インクジェット印刷で高速にスピントロニクス素子を作製

【概要】
 磁性絶縁体に熱を与えることで、熱から電気を取り出すことが可能となる、スピンゼーベック効果 ※1 が次世代の熱電変換素子、熱流センサとして注目を集めている。スピンゼーベック熱電変換素子 ※2は従来の熱電変換素子と異なり、熱の流れと電流方向が直交するという特徴を持ち、従来素子よりも薄型、フレキシブルに作製できるという利点をもつ。一方で、発電電圧が従来素子に比べ小さいという問題があった。

 九州大学大学院システム情報科学研究院の黒川雄一郎助教、湯浅裕美教授、岐阜大学工学部の山田啓介准教授の研究グループ ※3はインクジェット印刷による新規な手法を用いて素子のパターニングを行い、スピンゼーベック熱電変換素子の発電電圧の増強を実証した。この手法では、原料となる磁性絶縁体ナノ粒子や導電性金属ナノ粒子をインクとしてインクジェットプリンターに投入することで、画像を印刷するように素子を印刷できる。したがって、高速に素子が作製できるというメリットを有します。さらに、フレキシブルなプラスチックシート上に印刷された素子が十分な柔軟性を有することを確認し、100回程度の曲げ動作を行っても素子の性能にほぼ劣化がないことを実証した。

 IoTを効率的に活用する社会を実現するためには、大量の環境発電素子やセンサを生産することが必須である。このためには、高性能な素子を高速に作製する必要があり、今回提案及び実証したインクジェット印刷法ではそれを実行できる可能性を秘めている。

本研究成果は2023年12月2日(現地時間)、独国の雑誌「Advanced Engineering Materials」にオンライン掲載された。

【用語解説】
(※1)スピンゼーベック効果
 磁性体に熱流を印加することにより、熱流方向に電子スピンの流れを励起する効果。この効果は磁性金属のみならず磁性絶縁体でも得られる。
(※2)スピンゼーベック熱電変換素子
 磁性体の上にスピン軌道相互作用の大きい重金属薄膜を積層すると、熱流で電子スピンを励起したときに重金属層に電子スピンが流れ込む。重金属層のスピン軌道相互作用により電子スピンは電流に変換される。この手法で発電を行うものをスピンゼーベック熱電変換素子と呼ぶ。
(※3) 研究グループ
 本論文著者 (全員)
 九州大学大学院システム情報科学研究院: 黒川雄一郎(助教)、湯浅裕美(教授)
 岐阜大学工学部: 山田啓介(准教授)

ニュースリリースサイト:https://kyodonewsprwire.jp/press/release/202312184463/html