3.2 水晶の加工法
水晶の加工法には、大きく分けて3つの方法がある。「機械加工」「ウェットエッチング」「ドライエッチング」の3種類である。現状、量産技術としては、機械加工とウェットエッチングが主に用いられている。ここでは3つの加工法について概要を説明する。
3.2.1 機械加工 5)
最も基本的な加工方法が機械加工である。機械加工は、図7に示すようなワイヤーソーでの切断や、ラッピングマシンでの研磨などがそれにあたる。また、数mmサイズの振動子に個片化するのも機械加工が主な手段であり、何段階もの機械加工を施すことによって、仕上がり精度が数μmのバラツキの少ない振動子が実現できている。
厚みすべり振動を用いるATカットの振動子では、振動効率を上げるために、単純な平板ではなく、平板の中央部が厚く、周囲にいくにしたがって徐々に板厚が薄くなるような、べべルやコンベックス(図8)と呼ばれる曲面加工を行うこともある。これらの曲面加工は、所望の曲面をもつ円筒形あるいは球状の加工機の中に、個片の水晶素子とともに研磨剤を入れ、回転させることで加工機の曲面を水晶素子に転写する。
これらの機械加工は水晶特有のものではなく、他の結晶の加工と共通している。
3.2.2 ウェットエッチング 2)
ウェットエッチングとは、エッチング液(エッチャントともいう)に浸すことで、水晶を加工する方法である。水晶だけでなく、シリコン(Si)などでも広く利用されている加工法の一つで、機械加工やドライエッチングに比べ、大量かつ高速に加工することができるのが大きな特徴である。水晶のエッチング液には、フッ化水素酸水溶液や重フッ化水素アンモニウム水溶液、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液(バッファードフッ酸)などが用いられる。
水晶のウェットエッチングでは、異方性のため結晶面によってエッチング速度が異なり、ウェットエッチング後の形状を矩形や円形など単純な形状にすることや、エッチング加工面を垂直にすることは難しい。フォトマスクの形状、エッチャント温度やエッチング時間などを組み合わせることで、意図する形状に近づけることはできる。振動子やセンサーとしての特性に影響を与えないような素子設計が重要となる。
3.2.3 ドライエッチング 2)
ドライエッチングとは、シリコンなどの半導体部品の製造に多く用いられている方法で、外形加工など深堀りを行うのは、反応性イオンエッチング(RIE: Reactive Ion Etching)法を用いて加工を行うことが多い。水晶やガラスなどの素材も、この技術によって加工することができる。
ドライエッチングは、ウェットエッチングのデメリットである結晶の異方性によるエッチングレートの違いを気にせず加工できることから、より設計者の意図する形状に加工しやすい。しかし、エッチングレートがウェットエッチングに比べ遅く、加工にはプラズマが必要であり、加工装置の制約上、プラズマを発生させる領域が限られているため大量に加工できないのが欠点である。水晶製品の量産技術として使われることは現状少ない。
4 水晶を用いるセンサー
水晶をセンサーとして用いる場合は、水晶を振動させ、その振動周波数で検出する方式が用いられることが多い。水晶を用いる優位点は以下のとおりである。
・圧電性を有しているため、振動を励振させやすい
・温度に対する振動周波数の安定性が高く、Q値(共振先鋭度)も高いため、誤差が少ない
・単結晶で物質的に安定しており、経時変化に強い
前述のとおり、水晶振動子はその振動周波数が安定であるため、誤差の少ない高精度なセンサーとして構成しやすい。また、周波数検出方式は高い分解能で計測でき、デジタル変換が容易であり、高精度のセンサーに向いている。
4.1 水晶を用いるセンサーの種類 6)
水晶を用いた主なセンサーの素子形状や振動形態、検出方式などを表1に示す。振動形態は厚みすべり振動と屈曲振動のいずれかであり、検出方式の多くが周波数検出であることが分かる。ここでは、温度センサー、圧力センサー、力覚センサーについて述べるが、QCM、ジャイロセンサー、加速度センサーは、ここの別の記事を参照願いたい。
センサー種類 | 素子形状 | カット角 | 振動形態 | 検出方式 |
---|---|---|---|---|
