Webジャーナル「センサイト」創刊によせて
ここ40年程の間にセンサ技術は目覚ましく進歩しました。まず、半導体素子製造技術の進展に伴い光、温度、磁気、放射線応答など半導体に固有な物性を利用した小型センサが発展しました。次いで、微細立体構造をシリコン基板上に作製するMEMS技術により、可撓性のあるμm~mmサイズの種々の微細構造が作製できるようになりました。このMEMS技術により、機械量に関連する応答が容易に得られるようになり、それまで部品を集め組み立てられていた機械量計測装置が指先や小さな回路基板の上にも載る微小センサとして生産されるようになりました。
さらに、微小立体構造は、容積と容積/面積比がサイズ減少とともに小さくなって熱的、化学的、生物的な計測でも有効となり、それらのセンサ小型化も進展しました。またアレイ化による2次元イメージングや立体像の取得も簡便になり、さらに圧電性・焦電性・磁性・選択吸着性などを示す高機能性薄膜の積層が可能になったことから、検知対象が多様化しました。これらの展開のもとでセンサの小型化、高性能化、低価格化が実現され、多種多様なセンサ群が産み出されてきたといえます。
測定された電気信号も、同じシリコン基板上に埋め込まれた増幅素子、A/D変換素子、論理素子そしてそれらの集積回路によってディジタル化され、より使いやすい高度な情報に変換されて処理されるようになりました。最近注目される情報処理技術としては、高度な信号処理としての人工知能AIでありましょう。
AIでは、人間の神経回路網を模したニューラルネットワーク、機械学習、深層学習等と多くの信号処理手法が膨大な信号入力を処理し、より高度な認知、判断、選択等へと導く有効な方法として提案され、画像認識、囲碁、翻訳、医療診断、自動運転、製造の自動化などの幅広い分野で応用されています。ニューラルネットワークは早くからセンシングに応用されました。
具体例としては、匂いの検知システムにおいて、既知のガスに対するガスセンサ出力信号を得る実験を重ねて入出力を関係づける数式を学習させることにより、未知のガスが何であるかをコンピュータで推測できるようになりました。
こういったAIによる高度処理を実行するためには、膨大なデータ処理のためのコンピュータ計算能力とトリリオンともいわれるセンサでの周辺状況の詳細把握が求められています。前者の情報処理能力は、従来型コンピュータと新タイプの量子コンピュータによる高速化・高性能化は勿論、クラウドコンピューティング等画期的な計算能力をも与える処理方法が提案され、その開発導入が進んでいます。後者については、すでに開発されたセンサの高性能化は勿論、新物質発見、複合構造創出、素粒子も含めた新検知量の利用、新検知現象の発見や再構築などが研究されています。言い換えれば、センシングは科学における最先端を見つめ、真っ先に取り入れていく重要な応用分野です。
こういった先端的な工学を推進するためには、これまでに得られた膨大な既存センシングのデータ、新技術、新学問領域の開拓、情報や信号処理の高度化や高速化、実用を促進する低価格化・生産性向上など多くの情報を集め、分類し、有効なデータベースを構築することが必要です。これらを利用して築かれるセンシングシステムは、あらゆるモノをインターネットで結びつけるIoTの更なる発展も推進いたします。
センシング技術応用研究会はセンサから信号処理技術やシステムについてのセンシング技術の発展を産学官で共同して推進しています。研究例会、見学会、テクニカルスクール、セミナー、実習講座等の会合参加型の活動を主として40年を越え続けていますが、これに加えてアクセスしやすい媒体による技術の紹介も望まれていました。
このたび「センサイト」がwebジャーナルとして発刊され、迅速に情報発信するのは喜ばしいことです。これらの活動がセンシング技術の発展に大きく寄与ことを切に願っています。