海洋人材育成の現状及び今後の展開(2)

河村 光寛(かわむら みつひろ)
(一財)エンジニアリング協会
海洋開発室長
河村 光寛

4 海洋人材育成へのENAAの取組

 一般財団法人エンジニアリング協会(以下、ENAA)は、このような状況に鑑み、特に日本国内で洋上風力発電の導入目標が高く設定されているなか、海洋開発技術者の専門知識が不足しているため、その人材育成が急務であることから、この課題に対応するため、社会人及び学生向けに海洋人材育成のためのカリキュラムの策定、教材の作成・支援、各種セミナーや講習会等を実施している。以下にその具体的な取り組みを紹介する。

4.1 教材等の作成

4.1.1 海洋開発人材育成 カリキュラム・教材開発に関する検討業務

 産業界のニーズに基づいた実践的な専門カリキュラムの検討として、国内企業の海洋人材育成ニーズを把握し、カリキュラムを整理し、これに基づき、「海洋開発産業概論」、「海洋開発工学概論」(①海洋資源開発編、②海洋再生可能エネルギー開発編、③海洋開発技術編)及び「海洋開発ビジネス概論」の教材を作成した。さらに、教材の改訂版を作成し、「海洋開発工学概論」には新たに「プロセスセーフティ」及び「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を取り入れて更新した。

図 1 海洋開発人材育成の各教材(一部)2)
図 1 海洋開発人材育成の各教材(一部)2)

4.1.2 洋上風力発電人材育成カリキュラム等(プロジェクトマネジメント分野)検討基礎資料作成業務

 「産学連携洋上風力人材育成コンソーシアム(IACOW)」にENAAは協力機関として参加し、大学院生向けにウインドファーム開発における「プロジェクトマネジメント」の人材育成を目指し、プロジェクトマネジメント概要、リスク、コスト、スケジュールマネジメント等のシラバスを作成した。

図 2 洋上風力分野における人材育成に向けた取組(経済産業省エネルギー庁)3)
図 2 洋上風力分野における人材育成に向けた取組(経済産業省エネルギー庁)3)

4.2 各種セミナー、講習会

4.2.1 海洋開発セミナー(2018年度から)

 日本は、一般商船や掘削リグ・FPSO等の海洋開発関連施設の設計・建造技術で一時は世界をリードしていたが、造船業界の低迷と技術者の引退により技術の継承が難しくなっている。これらの技術は洋上風力等幅広い海洋開発分野で汎用性があり、次世代に伝えるべき重要なものであるため、社会人向けに海洋開発施設の計画・設計・建造・据え付け・運転・検査及び洋上風力発電等について講義している。なお、大学等ではこのような講義内容の講座がほとんどないため、学生にも受講の機会を与えている。

図 3 海洋開発セミナー教材(一部)

4.2.2 長崎海洋アカデミー(NOA)向けコースの提供(2021年度から)

 長崎海洋アカデミー(NOA)は、2050年までにカーボンニュートラルを目指し、地球温暖化対策として再生可能エネルギーの導入を進めている。日本国内では洋上風力発電の導入目標が高く設定されているが、海洋開発技術者の専門知識が不足しており、その人材育成が急務となっている。このため、主に社会人を対象とした人材育成の取り組み(図4)を推進し、日本財団オーシャンイノベーションプログラムの一環として設立された。

図 4 長崎海洋アカデミーにおける人材育成の取組み 4)
図 4 長崎海洋アカデミーにおける人材育成の取組み 4)

 現在、10コース(総論、事業開発、風況海象解析、ウィンドファーム認証とマリンワランティサーベイ及び保険・ファイナンス、浮体式洋上風力発電海底地盤調査・解析と洋上施工、洋上風力発電所EPCプロジェクトマネジメント、送電システムの基礎)のうち、ENAAは次の3コースを出前講座として提供している。また、日本財団の助成を受け洋上風力発電におけるHSEの基礎及び送電システムの基礎のシラバス・教材を作成した。
(1)洋上風力発電所EPCプロジェクトマネジメント(2021年度から)
(2)洋上風力発電におけるHSEの基礎(2023年度から)
(3)送電システムの基礎(2023年度から)

