(1)センサ技術は拡大再生産する
人間の進化に伴って最も重要な役割を果たしてきたのは、測る、比べる手法の発明、すなわちそのためのセンサであろう。人間は、共同生活を始めたころ、それぞれの人間にとっての価値観の違いをどう埋めるかに心を砕いてきた。その際に大切なことは客観的に重さや、長さを比べることであった。天秤が発明され、ものさしが創造された。特にものさしは、人間の手の幅や脚の長さを基準としたらしい。古代エジプトでは、人間の体の長さから単位を作った。親指の付け根の幅をインチ、手を広げた時の指先から鼻先までをヤード、足のつま先から踵までをフィートと呼び、さらに肘から中指の先までをキュービットと呼んだ。重さの単位は、小麦1粒の7000倍を1ポンドとしたのが起源だとされている。定量的な測定には、必ずものさしが必要である。しかも万人が認めたものでなければならない。その後、水1リットルの重さを1000gとしたことで万国共通の単位が生まれた。このように最初の頃の品物は身近な体や穀物から基準の単位を作り出したのである。
次に気温や体温のように目に見えないものを測る必要が出てきた。これらは間接測定、すなわちセンサの物理量の変換機能を借りなくてはならない。特に温度計の発明が典型的であるが、アルコールや水銀を毛細管に閉じ込めてそれらの熱膨張率を利用して液の高さに変換することでビジブルにしたと言う工夫を行った。こうして、人類の原典でもあるセンサ技術は物理・化学現象の基本として地道に進化し続けてきた。科学史に名を残した科学者達が発見したあらゆる物理・化学・生理的現象は、すべてセンサの力に頼っている。つまりセンサの精度と機能が上がるに連れて新しい現象が発見され、結果得られた新しい物理・化学・生理現象が他の分野への計測に利活用されてその効用が拡大再生産されていく。これがセンサの特徴である。磁気共鳴吸収は、極めて基礎的な物理現象であり一昔前は大学の講義で聞いたことがある程度の知識であったが、今や人体の断層撮影としてのMRIを知らない人はいない。センサの拡大再生産の好事例の1つであろう。
参考文献
図1)ウィキペディアの執筆者 “キュビット”. ウィキペディア日本語版 2018-12-06(参照 2018-12-21)
【著者略歴】
1967年 京都大学大学院無機化学専攻修了
同年、日本板硝子社に入社、以降光ファイバ、マイクロオプティックス、
光センサ、セルフォックレンズ、光・電子応用ガラス材料の開発に従事した。
通産省大型プロジェクト「光計測制御システム」に参画し、ガスセンサの開発に従事した。
1991年 北海道大学工学研究科応用物理分野で工学博士取得
1996年 厚生労働省傘下の職業能力開発大学校教授に赴任
2004年 通信システム工学科を創設、初代教室主任
2007年 技能五輪世界大会(静岡)で日本国技術代表
2008年 諏訪東京理科大学客員教授となりガラス材料工学を担当
同年、㈱プライムネット(特許ビジネス)を設立
2010年 ㈱みらい知研を設立、その後、代取社長、会長を勤める
2018年 同社後進に譲り退任
次週へつづく―