3.5 ゼロフラックス方式(ホール素子検出型)
(1) 動作原理(図6)
- ゼロフラックス方式では、測定導体(1次側)に流れるAC電流により磁気コアで発生する磁束(Φ)を打ち消すように、帰還巻線に2次電流が流れ、2次電流による磁束(Φ’)が誘導される。
- しかし、低周波領域では、磁束(Φ-Φ’)をキャンセルできないため、磁気回路内に残る。
- ホール素子は、この残留磁束(Φ-Φ’)を検出し、続いて、低周波領域の磁束(Φ-Φ’)を打ち消すように、アンプ回路に帰還電流が加算される。
- このトータルの2次電流がシャント抵抗に流れ、端子間に電圧が発生する。
- この出力電圧は測定電流に比例する。
(2) 特徴
- 磁気コア内の磁束を打ち消す負帰還動作のため、磁気コアのB-H特性の影響を受けず直線性に優れる
- DCからの低周波領域ではホール素子とアンプによる動作、高周波領域では帰還巻線による動作により、広帯域化を実現
- 自社開発の高性能ホール素子を採用しており、低ノイズ化を実現6,7)
- 1台に3つの電流測定レンジを搭載し、低電流から大電流までの広ダイナミックレンジを実現8)
- 各種産業機器における待機電流、突入電流、負荷電流、制御電流などの波形観測9)
(3) 用途
- 各種産業機器における三相交流出力などの電力測定
3.6 ゼロフラックス方式(フラックスゲート検出型)
(1) 動作原理(図7)
- ゼロフラックス方式では、測定導体(1次側)に流れるAC電流により磁気コアで発生する磁束(Φ)を打ち消すように、帰還巻線に2次電流が流れ、2次電流による磁束(Φ’)が誘導される。
- しかし、低周波領域では、磁束(Φ-Φ’)をキャンセルできないため、磁気回路内に残る。
- フラックスゲートは、この残留磁束(Φ-Φ’)を検出し、続いて、低周波領域の磁束(Φ-Φ’)を打ち消すように、アンプ回路に帰還電流が加算される。
- このトータルの2次電流がシャント抵抗に流れ、端子間に電圧が発生する。
- この出力電圧は測定電流に比例する。
(2) 特徴
- 磁気コア内の磁束を打ち消す負帰還動作のため、磁気コアのB-H特性の影響を受けず直線性に優れる
- DCからの低周波領域ではフラックスゲートとアンプによる動作、高周波領域では帰還巻線による動作により、広帯域化を実現
- フラックスゲートは、広い温度範囲でオフセットドリフトが非常に小さく、高精度電流測定が可能で、高精度電力計との組み合わせ使用に最適
- 励磁周波数と高調波自体がノイズの原因となるため、フラックスゲートを使用した電流センサは、ホール素子を使用した電流センサよりもわずかにノイズが大きい
- 用途別に合わせて、クランプタイプ10,11)、貫通タイプ12,13)、超高確度貫通タイプ14,15)、直接結線タイプ16)をラインアップ
(3) 用途
- ハイブリッド車、電気自動車などの輸送機器における燃費・電費測定
- 各種産業機器における高精度電力測定17~19)
4. 採用例
4.1 スイッチングデバイスの応答性能評価 20)
ここでは、ゼロフラックス方式(ホール素子検出型)を用いた電流センサによる測定例を示す。
スイッチング電源の性能向上を図るため、SiCやGaNなどの高速スイッチングデバイスを用いた製品開発が進められているが、高速化するに伴いスイッチングロスの低減が重要な課題の一つとなっている。この際に、スイッチングデバイスのオン/オフ時の電流・電圧波形を観測することによって性能評価を行う。図8にスイッチングデバイスの応答性能評価の概念図を示す。スイッチング波形をより正確に観測することによって、スイッチングロスの定量化を行うなど、製品開発に活かされている。
図8 スイッチングデバイスの応答性能評価の概念図
4.2 EVモーター、インバーター開発のための電力測定 21)
ここでは、ゼロフラックス方式(フラックスゲート検出型)を用いた電流センサによる測定例を示す。
電気自動車の開発において、モータードライブシステムの高効率化、小型化は重要な課題の一つである。この際に、インバーターの入出力パワーおよびモーターパワーを正確に測定し、効率や損失の把握が必要となっている。図9にEVモーター、インバーター開発のための電力測定の概念図を示す。インバーター出力はPWM変調されており、スイッチング周波数とその高調波成分が含まれている。負荷となるモーターの巻線はインダクタンス成分が主であるが、抵抗成分、磁性体の鉄損、巻線の表皮効果などによる損失も含まれており、駆動周波数が高くなるにつれ、これらの損失成分が増加する傾向である。したがって、こうした損失測定を正確に行うため、広帯域な特性を有するパワーアナライザおよび電流センサが活用されている。