図 5 洋上風力発電所EPCプロジェクトマネジメント講義

4.2.3 洋上風力発電設備等の建設工事等の作業員教育ガイドライン作成及び講習会

 陸上の経験だけを持つ作業員が洋上作業に従事するケースが増えることを想定し、洋上における安全・環境・健康及び基本安全訓練に関する知識である「洋上での作業時の一般的な留意事項」を取りまとめたガイドラインを作成した。また、このガイドラインを使用し、以下の講義を実施している。
 1. HSE活動、2. 安全(洋上作業に係る安全管理・緊急時対応・乗り移り等)、3. 健康・衛生、4. 環境、5. 基本安全訓練、6. 防火・消火、7. 落水防止及び落水時の対応、8. 事故事例、9. 教育訓練。さらに、地球深部探査船「ちきゅう」にて実演・実技を交えた講習会を開催した。

図 6 ガイドライン教材の表紙 2)
図 6 ガイドライン教材の表紙 2)
図 7 洋上風力発電設備等の建設工事等の作員 教育訓練ガイドライン講習会講義
図 7 洋上風力発電設備等の建設工事等の作員
教育訓練ガイドライン講習会講義

4.2.4 実海域における海底地形調査としてROV調査の体験・学習

 学生を対象に、海洋石油・天然ガス開発、洋上風力発電の開発、CCS適地選定等、今後拡大が見込まれる海洋環境調査の体験・学習を目的として、調査船に乗り込み、実海域(相模湾周辺)で実施した。1日目は、海底地形調査としてマルチビーム・サブボトムプロファイラーの座学及び計測を行い、2日目はROVに関する座学及びオペレーションを行った。(主催:コンソーシアム)

図 8 調査船による海洋環境調査の体験・学習

4.3 その他の取り組み

 筆者はOffshore Tech Japan2024(2024年2月2日)にて「海洋エンジニアリング産業への取り組み 洋上風力発電に関わる人材育成」5)と題して講演し、洋上風力発電に関わる海洋人材育成について以下(図9)を報告した。

図 9 「海洋エンジニアリング産業への取り組み洋上風力発電に関わる人材育成」5)
(説明資料の抜粋)

 また、Sea Japan 2024(2024年4月11日)にて、主催者との共催により「次世代を担う洋上風力発電の人材育成」と題して、①洋上風力発電に関する世界と日本の見通し、②洋上風力分野における産業界と大学が一体となった新たな大学教育のしくみづくり、③長崎海洋アカデミーにおける人材育成の取組みについて、3名の方々による講演を行った 6)

むすび

 海洋再生可能エネルギー市場が成長する中、日本の関連企業は市場参入を加速させているが、実践的技術を持つ海洋開発技術者の不足が懸念されている。将来の市場獲得に向け、技術者育成が必要である。
 ENAAは、各業界のトップ技術力を持つ賛助会員や関連団体の協力を得て、産官学連携を強化し、教育シラバス策定、教材作成、セミナーや講習会等を通じて海洋人材育成プログラムを積極的に展開する方針である。



参考文献

  1. 海洋基本計画(令和5年4月28日閣議決定)
  2. 国土交通省 海事局 「海洋開発人材育成のための教材開発」
  3. 洋上風力政策の現状 (Floating Wind Japan 2024 経済産業省)
  4. 長崎海洋アカデミーにおける人材育成の取組み~洋上風力発電を支える知識の習得と作業訓練~(Sea Japan2024)
  5. 海洋エンジニアリング産業への取り組み 洋上風力発電に関わる人材育成(Offshore Tech Japan2024)
  6. 「次世代を担う洋上風力発電の人材育成」(Sea Japan2024)


【著者紹介】
河村 光寛(かわむら みつひろ)
一般財団法人エンジニアリング協会
技術部 海洋開発室長 研究理事

■プロフィール

  • 2018年4月から㈱INPEXより出向し、2018年度から2021年度にかけて造船・海運の技術を活かしたマージナルガス田の開発(国土交通省の補助金事業)に従事。
  • 2018年度から海洋開発分野における洋上風力発電の人材育成を喫緊の課題と捉え、技術者等の育成を目的とした各種セミナーの企画、立案、開催、及び関連するシラバスや教材の作成に積極的に取り組んでいる。
  • 2021年度から海上石油ガスプラットフォームからの排出フレアガス回収(自主事業)の社会実装に向けた検討を行っている。
  • 2023年度から内閣府総合海洋政策推進事務局が主催するAUV(自律型無人探査機)官民プラットフォームに参加し、AUVの社会実装を実現するための各種課題に取り組んでいる。