IoTセンサモジュール電源としてのエネルギーハーベスティング技術 Energy Harvesting Technology for IoT Sensor Module Power Sources(1)

勝村 英則(かつむら ひでのり)
合同会社かちクリエイト
代表
勝村 英則

1.  IoTセンサモジュールの電源確保課題とエネルギーハーベスティング技術

 IoT(Internet of Things)の基本的な概念は、あらゆるモノがインターネットに接続され、データを相互にやり取りすることである。この中で、センサは現実世界の情報をデジタルデータに変換し、IoTシステムに取り込む役割を果たしており、温度、湿度、圧力、加速度など、さまざまな物理量を測定するセンサがIoTの基盤を支えている。またセンサによって収集したデータを分析し、我々の生活や産業の効率を飛躍的に向上させることで、新たな価値の提供が期待できる。
 当然のことながらセンサを駆動するためには電源が必要である。商用電源を簡単に確保できる場所であれば良いが、多くの場合、工事が必要でありコストがかさむ。また、消費電力を下げればバッテリー駆動とすることができるが、バッテリーは必ずいつかは消耗して使えなくなるため、長期的に使用する場合は交換が必要となる。簡単に交換できるのであれば問題ないが、例えば簡単に手が届かない位置に設置されているバッテリーの交換はコストがかかる。また、センサの数が多くなると、バッテリーの監視が新たなタスクとなってしまう。
 この課題を解決するために注目されているのが「エネルギーハーベスティング技術」である。エネルギーハーベスティング技術は、環境中に存在する微小なエネルギーを収集し、それを電力に変換する技術である。この技術を活用することで、センサモジュールは商用電源やバッテリー交換の必要なく、長期間にわたり自律的に動作するため、持続可能な運用が可能となる。裏を返せば、電源確保やバッテリー交換が容易な電源問題が深刻ではない条件で、エネルギーハーベスティング技術を適用しても意味がない。
 エネルギーハーベスティング技術で得られる発電電力は一般的にマイクロワットからミリワットレベルの微小電力である。この微小電力を漏らすことなく集め、貯め、効率的に使うことが本技術の最大のポイントである。なおソーラー発電のようにワット以上得られる発電はエネルギーハーベスティング技術に一般的には含まない。
 本解説文ではまず、エネルギーハーベスティングによる駆動を可能とするIoTセンサモジュールの電源設計指針について説明し、今後エネルギーハーベスティング技術が必要とされる応用分野の一例について概説する。続いてエネルギーハーベスティング技術の代表的発電方式である光、振動、温度差発電の一般的な発電電力を示し、それぞれの方式がどのような分野への応用が向いているのか説明する。本解説文によって、エネルギーハーベスティング技術の実際を知っていただき、IoTセンサモジュールの進化にどのように寄与するのか、その可能性と挑戦を理解するための一助となれば幸いである。

2. ノーマリー・ディープスリープ動作

 エネルギーハーベスティング技術で得られる電力は一般的に微弱で不安定であるため、IoTセンサモジュールの消費電力量(単位:W・s=J)を可能な限り小さくする必要がある。瞬間的な消費電力(単位:W)が小さいセンサモジュールであっても、常に動作が必要な場合にエネルギーハーベスティング電源は向かない。
 トータルの消費電力量を小さくするのに最も効果があるのは間欠駆動である。すなわちセンシングや無線など必要な動作をするとき以外は、完全に電源を落としてしまう(ノーマリー・オフ動作)駆動方法で、停止している時間に対して動作している時間の比率(デューティ比)をできるだけ小さくするのが望ましい。ただ完全に電源を落としてしまうとタイマーさえ動かすことができず定期的な駆動ができなくなるため、多くのIoTセンサモジュールではタイマーのみ動作させ、待機時の消費電力を極力抑えた(望ましくは1μA未満)ノーマリー・ディープスリープ動作とする場合が多い。ノーマリー・ディープスリープ動作のイメージを図1に示す。任意の時間長におけるトータル消費電力量を小さくしようとすると、センサモジュールの駆動間隔tsを動作時間taに対して長くするとともに、待機時の消費電力Psを十分に小さくする設計、部品の選定が重要である。

図1 ノーマリー・ディープスリープ動作のイメージ
図1 ノーマリー・ディープスリープ動作のイメージ

 図2は平均駆動電流Pa=5mA、駆動時間ta=10秒の比較的消費電力量が大きい動作をするセンサモジュールに対して、待機時間(駆動間隔) tsと1日あたりの平均消費電力(=1日の消費電力量/86400秒)の関係を、待機時電流Ps=5.0μAおよび0.5μAで比較した結果である。なお動作電圧3.3Vで計算している。図のように、駆動間隔(ts)が長くなるほど両者の差は大きくなり、待機電流0.5μA、駆動間隔6時間以上の条件であれば平均消費電力は10μW未満と極めて小さくなる。サブミリワットレベルの微小電力しか発電できないエネルギーハーベスティング電源でも条件次第ではIoTセンサモジュールを稼働可能であることがわかる。

図2 駆動間隔と1日あたりの平均消費電力の関係
図2 駆動間隔と1日あたりの平均消費電力の関係

 今後エネルギーハーベスティング電源の採用が有力な応用の一つとして、長期にわたる状態監視を目的とした屋外インフラ設備へ設置したセンサモジュールの電源供給があげられる。商用電源の配線工事や電池交換作業にコストがかかると言ったニーズ面で合致するとともに、インフラ設備の状態変化は一般的に年単位でゆっくり変化するため、一般的には高頻度でセンシングする必要はなく、ノーマリー・ディープスリープ動作で問題ないと言った技術面で相性の良い応用である。センシングデータの無線通信距離を長くする必要があるが、低消費電力で比較的長距離通信が可能なLPWA(Low Power Wide Area)通信の普及により、国内であれば広範囲で利用が可能となっている。したがってエネルギーハーベスティング電源によるLPWA通信の駆動が重要技術の一つとなる可能性が高い。



次回に続く-





【著者紹介】
勝村 英則(かつむら ひでのり)
合同会社かちクリエイト 代表社員社長

■略歴

  • 1992年3月同志社大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、修士(工学)
  • 1992年4月松下電器産業(現パナソニック)株式会社入社
    1. 積層セラミックコンデンサ、LTCCデバイス・モジュールの開発、製品化
    2. 静電気対策部品(バリスタ、サプレッサ)の開発、製品化
    3. 2010年より独自開発の圧電厚膜セラミック素子を使った振動発電(エネルギーハーベスティング技術)+IoT新規事業を模索
  • 2018年5月株式会社デバイス&システム・プラットフォーム開発センター(DSPC)入社
    5年間にわたり国プロ事業等において下記のIoT関連最新技術の開発に従事
    1. エネハ(低照度室内光、低温度差熱電発電デバイス)に適した高効率電源モジュール
    2. 振動センサによる回転機器予知保全ソリューション
    3. 複数のセンサを取り扱うことができる超低消費電力エッジ端末プラットフォーム
    4. ユーザーがCPS(サイバーフィジカルシステム)を構築でき、簡単に実証実験ができるIoTプラットフォーム
    5. (3)(4)のIoTプラットフォームを使った新たな価値を生むIoT事例の創出
  • 2023年5月合同会社かちクリエイト起業
    現在に至る