1. はじめに
世界の多くの国々が2050年までにカーボンニュートラル社会の実現を表明しており、再生可能エネルギー分野、自動車・鉄道などの輸送機器分野、基地局やデータセンターサーバー用電源などの産業用機器分野、家電などの民生機器分野において、エネルギー変換技術の高性能化に関する研究開発が精力的に行われている。特に、牽引役として期待されている電気自動車においては、モータードライブシステムの主要な構成要素であるインバーター・モーターの小型化、高効率化は重要な課題の一つである。従来のSiの他、SiCなどのワイドバンドギャップパワー半導体の採用が進み、スイッチング周波数の高周波化による搭載部品の小型化、低損失化が必須となっている。この際、インバーター・モーターにおけるエネルギー変換効率の高精度測定が重要であり、周波数の基本波成分のみならず高調波成分の測定ができる広帯域・高精度な電力(電流)測定が重要となっている。さらに、GaN、Ga2O3などの材料を使用した次世代パワーデバイス・モジュールの開発評価時にも計測要求はますます強くなっている。本稿では、弊社が開発してきた電流センサを動作原理別に分類し、それぞれの特徴および採用例について説明する。
2. 電流検出方式について
電流検出方式は大きく分けて、抵抗検出方式(直接結線方式)と磁界検出方式(非接触センサ方式)の2種類に分けられる1)。それぞれの特徴をまとめると、表1のようになる。本稿では、磁界検出方式(非接触センサ方式)について深堀りする。
電流検出方式 | 抵抗検出方式 (直接結線方式) |
磁界検出方式 (非接触センサ方式) |
---|---|---|
概要 | 測定電流経路に抵抗器(シャント抵抗器)を挿入し、抵抗器の両端に発生する電圧を検出する (オームの法則) |
測定電流経路の周囲に発生する磁界を、巻線、ホール素子、フラックスゲートなどの磁電変換デバイスで検出する (アンペールの法則) |
長所 | ・センシング部の構成がシンプル ・電源不要 |
・大電流測定時でも広帯域化可能 ・非接触のため絶縁しやすい |
短所 | ・大電流測定時に広帯域化できない ・同相ノイズの影響を受ける ・発熱の影響を受ける ・非絶縁のため安全性に難あり |
・センシング部が複雑 ・測定結果がセンサ特性に依存(導体位置と外部磁界の影響) ・直流(DC)から検出する場合、電源必要 |
3. 6種類の電流センサの動作原理
弊社が開発してきた磁界検出方式(非接触センサ方式)は、図1のように6種類に分類される2)。上の3種類は比較的構造が簡単な汎用タイプ、下の3種類はゼロフラックス方式を用いた回路構成がやや複雑で広帯域・高精度タイプの電流センサである。次項以降で各方式の詳細を示す。
3.1 巻線方式
(1) 動作原理(図2)
- 測定導体(1次側)に流れる測定電流(I)により、測定電流による磁束(Φ)が磁気コア内に誘導され、2次電流による磁束(Φ’)は、2次巻線(N)にこの1次磁束を打ち消すように誘導される(自己誘導による逆起電力)。
- この2次電流はシャント抵抗(r)に流れ、シャント抵抗両端に電圧(Vout)が発生する。
- この出力電圧は測定電流に比例する(Vout = r / N * I)。
(2) 特徴
- 電源が不要(電流検出部)
- 交流(AC)のみで直流(DC)は測定できない
(3) 用途
- 各種産業用途における省エネ管理など、商用周波数の電流・電力モニタリング
- 間欠漏電の補足、漏電箇所の探査
3.2 ホール素子方式
(1) 動作原理(図3)
- 測定導体(1次側)に流れる電流による磁気コア内に発生した磁束(Φ)が磁気コアのギャップ部に挿入したホール素子を通過することで、ホール効果により磁束に応じてホール電圧が現れる。
- このホール電圧は小さいため、アンプで増幅して出力し、この出力電圧は測定電流に比例する。
(2) 特徴
- 直流から交流(数kHz)まで測定可能
- ホール素子の直線性、磁気コアのB-H 特性の影響により、一般的に精度は良くない
- ホール素子の特性により、温度や経時変化などの要因でドリフトするので、長期の測定に向いていない
