LOS_CUBE/Tの開発(1)

アズビル株式会社
アドバンスオートメーションカンパニー
古川 洋之

1.LOS_CUBEのツール開発のポイント

製品の暗黙知やノウハウの伝承のためには製品のニーズとシーズの情報を網羅的かつ相互連携を持たせてまとめ、更に必要とされる情報を活用できることが必要である、即ちニーズとシーズの情報を「漏れなく」、「紐付けて」登録し取り出せる仕組みとツールが必要となる。なお、ここでの「品質」はQualityを示すものであり、信頼性だけでなく製品全般の質に関する特質、特性も含まれている。

図1 LOS_CUBE作成イメージ

2.情報の漏れを無くす技術(3つの軸とカテゴリの採用)

LOS (List Of Specifications)ではニーズとシーズの情報の紐付けをする情報の漏れを無くすために以下に示す3つの軸「利用時の品質」「製品の品質」「製品の仕様」の情報を用いる。

2.1 ニーズ情報

ニーズの情報を漏れなく登録するためには、客観的な視点が必要でありISO/IEC 25010、JIS X 25010「システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価(SQuaRE)−システム及びソフトウェア品質モデル」の「利用時の品質」と「製品の品質」がハードウェアおよびそのシステムにも有効であり、LOSの2つの軸として採用する。

●「利用時の品質(要望)」
「利用時の品質」は、利用者のニーズ即ち製品に対する要望、実現してほしい「もの」や「こと」の情報を登録する。登録の際はJIS X 25010にある5つのカテゴリの有効性、効率性、満足性、リスク回避性、利用状況網羅性から選択し、具体的な情報は「~してほしい」で記述する。情報の提供はユーザ、システム設計担当、メンテナンス担当者、設置担当者またはその情報を持っているメーカ担当者とする。

●「製品の品質(要件)」
「製品の品質」は、製品が満たすべきニーズ即ち設計要件(設計目標)、実現してほしい「もの」や「こと」の情報を登録する。登録の際はJIS X 25010にある8つのカテゴリの機能適合性、性能効率性、互換性、使用性、信頼性、セキュリティ、保守性、移植性から選択し、具体的な情報は「~すること」で記述する。情報の提供は設計要件をまとめることができるメーカの担当者とする。

2.2 シーズ情報

シーズの情報は、「製品の仕様」を製品毎にカテゴリと情報を登録し、LOSのもう1つの軸として利用する。

●「製品の仕様」
「製品の仕様」は、設計担当者が製品の条件や提供する「もの」や「こと」の情報を具体的な数値や文書などで登録する。カテゴリの例としては基本仕様(計測範囲など)、電気的仕様(定格電圧など)、機械的仕様(質量など)、環境仕様(使用温度など)、調整仕様(ソフトウエアを含む調整機能など)がある。

3.情報を紐付ける技術(専用ツールの開発)

LOSの3つの軸の各カテゴリの情報を紐付けて登録するために、Microsoft Access(データベース管理システム)を用いてLOS_CUBEを作成するための専用ツールとしてLOS_CUBE/Tを開発した。またLOS_CUBE/Tは完成した(3軸の情報を登録した)LOS_CUBEから必要な情報を取り出す際にも紐付いた情報を漏れなく取り出すことが可能である。以下のツールの説明では、地震センサの地震計測と制御に関する機能について試行を行った結果を基に入力と出力の説明を行う。なお他に差圧伝送器とひずみ計での試行も実施している。

図2 アズビル製インテリジェント 地震センSES70
SESはアズビル株式会社の商標です

3.1 LOS_CUBE/Tへの入力

LOS_CUBE/Tの入力フォームには3つの軸共通の入力画面としてカテゴリの選択、情報入力、公開非公開の選択があり、選択したカテゴリの説明が確認できるボタンが付いている。

(1)利用時の品質→製品の品質の入力

図3 LOS_CUBE/Tイメージ(利用時の品質→製品の品質)
図4 LOS_CUBE/T入力フォームF_利用時の品質 製品の品質

1つ目の入力フォーム「F_利用時の品質 製品の品質」の上段にはユーザの要望である利用時の品質を入力する。5つのカテゴリに対して順番に内容を確認し、該当する情報があればそのカテゴリと詳細情報を入力する。次に、利用時の品質に対する製品の品質の情報をフォームの下段に入力し情報の紐付けを行う。製品の品質も8つのカテゴリを順番に確認し該当項目があればカテゴリとその情報を入力する。上段の利用時の品質をコピーすることで1つの利用時の品質に対して複数の製品の品質の情報を入力することができる。なお、製品の品質には関連する資料の情報を登録することも可能である。

(2)製品の品質→製品の仕様を入力

2つ目の入力フォーム「F_製品の品質 製品の仕様」の上段には登録済みの製品の品質が表示さえるので、関連する製品の仕様を入力する。製品の仕様はEXCELで作成した仕様リストをインポートすることで、カテゴリだけでなく情報も選択して入力する。

図5 LOS_CUBE/Tイメージ(製品の品質→製品の仕様)
図6 LOS_CUBE/T入力フォームF_製品の品質 製品の仕様

2つの入力フォームを使って必要な情報の入力が完了したら、3軸の情報が漏れなく、紐付いたLOS_CUBEの完成となる。

(左)図7 LOS_CUBE/T作成イメージ
(右)図8 LOS_CUBE/Tイメージ(LOS_CUBE完成)

次週に続く-

【著者略歴】
古川 洋之(ふるかわ ひろゆき)
平成元年03月  長崎大学 工学部 電子工学科 卒業
平成元年04月  山武ハネウェル株式会社 入社
温度調節器、地震センサなどの製品開発、
地震時遠隔遮断システムのプロジェクトリーダを経て、
開発部の技術管理と改善に関するGrマネジメントに従事
平成元年07月~ 次世代センサ協議会社会インフラ・モニタリングシステム研究会委員