セキュリティ用センサの研究と応用事例(1)

セコム(株)IS研究所
徳見 修

1. はじめに

セコムは1962年に日本初の警備会社として創業した1)。創業当初は人的警備(巡回警備や常駐警備)からサービスを開始し、4年後の1966年には現在主力となる機械警備(オンライン・セキュリティシステム)への転換を図った。

オンライン・セキュリティシステムは、人と機械が有機的に結合したシステムである。ご契約先とセコムを通信回線で結び、ご契約先のセンサ情報をセコムの管制に集約し、管制員の指示により最寄りの緊急対処員が駆けつける。通信回線を介して遠隔地のセンサ情報を集約する枠組みは、現在の言葉で言うところのIoTである。

お客様に安全を提供するため、セキュリティシステムを構成する「センサ」「通信回線」「人によるオペレーション」のいずれにも高い信頼性が求められる。特にセンサには、異常を間違いなく検知する極めて高い性能が求められ、いまもなお研究開発を進めている。

本稿では、セキュリティシステム用センサに対する研究のスタンスと応用事例について紹介する。

2. セキュリティ用センサの研究スタンス

セコムは2017年にセコムグループ2030年ビジョン2)を掲げ、それに則って研究開発を進めている。2030年ビジョンで掲げている「あんしんプラットフォーム」構想は、一人ひとりの不安やお困りごとに対して、きめ細やかな切れ目のない安心を提供することで、お客様の多様化する安心ニーズに応えていくものである。この構想を実現するためには「誰が」「どこで」「何をしている」を多様な条件下で確実にセンシングする高度な基盤技術を確立する必要がある。

昨今AIの研究開発が盛んであるが、セコムが初めてAIを活用したのは1998年に販売開始した「セコムAX」システム3)である。これは国内初の画像による侵入検知センサ「AX画像センサ」を中核としたシステムである。
「AX画像センサ」にはセコム独自のAI ~ ルール化された膨大な人の知識をハンドリングする画期的な枠組み、以降「人間知識型AI」と呼ぶ ~ を搭載し、販売開始から20年が経過した現在も進化を続けている。この「人間知識型AI」は、トレンドであるディープラーニングに代表されるAI ~ 大量データを投入し学習により性能を追求するタイプ、以降「機械学習型AI」と呼ぶ ~ とは一線を画したもので、必要なのは大量のデータではなく、運用を通して得られるノウハウである。セキュリティのセンシング対象は侵入者や不審者などであり、そのような悪意ある者のデータを大量に収集することは本質的に難しい。したがって、膨大なデータを要する「機械学習型AI」のみで性能を担保するのは困難である。

セキュリティ用センサの技術に求められる要件の1つに、高い透明性がある。それは時代と共に変遷する不安要素へのタイムリーな適応や不具合への迅速な対応など、技術改良の迅速性・継続性を保つために必要な要件である。「機械学習型AI」は、性能は高くても一定以上はブラックボックスであり、改良・改善の手がかりが掴みにくい。一方セコムが生み出した「人間知識型AI」は、知識化・体系化された運用ノウハウで構成されるため処理過程が明確でトレース可能であり、改良・改善を迅速かつ的確に着手できる。

セキュリティ用センサの技術は、「人間知識型AI」と「機械学習型AI」の利害得失をふまえて、用途に応じてバランス良く使うのが望ましいと考える。

次週に続く-

参考文献

1)セコムグループの歩み
https://www.secom.co.jp/corporate/vision/history.html

2)セコムグループ2030年ビジョン
https://www.secom.co.jp/corporate/pdf/2030_VISION.pdf

3)オンライン画像監視システム セコムAX
https://www.secom.co.jp/business/security/office/ax.html

【著者略歴】
徳見 修(とくみおさむ)
セコム株式会社 IS研究所 センシングテクノロジーディビジョン
サブディビジョンマネージャー

1990年、セコム株式会社入社、IS研究所配属。
以降、バイオメトリクス、人数計測、侵入検知、行動認識などの画像認識や、カメラ、距離センサ、ロボットなどセンシング技術の研究開発に従事。
2003年、開発プロジェクトのリーダー。
以降、画像/センサ系研究グループのリーダー、サブマネージャー、主任研究員を経て2018年4月より現職。