1. はじめに
“ICT”,“IoT”が一般に認知されてから、かなり時間が経過した。スマートメーター、トラッキング(位置情報通知)デバイスなど、多くのデバイスが身近で使用されている。しかし100万個デバイス@km2、ボタン電池で10年稼働までは、新たな技術イノベーションが必要な現状である。一方で高齢化、インフラの老朽化などの社会課題は、早急な対応も求められている。弊社は5Gの同時多数接続と低遅延・高信頼性技術の両方を活用した新たなアプリケーションを検討している。その具体実装として、橋梁の予知保全に関して検討中の内容を紹介する。
センシングとして加速度センサと伸縮センサを用いる。伸縮センサは、伸縮性のある導電伝送路の抵抗値変化量より伸縮量を求める。また同じ線路をI2C伝送路としても使用する。
2. インフラ管理(橋梁の予防保全)1)
インフラ老朽化により、橋梁・トンネル・法面保全は、社会インフラの維持に不可欠である。国土交通省をはじめ、産官で積極的な研究・取り込みがより活発してきている。一方で人材不足、予算確保の困難さがある。
・ 保全が必要な橋梁(国内): 72万箇所
その中で50年超える橋梁割合: 43%@2023, 50%@2030,67%@2033
今後、急速に増加するメンテンナンスが必要なインフラに対して、事後保全から予防保全にシフトが求められている。今回は橋梁の予防保全に関して、検討してみた。
橋梁(トンネル・法面)の点検
土木技術者より近接目視検査および打音検査、触診検査が行われてきた。近年はICT技術を活用した以下のような検査方法が開発され、実装されている2),3)。
・画像検査方法:ドローン、インフラドクターカー
また継続的なモニター技術も多く開発され実装されてきている。
・光ファイバーモニタリング4)
・傾斜センサおよび振動センサ
・ひずみセンサ
各点検方法の特徴を図に示す。国土交通省は、国民会議の運用5)、点検支援技術性能カタログ公開6)などで普及を推進している。また新しい技術への取組も行われている。
3. 複数IoTデバイスから(複数センサ+エッジAI+LPWA無線)@一つのIoTデバイスへ
近年、河川水位管理には簡易なIoT水位センサを複数個所に設置して、点から面への管理にシフトしてきている。橋梁などの広い面積を管理する場合でも、複数のIoTデバイス(振動センサ)が設置されてきている。さらに性能向上とコスト低減の方法として、一つのシートに複数センサを設置する方法を提案する。一つのシートにすべてを実装することで多くのメリットがある。
・不要なデータ送信の削減(点のデータ群でなく、面のデータを送信する)
・センサ間の差異を容易にチェックできる。補正による精度アップ。冗長性の向上
・トータル施工(取付)工数の削減
・複数のセンサと制御部は、有線での接続(安定かつコストダウン)
※この接続用伝送路自体にセンシング機能を持たせる
伸縮伝送路(MEMSとのI2C通信+伸縮センシング)
新たに開発された導電インクを伸縮性のあるウレタン材に印刷している。以下の伝送路の基本性能の評価を行った。複数の異なる特性素材があるが、まず1種類を評価した。
・評価材料:長さ100mm, 10ライン(ライン幅:0.6mm 線間スペース:0.4mm)
・抵抗値は伸縮により変化するが、線形でない。またヒステリシスは大きい
・伸縮0%~50%で導通(DC~100KHz)。大きな減衰なし
・周波数を上げると波形の歪む(インピーダンスのマッチングは行っていない状態)
シート内で制御部とMEMSセンサをI2Cで接続することは十分に可能と思われる。
一方、抵抗変化量より伸縮量を検知するには、素材および線幅・厚み等の調整が必要である。
以下、基礎評価の一部を紹介する。
次回に続く-
参考文献
- 持続可能なインフラメンテナンスに向けた新技術の活用促進に係る取り組み
松實嵩博, 建設マネジメント技術, 2022年8月号 - トンネル点検支援技術の性能カタログ作成における技術検証、伊藤 良介
JCMA一般社団法人日本建設機械施工協会 機関誌 建設機械施工 Vol.73 No.83, 2022年8月 - 国土交通省におけるインフラメンテナンスの取組
~持続可能なインフラメンテナンスの実現に向けて~
原田駿平、建設マネジメント技術, 2022年8月号 - 光ファイバひずみセンサ建設分野向けマニュアル」の紹介
特定非営利活動法人 光ファイバセンシング振興協会、センサイト特集号 2022年3月号 - インフラメンテナンス国民会議 WEBページ
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/im/、国土交通省 - 点検支援技術性能カタログ(橋梁・トンネル) 令和4年9月
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/inspection-support/、国土交通省
【著者紹介】
古田 兼三(ふるた けんぞう)
TSTジャパン(株) 代表取締役
■略歴
1982.3 同志社大学工学部電気工学科卒
1982.4 株式会社SCREENホールディングス(旧大日本スクリーン製造株式会社)入社
イギリス・ドイツ現地法人勤務
1999TUV Product Service Japan入社 EMC技術者
2004太陽誘電株式会社入社 EMCセンター、BQTF(Bluetooth認証ラボ)運用
BLE〈Bluetooth Low Energy〉規格策定などに従事
2011Southco(アメリカの機械部品メーカー)入社。 日本の現地法人立上
2014積水マテリアルソリューション株式会社入社。 IoT商品開発および普及・教育
2020.3 積水マテリアルソリューション株式会社を定年退職
2020.8 TST Sistemas,S.Aの日本現地法人設立。代表取締役就任。