五蘊と感情センサ

藤田 嘉美 (藤田技術士事務所 所長)

日本技術士会のロボット技術研究会に属している筆者にとって、今最も興味深いセンサは「感情センサ」である。ここであらかじめお断りしておかなければならないことは、昨今のセンサはIoTのデバイスを通じてビッグデータに集積されAI(人工知能)を用いて検証したものが、各種の感情表現のセンシングに用いられているという事実である。人とコミュニケーションをとるサービスロボットのPepperには、人との触れ合いや環境状況に応じて変化する基本の2感情である快(悦、喜、愛、楽、安心)と不快(不安、悲哀、怒、苦、辛)の組み合わせからなる多数の感情表現が再現できると発表されている。

ここでは、お釈迦様の「人間は五蘊(色・受・想・行・識の五つ)からなり立っている」という説に基づいて、人間の各種感情を知るためのセンシング対象と対象センサの名称を図1.に整理してみた。

最初の色(肉体)からは、心拍や脈拍数、体温、発汗量などを下着や腕などに装着するセンサから情報を収集してAIで判定する「疲労センサ」、「睡眠センサ」、「健康センサ」などがある。非接触センサの事例としては、超音波を胸に当て反射波から心拍を計測し疲労度を測るという研究もある。「個人識別センサ」としては、顔画像とAIの組み合わせによるものがよく知られているが、クリーンルームや食品工場といった顔を隠す職場での個人識別として耳に挿入するイヤホン型の「個人識別センサ」がある。その他、ボクシングのダメージ度を赤外線カメラとAIで可視化する「ダメージセンサ」がある。これは、パンチを浴びると皮膚下で内出血が起こり選手の体表温度が下がるという現象を計測し、選手の体表温度とAIからダメージ度を判定するというものである。

図1

受(五感)では、呼気量や着衣圧、通気温湿度などから判定する「着心地センサ」がある。

想(妄想)では、目や瞼の瞬きや視線、態度などをカメラで捕らえてで判定する「眠気センサ」や「犯罪センサ」があり、心拍数などから眠気や、喜び、悲しみ、驚き、ストレスといった直接的な感情表現を認定する各種センサもある。

行(行動)では、腕や頭の動きを時系列に捕らえた行動形態などから判定する「ヒヤリハットセンサ」や「万引きセンサ」などが注目されている。

識(思慮)は、ずばり脳波の測定から、幸福感、失望感、楽観、軽蔑、不安感、嫌悪感などの各種感情を知ろうというもので、頭部に密着させて測定するセンサがある。