SIPスマートインフラの概要(2)

岩波 光保(いわなみ みつやす)
東京工業大学
教授
岩波 光保

3.研究開発内容

 これらを背景として、SIP課題「スマートインフラマネジメントシステムの構築」のミッションを達成すべく、次の5つのサブ課題を設定して研究開発を行っている。

① サブ課題A「革新的な建設生産プロセスの構築」
 建設生産プロセスにおいては、国土交通省のi-Construction等の推進を通じて、ICT 施工等、設計・施工におけるデジタル技術の積極的な活用を進めてきたところであるが、建設現場の飛躍的な生産性・安全性向上を実現するため、施工の「自動化・自律化」に向けた技術開発に官民共同で取り組む。具体的には、建設生産プロセス全体の最適化を実現する自動化・自律化技術として、施工に必要なあらゆるデータをリアルタイムで集積・制御・処理するCPS(Cyber-Physical Systems)と、自動建設機械群による自動施工技術の開発を進める。また、水中・海中、降灰地域など人力では計測困難な箇所でのロボット等によるモニタリング・施工技術や、トンネル坑内などにおける危険作業を自動化・無人化するために必要な測位・通信・制御技術、環境に優れたインフラの建設技術などについて研究開発を行う。併せて国民や利用者にご理解頂くアウトリーチ活動や、大学・高専等の教育機関と連携して高度人材育成を実現する共用可能でオープンな研究開発環境の構築・運用に取り組む。

② サブ課題B「先進的なインフラメンテナンスサイクルの構築」
 インフラを健全な状態に保つためには、点検、診断、措置、記録のインフラメンテナンスサイクルを確実に運用していくことが必要である。インフラの損傷メカニズムを踏まえた信頼性の裏付けのある精緻な診断・評価・予測等を行い、予防保全の対応につなげていくことが重要である。このため、構造物の変状・予兆を示す把握すべき情報を明らかにするとともに、それらのデータを取得し、数値解析技術等を用いて、将来の劣化・損傷リスク、性能低下の程度を評価・予測し、精緻な診断により適切な補修・補強等を可能とする。さらに、これらの一連のサイクルを、インフラデータの共通基盤やデジタルツイン技術と連携してハイサイクル化することにより、維持管理プロセスのイノベーションの加速化を促し革新的な維持管理を実現する。補修・補強(措置)の段階においては3Dプリンティング技術や高機能・高耐久材料などを用いた工法の高度化を図る。これらに併せてメンテナンスに関する諸技術の有用性を国民や利用者が理解するためのアウトリーチ活動や、革新的な点検・診断・措置・記録技術を使いこなす人材育成・体制の整備を進める。

③ サブ課題C「地方自治体等のヒューマンリソースの戦略的活用」
 地方自治体所管のインフラの必要な機能とサービス水準を適切に維持していくため、総合的なインフラ維持管理のためのデータ活用の取組みとして、自治体職員の担い手確保のための教育環境のプラットフォームの整備など、地方自治体等のヒューマンリソースを最大限に活用するための人材育成の体制構築を図る。また、自治体職員の維持管理対応を効率化する現場で使いやすい技術開発、普及、活用の促進を、スタートアップを含む地方の中小企業と地方自治体との連携によって行う。また、地方自治体がインフラの維持管理に必要な知見や先進事例の共有を行う仕組みや、地方公共団体と地域の大学、高専が連携して人材育成を行う仕組みの構築を進めるとともに、インフラメンテナンス技術の有用性について国民の理解と参加を促進するアウトリーチ活動を行う。これらにより、全国レベルの共通基盤で多様なスキルを持つ人材の参入やリカレント、リスキリングを促進することで、労働力不足の解消と技術・技能レベルの質的向上を実現し、地方インフラの機能とサービス水準の確保に必要なヒューマンリソースの活用を可能にする。

④ サブ課題D「サイバー・フィジカル空間を融合するインフラデータベースの共通基盤の構築と活用」
 国土、地域、都市に関する高精細なデジタルツインの構築にあたっては、その扱うデータ量が膨大かつそれぞれのインフラを管理する多くの機関が関わっていることから、データプラットフォーム間のデータ連携、シミュレーションのためのモデル化やデータの入出力、デジタルツイン群の連携のためのデータ変換、データ統合技術と、それら一連のプロセスにおける自動化について研究開発する。また、構築されたデジタルツインを活用して、建設分野の生産性向上、事後保全から予防保全への移行・加速のための新技術を活用したメンテナンスの確立、国土・都市・地域づくりにおける総合的・分野横断的なDX、GXの推進など、これまでの課題解決につながるようなユースケースを設定してシミュレーションによる試行結果を検証し、現実にフィードバックすることで、様々なイノベーションを起こしていくことが必要である。当該技術開発にあたっては、防災、まちづくり、モビリティ等のインフラ分野に対象としているが、長期的には、自然環境、エネルギー、ウェルネス、教育、働き方等の他の分野が抱える社会課題の解決への寄与、快適性、経済性、安全性を兼ね備えた新しい都市(Society 5.0が目指す「未来のまち」)の創造等の社会全体の最適化が可能となることも目指す。

⑤ サブ課題E「スマートインフラによる魅力的な国土・都市・地域づくり」
 「未来のまち」の実現に向けて、国土・都市・地域空間とそこで展開される様々な社会経済活動を支えるインフラについて、well-beingや災害への強靭性を確保していくため、「グリーンインフラ」と「インフラ分野のEBPMによる地域マネジメント手法」に関する研究開発を行う。
 グリーンインフラについては、その効果に関するデータをデジタル化することにより、グリーンインフラに関する評価、調査、建設、維持等の一連の仕組みを構築する。
 インフラ分野のEBPMによる地域インフラ群マネジメントについては、地域や都市単位でハイサイクルのシミュレーションを行い、EBPMによる都市計画・まちづくりの合理的な施策決定に活用できるシステムを開発する。

4.まとめ

 今年度は研究開発着手後2年目となり、現在、各機関において精力的に研究開発が進められている。成果の社会実装を強く意識している点が特徴であり、研究開発の進捗については本課題のウェブサイトを参照されたい。



【著者紹介】
岩波 光保(いわなみ みつやす)
東京工業大学教授

■略歴

  • 1999年運輸省入省(港湾技術研究所構造部構造強度研究室研究官)
  • 2002年独立行政法人港湾空港技術研究所地盤・構造部主任研究官
  • 2004年英国Imperial College客員研究員
  • 2008年同 構造・材料研究チームリーダー
  • 2012年同 構造研究領域長
  • 2013年東京工業大学教授
  • 現在に至る

インフラマネジメント、海洋構造工学に関する研究に従事。2023年より、SIP課題「スマートインフラマネジメントシステムの構築」のサブプログラムディレクターを務める。2015年、2024年土木学会論文賞、2006年、2012年土木学会吉田賞【論文部門】、2009年、2019年、2021年日本港湾協会論文賞受賞。