフィッティングデバイス(二次元真弧:マコ)を新規に開発したとのこと。
 実証実験として汗腺密度や表皮層数の異なる手掌、手指、手背、足裏、耳を対象部位として一定量のアルコール飲料を摂取後の健常被験者より放出される皮膚ガス中のエタノール、そして代謝産物であるアセトアルデヒドの濃度分布をリアルタイムに画像化し、アルコール代謝の非侵襲モニタリングに成功した。そして、従来の手法では観察することの困難であった「身体部位により異なる汗腺分布および表皮層数」と「皮膚から放出されるVOCs」の関係の考察が可能になった。特に、薄い表皮下に毛細血管が密に分布し、かつ汗腺の少ない耳周辺領域が経皮VOCs計測に適する部位であることを明らかにでき、今後の「皮膚での血液ガス計測」に繋がる大きな成果である(図1)。
 探嗅カメラがエタノール(またはアセトアルデヒド)を検出する仕組みには、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型アルコール脱水素酵素(ADH)の触媒反応を用いたバイオ蛍光法を用いている。高感度なカメラの前方に酸化型NAD (NAD+)で湿潤させたADH固定化メッシュを設置し、エタノールガスを負荷すると酵素反応によって還元型NAD (NADH)が新たに生じる。このNADHは波長340 nmの紫外光照射により波長490 nmの蛍光を生じ、蛍光の強度が負荷されたエタノールガス濃度と相関することからADH固定化メッシュ上の蛍光強度分布をカメラで記録することで、エタノールガス濃度分布が得られる(図1)としている。









プレスリリースサイト(東京医科歯科大学):
http://www.tmd.ac.jp/press-release/20191225_1/index.html