(※ただし、最新のHIOKI製品では従来の欠点を克服している3))
(3) 用途
- 乗用車、トラック・バス、フォークリフトなどの輸送機器のバッテリ出力のモニタリング
- 各種産業機器における電源設備の定期点検、電源品質の監視、消費電力の把握
3.3 ロゴスキーコイル方式
(1) 動作原理(図4)
- 測定導体(1次側)に流れる交流電流による磁界が空芯コイルと鎖交することで空芯コイルに誘起電圧が発生する。
- この誘起電圧は測定電流の時間微分値(di/dt)となり、積分器を通して測定電流に比例した出力電圧が得られる。
(2) 特徴
- 磁気コアが無いため、磁気飽和せずに大電流を測定可能
- 磁気損失による発熱、飽和、ヒステリシスがない(周波数ディレーティングの影響が小さい)
- センサ部が空芯コイルのため、フレキシブル・細身に作製可能
- 挿入インピーダンスが小さい(測定回路への影響が小さい)
- 交流(AC)のみで直流(DC)は測定できない
- ノイズの影響を受けやすいため、高精度測定には向かない
(※ただし、最新のHIOKI製品では従来の欠点を克服している4))
(3) 用途
- 各種産業機器における電源設備(バスバー)に流れる数千A程度の大電流測定、定期点検、電源品質の監視、消費電力測定
3.4 ゼロフラックス方式(巻線検出型)
(1) 動作原理(図5)
- ゼロフラックス方式では、測定導体(1次側)に流れるAC電流により磁気コアで発生する磁束(Φ)を打ち消すように、帰還巻線に2次電流が流れ、2次電流による磁束(Φ’)が誘導される。
- しかし、低周波領域では、磁束(Φ-Φ’)をキャンセルできないため、磁気回路内に残る。
- 検出巻線は、この残留磁束(Φ-Φ’)を検出し、続いて、低周波領域の磁束(Φ-Φ’)を打ち消すように、アンプ回路に帰還電流が加算される。
- このトータルの2次電流がシャント抵抗に流れ、端子間に電圧が発生する。
- この出力電圧は測定電流に比例する。
(2) 特徴
- 磁気コア内の磁束を打ち消す負帰還動作のため、磁気コアのB-H特性の影響を受けず直線性に優れる
- 1Hzからの低周波領域では検出巻線とアンプによる動作、高周波領域では帰還巻線による動作により、広帯域化を実現
- 交流(AC)のみで直流(DC)は測定できない
- クランプタイプ 5)をラインアップ
(3) 用途
- 各種産業機器における三相交流出力などの電力測定
次回に続く-
参考文献
- 柄澤悠樹:「世界トップ企業の直伝セミナ(25):μA~千Aの全レンジに対応!電流測定の5大方式」, トランジスタ技術2020年4月号, pp.99-101
- 「電流センサの原理と技術情報」, HIOKIホームページ
https://www.hioki.co.jp/jp/products/listUse/?category=39 - 中山淳:「AC/DCカレントセンサCT7631/CT7636/CT7642, AC/DCオートゼロカレントセンサCT7731/CT7736/CT7742, ディスプレイユニットCM7290/CM7291」, 日置技報Vol.38, 2017, No.1, pp.55-64
- 松林英雄:「ACフレキシブルカレントセンサCT9667-01/-02/-03, CT7044/CT7045/CT7046」, 日置技報Vol.38, 2017, No.1, pp.65-70
- 山岸君彦:「クランプオンセンサ9272-10, センサユニット9555-10」, 日置技報Vol.29, 2008, No.1, pp.1-6
【著者紹介】
原野 正幸(はらの まさゆき)
日置電機株式会社 ビジネスディベロップメント課
アドバンスドアプリケーションエンジニア
博士(工学)
■略歴
1993年3月 金沢大学大学院工学研究科修士課程修了(電気情報工学専攻)
1993年4月 日置電機株式会社入社
1998年3月 信州大学大学院工学系研究科博士後期課程修了(材料工学専攻)
日置電機の技術部門で電流センサを中心とした電気計測器の開発に従事し、2017年からマーケティング部門にてエネルギー関連市場向けの商品企画に従事。現在に至る。