芝浦工大、柔軟な触覚センサで指先の微細な動きを識別できるシステムを開発

 芝浦工業大学 システム理工学部生命科学科・佐藤大樹教授らの研究チームは、柔軟な触覚センサを活用し、手指の微細な動きを客観的に評価するシステムを開発した。
 このシステムでは、様々な「つまみ動作」を90%以上の識別率で分類することができる。人の微細運動スキルを客観的に評価することは難しく、長年の課題となっていた。そこで、電気インピーダンス・トモグラフィ※1を活用したトモグラフィ型触覚センサ※2を用いたアプローチを開発し、極めて高い精度で動作を識別することを示した。
 今後は、触覚センサをさまざまな形状の物体に適用することで手指運動を促す知育玩具の開発から医学研究まで広く社会に活用されることを目指していくという。

■ポイント
・人の細かい運動スキルを客観的に定量化し、評価することは難しく長年の課題となっていた
・柔軟な触覚センサを用いたアプローチによって、様々な「つまみ」動作を90%以上の識別率で分類することができるシステムを開発
・知育玩具の開発から医学研究まで広く社会に活用されることを目指す

■研究の背景
 微細運動スキル※3は、人間の認知において重要な役割を果たしており、日常的な活動から高度な道具を使った文明の発展まで、あらゆることに影響を及ぼしている。しかし、これらのスキルを客観的に定量化し、評価することは大きな課題となっていた。ビデオコーディング※4のような従来の方法は効果的だが、時間がかかり、コーディングを行う人のバイアスの影響を受けやすくなる。さらに、モーションキャプチャーや手に装着する計測デバイスのような既存の技術にはいくつかの制限があり、特に乳幼児の指の動きを評価する際には限界があった。

■研究の概要
 研究チームは、電気インピーダンス・トモグラフィに基づく柔軟な触覚センサ(トモグラフィ型触覚センサ)を応用し、指の微細な動きを客観的に評価する新しいシステムを開発した。本システムで使用する触覚センサは、4つの層から構成されており、柔軟性、形状の汎用性、感度の点で従来の方法に比べて優れている。
 センサは16個の電極を備えたフレキシブルプリント回路基板と導電性材料を使用し、さまざまな指の動きから電圧データを取得することができる。データは数値解析ソフトウェアを使って処理され、接触分布画像を再構成した。新しいシステムは円筒形の形状を利用している。この機構により、つまむ動作の正確な測定が可能になった。
 本研究では、12人の計測参加者(成人)が、指の本数と方向によって特徴付けられる6種類のつまむ動作を行い、計測した電圧信号と再構成画像を用いて6種類のつまむ動作を分類した。その結果、再構成画像を用いた場合の分類精度は79.1%、電圧信号を用いた場合の分類精度は91.4%であった。

■今後の展望
本研究の成果は、研究と実用の両面で大きな意味を持つ。この触覚センサ・開発システムを応用することで乳幼児の細かな手指運動を促す知育玩具の開発が支援できる。また、手の動きの自動解析は、発達医学研究における人手不足を解消し、将来的にはオンライン医療の実現にも貢献できる可能性がある。
今後本研究によって、人間の複雑な運動技能がより深く理解され、社会のために活用されることを目指すという。

■画像
(a)センシングデバイスとコントローラとの接続イメージ
(b)2本の指(手の模型)でセンシングデバイスを水平方向からつまむ様子

■語句解説
※1 電気インピーダンス・トモグラフィ
 電気インピーダンス・トモグラフィ(Electrical Impedance Tomography: EIT)は非侵襲的な生体断層イメージング技術の一種。複数の電極を使用し、電圧の印加・接地条件を切り替え、電気的インピーダンス(電気的抵抗や導電率など)変化を計測・可視化することが出来る。

※2 トモグラフィ型触覚センサ  2つの導電性材料が接触する際、接触圧力により電気接触抵抗が変化する。このことに着目し、2層の導電体の電気接触抵抗分布を複数電極の接地・計測条件を切り替えて計測する。この電気接触抵抗分布を可視化する技術をトモグラフィ型触覚センサと呼ぶ。この接触抵抗分布は、キャリブレーションにより圧力分布への変換が可能である。この触覚センサは柔軟性と拡張性に優れることが報告されている。

※3 微細運動スキル
 J. R. Napierはヒトがモノを掴むときの運動を「握力把持(Power grip)」と「精密把持(Precision grip)」の2種類に区分した。握力把持は手のひらで握るような動きを指す。精密把持は親指とそれ以外の指で対抗させてつまむような動きを指す。本研究ではこの精密把持に注目した。

※4 ビデオコーディング
行動解析の手法の一種。カメラで動きを撮影し記録映像を複数人の観察者(コーダー)が定義に従って分類する。
■研究助成
本研究の一部は、JSPS科研費(23H00955)の助成を受けたものである。

プレスリリースサイト:https://www.u-presscenter.jp/article/post-53384.html