QCM | 円形板、矩形板 | ATカット | 厚みすべり振動 | 周波数検出 |
温度センサー | 円形板、矩形板 | Yカット | 厚みすべり振動 | 周波数検出 |
圧力センサー | 双音さ | +2°X | 屈曲振動 | 周波数検出 |
加速度センサー | 双音さ | +2°X | 屈曲振動 | 周波数検出 |
ジャイロセンサー | 音さ | +2°X | 屈曲振動 | 電荷検出 |
力覚センサー | 円形板、矩形板 | Yカット | 振動利用なし | 電荷検出 |
4.1.1 温度センサー
温度センサーには、多くの種類があり、測定できる温度範囲や測定精度に違いがある。熱膨張を利用する水銀温度計、異なる金属接合部で発生するゼーベック効果を利用する熱電対、セラミックや高分子材料などの温度に応じて抵抗値が変化するサーミスタや白金測温抵抗体などもある。
水晶温度センサーは古くから用いられており、Yカットの厚みすべり振動や、1次の温度係数を高くした音さ振動子のタイプもある。周波数検出方式のため、高分解能の温度センサーとして利用されてきた。水晶温度センサーの分解能は、高いもので0.0001℃のものも製品化されていたが、最近では見られなくなった。
4.1.2 圧力センサー
圧力センサーには、ダイヤフラム構造の表面が圧力を受けることで生じる歪みや変形をピエゾ抵抗や静電容量で検出するもの、またベローズやブルドン管など、圧力による機械的な変形量を計測するものがある。
水晶を用いた圧力センサーは、ベローズの機械的な変形を利用したもので、圧力によって生じた変形を双音さ振動子の軸方向に加えることで、振動周波数の変化として測定する方式である。非常に高精度で高い分解能があり、ダムの水位計などに利用されている。また、気圧計としても利用されており、数cmの高さによる気圧の違いを計測できる性能をもっている。
4.1.3 力覚センサー
力覚センサーとは、力やモーメントの大きさや向きを計測するセンサーである。これは人間の触覚と同じように、物体にかかる力を計測することで、微妙な力加減や制御を機械的に再現することができる。検出原理により、光学式、歪ゲージ式、静電容量式や圧電式などがある。水晶の力覚センサーは、圧電式に該当する。
これまでの他のセンサーとは異なり、振動させて使うものでもなく、周波数検出方式でもない。計測したい力を水晶に加えることで圧電効果によって発生した電荷を検出することで、その力の大きさを測定する。微小な力であっても圧電効果によって電荷は発生するので、広いダイナミックレンジの力を検知することができる。
5 おわりに
本稿では、水晶と水晶を用いたセンサーについて説明してきた。まず、水晶の結晶異方性や圧電性、人工水晶の製造方法や加工方法について紹介した。次に、水晶を用いた各種センサーについて、水晶が使われることでの特徴などについても紹介してきたが、概要的な説明になってしまったので、詳しくは各種文献等を参照願いたい。
今後も、水晶の特性を活かした、小型で高感度かつ高精度なセンサーが人々の生活をよりよくしていくことだろう。環境にやさしく、持続可能な社会に水晶が役立つことを心から願っている。
参考文献
- 「人工水晶とその電気的応用」, 滝 貞男著, 日刊工業新聞社, (1974)
- 「圧電材料学の基礎」, 池田拓郎著, オーム社 (1984)
- 「水晶周波数制御デバイス」, 岡野庄太郎著, テクノ (1995)
- 「マイクロセンサ工学」, 室 英夫編著, 技術評論社 (2009)
【著者紹介】
佐藤 健二(さとう けんじ)
セイコーエプソン株式会社 マイクロデバイス事業部 TD商品開発部
■略歴
- 1995年山形大学 理工学研究科 電子情報工学専攻 博士前期課程修了
- 1995年東洋通信機株式会社 入社
水晶振動子(MHz帯)の設計業務に従事 - 2000年東京都立大学 工学研究科 出向
有限要素法による水晶振動子の設計応用の研究およびメサ型水晶振動子の工業化の研究 - 2004年山形大学 理工学研究科 生体センシング機能工学 博士後期課程修了
水晶を用いたジャイロセンサーの研究開発に従事 - 2005年セイコーエプソン株式会社 マイクロデバイス事業部
車載向けのジャイロセンサーの開発・設計業務に従事
車載/センサーのマーケティング、戦略業務に従事
加速度センサーの開発業務に従事