3.シールド工事の適用内容
本研究は、京都市上下水道局発注のシールド工事(シールド機外径:φ2,890mm、掘進距離:1,176m)を対象とした。当該地区は、駅周辺の戸建住宅及び集合住宅が密集するエリアである。工事内容を図-6に示す。シールド掘進のルートを図―7に示す。道路線形に合わせたルートとなっており、途中に急曲線箇所があり、地表面沈下が懸念される。
SAR衛星は、2015年10月27日から2016年12月29日までの1年2か月の期間で計画線全長を幅100mにわたり30回撮像を用いて解析を行った。
4.SAR衛星の沈下計測の精度確認方法と結果
SAR衛星による沈下計測結果と現場のレベル測量した結果を図-8、図-9および図-10に示す。本工事の完成時点における沈下状況は、現地のレベル測量において平均-0.73mm(標準偏差1.37mm)、SAR衛星による沈下測量において平均-0.7mm(標準偏差1.58mm)であり、工事に伴う沈下は軽微であった。SAR衛星による沈下測量の精度は、現地レベル測量結果を真値とした場合、平均二乗誤差(以下、RMSE)において、1.81mmの結果であり、mm単位の精度であることを確認した。シールド機の掘進に合わせて3-4mm程度の地表面沈下が確認できた。2)
5.まとめ
本研究では、新川第6排水区新川6号幹線(雨水)(その1)公共下水道工事において、SAR衛星による地表面沈下計測を試みた。
その結果、現場のレベル測量と同程度(RMSE1.81mm、最大誤差4.98mm)の良い精度で沈下傾向を面的に捉えることができた。シールド機の掘進に合わせて、到達前は、沈下傾向はみられず、到達とともにmm単位の沈下傾向を捉えることができた。
課題としては、現場沈下計測を開始する前に、15-20枚以上のSAR画像が必要であることと、SAR衛星による沈下計測は、短くても11日周期となることから、リアルタイムでの計測はできないので、日単位で測量する現地沈下測量を補完するという位置づけとなることである。本研究後に、TerraSAR-Xの3号機が打ち上げられ、2023年12月現在においては、11日周期が、7日及び4日周期での観測が可能となったものの、毎日の観測や、24時間の連続観測ができるまでには至っていない。
従来道路上で行われていたレベル測量に加え、SAR衛星を利用し、住宅地や商業地等を衛星で監視することにより、安全・安心に配慮した施工管理へ繋がることと考える。
なお、国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)に「SAR衛星による時系列地盤変動モニタリング」(KT-230006-A、開発2012年、登録2023年)として登録して、最新情報を提供している。
参考文献:
- 報道資料:シールドトンネル工事における地表面変位測量に人工衛星を活用:
株式会社奥村組、株式会社パスコ:平成29年9月14日:
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【著者紹介】
五十嵐 善一(いがらし ぜんいち)
株式会社パスコ 新空間情報事業部 事業推進部 顧問
■略歴
- 1979年大阪大学工学部土木工学科卒業
- 1979年株式会社奥村組入社
- 2016年株式会社奥村組入社定年退職
- 2016年株式会社パスコ入社
- 2020年株式会社レンタルのニッケン顧問職にて入社
- 2022年株式会社オリンポスの顧問職にて入社
- 現在、株式会社パスコ、株式会社レンタルのニッケン、株式会社オリンポスの3社の顧問職を担当