図9 EVモーター、インバーター開発のための電力測定の概念図
4.3 電流センサ選定の目安
図10に、各機器の動作電流と動作周波数の関係を示す。電流センサを選定する際の目安としたい。
5. まとめ
本稿では、脱炭素社会に貢献するHIOKIの電流センサというタイトルで、弊社が開発してきた電流センサについて動作原理別に分類し、それぞれの特徴および採用例について説明した。今後も人類は地球と共存共栄していく権利を有するとともに、人類が快適・安全に生活し続けられるようにエネルギーの有効利用を図る義務もある。そのためには、エネルギーマネジメンの遂行は非常に重要な活動と考える。
参考文献
- 野村淳士:「電流プローブ向け薄膜ホール素子の低ノイズ化」, 日置技報Vol.36, 2015, No.1, pp.11-12
- 平林明彦:「電流プローブCT6700/CT6701」, 日置技報Vol.37, 2016, No.1, pp.59-66
- 横田修:「電流プローブCT6710/CT6711」, 日置技報Vol.41, 2020, pp.17-26
- 外谷彰悟, 増田秀和, 野村淳士:「スイッチング電流波形測定用電流センサの評価」, 2019年電気学会産業応用部門大会予稿集, pp.I-324-327
- 池田健太:「AC/DCカレントプローブCT6841/CT6843」, 日置技報Vol.36, 2015, No.1, pp.45-54
- 池田健太:「AC/DCカレントプローブCT6844/CT6845/CT6846」, 日置技報Vol.38, 2017, No.1, pp.43-54
- 池田健太:「AC/DCカレントセンサCT6875/CT6876/CT6877」, 日置技報Vol.41, 2020, pp.27-36
- 中沢宏紀:「AC/DCカレントセンサCT6872/CT6873」, 日置技報, 2022
- 依田元:「AC/DCカレントセンサCT6904/CT6904-60」, 日置技報Vol.40, 2019, No.1, pp.15-20
- M. Harano, H. Yoda, K. Seki, K. Hayashi, T. Komiyama, and S. Yamada, “Development of a Wideband High-Precision Current Sensor for Next Generation Power Electronics Applications”, Proc. IEEE ECCE, 2018, pp.3565-3571.
- 依田元:「AC/DCカレントボックスPW9100」, 日置技報Vol.38, 2017, No.1, pp.31-36
- M. Harano, H. Kobayashi, C. Yamaura, K. Ikeda, K. Nakazawa and S. Yoda, “Development of High-Precision Efficiency Measuring Device for High Power Motor Drive Systems”, Proc. EEMODS’19, 2019
- K. Hayashi, 「高精度広帯域パワーアナライザと電流センサによる低損失インダクタの実動作損失測定」, HIOKI技術資料, A_TA_PW0010J01, 2021
- 依田正三, 林和延:「空芯コイルを用いたパワーアナライザの電流・電圧位相誤差の周波数依存性検証」, 2022年電気学会産業応用部門大会予稿集, pp.II-77-80
- 「高速スイッチングデバイスの応答性能評価」, HIOKIアプリケーションノート, A_AP_CT0003J01, 2020
- K. Hayashi, T. Ijima and H. Kobayashi, 「EVモーター, インバーター開発のための電力測定」, HIOKI技術資料, A_AT_PW0011J01, 2022
【著者紹介】
原野 正幸(はらの まさゆき)
日置電機株式会社 ビジネスディベロップメント課
アドバンスドアプリケーションエンジニア
博士(工学)
■略歴
1993年3月 金沢大学大学院工学研究科修士課程修了(電気情報工学専攻)
1993年4月 日置電機株式会社入社
1998年3月 信州大学大学院工学系研究科博士後期課程修了(材料工学専攻)
日置電機の技術部門で電流センサを中心とした電気計測器の開発に従事し、2017年からマーケティング部門にてエネルギー関連市場向けの商品企画に従事。現在に至る。