3.IVIとは
IVI組織が他の組織と大きく違う所は、正会員は現場を持つ企業で、IT企業はあくまでサポート企業として分かれている事である。IVI活動の最初は「お困りごとシート」というものを各企業が出し合い、それを基に問題解決のためのビジネスシナリオを研究し、企業間を「ゆるやかな標準」でつながることを考えて、サイバーフィジカルな生産システムで各企業のバリューを高める活動を進めている。「ものづくり」と「IT」が融合し、あたらしい社会をデザインし、それぞれの企業が連携してイニシアティブをとるためのフォーラムである。
中でも人が中心のものづくりがIoT時代にどのように変わるかを議論し、協調領域(各企業で共通にすべき部分)をリファレンスモデルとして、相互につながるしくみを構築することを可能とし、”ゆるやかな標準”でつながることを考える。2015年発足以来、現在、参加企業は280社を超え延べ750名近いメンバー、累積で100を超える業務シナリオワーキングの活動実績が大きな財産。今でも活発な活動を繰り広げているモノづくり中心の業界団体である。
4.IVI活動事例
IoT(モノのインターネット)は極めて広い分野で応用が進み、産業、科学、そして生活まで大きな変革をもたらしつつある。こうした中、IVIが検討する12のテーマの中でも、予知保全は日本の産業競争力の強化に直結するテーマとして、様々な議論と実証実験が精力的に進められている。現在、ものづくりにまつわるIoTや人工知能(AI)の応用分野の中で最も熱いテーマが「予知保全」であり、全体要望の6割以上が何らかの課題と認識している現状がある。
工場の中に置いた製造装置にセンサを取り付け、そこで収集したデータを分析することで、不具合や故障の発生を事前に予知するものだ。工場で使う生産設備の不具合や故障は、多くの場合、突然起こる。予期せずこうした事態が起きると、原因究明や部品手配などに手間取り、長期間の操業停止を余儀なくされる。当然メーカーが被る損害は大きい。(Broken Maintenance)これが予知保全(Predictive maintenance)によって、まだ動いている状態で予測できるようになれば、計画的な点検や修理を進められて、損害を最小化できる。
4-1.工場で予知保全を実証実験
今回は、次世代センシング技術による予知保全データの活用という関連テーマで取り組んできた事例を中心に紹介する。
実証実験は、予知保全に関心のあるメンバー企業とのマッチングを行い課題を明確にしたうえで具体的なゴール(TO BE)を目指して実証検証を行った。工場内の生産工程の中から溶接、溶着、ロボット、プレス加工など10の要素に分けて進めてきた。次世代センシング技術の一例として、まず、最初に手掛けたのは、予知保全に最適なセンサとしてAEセンサを取り上げ活動し実証検証を実施。センサから収集したデータを4段階の特徴抽出処理、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)、強化学習までを連続的に再帰学習するAIを宿した自律型フォグ・コンピューターでの実装検証の現状の一例を紹介する。*4)*5)
AEセンサとは、材料や構造物が変形・破壊する時に発生する弾性波を検出する検査装置である。これを使えば、破壊に至る前の原因となる小さな欠陥を見つけられる。下図では、エッジコンピュータにてAE波形の生データ解析規模:900MB/分で収集したイメージを示す。(図2)
実証実験の手順シナリオのフローを図3に示す。
実際にはこれを何度か回すことを実践してブラッシュアップしてゆく活動が通常で。活動期間は基本一年で完結させる。
次に多くの現場を回って活動した実証事例を基にその見解を整理した
① 加工:ドリルの寿命を監視と加工制御に応用可能
② ロボット:複数個所にAEセンサを設置することで多軸ロボットの軸毎の寿命を診断可能
③ プレス:プレス時の品質、設備の異常監視可能
④ モーター:軸受けの寿命監視可能
⑤ 鍛造:鋼材の切断時の高周波信号を分析することで設備の寿命、切断加工品の品質合否判定が可能
⑥ CTL(シリンダー):軸の摩耗監視可能
⑦ 溶着:溶着品質がセンサで確認可能
⑧ カッター:包装材の刃の寿命監視可能
⑨ 3D/加工機:ドリル寿命モニタリング可能
⑩ 表面処理:メッキ処理時の膜厚監視可能
⑪ リーク:密閉度(リークテスト)の代替活用可能
次週に続く-
【著者略歴】
松岡 康男
(株)東芝 研究開発本部 研究開発センター
コンピュータ&ネットワークシステムラボラトリー
専門は半導体プロセス微細加工技術、生産システム情報工学、脳型人工知能チップ研究開発、次世代エッジコンピュータの研究開発。
IVI(Industrial Value Chain Initiative)のビジネス連携委員長(2017-2018)、センサーデータ活用技術研究会:主査(2018-2019)、応用物理学会会員(1985-2019)、一般社団法人 日本USA産業振興協議会・準会員(2016-2019)