1.はじめに
近年、水中ロボットが普及しつつある。水中には水産資源や金属資源をはじめとした生活を支える資源が存在している。水圧や呼吸できないことが原因で人は水中に容易にアクセスできない。そのため水中ロボットは人の代わりに水中を調査するためのプラットフォームとして期待されている。しかし空のドローンのように手軽に水中調査を行えない。なぜならロボットが水中で自分の位置を測ることが難しいからである。自分の位置を測ることを「測位」と呼ぶ。またロボティクスの分野では「自己位置推定」とも言う。本稿では水中ロボットの測位センサを説明するとともに、我々の研究事例を紹介する。水中測位の難しさについては文献1)を参照されたい。
2.水中測位
水中での測位が難しい根本的な理由は電波が使えないことである。そのため陸上や空での測位に活用されているGPSも使用できない。空のドローンを気軽に使用できるのは、衛星の電波が届く限り地球上のどこでもメートル精度で測位できるGPSのおかげである。
また水中では視界も悪く、人が普段生活で頼りにしている視覚センサ(カメラ)も限られた条件でしか使用できない。水中の視界は外洋の綺麗な環境でも数10mであり、沿岸域では図1のように数10cmに満たないことも普通である。ダイバーはそのような海を「味噌汁のよう」と例える。また、海底近くで動き回ると海底の泥を巻き上げてしまい、陸上と異なり、一度巻き上げられた泥はしばらくの間あたりに漂い、ほとんど何も見えなくなる。また太陽光が届くのは数10m程度の浅い場所だけなので、それ以外ではライトが必要になる。ライトを使うと水中に漂う砂、マリンスノーやプランクトンなどからの反射によって遠くが見えないという問題も出てくる。
そこで水中において最も使用されるのが音波である。水中において音波は光より遠くまで届くので計測や通信手段として広く使用される。イルカも仲間とコミュニケーションしたり、餌を捕まえるのに超音波を使う。
音波により周辺環境を計測するセンサをソーナーと呼ぶ。高価なソーナーはカメラに近い映像を取得することができるが、音波は波長が長いため一般に光よりも分解能が悪い。また生物や船舶、波浪等から来るノイズも多く、海底や水面、その他様々な反射が重なる(「マルチパス」と呼ぶ)。これにより検出したい信号がノイズや反射波に埋もれてしまう。また音速は水温や圧力、塩分濃度によって変化するため、音波はまっすぐ進まず、屈折してしまう。このように普段視覚に頼っている我々人間にとって、直感的に音響画像を理解するのは困難である。
次週に続く-
参考文献
1) 巻俊宏, “水中ロボットの測位の話,”
http://mt-utoa.webmasters.co.jp/learnocean/researchers/cat/rov.html
【著者略歴】
松田 匠未(まつだ たくみ)
2012年3月 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 修士課程修了 修士(環境学)
2012年4月~2015年3月 日本学術振興会 特別研究員
2015年3月 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 博士課程修了 博士(環境学)
2015年4月~2019年3月 東京大学生産技術研究所 特任研究員
2019年4月 東京大学生産技術研究所 特任助教
現在に至る
・所属学会
IEEE,日本船舶海洋工学会,海洋調査技術学会,日本ロボット学会
・受賞歴
2011年 MTS/IEEE OCEANS 2011 KONA Student Poster Program Second Place Awards
2014年 IEEE OES Japan Chapter Young Researcher Award 2014
・専門分野
知能ロボティクス,フィールドロボティクス,自律型海中ロボット(AUV),マルチロボットシステム,確率ロボティクス
巻 俊宏(まき としひろ)
東京大学生産技術研究所 准教授。
2003年東京大学工学部システム創成学科卒業。
2005年東京大学大学院工学系研究科環境海洋工学専攻修士課程修了、修士(工学)。
2008年東京大学大学院工学系研究科環境海洋工学専攻博士課程修了、博士(工学)。
同年4月東京大学生産技術研究所助教、同年10月〜12月ウッズホール海洋研究所(米国)客員研究員を経て、2010年4月より現職。
専門は海中プラットフォームシステム学。海のフロンティアを拓く岡村健二賞等を受賞。
IEEE, 船舶海洋工学会等の会員。