水中インフラ維持管理の展望(1)

佐藤 友亮(さとう ゆうすけ)
(一社)日本ROV協会
代表理事
佐藤 友亮

1.はじめに

 わが国では2007年に「超高齢社会(総人口の21%が65歳以上)」へ突入し、現在も先進諸国と比較して最も高い水準の高齢化率(29.1%:令和5年10月1日現在、内閣府 令和6年版高齢社会白書より)となっている。これは65歳以上の人口にして3,623万人である。これを受け、港湾工事においてはi-Constructionの推進により、施工の省力化、機械化、自動化が図られている。
 一方、高度経済成長期に建設されたインフラの水中部分の点検や作業については、従来潜水士が担っていた。しかし、潜水業界でも働き手が少子高齢化による減少のため、インフラ維持管理においても省力化、機械化、自動化による生産性の向上によって成長力を高めることが極めて重要となる。
 本稿では現在の水中インフラが抱える課題とそれを解決するROV(Remotely Operated Vehicle、水中ドローン)について紹介する。

2.水中インフラが抱える課題

2.1.水中インフラの老朽化

 そもそも水中インフラとは、港湾設備やダム、河川などに架けられた橋梁、各種水道や発電設備、海底ケーブルなど水中に設置されている設備を指す。今後は洋上風力発電設備もこれらに加わることとなり、今後ますます重要視される分野と思われる。
 このような水中インフラ設備は高度経済成長期の1964年東京オリンピックに向けて建設ラッシュを迎えた。海外からの来客に応えられるよう、豪華客船が停泊可能な港を整備し、都内や地方からの移動を円滑にするため高速道路や新幹線なども整備された。以下に建設された各設備の年度別データを示す。

図1:建設年度別橋梁数(令和2年版国土交通白書)
図1:建設年度別橋梁数(令和2年版国土交通白書)
図2:建設年度別港湾施設数(令和2年版国土交通白書)
図2:建設年度別港湾施設数(令和2年版国土交通白書)

 これらのデータから、橋梁は陸上のものを含め、建設後50年経過したものが2029年には52%に到達し、港湾施設は2024年現在ですでに30%以上となっている。一方で、特に橋梁に関しては9割以上のものが地方公共団体によって管理されており、予算的に容易に架け替えることが不可能な状態となっている。そのため、点検を実施して劣化の進行度合を判定し、優先順位を付けて補修をする水中インフラ維持管理が重要となっている。

2.2.水中インフラへの打撃

 前項の老朽化に加え、昨今の地震や台風、ゲリラ豪雨などの災害が頻発化、激甚化の傾向にある。特に台風は以前に比べ、地球温暖化による海面水温の上昇により日本近海で発生し、また大型なものが増えてきた。これにより台風への準備期間が短く、また大雨や風により水中インフラに深刻なダメージをもたらしている。以下に土砂災害の発生件数の推移を示す。

図3:土砂災害の発生件数の推移(令和2年版国土交通白書)
図3:土砂災害の発生件数の推移(令和2年版国土交通白書)

 上図の平成12年から21年と平成22年から令和元年で比べると、土砂災害件数が約1.5倍に増えていることがわかる。老朽化を迎えている水中インフラに昨今の災害によるダメージがいかに深刻か見て取れる。水中インフラの事故事例について次項にて説明する。

2.3.明治用水頭首工漏水事故

 令和4年5月15日、愛知県豊田市を流れる矢作川の取水施設「明治用水頭首工」左岸側において大規模な漏水事故が発生した。原因は堰の下、地中に水の通り道が作られる「パイピング現象」によるものとされ、これは施設の老朽化などによるものと結論付けられた。これにより農業用水や工業用水の取水が一時制限され、時期的に稲作への被害や周辺の自動車関連工場の一時操業停止などの被害をもたらした。さらに、魚道の水位低下によりアユの遡上ができなくなるなどの生態系まで影響が広がった。

図4:明治用水頭首工(東海農政局)
図4:明治用水頭首工(東海農政局)

 当初、令和7年度中に取水施設の土台部分をコンクリートにしたうえで、水門の柱を立て直す工事などを完了させる見込みであった。しかし、所管の農林水産省は令和6年6月に右岸側も対策が必要だとして水が取水施設の下を通り抜けないよう板を設置する追加工事を決定した。右岸側の工事は令和8年10月から開始され、工期は令和9年度中まで延長となった。
 明治用水頭首工は昭和26年から32年にかけて造成され、現在60年以上が経過する老朽化したインフラ設備である。このような水中インフラ設備が前項の通り日本各地に点在しているため、点検の需要が増大している。

2.4.超高齢社会「日本」

 冒頭に記載した高齢化に関するデータを以下に示す。

図5:平成12年度年齢5歳階級別人口(総務省統計局 5歳階級別人口より作成)
図5:平成12年度年齢5歳階級別人口(総務省統計局 5歳階級別人口より作成)
図6:令和4年度年齢5歳階級別人口(総務省統計局 5歳階級別人口より作成)
図6:令和4年度年齢5歳階級別人口(総務省統計局 5歳階級別人口より作成)

 図4の50-54歳のピークは第1次ベビーブーム(団塊の世代)で、25-29歳のピークは第2次ベビーブーム(団塊ジュニア世代)を示している。図5はその22年後となる令和4年度のデータで、第1次ベビーブームの世代の殆どが定年退職を迎える一方で若年層に第2次ベビーブーム以降のピークはなく、労働者は減少の一途を辿っている。そのため、有効求人倍率(図6、表1)は高止まりを見せており、省力化、機械化、自動化による生産性の向上が喫緊の課題となっている。

図7:有効求人倍率の推移(令和2年版国土交通白書)
図7:有効求人倍率の推移(令和2年版国土交通白書)
表1:令和6年7月度有効求人倍率(厚生労働省 一般職業紹介状況より作成)
職業 有効求人倍率
全職業 1.25
建築・土木・測量技術者 6.58
建設・採掘従事者 5.65
自動車運転従事者 2.72

※パート除く



次回に続く-



参考文献

  1. 浦環・髙川真一(1997)「海中ロボット」成山堂書店
  2. 佐藤友亮・高木圭太・魚谷利仁(2021)「ROV技能認定 ROV分類Class1準拠テキスト」日本ROV協会


【著者紹介】
佐藤 友亮(さとう ゆうすけ)
一般社団法人日本ROV協会 代表理事

■著者略歴

  • 2011年明治大学理工学部物理学科卒業
  • 2011年株式会社東陽テクニカ入社
  • 2019年日本海洋株式会社入社
  • 2021年一般社団法人日本ROV協会設立
  • 2022年株式会社水龍堂設立
  • 2024年一般社団法人日本ROV協会 代表理事就任
  • 2024年株式会社UMINeCo 設立

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