5.圧力分布センサの開発動向
半導体をはじめとする電子デバイスの小型化・高性能化・低価格化ならびに情報化社会の発達に伴い、圧力分布センサに対する技術要求も年々変化してきている。これまでの圧力分布センサは、計測器として圧力分布を可視化すること自体が目的であった。一方、今日では圧力分布を数値的に表示することのみならず、その先に得られる情報を提供するソリューション開発が求められている。具体的には、スリープテックやヘルステック分野における組み込み機器としてのニーズが高まっている。
5.1 姿勢判別センサへの応用
ベッド上の圧力分布を測定すると、どのような姿勢でどのくらいの時間寝ていたか、一晩で何回寝返りをしたかなど、睡眠の質に直結したデータを取得することができる。これまで睡眠状態の解析は、計測器を前提とするとオフラインで解析者が判断するものであった。図5はMT法(Mahalanobis-Taguchi System)を用いて寝姿勢を判別した結果である。このように、統計解析や機械学習技術を適用することで、リアルタイムな姿勢判別が実現できる。また、アルゴリズムを圧力分布センサに実装すれば、寝姿勢をアクチュエータなどにフィードバックするアプリケーションへの応用が可能になる。
5.2 見守りシステムへの応用
日本の総人口が減少局面を迎える中、高齢化率は年々上昇しており、介護業界における人手不足は大きな課題となっている5)。そこで介護現場の負担を軽減し、主業務である被介護者へのケアを補助するため、介護ロボットの開発と普及が促進されている6)。
介護施設のベッドに圧力分布センサを組み込み、見守りシステムとして応用した例を図6に示す。基本的な見守り機能として、姿勢判別技術を改良した詳細な状態判定(「離床」「端注意(入眠)」「端注意(起床)」「起き上がり」「体動」「体動過多」「安静」「無体動」)を行う。そのうえで危険な状態を複数段階設定し、PCやスマートフォンにケアのタイミングをアラーム通知する。またシステムとして、センサとの通信はワイヤレス、データはローカルやクラウドサーバで管理し、モニタリングは個室や多床室を一括で監視できる機能を有している。状態判定から被介護者の生活リズムを見える化することで、昼夜逆転の把握や行動予測が可能になり、ケアプランなど介護職員間の情報共有を効率化し、チームケアによる介護の質の向上を図ることが期待できる。
見守りを目的としたセンサには多くの種類があるが、圧力分布センサによりベッド上の姿勢を集中検知することで、次のようなメリットが考えられる。まず、被介護者にとっては寝姿がカラーマップのため、カメラに対してプライバシーが配慮される。一方、介護職員にとっては、詳細な状態判定に基づいた離床に至る一連の動作(例えば、起き上がり→端座位→離床)がアラーム通知されるため、転倒や転落の危険を未然に察知しやすくなる。また、布団があっても入眠や体動を確認でき、アラームが鳴った場合もカラーマップの寝姿から対応の重要度を判断できるため、特に夜間の介護で負担が軽減される。さらに介護施設にとっては、一枚のセンサで見守りに関する複数項目の情報を得られるため、ベッドの足元や背中、サイドレールなどにそれぞれセンサを設置する必要がなく、設備導入や職員教育といった運用管理がしやすくなる。
6.まとめ
圧力分布センサは既存ニーズを充足しつつ、時代と共に変遷する要望に応えるべく様式を変えながら、引き続き活用される要素技術の一つと考える。当社では20年以上にわたり圧力分布センサを販売しているが、材料開発からシステム開発まで一連の研究開発活動に先端技術を取り入れ、これからも社会に価値ある製品を提供していく。
参考文献
【著者紹介】
伊東 孝道(いとう たかみち)
タカノ(株) 技術開発本部 第1グループ
■略歴
- 2005年山梨大学工学部電気電子システム工学科卒。同年、タカノ株式会社入社。大学発事業創出実用化研究開発事業(NEDO)にて、株式会社山梨TLOへ出向。山梨大学大学院医学工学総合研究部/工学部応用化学科で社会人研究員として導電性高分子アクチュエータの研究開発に従事。
- 2008年タカノ株式会社帰任。
- 2009年研究成果最適展開支援事業(JST)にて、財団法人電気磁気材料研究所(現、公益財団法人電磁材料研究所)と金属薄膜を用いた圧力分布センサの研究開発に従事。
- 近年は、スマートテキスタイルを用いた生体計測向け圧力分布センサの開発に従事している。