5.高精度位置測位システムとしての使用事例
・ドローン
昨今、実用化が著しいドローンにおいて、法規制も含め、様々な基準が出来始めている。モーションキャプチャの位置測位技術を持ち、ドローンの性能基準策定や性能評価を行う事例は一昨年頃から非常に増えてきている。位置と同時に姿勢の計測も可能であり、風洞試験での計測や、複数同時測位とフィードバック制御等、事例も多くある。
・作業者危険回避(インターロック)
モーションキャプチャは高精度と同時に高サンプリング、低遅延という特徴もある。その特性を活かし、事故リスクの高い製造現場における作業者のリアルタイム位置測位と製造装置の稼働を連携させることで事故リスクを減らす用途でも用いられている。プレス機などの加工設備の周辺に人がいるような場合に、 加工設備の稼働を止めることで、事故リスクの低減を実現している。
・ロボット
高精度に位置測位した情報にてロボット制御を行う事例も多くある。ティーチングでは実現しにくい熟練技術者の作業を、時系列位置測位を行い、ロボットに動作をさせる。また、単一的なティーチングではなし得ないインタラクティブ性の必要な動作を遠隔で入力することも可能。
・製造業におけるトレーサビリティ担保
ネジの閉め漏れ、組み付け手順の管理等でもモーションキャプチャは利用されている。工具の3次元位置測位を行い、CAD座標系等におけるネジ等の締め付け位置や、順序をトルク値などと同時に位置を取得を高精度に行う。作業漏れや手順ミスのログを取得すると同時に、確認作業等の工数が削減されると同時に、作業ログによる品質保証を担保することが出来る。
6.その他事例
・大型構造物の振動試験
大型建築物の振動試験における変位等の計測及びシミュレーションとの比較データをモーションキャプチャにて取得する事例は数多くある。レーザー変位計、加速度計などのセンサ類設置に25人日程度かかっていた準備工数は1人日に低減し、かつ、データ取得チャンネル数は数百点取得することが出来る。また全ての計測点が3次元位置測位にて高精度に取得され、加振機に対する相対的な構造物の変位・変形等もリアルタイムに演算が出来るため、試験後の工数も飛躍的に短縮することが可能となる。
・橋梁のたわみ
数10m程度の長さの1mm以下の橋梁のたわみデータの取得事例もある。建設中の橋梁のたわみや、橋梁の上をトラック等が通り過ぎる際に起こるたわみ等も非接触に取得が可能である。設置工数も少なく、大きな空間、長い距離という計測範囲におけるmm以下の動きを適切に取得出来るモーションキャプチャは従来の計測技術と比較しても、信頼性のある計測技術として用いられ、工数短縮にも寄与している。
・大型搬送機
工場や物流倉庫の自動化、無人化の取り組みは昨今のDXの流れもあり、色々な取り組みがおこなわれ、多くのイノベーションが誕生している。そのイノベーションの実現には品質担保は切り離すことの出来ない課題である。例えば立体倉庫における自動搬送機において、搬送物が例えば精密機器などもある。その際に搬送のスピード実現と同時に如何に振動や接触が無く、正確に搬送する技術が求められる。そのような技術の実現において、長い搬送経路の動きを全て高精度にデジタル化することにより、品質担保の実現性の確認が必要であるが、そのような際にもモーションキャプチャ技術が用いられる。
・静的試験(圧縮・引張り・クラック)
構造物に大きな荷重をかけ、その強度等を計測する静的試験の計測手段としてもモーションキャプチャは有用なツールとして利用されている。 例えば鉄骨の曲げ試験。鉄骨の曲げ試験を変位計で行おうとすると、変位計の設置のため、鉄骨を囲むようにやぐらを建て、軸方向に注意をして、どこに変位計を設置すれば取りたいデータが取れるのか、考える必要がある。さらに、変位計を活用しての計測では、本来1軸方向の変位しか算出できない。3次元で変位を計測しようとすると、設置だけで多くの時間がかかってしまう。モーションキャプチャによる計測を行うことで、準備に時間がかからず、かつ、3次元でデータを取得できるほか、ソフトウェアの画面上でリアルタイムに計測結果を表示・確認が可能となる。
・技術伝承
少子高齢化が進む日本の状況において、製造業の加工技術をはじめとした熟練技術者の技能伝承の取り組みが各所で行われている。微細な技術の差を数値化する際、モーションキャプチャが有用に利用されている。特に溶接技術においては、幾つもの事例もあり、業界新聞にて特集がされるほどである。トーチの数度の差が統計として表され、マニュアルの表現の改善や評価にも繋げることが出来る。数値化することで無意識の意識が言語化されるケースも多くあり、モーションキャプチャは技術伝承には欠かすことが出来ないツールとなっている。
・寸法計測
コンクリート製品や鋳造による製品、鉄筋など、大きな対象の寸法計測も、3次元位置測位の精度を利用して実現可能である。反射マーカーがついているワイヤレスプローブを用い、 10m以上の大型の対象の寸法や平面度、円中心やR等の計測および幾何公差との比較も可能となる。可搬性にも優れているため、専用の検査場を必要とせず、測定対象が設置されている場所で寸法や形状測定を行える。
これにより、建築・土木・鉄鋼・重工業・建機 等、業界を問わず、測定のデジタル化が困難だった対象や現場でも、効率化を向上させるシステムとして導入されている。
7.最後に
モーションキャプチャをはじめとしてセンシング技術は、計測原理や計測における各ステップにおける変動要素を整理すると、新たな用途が見つかり進化していく。例えば昨今の画像AIによる認識技術等も同様である。テクノロジーの眼は、人類の発展、安心安全な世の中を実現していくことがまだまだ出来る可能性を秘めている。現実世界の様々な事象や現象をセンサでデジタル化し、AIなどを用いた処理によって有用で価値の高い情報に変換の入り口であるセンシング技術の発展は今後の世の中の進化には欠かすことが出来ない存在によりなっていく。
【著者紹介】
佐藤 眞平(さとう しんぺい)
アキュイティー株式会社 代表取締役 CEO兼CTO
■略歴
専門分野:画像処理、3次元計測、モーションキャプチャ
東北大学大学院医工学研究科博士課程後期単位取得退学
1998-2008年 画像処理ベンチャーにて技術営業として顧客要件実現及び新規商品開発職に従事
2008-2011年 大手広告代理店デジタルビジネス開発業務に従事
2011-2015年 専門商社にて新規事業開発マネージャとして新規事業及び商品開発
2015年 オプティトラック・ジャパン株式会社創業
2019年 アキュイティー株式会社へ商号変更