GSアライアンスは、、量子ドットと金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)を複合化させた独自の触媒を、安価な不織布、シートに塗布、固定化して、温室効果ガスであるCO2と水、そして太陽光エネルギーを用いて、外部からの電気エネルギーを必要とせず、燃料や化学物質の中間体原料となり得るギ酸を、光還元(人工光合成)反応により合成することに成功した。
人口爆発に伴う気候変動、地球温暖化、資源枯渇、プラスチック汚染問題などの環境破壊問題は深刻になりつつあり、生態系を破壊する壊滅的なレベルになりつつある。このような状況の中、温室効果ガスやエネルギー資源不足に対処するために、植物のように、太陽光エネルギーを使って、二酸化炭素(CO2)と水から有機物を生成する人工光合成という技術に注目が集まっている。CO2は地球温暖化の原因であるとされており、CO2を削減することが脱炭素、カーボンニュートラル社会構築に向けての目標だが、逆にこの悪者であるCO2を原料として使用する。CO2を原料として用いることによって、新たな資源エネルギーを生み出し、CO2削減も同時に達成できるという、究極の脱炭素技術とも言われているとのこと。
■金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)について
MOFとは無機金属クラスターと有機リンカーから合成される、新しいタイプの超多孔性の有機無機ハイブリッド材料であり、ナノメートルの分子レベルで構造が制御でき、表面積が非常に大きく、近年、注目されている最先端材料である。これらの優れた特徴からMOFはガス貯蔵、ガス分離、金属吸着、触媒、ドラッグデリバリー、水処理、センサ、電極、フィルターなど種々の応用が検討されています。近年の研究から、MOFがCO2を吸着、回収する能力に優れていることが明らかになっており、さらにその回収したCO2を光還元、化学物質の合成など、つまり人工光合成として応用する検討も始まっている。その特徴のあるMOFの超微細多孔性構造、そして光吸収の波長範囲を、合成により制御、最適化できる利点から、他の人工光合成の材料候補である酸化物、金属錯体、窒化物、酵素などより有利になるとも言われている。GSアライアンスでは、そのMOFを合成しており、CO2の吸収に最適なMOFも自社で合成している。
■量子ドットについて
量子ドットとは、量子化学、量子力学に従う光学特性を持つシングルナノスケール(0.5~9nm)の超微細構造の最先端材料。量子ドット1個あたりの原子、分子数は数個~数千個といわれており、人工原子、人工分子とも言われている。物質がこのサイズになってくると、量子封じ込めと言われる物理化学的効果により、量子ドットにおいての電子エネルギー準位は連続ではなく、分離が生じ、光励起による発光波長が量子ドットのサイズに依存するような現象を示すようになる。この量子ドットも、その優れた光吸収能力、励起子を複数生成できる能力、大きな表面積を有していることから、人工光合成に適する可能性のある材料として研究開発が進んでいる。
■GSアライアンスの取り組み
GSアライアンスでは、このMOF、量子ドットを両方とも自社内で合成している。これまで、既にこれらの2つの最先端材料を複合化させて最適化して、人工光合成の触媒として用いて、ギ酸を合成することに成功していた。しかしながら、MOF-量子ドット複合体は水中に粉体として存在しており、ギ酸を抽出するにしても、濾過などの作業を施す必要があり、連続的な操作ができず、実用化に向けて課題が残っていた。しかしながら、この度、同社の梶野哲郎研究員、岩林弘久研究員、森良平博士(工学)は、このMOF-量子ドット複合体触媒を、安価な不織布、シートに塗布、固定化して、連続的なギ酸抽出が可能な手法を確立した。反応後、ギ酸を含む水、水分を取り出し、再び、その容器に水、水分を追加して、人工光合成の反応を再開できる、連続的な反応が可能になることになる。
ギ酸は強酸であるという取り扱い時のデメリットはあるものの、液体なので、宇宙で最も小さい元素である水素と比較して貯蔵するのがはるかに楽であり、燃料電池の燃料として水素を使用するより、より適した燃料エネルギー資源となる可能性がある。
また、ギ酸はアルケンと合成させ、さまざまな化学品の基幹原料となりえる。
人工光合成の反応効率そのものの低さなどは、改善するべき課題ではあるものの、今後もさらなる人工光合成用の触媒固定化の工夫、合成効率の向上の検討を続け、人工光合成の実用化を目指すとしている。
ニュースリリースサイト:https://www.atpress.ne.jp/news/335081